特許第6099096号(P6099096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099096
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】複合圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/18 20060101AFI20170313BHJP
   H01L 41/37 20130101ALI20170313BHJP
【FI】
   H01L41/18
   H01L41/37
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-183268(P2013-183268)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-50432(P2015-50432A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】不藤 平四郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 厚志
【審査官】 上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−181866(JP,A)
【文献】 特開2013−021176(JP,A)
【文献】 特開2012−164917(JP,A)
【文献】 特開2008−072156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/18
H01L 41/37
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性のベースシートと、
該ベースシート上に配された第1電極層と、
該第1電極層上に配された樹脂と圧電粒子とを有する圧電体層と、
該圧電体層上に配された第2電極層と、を備えた複合圧電素子において、
前記圧電体層は、2つの第1圧電体層と、前記2つの第1圧電体層の間に配された第2圧電体層と、を有し、
該第2圧電体層は、前記第1圧電体層よりも前記圧電粒子の体積パーセント濃度が低いことを特徴とする複合圧電素子。
【請求項2】
前記第1圧電体層の前記圧電粒子の前記体積パーセント濃度は、50〜65vol%であることを特徴とする請求項1に記載の複合圧電素子。
【請求項3】
前記圧電粒子は、結晶構造がペロブスカイト構造の強誘電体粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合圧電素子。
【請求項4】
前記強誘電体粒子がニオブ酸カリウムであり、
前記ニオブ酸カリウムは、平均粒子径が400nm〜500nmで、
斜方晶−正方晶の転移点温度が223℃以上228℃以下で、
正方晶−立方晶の転移点温度が420℃以上430℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の複合圧電素子。
【請求項5】
前記ベースシートは、PET、PEN、PI、PE、PPS、アラミド樹脂のいずれかの材質を用いた絶縁性フィルムか、前記材質に無機フィラーを充填したフィラー入りフィルムのうちの何れかであり、
前記樹脂は、非晶性ポリエステルまたはポリウレタンであり、
前記第2圧電体層は、−40℃環境下における弾性率が1.5GPa以下であるとともに、−40℃環境下における降伏強度が15MPa以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の複合圧電素子。
【請求項6】
前記第2圧電体層は、−40℃環境下における弾性率が0.5GPa以下であるとともに、−40℃環境下における降伏強度が30MPa以上であることを特徴とする請求項5に記載の複合圧電素子。
【請求項7】
前記2つの第1圧電体層の前記圧電粒子の前記体積パーセント濃度が同じであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の複合圧電素子。
【請求項8】
前記第2圧電体層は、前記第1圧電体層よりも厚くなっていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の複合圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、各種センサ及び発電等に用いられる圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電気エネルギーと機械エネルギーとの間のエネルギー変換に用いられ、アクチュエータや各種センサに広く用いられている。更に、近年では、発電への応用も検討されている。
【0003】
このような圧電素子をフィルム基材に積層して、可撓性が求められる各種製品に適用する場合が考えられる。特許文献1(従来例1)では、図11に示すようなフレキシブル基板の支持体832の表面832aに積層された圧電素子810が開示されている。図11は、従来例1の圧電素子810を用いた電子部品830を示す模式図である。図11に示す圧電素子810は、支持体832の表面832aに積層された第1の導電性エラストマー基材822と、第1の導電性エラストマー基材822に積層された圧電体820と、圧電体820の表面820aに設けられた第2の導電性エラストマー基材824と、から構成される。
【0004】
