特許第6098524号(P6098524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098524
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】パラフィン混合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/31 20060101AFI20170313BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20170313BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20170313BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20170313BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALI20170313BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170313BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20170313BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20170313BHJP
   C08L 91/08 20060101ALI20170313BHJP
   C07C 9/16 20060101ALI20170313BHJP
   C07C 2/06 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   A61K8/31
   A61Q5/06
   A61Q17/04
   A61Q1/10
   A61Q3/02
   A61Q19/00
   A61Q1/04
   C08K5/01
   C08L91/08
   C07C9/16
   C07C2/06
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-557440(P2013-557440)
(86)(22)【出願日】2013年1月11日
(86)【国際出願番号】JP2013050375
(87)【国際公開番号】WO2013118533
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2015年11月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-25186(P2012-25186)
(32)【優先日】2012年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】古賀 尚賢
(72)【発明者】
【氏名】西川 徹
【審査官】 駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−503192(JP,A)
【文献】 特開2011−126832(JP,A)
【文献】 特開2003−268178(JP,A)
【文献】 特開2001−323020(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014630(WO,A1)
【文献】 特開平02−015017(JP,A)
【文献】 特開平03−153619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C07C1/00−409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が12〜16であるイソパラフィンを含むパラフィン混合物であって、沸点範囲が185〜215℃であり、2, 2, 4, 6, 6−ペンタメチルヘプタン含有量が10質量%未満であり、ヨウ素価が0.1以下であり、鉄分が10ppm以下であるパラフィン混合物。
【請求項2】
下記の工程1〜4を含む、請求項1に記載のパラフィン混合物の製造方法。
工程1)イソブチレンとノルマルブテンとの重合反応系から未反応成分および炭素数20以上の重合物を除去して、炭素数16以下のポリブテン混合物を得る工程。
工程2)工程1で得られた炭素数16以下のポリブテン混合物を水素化して、炭素数16以下のパラフィン混合物を得る工程。
