【文献】
LIANG PENG et al.,Improvement of formaldehyde sensitivity of ZnO nanorods by modifying with Ru(dcbpy)2(NCS)2,Sensors and Actuators B: Chemical,2011年12月15日,Vol.160,pp.39-45
【文献】
秋山宜生,低消費電力室温動作型ガス成分分析センサ,ケミカルエンジニヤリング,2014年 3月 1日,第59巻, 第3号,第241-251頁
【文献】
AIMIAO QIN et al.,Rapid photoresponse of single-crystalline selenium nanobelts,Solid State Communications,2008年,Vol.148,pp.145-147
【文献】
SHITING WU et al.,Soluble Polymer-Based, Blown Bubble Assembly of Single- and Double-Layer Nanowires with Shape Contro,ACS NANO,2014年 4月,Vol.8, No.4,pp.3522-3530
【文献】
YUVARAJ SIVALINGAM et al.,Gas-Sensitive Photoconductivity of Porphyrin-Functionalized ZnO Nanorods,J. Phys. Chem. C,2012年 4月26日,Vol.116, No.16,pp.9151-9157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検ガスが流れるガス流路のガス流れ方向に対してその軸線が平行となるように配置された単一の電極を有し、該単一の電極が、複数のガスセンサの個々のガスセンサの対向する2つの電極の一方の電極として利用される共通電極である、請求項12に記載のガスセンサアレイ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のガスセンサは、対向電極(すなわち、対向する2つの電極)の間に半導体ナノワイヤーが配置され、該対向電極に電圧が印加された状態で半導体ナノワイヤーに光が照射されて発生する光電流の、該半導体ナノワイヤーへのガスの吸着に伴う電流変化を計測するものである。
【0015】
本明細書中、ガスセンサの対向電極間の隙間を基準に、該隙間に向かう側を「内側」、該隙間から離反する側を「外側」と呼ぶ。また、対向電極における電極の対向面を「電極の内面」と呼び、対向面と離反する側の面を「電極の外面」と呼ぶ。また、「対向電極」は特に断りがない場合、平行平板対向電極を意味する。
【0016】
対向電極間に配置される半導体ナノワイヤーは光が照射され得る状態にあればよく、そのためのセンサの構造は特に制限されない。典型例としては、対向電極の少なくとも一方の電極を透明電極にして、該透明電極を透過する光が半導体ナノワイヤーに照射される構成を挙げることができる。この構成は、半導体ナノワイヤーへの光照射が効率的かつ一様になされる点で好ましい。また、対向電極が共に不透明の電極である場合、対向電極の側部から対向電極間に配置された半導体ナノワイヤーへ光が照射される構成が挙げられる。なお、対向電極の少なくとも一方の電極が透明電極である場合、透明電極を透過する光が半導体ナノワイヤーに照射される構成と、対向電極の側部から半導体ナノワイヤーへ光が照射される構成とを併用してもよい。
【0017】
対向電極間に配置された半導体ナノワイヤーに光が照射されて流れる光電流が半導体ナノワイヤーに光を照射しない状態で流れる暗電流(以下、「ベース電流」ともいう)に埋もれてしまうと、半導体ナノワイヤーへのガスの吸着に伴う光電流変化を計測することが困難になる。このため、本発明のガスセンサでは、ベース電流よりも十分に大きな光電流が流れるようにすることが重要であり、光照射による測定電流値(I
ph+I
b)とベース電流値(I
b)との比((I
ph+I
b)/I
b)が1.5〜70(好ましくは1.8〜10)の範囲内となるセンサ構成を採ることが好ましい。
【0018】
また、対向電極間の電界強度Eがセンサの感度に影響する。すなわち、対向電極への印加電圧が高い(対向電極間の電界強度Eが大きい)状態では、半導体ナノワイヤーに光電流が多く流れるものの、電流を司るキャリア(光電流キャリア)の速度が速いために、ガスの持っている双極子によってキャリアを効率よく捕まえることができなくなる(すなわち、表面付近の光電流キャリアがガスから注入された電子(正孔)と効率良く遭遇して中和することができなくなる)。センサの感度は、ガスから注入された電子(正孔)による光キャリアの捕獲の割合で決まるため、光電流が大量に流れても、電界強度Eの増大による影響により、光キャリアの捕獲効率が悪くなり、センサの感度(S値)が低下してしまう。従って、後述の実験例から明らかなように、本発明のガスセンサでは、感度の観点から、対向電極間の電界強度Eを最適化することが重要であり、対向電極間の電界強度Eが絶対値で3〜34V/mm(好ましくは6〜20V/mm)の範囲内となるセンサ構成を採ることが好ましい。
【0019】
[半導体ナノワイヤー]
本発明のガスセンサにおける、半導体ナノワイヤーは、P型半導体のナノワイヤーであっても、N型半導体のナノワイヤーであってもよい。具体的には、セレン、テルル、ZnO、ZnInO、In
2O
3、SiO
2、Ga
2O
3、Ge、Si等のナノワイヤーが挙げられる。これらの中でも、特に加温することなく、室温にて、無機ガスだけでなく有機ガスが吸着することで、ガス分子からの電子(正孔)の注入が生じるセレンナノワイヤー(以下、「SeNW」とも略称する)が好ましい。また、半導体ナノワイヤーの形態は特に限定されない。一般に、「ナノワイヤー」は短繊維を指すが、本発明でいう「ナノワイヤー」は、短繊維、長繊維(ナノファイバー)、中空糸状(ナノチューブ)、短柱状繊維(ナノロッド)、平板状繊維(ナノベルト)或いは、これらのうちの2種以上が混在したものも含む概念である。
【0020】
これらの中でも、取り扱い上、ガス吸着性能、ガス脱離性能等の観点から、半導体ナノワイヤーは短繊維のナノワイヤーが好ましい。また、半導体ナノワイヤーの太さ(直径)は特に限定はされないが、一般的には、平均直径が10〜600nmであるものが好ましく、250〜450nmであるものがより好ましい。ここで、「平均直径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)において、LabVIEW(Laboratory Virtual Instrumentation Engineering Workbench)付属の NI vision Assistant (ナショナルインスツルメント製ソフトウエア)を用いて計測した複数のサンプル(サンプル数:50)の直径分布における最大ピーク値である。
【0021】
本発明において、半導体ナノワイヤーは1種又は2種以上を使用できる。本発明において、半導体ナノワイヤーの最も好ましい態様は、短繊維のセレンナノワイヤーである。
【0022】
[対向電極]
対向電極を構成する個々の電極には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウムスズ)、スズ、クロム等が使用される。電極材料の仕事関数に比べて半導体ナノワイヤーの仕事関数が大きいが、仕事関数が半導体ナノワイヤーの仕事関数に近い電極材料を使用する程、光電流値とベース電流値の比I
