【文献】
化学と生物,2010年,Vol. 48, No. 11,p.764-771
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、ストレスが常態化しており、ストレスによる精神疾患に陥る割合が少なくない。特に、うつ病や不安症は患者が増加傾向にあり社会問題となっている。
【0003】
うつ病は、気持ちが沈んだ状態が数日から数週間以上回復しない、悲壮感、孤独感、絶望感、強いコンプレックス、自責感を慢性的に感じるなどの症状を特徴とする精神障害である。さらに疲労感、食欲不振、動悸などの身体症状も現れると、より社会復帰が困難になる。うつ病の治療薬(または抗うつ薬)としては、モノアミン取り込み阻害剤、例えばイミプラミン、クロミプラミン、トリミプラミン等の三環系抗うつ薬、マプロチリン、ミアンセリン等の四環系抗うつ薬、トラゾドン等のトリアゾロピリジン系抗うつ薬、フルボキサミン等のベンズケトオキシム系選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが知られている。しかし、これらの抗うつ薬では、投与した患者の30〜50%に効果が現れないとされている。より最近では、血管新生阻害剤、グルココルチコイド阻害剤、炎症性サイトカイン阻害剤、ニューロキニン阻害剤、GABA作動/阻害剤などの新たな作用機序の薬剤が提案されているが、いずれも研究段階であり臨床での使用には至っていない(非特許文献1)。
【0004】
不安症は、明確な対象をもたないまたは対象に見合わない怖れの感情を抱いてしまう精神疾患の1種である。不安を感じると、動悸、冷や汗、震え、こわばりなどの身体症状が起こり、慢性化することによって、精神障害、気分障害、人格障害、行動障害、睡眠障害などが引き起こされる。抗不安薬としては、ベンゾジアゼピン系、チエノジアゼピン系、ジフェニルメタン系、カルバメート系などの医薬品が知られており、その作用機序としては、大脳辺縁系、視床下部、中脳網様体などのγ−アミノ酪酸(GABA)受容体を介する系が知られている(非特許文献2)。抗うつ薬と抗不安薬は、症状に応じて一緒に処方されることもあるが、上述したとおり別々の作用機序および効能を有する異なる分類に属する薬物である。
【0005】
抗うつ薬や抗不安薬は、症状を改善させるためには長期間に渡って服用する必要があり、このため、眠気、めまい、脱力、注意力散漫、便秘、食欲不振、肝機能障害などの副作用、および連続服用による薬物依存症の発症を伴う恐れがあることが知られている。そのため、安全に長期間服用可能なうつ病または不安症の予防または治療薬の開発が求められている。例えば、特許文献1には、ミルク由来のαS1カゼインに由来するペプチドが不安症に有効であることが開示されている。特許文献2には、ペプチドであるTyr−Proが自律神経活動を調節し、抗不安作用を示すことが開示されている。
【0006】
ピログルタミルペプチドは、肝疾患の改善作用(特許文献3)および抗炎症作用(特許文献4)を有することが知られている。当該ペプチドは、副作用の心配がなく、摂取が容易で、安価であることから、長期間服用可能な製剤の有効成分として期待されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗うつ剤または抗不安剤は、式:pyroGlu−(X)n−Aで表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、当該ペプチドを本発明のペプチドと呼称することがある)またはその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。上式において、pyroGluは、ピログルタミン酸であって、グルタミン酸残基のγ位のアミド基とα位のアミノ基が閉環したものである;Xは、Gln(グルタミン)またはAsn(アスパラギン)であり;Aは、Gln、Asn、Leu(ロイシン)、Ile(イソロイシン)またはVal(バリン)、好ましくはLeu、IleまたはVal、より好ましくはLeuであり;nは0または1であり、好ましくは0である。上式で表される本発明のペプチドとしては、例えば、pyroGlu−Leu、pyroGlu−Gln−Leu、pyroGlu−Asn−Leu、pyroGlu−Gln、pyroGlu−Asn、pyroGlu−IleおよびpyroGlu−Valなどが挙げられる。
【0014】
本発明のペプチドの塩は、薬学的または食品として許容できる塩であれば特に制限されないが、例えば、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸との塩、および酢酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩、およびアンモニウム、トリエチルアミンなどのアミン類との塩が挙げられる。