しかし、従来例1の圧電素子810では、圧電体820に圧電性単結晶や圧電セラミックスを用いた場合、圧電体820が脆いので、支持体832を僅かしか曲げることができなかった。また、高分子マトリックス中に圧電体粒子が均一に分散混合された圧電コンポジットを圧電体820に用いた場合であっても、支持体832が大きく曲げられた際には、圧電体820にクラックが生じてしまう虞が大きかった。一方、圧電体820に圧電性高分子を用いた場合は、曲げに対する曲げ耐性は向上する可能性があるが、圧電性高分子では、所望する圧電特性が得られないものであった。
【0005】
そこで、特許文献2(従来例2)では、圧電コンポジットの高分子マトリックスとして、エラストマーを用いた発電素子901が図12に提案されている。図12は、従来例2の静電容量変化型の発電素子901の構成を示す厚み方向概略断面図であり、図12(a)は、発電素子901に積層方向に圧縮力が引加される前の状態Aを示しており、図12(b)は、圧縮力が引加された状態Bを示している。図12に示す発電素子901は、誘電エラストマー910中に強誘電体粒子911が分散されてなるコンポジット層912と、コンポジット層912の両面に備えられた一対の電極である電極921及び電極922と、を備えて構成されている。
【0006】
そして、発電素子901は、図12(a)に示す状態Aから、発電素子901に積層方向に圧縮力が引加されると、誘電エラストマー910が弾性変形し、図12(b)に示す状態Bになる。一方、圧縮力が解除されると、状態Bから状態Aに戻るようになる。従来例2の発電素子901では、厚み方向に大きく伸縮させるために、誘電エラストマー910として、熱硬化性エラストマーや熱可塑性エラストマーを用いている。この状態Aから状態B、或いは、その逆の状態Bから状態Aへと変化することにより、電極921と電極922との間に電位差が生じ、発電素子901は、この電位差の変化を電力として取り出すことができる。
【0007】
この電力をより多く取り出すために、発電素子901のコンポジット層912における強誘電体粒子911の体積パーセント濃度(vol%)を大きくし、表面電荷密度を大きくするのが有効である。一方、強誘電体粒子911の体積パーセント濃度が大きくなり過ぎると、コンポジット層912のヤング率が高くなり、弾性変形に悪影響を及ぼし、かつ、耐久性が低くなる虞がある。そこで、コンポジット層912における強誘電体粒子911の体積パーセント濃度は、10〜60%程度であることが好ましいと記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−21176号公報
【特許文献2】特開2012−164917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来例2の発電素子901では、曲げ方向の強度に関しては開示がされておらず、曲げに弱いことが考えられる。特に、性能を上げるために、強誘電体粒子911の体積パーセント濃度を50%程度にまで上げると、コンポジット層912のヤング率が高くなり、確実に曲げに対しての耐性が低下するという課題があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するもので、曲げに対する耐性が向上した複合圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明の複合圧電素子は、可撓性のベースシートと、該ベースシート上に配された第1電極層と、該第1電極層上に配された樹脂と圧電粒子とを有する圧電体層と、該圧電体層上に配された第2電極層と、を備えた複合圧電素子において、前記圧電体層が、2つの第1圧電体層と、前記2つの第1圧電体層の間に配された第2圧電体層と、を有し、該第2圧電体層が、前記第1圧電体層よりも前記圧電粒子の体積パーセント濃度が低いことを特徴としている。
【0012】
これによれば、本発明の複合圧電素子は、第2圧電体層の圧電粒子の体積パーセント濃度が低いので、第2圧電体層の曲げに対する耐性が向上するようになる。このため、圧電粒子の体積パーセント濃度が高い圧電体層の単層で構成した場合と比較して、この第2圧電体層の曲げに対する耐性が向上するに伴い、圧電体層も曲げ耐性が向上するようになる。しかも圧電粒子の体積パーセント濃度が高い第1圧電体層で挟んだ構造をしているので、この第1圧電体層による性能が優先され、圧電体層全体での圧電性能が大きく低下することがない。このことにより、圧電性能を維持しつつ、曲げに対する耐性が向上した複合圧電素子を提供することができる。
【0013】
また、本発明の複合圧電素子は、前記第1圧電体層の前記圧電粒子の前記体積パーセント濃度が50〜65vol%であることを特徴としている。
【0014】
これによれば、圧電粒子が第1圧電体層に充分充填されるので、高い圧電性能を得ることができる。
【0015】
また、本発明の複合圧電素子は、前記圧電粒子がペロブスカイト構造の結晶構造である強誘電体粒子であることを特徴としている。
【0016】
これによれば、圧電体層の圧電性能を向上させることができる。このことにより、出力性能が優れた複合圧電素子を提供することができる。
【0017】
また、本発明の複合圧電素子は、前記強誘電体粒子がニオブ酸カリウムであり、前記ニオブ酸カリウムが、平均粒子径が400〜500nmで、斜方晶−正方晶の転移点温度が223℃以上228℃以下で、正方晶−立方晶の転移点温度が420℃以上430℃以下であることを特徴としている。
【0018】
これによれば、上記ニオブ酸カリウムを用いることで、圧電体層の圧電性能をより向上させることができる。このことにより、出力性能がより優れた複合圧電素子を提供することができる。