工程3)工程2で得られた炭素数16以下のパラフィン混合物を吸着剤によって吸着処理して、鉄分を10ppm以下にする工程。
工程4)工程3で吸着処理された炭素数16以下のパラフィン混合物を減圧蒸留して、仕込み量に対し15質量%以上を留去する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚および毛髪に対する化粧料や洗浄用油剤として好適に使用され、揮発性に優れるパラフィン混合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、揮発性油剤として使用されてきた炭化水素としては、炭素数6〜12の炭化水素、例えばn−ヘキサン、イソへキサン、シクロへキサン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、イソドデカンなどが知られている。しかしながら、これら揮発性油剤は引火点が50℃以下と低いため安全性に乏しいという問題がある。また、皮膚および毛髪に対する化粧料や洗浄用油剤にこれら揮発性油剤を用いる場合、皮膚や粘膜に対する刺激性が高いという問題や、揮発性が高いことにより生体表層から水分が蒸散され易いという問題がある。
【0003】
一方、炭素数15以上の炭化水素、例えばn−ペンタデカン、イソヘキサデカンなどでは、分子量が高いことにより、引火点の上昇や皮膚や粘膜に対する刺激性の低下などの性能の改善が期待されるが、揮発性が低下することにより、油分が残留し易くなってしまい、皮膚や毛髪に塗布した際に使用感に劣るという問題がある。
【0004】
そのような背景から、優れた揮発性、高引火点や人体に対する安全性を兼ね備えた揮発性油剤として、例えば特許文献1には、炭素数12〜14の炭化水素と、炭素数13〜16の炭化水素と、不揮発性炭化水素とを組み合わせた非シリコン系組成物が開示されている。また、化粧料の分野において、例えば特許文献2には、シクロメチコンなどの環状シリコーン類が揮発性成分として使用されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−503192号公報
【特許文献2】特開2009−286752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法では、非シリコン系組成物中に2, 2, 4, 6, 6−ペンタメチルヘプタンが含まれているので、臭気が強く、また毛髪塗布時にきしみ感が生じるなど使用感に劣り、化粧料や洗浄用油剤として使用できないという問題がある。また、非シリコン系組成物中に不揮発成分であるオイルが含まれているので、揮発性が低いという問題があり、製造工程において複数のオイルを混合する必要があるので、製造が煩雑であるという問題もある。一方、特許文献2の方法では、揮発性は優れているものの、人体や環境への安全性が懸念されるので、化粧料や洗浄用油剤としての使用が好ましくないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、皮膚および毛髪に対する化粧料や洗浄用油剤として好適に使用され、揮発性に優れるパラフィン混合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、パラフィンの混合物において、パラフィンの炭素数、沸点範囲、2, 2, 4, 6, 6−ペンタメチルヘプタン含有量を特定範囲とすることによって、上記目的を達成できることを見出した。また、本発明のパラフィン混合物を製造するための方法を提供することに成功した。
【0009】
すなわち本発明は、炭素数が12〜16であるイソパラフィンを含むパラフィン混合物であって、沸点範囲が185〜215℃であり、2, 2, 4, 6, 6−ペンタメチルヘプタン含有量が10質量%未満であり、ヨウ素価が0.1以下であり、鉄分が10ppm以下であるパラフィン混合物である。
【0010】
本発明のパラフィン混合物を製造する方法は下記の工程1〜4を含むものである。
工程1)イソブチレンとノルマルブテンとの重合反応系から未反応成分および炭素数20以上の重合物を除去して、炭素数16以下のポリブテン混合物を得る工程。
工程2)工程1で得られた炭素数16以下のポリブテン混合物を水素化して、炭素数16以下のパラフィン混合物を得る工程。
工程3)工程2で得られた炭素数16以下のパラフィン混合物を吸着剤によって吸着処理して、鉄分を10ppm以下にする工程。