ph/I
bが大きくなる傾向を示す。半導体ナノワイヤーが例えばSeNWの場合、対向電極の少なくとも一方の電極の内面を金で構成することは好ましい態様の一つである。
【0023】
なお、対向電極を構成する個々の電極は、単層構造でも、多層構造でもよく、電極の厚み(多層構造である場合は総厚み)は特に限定されないが、一般的には100〜300μm程度である。電極の平面面積も特に限定はされないが、一般的には、0.1〜0.6mm
2の範囲内で選択される。なお、後記にて詳述するアレイ型ガスセンサにおける共通電極(アレイを構成する複数のガスセンサ間の共通電極)の平面面積は好ましくは0.4〜10mm
2の範囲内で選択される。
【0024】
対向電極間における電極上の半導体ナノワイヤーの単位体積当たりの存在量は、半導体ナノワイヤー間の電気伝導等の観点から0.4mg/mm
3以上が好ましく、1.0mg/mm
3以上がより好ましい。また、半導体ナノワイヤーへのガス接触効率の観点から、4.8mg/mm
3以下が好ましく、3.0mg/mm
3以下がより好ましい。
【0025】
[発光手段(光源)]
半導体ナノワイヤーには光電流を発生させるために、半導体ナノワイヤーに半導体ナノワイヤーのバンドギャップ近傍かそれより大きいエネルギーを有する光(すなわち、半導体ナノワイヤーのバンドギャップ近傍以上のエネルギーを有する光)を照射する。そのような光を発する発光手段としては、例えば、ハロゲンランプ、レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)、電界発光素子(EL)等が挙げられる。なお、ガスセンサはこのような発光手段が必ずしもセンサ部(対向電極とその間に配置された半導体ナノワイヤー)と一体化されていなくてもよく、このような発光手段が発光する光が対向電極間の半導体ナノワイヤーへ到達し得る構成であればよい。また、このような発光手段が発光する光を利用しなくても、自然光が対向電極間の半導体ナノワイヤーへ到達し得る構成であってもよい。
【0026】
ここでいう、「半導体ナノワイヤーのバンドギャップ近傍」とは、半導体ナノワイヤーの光吸収で光電流が発生し得るエネルギー、すなわち、半導体のバンドギャップ内の不純物準位あるいはエキシトン準位などを介して、伝導帯へ熱的励起されて光伝導電流となる、光過程も含むことを意味する。
【0027】
なお、半導体ナノワイヤーへの光の照射強度は特に限定はされないが、通常、半導体ナノワイヤーへの光の照射強度が0.05mW以上、好ましくは0.2mW以上、より好ましくは1mW以上、さらに好ましくは2mW以上となるように、発光手段の選択、発光手段の動作条件、発光手段と半導体ナノワイヤー間の距離等を調整するのが好ましい。なお、半導体ナノワイヤーへの光の照射強度の上限は特に限定はされないが、5mW以下が好ましく、2.5mW以下がより好ましい。
【0028】
[測定対象ガス]
本発明のガスセンサでは、半導体ナノワイヤーに吸着して、自体がもっている電子(正孔)を半導体ナノワイヤーへ注入するガスであれば、測定対象となる。例えば、有機ガスであれば、メタン、エタン、n−ブタン、イソブタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、n−ペンタン、2−メチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、n−ヘキサン、3−メチルヘキサン、n−ヘプタン、3−メチルヘプタン、ノナン、デカン、ウンデカン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキシル、プロピレン、cis−2−ブテン、trans−2−ブテン、2−メチル−2−ブテン、2−メチル−1−ブテン、1,3−ブタジエン、イソプレン、cis−2−ペンテン、trans−2−ペンテン、1−ヘプテン、ジペンテン、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、クメン、スチレン、ナフタレン、テトラリン、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、臭化メチル、クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、塩化ビニル、1,1−ジクロロエチレン、n−プロピルブロマイド、1,2−ジクロロプロパン、塩化アリル、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、フェノール、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酸化プロピレン、エチレンオキシド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ギ酸メチル、酢酸エチル、トリフロロ酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピオン酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソ
プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジメチルスルホキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ピリジン、ピペリジン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトニトリル、アクリロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、トリフ
ルオロメチルプロ
ピルケトン等が挙げられる。また、無機ガスであれば、二酸化炭素、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、二硫化炭素、アンモニアなどが挙げられる。
【0029】
以下、具体的なガスセンサの構成例を説明する。
1.光透過電極型ガスセンサ
図1は光透過電極型ガスセンサの第1例の模式側面図を示す。図において、1は基盤(不透明)、2、3は対向電極、4は半導体ナノワイヤー、5は電源、6は電流計、7はショート時の回路保護のための保護用抵抗、8は透明絶縁基板を示す。
【0030】
対向電極の一方の電極2は透明電極(例えば、ITO等)9からなり、対向電極の他方の電極3は金薄膜層21/銅層22の積層構成の不透明電極である。
【0031】
金薄膜層21の層厚は特に限定はされないが3.8〜4.0μm程度が好適であり、また、透明電極9の層厚は特に限定はされないが25〜280nm程度が好適である。
【0032】
電極3は、例えば、銅箔の表面にスパッタリング、蒸着、めっき等で金薄膜を形成することで得ることができる。なお、銅箔の表面にNi−P合金めっきを行ってから金めっきを行うことで、銅箔への金めっき膜の密着性を高めることができる。
【0033】
透明絶縁基板8は、例えば、ガラス板、透明プラスチック板等が使用される。
【0034】
基盤1は、絶縁性材料であれば、特に限定はされないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の硬化性樹脂や、硬化性樹脂とガラス繊維の複合物等が挙げられる。