【0019】
また、本発明の複合圧電素子は、前記ベースシートが、PET、PEN、PI、PE、PPS、アラミド樹脂のいずれかの材質を用いた絶縁性フィルムか、前記材質に無機フィラーを充填したフィラー入りフィルムのうちの何れかであり、前記樹脂が非晶性ポリエステルまたはポリウレタンであり、前記第2圧電体層が、−40℃環境下における弾性率が1.5GPa以下、好ましくは0.5GPa以下であるとともに、−40℃環境下における降伏強度が15MPa以上、好ましくは30MPa以上であることを特徴としている。
【0020】
これによれば、−40℃環境下においても、第2圧電体層を小さい曲率半径で曲げることができる。このため、この第2圧電体層の充分な曲げ耐性に伴って、圧電体層の充分な曲げ耐性を得ることができる。しかも上記ベースシートと樹脂を用いることで、−40℃環境下においても、複合圧電素子の充分な可撓性を得ることができる。
【0021】
また、本発明の複合圧電素子は、前記2つの第1圧電体層の前記圧電粒子の前記体積パーセント濃度が同じであることを特徴としている。
【0022】
これによれば、体積パーセント濃度が低い方の第1圧電体層の性能に、圧電体層の性能が引きずられることがない。このことにより、圧電体層の充分な圧電性能を確保することができる。また、圧電体層を製造する際に、原材料を用いることができ、容易に圧電体層を製造することができる。
【0023】
また、本発明の複合圧電素子は、前記第2圧電体層が前記第1圧電体層よりも厚くなっていることを特徴としている。
【0024】
これによれば、圧電体層全体において、第1圧電体層に比して曲げ耐性が高い第2圧電体層の割合が大きくなり、圧電体層全体での曲げ耐性がより一層向上することとなる。このことにより、曲げ耐性がより一層向上した複合圧電素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の複合圧電素子は、第2圧電体層の圧電粒子の体積パーセント濃度が低いので、第2圧電体層の曲げに対する耐性が向上するようになる。このため、圧電粒子の体積パーセント濃度が高い圧電体層の単層で構成した場合と比較して、この第2圧電体層の曲げに対する耐性が向上するに伴い、圧電体層も曲げ耐性が向上するようになる。しかも圧電粒子の体積パーセント濃度が高い第1圧電体層で挟んだ構造をしているので、この第1圧電体層による性能が優先され、圧電体層の圧電性能が大きく低下することがない。このことにより、圧電性能を維持しつつ、曲げに対する耐性が向上した複合圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態の複合圧電素子を説明する構成図であって、その平面図である。
図2】本発明の第1実施形態の複合圧電素子を説明する構成図であって、図1に示すY2側から見た側面図である。
図3】本発明の第1実施形態の複合圧電素子を説明する図であって、図3(a)は、図1に示すIII−III線における断面図であり、図3(b)は、図1に示すIV−IV線における断面図である。
図4】分極処理の方法及び原理を説明する概念図であって、図4(a)は、圧電体層の初期の状態を示し、図4(b)は、圧電体層の厚み方向に電圧を印加した状態を示し、図4(c)は、分極処理が終了した状態を示している。
図5】本発明の第1実施形態の複合圧電素子に用いた圧電粒子の物性の測定結果であって、ニオブ酸カリウムの示差走査熱量測定のグラフである。
図6】本発明の第1実施形態の複合圧電素子に係わる測定結果であって、圧電粒子の体積パーセント濃度が変わった圧電素子に、加振を加えた時の出力電圧値のグラフである。
図7】本発明の第1実施形態の複合圧電素子に係わる測定結果であって、ニオブ酸カリウムの平均粒径が変わった圧電素子に、加振を加えた時の出力電圧値のグラフである。
図8】本発明の第1実施形態の複合圧電素子に係わる測定結果であって、圧電粒子の含有量に対する圧電体皮膜の算出した最少曲率半径を示したグラフである。
図9】本発明の第1実施形態に係わる複合圧電素子の変形例1を説明する図であって、図2と比較した側面図である。
図10】本発明の第1実施形態に係わる複合圧電素子の変形例2を説明する図であって、図3(a)と比較した断面図である。
図11】従来例1の圧電素子を用いた電子部品を示す模式図である。
図12】従来例2の静電容量変化型の発電素子の構成を示す厚み方向概略断面図であり、図12(a)は、発電素子に積層方向に圧縮力が引加される前の状態Aを示しており、図12(b)は、圧縮力が引加された状態Bを示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0028】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101を説明する構成図であって、その平面図である。なお、図1では、説明を分かり易くするため、オーバーコート部材15の一部を省略している。図2は、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101を説明する構成図であって、図1に示すY2側から見た側面図である。図3は、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101を説明する図であって、図3(a)は、図1に示すIII−III線における断面図であり、図3(b)は、図1に示すIV−IV線における断面図である。なお、図1ないし図3は、説明を分かり易くするための構成図なので、厚み方向(Z1−Z2方向)の寸法が実際とは大きく異なっている。
