(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動軸(40)が挿通するハウジング(23)と、該ハウジング(23)に対して駆動軸(40)の軸心と直角の第1方向へ第1キー機構(51)でスライド可能に構成されるオルダムリング(50)と、上記ハウジング(23)に固定される固定スクロール(21)と、固定スクロール(21)に噛み合うとともにオルダムリング(50)に対して上記駆動軸(40)の軸心と直角の第2方向へ第2キー機構(52)でスライド可能に構成される可動スクロール(22)とを備え、
上記第1キー機構(51)は、上記オルダムリング(50)に形成された第1キー(54)と、上記ハウジング(23)に形成された第1キー溝(61)により構成されたスクロール圧縮機であって、
上記第1キー(54)は、オルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成され、
上記ハウジング(23)は、上記固定スクロール(21)が固定されるフランジ部(23a)に、上記可動スクロール(22)が対向する可動スクロール対向面(70)を有する所定厚さの対向部(71)と、該可動スクロール対向面(70)の周囲に上記リング部(53)が動作可能に収納される環状開口部(72)とを有し、
上記第1キー溝(61)は、上記対向部(71)における上記可動スクロール対向面(70)の裏面側に、上記環状開口部(72)から径方向内方へ向かって形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【背景技術】
【0002】
従来、スクロール圧縮機では、ハウジングとオルダムリングの平面図である
図17、そのXVIII−XVIII線断面図である
図18、オルダムリングの平面図である
図19、そのXX−XX線断面図である
図20に示すように、一般に、可動スクロール(図示せず)の自転を規制しつつ公転を許容するために、オルダムリング(100)が用いられている。オルダムリング(100)は、一般にリング部(101)とキー(102,103)とが一体に形成されている。オルダムリング(100)には、リング部(101)のハウジング(110)側の面に一対のキー(102)が形成され、リング部(101)の可動スクロール側の面にもう一対のキー(103)が形成されている。上記の一対のキー(102)はリング部(101)のハウジング(110)側の面から面直角方向へ突出し、もう一対のキー(103)はリング部(101)の可動スクロール側の面から面直角方向へ突出している。ハウジング(110)には、リング部(101)を可動に収納する環状開口部(111)と、上記キー(102)と係合するキー溝(112)が形成されている。
【0003】
また、上記の構成を変更したものとして、特許文献1には、
図21〜
図24に示すように、各キー(102,103)をリング部(101)の径方向外方に突出するように配置した構成が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、
図25〜
図28に示すように、オルダムリング100の二対のキー(102,103)のうちの一対のキー(102)を、リング部(101)から径方向内側へ突出するように形成し、面直角方向へは突出させないようにする構造が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、
図17〜
図20に示す一般的なオルダムリング(100)の構造では、キー(102)とキー溝(112)との摺動面積が小さくてキー摺動面の面圧が大きくなるために、オルダムリング(100)のキー(102)の強度が不足しがちになる問題があった。
【0007】
また、特許文献1の構成では、
図21に示すように、ハウジング(110)の外周部分に切り欠き(115)を形成しなければならない場合があり、ハウジング(110)の強度が弱くなる問題があった。また、キー(102,103)をリング部(101)の径方向外方に形成しているので、キー(102,103)に作用するモーメントが大きくなり、オルダムリング(100)の強度が低下する問題もあった。
【0008】
さらに、特許文献2の構成では、
