特許第6098303号(P6098303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6098303-無段変速機の制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098303
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20170313BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-75276(P2013-75276)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-199122(P2014-199122A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】野崎 将広
(72)【発明者】
【氏名】吉川 明宏
(72)【発明者】
【氏名】栗田 規善
(72)【発明者】
【氏名】筒井 洋
【審査官】 佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−227826(JP,A)
【文献】 特開昭63−064837(JP,A)
【文献】 特開2006−118590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸と車輪との間の動力伝達経路に無段変速機構と直列に配置されるクラッチが、所定のトルク容量以下の解放状態とされるニュートラル制御から係合を開始して終了するまでのニュートラル制御復帰動作を実行可能である無段変速機の制御装置において、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
車輌の走行中に前記ニュートラル制御が実行されている際に前記アクセル開度検出手段がアクセルONを検出することにより実行される前記ニュートラル制御復帰動作の動作中において、走行状態に基づいて設定される前記無段変速機構の通常変速比よりも大きくなるように変速比を設定して、前記無段変速機構の変速比を変更制御する変速制御手段と、を備えた、
ことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記通常変速比は、前記クラッチが完全に係合しているときに、目標駆動力が出力可能な変速比である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記変速制御手段は、前記通常変速比に基づいて前記ニュートラル制御復帰動作が実行された場合の前記クラッチのトルク容量に基づいて、前記車輌の駆動力が目標駆動力となる変速比に、変速比を変更制御する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記変速制御手段は、前記クラッチの係合終了状態では、前記通常変速比に基づいて前記無段変速機構の変速比を変更制御し、前記ニュートラル制御復帰動作中で前記クラッチの係合が終了するまでに前記通常変速比となるように変速比を設定して、前記無段変速機構の変速比を変更制御する、
ことを特徴とする、請求項1ないし3のうちの何れか1項に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記クラッチに入力されるトルクTinを検出するトルク検出手段を有し、
前記ニュートラル制御復帰動作中に設定される変速比の前記通常変速比γに対する補正量Δγは、その時の係合状態での前記クラッチのトルク容量をTcとした場合に、
Δγ=(Tin−Tc)/Tc×γ
により算出される、
ことを特徴とする、請求項4に記載の無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌等に搭載される無段変速機の制御装置に係り、特に、動力伝達経路に無段変速機構と直列に配置されるクラッチが、ニュートラル制御から係合を開始して終了するまでのニュートラル制御復帰動作を実行可能な構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車輌に搭載される自動変速機にあっては、例えば燃費向上や変速ショックの低減のためにベルト式やトロイダル式等の無段変速機構(CVT)を用いた無段変速機が多く採用されている。このような無段変速機としては、エンジンの出力軸と車輪との間の動力伝達経路に無段変速機構と直列に配置されるクラッチを有し、基本的には車輌の停止中に、クラッチを所定のトルク容量以下の解放状態とするニュートラル制御を実行して、燃費の向上を図る構成が知られている。