工程4)工程3で吸着処理された炭素数16以下のパラフィン混合物を減圧蒸留して、仕込み量に対し15質量%以上を留去する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパラフィン混合物は、優れた揮発性、高引火点や人体に対する安全性を兼ね備えるとともに、皮膚や毛髪に塗布した際の使用感に優れるという効果を奏する。したがって、本発明のパラフィン混合物は、皮膚および毛髪に対する化粧料、洗浄用油剤や医薬品の原料として有用である。例えば、シクロペンタシロキサン等の環状シリコーン類の代用品として有用であり、人体や環境への安全性、経済性にも優れている。
【0012】
また、本発明の製造方法は、本発明のパラフィン混合物を簡便に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明のパラフィン混合物は、炭素数が12〜16であるイソパラフィン(分岐飽和炭化水素)を含むパラフィン(飽和炭化水素)の混合物であり、さらに、炭素数が12〜16の直鎖飽和炭化水素を含むことがある。なお、本発明のパラフィン混合物には、本発明の目的に反しない程度に、炭素数が12〜16の飽和炭化水素以外の炭化水素、例えば環状飽和炭化水素や不飽和炭化水素などが含まれていてもよい。
【0014】
本発明のパラフィン混合物は、沸点範囲が185〜215℃であり、好ましくは186〜210℃である。パラフィン混合物の沸点が185℃未満では、引火点が低くなるので、安全性の面で好ましくない。沸点が215℃を超えると、揮発性が低下し、油分が残留し易くなるので、皮膚や毛髪に塗布した際の使用感に劣る。沸点はJIS K2254に準じた蒸留試験によって測定することができる。なお、本発明のパラフィン混合物は、引火点がJIS K2265に準じた密閉試験で61〜70℃、好ましくは62〜67℃の範囲であることが安全性の面で好ましい。
【0015】
本発明のパラフィン混合物は、2, 2, 4, 6, 6−ペンタメチルヘプタン(以下、イソドデカンとも言う。)の含有量が10質量%未満であり、好ましくは8質量%未満であり、さらに好ましくは5質量%未満である。混合物中のイソドデカン含有量が10質量%以上になると、沸点が低下し安全性の面で好ましくなく、また臭気が強くなり、皮膚および毛髪に対する使用感が低下するので、化粧品等の原料としての使用が制限される。
【0016】
本発明のパラフィン混合物は、例えば下記の工程1〜4を含む工程を経て製造することができる。
工程1)イソブチレンとノルマルブテンとの重合反応系から未反応成分および炭素数20以上の重合物を除去して、炭素数16以下のポリブテン混合物を得る工程。
工程2)工程1で得られた炭素数16以下のポリブテン混合物を水素化して、炭素数16以下のパラフィン混合物を得る工程。
工程3)工程2で得られた炭素数16以下のパラフィン混合物を吸着剤によって吸着処理して、鉄分を10ppm以下にする工程。
工程4)工程3で吸着処理された炭素数16以下のパラフィン混合物を減圧蒸留して、仕込み量に対し15質量%以上を留去する工程。
【0017】
上記工程1〜4を順次説明する。
まず、工程1において用いられるイソブチレンとノルマルブテンとの重合反応系は、ナフサのクラッキングにより得られる留分の中のC4留分であるイソブチレンとノルマルブテンの混合ガスを公知の方法、例えば触媒を用いたカチオン重合法によって得ることができる。したがって、イソブチレンとノルマルブテンとの重合反応系には、ポリブテン混合物(イソブチレンとノルマルブテンとの共重合物、イソブチレン(共)重合物、ノルマルブテン重合物からなる混合物であり、炭素数8以上の不飽和炭化水素の混合物)、未反応成分(前記混合ガスに含まれるイソブチレンやノルマルブテンなど)、触媒などが含まれる。
【0018】
ノルマルブテンには、1−ブテン、cis−2−ブテンおよびtrans−2−ブテンの異性体が存在する。イソブチレンとノルマルブテンの共重合体を得るための混合ガス組成は、イソブチレンが15〜80質量%、1−ブテンが10〜40質量%およびcis−2−ブテンおよびtrans−2−ブテンが合計で10〜60質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、イソブチレンが15〜70質量%、1−ブテンが15〜40質量%およびcis−2−ブテンおよびtrans−2−ブテンが合計で15〜60質量%であり、特に好ましくは、イソブチレンが20〜50質量%、1−ブテンが18〜25質量%およびcis−2−ブテンおよびtrans−2−ブテンが合計で18〜40質量%である。なお、当該混合ガスには、共重合反応に寄与しない成分、例えばイソブタンやブタンが含まれていても良い。