【0035】
半導体ナノワイヤー4はワイヤーの飛散防止とワイヤーの集合状態の維持のために、個々のワイヤー間がPMMA(ポリメタクリル酸メチル)やポリビニルアルコール(PVA)等の透明樹脂バインダーにて結着されていてもよい。結着された場合、透明樹脂バインダーはワイヤーの飛散防止とワイヤーの集合状態の維持の効果を有するだけでなく、ワイヤー間の絶縁体もしくは電流障壁として機能して、ベース電流(I
b)を減少させる作用も有する。
【0036】
対向電極2、3の隙間において、半導体ナノワイヤーと透明樹脂バインダーとの存在比(半導体ナノワイヤー/透明樹脂バインダー)は、半導体ナノワイヤーの飛散防止と集合状態の維持、および、ワイヤー間での絶縁体もしくは電流障壁としての役割の観点から、体積比で、100/7以上が好ましく、100/10以上がより好ましく、ワイヤーへのガス接触性能の観点から、体積比で、100/20以下が好ましく、100/15以下がより好ましい。
【0037】
該第1例のガスセンサでは、透明絶縁基板8と透明電極9を通して半導体ナノワイヤーに光が照射され、かつ、対向電極2、3の側部にも対向電極2、3の隙間に光が導入される構成が採られている。
【0038】
このガスセンサでは、光電流変化の計測を可能にし、かつ、対向電極間の電界強度を最適化するためのセンサの各部の寸法および電気的条件の好適範囲は以下の通りである。
(1)対向電極のオーバーラップ面積(対向面が実際に重なり合う領域):0.1〜0.8mm
2(好ましくは0.1〜0.5mm
2)
(2)対向電極の電極間距離:0.01〜0.30mm(好ましくは0.02〜0.07mm)
(3)対向電極への印加電圧:−100〜+100V程度(好ましくは−8〜−0.5V、+0.5〜+10V程度)
【0039】
該第1例のガスセンサでは、光伝導に寄与する主たるキャリアが正孔であるため、半導体ナノワイヤーが電子供給型のガスが接触することで光電流は減少し、正孔供給型のガスが接触することで、光電流は増加する。
【0040】
以下、かかる光透過電極型ガスセンサの第1例のガスセンサによる動作例を示して、本発明のガスセンサにおけるガス検出について説明する。
【0041】
図2は対向電極のオーバーラップ面積を0.344mm
2、電極間距離を0.069mmに設定し、対向電極間にSeNWを1.56mg/mm
3の存在量で介在させたガスセンサに、0.5Vの印加電圧を与え、レーザーポインター(サクラクレパス製、RX−4、1mWタイプ、波長:649nm、光子エネルギー(E
ph):1.91eV)からの光をSeNWに照射強度が0.75mWにて照射してSeNWを光励起させて光電流を発生させ、エタノールガス(エタノール濃度が9052ppmのエタノールと空気の混合ガス)を流速0.2L/minでSeNWに接触させたときの光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0)[I
P=I
ph+I
b]の変化を示す。
【0042】
また、
図3は、0.5Vの印加電圧を与え、He−Neレーザー(NEC製、GLG5370、3mWタイプ、波長:633nm、光子エネルギー(E
ph):1.96eV)からの光をSeNWに照射強度が2.14mWにて照射してSeNWを光励起させて光電流を発生させ、エタノールガス(エタノール濃度が0.6ppmのエタノールと空気の混合ガス)を流速0.2L/minでSeNWに接触させたときの光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0)の変化を示す。
【0043】
図2、3から、SeNWに電子供給型のガスであるエタノールガスが接触すると(図中のgas on)、光電流値(光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0))は減少し、エタノールガスの接触がなくなると(図中のgas off)、光電流値(光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0))が元の値に戻っていくことが分かる。特に、
図3は、低濃度のガスであっても、SeNWのガスの吸着に伴う光電流値(光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0))の変化が明確に現れることを示している。
【0044】
このように、本発明のガスセンサにおいては、半導体ナノワイヤーにガスが接触すると、半導体ナノワイヤーへのガス吸着に伴って光電流値(光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0))が変化するので、この光電流値(光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0))の変化を計測することで、ガスを検出することができる。
【0045】
なお、
図2、3は電子供給型のガスであるエタノールガスのSeNWへの接触および接触がなくなることにともなう光電流値の変化を示しているが、正孔供給型のガス(例えば、二酸化窒素等)の場合、光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0)の変化は、光電流値が増加し、
図2、3とは逆の挙動を示す。
【0046】
また、
図4は該第一例のガスセンサにおいて、ハロゲンランプ(12V、150W、ピーク波長:689nm)からの光をSeNWに平均照射強度が70μW/mm
2にて照射してSeNWを光励起させて光電流を発生させたときの、SeNWにガスを接触させていない状態での光電流スペクトル(実線、I
P0)、SeNWにエタノールガスを接触させたときの光電流スペクトル(破線、I
P,ethanol)およびSeNWに1−ブタノールガスを接触させたときの光電流スペクトル(一点鎖線、I
P,1-butanol)を示す。
【0047】
図4から1−ブタノールガスがSeNWに接触したときの光電流値(光電流の電流強度(I
P,1-butanol))は、エタノールガスがSeNWに接触したときの光電流値(光電流の電流強度(I
P,ethanol))よりも小さくなることが分かる。よって、本発明のガスセンサにおいては、ガスの種類によって、半導体ナノワイヤーへのガスの接触および接触がなくなることに伴う光電流の電流強度(I
P,1-butanol)の変化の挙動が異なることが明らかである。
【0048】
なお、
図5は、
図4の実験結果を用いて計算されたセンサ感度Sのエネルギー(光子エネルギー)依存性を示す。なお、ここでいうセンサ感度SはS=ΔI
P/I
P0であり、SeNWへのガスの接触による光電流の電流値変化量ΔI
P=(I
P0−I
Pi)[I
Piは、ガスの接触によるエタノールガスおよび1−ブタノールガスの光電流値]をガスを接触させていない状態(ブランク時)での光電流スペクトルI
P0で正規化したものである。
【0049】
この図は、SeNWのバンドギャップ近傍(1.6eV付近)のエネルギーの光がSeNWに照射されても、センサとして機能し、しかも、センサ感度Sがバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射したときよりも3倍程度高くなることを示している。これは、バンドギャップ近傍のエネルギーの光が半導体ナノワイヤーの結晶内部へより入り込むことが出来ることによるものと考えられる。
【0050】