【0003】
一方、車輌の惰性走行(コースト走行)中に、エンジンと変速機構との間の動力伝達を解除し、アクセルONされると、変速機構の推奨変速段を準備して、エンジンと変速機構との間の動力伝達が接続された場合のドライバーの違和感を軽減する構成が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−219087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したニュートラル制御をコースト走行中にも実行することが考えられる。この場合に、アクセルONされると、ニュートラル制御から係合を開始して終了するまでのニュートラル制御復帰動作が実行される。このとき、無段変速機構の変速比を、走行状態及びエンジンの特性により設定される通常変速比に基づいて変更制御すると、このニュートラル制御復帰動作の実行中は、クラッチの係合が終了していないためトルク伝達が不十分であり、ドライバーが再加速するためにアクセルONしたにも拘らず、クラッチの係合が終了してトルク伝達が十分になるまでは意図した駆動力が得られず、ドライバビリティー上のヘジテーションが生じてしまう。上述の特許文献1の場合、推奨変速段を準備してエンジンと変速機構との間の動力伝達が接続された場合のドライバーの違和感を軽減するものであり、上述のようなニュートラル制御復帰動作の実行中に生じるドライバビリティーの低下を解決するものではない。
【0006】
そこで本発明は、走行中にニュートラル制御が実行されている際にアクセルONされてニュートラル制御復帰動作が実行された場合でも、ドライバビリティーを確保できる無段変速機の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は(例えば図1乃至図4参照)、エンジン(2)の出力軸(2a)と車輪(18a、18b)との間の動力伝達経路に無段変速機構(5)と直列に配置されるクラッチ(71)が、所定のトルク容量以下の解放状態とされるニュートラル制御から係合を開始して終了するまでのニュートラル制御復帰動作を実行可能である無段変速機の制御装置(1)において、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段(22)と、
車輌の走行中に前記ニュートラル制御が実行されている際に前記アクセル開度検出手段(22)がアクセルONを検出することにより実行される前記ニュートラル制御復帰動作の動作中において、走行状態に基づいて設定される前記無段変速機構(5)の通常変速比よりも大きくなるように変速比を設定して、前記無段変速機構(5)の変速比を変更制御する変速制御手段(24)と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記通常変速比は、前記クラッチ(71)が完全に係合しているときに、目標駆動力が出力可能な変速比であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記変速制御手段(24)は、前記通常変速比に基づいて前記ニュートラル制御復帰動作が実行された場合の前記クラッチ(71)のトルク容量に基づいて、前記車輌の駆動力が目標駆動力となる変速比に、変速比を変更制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は(例えば図1乃至図4参照)、前記変速制御手段(24)は、前記クラッチ(71)の係合終了状態では、前記通常変速比に基づいて前記無段変速機構(5)の変速比を変更制御し、前記ニュートラル制御復帰動作中で前記クラッチ(71)の係合が終了するまでに前記通常変速比となるように変速比を設定して、前記無段変速機構(5)の変速比を変更制御することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は(例えば図1乃至図4参照)、前記クラッチ(71)に入力されるトルクTinを検出するトルク検出手段(23)を有し、
前記ニュートラル制御復帰動作中に設定される変速比の前記通常変速比γに対する補正量Δγは、その時の係合状態での前記クラッチ(71)のトルク容量をTcとした場合に、
Δγ=(Tin−Tc)/Tc×γ
により算出されることを特徴とする。