【0019】
カチオン重合法で使用される触媒としては、例えば、塩化アルミニウム、酸性イオン交換樹脂、硫酸、弗化ホウ素およびその錯体が挙げられる。また、前記触媒に塩基を加えることにより重合反応をコントロールすることも可能である。重合反応は、通常、40〜120℃で行われる。
【0020】
イソブチレンとノルマルブテンとの重合反応系には、上述のとおり、イソブチレンとノルマルブテンとの重合反応物であるポリブテン混合物や未反応成分などが含まれている。工程1においては、上記重合反応系から未反応成分および炭素数20以上の重合物を除去して、炭素数16以下のポリブテンの混合物を得る。除去方法としては、蒸留が好ましい。蒸留の方法としては、例えば、単蒸留法、連続蒸留法、水蒸気蒸留法および薄膜蒸留法が挙げられ、これらの方法を単独でまたは組み合わせて行なうことができる。蒸留に使用する装置は、その材質、形状および型式等、特に限定されず、例えば、ラシヒリング等の充填物を充填した蒸留塔や皿状の棚を有する棚段蒸留塔などが挙げられる。また蒸留塔の分離能を示す理論段数は10段以上が望ましい。その他、蒸留塔へのフィード量、還流比および取出し量の条件については、蒸留する装置により、適宣選択することが可能である。
【0021】
工程2においては、工程1で得られた炭素数16以下のポリブテン混合物を水素化して、ポリブテン水素化物、すなわちイソパラフィンを含む、炭素数16以下のパラフィンの混合物を得る。工程1で得られた炭素数16以下のポリブテンは、重合末端に二重結合を残しているので、長期保存すると、着色等の劣化を引き起こす。それを解決するため、工程2にて水素化反応させて水素添加物とする。水素化反応は、例えば、180〜230℃の温度でニッケルやパラジウム等を水素化触媒として用い、水素を2〜10MPaの圧力で接触させて行なうことができる。本発明のパラフィン混合物を得るための水素化の程度としては、ヨウ素価で10以下が好ましい。より好ましい水素化の程度はヨウ素価で1以下、さらに好ましい水素化の程度はヨウ素価で0.1以下である。ヨウ素価が10を超えると、熱および光による酸化が進行し易くなり、臭気発生の原因となり易い。
【0022】
工程2で得られた炭素数16以下のパラフィン混合物には、水素化反応で使用する触媒中に含まれる微量金属化合物や、触媒の酸性度が高いことによる反応装置の腐食で発生した鉄分等の微量金属が混入することがある。これらの微量金属は、パラフィン混合物の臭気や保存安定性に悪影響を与える。微量金属の中でも特に鉄分の混入は、本発明のパラフィン混合物を得るための後工程の蒸留操作での反応で、臭気をよりいっそう悪化させ、不快臭を与える原因となる。したがって、着色や臭気を抑制する目的で、工程3において、炭素数16以下のパラフィン混合物を吸着剤によって吸着処理する。
【0023】
吸着剤としては、無機および有機系の吸着剤が用いられ、例えば、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、珪藻土、ゼオライト、ベントナイト、酸性白土、活性白土,バーミキュライト、シリカゲル、モレキュラーシーブ、および活性炭が用いられ、特に活性白土、クレーが有効である。これら吸着剤は1種または2種以上を用いることができる。吸着剤は、単に、水素化反応触媒由来の微量金属および鉄分を物理的に除去するだけでなく、水素化における高温により生じる微量分解および副生した低分子酸化物の除去にも有効であり、蒸留後の製品の経時安定性維持にさらに有効である。使用する吸着剤の粒経は特に限定されないが、一種の吸着剤を使用する場合には、粒経の異なる2種以上の吸着剤を組み合わせるのが好ましい。吸着剤の組合せは、吸着剤を充填するカラム内の圧力の分散と効率的な処理に応じて適宣選択される。使用する吸着剤が2種以上の場合、粒径が相対的に最も小さいものをカラム容積に対し50〜80容量%充填することが製造の面でより効果的である。
【0024】
工程3で吸着処理されたパラフィン混合物は、混入する鉄分が10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下である。混入する鉄分が10ppmを越えると、その後の蒸留工程における臭気が強くなるという問題がある。
【0025】
