(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番および398番のアラニン残基以外の1もしくは2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群より選ばれる少なくとも1種のGroELサブユニット変異体を含む複数のGroELサブユニットからなるシャペロニン変異体と、
金属ナノ粒子と、
GroESサブユニットと、
を接触させて、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドを加えて、前記複数のGroELサブユニットで前記金属ナノ粒子を包囲することを含むシャペロニン複合体の製造方法。
前記シャペロニン変異体と前記金属ナノ粒子との接触は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドと、GroESサブユニットとの存在下に行われる請求項1に記載のシャペロニン複合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<シャペロニン複合体>
本発明のシャペロニン複合体は、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番および398番のアラニン残基以外の1もしくは2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群より選ばれる少なくとも1種のGroELサブユニット変異体を含む複数のGroELサブユニットからなるシャペロニン変異体と、前記複数のGroELサブユニットに包囲された金属ナノ粒子と
、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドと、GroESサブユニットと、を有する。すなわち前記シャペロニン複合体は、複数のGroELサブユニットで包囲されてなる空洞に金属ナノ粒子が内包された金属ナノ粒子含有シャペロニン複合体である。
特定構造のGroELサブユニット変異体を含んで構成されるシャペロニン変異体は、優れた効率で金属ナノ粒子が内包されたシャペロニン複合体を生成することができる。また内包される金属ナノ粒子の粒子径の均一性に優れる。さらに前記シャペロニン複合体は、所定の時間経過後には、内包された金属ナノ粒子を放出可能である。
【0014】
これは例えば以下のように考えることができる。Nature、Vol.423、p628〜632(2003)に記載の複合体は、ATP等の非存在下にシャペロニン分子とCdSナノ粒子の自発的な相互作用により形成されるため、生成効率が充分とは言い難い。一方、本発明のシャペロニン複合体は、ATPの加水分解速度が抑制されたGroELサブユニット変異体を含むシャペロニン変異体を有するため、ATP等とGroESサブユニットの存在下に形成されることが可能である。これにより、シャペロニン変異体に金属ナノ粒子が効率的に内包されると考えることができる。また前記シャペロニン複合体はGroESサブユニットを更に含む場合に、シャペロニン変異体と金属ナノ粒子の相互作用が強化されると考えることができる。
【0015】
また前記シャペロニン変異体は、分散状態にある金属ナノ粒子を取り込んで、シャペロニン複合体を形成する。すなわち、前記シャペロニン変異体は凝集状態の金属ナノ粒子とシャペロニン複合体を形成しないことから、内包される金属ナノ粒子の粒子径が均一になると考えることができる。
【0016】
尚、本明細書においては、複数のGroELサブユニットからなり、GroELサブユニットに包囲された空洞を有するGroELサブユニット多量体を「シャペロニンGroEL」、GroELサブユニットとして少なくとも1つのGroELサブユニット変異体を含むシャペロニンGroELを「シャペロニン変異体」、シャペロニン変異体と金属ナノ粒子との複合体を「シャペロニン複合体」と称する。また「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
(シャペロニン変異体)
前記シャペロニン変異体に含まれるGroELサブユニット変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を有する第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番および398番のアラニン残基以外の1もしくは2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは付加されたアミノ酸配列からなる第二のGroELサブユニット変異体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
前記第二のGroELサブユニット変異体としては、ATPの加水分解活性が野生型GroELサブユニットよりも低下しているものであれば特に制限はない。前記第二のGroELサブユニット変異体は、配列番号1のアミノ酸配列のうち52番および398番のアラニン残基以外の位置における、アミノ酸残基の置換、欠失、もしくは付加した変異部位の数が15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。
【0018】
前記アミノ酸残基の置換としては、以下のような具体例が挙げられる。