【0012】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る本発明によると、走行中のアクセルONによりニュートラル制御復帰動作が実行された場合に、変速比を通常変速比よりも大きくなるように設定して、無段変速機構の変速比を変更制御しているため、通常変速比に基づいてニュートラル制御復帰動作を行った場合の駆動力低下分を補うことができる。この結果、走行中にニュートラル制御が実行されている際にアクセルONされてニュートラル制御復帰動作が実行された場合でも、ドライバビリティーを確保できる。
【0014】
請求項2に係る本発明によると、ニュートラル制御復帰動作中は、クラッチが完全に係合していないため、クラッチが完全係合しているときに目標駆動力を出力可能な通常変速比よりも大きくなるように変速比を設定することで、駆動力低下分を補うことができる。
【0015】
請求項3に係る本発明によると、通常変速比に基づいてニュートラル制御復帰動作が実行された場合のクラッチのトルク容量に基づいて変速比を変更制御するため、適切に変速比の変更制御を行える。
【0016】
請求項4に係る本発明によると、クラッチの係合終了状態では無段変速機構の変速比を通常変速比に基づいて変更制御し、ニュートラル制御復帰動作中でクラッチの係合が終了するまでに通常変速比となるように変速比を設定しているため、ニュートラル制御復帰動作からクラッチの係合終了状態となったときの無段変速機構の変速比の制御を円滑に行える。
【0017】
請求項5に係る本発明によると、ニュートラル制御復帰動作中に設定される変速比の通常変速比γに対する補正量Δγを、クラッチに入力されるトルクTinとその時の係合状態でのクラッチのトルク容量Tcとの関係で算出するため、より正確にニュートラル制御復帰動作中の駆動力低下分を補うことができ、ドライバビリティーの向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を適用し得る無段変速機を示すスケルトン図。
図2】本発明の実施形態に係る無段変速機の制御装置を示すブロック図。
図3】本実施形態の走行中のニュートラル制御から通常走行までの制御の一例を示すタイムチャート。
図4】本実施形態の走行中のニュートラル制御から通常走行までの制御の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態について、図1ないし図4を用いて説明する。まず、本発明を適用し得るベルト式無段変速機(CVT)3の概略構成について図1及び図2に沿って説明する。図2に示すように、例えばFFタイプ(フロントエンジン、フロントドライブ)の車輌に用いて好適な無段変速機3は、無段変速機構5と、エンジン(駆動源)2と無段変速機構5との間に介在されるトルクコンバータ(流体伝動装置)4と、それらを油圧制御するための油圧制御装置6とを備えて構成されている。詳細には、無段変速機3は、図1に示すように、大まかにトルクコンバータ4と前後進切換え装置7と無段変速機構5とディファレンシャル装置17とを備えている。
【0020】
トルクコンバータ4は、エンジン2のクランクシャフト(出力軸)2aに連結しているポンプインペラ4a,無段変速機構5の入力軸5aに連結しているタービンランナ4b,ワンウェイクラッチ4dを介して一回転方向に規制されているステータ4cを備えており、更にポンプインペラ4aとタービンランナ4bとを機械的に直接係合し得る(入出力回転をロックアップし得る)ロックアップクラッチ4eを有している。従って、エンジン2のクランクシャフト2aの回転は、ポンプインペラ4a,タービンランナ4b,ステータ4cを経由する油流を介して、又はロックアップクラッチ4eによる機械的結合により入力軸5aに伝達される。
【0021】
前後進切換え装置7は、クランクシャフト(エンジンの出力軸)2aと車輪18a、18bとの間の動力伝達経路に無段変速機構5と直列に配置され、1個のシンプルプラネタリギヤ7aを有しており、該プラネタリギヤ7aのサンギヤ7bが入力軸5aに固定され、リングギヤ7cがプライマリプーリ10に連結され、入力軸5aとピニオン7dを支持するキャリヤ7eとの間に前進用クラッチ71が介在され、更にキャリヤ7eが後進用クラッチ(ブレーキ)72に連結されている。したがって、これら前進用クラッチ71及び後進用クラッチ72は、上記動力伝達経路に無段変速機構5と直列に配置される。
【0022】
これにより、前進用クラッチ71が係合された状態では、サンギヤ7b及びキャリヤ7eに入力軸5aの入力回転が入力され、プラネタリギヤ7aが直結状態の一体回転となって該入力回転がリングギヤ7cよりプライマリプーリ10に伝達される。また、後進用クラッチ72が係合された状態では、サンギヤ7bに入力軸5aの入力回転が入力されると共にキャリヤ7eの回転が固定され、該キャリヤ7eを介して反転された逆転回転がリングギヤ7cより無段変速機構5のプライマリプーリ10に伝達される。