図25に示すように、ハウジング(110)のキー溝(112)を可動スクロール(図示せず)がハウジング(110)の表面と対向する可動スクロール対向面(120)に形成することになるので、可動スクロール対向面(120)の有効面積が小さくなり、その面圧が大きくなってしまう。また、スクロール圧縮機において可動スクロール対向面(120)にシールリングを設ける構成を採用する場合、可動スクロール対向面(120)のオルダムリング(100)よりも内径側にキー溝(112)を形成しようとしても、特に可動スクロール対向面(120)の面積が小さいとシールリングが邪魔になってキー溝(112)を形成できなくなるおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハウジングやオルダムリングの強度の低下を抑えるとともに、可動スクロール対向面が小さくなるのも抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、駆動軸(40)が挿通するハウジング(23)と、該ハウジング(23)に対して駆動軸(40)の軸心と直角の第1方向へ第1キー機構(51)でスライド可能に構成されるオルダムリング(50)と、上記ハウジング(23)に固定される固定スクロール(21)と、固定スクロール(21)に噛み合うとともにオルダムリング(50)に対して上記駆動軸(40)の軸心と直角の第2方向へ第2キー機構(52)でスライド可能に構成される可動スクロール(22)とを備え、上記第1キー機構(51)が、上記オルダムリング(50)に形成された第1キー(54)と、上記ハウジング(23)に形成された第1キー溝(61)により構成されたスクロール圧縮機を前提としている。
【0011】
そして、このスクロール圧縮機は、上記第1キー(54)が、オルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面(可動スクロール(22)と反対側の面))に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成され、上記ハウジング(23)が、上記固定スクロール(21)が固定されるフランジ部(23a)に、上記可動スクロール(22)が対向する可動スクロール対向面(70)を有する所定厚さの対向部(71)と、該可動スクロール対向面(70)の周囲に上記リング部(53)が動作可能に収納される環状開口部(72)とを有し、上記第1キー溝(61)が、上記対向部(71)における上記可動スクロール対向面(70)の裏面側に、上記環状開口部(72)から径方向内方へ向かって形成されていることを特徴としている。この構成において、可動スクロール対向面(70)は、上記可動スクロール(22)と接触して対向する(摺動する)構成でもよいし、上記可動スクロール(22)と離れて対向する(摺動しない)構成でもよい。
【0012】
この第1の発明では、対向部(71)の裏面側に形成された第1キー溝(61)とオルダムリング(50)の第1キー(54)とが係合し、オルダムリング(50)の動作が行われる。この構成において、第1キー溝(61)はオルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成されているので、キーとキー溝との摺動面の面積を十分に大きな面積にすることができ、キー摺動面の面圧を小さくできる。また、第1キー(54)がオルダムリング(50)の径方向内方へ突出しているので、ハウジング(23)の外周に切り欠きを形成する必要がなく、第1キー(54)のモーメントも抑えられる。さらに、第1キー溝(61)を可動スクロール対向面(70)の裏側(対向部(71)の裏面側)に形成しているので、第1キー溝(61)がシールリングの邪魔になることもない。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、上記第1キー(54)はオルダムリング(50)上の180°相対する位置に一対が形成され、一対の上記第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きいことを特徴としている。
【0014】
この第2の発明では、上記の寸法関係を満たすようにしたことにより、オルダムリング(50)を
図10,
図11に示すようにハウジング(23)に対して斜め方向から装着する構成にすることが可能になる。
【0015】
第3の発明は、第1または第2の発明において、上記対向部(71)が、外径側から内径側に向かって厚さが厚くなるように、裏面が傾斜面(71a)で形成されていることを特徴としている。
【0016】
この第3の発明では、対向部(71)の裏面が傾斜面(71a)で形成されているので、ハウジング(23)に対するオルダムリング(50)の装着の際に第1キー溝(61)に第1キー(54)を入れる操作が容易になる。
【0017】
第4の発明は、第1から第3の発明の何れか1つにおいて、上記第1キー溝(61)が、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の裏面に開放された溝であることを特徴としている。
【0018】