一般にタンパク質の機能を維持するためには、置換するアミノ酸残基は、置換前のアミノ酸残基と類似の性質を有するアミノ酸残基であることが好ましい。このようなアミノ酸残基の置換は、保存的置換と呼ばれている。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸残基に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸残基としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸残基としては、Asp及びGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸残基としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸残基の置換は好ましく許容される。
【0019】
前記アミノ酸残基の置換は、前記第二のGroELサブユニット変異体に機能を追加するものであってもよい。新たな機能を付加する置換の具体例としては、例えば、野生型GroELの490番のアスパラギン酸残基をシステイン残基に変異させた変異体(Nat. Biotechnol., 2001 Sep; 19(9): 861-5.)が挙げられる。かかる変異は、シャペロニン変異体をガラス基板等に固定化することを可能にする。また、265番のアスパラギン残基をアラニン残基に変異させた変異体(Biochem. Biophys. Res. Commun. 2000 Jan 27; 267(3): 842-9.)を挙げることもできる。かかる変異は金属ナノ粒子をより効率的にシャペロニン変異体に内包することを可能にする。
【0020】
また前記第二のGroELサブユニット変異体は、前記第一のGroELサブユニット変異体と同様の機能を有するものであっても、さらに機能が追加されたものであってもよい。これらの具体例としては、例えば、GroELサブユニットにおけるC末端の繰返し配列を欠失、付加した変異体(Cell, 2006 Jun 2; 125(5): 903-14.)を挙げることができる。かかる変異は、シャペロニン変異体の空洞の体積を変化させることを可能とする。
更に前記第二のGroELサブユニット変異体は、用途に応じて、1以上のアミノ酸残基がさらに付加したものであってもよい。このような付加可能なアミノ酸残基としては、シグナルペプチド、タグ配列等を構成しうるアミノ酸残基を挙げることができる。
【0021】
前記第二のGroEL変異体サブユニットとしては、前記具体例として挙げた変異以外の変異を有するものであってもよい。そのような変異としては例えば、Cell. 2002 Dec 27; 111(7): 1027-39.等に記載された特定のタンパク質をより効率的にフォールディングすることを可能にする変異や、Cell. 1995 Nov 17; 83(4): 577-87.等に記載された単一のリングからなる7量体を形成することを可能にする変異等をあげることができる。
【0022】
前記GroELサブユニット変異体は、例えば、GroELサブユニット変異体をコードする塩基配列からなるDNAを通常用いられる方法で発現させることで製造することができる。具体的には、GroELサブユニット変異体をコードする塩基配列からなるDNAを含む組換えベクターを、組換えベクターに応じて選択される宿主細胞に感染させて、宿主細胞を培養することで製造することができる。
前記GroELサブユニット変異体の製造方法の詳細については、例えば、特開2008−294487号公報に記載の製造方法を参照することができる。
【0023】
前記シャペロニン変異体は、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番および398番のアラニン残基以外の1もしくは2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群より選ばれる少なくとも1種のGroELサブユニット変異体を含む。すなわち、前記シャペロニン変異体を構成する複数個(好ましくは7個、より好ましくは14個)のGroELサブユニットのうち、少なくとも1個は上記のGroELサブユニット変異体である。
【0024】
前記シャペロニン変異体は、従来知られているシャペロニン変異体(例えば、GroEL(D398A))と比べて顕著にATPの加水分解活性が低下している。そのため形成されたシャペロニン複合体は、所定の時間、安定的に金属ナノ粒子を内包することができる。
また前記シャペロニン複合体は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドとGroESサブユニットの存在下に、金属ナノ粒子を内包可能であるため、金属ナノ粒子の内包効率が高く、シャペロニン複合体を優れた効率で生成することができる。
さらに前記シャペロニン変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、シャペロニン変異体を構成する2つのリングの空洞に同時に金属ナノ粒子を内包することができるため、より効率的に金属ナノ粒子をシャペロニン複合体内に内包することができる。
【0025】