【0029】
本発明の第1実施形態の複合圧電素子101は、図1ないし図3に示すように、可撓性のベースシート19と、ベースシート19上に配された第1電極層11と、第1電極層11上に配された圧電体層13と、圧電体層13上に配された第2電極層12と、を備えて構成される。他に、複合圧電素子101を外部環境から保護するためのオーバーコート部材15と、複合圧電素子101に電力を供給或いは複合圧電素子101から電力を取り出すための2つの端子部(171、172)とを備えている。
【0030】
複合圧電素子101のベースシート19は、ポリイミド(PI、Polyimide)フィルムを用い、厚みが25〜125μm程度で可撓性を有している。特に、半径が数mmR程度の曲げに対しても、充分な耐性を有している。なお、可撓性のベースシート19にポリイミドフィルム(PI)を好適に用いたが、他の合成樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート(PET、Polyethylene terephthalate)、ポリエチレンナフタレート(PEN、Polyethylene naphthalate)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、Poly Phenylene Sulfide)、ポリエチレン(PE、Polyethylene)、アラミド樹脂(芳香族ポリアミド、Aromatic polyamid)の絶縁性フィルムであっても良い。また、上述した材質に無機フィラーを充填したフィラー入りフィルムであっても良い。
【0031】
複合圧電素子101の第1電極層11は、図1ないし図3に示すように、ベースシート19の片面側に積層して設けられ、フェノール樹脂中のマトリックス中に導電性の銀の粉体が25〜70(vol%)分散されており、その厚みは5〜15μm程度である。
【0032】
複合圧電素子101の第2電極層12は、図1ないし図3に示すように、ベースシート19の片面側に積層して設けられ、図3に示すように、圧電体層13を第1電極層11と挟むようにして、圧電体層13に積層して形成されている。また、第2電極層12は、第1電極層11と同様に、フェノール樹脂中のマトリックス中に導電性の銀の粉体が20〜70(vol%)分散されており、その厚みは5〜20μm程度である。これら第1電極層11及び第2電極層12の導電性部材の材質として、銀を好適に用いたが、カーボンであっても良い。カーボンにした場合は、フェノール樹脂中のマトリックス中に導電性のカーボンの粉体が5〜70(vol%)分散されている。
【0033】
また、第1電極層11及び第2電極層12の作製は、硬化剤を含有したフェノール樹脂とカルビトールアセテート等の溶剤と銀粉とを混合して導電性銀ペーストとし、スクリーン印刷等の手法を用いて行われる。具体的には、第1電極層11は、この導電性銀ペーストをベースシート19に塗布し、加熱を行い、乾燥及び硬化させて形成するとともに、第2電極層12は、この導電性銀ペーストを圧電体層13に塗布し、加熱を行い、乾燥及び硬化させて形成している。
【0034】
また、第1電極層11と同じ工程で、図1及び図3(a)に示す端子部171を作製しているとともに、第2電極層12と同じ工程で、図1及び図3(b)に示す端子部172を作製している。この端子部171及び端子部172は、電力の供給或いは取り出しが行い易いように、第1電極層11の端部或いは第2電極層12の端部からベースシート19の端部まで引き出されるように形成されている。
【0035】
なお、導電性銀ペーストのバインダーとしてフェノール樹脂を用いたが、他の合成樹脂、例えば熱硬化性樹脂であるポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等や、熱可塑性樹脂であるポリエステル樹脂、アクリル樹脂等であっても良い。また、導電性銀ペーストの導電性フィラーとして銀粉を用いたが、他の導電性フィラー、例えば黒鉛、ナノカーボン等のカーボン粉や、銅、ニッケル等の金属粉であっても良い。
【0036】
複合圧電素子101の圧電体層13は、図1ないし図3に示すように、ベースシート19の片面側に設けられ、第1電極層11に積層して形成されている。そして、圧電体層13は、2つの第1圧電体層(13A、13B)と、2つの第1圧電体層(13A、13B)の間に配された第2圧電体層13Cと、を有した構成となっている。
【0037】
また、圧電体層13は、非晶性ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂のマトリックス中に圧電粒子が分散されており、本発明の第1実施形態では、この圧電粒子として、ペロブスカイト構造の結晶構造である強誘電体粒子を用いている。これにより、圧電体層13の圧電性能を向上させることができ、出力性能が優れた複合圧電素子101を提供することができる。
【0038】
また、本発明の第1実施形態では、この強誘電体粒子として、特に、ニオブ酸カリウム(KNbO)を好適に用いている。このニオブ酸カリウムは、平均粒子径が400〜500nmで、斜方晶−正方晶の転移点温度が223℃以上228℃以下で、正方晶−立方晶の転移点温度が420℃以上430℃以下のものを用いている。これにより、圧電体層13の圧電性能をより向上させることができる。このことにより、出力性能がより優れた複合圧電素子101を提供することができる。
【0039】