【0023】
無段変速機構5は、プライマリプーリ10、セカンダリプーリ12及びこれら両ベルトに巻掛けられたベルト(例えば金属製プッシュタイプベルト、金属製プルタイプベルト、金属リング等のあらゆる無端ベルトを含む)11を有して構成されている。プライマリプーリ10及びセカンダリプーリ12の可動プーリが油圧制御され、プライマリプーリ10のベルト11の挟持半径が大きくされると共にセカンダリプーリ12のベルト11の挟持半径が小さくされると変速比が大きくなる方向(ダウンシフト)に変速され、反対に、プライマリプーリ10のベルト11の挟持半径が小さくされると共にセカンダリプーリ12のベルト11の挟持半径が大きくされると変速比が小さくなる方向(アップシフト)に変速される。
【0024】
そして、セカンダリプーリ12に連結された出力ギヤ13は、カウンターシャフト14の一端側のギヤ14aに噛合され、カウンターシャフト14の他端側のギヤ14bは、ディファレンシャル装置17のリングギヤ15に噛合されている。したがって、無段変速機構5で無段変速された出力回転は、カウンターシャフト14を介してディファレンシャル装置17に伝達され、ディファレンシャル装置17において左右駆動軸(アクセルシャフト)16a,16bの差回転が吸収されつつ、それら左右駆動軸16a,16bに接続された車輪18a、18bに出力される。
【0025】
油圧制御装置6には、エンジン2の回転に連動して駆動されるオイルポンプ(不図示)が備えられており、該オイルポンプで発生された油圧は、同じく図示を省略したプライマリレギュレータバルブ及びセカンダリレギュレータバルブにより、スロットル開度に基づきライン圧及びセカンダリ圧に調圧される。また、油圧制御装置6は、不図示の複数のソレノイドバルブなどを備えており、次述する制御部20の指令により、上述の油圧などを用いて無段変速機構5の変速、前後進切換え装置7やロックアップクラッチ4eの係合などの制御を行う。
【0026】
つづいて、本実施の形態に係る無段変速機の制御装置1の概略構成について図2に沿って説明する。本無段変速機の制御装置1は、制御部(ECU)20を有しており、該制御部20は、クラッチ係合圧指令手段21、アクセル開度検出手段22、トルク検出手段23、及び変速制御手段24を備えて構成されている。
【0027】
また、制御部20には、アクセル開度センサ31、タービンランナ4bの回転速度(タービン回転数)、つまり無段変速機構5の入力軸5aの回転速度を検出するタービン回転数(入力軸)センサ32、及び、無段変速機構5の出力軸の回転速度を検出する出力軸回転数(車速)センサ33が接続されていると共に、エンジン2からエンジントルク(エンジンの出力トルク)とエンジン回転数(エンジンの出力軸の回転速度)とがそれぞれ信号として入力される。なお、タービン回転数は、無段変速機構5の出力軸(不図示)の回転数を検出してギヤ比等から算出してもよく、また、エンジン回転数は、無段変速機3に入力軸回転数センサを設ける等して検出してもよい。
【0028】
クラッチ係合圧指令手段21は、ドライバーのシフトレバーの操作や走行状態に応じて油圧制御装置6に指令して、前進用クラッチ71及び後進用クラッチ72の係合圧を調圧制御する。これにより、前進用クラッチ71と後進用クラッチ72の係合の切り替えや、前進用クラッチ71のニュートラル制御(N制御)及びニュートラル制御復帰動作(N制御復帰動作)の係合制御を実行可能である。例えば、クラッチ係合圧指令手段21は、図示を省略したシフトレバーの操作位置等に基づきD(ドライブ)レンジ又はR(リバース)レンジの状態であると、上述した前進用クラッチ71又は後進用クラッチ72を係合制御する。クラッチ係合圧指令手段21で設定される係合圧の信号は、変速制御手段24にも入力される。
【0029】
ここで、N制御とは、車輌の停止中やアクセルOFFでコースト走行中に、前進用クラッチ71(クラッチ)を所定のトルク容量以下の解放状態とする制御である。ここで、所定のトルク容量以下の解放状態とは、例えば、係合開始直後の状態又はこの状態よりも解放状態(完全解放を含む)である。N制御として好ましくは、前進用クラッチ71を係合開始直前の状態として、動力をほぼ断接すると共に、速やかに係合を開始できるようにする。何れにしてもN制御中は、動力が断接、或いは、接続されても極僅かに動力が伝達されるだけであるため、上記プライマリプーリ10及びセカンダリプーリ12の軸方向挟持圧を低下させることができて、この軸方向挟持圧を確保するための大きな油圧が不要となり、エンジン回転数を例えばアイドリング回転などの低回転として燃費の向上を図れる。