前記シャペロニン変異体を構成するGroELサブユニットの数は、金属ナノ粒子を内包可能であれば特に制限はない。前記シャペロニン変異体はGroELサブユニットの7量体であることが好ましく、より好ましくは14量体である。また前記シャペロニン変異体を構成するGroELサブユニット群のうち、前記GroELサブユニット変異体の総数は少なくとも1とすることができる。前記シャペロニン変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、ATPの加水分解活性の観点から、GroELサブユニット変異体の総数は、7以上であることが好ましく、14であることがより好ましい。
尚、前記シャペロニン変異体は、GroELサブユニット変異体を含むGroELサブユニット群から、通常の条件下、例えば、ATP依存的(Nature, 1990 Nov 22; 348(6299): 339-42)に形成される。
【0026】
(金属ナノ粒子)
前記シャペロニン複合体は、金属ナノ粒子の少なくとも1種を含む。前記金属ナノ粒子としては、金属元素を含むナノ粒子であって、前記シャペロニン変異体に内包可能なものであれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。前記金属ナノ粒子は、実質的に単一の金属元素からなる金属ナノ粒子、2種以上の金属元素を含む合金又は金属化合物からなる金属ナノ粒子、金属元素と非金属元素を含む金属化合物からなる金属ナノ粒子等のいずれであってもよい。また前記金属ナノ粒子は、磁性粒子及び反磁性粒子のいずれでもあってもよく、また導体粒子及び半導体粒子のいずれであってもよい。
ここで「実質的に」とは不可避的に混入する他の元素が含まれることを排除しないことを意味する。具体的には他の元素の含有率が1質量%以下である。
【0027】
前記金属ナノ粒子を構成する金属元素としては、長周期律表(IUPAC1991)の第3周期、第4周期、第5周期、及び第6周期からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を挙げることができる。中でも第2〜14族から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、第2族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、及び第14族から選ばれる少なくとも1種の金属元素が更に好ましい。
前記金属元素としては、具体的には銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、ビスマス、アンチモン、鉛、ケイ素、ゲルマニウム、カドミウム、インジウム、クロムなどが挙げられる。
【0028】
前記合金及び金属化合物としては、FePt、CdS、CdSe、SiO
2等を挙げることができる。
【0029】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径は、前記シャペロニン変異体に内包可能であれば特に制限されない。例えば1nm〜10nmであることが好ましく、2nm〜5nmであることがより好ましい。金属ナノ粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって350個の粒子について円相当粒子径として測定される金属ナノ粒子の粒子径の算術平均値として求められる。
なお、前記金属ナノ粒子は1個の金属ナノ粒子からなる1次粒子であっても、複数の金属ナノ粒子からなる2次粒子であってもよい。
【0030】
前記シャペロニン変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、シャペロニン変異体は金属ナノ粒子を内包可能な2つの空洞を有する。前記シャペロニン複合体において、金属ナノ粒子は2つの空洞のうち少なくとも1つに内包されていればよい。金属ナノ粒子が2つの空洞の両方に内包されることで金属ナノ粒子の含有率が高いシャペロニン複合体とすることができる。また金属ナノ粒子が1つの空洞にのみ内包されることで、基板への接着性に優れるシャペロニン複合体とすることができる。
なお、前記シャペロニン変異体が2つの金属ナノ粒子を内包可能である場合、それぞれの金属ナノ粒子は、同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
シャペロニン変異体の1つの空洞に内包される金属ナノ粒子の数は、金属ナノ粒子の粒子径に応じて適宜選択される。内包される金属ナノ粒子の粒子径を均一にする観点から、1つの空洞に内包される金属ナノ粒子の数は1個であることが好ましい。
【0032】
前記シャペロニン複合体は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドを更に含
む。シャペロニン複合体がADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドを更に含むことで、シャペロニン複合体に構造変化が生じて、より効率的にシャペロニン変異体に金属ナノ粒子を内包することができる。
【0033】
前記ADP又はATPの誘導体としては、例えば、ADPBeFx、AMPBeFx、ATPγS、後述するATP代替化合物等を挙げることができる。例えば、前記シャペロニン複合体がヌクレオチドとしてADPBeFxを含むことで、後述するフットボール型及び弾丸型のシャペロニン複合体をより安定化することができる。
