(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、(D)エチレンと炭素数3以上20以下のα−オレフィンとからなるエチレン/α−オレフィン共重合体1重量部以上20重量部以下を配合してなる請求項1記載の振動溶着用ポリエステル樹脂組成物。
前記(D)エチレン/α−オレフィン共重合体の190℃、2160gf条件下におけるメルトフローレートが0.05g/10分以上1.0g/10分以下である請求項1〜3いずれか記載の振動溶着用ポリエステル樹脂組成物。
請求項1〜4のいずれか記載の振動溶着用ポリエステル樹脂組成物からなる成形部品と、共重合ポリエステルを含まないポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形部品とを振動溶着した成形品。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエステル樹脂組成物(以下、樹脂組成物と略記することがある)は、(A)250℃、1000gf条件下におけるメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある)が20g/10分以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を配合してなるものである。(A)250℃、1000gf条件下におけるMFRが20g/10分以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、(A)PBT樹脂と略記することがある)を用いることにより、常温および低温環境下における溶着部の靭性および加工性に優れた成形部品を得ることができる。250℃、1000gf条件下におけるMFRが20g/10分を超える場合、成形部品の加工性や常温および低温環境下における溶着部の靭性が低下する。250℃、1000gf条件下におけるMFRは15g/10分以下が好ましい。一方、1000gf条件下におけるMFRの下限は特に限定されないが、1g/10分以上が好ましい。
【0012】
ここで言うMFRは、次の方法により測定することができる。まず、130℃で3時間乾燥させたPBT樹脂を250℃に調整したMFR計シリンダ内で5分間溶融したのち、1000gfの荷重を加え、オリフィスより1分間に流出したPBT樹脂の重量を測定する。1分間に流出したPBT樹脂の重量を10倍して、10分間の流出量に換算することにより、10分間あたりのMFRを求めることができる。
【0013】
線膨張の方向が異なる成形部品を振動溶着する場合、接合された成形品が温度変化に晒されると、弾性率が低い接合面に歪みが生じる。同じ樹脂組成物を成形してなる成形部品同士であっても、形状が異なると、強化繊維の配向の違いによって線膨張の方向が異なる場合があり、温度変化により接合面に歪みが生じる場合がある。特に、靭性が低下する低温条件下においては、このような歪みにより接合面の剥離が生じやすくなる。このことから、本発明においては、溶着部の靭性に着目し、溶着部の靭性の指標として、常温(23℃)および低温(−40℃)環境下における曲げ破断歪みに着目した。本発明における溶着部の靭性とは曲げ破断歪みを指し、曲げ破断歪みが大きいほど溶着部の靭性に優れる。
【0014】
本発明の樹脂組成物に用いられる(A)PBT樹脂は、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と、1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを、通常の重合方法によって重合することにより得られる重合体である。本発明の樹脂組成物に用いられる(A)PBT樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを用いることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による重縮合反応のいずれも適用することができる。カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合法が好ましく、コストの点で、直接重合法が好ましい。なお、エステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。触媒の具体例としては、有機チタン化合物、スズ化合物、ジルコニア化合物、アンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも有機チタン化合物が好ましく、例えば、チタン酸のテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルなどを挙げることができる。チタン酸のテトラ−n−ブチルエステルが特に好ましい。触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、PBT樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上0.2重量部以下の範囲が好ましい。
【0015】
本発明の樹脂組成物には、(A)PBT樹脂を2種以上配合してもよい。(A)PBT樹脂を2種以上配合してなる場合、(A)PBT樹脂全体で、250℃、1000gf条件下におけるMFRが20g/10分以下であればよい。
【0016】