【0015】
本発明の抗うつ剤または抗不安剤には、上記に挙げた本発明のペプチドまたはその塩からなる群より選択される少なくとも1種が有効成分として含有されていればよい。すなわち、本発明の有効成分は、上記に挙げた本発明のペプチドのいずれか1種もしくは上記に挙げた本発明のペプチドの塩のいずれか1種であってもよく、2種以上の本発明のペプチドの任意の組み合わせもしくは2種以上の本発明のペプチドの塩の任意の組み合わせであってもよく、または1種もしくは2種以上の本発明のペプチドと1種もしくは2種以上の本発明のペプチドの塩との任意の組み合わせであってもよい。
【0016】
本発明のペプチドは、天然もしくは組換え蛋白質の部分的加水分解物、化学合成法もしくは遺伝子工学的方法により調製されたペプチド、またはこれらの組合せであってもよい。
【0017】
本発明のペプチドを天然の蛋白質の部分加水分解によって調製する場合、蛋白質の加水分解方法としては、公知の方法を適宜採用できる。具体的には、酸を用いて加水分解する方法や、プロテアーゼを用いて加水分解する方法などが挙げられる。
【0018】
加水分解に用いる天然の蛋白質は、入手可能なものであればどのような蛋白質でもよいが、生体への安全性が確認されている蛋白質を用いるのが好ましい。そのような蛋白質として、例えば、動物の肉、皮、乳、血液などに由来する動物性蛋白質、および米や小麦等の穀類、柿や桃等の果実類などに由来する植物性蛋白質が挙げられる。これらの中でも、小麦の種子に含まれるグルテンなどの蛋白質は、グルタミンが豊富に含まれていることが知られており、本発明のペプチドを調製するための原料として好ましい。
【0019】
酸を用いて蛋白質を加水分解する方法としては、慣用の方法を採用できる。酸としては、鉱酸である硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜硫酸など、有機酸であるシュウ酸、クエン酸、酢酸、ギ酸などを使用できる。
【0020】
酸を用いて加水分解する場合、水性媒体中における蛋白質の濃度は、酸の種類や規定度により適宜調節する必要があるが、通常1.0〜80質量%に調整するのがよい。
【0021】
プロテアーゼを用いて蛋白質を加水分解する場合、水性媒体中、1種または複数種のプロテアーゼを作用させて加水分解物を生成させることができる。酸性プロテアーゼを単独で用いる方法、および酸性プロテアーゼと中性プロテアーゼもしくはアルカリ性プロテアーゼとを用いる方法が、効率よく加水分解することができる点で好ましい。また、蛋白質として植物性蛋白質を用いる場合、植物に含まれる澱粉や繊維質がプロテアーゼ作用や精製時の障害となる場合がある。そのような場合、前述のプロテアーゼを作用させる前後に、あるいはプロテアーゼとともに、アミラーゼやセルラーゼなどの糖分解酵素を作用させるのが好ましい。
【0022】
このようにして得られた蛋白質加水分解物を精製する方法としては、不溶物を濾過する方法、含水アルコール等により分画(抽出)する方法、ゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、オートフォーカシングで精製する方法などが挙げられる。
【0023】
本発明のペプチドを遺伝子工学的方法により調製する場合、本発明のペプチドを生産するように遺伝的に改変された細胞を培養し、次いで培養物から、生産された目的のペプチドを回収すればよい。細胞としては、特に限定されないが、各種動物細胞、酵母、大腸菌等のバクテリアの細胞などが挙げられる。
【0024】
一般的な手法として、上記細胞に目的とする本発明のペプチドをコードする遺伝子を含むベクターを導入することにより、当該ペプチドを産生することができる組換え細胞を作製することができる。ベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。細胞へのプラスミドの導入の方法としては、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、パーティクル・ガン法などの通常の方法が挙げられる。ベクターの構築や細胞への導入の手順は当業者によく知られており、またベクター構築、遺伝子導入用キットが市販されている。遺伝子を導入した細胞を培養して、目的の本発明のペプチドを生産する組換え細胞を選択する。選択した組換え細胞を培養し、培養物中に生産された目的の本発明のペプチドを回収することにより、本発明のペプチドを得ることができる。培養物中からペプチドを回収する方法としては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの公知の方法が挙げられる。
【0025】
あるいは、組換え細胞に本発明のペプチドを含む組換え蛋白質を生産させ、これを上述した手順でさらに部分加水分解することによって、目的の本発明のペプチドを調製してもよい。