また、この圧電体層13は、このような合成樹脂との複合材なので、可撓性を有している。特に、非晶性ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂は、常温で、適度な柔軟性を有しているので、圧電体層13が変形しても、圧電体層13に発生するクラック等を抑えることができる。更に、非晶性ポリエステル樹脂及びポリウレタン樹脂は、一般に広く使用され、容易にしかも安価に入手することができるので、好適に使用することができる。
【0040】
圧電体層13の第1圧電体層(13A、13B)は、圧電粒子(本発明の第1実施形態では、ニオブ酸カリウム)の体積パーセント濃度が50〜65vol%に調整している。これにより、圧電粒子が第1圧電体層(13A、13B)に充分充填され、高い圧電性能を得ることができる。また、第1圧電体層13Aと第1圧電体層13Bは、圧電粒子の体積パーセント濃度を同じに調整している。
【0041】
一方、圧電体層13の第2圧電体層13Cは、第1圧電体層(13A、13B)よりも圧電粒子の体積パーセント濃度を低く調整している。具体的には、0.01〜60vol%、好ましくは10〜50vol%にするのが良い。なお、第2圧電体層13Cが圧電粒子の体積パーセント濃度が50vol%以上の場合でも、第1圧電体層(13A、13B)の圧電粒子の体積パーセント濃度は第2圧電体層13Cよりも高い体積パーセント濃度に調整される。
【0042】
これにより、この第2圧電体層13Cの圧電粒子の体積パーセント濃度が低いので、第2圧電体層13Cの曲げに対する曲げ耐性が向上するようになる。このため、圧電粒子の体積パーセント濃度が高い圧電体の単層で構成した場合と比較して、第2圧電体層13Cの曲げに対する曲げ耐性の向上に伴い、圧電体層13も曲げ耐性が向上するようになる。しかも圧電粒子の体積パーセント濃度が高い第1圧電体層13A及び第1圧電体層13Bで挟んだ構造をしているので、この第1圧電体層(13A、13B)による性能が優先され、圧電体層13全体での圧電性能が大きく低下することがない。このことにより、圧電性能を維持しつつ、曲げに対する曲げ耐性が向上した複合圧電素子101を提供することができる。また、圧電粒子の体積パーセント濃度が低い層を挟むことで、高価な圧電粒子の使用量を低減しつつ、圧電性能を維持した圧電体層13を構成することができる。
【0043】
また、本発明の第1実施形態で用いた第2圧電体層13Cは、−40℃環境下における弾性率Eが1.5GPa以下、好ましくは0.5GPa以下であるとともに、−40℃環境下における降伏強度σが15MPa以上、好ましくは30MPa以上である。ここで、第2圧電体層13Cがある厚みtを有している場合、弾性率Eと降伏強度σから、以下の式(A)によって、第2圧電体層13Cの最少曲率半径Rが算出できる。
(A)σ=E×t/(2×R)
σ;降伏強度、E;弾性率、t;厚み、R;最少曲率半径
例えば、第2圧電体層13Cの厚みtが20μmの場合、弾性率Eが1.5GPa、降伏強度σが15MPaであると、最少曲率半径Rは1mmと算出できる。
【0044】
これにより、−40℃環境下においても、第2圧電体層13Cを小さい曲率半径で曲げることができる。このため、この第2圧電体層13Cの充分な曲げ耐性に伴って、圧電体層13の充分な曲げ耐性を得ることができる。しかも上記ベースシート19とバインダーに樹脂を用いることで、−40℃環境下においても、複合圧電素子101の充分な可撓性を得ることができる。なお、圧電粒子として、強誘電体のニオブ酸カリウム(KNbO)を好適に用いたが、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、亜鉛酸チタン酸ビスマス(Bi(Zn/Ti)O)、コバルト酸ビスマス(BiCoO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr/Ti)O)等を用いることができる。
【0045】
また、本発明の第1実施形態では、第1圧電体層13A及び第1圧電体層13Bの圧電粒子の体積パーセント濃度を同じに調整している。これにより、体積パーセント濃度が低い方の第1圧電体層13Aか第1圧電体層13Bかのいずれかの性能に、圧電体層13の性能が引きずられることがない。このことにより、圧電体層13の充分な圧電性能を確保することができる。また、圧電体層13を製造する際に、同じ原材料を用いることができ、容易に圧電体層13を製造することができる。このことにより、複合圧電素子101を安価に作製することができる。
【0046】
また、本発明の第1実施形態では、図3に示すように、第2圧電体層13Cが第1圧電体層(13A、13B)よりも厚くなっている。これにより、圧電体層13全体において、第1圧電体層(13A、13B)に比して曲げ耐性が高い第2圧電体層13Cの割合が大きくなるので、圧電体層13全体での曲げ耐性がより一層向上することとなる。このことにより、曲げ耐性がより一層向上した複合圧電素子101を提供することができる。
【0047】
圧電体層13の作製は、先ず、溶剤に可溶な非晶性ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂を用い、このバインダー樹脂とカルビトールアセテート等の溶剤とニオブ酸カリウムの粒体とを所望の配合比で混合し、3本ロール等の混合機でそれぞれを均一に分散させ、誘電体ペーストを作製する。この際に、第1圧電体層(13A、13B)の圧電粒子の体積パーセント濃度に対応するように、バインダー樹脂とニオブ酸カリウムの粒体と所望の割合で配合した第1誘電体ペーストを作製する。同様にして、第2圧電体層13Cの圧電粒子の体積パーセント濃度に対応するように、バインダー樹脂とニオブ酸カリウムの粒体と所望の割合で配合した第2誘電体ペーストを作製する。