本発明の樹脂組成物における(A)PBT樹脂の配合量は、後述する(B)融点が215℃以上235℃以下であるポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を含むポリエチレンテレフタレート系樹脂との合計100重量部に対して、10重量部以上90重量部以下の範囲である。(A)PBT樹脂の配合量が10重量部未満であると、樹脂組成物の射出成形性に劣り、成形部品を成形することが困難となる。20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。また、(A)PBT樹脂の配合量が90重量部を超えると、成形部品の常温および低温環境下における溶着部の靭性が低下する。80重量部以下が好ましく、70重量部以下がより好ましい。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、(B)ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を含む、融点が215℃以上235℃以下であるポリエチレンテレフタレート系樹脂(以下、(B)PET系樹脂と略記することがある)を配合してなる。ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体は、PBT樹脂と比較して結晶化速度が遅いため、かかる共重合体を配合することにより、高い耐熱性を維持したまま、常温および低温環境下において優れた溶着部の靭性を得ることができる。さらに、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体の融点が215℃以上235℃以下であることが重要である。融点が215℃未満であると、標準的なPBT樹脂からなる成形部品との低温環境下における溶着部の靭性および耐熱性が不十分となる。220℃以上がより好ましい。一方、融点が235℃を超えると、成形加工時の流動性が低下し、かつ、常温および低温環境下における溶着部の靭性が不十分となる。230℃以下がより好ましい。
【0018】
ここで言う融点は、次の方法により測定することができる。まず、示差走査熱量計を用いて、PET系樹脂を20℃/分の昇温速度で40℃から280℃まで加熱して融解熱量を測定する。結晶融解吸熱ピークの頂点に相当する温度がPET系樹脂の融点に相当する。
【0019】
本発明の樹脂組成物に用いられる(B)PET系樹脂のうち、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体とは、テレフタル酸およびイソフタル酸とエチレングリコールとの共重合体であって、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体、およびイソフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールあるいはそのエステル形成性誘導体とを通常公知の方法で重縮合して得られるものである。さらに他の成分を共重合してもよい。他の共重合成分としては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ジオールなどが挙げられる。ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸やこれらのアルキルエステル等が挙げられる。ジオールとしては、例えば、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0020】
(B)PET系樹脂のうち、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を構成する全ジカルボン酸成分中のイソフタル酸成分含有率(以下、イソフタル酸含有率とする)は、5mol%以上20mol%以下が好ましく、8mol%以上16mol%以下がより好ましい。ここで、ジカルボン酸成分およびイソフタル酸成分とは、ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体の残基およびイソフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体の残基を意味する。イソフタル酸含有率を上記範囲とすることにより、PET系樹脂の融点を215℃以上235℃以下にすることができる。
【0021】
本発明における(B)PET系樹脂は、前述のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を2種以上含んでもよく、さらにポリエチレンテレフタレートおよび他の共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂を含んでもよい。(B)PET系樹脂を2種以上配合する場合、PET系樹脂全体の融点が上記範囲にあればよい。
【0022】
本発明における(B)PET系樹脂としては、250℃、1000gf条件下におけるMFRが1g/10分以上のものが射出成形性の点で好適であり、2g/10分以上がより好適である。また、250℃、1000gf条件下におけるMFRが30g/10分以下のものが溶着部の靭性をより向上させる点で好適であり、20g/10分以下がより好適である。
【0023】
なお、(B)PET系樹脂のMFRは、前述の(A)PBT樹脂のMFRの測定方法と同様に測定することができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物に用いられる(B)PET系樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを用いることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による重縮合反応のいずれも適用することができる。カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合法が好ましく、コストの点で、直接重合法が好ましい。なお、エステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。