【0030】
また、N制御復帰動作とは、車輌の走行中のN制御から前進用クラッチ71の係合を開始して終了する(即ち、完全係合する)までの制御であり、前進用クラッチ71が急に完全係合されてショックが生じることを緩和するために、前進用クラッチ71の係合圧をN制御の状態から徐々に上昇させる制御である。N制御復帰動作が終了して前進用クラッチ71が完全係合すると、通常走行の状態となる。本実施の形態では、車輌の走行中にN制御が実行されている際に、アクセル開度検出手段22がアクセルONを検出すると、N制御復帰動作が実行される。
【0031】
アクセル開度検出手段22は、アクセル開度センサ31からの信号により、アクセルのON及びOFFを含むアクセルの開度を検出する。このアクセル開度の信号は変速制御手段24及び変速比設定手段26に入力される。
【0032】
トルク検出手段23は、無段変速機構5の入力軸5aに入力されるトルクTinを検出するものであり、例えば、エンジントルク、エンジン回転数、タービン回転数、ロックアップクラッチ4eの係合状態などから、例えば予め設定されたマップにより上記トルクTinを算出する。このトルクTinは、前進用クラッチ71に入力されるトルクでもあり、トルクTinは信号として、後述する変速比補正量算出手段28に入力される。
【0033】
変速制御手段24は、不図示のシフトレバーの操作や走行状態に応じて油圧制御装置6に指令して、プライマリプーリ10及びセカンダリプーリ12の軸方向挟持圧を油圧制御することで無段変速機構5の変速制御を自在に行う。この変速制御手段24には、目標入力回転数設定手段25及び変速比設定手段26が備えられており、目標入力回転数設定手段25は、無段変速機構5の入力軸5aの目標回転速度(目標入力回転数)を設定する。変速比設定手段26は、この目標入力回転数となるように無段変速機構5の変速比を設定し、変速制御手段24がこのように設定された変速比となるように無段変速機構5の変速比を変更制御する。例えば、変速比設定手段26は、目標入力回転数設定手段25により設定された目標入力回転数と車速との関係から無段変速機構5の変速比を設定する。
【0034】
ここで、通常走行の状態では、変速制御手段24は、走行状態に基づいて設定される無段変速機構5の通常変速比に基づいて、無段変速機構5の変速比を変更制御する。具体的には、目標入力回転数設定手段25が、エンジン2の特性としての最良燃費曲線から走行状態に応じた最適な目標入力回転数Nintgtを設定する。そして、変速比設定手段26がこの目標入力回転数Nintgtから通常走行の状態での変速比(通常変速比)を設定し、変速制御手段24が油圧制御装置6を制御して無段変速機構5の変速比の変更制御を実行する。言い換えれば、変速制御手段24は、通常走行の状態では、アクセル開度検出手段22により検出されるアクセル開度及び出力軸回転数センサ33から入力される出力軸回転数(車速)に基づき(つまり走行状態に基づき)、エンジン2における最適な回転速度、かつ最適な出力トルクとなるような変速比(通常変速比)を求めて、無段変速機構5の変速比を変更制御する。言い換えれば、通常変速比は、前進用クラッチ71が完全に係合しているときに、目標駆動力が出力可能な変速比である。
【0035】
また、変速比設定手段26には、クラッチトルク容量算出手段27、変速比補正量算出手段28が備えられており、クラッチトルク容量算出手段27は、その時の係合状態での前進用クラッチ71のトルク容量Tcを算出する。即ち、クラッチトルク容量算出手段27は、クラッチ係合圧指令手段21から入力された前進用クラッチ71の係合圧の信号に基づいて、その時の前進用クラッチ71が駆動力を伝達可能なトルクであるトルク容量Tcを算出する。例えば、前進用クラッチ71が完全係合状態であれば、トルク容量Tcは、無段変速機構5の入力軸5aに入力されるトルクTin以上となる。
【0036】
変速比補正量算出手段28は、N制御復帰動作中に設定される変速比の通常変速比γに対する補正量Δγを算出するものである。即ち、本実施形態では、制御部20は、車輌の走行中にN制御が実行されている際にアクセル開度検出手段22がアクセルONを検出して、N制御復帰動作が実行された場合に、通常変速比γよりも大きくなるように変速比を設定して、無段変速機構5の変速比を変更制御する。変速比補正量算出手段28は、このようなN制御復帰動作中に通常変速比γよりも大きくなるように無段変速機構5の変速比を制御するための補正量Δγを算出するものである。本実施形態では、変速比補正量算出手段28は、通常変速比に基づいてニュートラル制御復帰動作が実行された場合の前進用クラッチ71のトルク容量に基づいて、車輌の駆動力が目標駆動力となる変速比となるように補正量Δγを算出し、変速制御手段24は、この補正量Δγで変速比を変更制御する。以下、具体的に説明する。