このように、本発明のガスセンサにおいては、光電流の電流値変化量ΔI
Pを計測することで、その変化の大きさの違い、すなわち、センサ感度Sから、ガスの種類を識別することも可能である。
【0051】
図6は対向電極間に0.5Vの印加電圧を与え、前述のレーザーポインター(サクラクレパス製、RX−4、1mWタイプ、波長:649nm、光子エネルギー(E
ph):1.91eV)からの光をSeNWに照射強度が最大かつ一定となるように照射してSeNWを光励起し、SeNWに流速0.2L/minのエタノールガス(エタノールガス濃度が0.6ppm〜9052ppmのエタノールガスと空気の混合ガス)を流した時の、エタノールガス濃度と感度Sとの関係を示す。なお、図には、本例のガスセンサの感度S(△のプロット)とともに、特許文献1に記載の従来のガスセンサに対応するガスセンサ(SeNWに光照射を行わず、SeNWに流れるベース電流のSeNWへのガスの吸着に伴う電流変化を計測するガスセンサ)における感度S(○のプロット)も示した。
【0052】
図6からガスセンサがSeNWへ接触するガスの濃度に対して固有の感度Sを示すことが分かる。従って、本発明のガスセンサにおいては、ガス空気中の特定ガスの濃度を検出することができる。また、これまで測定できなかった1ppm以下のレベルの感度を得ることが可能である。なお、ここでいう感度SはS=ΔI
P/I
P0であり、SeNWへのガスの接触による光電流の電流値変化量ΔI
P=(I
P0−I
Pm)[I
Pmは、ガスの接触による光電流の最小値]を初期電流値I
P0で正規化したものである。
【0053】
図7は光透過電極型ガスセンサの第2例の模式側面図を示す。図において、
図1と同一符号は同一または相当する部分を示し、13はドーム型封止樹脂(透明樹脂)の先端を平坦面にカットしたLEDチップである。なお、透明絶縁基板8とLEDチップ13の封止樹脂(透明樹脂)14とは透明接着剤(図示せず)により接着固定してもよい。
【0054】
このセンサでは、半導体ナノワイヤー4の近傍に光源(LED)が配置されるので、半導体ナノワイヤー4に到達するまでの励起光強度の減衰が少なく、効率良く半導体ナノワイヤー4の光励起を行なうことができる。
【0055】
図8は光透過電極型ガスセンサの第3例の模式側面図を示す。
図において、
図1と同一符号は同一または相当する部分を示し、12は透明絶縁層、11は導電層を示す。
【0056】
透明絶縁層12には、例えば、PMMA層、雲母(マイカ)層等が使用される。透明絶縁層12の厚さは一般に0.1〜3.0μm(好ましくは0.4〜2.0μm)である。また、導電層11は1平方インチ当たりの電気抵抗が0〜50Ω程度であることが好ましく、また、粘着性を有していること(すなわち、粘着性導電層)が好ましい。また、厚みは0.05〜0.25mm程度が好適である。粘着性導電層の具体例としてはカーボンテープ(導電性フィラーとしてカーボン粉を含んだ両面粘着テープ)が挙げられる。導電層11が粘着性導電層であることで、導電性のみならず半導体ナノワイヤーの飛散防止とワイヤーの集合状態の維持を図ることができる。
【0057】
このガスセンサでは、電極2(透明電極9)および電極3(銅電極22)の間に流れる電流が、透明絶縁層12により阻害されるため、半導体ナノワイヤーに対する伝導効率の飛躍的な向上を促す導電層11を設けることにより、光電流およびベース電流(I
b)の最適な電流量を確保することができる。透明絶縁層12がなく導電層11のみの場合、このような最適化が図れず、光電流(I
ph)がベース電流(I
b)に埋もれてしまう。透明絶縁層12と導電層11の両方を用いた場合、半導体ナノワイヤーへの光照射によって生成された光キャリアには、電極2および電極3による電界のみを有効に印加することができるので、光照射により半導体ナノワイヤー内で発生した光電流を導電層11により電極3側へ効率的に取り込むことが出来る。
【0058】
なお、電極2(透明電極9)が電極3(銅電極22)に対して、正極の場合、電流計6と電極3(銅電極22)の間にダイオードを入れることにより、電流計への電流を一方向のみの電流にすることにより、測定電流のふらつきを軽減させることが出来る。
【0059】
導電層11を有さない第1例のガスセンサ(
図1)では、半導体ナノワイヤー4と電極3の金属との間にショットキー障壁が出来ているため、実質的に小さなダイオードを有することに成る。しかし、導電層11を有する本例のガスセンサ(
図8)では、ショットキー障壁がなくなるため、電流が良く通るようになる反面、光によって発生した逆電流の影響による電流ノイズが大きくなる傾向にある。このため、対向電極の外部にダイオードを設けるのが好ましい。
【0060】
このガスセンサ(
図8)において、光電流変化の計測を可能にし、かつ、対向電極間の電界強度を最適化するためのセンサの各部の寸法および電気的条件の好適範囲は以下の通りである。
(1)対向電極のオーバーラップ面積(対向面が実際に重なり合う領域):0.1〜0.8mm
2(好ましくは0.1〜0.5mm
2)
(2)対向電極の電極間距離:0.01〜0.5mm(好ましくは0.08〜0.3mm)
(3)対向電極への印加電圧:−10〜+10V程度(好ましくは8〜−0.5V,+0.5〜+10V程度)
【0061】
図9は光透過電極型ガスセンサの第4例の模式側面図を示す。図において、
図7、8と同一符号は同一または相当する部分を示す。このセンサでは、第2例のガスセンサ(
図7)と同様に、半導体ナノワイヤー4の近傍に光源(LED)が配置されるので、半導体ナノワイヤー4に到達するまでの励起光強度の減衰が少なく、効率良く半導体ナノワイヤー4の光励起を行なうことができる。
【0062】
このガスセンサ(
図9)において、光電流変化の計測を可能にし、かつ、対向電極間の電界強度を最適化するためのセンサの各部の寸法および電気的条件の好適範囲は以下の通りである。
(1)対向電極のオーバーラップ面積(対向面が実際に重なり合う領域):0.1〜0.8mm
2(好ましくは0.1〜0.5mm
2)
(2)対向電極の電極間距離:0.01〜0.5mm(好ましくは0.08〜0.3mm)
(3)対向電極への印加電圧:−10〜+10V程度(好ましくは8〜−0.5V,+0.5〜+10V程度)
【0063】
このガスセンサの動作例を示す。
対向電極のオーバーラップ面積:0.5×0.5mm
2、透明絶縁層の厚み:1.66μm、半導体ナノワイヤー:SeNW(2mg/mm
3)、対向電極の電極間距離:0.146mm、印加電圧:2.5V、LED(Avago HLMP-C115, 637nm)による光励起強度:3.1mWに設定して、SeNWを光励起させて光電流を発生させ、エタノールガスをSeNWに接触させた。エタノールガスの供給はガスセンサから1mm離れた位置に、エタノールを含浸させた綿棒の先端をセットすることで行った。
図10はこのときの光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0)[I
P=I
ph+I
b]の変化を示す。
【0064】
後述のワイヤー電極型ガスセンサでの光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0)の変化(
図16)に比べてガス応答速度が速いことが分かる。これは、透明絶縁層と導電層の両方を用いた場合、効率の良い電界がかかるとともに、発生した光キャリアを導電層から効率よく取り出すことができていることを示唆している。