【0034】
シャペロニン複合体におけるADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの含有数は、シャペロニン変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、シャペロニン変異体1分子あたりに7分子又は14分子であることが好ましく、前記ヌクレオチドがADP又はその誘導体の場合にはシャペロニン変異体1分子あたりに7分子であり、前記ヌクレオチドがATP又はその誘導体の場合にはシャペロニン変異体1分子あたりに14分子であることがより好ましい。
また前記ヌクレオチドがADP又はATPの誘導体である場合、シャペロニン複合体におけるヌクレオチド含有数は、誘導体の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0035】
前記シャペロニン複合体は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドに加えてGroESサブユニットを更に有す
る。GroESサブユニットを更に有することでシャペロニン変異体がより効率的に金属ナノ粒子を内包することができ、シャペロニン複合体の生成効率がより向上する。シャペロニン複合体におけるGroESサブユニットの含有数は、シャペロニン変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、シャペロニン変異体1分子あたりに7分子又は14分子であることが好ましく、前記ヌクレオチドがADP又はその誘導体の場合にはシャペロニン変異体1分子あたりにGroESサブユニットが7分子であり、前記ヌクレオチドがATP又はその誘導体の場合にはシャペロニン変異体1分子あたりにGroESサブユニットが14分子であることがより好ましい。
【0036】
前記GroESサブユニットは、シャペロニンGroELの補因子として作用し、被内包物である金属ナノ粒子をシャペロニンGroELの空洞内に閉じ込めることができる。本発明においてGroESサブユニットは、野生型のGroESサブユニットであっても、GroESサブユニット変異体であってもよい。またGroESサブユニットに蛍光ラベル等を常法により付加したものであってもよい。前記蛍光ラベル等には通常用いられる蛍光ラベル等を特に制限なく用いることができる。
【0037】
前記GroESサブユニットは大腸菌に由来するものであっても、通常用いられる方法で製造されたものであってもよい。GroESサブユニットは例えば、GroESサブユニットをコードする塩基配列からなるDNAを通常用いられる方法で発現させることで製造することができる。具体的には、GroESサブユニットをコードする塩基配列からなるDNAを含む組換えベクターを、組換えベクターに応じて選択される宿主細胞に感染させて、宿主細胞を培養することで製造することができる。
【0038】
本発明のシャペロニン複合体は、金属ナノ粒子を内包することから、分散媒中での分散安定性に優れた金属ナノ粒子分散物として用いることができる。このようなシャペロニン複合体は、例えば、化粧品等の用途に用いることができる。
【0039】
<シャペロニン複合体の製造方法>
本発明のシャペロニン複合体の製造方法は、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番および398番のアラニン残基以外の1もしくは2以上のアミノ酸残基が置換、欠失、もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群より選ばれる少なくとも1種のGroELサブユニット変異体を含む複数のGroELサブユニットからなるシャペロニン変異体と、金属ナノ粒子とを接触させて、前記複数のGroELサブユニットで前記金属ナノ粒子を包囲する内包工程を含む。前記シャペロニン複合体の製造方法は必要に応じてその他の工程を更に含んでいてもよい
【0040】
前記シャペロニン変異体と金属ナノ粒子とを接触させる方法は特に制限されない。例えば適当な緩衝液中で、シャペロニン変異体と金属ナノ粒子とを混合する方法等を挙げることができる。シャペロニン変異体と金属ナノ粒子とを混合する方法としては通常用いられる攪拌方法から適宜選択して用いることができる。例えば、マイクロチューブ中で、ピペティングにより混合する方法、ローテーターを用いて混合する方法、ボルテックスを用いて混合する方法等を挙げることができる。シャペロニン変異体と金属ナノ粒子とを接触させる温度としては、例えば4〜60℃とすることができ、25〜37℃であることがより好ましい。接触時間は例えば1〜60分間であることが好ましく、1〜2分間であることがより好ましい。
【0041】
前記緩衝液としては、通常用いられる緩衝液から適宜選択して用いることができる。例えば、HEPES、PBS、Tris等を挙げることができる。
前記緩衝液のpHとしては5〜9であることが好ましく、7〜8であることがより好ましい。pHの調整には例えば、KOH、NaOH等の無機塩基や、HCl等の無機酸を用いることができる。
前記緩衝液は、無機塩を更に含むことが好ましい。無機塩としては、KCl、MgCl
2、Na
2SO
4等を挙げることができる。中でもシャペロニン複合体の生成効率の観点から、KCl及びMgCl
2を含むことが好ましい。