触媒の具体例としては、有機チタン化合物、スズ化合物、ジルコニア化合物、アンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、(B)PET系樹脂100重量部に対して、0.01〜0.2重量部の範囲が好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物における(B)PET系樹脂の配合量は、前述した(A)PBT樹脂との合計100重量部に対して、10重量部以上90重量部以下の範囲である。(B)PET系樹脂の配合量が10重量部未満であると、成形部品の溶着部の常温および低温環境下における靭性が低下する。20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。また、(B)PET系樹脂の配合量が90重量部を超えると、樹脂組成物の射出成形性に劣り、成形部品を成形することが困難となる。80重量部以下が好ましく、70重量部以下がより好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、(C)α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体(以下、(C)グリシジル基含有共重合体と略記することがある)を配合することにより、常温および低温環境下における優れた溶着部の靭性および加工性を得ることができる。
【0027】
本発明における(C)グリシジル基含有共重合体は、α−オレフィン、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルおよび必要に応じてこれらと共重合可能なビニル系モノマを共重合することにより得られる共重合体である。全共重合成分中、α−オレフィン、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルを60重量%以上用いることが好ましい。
【0028】
α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−オクテン等を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。メタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。また、上記成分と共重合可能なビニル系モノマとしては、例えば、ビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレンなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。
【0029】
本発明における(C)グリシジル基含有共重合体の好ましい例としては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。成形部品の低温環境下における溶着部の靭性をより向上させる観点から、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有二元共重合体であることが好ましく、具体的には、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体がより好ましい。
【0030】
特に好ましい、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体は、Elf Atochemから“ロタダー”(登録商標)、例えば“ロタダー”AX8840という商品名で入手できる。
【0031】
本発明の樹脂組成物における(C)グリシジル基含有共重合体の配合量は、上記(A)PBT樹脂と(B)PET系樹脂の合計100重量部に対して、1重量部以上20重量部以下の範囲である。(C)グリシジル基含有共重合体の配合量が1重量部未満であると、成形部品の常温および低温における溶着部の靭性および加工性が低下する。2重量部以上が好ましい。一方、(C)グリシジル基含有共重合体の配合量が20重量部を超えると、標準的なPBT樹脂組成物からなる成形部品と常温および低温環境下における溶着部の靭性、および樹脂組成物の耐熱性と射出成形性が低下する。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、(E)強化繊維を配合してなる。(E)強化繊維を配合することにより、成形部品の強度と耐熱性を向上させることができる。
【0033】
本発明における(E)強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維および有機繊維(ナイロン、ポリエステル、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマ、アクリル等)等を挙げることができる。これらを2種以上配合してもよい。これらの中でも、ガラス繊維が好ましい。また、(E)強化繊維の繊維径(直径)は、4μm以上25μm以下が好ましく、6μm以上20μm以下がより好ましい。
【0034】
また、本発明において、(E)強化繊維は樹脂組成物中で開繊していることが好ましい。ここで、「開繊している」とは、樹脂組成物中の(E)強化繊維が実質的に単繊維にまで開繊している状態をいい、具体的には、樹脂組成物を観察した際に認められる強化繊維の内で、10本以上束になった強化繊維の本数が、観察した強化繊維の総本数の40%以下程度にあることを意味する。
【0035】
本発明における(E)強化繊維の配合量は、上記(A)PBT樹脂と(B)PET系樹脂の合計100重量部に対して、10重量部以上60重量部以下である。(E)強化繊維の配合量が10重量部未満であると、成形部品の耐熱性や機械特性が低下する。一方、(E)強化繊維の配合量が60重量部を超えると、成形部品の溶着部の靭性や樹脂組成物の流動性が低下する。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、さらに(D)エチレンと炭素数3以上20以下のα−オレフィンとからなるエチレン/α−オレフィン共重合体(以下、(D)エチレン/α−オレフィン共重合体と略記することがある)を配合してなることが好ましい。前述の(C)グリシジル基含有共重合体と(D)エチレン/α−オレフィン共重合体を併用することにより、成形部品の低温環境下における溶着部の靭性および加工性をより向上させることができる。エチレンと炭素数3以上20以下のα−オレフィンとともに、本発明の効果に悪影響を与えない範囲内において、他の成分を共重合してもよい。この場合において、他の成分としてα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを有するものは、上記(C)グリシジル基含有共重合体とする。