工程3で吸着処理されたパラフィン混合物は、低引火点でかつ不快な臭いを有するイソドデカンを含有している。そのため、工程4においては、工程3で吸着処理された炭素数16以下のパラフィン混合物を減圧蒸留して、この減圧蒸留を行なう前の仕込み量に対し15質量%以上、好ましくは25質量%以上を留去する。なお、パラフィン混合物の引火点の低下を抑える観点から、留去率は、減圧蒸留を行なう前の仕込み量に対し40質量%以下が好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
減圧蒸留における蒸留に際しては、前述の工程1に記載した蒸留方法、蒸留装置を採用することができる。蒸留条件は、容器内の液温度が50〜180℃、好ましくは100〜180℃であり、容器内圧が0.5〜80kPa、好ましくは5〜80kPaである。本工程の蒸留工程により、パラフィン混合物中に含まれるイソドデカンやその他の低沸点物(炭素数8の飽和炭化水素など)を留去することができる。
以上の工程1〜4を含む工程を経て、炭素数が12〜16であるイソパラフィンを含む本発明のパラフィン混合物を製造することができる。
【0027】
本発明のパラフィン混合物は、基礎化粧品、メイクアップ化粧品、毛髪用化粧品等の固形および液状の化粧料基材、また、香水をはじめ様々な香粧品の揮発性油剤として、さらに洗浄剤および無臭な多目的溶剤として使用することができる。また、本発明のパラフィン混合物を用いた組成物は化粧品組成物として有用である。さらに、環状シリコーンオイルやイソドデカンに代表される揮発性溶剤の代替として有用であり、化粧品、ヘアケア製品、スキンヘア製品、日焼け止めクリームなどのサンケア製品、制汗剤、デオドラント、日焼けローション、医薬クリームなどの製剤中に、本発明のパラフィン混合物を配合することで、揮発性、粘度および保存安定性の他、感触や臭気に代表される官能においても優れた効果が得られる。
【0028】
本発明のパラフィン混合物を含んでなる化粧品組成物は、その化粧品製剤の目的および使用法によって、パラフィン混合物の含有量を適宜選択することができる。特に、本発明のパラフィン混合物が有する効果を顕著に表わせる場合、例えば揮発性を向上させたり、他の化粧品基材の希釈性や相溶性を改善させたりする場合、その使用目的によっても配合量は異なるが、本発明のパラフィン混合物を化粧品組成物中に5〜90質量%、好ましくは10〜70質量%配合させる。
【0029】
本発明のパラフィン混合物を含んでなる化粧品組成物や医薬品組成物は、助剤および添加剤、例えば、界面活性剤、更なる油成分、保湿剤、真珠光沢ワックス、粘稠剤、増粘剤、過脂肪剤、安定剤、水溶性および油溶性ポリマー、脂肪、ワックス、レシチン、リン脂質、生物起源活性物質、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、有機および無機顔料、酸化防止剤、消臭剤、美白剤、制汗剤、育毛剤、鎮痛消炎剤、血行促進剤、フケ防止(フケ取り)剤、フィルム形成剤、膨潤剤、防虫剤、チロシナーゼ阻害剤(色素脱失剤)、ヒドロトロープ、可溶化剤、防腐剤、香油、着色剤、pH調整剤、キレート剤などを含んでいても良い。
【0030】
本発明のパラフィン混合物を含んでなる化粧品組成物や医薬品組成物は、様々な剤形に適用することができ、例えば、乳液類、クリーム類、パック類、マッサージ類、化粧下地、紫外線防御剤などに適用することができる。例えば毛髪化粧料は、液状、クリーム状、エマルション状、ゲル状、ムース状等の使用形態で提供することができ、エアゾールヘアスプレー、ポンプ式ヘアスプレー、フォーム状ヘアスプレー、ヘアミストセットローション、ヘアスタイリング、ヘアオイル等のセット商品、並びにシャンプー、リンス、パーマネント液、ヘアトリートメント等のコンデショニング機能付与商品等として用いるのに有用である。
このような化粧品組成物や医薬品組成物は、乳化や混合により製造することができ、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、ミル等の攪拌機を用いて、あるいは高圧や超音波等の他の原理を応用した攪拌機を用いて乳化や混合を行なうことができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。各例における各種物性値については、下記に示す方法によって測定した。
【0032】
<ヨウ素価>
JIS K0070のヨウ素価試験方法に準じる。
<沸点範囲>
JIS K2254の蒸留試験方法に準じる。
<引火点>