【0042】
前記緩衝液の濃度としては、シャペロニン複合体の生成効率の観点から、1mM〜100mMであることが好ましく、20mM〜40mMであることがより好ましい。
前記緩衝液が無機塩としてKClを含む場合、KClの濃度は1mM〜200mMであることが好ましく、50mM〜100mMであることがより好ましい。また前記緩衝液が無機塩としてMgCl
2を含む場合、MgCl
2の濃度は1mM〜10mMであることが好ましく、4mM〜6mMであることがより好ましい。
【0043】
前記内包工程におけるシャペロニン変異体と金属ナノ粒子の混合比率は特に制限されない。例えばシャペロニン複合体の生成効率の観点から、シャペロニン変異体を構成するGroELサブユニット1μmolあたりに金属ナノ粒子を1g〜10g混合することが好ましく、2g〜8g混合することがより好ましい
【0044】
前記内包工程は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの存在下に行うことが好ましく、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドと、GroESサブユニットとの存在下に行われることがより好ましく、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドと、GroESサブユニットと、金属イオン(好ましくは、マグネシウムイオン)の存在下に行われることがさらに好ましい。これにより優れた生成効率で金属ナノ粒子が内包されたシャペロニン複合体を生成することができる。
【0045】
前記シャペロニン変異体が2つの空洞を有し、前記内包工程をATPの存在下に行う場合、シャペロニン変異体の2つの空洞の両方に金属ナノ粒子が内包されたフットボール型のシャペロニン複合体を優先的に得ることができる。
一方、前記シャペロニン変異体が2つの空洞を有し、前記内包工程をADPの存在下に行う場合、シャペロニン変異体の2つの空洞の一方にのみ金属ナノ粒子が内包された弾丸型のシャペロニン複合体を優先的に得ることができる。
【0046】
さらに前記内包工程を、シャペロニン変異体、第一の金属ナノ粒子、及びADPの存在下に行って、シャペロニン変異体の2つの空洞の一方に第一の金属ナノ粒子が内包された第一のシャペロニン複合体を得た後、第一のシャペロニン複合体と、第二の金属ナノ粒子とを、ATPの存在下に接触させることで、第一の金属ナノ粒子と第二の金属ナノ粒子とが1つのシャペロニン変異体に内包されたハイブリッド型のシャペロニン複合体を得ることもできる。
【0047】
前記内包工程においては、ATPの代わりにATP代替化合物を用いてもよい。ATP代替化合物としては、GroELサブユニット変異体のATP結合部位に結合可能で、シャペロニンGroEL変異体の構造変化を引き起こすことが可能な化合物であれば特に制限はない。例えば、ADPとフッ化ベリリウムの付加物(J. Biol. Chem., 279, 45737-45743 (2004).)、ADPとフッ化アルミニウムやフッ化ガリウムの付加物(J. Mol. Biol., 2003 May 23; 329(1): 121-34.)等を挙げることができる。
【0048】
前記内包工程をADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの存在下に行う場合、GroELサブユニットに対して、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドを10
3〜10
6のモル比で用いることが好ましく、10
3〜10
4のモル比で用いることがより好ましい。
【0049】
前記内包工程をGroESサブユニットの存在下に行う場合、GroELサブユニットに対して、GroESサブユニットを1〜10のモル比で用いることが好ましく、1〜3のモル比で用いることがより好ましい。
【0050】
前記内包工程を、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドと、GroESサブユニットとの存在下に行う場合、シャペロニン変異体と、金属ナノ粒子と、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドと、GroESサブユニットとの混合順は特に制限されず、これらを同時に混合してもよく、またこれらを順次混合してもよい。中でもシャペロニン複合体の生成効率の観点から、シャペロニン変異体と、金属ナノ粒子と、GroESサブユニットとの混合物に、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドを混合する方法であることが好ましい。
【0051】
前記シャペロニン複合体の製造方法は、前記内包工程に加えて、シャペロニン複合体の精製工程、修飾工程等をさらに含んでいてもよい。
前記精製工程としては、例えば、クロマトグラフィーにより分離する方法、限外ろ過する方法、等を挙げることができる。
【0052】
<基板>
本発明の基板は、支持体と、前記支持体上に配置された前記シャペロニン複合体とを備える。前記基板は必要に応じてその他の構成要素を更に備えていてもよい。
前記基板においては、金属ナノ粒子を内包するシャペロニン複合体の凝集が抑制された状態で支持体上に配置されることになる。すなわち支持体上に、金属ナノ粒子をその凝集が抑制された状態で配置することが可能となる。