この第4の発明では、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の裏面に開放された第1キー溝(61)に第1キー(54)が係合し、オルダムリング(50)の動作が行われる。
【0019】
第5の発明は、第1から第3の発明の何れか1つにおいて、上記第1キー溝(61)が、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の外周面に開放された溝であることを特徴としている。
【0020】
この第5の発明では、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の外周面に開放された第1キー溝(61)に第1キー(54)が係合し、オルダムリング(50)の動作が行われる。
【0021】
第6の発明は、第1から第3の発明の何れか1つにおいて、上記対向部(71)が、上記ハウジング(23)の本体に固定された、該ハウジング(23)とは別の部材で構成されていることを特徴としている。
【0022】
この第6の発明では、上記ハウジング(23)の本体に別部材の対向部(71)を固定することにより第1キー溝(61)が形成され、この第1キー溝(61)に第1キー(54)が係合し、オルダムリング(50)の動作が行われる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第1キー溝(61)がオルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成されているので、第1キー(54)と第1キー溝(61)との摺動面の面積を十分に大きな面積にすることができ、キー摺動面の面圧を小さくできるから、オルダムリング(50)の第1キー(54)の強度が不足するのを防止できる。また、また、第1キー(54)がオルダムリング(50)の径方向内方へ突出しているので、ハウジング(23)の外周に切り欠きを形成する必要がなく、第1キー(54)のモーメントも抑えられるので、オルダムリング(50)の強度低下も抑えられる。さらに、第1キー溝(61)を可動スクロール対向面(70)の裏側(対向部(71)の裏面側)に形成しているので、第1キー溝(61)がシールリングの邪魔になることもなく、第1キー(54)と第1キー溝(61)が係合する構成においてシールリングを用いる構造を実現できる。
【0024】
上記第2の発明によれば、上記一対の第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きくなるようにしているので、オルダムリング(50)を
図10,
図11に示すようにハウジング(23)に対して斜め方向から装着することが可能になる。したがって、オルダムリング(50)を大型化しなくてよいので、機構を小型化することが可能になる。
【0025】
上記第3の発明によれば、対向部(71)の裏面が傾斜面(71a)で形成されているので、ハウジング(23)に対するオルダムリング(50)の装着の際に第1キー溝(61)に第1キー(54)を入れる操作が容易になり、装着の作業性を高められる。
【0026】
上記第4の発明によれば、上記第1キー溝(61)を、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の裏面に開放された溝にしているので、第1キー溝(61)を容易に形成することができる。
【0027】
上記第5の発明によれば、上記第1キー溝(61)を、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の外周面に開放された溝にしているので、第1キー溝(61)を容易に形成することができる。
【0028】
上記第6の発明によれば、上記ハウジング(23)の本体に別部材の対向部(71)を固定することにより第1キー溝(61)が形成されるので、第1キー溝(61)を容易に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
本実施形態のスクロール圧縮機は、例えば、蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う空気調和装置の冷媒回路に設けられ、蒸発器から吸入した低圧の冷媒を圧縮して凝縮器へ吐出するものである。
【0033】
図1に示すように、上記スクロール圧縮機(1)は、いわゆる全密閉型に構成されている。このスクロール圧縮機(1)は、縦長円筒形の密閉容器状に形成されたケーシング(10)を備えている。ケーシング(10)は、縦長円筒部材である胴部(11)と、胴部(11)の上端部に固定された上部鏡板(12)と、胴部(11)の下端部に固定された下部鏡板(13)とから構成されている。
【0034】