【0026】
本発明のペプチドを化学合成法により調製する場合、液相合成法および固相合成法のいずれを使用してもよい。好ましくは、固相担体にアミノ酸またはペプチドのC末端をリンカーを介して固定化し、順次N末端側へアミノ酸を伸張していく固相合成法が好ましい。固相合成法を採用する場合、ペプチド合成装置(たとえば、島津社製のPSSM8、ABI社製のModel 433A等)を使用して合成することもできる。
【0027】
固相合成において用いられる固相担体は、本発明のペプチドのC末端アミノ酸であるGln、Asn、Leu、Ile、またはValのカルボキシル基との結合性を有するものであればいずれのものでも使用することができ、例えば、ベンズヒドリルアミン樹脂(BHA樹脂)、クロルメチル樹脂、オキシメチル樹脂、アミノメチル樹脂、メチルベンズヒドリル樹脂(MBHA樹脂)、アセトアミドメチル樹脂(PAM樹脂)、p−アルコキシベンジルアルコール樹脂(Wang樹脂)、4−アミノメチルフェノキシメチル樹脂、4−ヒドロキシメチルフェノキシメチル樹脂などが挙げられる。
【0028】
具体的な合成法の一例として、本発明のペプチドであるpyroGlu−Gln−Glnを調製する場合の手順を以下に示す。
【0029】
目的ペプチドのC末端アミノ酸であるグルタミン(Gln)のカルボキシル基を保護したものを用意し、続いてこれに、アミノ基がBoc(tert−ブチルオキシカルボニル)基またはFmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)基等の保護基によって保護され、カルボキシル基が活性化された2番目のアミノ酸であるグルタミン(Gln)を縮合させる。次いで、生成したGln−GlnジペプチドのN末端側グルタミンのアミノ基の保護基を除去した後、アミノ基がBoc(tert−ブチルオキシカルボニル)基またはFmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)基等の保護基によって保護され、カルボキシル基が活性化された3番目のアミノ酸であるグルタミン(Gln)を縮合させる。固相合成法を用いる場合は、C末端アミノ酸のグルタミンのカルボキシル基を保護する代わりに、固相担体に結合させればよい。
【0030】
カルボキシル基の活性化は、該カルボキシル基と種々の試薬とを反応させ、対応する酸クロライド、酸無水物もしくは混合酸無水物、アジド、または−ONpや−OBtなどの活性エステル等を形成させることにより行うことができる。また、上記ペプチド縮合反応は、縮合剤やラセミ化抑制剤、たとえば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、水溶性カルボジイミド(WSCD)、カルボジイミダゾール等のカルボジイミド試薬、テトラエチルピロホスフェイト、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等の存在下に行うこともできる。
【0031】
合成反応終了後、固相合成法の場合にはペプチドを固相担体から解離し、全ての保護基を除去した後、洗浄することにより、Gln−Gln−Glnトリペプチドを粗ペプチドの状態で得ることができる。次いで、N末端のグルタミンを環化してピログルタミン酸にすることで、本発明のペプチドが得られる。環化は、水溶液中でも徐々に進行するが、温度を上昇することで早めることができる。液相合成法を用いる場合、C末端のアミノ酸が固相担体に結合していないだけであり、固相合成法と同様の手段により合成することができる。
【0032】
あるいは、上記の手順で調製したC末端カルボキシル基が保護されたアミノ酸またはペプチドと、N末端アミノ基がBoc基またはFmoc基等の保護基によって保護され、カルボキシル基が活性化されたピログルタミン酸とを縮合反応に供することにより、本発明のペプチドを調製することができる。
【0033】
上記手順で得られた本発明のペプチドを含有する粗ペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの公知の方法によって適宜精製し、純度の高いペプチドとして得ることができる。
【0034】
本発明のペプチドを構成するアミノ酸としては、D体、L体、DL体(ラセミ体)のいずれも用いることができるが、L体を用いるのが好ましい。本発明のペプチドを天然蛋白質の部分加水分解法または組換え細胞を用いて調製する場合、通常、構成アミノ酸は全てL体になる。
【0035】
本発明のペプチドを化学合成法により調製する場合、構成アミノ酸の全部がL−アミノ酸またはD−アミノ酸からなるペプチドであっても、アミノ酸のうち一部がL−アミノ酸であって残りがD−アミノ酸であるペプチドであってもよく、いずれも本発明のペプチドに包含される。ペプチド化学合成法においては、C末端側からN末端側へ順次アミノ酸を縮合−伸張させていくことにより、目的のアミノ酸配列を有する本発明のペプチドを合成することができる。この際、各アミノ酸のL体またはD体を用いることにより、構成アミノ酸の全部がL−アミノ酸またはD−アミノ酸からなるペプチドや、いずれかのアミノ酸がL−アミノ酸であって残りがD−アミノ酸からなるペプチドを合成することができる。