【0037】
炭素原子数3以上20以下のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどが挙げられ、1−ブテンおよび1−オクテンが特に好ましい。
【0038】
エチレン/1−ブテン共重合体は、例えば、三井化学株式会社から“タフマー”(登録商標)、例えば“タフマー”A0550Sという商品名で入手できる。
【0039】
また、本発明に用いられる(D)エチレン/α−オレフィン共重合体の密度は、600kg/m
3以上870kg/m
3以下が好ましい。密度を870kg/m
3以下とすることで、成形部品の常温および低温環境下における溶着部の靭性がより向上する。一方、下限については特に制限はないが、入手の容易性に鑑み、密度は600kg/m
3以上が好ましい。
【0040】
ここで言う密度は、JIS−K7112(1999)に準拠して、密度勾配管によって測定した値である。
【0041】
また、本発明に用いられる(D)エチレン/α−オレフィン共重合体は、JIS−K7210(1999)に準拠した190℃、2160gf条件下におけるMFRが0.05g/10分以上1.0g/10分以下であることが好ましい。MFRを0.05g/10分以上とすることで、樹脂組成物の流動性がより向上する。一方、MFRを1.0g/10分以下とすることで、成形部品の常温および低温における溶着部の靭性および加工性がより向上する。
【0042】
なお、(D)エチレン/α−オレフィン共重合体のMFRは、温度条件と荷重条件を上記のとおり変更し、前述の(A)PBT樹脂のMFRの測定方法と同様に測定することができる。
【0043】
本発明の樹脂組成物における(D)エチレン/α−オレフィン共重合体の配合量は、前記(A)PBT樹脂と(B)PET系樹脂の合計100重量部に対して、1重量部以上20重量部以下が好ましい。(D)エチレン/α−オレフィン共重合体の配合量を1重量部以上とすることにより、成形部品の低温環境下における溶着部の靭性をより向上させることができる。2重量部以上がより好ましい。一方、(D)エチレン/α−オレフィン共重合体の配合量を20重量部以下とすることにより、成形部品の耐熱性をより高いレベルで維持することができる。10重量部以下がより好ましい。
【0044】
さらに、前記(C)グリシジル基含有共重合体と(D)エチレン/α−オレフィン共重合体の重量比は、20/80以上70/30以下であることが好ましい。重量比を20/80以上とすることで、樹脂組成物の流動性がより向上する。一方、70/30以下とすることで、成形部品の常温および低温における溶着部の靭性および加工性がより向上する。
【0045】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂成分、無機充填材、離型剤、安定剤、着色剤、滑剤などの通常の添加剤を配合することができる。これらを2種以上配合してもよい。
【0046】
他の樹脂成分としては、溶融成形可能な樹脂であればいずれでもよく、例えば、AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン共重合体)、水添または未水添SBS樹脂(スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体)、水添または未水添SIS樹脂(スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、環状オレフィン系樹脂、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0047】
無機充填材としては、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填材も使用することができる。具体的には、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどのウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウムなどの粉状、粒状または板状充填材などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0048】
離型剤としては、ポリエステル樹脂組成物の離型剤に用いられるものをいずれも使用することができる。例えば、カルナウバワックス、ライスワックス等の植物系ワックス、蜜ろう、ラノリン等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックス、ひまし油およびその誘導体、脂肪酸およびその誘導体等の油脂系ワックスなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0049】
安定剤としては、ポリエステル樹脂組成物の安定剤に用いられるものをいずれも使用することができる。例えば、酸化防止剤、光安定剤、触媒失活剤などを挙げることができる。これらを2種以上配合してもよい。
【0050】
着色剤としては、例えば、有機染料、有機顔料、無機顔料などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0051】