【0053】
前記支持体としては特に制限されず、通常用いられる支持体から、目的に応じて適宜選択して用いることができる。支持体としては例えば、ガラス基材、フェノール樹脂等の樹脂基材、アルミナ等の金属基材、カーボンなどを挙げることができる。
【0054】
前記支持体上におけるシャペロニン複合体の配置態様は特に制限されない。例えばシャペロニン複合体が前記フットボール型である場合は、フットボール型の長軸方向が支持体の面に略平行になるように配置されることが好ましい。またシャペロニン複合体が弾丸型の場合、金属ナノ粒子を内包していない空洞が支持体に接するように配置されることが好ましい。
このようにシャペロニン複合体として弾丸型シャペロニン複合体を用いることで、支持体上に金属ナノ粒子を内包するシャペロニン複合体を、金属ナノ粒子を内包する空洞が上を向いた状態で面状に配置することができる。これは例えばシャペロニン複合体と支持体との疎水性相互作用によるものと考えることができる。
【0055】
前記基板は、例えば、前記シャペロニン複合体と分散媒とを含む分散物を支持体上に付与し、分散媒の少なくとも一部を除去して、前記シャペロニン複合体を支持体上に吸着させることで製造することができる。
前記分散媒としては、前記シャペロニン複合体を分散可能であれば特に制限されず、通常用いられる分散媒から適宜選択することができる。分散媒としては、水、緩衝液、エタノール等を挙げることができる。また分散媒の除去方法及び条件は特に制限されず、用いる分散媒や基板の用途等に応じて適宜選択することができる。
【0056】
本発明の基板は、金属ナノ粒子を内包するシャペロニン複合体が支持体上に配置されていることから、センサー等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。また、本実施例で市販のキットを用いる場合は、そのキットの取扱説明書に従って操作を行った。
【0058】
[調製例1]
配列番号1のアミノ酸配列からなるGroELサブユニット(以下、「GroELサブユニット変異体」ともいう)を、特開2008−294487号公報に記載の方法に準じて調製した。
【0059】
[調製例2]
以下のようにして磁性体である金属ナノ粒子としてFePtナノ粒子を調製した。
(1)非修飾FePtナノ粒子の合成
三口フラスコに、アセチルアセトン白金(II)0.39g(1.0mmol/l)、アセチルアセトン鉄(II)0.35g(1.0mmol/l)、テトラエチレングリコール100mlを混合し、Arガス雰囲気中で1時間ガス置換した。Ar雰囲気中、300℃で1時間還流した。その後、Ar雰囲気中で室温まで冷却して、非修飾FePtナノ粒子のテトラエチレングリコール分散液を調製した。
得られた非修飾FePtナノ粒子を含むテトラエチレングリコール分散液に等量のエタノールを混合し、4000rpm×20分遠心した後、上清を除去して沈殿を得た。得られた沈殿にエタノール50mlを加えて4000rpm×20分遠心処理して上清を除去するエタノール洗浄を、遠心上清が着色しなくなるまで繰り返した。
最終的に得られた沈殿を、超純水、HKM緩衝液、又はエタノールに分散して、非修飾FePtナノ粒子分散液を得た。得られた非修飾FePtナノ粒子分散液は4℃で保管した。
なお、HKM緩衝液は組成が、20mM HEPES、100mM KCl、5mM
MgCl
2であり、KOHでpH7.5に調整した。
【0060】
(2)ピルビン酸修飾FePtナノ粒子の合成
三口フラスコに、アセチルアセトン白金(II)0.39g(1.0mmol/l)、アセチルアセトン鉄(II)0.35g(1.0mmol/l)、テトラエチレングリコール100mlを混合し、Arガス雰囲気中で1時間ガス置換した。Ar雰囲気中、300℃で1時間還流した後、温度を150℃まで下げた。ピルビン酸とテトラエチレングリコールの混合液(1:1(v/v)、12時間攪拌して調製した)20mlを加えた後、再び2時間還流した。その後、Ar雰囲気中で室温まで冷却して、ピルビン酸修飾FePtナノ粒子を調製した。
得られたピルビン酸修飾FePtナノ粒子のテトラエチレングリコール分散液について、上記と同様にして洗浄処理を行い、ピルビン酸修飾FePtナノ粒子分散液を得た。
【0061】
(3)オレイン酸修飾FePt粒子の合成
三口フラスコに、アセチルアセトン白金(II)0.39g(1.0mmol/l)、アセチルアセトン鉄(II)0.35g(1.0mmol/l)、テトラエチレングリコール100mlを混合し、Arガス雰囲気中で1時間ガス置換した。Ar雰囲気中、300℃で1時間還流した後、温度を200℃まで下げた。オレイン酸10mlを加えた後、再び30分間還流した。その後、Ar雰囲気中で室温まで冷却して、オレイン酸修飾FePtナノ粒子を調製した。
得られたオレイン酸修飾FePtナノ粒子のテトラエチレングリコール分散液について、上記と同様にして洗浄処理を行い、オレイン酸修飾FePtナノ粒子分散液を得た。
【0062】
上記で得られたそれぞれのFePtナノ粒子分散液をコロジオン支持膜グリッドに載せ、24時間乾燥して観察用サンプルを得た。得られた観察用サンプルについて、透過型電子顕微鏡JEM 2000EX(日本電子社製)を用いて、加速電圧100kVで観察し、粒子電顕像を得た。得られた粒子電顕像を600dpiで取り込み、画像処理ソフトウェアImage J(Ver. 1.46)で粒子分析処理(Analyze Particles)を行って、それぞれのFePtナノ粒子分散液について平均粒子径を求めた。