【0037】
変速比補正量算出手段28は、次式に基づいて、上述の補正量Δγを算出する。
Δγ=(Tin−Tc)/Tc×γ
【0038】
この式の算出方法について説明する。まず、前進用クラッチ71の完全係合状態での通常変速比γにおける車輌の駆動力(目標駆動力)Ftgtは、次式により算出される。
Ftgt=Tin×γ×ファイナルギヤ比/車輪の径・・・(1)
【0039】
次に、N制御復帰動作中に通常変速比γで変速した場合の車輌の駆動力Fは、前進用クラッチ71のトルク容量Tcによる制限を受けるため、次式により算出される。
F=Tc×γ×ファイナルギヤ比/車輪の径・・・(2)
このとき、上述の補正量Δγを通常変速比γに加算すると、N制御復帰動作中の車輌の駆動力F´は、次のようになる。
F´=Tc×(γ+Δγ)×ファイナルギヤ比/車輪の径・・・(3)
【0040】
ここで、通常変速比γに基づくN制御復帰動作中の駆動力低下分(Ftgt−F)を補うためには、F´=Ftgtとなれば良い。したがって、上記(1)式と(3)式から、補正量Δγは、次式により算出されることになる。
Δγ=(Tin−Tc)/Tc×γ
【0041】
一方、車輌の駆動力が上記目標駆動力Ftgtとなるための、無段変速機構5の入力軸5aの目標回転速度(目標入力回転数N´intgt)は、通常変速比γにおける無段変速機構5の入力軸の目標入力回転数をNintgt、Δγによる増加分の回転速度(目標入力回転数補正量)をΔNintgtとすると、
N´intgt=Nintgt+ΔNintgt・・・(4)
と表せる。
【0042】
ここで、目標入力回転数補正量ΔNintgtは、無段変速機構5の出力軸の回転速度(回転数)をNoutとすると、仮にNoutが一定であるとした場合、変速比補正量Δγ分、無段変速機構5の入力軸の回転数が引き上げられることになるため、
ΔNintgt=Δγ×Nout
となる。したがって、ΔNintgtは、出力軸回転数センサ33の信号と上述のように算出した変速比補正量Δγとから容易に算出できる。
【0043】
通常変速比γにおける目標入力回転数Nintgtは、前述したように、目標入力回転数設定手段25が、最良燃費曲線から走行状態に応じて設定するため、N制御復帰動作中には、目標入力回転数設定手段25が、この目標入力回転数Nintgtに上述のように算出したΔNintgtを加えて、目標入力回転数をN´intgtに設定する。そして、変速制御手段24は、N制御復帰動作中は、この目標入力回転数N´intgtを目標に無段変速機構5の変速比を変更制御する。言い換えれば、本実施の形態の場合、N制御復帰動作中は、補正量Δγを加えた分、通常よりもダウンシフトされることになる。
【0044】
変速制御手段24は、前進用クラッチ71の係合終了状態、即ち、N制御復帰動作が終了して通常走行の状態となると、通常変速比γに基づいて(目標入力回転数Nintgtを目標に)無段変速機構5の変速比を変更制御する。このために本実施形態では、N制御復帰動作中で前進用クラッチ71の係合が終了するまでに通常変速比γとなるように変速比を設定して、無段変速機構5の変速比を変更制御する。
【0045】
上述したように、変速比の補正量Δγは、Δγ=(Tin−Tc)/Tc×γで算出されるが、前進用クラッチ71のトルク容量Tcは、係合圧の上昇と共に大きくなり、係合が終了する際には、トルク容量Tcが入力トルクTinと等しく(Tin=Tc)なる。したがって、変速比の補正量Δγを上式に基づいて算出することで、変速比が、N制御復帰動作中で前進用クラッチ71の係合が終了するまでに通常変速比γ(Δγ=0)となるように設定されることになる。
【0046】
なお、設定される変速比は、前進用クラッチ71の係合終了状態で通常変速比に戻っていなくても、何れかのタイミング、例えば、前進用クラッチ71の係合終了状態となる前、或いは、係合終了状態となった後で通常変速比となるようにしても良い。但し、ドライバビリティーをより向上させるためには、前進用クラッチ71の係合終了状態となるタイミングで通常変速比となるように、変速比の設定(即ち、変速比補正量Δγ)を徐々に変化させることが好ましい。また、N制御復帰動作中の変速比の設定は、上述のように算出される補正量Δγ以外に、例えば、前進用クラッチ71のトルク容量などに基づいて複数段階に設定された補正量を通常変速比に加算することで行っても良い。要は、N制御復帰動作中に通常変速比よりもダウンシフトして、アクセル開度に対する駆動力低下分を補えれば良い。