このケーシング(10)内には、冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、該圧縮機構(20)を駆動する電動機(45)とが収納されている。電動機(45)は、圧縮機構(20)の下方に配置され、回転軸である駆動軸(40)を介して圧縮機構(20)に連結されている。この電動機(45)には、インバータ制御により回転速度を可変に調整することが可能なブラシレスDCモータが用いられている。
【0035】
上記ケーシング(10)の頂部である上部鏡板(12)には、吐出管(15)が貫通して取り付けられている。この吐出管(15)は、終端(図の下端)が圧縮機構(20)に接続されている。上記ケーシング(10)の胴部(11)には、吸入管(14)が貫通して取り付けられている。この吸入管(14)は、終端(図の右端)がケーシング(10)内の圧縮機構(20)と電動機(45)の間に開口している。
【0036】
上記駆動軸(40)は、ケーシング(10)の上下方向の中心線上に配置されている。この駆動軸(40)は、主軸部(41)と偏心部(42)とを備えたクランク軸である。上記偏心部(42)は、主軸部(41)よりも小径に形成され、主軸部(41)の上端面に形成されている。そして、この偏心部(42)は、主軸部(41)の軸心に対して所定寸法だけ偏心しており、偏心ピンを構成している。
【0037】
上記ケーシング(10)の胴部(11)内には、その下端付近に、下部軸受部材(48)が固定されている。この下部軸受部材(48)は、滑り軸受(48a)を介して駆動軸(40)の主軸部(41)の下端部を回転自在に支持している。
【0038】
なお、上記駆動軸(40)の内部には、上下方向へ延びる給油通路(44)が形成されている。また、主軸部(41)の下端部には、給油ポンプ(43)が設けられている。この給油ポンプ(43)によってケーシング(10)の底部から冷凍機油が吸い上げられ、その冷凍機油は、駆動軸(40)の給油通路(44)を通って圧縮機構(20)の摺動部や駆動軸(40)の軸受部へ供給される。
【0039】
上記電動機(45)は、ステータ(46)とロータ(47)とによって構成されている。ステータ(46)は、ケーシング(10)の胴部(11)に固定されている。ロータ(47)は、駆動軸(40)の主軸部(41)に連結され、駆動軸(40)を回転駆動する。
【0040】
上記圧縮機構(20)は、固定スクロール(21)と可動スクロール(22)とを備えると共に、固定スクロール(21)を固定支持するハウジング(23)を備えている。固定スクロール(21)と可動スクロール(22)は、互いに噛み合う渦巻き状のラップ(21b,22b)を鏡板(21a,22a)上に備えている。そして、上記圧縮機構(20)は、可動スクロール(22)が固定スクロール(21)に対して偏心回転運動をするように構成されている。
【0041】
上記ハウジング(23)は、本体部(フランジ部)(23a)と軸受部(23b)とによって構成されている。これら本体部(23a)および軸受部(23b)は、上下に連続して形成され、本体部(23a)がケーシング(10)の胴部(11)に嵌合して接合されている。軸受部(23b)は、本体部(23a)よりも小径に形成され、本体部(23a)から下方へ突出している。この軸受部(23b)は、滑り軸受(23c)を介して駆動軸(40)の主軸部(41)を回転自在に支持している。
【0042】
上記固定スクロール(21)は、固定側鏡板(21a)と、固定側ラップ(21b)と、縁部(21c)とを備えている。上記固定側鏡板(21a)は略円板状に形成されている。上記固定側ラップ(21b)は、固定側鏡板(21a)の下面の中央部分寄りに立設され、該固定側鏡板(21a)に一体形成されている。固定側ラップ(21b)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。上記縁部(21c)は、固定側鏡板(21a)の外周縁部から下方へ向かって延びる壁状の部分であり、下面がハウジング(23)の本体部(23a)の上面に重なる状態で該ハウジング(23)に固定されている。
【0043】
上記可動スクロール(22)は、可動側鏡板(22a)と、可動側ラップ(22b)と、ボス部(22c)とを備えている。上記可動側鏡板(22a)は略円板状に形成されている。上記可動側ラップ(22b)は、可動側鏡板(22a)の上面に立設され、該可動側鏡板(22a)に一体形成されている。この可動側ラップ(22b)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成され、固定スクロール(21)の固定側ラップ(21b)に噛合するように構成されている。
【0044】