【0048】
次に、スクリーン印刷等の手法を用いて、この第1誘電体ペーストをベースシート19の片面側に第1電極層11を覆うようにして塗布し、乾燥及び硬化させて第1圧電体層13Aを作製する。この硬化後の第1圧電体層13Aの厚みは、3〜10μm程度が好適である。次に、スクリーン印刷等の手法を同様に用いて、第2誘電体ペーストをベースシート19の片面側に第1圧電体層13Aを覆うようにして塗布し、乾燥及び硬化させて第2圧電体層13Cを作製する。この硬化後の第2圧電体層13Cの厚みは、10〜50μm程度が好適である。
【0049】
次に、第1誘電体ペーストをベースシート19の片面側に第2圧電体層13Cを覆うようにして塗布し、乾燥及び硬化させて第1圧電体層13Bを作製する。この硬化後の第1圧電体層13Bの厚みは、第1圧電体層13Aと同様に、3〜10μm程度が好適である。なお、上述した誘電体ペースト(第1誘電体ペースト、第2誘電体ペースト)には、少量の硬化剤を適宜用いても良いし、消泡剤を添加しても良い。また、ニオブ酸カリウムの粒体の表面にシランカップリング剤を担時させる処理を行っても良い。特に、消泡剤の添加やシランカップリング剤処理を行うことで、圧電体層13に気泡等の欠陥が生じるのを防止することができ、圧電体層13の厚み方向の導通不良を低減することができる。
【0050】
最後に、形成された圧電体層13に分極処理を行う。図4は、分極処理の方法及び原理を説明する概念図であって、図4(a)は、圧電体層13の初期の状態を示し、図4(b)は、圧電体層13の厚み方向に電圧を印加した状態を示し、図4(c)は、分極処理が終了した状態を示している。なお、図中には、圧電体層13として、ニオブ酸カリウムの粒体NBとバインダー樹脂(ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂)PPを示している。
【0051】
分極処理は、形成された圧電体層13をキュリー点近傍の温度に加熱して、図1及び図3に示す端子部171及び端子部172から、図4(b)に示すように、圧電体層13の厚みに応じた直流電圧を圧電体層13に1〜10(V/μm)程度、印加する。そして、常温に戻した後、第1電極層11と第2電極層12との間を短絡させて余分な容量を除去して終了する。なお、直流電圧の印加は、4〜6(V/μm)が好適である。このようにして、圧電体層13は、図4(a)に示す初期状態から図4(c)に示す分極された状態へと、簡単に処理を行うことができる。
【0052】
以上のようにして、第1電極層11、圧電体層13及び第2電極層12が、合成樹脂にフィラーが分散されたものであるので、ベースシート19の可撓性に対応して、充分な可撓性を有することができる。
【0053】
最後に、本発明の第1実施形態では、複合圧電素子101を外部環境から保護するため、オーバーコート部材15が設けられている。なお、第1電極層11及び第2電極層12に、銀の粉体の替わりに導電性のカーボンの粉体を用いた場合、このオーバーコート部材15を設けなくても良い場合がある。
【0054】
また、オーバーコート部材15の作製は、顔料が含有された絶縁性のポリウレタン樹脂をベースとした絶縁性ペーストを用い、同様にして、スクリーン印刷等の手法を用いて、この絶縁性ペーストを第2電極層12全体に覆うようにして塗布して積層し、加熱を行い、乾燥及び硬化させる。この硬化後のオーバーコート部材15の厚みは、10〜100μm程度である。なお、ポリウレタン樹脂以外に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を用いても良い。このようにして、図1ないし図3に示すような複合圧電素子101が形成される。この複合圧電素子101の形成には、安易で安価なスクリーン印刷法を用いているので、複合圧電素子101を容易に作製することができ、しかも安価に作製することができる。
【0055】
以上のように構成された本発明の第1実施形態の複合圧電素子101における、効果について、実際に作製した複合圧電素子101の実施例を参照しながら、以下に説明する。
【0056】
<実施例>
先ず、測定に用いた複合圧電素子101の試料(サンプル)について、具体的に説明する。複合圧電素子101の試料(サンプル)は、ベースシート19として、厚みが75μmのポリイミド(PI)フィルムを用いた。また、第1電極層11及び第2電極層12として、260℃で30分間加熱して固化させて得られた膜が、その膜厚が5μmで、フェノール樹脂中のマトリックス中に導電性の銀粉が40(vol%)含有されているものを用いた。また、オーバーコート部材15として、150℃で10分間加熱して固化させて得られた膜が、その膜厚が10μmで、顔料が含有された絶縁性のポリウレタン樹脂をベースとしたものを用いた。
【0057】
また、第1圧電体層13A及び第1圧電体層13Bとして、260℃で20分間加熱して固化させて得られた膜が、その膜厚が5μmで、非晶性ポリエステル樹脂の熱可塑性樹脂中のマトリックス中に強誘電体粒子であるニオブ酸カリウムの粒体が60(vol%)含有されているものを用いた。
【0058】