【0065】
図11は光透過電極型ガスセンサの第5例の模式側面図を示す。図において、
図7と同一符号は同一または相当する部分を示す。このガスセンサは第2例のガスセンサ(
図7)に透明絶縁層12を追加した構成である。
【0066】
このガスセンサにおいて、光電流変化の計測を可能にし、かつ、対向電極間の電界強度を最適化するためのセンサの各部の寸法および電気的条件の好適範囲は以下の通りである。
(1)対向電極のオーバーラップ面積(対向面が実際に重なり合う領域):0.1〜0.8mm
2(好ましくは0.1〜0.5mm
2)
(2)対向電極の電極間距離:0.01〜0.5mm(好ましくは0.08〜0.3mm)
(3)対向電極への印加電圧:−10〜+10V程度(好ましくは8〜−0.5V,+0.5〜+10V程度)
【0067】
このガスセンサの動作例を示す。
対向電極のオーバーラップ面積:0.5×0.5mm
2、透明絶縁層の厚み:0.30μm、半導体ナノワイヤー:SeNW(2mg/mm
3)、対向電極の電極間距離:0.091mm、印加電圧:1.0V、光源:レーザーポインター(サクラクレパス製、RX−4、1mWタイプ、波長:649nm、光子エネルギー(E
ph):1.91eV)に設定し、SeNWに照射強度が0.75mWにて照射してSeNWを光励起させて光電流を発生させ、エタノールガスをSeNWに接触させた。エタノールガスの供給はガスセンサから1mm離れた位置に、エタノールを含浸させた綿棒の先端をセットすることで行った。
図12はこのときの光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0)[I
P=I
ph+I
b]の変化を示す。
【0068】
なお、本発明において、光透過電極型ガスセンサは、第1例のガスセンサ(
図1)に対して、導電層11のみを追加した構成(
図8から透明絶縁層12を除いた構成)とすることができ、また、第1例のガスセンサ(
図1)に対して、透明絶縁層12のみを追加した構成(
図8から導電層11を除いた構成)とすることもできる。
【0069】
2.光不透過電極型ガスセンサ
光不透過電極型ガスセンサでは、対向電極の側部の隙間から半導体ナノワイヤーへ光照射される。
【0070】
図13は光不透過電極型ガスセンサの第1例の模式側面図を示す。図において、
図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。対向電極2、3のそれぞれが、金薄膜層21/銅層22の積層構成の不透明電極で構成されている。
【0071】
このガスセンサにおいて、光電流変化の計測を可能にし、かつ、対向電極間の電界強度を最適化するためのセンサの各部の寸法および電気的条件の好適範囲は以下の通りである。
(1)対向電極のオーバーラップ面積(対向面が実際に重なり合う領域):0.1〜0.8mm
2(好ましくは0.1〜0.5mm
2)
(2)対向電極の電極間距離:0.01〜0.50mm(好ましくは0.02〜0.07mm)
(3)対向電極への印加電圧:−100〜+100V程度(好ましくは−8〜0.5V、+0.5〜+10V程度)
【0072】
図14は光不透過電極型ガスセンサの第2例の模式側面図を示す。図において、
図13と同一符号は同一または相当する部分を示し、対向電極の一方の電極2の内面に絶縁層10が形成され、他方の電極3の内面には導電層11が形成され、半導体ナノワイヤー4が絶縁層10と導電層11の間に介在している。
【0073】
絶縁層10として、PMMA等のアクリル樹脂、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、テフロン等のフッ素樹脂等からなる高分子層、雲母(マイカ)、アルミナ(Al
2O
3)、酸化タンタル、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等のからなるセラミックス層が挙げられる。これらの中でも、PMMA、雲母(マイカ)は、可視光に対して透明である点から好ましい。絶縁層10の厚みは、0.1〜3.0μm程度が好適である。特に、PMMA層の場合、層厚は絶縁性能の観点から150nm以上が好ましく、260nm以上がより好ましく、リーク電流をある程度通りやすくする観点から1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
【0074】
導電層11は、光透過電極型ガスセンサの第3例のガスセンサ(
図8)における導電層11と同様のものが使用される。
【0075】
該第2例のガスセンサでは、導電層11によって半導体ナノワイヤー4の伝導効率が飛躍的に向上してベース電流(I
b)が大きくなり、そのままでは、光電流(I
ph)がベース電流(I
b)に埋もれてしまうため、導電層11を設けた電極とは反対側の電極に絶縁層10が形成されている。
【0076】
このガスセンサにおいて、光電流変化の計測を可能にし、かつ、対向電極間の電界強度を最適化するためのセンサの各部の寸法および電気的条件の好適範囲は以下の通りである。
(1)対向電極のオーバーラップ面積(対向面が実際に重なり合う領域):0.1〜0.8mm
2(好ましくは0.15〜0.35mm
2)
(2)対向電極の電極間距離:0.05〜0.30mm(好ましくは0.12〜0.26mm)
(3)対向電極への印加電圧:−100〜+100V程度(好ましくは−10〜+10V程度)
【0077】
3.ワイヤー電極型ガスセンサ
図15はワイヤー電極型ガスセンサの模式側面図(
図15(a)と模式平面図(
図15(b))を示す。図において、
図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。基盤1上に、2本の導体線(例えば、銅線、金線、錫メッキ銅線、銅線等)15、16がその先端が対向するように導かれ、2本の導体線15、16の先端が対向電極を成し、該2本の導体線15、16の先端の間に半導体ナノワイヤー4が配置されている。
【0078】
図15のワイヤー電極型ガスセンサは、
図14と同様に絶縁層と導電層の組み合わせが設けられてもよい。あるいは、一方のワイヤーの先端(電極)のみに絶縁層が設けられてもよい。
【0079】
当該ガスセンサにおいて、光電流変化の計測を可能にし、かつ、対向電極間の電界強度を最適化するためのセンサの各部の寸法および電気的条件の好適範囲は以下の通りである。
(1)2本の導体線の対向する先端の離間距離:0.1〜0.5mm程度(好ましくは0.2〜0.4mm程度)
(2)2本の導体線への印加電圧:−10〜+10V程度(好ましくは−2〜−5V、+2〜5V程度)
【0080】
以下、かかるワイヤー電極型ガスセンサの動作例を示す。
2本の導体線15、16として、エブレン株式会社製、ワイヤーラッピング用ロールワイヤー(コード外形0.9mm、コード銅線径(直径)0.6mm)を使用し、2本の導体線15、16の対向する先端の離間距離を0.35mmとし、対向する先端の間にSeNW20μgを配置し、2本の導体線15、16に4.0Vの印加電圧を与える一方、LED(Avago HLMP-C115, 637nm)チップを乾電池にて電圧(V
LED)1.9Vで動作させ、LEDチップからの光をSeNWに照射強度が3.1mWとなるように照射してSeNWを光励起させて光電流を発生させ、エタノールガス(エタノール濃度が9058ppmのエタノールと空気の混合ガス、流速0.2L/min)をSeNWに接触させた。