【0036】
本発明のペプチドの組成は、アミノ酸分析法によって確認することができる。その際、一般的なアミノ酸分析法として行われている酸加水分解法では、ピログルタミン酸もグルタミンもともにグルタミン酸として検出されてしまうため、グルタミンおよびピログルタミン酸の分析には、それぞれに特異的な酵素を用いて分解後定量する方法が好ましく用いられる。また、ペプチドが合成物である場合、合成時における各アミノ酸の使用量や割合などから組成を求めることができる。
【0037】
このようにして得られた本発明のペプチドまたはその塩は、後述する実施例に示すとおり、うつ症状の評価系として汎用されている強制水泳試験、および不安症状の評価系として汎用されている高架式十時迷路試験のいずれにおいても、顕著な症状改善作用を示した。すなわち、本発明のペプチドまたはその塩は、うつ症状および不安症状のいずれをも改善する作用を有する。
【0038】
したがって、本発明のペプチドまたはその塩は、抗うつ剤および抗不安剤のいずれの有効成分としても使用することができる。一実施形態において、本発明のペプチドまたはその塩は、抗うつ剤の有効成分として、うつ病の症状である悲壮感、孤独感、絶望感、強いコンプレックス、自責感などの予防または治療に使用することができ、さらにはうつ病に伴う身体症状、例えば、疲労感、食欲不振などの予防または治療に使用することができる。特に、本発明のペプチドまたはその塩は、従来の抗炎症剤が効果を示さないうつ症状の予防または治療に有用である。別の実施形態において、本発明のペプチドまたはその塩は、抗不安剤の有効成分として、不安症状である怖れの予防または治療に使用することができ、さらには、不安に伴う身体症状、例えば、動悸、冷や汗、震え、こわばりなどの予防または治療、あるいは慢性化した不安により引き起こされる精神障害、気分障害、人格障害、行動障害、睡眠障害などの予防または治療に使用することができる。さらなる実施形態において、本発明のペプチドまたはその塩は、抗うつおよび抗不安剤として提供され、上述したうつ症状および不安症状の予防または治療に使用される。さらなる実施形態において、本発明のペプチドまたはその塩は、単独で抗うつ作用と抗不安作用を有するため、抗うつ薬や抗不安薬が処方される疾患、例えば、統合失調症、睡眠障害(不眠症、入眠障害等)、パニック障害、ストレスに伴う身体症状(例えば、筋緊張、肩こり、腰痛若しくは頭痛、胃腸症状、自律神経失調症等)などの治療にも利用できる。
【0039】
本明細書において、症状の予防には、症状の発症を抑えることおよび遅延させることが含まれ、また症状の最初の発症の予防だけではなく、治療後の症状の再発に対する予防も包含される。本明細書において、症状の治療には、症状を治癒すること、症状を改善することおよび症状の進行を抑えることが包含される。
【0040】
本発明のペプチドまたはその塩は、上述したうつ症状および/または不安症状を予防または治療するための組成物、医薬、飲食品、飼料などを製造するために使用することができる。したがって本発明によれば、本発明のペプチドまたはその塩を含有する、うつ症状および/または不安症状の予防または治療のための組成物、医薬、飲食品、飼料などが提供される。当該組成物、医薬、飲食品および飼料は、上述したうつ症状および/もしくは不安症状を有するか、その疑いがあるか、またはその危険性があるヒトまたは非ヒト哺乳動物に適用することができる。非ヒト哺乳動物としてはイヌ、ネコなどの愛玩動物やウマ、ウシ、ブタなどの家畜動物、および飼育施設等で飼育されている動物が挙げられる。
【0041】
上記本発明により提供される組成物、医薬、飲食品および飼料には、有効成分である本発明のペプチドまたはその塩の他、医薬、食品、飼料の製造に通常用いられる種々の添加剤を配合することができ、さらに種々の活性物質を共存させてもよい。このような添加剤および活性物質としては、各種油脂、生薬、アミノ酸、多価アルコール、天然高分子、ビタミン、ミネラル、食物繊維、界面活性剤、精製水、賦形剤、安定剤、pH調製剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、酸味料、着色料および香料などが挙げられる。また、本発明のペプチドまたはその塩は、抗うつまたは抗不安作用を有するその他の有効成分の1種または複数種と混合または組み合わせて投与または摂取することができる。したがって、本発明の抗うつ剤または抗不安剤は、本発明のペプチドまたはその塩に加えて、抗うつまたは抗不安作用を有するその他の有効成分を含んでいてもよい。