図5は、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101に用いた圧電粒子の物性の測定結果であって、ニオブ酸カリウムの示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)のグラフである。横軸は温度を示し、縦軸は熱流量を示している。図5に示すように、ここで用いたニオブ酸カリウムの粒体は、平均粒子径が400nmで、斜方晶−正方晶の転移点温度が223.6℃で、正方晶−立方晶の転移点温度が424℃であった(図5に示すA1(実線)。また、比較を行うために、平均粒子径が200nmで、斜方晶−正方晶の転移点温度が208.6℃で、正方晶−立方晶の転移点温度が411.9℃のもの(図5に示すC1(破線))と、平均粒子径が200nmで、斜方晶−正方晶の転移点温度が208.6℃で、正方晶−立方晶の転移点温度が411.9℃のもの(図5に示すC2(一点鎖線))を用いて、比較サンプルも作製した。
【0059】
また、第2圧電体層13Cとして、260℃で20分間加熱して固化させて得られた膜が、その膜厚が10μmで、非晶性ポリエステル樹脂の熱可塑性樹脂中のマトリックス中に強誘電体粒子であるニオブ酸カリウムの粒体が20〜60vol%含有されているものをいくつか用いた。また、比較を行うために、第2圧電体層13Cを設けない構成とし、一層の圧電体のみの比較サンプルも作製した。
【0060】
次に、上述のようにして作製された複合圧電素子101の試料(サンプル)に分極処理を行った。分極処理は、250℃に加熱して、図1及び図3に示す端子部171及び端子部172から、圧電体層13に100Vの直流電圧を1時間、印加することによって行った。
【0061】
以上のようにして作製したサンプルについて、その感度について測定を行った。その測定は、圧電体層13が形成された試料(サンプル)に、2Hzの周波数で0.5mmの変位が生じるような加振を加え、その時の出力電圧を測定した。そして、その出力電圧が大きい方が感度の高い圧電体であるとした。
【0062】
図6は、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101に係わる測定結果であって、圧電粒子の体積パーセント濃度が変わった圧電素子に、加振を加えた時の出力電圧値のグラフである。横軸は圧電粒子が含有される体積パーセントであり、縦軸は出力電圧値である。図中のSP1(実線)は、第2圧電体層13Cにおけるニオブ酸カリウムの粒体の含有量を変えたサンプルの測定結果であって、図中のCS1(破線)は、一層の圧電体のみの比較サンプルの測定結果である。図7は、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101に係わる測定結果であって、ニオブ酸カリウムの平均粒径が変わった圧電素子に、加振を加えた時の出力電圧値のグラフである。横軸はニオブ酸カリウムの平均粒径であり、縦軸は出力電圧値である。図中のSP2は、本実施例で用いたニオブ酸カリウムの平均粒径が400nmの測定結果であって、図中のCS2及びCS3は、ニオブ酸カリウムの平均粒径が200nm及び800nmの比較サンプルの測定結果である。
【0063】
本発明の第1実施形態の複合圧電素子101は、図6に示すように、第2圧電体層13Cにおけるニオブ酸カリウムの粒体の含有量が低下しても、一層の圧電体のみで構成された比較例のように大きく下がることがない。これは、圧電粒子の体積パーセント濃度が高い第1圧電体層13A及び第1圧電体層13Bで挟んだ構造をしているので、この第1圧電体層(13A、13B)による性能が優先され、圧電体層13全体での圧電性能が大きく低下しないからである。更に、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101は、2つの第1圧電体層(13A、13B)の間に配された第2圧電体層13Cが第1圧電体層(13A、13B)よりも圧電粒子の体積パーセント濃度が低いので、第2圧電体層13Cの曲げに対する曲げ耐性が向上するようになる。このため、圧電体の性能を高めるために圧電粒子の体積パーセント濃度を高くした圧電体の単層で構成した場合と比較して、この第2圧電体層13Cの曲げに対する曲げ耐性が向上するに伴い、圧電体層13も曲げ耐性が向上するようになる。このことにより、圧電性能を維持しつつ、曲げに対する曲げ耐性が向上した複合圧電素子101を提供することができる。
【0064】
また、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101は、第1圧電体層(13A、13B)の圧電粒子の体積パーセント濃度が50〜65vol%であるので、圧電粒子が第1圧電体層(13A、13B)に充分充填されることとなる。このことにより、第2圧電体層13Cの圧電粒子の体積パーセント濃度を低くしても、高い圧電性能を得ることができる。例えば図6に示すように、第1圧電体層(13A、13B)の圧電粒子の体積パーセント濃度が60vol%で、第2圧電体層13Cの圧電粒子の体積パーセント濃度が40vol%であっても、250mV以上の出力電圧値が得られ、高い感度が得られる。
【0065】
更に、圧電粒子がペロブスカイト構造の強誘電体粒子であるので、圧電体層13の圧電性能を向上させることができる。このことにより、出力性能が優れた複合圧電素子101を提供することができる。
【0066】
また、第1圧電体層13A及び第1圧電体層13Bの圧電粒子の体積パーセント濃度を同じに調整しているので、体積パーセント濃度が低い方の第1圧電体層13Aか第1圧電体層13Bかのいずれかの性能に、圧電体層13の性能が引きずられることがない。このことにより、圧電体層13の充分な圧電性能を確保することができる。また、圧電体層13を製造する際に、同じ原材料を用いることができ、容易に圧電体層13を製造することができる。このことにより、複合圧電素子101を安価に作製することができる。
【0067】