本発明の樹脂組成物は、前記(A)〜(C)、(E)および必要によりその他成分が均一に分散されていることが好ましい。本発明の樹脂組成物の製造方法としては、例えば、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなどの公知の溶融混練機を用いて、各成分を溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に含まれる水分は少ない方がよく、必要により予め乾燥しておくことが望ましい。
【0052】
また、溶融混練機に各成分を投入する方法としては、例えば、単軸あるいは2軸の押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から(A)PBT樹脂、(B)PET系樹脂、(C)グリシジル基含有共重合体、必要により(D)エチレン/α−オレフィン共重合体およびその他成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から(E)強化繊維を供給し溶融混練する方法が挙げられる。
【0053】
溶融混練温度は、流動性および機械特性に優れるという点で、110℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。また、360℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。ここで、溶融混練温度とは、溶融混練機の設定温度を指し、例えば2軸押出機の場合、シリンダ温度を指す。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することにより、各種成形部品に加工し利用することができる。射出成形時の温度は、流動性をより向上させる観点から240℃以上が好ましく、機械特性を向上させる観点から280℃以下が好ましい。
【0055】
成形部品としては、例えば、射出成形部品、押出成形部品、ブロー成形部品、フィルム、シート、繊維などが挙げられる。本発明の樹脂組成物は滞留安定性にも優れることから、大型成形部品にも好ましく用いられる。
【0056】
このようにして得られた成形部品を振動溶着することにより成形品を得ることができる。本発明の成形部品を振動溶着する方法としては常用の方法を用いることができる。
【0057】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部材、電気・電子部材、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。特に、本発明の樹脂組成物は、低温環境下における溶着部の靭性に優れた成形部品を得ることができるため、自動車のECUハウジングとして特に好適である。
【0058】
本発明の成形部品は、標準的なPBT樹脂組成物(共重合ポリエステルを含まないPBT樹脂組成物)との常温および低温条件下における溶着部の靭性にも優れることから、共重合ポリエステルを含まないPBT樹脂組成物からなる成形部品と振動溶着して得られる成形品に好ましく用いられる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例、比較例で使用する原料の略号および内容を以下に示す。
【0060】
なお、下記PBT樹脂およびPET系樹脂の融点は、示差走査熱量計を用いて、20℃/分の昇温速度で40℃から280℃までPBT樹脂またはPET系樹脂を加熱して融解熱量を測定し、結晶融解吸熱ピークの頂点に相当する温度から求めた数値である。また、PBT樹脂およびPET系樹脂のMFRは、130℃で3時間乾燥させた樹脂を250℃に調整したMFR計シリンダ内で5分間溶融したのち、1000gfの荷重を加え、オリフィスより1分間に流出した樹脂の重量を測定し、この重量を10倍して、10分間の流出量に換算した数値である。また、エチレン/α−オレフィン共重合体のMFRは、JIS−K7210に準拠して、190℃に調整したMFR計シリンダ内で5分間溶融したのち、2160gfの荷重を加え、オリフィスより1分間に流出した樹脂の重量を測定し、この重量を10倍して、10分間の流出量に換算した数値である。また、エチレン/α−オレフィン共重合体の密度は、JIS−K7112に準拠して、密度勾配管によって測定した数値である。
ポリブチレンテレフタレート樹脂
A−1:ポリブチレンテレフタレート(融点:224℃、MFR(250℃/1000gf):9g/10分)
A’−2:ポリブチレンテレフタレート(融点:224℃、MFR(250℃/1000
f):32g/10分)
ポリエチレンテレフタレート系樹脂
B−1:ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(融点:225℃、MFR(250℃/1000gf):8g/10分、mol比:テレフタル酸/イソフタル酸=90/10)
B−2:ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(融点:225℃、MFR(250℃/1000gf):20g/10分、mol比:テレフタル酸/イソフタル酸=90/10)
B−3:ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(融点:218℃、MFR(250℃/1000gf):19g/10分、mol比:テレフタル酸/イソフタル酸=85/15)
B’−4:ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(融点:243℃、MFR(250℃/1000gf):1g/10分、mol比:テレフタル酸/イソフタル酸=95/5)
B’−5:ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(融点:207℃、MFR(250℃/1000gf):17g/10分、mol比:テレフタル酸/イソフタル酸=81/19)
B’−6:ポリエチレンテレフタレート(融点:258℃、MFR(250℃/1000gf):0g/10分)