【0042】
上記各種油脂としては、例えば、大豆油、サフラワー油、オリーブ油などの植物油脂、および牛脂、イワシ油などの動物油脂が挙げられる。
【0043】
上記生薬としては、例えば、牛黄、地黄、枸杞子、ロイヤルゼリー、人参、鹿茸などが挙げられる。
【0044】
上記アミノ酸としては、例えば、システイン、ロイシン、アルギニンなどが挙げられる。
【0045】
上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコールなどが挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マンニトールなどが挙げられる。
【0046】
上記天然高分子としては、例えば、アラビアガム、寒天、水溶性コーンファイバー、ゼラチン、キサンタンガム、カゼイン、グルテンまたはグルテン加水分解物、レシチン、デキストリンなどが挙げられる。
【0047】
上記各種ビタミンとしては、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB群、ビタミンE(トコフェロール)の他に、ビタミンA、D、K、酪酸リボフラビンなどが含まれる。また、ビタミンB群には、ビタミンB1、ビタミンB1誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、さらにビオチン、パントテン酸、ニコチン酸、葉酸などの各種ビタミンB複合体が包含される。ビタミンB1およびその誘導体には、チアミンまたはその塩、チアミンジスルフィド、フルスルチアミンまたはその塩、ジセチアミン、ビスブチチアミン、ビスベンチアミン、ベンフォチアミン、チアミンモノフォスフェートジスルフィド、シコチアミン、オクトチアミン、プロスルチアミンなどのビタミンB1の生理活性を有する全ての化合物が包含される。
【0048】
上記ミネラルとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄などが挙げられる。
【0049】
上記食物繊維としては、例えば、ガム類、マンナン、ペクチン、ヘミセルロース、リグニン、β−グルカン、キシラン、アラビノキシランなどが挙げられる。
【0050】
上記界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0051】
上記賦形剤としては、例えば、白糖、ブドウ糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、乳糖、デキストリン、澱粉、結晶セルロース、サイクロデキストリンなどが挙げられる。
【0052】
上記抗うつまたは抗不安作用を有するその他の有効成分としては、例えば、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、トリアゾロピリジン系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの通常使用される抗うつ剤、およびベンゾジアゼピン系抗不安薬、チエノジアゼピン系抗不安薬、ジフェニルメタン系抗不安薬などの通常使用される抗不安剤が挙げられる。
【0053】
上記以外に、例えば、タウリン、グルタチオン、カルニチン、クレアチン、コエンザイムQ、α-リポ酸、グルクロン酸、グルクロノラクトン、テアニン、γ−アミノ酪酸、カプサイシン、各種有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、キサンチン誘導体、フラクトオリゴ糖等の難消化性オリゴ糖、ポリビニルピロリドンなどを添加剤として配合してもよい。これら添加剤の配合量は、添加剤の種類と所望すべき摂取量に応じて適宜決められるが、一般的には0.01〜30質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.1〜10質量%の範囲である。
【0054】
本発明のペプチドまたはその塩を含有する医薬を調製する場合は、通常、有効成分である本発明のペプチドまたはその塩と薬学的に許容される担体とを含む組成物として調製する。薬学的に許容される担体とは、一般的に、本発明のペプチドまたはその塩とは反応しない、不活性の、無毒の、固体または液体の、増量剤、希釈剤またはカプセル化材料などをいい、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、適切なそれらの混合物、植物性油等の溶媒や、分散媒体などが挙げられる。当該医薬はさらに、上述した添加物、活性物質、抗うつまたは抗不安作用を有するその他の有効成分などを含有していてもよい。
【0055】
上記医薬の剤形は、特に制限されず、錠剤、丸剤、顆粒剤、粉剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、ドリンク剤、液剤、流動食等の経口投与形態、または舌下錠、点鼻スプレー剤、坐剤、注射剤等の非経口投与形態などの任意の剤形とすることができる。