JIS K2265の密閉式引火点測定法に準じる。
【0033】
<数平均分子量>
島津製GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定装置を用いて数平均分子量(ポリスチレン換算)を測定した。
【0034】
<イソドデカン含有量分析方法>
標品としてイソドデカンを用いて島津製GC−14Bガスクロマトグラフィー分析により溶出位置を確認し、その溶出位置に相当する化合物の含有量を測定した。
・ガスクロマトグラフィー分析条件
カラム:無極性キャピラリカラム、0.55mm、30m、5μm
温度:80℃〜250℃、10℃/minにて昇温分析
【0035】
<鉄分含量分析>
所定量の試料を白金皿中で緩やかに燃焼させた後に、電気炉で完全に燃焼した灰分を濃塩酸で溶解し、測定試料とした。次にICP発光分析装置を使用し、所定操作により分析した。なお、分析は工程3の終了後に行なったが、工程3を行なわない比較例3については工程2の終了後に分析を行なった。
【0036】
<臭気評価試験>
・官能試験(表1中に臭気1と表記)
官能試験は、臭気センサーでは評価が困難な臭いの質(不快感および刺激感)を評価するために行なった。
・臭気総量(表1中に臭気2と表記)
新コスモス電機(株)製の臭気センサーを用い、測定条件下で臭気成分(揮発成分)を吸入し、相対的な臭いの強弱をガス吸着により抵抗値変化として測定した。
【0037】
具体的には、25gの測定試料を2本の50ccガラススクリュー瓶(内ブタをつけてシールテープで密封)に入れ初期値をブランクとし、1本のガラススクリュー瓶は40℃の恒温槽中に1か月間静置し、もう1本のガラススクリュー瓶は屋外暴露1週間静置し、その後、官能試験による臭気テスト(臭気1)および臭気センサー(新コスモス電気(株)製の臭気センサー)による臭気テスト(臭気2)を行なって、初期値からの変化を調べた。
【0038】
〔実施例1〕
下記の工程1〜4を経て、パラフィン混合物を製造した。
イソブチレン30質量%、1−ブテン18質量%および2−ブテン25質量%を含む炭素数4のオレフィン混合ガスと、残り27質量%のブタンガスとからなる混合ガス360gをオートクレーブに仕込み、塩化アルミニウム触媒の存在下に重合反応を行なって、イソブチレンとノルマルブテンとの重合反応系を得た。
【0039】
(工程1)
反応終了後のオートクレーブ中の未反応ガスを窒素ガス置換により除去した後に、重合反応混合物であるポリブテン混合物を抜き出した。そして触媒を苛性アルカリ水溶液処理および水洗工程によって除去した。次に、水洗後のポリブテン混合物を1L容の四つ口フラスコに仕込み、オイルバスによって加熱し、内温40℃で窒素バブリングによりポリブテン混合物中に溶解している未反応ガス成分を除去した後、内温140℃、減圧度5kPaで単蒸留した。これにより、炭素数20以上の重合物を蒸留残渣としてフラスコ中に残して、炭素数16以下のポリブテン混合物が得られた。このポリブテン混合物は、数平均分子量が約185であった。
【0040】
(工程2)
このポリブテン混合物をオートクレーブ中で、水素化触媒(0.5%Pd担持アルミナ触媒)10質量%により水素圧3MPa、220℃で水素添加して、160gのパラフィン混合物を得た。パラフィン混合物は、ヨウ素価が0.1であり、数平均分子量が約180であった。
【0041】
(工程3)
外径4cm、長さ30cmのガラス筒に、アタパルガスクレーと活性白土を50:50の体積比で、アタパルガスクレーを先に充填し、ついで活性白土を充填して吸着カラムとした。工程2で得られたパラフィン混合物を吸着カラム下部より毎分1mlの流速、25℃で連続的に送液して、触媒由来および装置材質由来の微量金属化合物の吸着処理を行なった。吸着処理後のパラフィン混合物の鉄分を表1に示す。
【0042】
(工程4)
15段のオールダーショー棚段精留塔のボトム容器に、工程3で得られた吸着処理後のパラフィン混合物を150g仕込み、オイルバスにつけ容器内の液温度が110℃になるまで乾燥窒素ガスによりバブリングを行い空気との接触を避けて加熱した。容器内の液温度が110℃に達したら、減圧下(10kPa)で還流比を10、蒸留の流出温度を95℃として減圧蒸留を8時間行い、仕込み全量の25質量%を留去した。その後、再び乾燥窒素ガスを減圧下バブリングしてボトム容器内の液状物を冷却して、112.5gのパラフィン混合物を得た。得られたパラフィン混合物の各種物性値の結果を表1に示した。
【0043】
〔実施例2〕