α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体
C−1:エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体(Elf Atochem製“ロタダー”(登録商標)AX8840(商品名))
(D)エチレンと炭素数3以上20以下のα−オレフィンとからなるエチレン/α−オレフィン共重合体
D−1:エチレン/1−ブテン共重合体(三井化学(株)製“タフマー”(登録商標)A0550S(商品名) 密度:861kg/m
3 MFR:0.5g/10分)
D−2:エチレン/1−ブテン共重合体(三井化学(株)製“タフマー”(登録商標)A35050(商品名) 密度:864kg/m
3 MFR:35g/10分)
D−3:エチレン/1−ブテン共重合体(三井化学(株)製“タフマー”(登録商標)A4085(商品名) 密度:885kg/m
3 MFR:3.6g/10分)
D−4:エチレン/1−オクテン共重合体(ダウケミカル社製“エンゲージ”(登録商標)HM7487(商品名) 密度:860kg/m
3 MFR:0.5g/10分)
(E)強化繊維
E−1:チョップドストランドガラス繊維(日本電気硝子(株)社製 T−187(商品名)3mm長、平均繊維径13.0μm)
その他成分
F−1:ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(融点:208℃、MFR(250℃/1000gf):29g/10分、mol比:テレフタル酸/イソフタル酸=90/10)
【0061】
実施例および比較例における評価方法を以下にまとめて示す。
【0062】
(1)振動溶着部靭性(i)
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、
図1に示す表面形状で厚さ10mmの溶着部靭性測定用試験片をシリンダ温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形で成形した。得られた溶着部靭性測定用試験片2個を、ブランソン社製2850型振動溶着装置を用いて以下の条件で溶着し、
図2に示す溶着部靭性測定用溶着試験片を得た。
加圧力:2.3MPa
振幅:1.5mm
溶着代:1.5mm
【0063】
得られた溶着部靭性測定用溶着試験片の中央部を長手方向に切り出し、長さ96mm×幅6mm×厚み10mmの試験片を作製し、幅6mmが高さ方向、溶着部分が中央になるように曲げ試験機にセットし、以下の条件で3点曲げ試験を実施し、曲げ破断時の変位を測定した。
環境温度:23℃、−40℃
歪み速度:5mm/分
スパン:50mm
【0064】
曲げ破断時の変位から下式により曲げ破断歪みを算出した。測定は5回行い、5回の曲げ歪みの平均値を求めた。
曲げ破断歪み(%)={曲げ破断時の変位(mm)×高さ(mm)×6/(スパン(mm))
2}×100
【0065】
自動車部品の使用環境は一般的に140℃〜−40℃である。この温度範囲における標準的なポリエステル樹脂組成物の寸法変化率は最大で1.8%であるので、曲げ破断歪みが1.8%より高ければ振動溶着部靭性は良好と判断できる。2.0%以上がより好ましい。
【0066】
(2)振動溶着部靭性(ii)
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、上記(1)と同様に作製した溶着部靭性測定用試験片と、比較例1により得られた樹脂組成物を用いて、上記(1)と同様に作製した溶着部靭性測定用試験片とを、上記(1)と同様に振動溶着して溶着部靭性測定用溶着試験片を得た。得られた溶着部靭性測定用溶着試験片について、上記(1)と同様にして曲げ破断時の変位を測定し、曲げ破断歪みを算出した。曲げ破断歪みが1.8%より高ければ良好と判断できる。2.0%以上がより好ましい。
【0067】
(3)加工性
上記(1)および(2)により得られた溶着部靭性測定用溶着試験片を目視にて観察し、バリの発生を評価し(良)○−△−×(悪)の3段階で判定した。
【0068】
(4)耐熱性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、ISO75−1,2に準拠し、フラットワイズ、1.80MPa応力での荷重たわみ温度を測定した。荷重たわみ温度が200℃以上であれば、耐熱性は良好であると判断できる。
【0069】
[実施例1〜11]
表1に示す配合組成に従い、シリンダ温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの二軸押出機(WERNER & Pfeiderer社製ZSK57)の主投入口から(A)成分、(B)成分、(C)成分、および(D)成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から(E)成分を供給し、溶融混練を行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、上記方法で評価した結果を表1に記した。得られた樹脂組成物は、何れも耐熱性に優れるものであった。また、樹脂組成物からなる成形部品を振動溶着して得られる成形品は、何れも曲げ破断歪みが大きく、加工性も良好であった。
【0070】
【表1】
【0071】
[比較例1〜11]
表2に示す配合組成に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同様にして評価した結果を表2に記した。比較例1、2、3、6、7、9、11の樹脂組成物からなる成形部品を振動溶着して得られる成形品の曲げ破断歪みは不十分であった。比較例5、8、10の樹脂組成物は耐熱性が低く、樹脂組成物からなる成形部品を比較例1の成形部品と溶着した際の曲げ破断歪みも不十分であった。比較例4は射出成形時の固化が遅く、試験片が採取できなかった。
【0072】
【表2】