上記固定側鏡板(21a)の上端部には凹陥部(21g)が形成され、該固定側鏡板(21a)の上面には、上記凹陥部(21g)を覆う吐出カバー(27)が取り付けられている。そして、この凹陥部(21g)が吐出カバー(27)で覆われた空間が、吐出管(15)に連通する吐出室(28)として構成されている。また、固定側鏡板(21a)の中央下部には、吐出室(28)に連通する吐出ポート(26)が形成され、吐出ポート(26)には、固定側ラップ(21b)と可動側ラップ(22b)の間に形成される圧縮室が連通している。なお、本実施形態では、ケーシング(10)内は、ハウジング(23)の下方の空間(16)と上方の空間(17)の両方が、低圧冷媒で満たされる低圧空間になっている。
【0045】
上記ボス部(22c)は、可動側鏡板(22a)の下面から下方へ延設され、該可動側鏡板(22a)に一体形成されている。このボス部(22c)には、滑り軸受(22d)を介して駆動軸(40)の偏心部(42)が挿入されている。このため、上記駆動軸(40)が回転すると、可動スクロール(22)が主軸部(41)の軸心を中心として公転する。この可動スクロール(22)の公転半径は、偏心部(42)の偏心量、すなわち主軸部(41)の軸心から偏心部(42)の軸心までの寸法と同じである。
【0046】
上記可動側鏡板(22a)はハウジング(23)の上端部に設けられた第1凹部(23d)内に位置し、上記ボス部(22c)はハウジング(23)の本体部(23a)に設けられた第2凹部(クランク室)(23e)内に位置している。なお、上記可動側鏡板(22a)とハウジング(23)との間には、可動スクロール(22)の自転を阻止するオルダムリング(50)が配設されている。
【0047】
図2はハウジング(23)にオルダムリング(50)を装着した状態の平面図、
図3は
図2のIII−III線断面図、
図4はオルダムリング(50)の平面図、
図5は
図4のV−V線断面図である。オルダムリング(50)は、駆動軸(40)が挿通するハウジング(23)に対して駆動軸(40)の軸心と直角の第1方向へ第1キー機構(51)でスライド可能に構成されている。また、上記可動スクロール(22)は、上記ハウジング(23)に固定された固定スクロール(21)に噛み合うとともに、オルダムリング(50)に対して上記駆動軸(40)の軸心と直角の第2方向へ第2キー機構(52)でスライド可能に構成されている。
【0048】
上記オルダムリング(50)は、リング部(53)を有している。また、上記第1キー機構(51)は、上記リング部(53)に形成された第1キー(54)と、上記ハウジング(23)に形成された第1キー溝(61)により構成されている。上記第2キー機構(52)は、上記リング部(53)に形成された第2キー(55)と、上記可動スクロール(22)に形成された第2キー溝(62)により構成されている。
【0049】
そして、第1キー溝(61)内での第1キー(54)の往復運動と第2キー溝(62)内での第2キー(55)の往復運動が合成されることにより、第2キー(55)に係合した可動スクロール(22)が、ハウジング(23)に固定された固定スクロール(21)に対して公転をせずに自転する。
【0050】
図2〜
図5に示すように、上記第1キー(54)は、オルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面(可動スクロール(22)と反対側の面)に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成されている。上記ハウジング(23)は、上記固定スクロール(21)が固定されるフランジ部である本体部(23a)に、上記可動スクロール(22)が接触して対向する(摺動する)可動スクロール対向面(70)を有する所定厚さの対向部(71)と、該可動スクロール対向面(70)の周囲に形成されて上記リング部(53)が動作可能に収納される環状開口部(72)とを有している。そして、上記第1キー溝(61)は、上記対向部(71)の裏面(71a)(上記可動スクロール対向面(70)と反対側の面)に、上記環状開口部(72)から径方向内方へ向かって形成されている。
【0051】
なお、上記第1キー溝(61)は、
図6,
図7に示すように、上記ハウジング(23)のフランジ部である本体部(23a)の裏面側が開放された溝にすることが好ましい。以下、本実施形態では、第1キー溝(61)が
図6,
図7に示すように本体部(23a)の裏面側が開放された溝であるものとする。
図7において、可動スクロール対向面(70)に形成されている溝は、可動スクロール対向面(70)にシールリングを装着する場合に設けられるシールリング装着溝(75)である。
【0052】
上記一対の第1キー(54)はオルダムリング(50)上の180°相対する位置に形成されている。また、上記一対の第2キー(55)はオルダムリング(50)上の180°相対する位置に、第1キー(54)とは直角の位置関係となるように形成されている。