図16は、この時の光電流の電流強度(I
P/I
P0)の変化を示す。濃度の濃いガスにもかかわらず応答速度が速いことがわかる。また、
図17は、同様にして、エタノールガス(エタノール濃度が453ppmのエタノールと空気の混合ガス、流速0.2L/min)をSeNWに接触させたときの、光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0) [I
P=I
ph+I
b]の変化を示す。
【0081】
図16および17の結果から、並行平板型の対向電極を使用しなくても、電圧が印加された2本の導体線の先端の間に半導体ナノワイヤーを配置し、半導体ナノワイヤーに光が照射される構成を採れば、半導体ナノワイヤーへのガス吸着に伴って光電流値(光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0) [I
P=I
ph+I
b])が変化するガスセンサを簡単に実現できることが分かる。また、
図18はSeNWにエタノールガス濃度を種々変更したエタノールガスと空気の混合ガスを流速0.2L/minで流した時の、エタノールガス濃度と感度Sとの関係を示しており、ガスセンサがSeNWへ接触するガスの濃度に対して固有の感度Sを示すことが分かる。
【0082】
なお、ワイヤー電極型ガスセンサにおいては、例えば、半導体ナノワイヤーのバンドギャップ近傍以上のエネルギーの光を発する光源を内包する透明絶縁部材(例えば、LEDチップの封止樹脂)の所定部位に、2本の導体線をその先端が対向するように導き、該2本の導体線を電源に繋ぐことにより、極めて簡単にガスセンサを構成することができる。
【0083】
4.アレイ型ガスセンサ
アレイ型ガスセンサは、上述の本発明のガスセンサをガス流路のガス流れ方向に沿って複数配列したガスセンサアレイである。
【0084】
ガスセンサアレイは、単一の基板上に、複数のガスセンサと、被検ガスが流れるガス流路が設けることで、単体のデバイスとして取り扱うことができる。
【0085】
図19は単体のデバイスとしたガスセンサアレイの一具体例を模式的に示した斜視図を示す。
矩形基盤1の第1幅方向の略中央に第2幅方向に伸びる帯状のガラス板が組み込まれ、該ガラス板17の表面に帯状の透明電極(例えば、ITO電極)からなる第1電極18が形成され、その上に半導体ナノワイヤー4が配置されている。なお、半導体ナノワイヤー4はワイヤーの飛散防止とワイヤーの集合状態の維持のために、個々のワイヤー間がPMMA(ポリメタクリル酸メチル)等の透明樹脂バインダーにて結着されている。第1電極18/半導体ナノワイヤー4の積層構造部の両サイドには絶縁性壁部19A、19Bが配設され、第1電極18/半導体ナノワイヤー4の積層構造部と、絶縁性壁部19A、19Bとの間にガス流路30が形成され、絶縁性壁部19A、19B上から第1電極18上の半導体ナノワイヤー4に渡るように細幅の第2電極20(例えば、半導体ナノワイヤー側の表面に金めっきを施した銅電極)が複数配置されている。ガラス板17および第1電極18を通して例えばLED等の光源(図示せず)からの光が半導体ナノワイヤー4に照射される。なお、図中の符号31は複数の第2電極20の電極間を絶縁し、かつ、ガス流路30の上方を塞ぐためのカバーであり、符号30Aはガス導入口である。
【0086】
第1電極18と複数の第2電極20の各電極との間にセンサ部(ガスセンサ)が形成されることになり、第2電極20の数がセンサ部(ガスセンサ)の数となる。すなわち、帯状の透明電極からなる第1電極18は、複数のガスセンサの個々のガスセンサの対向する2つの電極の一方の電極として利用される共通電極になっている。
【0087】
各センサ部(ガスセンサ)毎に、電源5および電流計6を含む回路が形成されており、ガス流路30の一端にあるガス導入口30Aからガス流路30にガスGが流され、各センサ部(ガスセンサ)毎に半導体ナノワイヤー4にガスが接触することで生じる光電流変化が測定される。
【0088】
図19では、第2電極20の数は8個(すなわち、センサ部(ガスセンサ)は8個)であるが、これは紙面の制約から差し当って示したものであり、本発明のガスセンサアレイにおいて、第2電極20の数(すなわち、センサ部(ガスセンサ)の数)は、ガスの測定環境に応じて任意に設定される。また、個々のセンサ部(ガスセンサ)を
図1のガスセンサに対応させたが、
図8のガスセンサに対応させてもよい。
【0089】
矩形基盤1の寸法は、例えば、第1幅:14.0mm×第2幅:12.0mm、帯状のガラス板の幅は、例えば、1.0mm、帯状の透明電極からなる第1電極18の電極幅は、例えば、1.0mm、第1電極18上の半導体ナノワイヤーの単位面積当たりの存在量は、例えば、13〜50μg/mm
2である。また、第2電極20は、例えば、電極幅0.1〜0.2mm、隣接する電極間の間隔0.2〜0.1mmである。
【0090】
以下、ガスセンサアレイの動作例を示す。
幅1.0mm×長さが12.0mmのITO電極を積層した帯状ガラス板上に35μg/mm
2のSeNWをPMMAにて結着したSeNW層を形成し、SeNW層側の表面に金めっきを施した銅電極(幅:0.2mm、長さ:7mm)16本を0.2mmの間隔で配置した、
図19に示す構成のガスセンサアレイを作製した。2枚の銅張積層板を加工して、それらを対向配置することで、基盤1、絶縁性壁部19A、19B、第2電極20およびカバー31に充当させた。2つのガス流路30の断面(軸線と直交する断面)は、それぞれ、第1幅0.95mm×第2幅0.12mm(断面積0.11mm
2)の矩形と、第1幅1.0mm×第2幅0.12mm(断面積0.12mm
2)の矩形に設定した。
【0091】
ガス導入口に最も近い位置にあるガスセンサを第1番目のガスセンサ(det 1)とし、該第1番目のガスセンサ(det 1)からの離間距離が大きくなる順番に残りの15個のガスセンサに番号を付けた。
【0092】
LED(Avago HLMP-C115, 637nm)チップを安定化電源にて電圧(V
LED)1.8Vで動作させ、LEDチップからの光をSeNWに照射強度が1.6mWとなるように照射してSeNWを光励起させて光電流を発生させた。
【0093】
個々のガスセンサ(任意の第i番目のガスセンサ(det i))毎の光電流値は、一定電圧(30V)のもとで、GPIB(General Purpose Interface Bus)制御されたデジタルマルチメータ(ADCMT 7461A)により計測され、その測定データが、パーソナルコンピュータに取り込まれるよう構成した。GPIB制御は、National Instrument製のLabVIEWソフトにより作成されたものを用いた。最小時間分解能は0.05秒。データ解析は、Excel或いはIgorソフトにより行った。
【0094】
ガス発生は、上記作製したガスセンサアレイのガス流路のガス導入口に最も近い位置にあるガスセンサ(第1番目のガスセンサ)から1mm離れた位置に、有機溶媒を含浸させた綿棒の先端をセットすることで行った。
【0095】
ガスフローの測定は、シリンジを用いてテドラーバッグに有機溶媒を注入後、空気を注入することにより希釈したのち、ミニポンプ(柴田MP-Σ30N)を用いてバッグから取り出し、上記実施例で作製したガスセンサアレイのガス流路のガス導入口に最も近い位置にあるガスセンサ(第1番目のガスセンサ)から1mm離れた位置から任意の流速で吹きかけた。
【0096】
以上の作業を行って得られた計測データの例が