【0047】
次に、本実施形態の走行中のニュートラル制御から通常走行までの制御の一例について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、この制御のタイムチャートを示しており、図の上から、車輌の駆動力、無段変速機構5の入力軸の目標入力回転数、タービン回転数、設定される変速比、トルク、前進用クラッチ71のクラッチ係合圧指令値、アクセル開度を、それぞれ時間軸(横軸)に沿って示している。なお、αまでの区間を走行中N制御、αからβまでの区間をN制御復帰動作、β以降の区間を通常走行とする。
【0048】
車輌の駆動力については、前進用クラッチ71の完全係合状態での通常変速比γにおける車輌の駆動力と同等の駆動力を目標駆動力(Ftgt)として実線で、通常変速比γに基づく車輌の駆動力(F)を破線で、それぞれ示している。また、目標入力回転数については、変速比を補正した場合の補正後の目標入力回転数(N´intgt)を実線で、通常変速比γにおける目標入力回転数(Nintgt)を破線で、それぞれ示している。また、タービン回転数は、鎖線で示している。
【0049】
変速比については、変速比を補正した場合の補正後の変速比を実線で、通常変速比γを破線で、それぞれ示している。なお、変速比は、図の上に行くほど大きく、即ち、ダウンシフトとなる。トルクについては、前進用クラッチ71に入力される入力トルク(Tin)を実線で、前進用クラッチ71のトルク容量(Tc)を鎖線で、それぞれ示している。
【0050】
図4に示すように、走行中にN制御が実行されている状態で、アクセル開度検出手段22がアクセルONを検出すると(S1)、変速制御手段24は、走行中N制御復帰動作を開始する(S2)。即ち、図3のαの時点がアクセルONを検出した時であり、この時点でアクセル開度が立ち上がっている。このとき、クラッチ係合圧指令手段21は、前進用クラッチ71の係合圧を上昇させるために、所定量の指令値を出力し、トルク容量Tcもこれに応じて上昇する。また、アクセルONによりエンジン回転数が上昇するため、入力トルクTinも上昇する。
【0051】
N制御復帰動作が開始されると、クラッチトルク容量算出手段27は、前進用クラッチ71のその時の係合状態でのトルク容量Tcを算出する(S3)。次いで、変速制御手段24は、算出されたトルク容量Tcとトルク検出手段23により検出した入力トルクTinとを比較し(S4)、入力トルクTinがクラッチのトルク容量Tcよりも大きい場合に(S4のYES)、変速比補正量算出手段28が上述した式に基づいて、変速比補正量Δγを算出する(S5)。そして、変速制御手段24が、補正量Δγを反映した目標入力回転数N´intgtを目標に変速制御する(S6)。即ち、目標入力回転数設定手段25が、補正量Δγを加味した無段変速機構5の入力軸5aの目標入力回転数N´intgtを設定し、変速比設定手段26がこの目標入力回転数N´intgtとなるように変速比を設定し、変速制御手段24が無段変速機構5の変速比を変更制御する。これをS4でクラッチトルク容量Tcが入力トルクTin以上(S4のNO)となるまで繰り返す。
【0052】
上述のS3からS6までを繰り返す制御は、図3のαからβまでの区間となる。この区間では、図3から明らかなように、変速比が通常変速比γよりも大きく設定されることで、目標入力回転数N´intgtが通常変速比γにおける目標入力回転数Nintgtよりも上昇する。この結果、車輌の駆動力を目標駆動力Ftgtとする、若しくはこれに近づけることができ、通常変速比γで変速制御を行った場合よりも大きく駆動力を得られる。
【0053】
図3では、クラッチ係合圧指令値が一定値から上昇し始めるε以降、トルク容量Tcも上昇するため、上述の式で算出される補正後の変速比の上昇率(傾き)が小さくなる。また、これに伴い、目標入力回転数N´intgtの上昇率(傾き)も小さくなる。但し、車輌の駆動力は、前進用クラッチ71のトルク容量Tcが上昇しているため、変速比の上昇率が小さくなっているにも拘らずほぼ一定の傾きで上昇する。
【0054】