【0053】
本実施形態では、
図8,
図9において、上記一対の第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きい。また、上記対向部(71)は、外径側から内径側に向かって厚さが厚くなるように、裏面が傾斜面(71a)で形成されている。
【0054】
このようにすると、
図10に示すようにオルダムリング(50)を傾けながら一方の第1キー(54)を環状開口部(72)から一方の第1キー溝(61)に挿入し、
図11に示すように第1キー(51)を対向面(71)の裏面(71a)と係合させた状態にして、他方の第1キー(54)を他方の第1キー溝(61)に挿入することにより、オルダムリング(50)をハウジング(23)に装着する構成を実現できる。
【0055】
−運転動作−
次に、上述したスクロール圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0056】
まず、上記電動機(45)を駆動すると、駆動軸(40)が回転し、可動スクロール(22)(22)が固定スクロール(21)に対して公転運動を行う。その際、固定スクロール(21)は、オルダムリング(50)によって自転が阻止される。
【0057】
上記可動スクロール(22)の公転運動に伴って、圧縮室(25a,25b)の容積が周期的に増減を繰り返す。上記圧縮室(25a,25b)では、吸入ポート(29)に連通した部分の容積が増大するときに、冷媒回路の冷媒が吸入管(14)から吸入経路(図示せず)と吸入ポート(29)を通って圧縮室(25a,25b)に吸い込まれ、吸入側が閉じ切られた部分の容積が減少するときに冷媒が圧縮された後、吐出ポート(26)から吐出室(28)に吐出される。吐出室(28)の冷媒は、吐出管(15)から冷媒回路の凝縮器に供給され、冷媒回路を循環した後、再びスクロール圧縮機(1)に吸入される。
【0058】
次に、本実施形態のオルダムリング(50)の作用について説明する。
【0059】
本実施形態では、対向面(71)の裏面側に形成された第1キー溝(61)とオルダムリング(50)の第1キー(54)とが係合し、オルダムリング(50)の動作が行われる。その際、第1キー溝(61)はオルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成されているので、第1キー(54)と第1キー溝(61)との摺動面の面積を十分に大きな面積にすることができ、キー摺動面の面圧を小さくできる。また、第1キー(54)がオルダムリング(50)の径方向内方へ突出しているので、ハウジング(23)の外周に切り欠き(
図20参照)を形成する必要がないし、第1キー(54)のモーメントも抑えられる。さらに、第1キー溝(61)を可動スクロール対向面(70)の裏側(対向部(71)の裏面側)に形成しているので、シールリングを用いる場合であっても、第1キー溝(61)がシールリング(図示せず)の邪魔になることもない。
【0060】
また、本実施形態では、オルダムリング(50)上の180°相対する位置に一対の上記第1キー(54)を形成し、上記一対の第1キー(50)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きい寸法関係を満たすようにしているので、オルダムリング(50)を
図10,
図11に示すようにハウジング(23)に対して斜め方向から簡単に装着する構成を実現できる。
【0061】
また、上記対向部(71)の裏面が傾斜面(71a)で形成されているので、ハウジング(23)に対するオルダムリング(50)の装着の際に第1キー溝(61)に第1キー(54)を入れる作業を容易に行える。そして、本実施形態では、上記ハウジング(23)のフランジ部(23a)の裏面に開放された第1キー溝(61)に第1キー(54)が係合し、オルダムリングの動作が行われる。
【0062】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、第1キー溝(61)がオルダムリング(50)のリング部(53)におけるハウジング(23)側の面に突出し、かつ該リング部(53)の径方向内方へ突出して形成されているので、第1キー(54)と第1キー溝(61)との摺動面の面積を十分に大きな面積にすることができ、キー摺動面の面圧を小さくできる。したがって、オルダムリング(50)の第1キー(54)の強度が不足するのを防止できる。
【0063】
また、第1キー(54)がオルダムリング(50)の径方向内方へ突出しているので、ハウジング(23)の外周に切り欠きを形成する必要がなく、第1キー(54)のモーメントも抑えられる。したがって、オルダムリング(50)の強度低下も抑えられる。