その結果、非修飾FePtナノ粒子は平均粒子径4.88nm、ピルビン酸修飾FePtナノ粒子は平均粒子径3.99nm、オレイン酸修飾FePtナノ粒子は平均粒子径5.05nmであった。
【0063】
[実施例1]
非修飾FePtナノ粒子のHKM緩衝液分散液(濃度100mg/ml)を用いて、以下のようにしてシャペロニン複合体を作製した。
マイクロチューブに最終濃度がそれぞれ以下のようになるように各材料を添加して、室温で1分間、マイクロピペットで混合して試料液を調製した。
・GroELサブユニット変異体 0.1μM
・GroESサブユニット 0.2μM
・ATP 1mM
・非修飾FePtナノ粒子 2.5mg/ml
【0064】
上記で得られた試料液6.0μlを親水化処理済みコロジオン支持膜に1分間接触させた。超純水6.0μlで1回リンスした後、2%酢酸ウラン6.0μlを加えて1分間染色した。一夜乾燥後、透過型電子顕微鏡HT−7500(日立ハイテク社製)を用い、加速電圧80kVで観察した。得られた観察画像の一例を
図1に示す。
【0065】
図1から、シャペロニン変異体に2つの非修飾FePtナノ粒子が内包されているフットボール型のシャペロニン複合体、及びシャペロニン変異体に1つの非修飾FePtナノ粒子が内包されている弾丸型のシャペロニン複合体がそれぞれ観察されることが分かる。すなわち、フットボール型のシャペロニン複合体は、例えば
図1の右下の拡大図に示されている。また弾丸型のシャペロニン複合体は、例えば
図1の左上の拡大図に示されている。
【0066】
[実施例2]
実施例1において、非修飾FePtナノ粒子の代わりにピルビン酸修飾FePtナノ粒子のHKM緩衝液分散液(濃度100mg/ml)を用いて、ピルビン酸修飾FePtナノ粒子の最終濃度が3.5mg/mlとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして試料液を調製した。
実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡(加速電圧120kV)で観察を行ったところ、実施例1と同様に、シャペロニン変異体にピルビン酸修飾FePtナノ粒子が内包されているシャペロニン複合体が観察された。
また得られたシャペロニン複合体においては、ピルビン酸修飾FePtナノ粒子の磁性が維持された状態であった。
【0067】
[実施例3]
実施例1において、非修飾FePtナノ粒子の代わりにオレイン酸修飾FePtナノ粒子のHKM緩衝液分散液(濃度100mg/ml)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試料液を調製した。
実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡で観察を行ったところ、実施例1と同様に、シャペロニン変異体にオレイン酸修飾FePtナノ粒子が内包されているシャペロニン複合体が観察された。
【0068】
[実施例4]
ピルビン酸修飾FePtナノ粒子のHKM緩衝液分散液(濃度20.0mg/ml)20.0μl、5.0μMのGroELサブユニット変異体を含むHKM緩衝液0.8μl、10.0μMのGroESサブユニットを含むHKM緩衝液0.8μlをマイクロチューブ内で1分間ピペッティングして混合したのち、室温下にローテーター(RT−5(タイテック)、4r/min)で40分間撹拌した。その後、HKM緩衝液17.99μlと96.6mMのATP溶液0.41μlを加え、さらに、室温下にローテーター(RT−5(タイテック)、4r/min)で20分間撹拌して試料液を調製した。この試料液40.0μl中の最終濃度は以下の通りであった。
・GroELサブユニット変異体 0.1μM
・GroESサブユニット 0.2μM
・ATP 1mM
・ピルビン酸修飾FePtナノ粒子 10mg/ml
【0069】
上記で得られた試料液6.0μlを親水化処理済みコロジオン支持膜に1分間接触させた。超純水6.0μlで1回リンスした後、1.0%リンタングステン酸(pH4.0)6.0μlを加えて1分間染色した。16時間以上乾燥後、透過型電子顕微鏡JEM2000EX(日本電子社製)を用い、加速電圧100kVで観察した。得られた観察画像の一例を
図2に示す。
得られた観察画像から、350個のシャペロニン複合体中の金属ナノ粒子を内包しているシャペロニン複合体の個数、及び金属ナノ粒子が未内包のシャペロニン複合体の個数をそれぞれ数え、金属ナノ粒子の内包率を算出したところ、95.4%であった。
【0070】
[実施例5]
ピルビン酸修飾FePtナノ粒子のHEPES緩衝液(pH7.5)分散液(濃度40.0mg/ml)12.5μl、5.0μMのGroELサブユニット変異体を含むHKM緩衝液2.0μl、10.0μMのGroESサブユニットを含むHKM緩衝液2.0μl、HKM緩衝液33.5μlをマイクロチューブ内で1分間ピペッティングして混合した。その後、HKM緩衝液48.96μlと96.6mMのATP溶液1.04μlを加えて、さらに、室温下に20秒間ピペッティングして試料液を調製した。この試料液100.0μl中の最終濃度は以下の通りであった。