S4でクラッチトルク容量Tcが入力トルクTin以上(S4のNO)となると、走行中N制御復帰動作を終了し(S7)、変速制御手段24は、通常変速比γに基づいて無段変速機構5の変速制御を行う(S8)。即ち、図3でトルク容量Tcが入力トルクTinと等しくなるβの時点でN制御復帰動作を終了する。このとき、Tc=Tinとなるため、補正量Δγが0となり、設定される変速比が通常変速比γと一致する。また、目標入力回転数N´intgtも通常変速比γにおける目標入力回転数Nintgtと一致すると共に、前進用クラッチ71がほぼ直結(完全係合)されるため、タービン回転数も目標入力回転数と一致し始める。β以降は、通常変速比γに基づいて変速比が制御される通常走行の状態となる。なお、クラッチトルク容量Tcは、エンジン回転数の上昇に伴いライン圧が上昇することで高くなるため、β以降は、入力トルクTinよりも高い状態で維持される。
【0055】
以上説明したように本無段変速機の制御装置1によると、走行中のアクセルONによりN制御復帰動作が実行された場合に、変速比を通常変速比γよりも大きくなるように設定して、無段変速機構5の変速比を変更制御しているため、通常変速比γに基づいてN制御復帰動作を行った場合の駆動力低下分を補うことができる。即ち、通常変速比は、前進用クラッチ71が完全に係合しているときに、目標駆動力が出力可能な変速比であるため、N制御復帰動作中に通常変速比で変速制御を行うと、クラッチが完全に係合していないため、その分駆動力が低下してしまう。本実施の形態では、N制御復帰動作中は、このような通常変速比よりも大きくなるように変速比を設定することで、駆動力低下分を補うことができる。この結果、走行中にN制御が実行されている際にアクセルONされてN制御復帰動作が実行された場合でも、ドライバビリティーを確保できる。即ち、アクセル操作に応じて意図した駆動力を得られる。
【0056】
また、このときの変速比は、通常変速比に基づいてN制御復帰動作が実行された場合の前進用クラッチ71のトルク容量に基づいて変更制御される。ここで、例えば、トルク容量が変更後の変速比に基づくものである場合、変速比の変更によりトルク容量が変わるため、変速比を変更する基準となるトルク容量が安定せず、変速比の変更制御が不安定になる可能性がある。本実施の形態では、通常変速比に基づいてN制御復帰動作が実行された場合の前進用クラッチ71のトルク容量に基づいて変速比を変更制御するため、適切に変速比の変更制御を行える。
【0057】
また、本実施の形態では、無段変速機構5の変速比を、前進用クラッチ71の係合終了状態、即ち、N制御復帰動作終了した後では通常変速比に基づいて変更制御している。このために変速比設定手段26は、N制御復帰動作中で前進用クラッチ71の係合が終了するまでに通常変速比γとなるように、即ち、変速比補正量Δγが0となるように変速比を設定している。この結果、N制御復帰動作から前進用クラッチ71の係合終了状態となったときの無段変速機構5の変速比の制御を円滑に行える。
【0058】
また、N制御復帰動作中に設定される変速比の通常変速比γに対する補正量Δγを、前進用クラッチ71に入力されるトルクTinとその時の係合状態での前進用クラッチ71のトルク容量Tcとの関係で算出するため、より正確にニュートラル制御復帰動作中の駆動力低下分を補うことができ、ドライバビリティーの向上を図れる。
【0059】
なお、以上説明した本実施の形態においては、本無段変速機の制御装置1を適用し得る無段変速機3として、ベルト式CVT型の自動変速機を一例として説明したが、これに限らず、ハイブリッド駆動装置やトロイダル式無段変速機等、変速比を自在に変更することが可能なものであれば、どのようなものであっても本発明を適用し得る。
【0060】
また、本実施の形態においては、N制御復帰動作中に無段変速機構5の変速比を変更制御することでドライバビリティーを向上させているが、このような制御に合わせてエンジン回転数を引き上げるようにしても良い。このように無段変速機構5の変速比を変更制御とエンジン回転数の制御とを組み合わせることで、N制御復帰動作中のドライバビリティーをより向上させることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 無段変速機の制御装置
2 エンジン
2a クランクシャフト(出力軸)
3 無段変速機
5 無段変速機構
5a 入力軸
6 油圧制御装置
18a、18b 車輪
20 制御部
21 クラッチ係合圧指令手段
22 アクセル開度検出手段
23 トルク検出手段
24 変速制御手段
25 目標入力回転数設定手段
26 変速比設定手段
27 クラッチトルク容量算出手段
28 変速比補正量算出手段
71 クラッチ
Ftgt 目標駆動力
F 通常変速比に基づく駆動力
Nintgt 通常変速比における目標入力回転数
N´intgt 補正後の目標入力回転数
ΔNintgt 目標入力回転数補正量
Tin 入力トルク
Tc クラッチのトルク容量
γ 通常変速比
Δγ 変速比補正量
図1
図2
図3
図4