実施例1記載の工程3において、吸着剤の種類をアタパルガスクレーとシリカゲル(体積割合が70:30)に変更し、工程4において、仕込み量の20質量%を留去したこと以外はすべて実施例1と同様の操作をした。なお、アタパルガスクレーを先に充填し、ついでシリカゲルを充填して吸着カラムとした。得られたパラフィン混合物の各種物性値の結果を表1に示した。
【0044】
〔実施例3〕
実施例1記載の工程3において、吸着剤の種類を粒子径が異なる2種のアタパルガスクレーに変更したこと以外はすべて実施例1と同様の操作をした。異なる粒子径のアタパルガスクレーのうち一方は粒子径840μmから1000μmのものであり、他方は粒子径200μmから480μmのものである。まず、粒子径840μmから1000μmのものを吸着カラムの容積割合で20%充填して仕込み、次に残り80%の割合を粒子径200μm〜480μmのもので充填して吸着カラムとした。得られたパラフィン混合物の各種物性値の結果を表1に示した。
【0045】
〔比較例1〕
実施例1記載の工程4において、蒸留の流出温度を70℃までとし、仕込み量の2質量%を留去したこと以外はすべて実施例1と同様の操作をした。その結果、イソドデカンよりも低沸点の化合物を有するパラフィン混合物が得られた。得られたパラフィン混合物のイソドデカンの含有率は15質量%であった。強い不快臭を有し、引火点も低い結果となった。得られたパラフィン混合物の各種物性値の結果を表1に示した。
【0046】
〔比較例2〕
実施例3記載の工程4において、蒸留の流出温度を85℃までとし、仕込み量の10質量%を留去したこと以外はすべて実施例3と同様の操作をした。得られたパラフィン混合物のイソドデカンの含有率は10質量%であった。強い特異臭を有し、引火点も低い結果となった。得られたパラフィン混合物の各種物性値の結果を表1に示した。
【0047】
〔実施例4〜8〕
実施例3記載の工程4において、蒸留条件を表1に示す条件に変更したこと以外はすべて実施例3と同様の操作をした。得られたパラフィン混合物の各種物性値の結果を表1に示した。
【0048】
〔比較例3〕
実施例1記載の工程3において、吸着剤による金属化合物の吸着処理を行わなかったことと、工程4において、蒸留の流出温度を90℃までとし、仕込み量の14質量%を留去したこと以外はすべて実施例1と同様の操作をした。その結果、強い特異臭を有し、引火点も低いパラフィン混合物が得られた。得られたパラフィン混合物の各種物性値の結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
(注1)製造工程の有無、工程あり:○、工程なし:×
(注2)含有量:イソドデカンの混合物全量に対する割合(質量%)
(注3)乾燥性:10cmの5Aろ紙(アドバンテック(株)製)に各試料0.1gを塗布して乾燥速度を測定した。ブランクとして環状シリコーンのデカメチルペンタシロキサンの半分の時間で乾燥した場合に「○」と表記し、それ以外は「×」と表記した。
(注4)臭気1:官能試験により不快及び刺激臭の有無を判定、有り:×、無し:○
(注5)臭気2:臭気センサーによる臭気総量(相対比較値)
【0051】
実施例1で得られたパラフィン混合物の沸点、揮発性、毛髪に塗布した際の使用感、皮膚表面に塗布した際の使用感、皮膚表面の油残り感を、従来の高揮発性のものを含む各種化粧用オイルと比較して、表2にまとめた。
【0052】
なお、表2中の揮発性の順序は、直径110mmのろ紙に試料をそれぞれ0.1g展延させ、2時間で乾燥する質量を測定した。完全に乾燥し質量が0gになる速さが早い順から順位を付けた。
【0053】
毛髪および皮膚に対する塗布使用感は10人のパネラーにより官能評価した。毛髪塗布使用感では、健康な中国人の毛髪の毛束1gを使用し、各試料の適量をとり、それぞれ手で塗布した。皮膚塗布使用感では、手の甲に0.1gスポイトで各試料を落とし、手のひらで広げ延ばした。
【0054】
【表2】
【0055】
(注1)丸善石油化学(株)製「マルカゾールR」
[炭素数12、引火点48℃、イソドデカン含量95質量%以上]
(注2)東レダウコーニング(株)製「SH-245」[引火点77℃]
(注3)日油(株)製、水添ポリブテン:パールリーム4
[炭素数16、沸点範囲220〜252. 5℃、引火点88℃、イソドデカン含量0質量%]
【0056】