また、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101は、圧電粒子である強誘電体粒子としてニオブ酸カリウムを用いたが、平均粒子径が400〜500nmで、斜方晶−正方晶の転移点温度が223℃以上228℃以下で、正方晶−立方晶の転移点温度が420℃以上430℃以下のニオブ酸カリウムを用いるのが好適である。これにより、図7に示すように、圧電体層13の圧電性能をより向上させることができる。このことにより、出力性能がより優れた複合圧電素子101を提供することができる。
【0068】
また、上述した感度特性の測定用サンプルの他に、曲げ特性の測定用に、ニオブ酸カリウムの粒体が20〜60vol%含有されている皮膜サンプルのいくつかを作製し、引張試験機(島津製作所(株)製、型番;オートグラフAGS−J500N)を用いて、いくつかの皮膜サンプルの弾性率及び降伏強度を測定した。測定の際の条件として、−40℃の環境下で測定を行った。なお、用いた皮膜サンプルは、引張試験機で測定する都合上、実際に好適に用いる第2圧電体層13Cの厚みである10〜50μmより、厚い100μm厚みのものを用いた。
【0069】
この結果、皮膜サンプルTP1(ニオブ酸カリウムが20vol%含有)は、弾性率が0.35Gpa、降伏強度が35Mpaで、皮膜サンプルTP2(ニオブ酸カリウムが35vol%含有)は、弾性率が0.98Gpa、降伏強度が25Mpaで、皮膜サンプルTP3(ニオブ酸カリウムが50vol%含有)は、弾性率が1.4Gpa、降伏強度が15.8Mpaで、皮膜サンプルTP4(ニオブ酸カリウムが60vol%含有)は、弾性率が1.9Gpa、降伏強度が5.4Mpaであった。この弾性率と降伏強度を用いて、皮膜サンプル(TP1、TP2、TP3、TP4)の最少曲率半径を算出した。図8は、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101に係わる測定結果であって、圧電粒子の含有量に対する圧電体皮膜の算出した最少曲率半径を示したグラフである。
【0070】
図8に示すように、ニオブ酸カリウムの粒体の含有量が50vol%以下の場合において、最少曲率半径が大幅に小さくなっている。このニオブ酸カリウムの粒体の含有量が50vol%の皮膜サンプルTP3の弾性率が1.4Gpaで、降伏強度が15.8Mpaなので、この近傍の弾性率及び降伏強度をもって第2圧電体層13Cの皮膜特性とするのが良いと考える。また、より好ましくは、このニオブ酸カリウムの粒体の含有量が20vol%の皮膜サンプルTP1(弾性率が0.35Gpaで、降伏強度が35Mpa)とニオブ酸カリウムの粒体の含有量が35vol%の皮膜サンプルTP2(弾性率が0.98Gpaで、降伏強度が25Mpa)との間の弾性率及び降伏強度をもって第2圧電体層13Cの皮膜特性とするのが良いと考える。
【0071】
上記の結果から、第2圧電体層13Cは、−40℃環境下における弾性率が1.5GPa以下、好ましくは0.5GPa以下であるとともに、−40℃環境下における降伏強度が15MPa以上、好ましくは30MPa以上であるのが好適である。これにより、本発明の第1実施形態の複合圧電素子101は、−40℃環境下においても、第2圧電体層13Cを小さい曲率半径で曲げることができるので、この第2圧電体層13Cの充分な曲げ耐性に伴って、圧電体層13の充分な曲げ耐性を得ることができる。しかも上記ベースシートとバインダーに樹脂を用いることで、−40℃環境下においても、複合圧電素子101の充分な可撓性を得ることができる。
【0072】
また、第2圧電体層13Cが第1圧電体層(13A、13B)よりも厚くなっているので、圧電体層13全体において、第1圧電体層(13A、13B)に比して曲げ耐性が高い第2圧電体層13Cの割合が大きくなっている。このため、圧電体層13全体での曲げ耐性がより一層向上することとなる。このことにより、曲げ耐性がより一層向上した複合圧電素子101を提供することができる。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば次のように変形して実施することができ、これらの実施形態も本発明の技術的範囲に属する。
【0074】
図9は、本発明の第1実施形態に係わる複合圧電素子101の変形例1を説明する図であって、図2と比較した複合圧電素子C101の側面図である。図10は、本発明の第1実施形態に係わる複合圧電素子101の変形例2を説明する図であって、図3(a)と比較した複合圧電素子C102断面図である。
【0075】
<変形例1>
上記第1実施形態では、ベースシート19の片面側に、圧電体層13を含む素子を積層する構成にしたが、図9に示すように、ベースシート19の反対面側にも圧電体層C13を含む素子を積層する構成にしても良い。
【0076】
<変形例2>
上記第2実施形態では、圧電体層13の第2圧電体層13Cを1層で構成するようにしたが、これに限らず、例えば図10に示すように、2層の第2圧電体層(23C、33C)で構成した圧電体層C23であっても良いし、2層以上であっても良い。
【0077】
本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
11 第1電極層
12 第2電極層
13、C13、C23 圧電体層
13A、13B 第1圧電体層
13C、23C、33C 第2圧電体層
19 ベースシート
101、C101、C102 複合圧電素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12