【0064】
さらに、第1キー溝(61)を可動スクロール対向面(70)の裏側(対向部(71)の裏面側)に形成しているので、第1キー溝(61)がシールリング(図示せず)の邪魔になることもない。したがって、第1キー(54)と第1キー溝(61)が係合する構成においてシールリング(50)を用いる構造を実現できる。
【0065】
また、本実施形態によれば、上記一対の第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きくなるようにしているので、オルダムリング(50)を
図10,
図11に示すようにハウジング(23)に対して斜め方向から装着することが可能になる。したがって、オルダムリング(50)を大型化しなくてよいので、機構を小型化することが可能になる。
【0066】
また、本実施形態によれば、対向部(71)の裏面が傾斜面(71a)で形成されているので、ハウジング(23)に対するオルダムリング(50)の装着の際に第1キー溝(61)に第1キー(54)を入れる操作が容易になり、装着の作業性を高められる。
【0067】
また、本実施形態によれば、上記第1キー溝(61)を、上記ハウジング(23)の本体部(フランジ部)(23a)の裏面に開放された溝にしているので、第1キー溝(61)を容易に形成することができる。
【0068】
−実施形態の変形例−
(変形例1)
上記対向部(71)は、
図12に示すように、厚さが一定の板状に形成してもよい。このように構成しても、上記ハウジング(23)の本体部(23a)に第1キー溝(61)を容易に形成することができ、第1キー溝(61)に第1キー(54)を容易に装着することができる。
【0069】
(変形例2)
上記対向部(71)は、
図13に示すように、上記ハウジング(23)の本体部(23a)に固定された別部材で構成してもよい。このように構成しても、上記ハウジング(23)の本体部(23a)に第1キー溝(61)を容易に形成することができ、第1キー溝(61)に第1キー(54)を容易に装着することができる。
【0070】
(変形例3)
上記第1キー溝(61)は、
図14,
図15に示すように、上記ハウジング(23)の本体部(フランジ部)(23a)の外周面に開放された溝にしてもよい。
【0071】
このように構成しても、上記ハウジング(23)の本体部(フランジ部)(23a)の外周面に開放された溝により、上記第1キー溝(61)を容易に形成することができる。
【0072】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0073】
例えば、上記実施形態では、上記一対の第1キー(54)の間隔(A)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の外径(B)よりも小さく、上記リング部(53)の厚さ(C)が上記ハウジング(23)の対向部(71)の厚さ(D)よりも大きくなるように寸法設定しているが、必ずしもこのように寸法設定しなくてもよい。
【0074】
また、上記実施形態の変形例3では、上記第1キー溝(61)に油が溜まって第1キー(54)のスムーズな動作を妨げることが考えられるため、ハウジング(23)に第1キー溝(61)から油を抜くための油抜き孔を形成するとよい。
【0075】
また、上記実施形態では、上記ハウジング(23)の対向部(71)に形成されている可動スクロール対向面(70)が、上記可動スクロール(22)の可動側鏡板(22a)に接触して対向し、該可動側鏡板(22a)と摺動する面にしている。しかしながら、
図16に示すように、シールリング(76)をシールリング装着溝(75)に装着することにより、上記可動スクロール対向面(70)が、上記可動スクロール(22)の可動側鏡板(22a)と離れて対向し、該可動側鏡板(22a)と摺動しない面にしてもよい。可動スクロール対向面(70)が可動スクロール(22)と摺動しない面である場合でも、本発明の構成を採用することにより、第1キー溝(61)がシールリング(図示せず)の邪魔になることはない。
【0076】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【解決手段】オルダムリング(50)のハウジング(23)側の第1キー(54)を、リング部(53)からハウジング(23)側に突出させ、その径方向内方へも突出させる。ハウジング(23)のフランジ部に、可動スクロール対向面(70)を有する対向部(71)と、その周囲でリング部(53)を収納する環状開口部(72)を形成する。第1キー溝(61)を、対向部(71)の裏面側に環状開口部(72)から径方向内方へ形成する。