【0056】
上記医薬の投与方法としては、経口投与の他、医薬の投与に一般に使用されている投与方法、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などが挙げられる。また、直腸、舌下、鼻内など消化管以外の粘膜から吸収せしめる投与方法を採用することも可能であり、この場合、例えば、坐剤、舌下錠、点鼻スプレー剤などの形で投与することができる。
【0057】
上記医薬における本発明のペプチドまたはその塩の含有量は、その剤形により異なるが、本発明のペプチドの乾燥質量を基準として、通常0.001〜99質量%、好ましくは0.01〜90質量%、より好ましくは1〜85質量%、さらに好ましくは5〜80質量%の範囲である。当該医薬は、後述する本発明のペプチドまたはその塩の1日当たりの用量を達成できるように、1日当たりの投与量が管理できる剤形であることが望ましい。
【0058】
本発明のペプチドまたはその塩を含有する食品または飼料を調製する場合、その形態は特に制限されない。本発明の食品または飼料には飲料が包含される。また本発明の食品または飼料には、本発明のペプチドまたはその塩を有効成分として含有し、且つ上述したうつ症状および/または不安症状の予防または改善の効果を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品、および愛玩動物や、家畜、競走馬、鑑賞動物等のための飼料やペットフードが包含される。
【0059】
例えば、本発明の健康食品および機能性食品は、具体的には、錠剤、丸剤、顆粒剤、粉剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、ドリンク剤、液剤、流動食などの各種製剤形態とすることができる。製剤形態の食品は、上記医薬と同様に製造することができ、例えば、適当な賦形剤(たとえば、でん粉、加工でん粉、乳糖、ブドウ糖、水等)を加えた後、慣用の手段を用いて製造することができる。さらに、本発明の食品の具体例として、コーヒー飲料、茶飲料、果汁入り飲料、清涼飲料、乳飲料、バター、マヨネーズ、ショートニング、マーガリン、種々のサラダドレッシング、パン類、麺類、米飯類、パスタ、ソース類、菓子、クッキー類、チョコレート、キャンディ、チューインガム、各種調味料、各種ダイエット製品などが挙げられる。あるいは、任意の通常の食品に本発明のペプチドまたはその塩を添加することにより、本発明の食品を調製することもできる。
【0060】
本発明の食品における本発明のペプチドまたはその塩の含有量は、食品の形態により異なるが、本発明のペプチドの乾燥質量を基準として、通常0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜75質量%、より好ましくは1〜70質量%、さらに好ましくは5〜70質量%の範囲である。本発明のペプチドまたはその塩は安全性の高いものであるため、その含有量をさらに増やすこともできる。当該食品は、後述する本発明のペプチドまたはその塩の1日当たりの用量を達成できるように、1日当たりの摂取量が管理できる形態であることが望ましい。
【0061】
飼料は、食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における本発明の食品に関する記載は、本発明の飼料についても同様に当てはめることができる。
【0062】
本発明のペプチドまたはその塩を抗うつ剤または抗不安剤として使用する場合の用量は、所望の抗うつ効果または抗不安効果が得られる量であればよく、医薬の剤形や食品または飼料の形態、投与または摂取する個体の種、症状、年齢、性別などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人1日当たりの用量は、通常、本発明のペプチドの質量として0.001〜1g、経口投与の場合は0.01〜1gの範囲である。さらに、本発明で用いられるペプチドを天然の蛋白質を部分加水分解して調製する場合、天然物に由来する安全性の高いものであるので、その用量をさらに増やすこともできる。用量は効果などを見ながら適宜増減するのが望ましい。1日当たりの投与量を1回に投与または摂取することもできるが、数回に分けて投与または摂取することが望ましい。
【0063】
本発明の抗うつ剤または抗不安剤の有効成分である本発明のペプチドまたはその塩は、小麦に代表される天然の蛋白質からも調製することができるものであるため、副作用のおそれが少なく安全で、長期間の継続的摂取が可能である。したがって、本発明の抗うつ剤または抗不安剤は、健常なヒトや動物、および成人、成体動物だけでなく、小児、高齢者、幼若もしくは高齢動物、または病弱なヒトや動物に対しても、安全且つ継続的に使用することができる。