表2に示すとおり、実施例1に係る本発明のパラフィン混合物は、環状シリコーンよりも揮発性に優れるだけでなく、オイル単独の使用感において優れ、そのほかの揮発性に優れる各種化粧用オイルと比較しても、化粧用途に使用された場合、毛髪、皮膚に塗布した際に大変良好な感触を与えるものであることが確認された。
【0057】
〔毛髪および皮膚化粧料〕
本発明のパラフィン混合物を用いて、以下に示す毛髪および皮膚化粧料を調製し、それぞれの調製品に対する評価を行なった。評価は10人のパネラーによりその使用感について行なった。すべての毛髪および皮膚化粧料において、環状シリコーンの代替として良好であり、またイソドデカンを用いた場合よりも高い評価が得られた。
【0058】
(ヘアオイル)
表3に示されるヘアオイルを、イソドデカンを用いたものと比較して、評価を行なった。その結果、本発明のパラフィン混合物を使用したヘアオイルは、イソドデカンを使用したものよりも、毛髪のまとまりがあり、使用感において優れていた。
【0059】
【表3】
【0060】
(注1)丸善石油化学(株)製「マルカゾールR」
[炭素数12、引火点48℃、イソドデカン含量95質量%以上]
【0061】
(サンオイル)
表4に示されるサンオイルを、環状シリコ−ンを用いたものと比較して、評価を行なった。その結果、本発明のパラフィン混合物を使用したサンオイルは、環状シリコ−ンを使用したものよりも、延びと使用感において優れていた。
【0062】
【表4】
【0063】
(注1)東レ・ダウコーニング(株)製「SH−245」
(注2)東レ・ダウコーニング(株)製「MQレジン」
【0064】
(日焼け止め化粧料)
表5に示される日焼け止め化粧料を、イソドデカンを用いたものと比較して、評価を行なった。その結果、本発明のパラフィン混合物を使用したサンオイルは、イソドデカンを使用したものよりも、延びと使用感において優れていた。
【0065】
【表5】
【0066】
(注1)丸善石油化学(株)製「マルカゾールR」
(注2)日油(株)製「パールリームEX」
(注3)東レ・ダウコーニング(株)製「MQレジン」
(注4)堺化学工業(株)製「SPP−M」
(注5)テイカ(株)製「MZ−500」
【0067】
(ウォータープルーフマスカラ)
表6に示されるウォータープルーフマスカラを、環状シリコ−ンを用いたものと比較して、評価を行なった。その結果、本発明のパラフィン混合物を使用したウォータープルーフマスカラは、環状シリコーンを使用したものよりも、乾きが早く使用感において優れていた。
【0068】
【表6】
【0069】
(注1)東レ・ダウコーニング(株)製「SH−245」
(注2)アクゾノーベル(株)製「BALANCE CR」
【0070】
(口紅)
表7に示される口紅を、イソドデカンを用いたものと比較して、評価を行なった。その結果、本発明のパラフィン混合物を使用した口紅は、イソドデカンを使用したものよりも、皮膚馴染みと装用感において優れていた。
【0071】
【表7】
【0072】
(注1)丸善石油化学(株)製「マルカゾールR」
(注2)日油(株)製「パールリームEX」
(注3)東レ・ダウコーニング(株)製「MQレジン」
(注4)堺化学工業(株)製「SPP−M」
【0073】
(薬用リップクリーム)
表8に示される薬用リップクリームを、イソドデカンを用いたものと比較して、評価を行なった。その結果、本発明のパラフィン混合物を使用した薬用リップクリームは、イソドデカンを使用したものよりも、皮膚馴染みと装用感において優れていた。
【0074】
【表8】
【0075】
(注1)東レ・ダウコーニング(株)製「SH−245」
【0076】
(ネイルトリートメント)
表9に示されるネイルケア用のネイルトリートメントを、イソドデカンを用いたものと比較して、評価を行なった。その結果、本発明のパラフィン混合物を使用したネイルトリートメントは、イソドデカンを使用したものよりも、装用感において優れていた。
【0077】
【表9】
【0078】
(注1)丸善石油化学(株)製「マルカゾールR」
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のパラフィン混合物は、化粧品、洗浄用油剤や医薬品の原料として有用である。特に、皮膚および毛髪に対する外用剤の原料として有用であり、例えば、化粧品、香水、ヘアケア製品、スキンヘア製品、ネイルケア製品、日焼け止めクリームなどのサンケア製品、制汗剤、デオドラント、日焼けローション、医薬クリームなどの原料として有用である。また、本発明のパラフィン混合物は、化粧品や医薬品の産業のみならず、揮発性油剤を使用する他の産業においても利用することができる。