図20〜
図22である。
図20は第1電極18と第2電極20間に30Vの直流電圧を印加し、メタノールガスを流したときのガス導入口側から数えた第1番目のガスセンサ(det 1)と第9番目のガスセンサ(det 9)の光電流の時間変化スペクトルを示し、
図21はこのときの、第1番目のガスセンサ(det 1)と第9番目のガスセンサ(det 9)における光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0)[I
P=I
ph+I
b]の変化を示す。
【0097】
図22はガス流路に1−ペンタノールガス、1−ブタノールガス、エタノールガス、アセトンガスを流した時の、第1番目のガスセンサ(det 1)と第9番目のガスセンサ(det 9)間での遅延時間(Δt
1,9)(s)と、ガスの拡散速度[ηDP
0Mln[P
0/(P
0−P)](gs
−1)との関係を示す。ここで、ηは比例係数、Dはガス拡散係数、P
0は標準気圧、Mは分子量、Pはガスの蒸気圧である。
【0098】
本発明のガスセンサアレイ(アレイ型ガスセンサ)では、複数のガスセンサに一定電圧を印加した状態でガス流路に被検ガスを流したときの、それぞれのガスセンサに生じる光電流値(光電流値I
Pとガス接触前の光電流値I
P0との電流強度比(I
P/I
P0) [I
P=I
ph+I
b])の時間変化スペクトルに基づく電気的出力値(遅延時間、ピーク時間、スペクトル形状等)がガス毎に特有の値を示すことから、予めかかる値とガスの物性値とを関連付けたガス毎のガス検出マップをデータベースとして作成し、該データベースを利用してガス種の特定、混合ガスの成分比率の特定または混合ガスのガス成分の特定を行う計算部とをガスセンサアレイに付設することで、自動のガス分析システムを構成できる。
【0099】
自動ガス分析システムのための、自動計測プログラムによるガス種、混合ガス成分比等の判定法の一例を以下に示す。
【0100】
[I]ガスセンサアレイにおけるガス接触による各センサの反応開始時刻の決定、並びに、ガス種および混合ガス成分比等の測定
1.ガス接触前の初期光電流値I
0の決定:
ガス接触前のk番目のセンサdet kに流れる光電流のノイズによる時間変動を軽減するため、そのセンサに流れる光電流値の時間平均値 <I
k,0 > を求める。
【0101】
2.ガス接触による光電流値の減少の有無の判定:
k番目のセンサdet kがガス接触により反応し、このセンサに流れる光電流値I
kは、<I
k,0 >から減少しはじめる。このとき、測定時刻t
k,jにおける光電流値I
k,j(t
k,j)を計測し、 [ I
k,j(t
k,j) − <I
k,0> ] を計算し、正負を判定し、負となる回数n
kを求める。この値があらかじめ設定されたk番目のセンサdet kに対して負となる回数の上限値N
kと比較し、N
kに達するか否かを判定する。
【0102】
3.ガス接触による反応開始時刻の決定:
k番目のセンサdet k において、2.でN
kに達したと判定した場合、N
kに達した時刻t
k,j,Nから遡った時刻(t
k,j,N − N
k・Δt)[Δtは、データ取得時間間隔(装置の測定分解能)]をt
k,onとする。
【0103】
4.反応開始の時間差Δt
1,kの算出:
3.で求めた各センサdet kの反応開始時刻t
k,onの値を用いて、1番目のセンサdet 1のt
1,on値との反応開始の時間差 Δt
1,k= t
k,on − t
1,onを算出する。
【0104】
5.ガス種、混合ガス成分比等の決定:
Δt
1,kの値
を、あらかじめ得られているデータと比較することにより、ガス種、混合ガス成分比等を決定することが可能となる。
図23にフローチャート示す。
【0105】
[II]センサ
感度Sの測定
ガス種の判定は、例えば、本願の発明者等による特許第5120904号に記載の単体型センサによるセンサ
感度Sを自動計測により判定するプログラムを組み合わせることにより、より精度が増す。以下にそのプログラムを示す。なお、測定は、ガスセンサアレイの1番目のガスセンサ(det 1)を用いるが、以下のプログラムでは、ガスセンサアレイの各センサにおけるものとした。
【0106】
1.ガス接触前の初期光電流値I
0の決定:
ガス接触前のk番目のセンサdet kに流れる光電流のノイズによる時間変動を軽減するため、そのセンサに流れる光電流値の時間平均値 <I
k,0 > を求める。
【0107】
2.ガス接触による光電流値の減少の有無の判定:
k番目のセンサdet kがガス接触により反応し、このセンサに流れる光電流値I
kが<I
k,0 >から減少しはじめる。このとき、測定時刻t
k,jにおける光電流値I
k,j(t
k,j)をあらかじめ指定された時間間隔で平均処理を行いながらデータ取得する。測定時刻t
k,jとt
k,j+1との光電流値の差ΔI
k,j,J+1 = <I
k,J+1 (t
k,j+1)> − <I
k,j (t
k,j)>を計算し正負を判定する。
【0108】
3.ガス接触によるk番目のセンサdet kの光電流値の最小値の決定:
k番目のセンサdet kの光電流値が、2.の判定により負から正へ変わった時刻t
k,mにおける光電流値<I
k,m (t
k,m)>が求める最小値となる。
【0109】
4.センサ感度の計算:
k番目のセンサdet kのセンサ感度Sは、[<I
k,0 > − <I
k,m (t
k,m)>] / <I
k,0 >として求まる。
【0110】
5.ガス種の決定:
S値を、あらかじめ得られているデータと比較することにより、ガス種を決定することが可能となる。
【0112】
本明細書中の前述の各タイプのガスセンサの動作例および以下に示す実験例におけるLEDおよびレーザーの光強度の測定は、コヒレント社製の光計測システム(LABMASTER)およびその光検出ヘッド(LM−2、CW測定用、測定可能レンジ10nW〜5W、分解能1nW)を用いて行なった。すなわち、光源(LED、レーザー)と光検出ヘッドとの距離を、光源(LED、レーザー)とガスセンサ内の半導体ナノワイヤー(SeNW)への距離(照射距離)と略同じにして、光源の光強度を測定した。したがって、LEDおよびレーザーの光強度は半導体ナノワイヤーへ当たる光の照射強度に相当する。なお、使用したLED(Avago HLMP-C115,637nm)の広がり角は15度であり、レーザーポインター(サクラクレパス製、RX−4、1mWタイプ、波長:649nm、光子エネルギー(E
ph):1.91eV)の広がり角は0.1度、ビーム径は0.6mmであり、He−Neレーザー(NEC製、GLG5370、3mWタイプ、波長:633nm、光子エネルギー(E
ph):1.96eV)の広がり角は1.23mrad、ビーム径は0.65mmである。したがって、光検出ヘッドでは、光源(LED、レーザー)の光強度そのものが計測されることになる。また、センサへの各光源からの光照射はレンズ等を用いることなくそのままの光でもって測定しているため、上記の条件にてパワー密度への変換も可能であるが、ここでは、光検出ヘッドでの出力結果をそのまま光強度とした。
【0113】
以下、本発明のガスセンサにおける、対向電極間の電界強度と感度との関係、半導体ナノワイヤーへの光照射強度と感度との関係等を検証した実験例を示す。
【0114】
(実験例1)
光透過電極型ガスセンサの第2例のガスセンサ(
図7)と第4例のガスセンサ(