【実施例】
【0064】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)PyroGlu−Leuの合成
Bocメソッドを用いて液相法により合成した。
(1)Boc−pyroGluとHCl Leu−O
tBuとの縮合反応
ナス型フラスコにHCl Leu−O
tBu(390mg)を入れDMF5mLに溶解後、氷冷してトリエチルアミン0.124mLを加えた。次いでBoc−pyroGlu−OH(400mg)、HOBt(470mg)、WSCD HCl(367mg)を加えて、氷冷下12時間撹拌して縮合反応させた。反応終了後、減圧してDMFを留去し、残渣を酢酸エチルに溶解した後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液、10%クエン酸水溶液、水、飽和食塩水の順に酢酸エチルを洗浄後、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別して、ろ液を減圧濃縮して得られた残渣にエーテル−ヘキサンを加えてBoc−pyroGlu−Leu−O
tBuを固化し、採取した。収量は609mg、収率88%であった。
(2)脱保護
上記で得られたBoc−pyroGlu−Leu−O
tBu(600mg)をナス型フラスコにとり、トリフルオロ酢酸5mLを加えて溶解させ、1時間、氷冷下にて脱保護反応させた。トリフルオロ酢酸はN
2ガスで除去し、脱保護ペプチドを、エーテルを加えて固化させた後、ろ取した。得られた固体を4N HCl/ジオキサンに溶解し、エーテルを加えて再度固化させてろ取した。収量220mg、収率53%であった。
【0066】
(試験例1)強制水泳試験
強制水泳試験は、動物を逃避不可能な水槽内に入れ、その絶望的な状態からうつ状態を引き起こす試験である。本試験では、泳ぐことを諦め、水に浮いているだけの時間(無動時間)をうつの指標とし、この時間が増加するとうつ状態、短縮すると抗うつと判断する。無動時間は多くの抗うつ薬の投与により短縮し、また臨床用量とも高い相関性があることが認められていることから、強制水泳試験は、信頼性および特異性の高い抗うつ薬のスクリーニング法とみなされている。
動物はddY系雄性マウス(体重22〜28g)を1群6匹として用いた。実施例1のペプチドを水に溶解し、1、3、10、30mg/kgの投与量で腹腔内投与又は3mg/kgの投与量で経口投与した。投与30分後に、直径10cm、深さ19.5cmの水槽に水深9.5cmまで水を張り、動物を1匹ずつ投入し、6分間の行動を観察した。対照群として、水のみ腹腔内投与した群を設定した。結果は、6分間における無動時間(秒)を各群平均して表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
(試験例2)強制水泳試験
試験例1と同様にして、試験を行った。実施例1のペプチド、ピログルタミン酸、ロイシンまたはグルタミルロイシン各10mg/kgをそれぞれ腹腔内投与し、無動時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
(試験例3)高架式十字迷路試験
高架式十字迷路試験は、高所での動物の探索行動を指標として不安水準を評価する方法である。本試験では、高所に設置し、2本のアームには透明な壁を設け(クローズドアーム)、残り2本には壁を設けていないアーム(オープンアーム)を有する十字迷路上に置かれた動物の行動を観察する。本試験環境におかれた動物は、ヒトに類似した不安・恐怖に対する生体変化が生じているとされている。動物は、特にオープンアームにおいて不安を生じるため、オープンアームへの進入頻度、滞在時間が少ない動物を不安、多い動物を抗不安と判断する。この高架式十字迷路試験は、妥当性が高い不安関連行動の評価法として支持されており、また不安水準を簡便に測定することが可能であることから、抗不安薬のスクリーニング法として広く用いられている。
高架式迷路試験装置は、それぞれのアームの長さが25cm、幅が5cmの十字路を用いた。十字路の高さは50cmで、クローズドアームの両側に透明の壁を設置した。
動物はddY系雄性マウス(体重24〜27g)を1群14〜15匹として用いた。実施例1のペプチドを水に溶解し、1、3、10mg/kgの投与量で腹腔内投与した。投与30分後に、動物を1匹ずつ高架式迷路試験装置の中央に置き、5分間の行動を観察した。5分間あたりのオープンアームとクローズドアームの両走行路への総進入回数を求め、クローズドアームへの進入率を以下の式により算出した。なお対照群として、水のみ腹腔内投与した群を設定した。その結果を、各群の平均値として表3に示す。
進入率(%)=(オープンアームへの進入回数/オープンアームとクローズドアームの両走行路への総進入回数)×100
【0071】
【表3】