・GroELサブユニット変異体 0.1μM
・GroESサブユニット 0.2μM
・ATP 1mM
・ピルビン酸修飾FePtナノ粒子 5mg/ml
上記と同様にして609個のシャペロニン複合体中の金属ナノ粒子の内包率を算出したところ、89.5%であった。
【0071】
[実施例6]
非修飾FePtナノ粒子分散液(濃度40.0mg/ml、40mM HEPES−KOH、pH7.5)6.25μl、5.0μMのGroELサブユニット変異体を含むHKM緩衝液10.0μl、10.0μMのGroESサブユニットを含むHKM緩衝液10.0μlをマイクロチューブ内で1分間ピペッティングして混合した。次いでHKM緩衝液29.48μl、96.6mMのATP溶液0.52μlを加えて、さらに、室温下に20秒間ピペッティングして試料液を調製した。この試料液50.0μl中の最終濃度は以下の通りであった。
・GroELサブユニット変異体 1.0μM
・GroESサブユニット 2.0μM
・ATP 1.0mM
・非修飾FePtナノ粒子 5mg/ml
【0072】
上記で得られた試料液6.0μlを親水化処理済みコロジオン支持膜に40秒間接触させた。超純水6.0μlで1回リンスした後、1.0%リンタングステン酸(pH4.0)6.0μlを加えて1分間染色した。16時間以上乾燥後、透過型電子顕微鏡HT−7500(日立ハイテク社製)を用い、加速電圧80kVで観察した。
その結果、
図1の右下の拡大図に示すようにATPの存在下に形成されたシャペロニン複合体は、フットボール型の形状であり、支持体上にフットボール型の長軸が支持体の面と略平行になるように配置されていた。
【0073】
[実施例7]
非修飾FePtナノ粒子分散液(濃度40.0mg/ml、40mM HEPES−KOH、pH7.5)6.25μl、5.0μMのGroELサブユニット変異体を含むHKM緩衝液10.0μl、10.0μMのGroESサブユニットを含むHKM緩衝液10.0μlをマイクロチューブ内で1分間ピペッティングして混合した。次いでHKM緩衝液29.48μl、99.1mMのADP溶液0.51μlを加えて、さらに、室温下に20秒間ピペッティングして試料液を調製した。この試料液50.0μl中の最終濃度は以下の通りであった。
・GroELサブユニット変異体 1.0μM
・GroESサブユニット 2.0μM
・ADP 1.0mM
・非修飾FePtナノ粒子 5mg/ml
【0074】
上記で得られた試料液6.0μlを親水化処理済みコロジオン支持膜に40秒間接触させた。超純水6.0μlで1回リンスした後、1.0%リンタングステン酸(pH4.0)6.0μlを加えて1分間染色した。16時間以上乾燥後、透過型電子顕微鏡HT−7700(日立ハイテク社製)を用い、加速電圧80kVで観察した。得られた観察画像の一例を
図3に示す。
図3から、ADPの存在下に形成されたシャペロニン複合体は、弾丸型の形状であり、支持体上に弾丸型の長軸が支持体の面に略垂直になるように配置されていることが分かる。
【0075】
[実施例8]
蛍光波長460nmの量子ドットCdS 460(Lumidot
TMLumidotTM、Sigma−Aldrich社製)は、カルボン酸修飾されているため、トルエンに分散されて市販されている。これを以下のようにして分散媒を変更した。
マイクロチューブにCdS 460トルエン分散液(CdS濃度5.0mg/ml)を100.0μlいれ、これにエタノール1.0mlを加えて穏やかに混合した。14500rpm×10分間遠心後、上清を除去した。得られた黄色の沈殿物にメタノール500.0μlを加えて、超音波を約1分間照射して均一に分散して、濃度が1.0mg/mlのCdSナノ粒子分散液を得た。
【0076】
2.5μMのGroELサブユニット変異体を含むHKM緩衝液40.0μl、5.0μMのGroESサブユニットを含むHKM緩衝液40.0μl、HKM緩衝液8.96μlをマイクロチューブ内で混合した。次いでCdSナノ粒子分散液(濃度1.0mg/ml、メタノール)10.0μlを加えて1分間ピペッティングした後、96.6mMのATP溶液1.04μlを加えて、さらに、室温下に20秒間ピペッティングして試料液を調製した。この試料液100.0μl中の最終濃度は以下の通りであった。
・GroELサブユニット変異体 1.0μM
・GroESサブユニット 2.0μM
・ATP 1.0mM
・CdSナノ粒子 0.1mg/ml
【0077】
上記で得られた試料液6.0μlを親水化処理済みコロジオン支持膜に40秒間接触させた。超純水6.0μlで1回リンスした後、1.0%リンタングステン酸(pH4.0)6.0μlを加えて1分間染色した。16時間以上乾燥後、透過型電子顕微鏡JEM2000EX(日本電子社製)を用い、加速電圧80kVで観察したところ、実施例1と同様に、CdSナノ粒子がシャペロニン変異体に内包されたシャペロニン複合体が観察された。
【0078】
以上の結果から、本発明のシャペロニン複合体は、複合体の形成効率に優れることが分かる。またATPの存在下にシャペロニン複合体を形成することで、シャペロニン変異体の2つの空洞の両方に金属ナノ粒子が内包されたフットボール型のシャペロニン複合体が得られることが分かる。一方、ADPの存在下にシャペロニン複合体を形成することで、シャペロニン変異体の2つの空洞の一方に金属ナノ粒子が内包された弾丸型のシャペロニン複合体が得られることが分かる。