図9)において、対向電極間の電界強度Eを種々変更した時のガスセンサの感度Sを測定した。
図25はその結果である。なお、第2例のガスセンサは、対向電極間に絶縁層や導電層は挿入せず、半導体ナノワイヤー(層)のみを挟み込んでおり、第4例のガスセンサは、対向電極間に透明絶縁層と導電層を挿入している。よって、図中の「単挟み込み」は第2例のガスセンサを指し、「透明絶縁層と導電層」は第4例のガスセンサを指す。
【0115】
図25より、対向電極間の電界強度Eがセンサ感度Sに大きく影響することがわかる。すなわち、対向電極間の電界強度Eが大きい(対向電極への印加電圧が高い)状態では、半導体ナノワイヤーに光電流が多く流れるものの、電流を司るキャリア(光電流キャリア)の速度が速いために、ガスの持っている双極子によってキャリアを効率よく捕まえることができなくなる(すなわち、半導体ナノワイヤーの表面付近の光電流キャリアがガスから注入された電子(正孔)と効率良く遭遇して中和することができなくなる)。センサ感度Sは、ガスから注入された電子(正孔)による光キャリアの捕獲の割合で決まるため、光電流が大量に流れても、電界強度Eの増大による影響により、光キャリアの捕獲効率が悪くなり、センサの感度Sの値が低下してしまう。従って、本発明のガスセンサでは、センサ感度Sは、対向電極間の電界強度Eを最適化することが重要であり、対向電極間の電界強度Eが絶対値で3〜34V/mm(好ましくは6〜20V/mm)の範囲内となるセンサ構成を採ることが好ましいことがわかる。
【0116】
実験に供したセンサの構成は以下の通り。
対向電極のオーバーラップ面積:0.5×0.5mm
2
半導体ナノワイヤー:SeNW(1.56mg/mm
3)
対向電極の電極間距離:0.05〜0.30mm
光源:LED(Avago HLMP-C115, 637nm)3.1mW
被検ガス:エタノールガス(ガス発生は、ガスセンサから1mm離れた位置に、エタノールを含浸させた綿棒の先端をセットすることで行った。)
註)以上のセンサ構成は第2例のガスセンサと第4例のガスセンサの共通項目
【0117】
透明絶縁層:PMMA層(厚み:0.75〜1.66μm)
導電層:カーボンテープ(厚み:0.16mm)
【0118】
対向電極間の電界強度の調整は対向電極の電極間距離の異なる素子を作製し、さらに印加電圧を調整することにより行った。
【0119】
(実験例2)
光透過電極型ガスセンサの第2例のガスセンサ(
図7)と第4例のガスセンサ(
図9)において、LED(Avago HLMP-C115, 637nm)の光強度および印加電圧Vを変化させて、光電流の測定電流値I
ph+I
bとベース電流I
bとの比(I
ph+I
b)/I
bの値を調整し、エタノールガスのS値を測定した。
図26はその結果である。
【0120】
図26から、センサ感度Sが大きな値を得るには、光照射による測定電流値(I
ph+I
b)とベース電流値(I
b)との比((I
ph+I
b)/I
b)が1.5〜70(好ましくは1.8〜10)の範囲内となるセンサ構成を採ることが好ましいことがわかる。
【0121】
実験条件は以下の通りである。
実験に供したセンサの構成は以下の通り。
対向電極のオーバーラップ面積:0.5×0.5mm
2
半導体ナノワイヤー:SeNW(1.56mg/mm
3)
対向電極の電極間距離:0.05〜0.30mm
光源:LED(Avago HLMP-C115, 637nm)0〜3.2mW
印加電圧:0.5〜1.0V
被検ガス:エタノールガス(ガス発生は、ガスセンサから1mm離れた位置に、エタノールを含浸させた綿棒の先端をセットすることで行った。)
【0122】
(実験例3)
光透過電極型ガスセンサの第2例のガスセンサ(
図7)において、LED(Avago HLMP-C115, 637nm)の光強度を種々変更してエタノールガスのS値を測定した。
図27はその結果である。
実験条件は以下の通りである。
対向電極のオーバーラップ面積:0.5×0.5mm
2
半導体ナノワイヤー:SeNW(1.56mg/mm
3)
対向電極の電極間距離:0.021mm
光源:LED(Avago HLMP-C115, 637nm)0〜3.2mW
印加電圧:0.3V
被検ガス:エタノールガス(ガス発生は、ガスセンサから1mm離れた位置に、エタノールを含浸させた綿棒の先端をセットすることで行った。)
【0123】
光電流I
ph=0のとき、光電流の測定電流値I
ph+I
bは、I
bとなり、ベース電流でのガス反応、すなわち、従来の光照射を行わないガスセンサ(特許文献1のガスセンサ)におけるS値に相当する。
図26から、光電流I
phが流れた状態での測定では、少量の光電流I
ph(すなわち、低電圧印加=低電界強度)により、光電流I
ph=0(ベース電流I
bのみの従来のセンサ)に比べてS値の増大(すなわち、センサ感度の向上)が生じていることが分かる。
なお、
図26では、(I
ph+I
b)/I
b=3より、I
ph=2・I
b程度がSの最適条件と考えられる。また、(I
ph+I
b)/I
bが1
03付近では、(I
ph+I
b)/I
bが1に比べてSの値が小さくなっているが、これは、高印加電圧で得られる大きな光電流では、発生した光キャリアを捕獲できないことによるものである。
【0124】
光電流密度Jは、J=qnμEで表される。ここで、qは電荷(電子or正孔)、nは光励起によって発生したキャリア密度、μはキャリアの移動度、Eは電界強度である。キャリア密度nは光励起強度の増大とともに大きくなり、電界強度E=V/dは、印加電圧Vの増大とともに大きくなるし、センサギャップdが小さくなると増大する。一方、I
ph+I
bは、Jに比例する。従って、対向電極の隙間(センサギャップ)dおよびVを調整して、最適な電界強度Eとし、SeNWへの光の照射強度を調整して、I
ph=2・I
bにすれば、最適な光キャリア密度nとすることができると考えられる。しかし、LEDの光強度に基づく実際の測定結果(
図27)では、比較的微弱光でS値が飽和した。これは、キャリア密度nの光励起による飽和はその寿命時間が関係していると考えられる。
したがって、この結果から、半導体ナノワイヤーへの光の照射強度については、幅広い範囲の設定が可能であり、このため、対向電極間の電界強度を最適化することが重要であることが分かった。
また、対向電極の隙間(センサギャップ)に絶縁体(透明絶縁層)を挿入することで、対向電極間の電界強度が下がり、ベース電流I
bを小さくできるので、半導体ナノワイヤーへの照射光の電力を下げることが可能であることが分かった。
【0125】
図28は、実験例3の実験で得られたガス接触前の光電流I
ph+I
bから、ベース電流I
bを差し引くことによって、素子の光電流I
phのみを求め、LEDの光強度との関係を調べたものある。
実験条件は以下の通りである。
対向電極のオーバーラップ面積:0.5×0.5mm
2
半導体ナノワイヤー:SeNW(1.56mg/mm
3)
対向電極の電極間距離:0.021mm
光源:LED(Avago HLMP-C115, 637nm)0〜3.2mW
印加電圧:0.3V
【0126】
図28ではLEDの光強度にI
phはほぼ比例して増加しているが、
図27のS値は0.6mW以上で飽和している。このことは、0.6mW以上では、光の強度が少々揺らいでも同じ測定値を得ることが可能であることを示唆しており、本発明のガスセンサは自然光のような光強度が変動する光の半導体ナノワイヤーの照射によっても使用できることが示唆された。