(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の光源は、前記金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する、1またはいくつかの領域に係る、実質的に単色の光を発する、請求項7に記載の被検出物質の検出装置。
前記複数の金属ナノ粒子は、前記複数の金属ナノ粒子の表面間距離が、前記被検出物質の大きさと前記ホスト分子の大きさとの和よりも大きい状態で前記液体中に分散している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の被検出物質の検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0035】
本発明およびその実施の形態において、「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有する金属粒子である。「ナノメートルのオーダー」とは1から数百ナノメートルの範囲を含み、典型的には1nm〜100nmの範囲である。金属ナノ粒子の形状は、光照射により集合できれば球状でもロッド状でもよく、特に限定されない。
【0036】
本発明およびその実施の形態において、「金属ナノ粒子集合体」とは、複数の金属ナノ粒子が凝集することによって形成された集合体である。
【0037】
本発明およびその実施の形態において、「被検出物質」は、生体分子でもよく、生体分子に限定されない有機分子であってもよい。また、「被検出物質」は、重金属イオンであってもよい。
【0038】
本発明およびその実施の形態において、「ホスト分子」とは、被検出物質を特異的に付着させることができる分子である。被検出物質を特異的に付着させることのできるホスト分子と被検出物質との組み合わせについては、たとえば、抗原と抗体、糖鎖とタンパク質、脂質とタンパク質、低分子化合物(リガンド)とタンパク質、タンパク質とタンパク質、一本鎖DNAと一本鎖DNAなどが挙げられる。これらの特異的親和性を有する両者のうちいずれか一方が被検出物質である場合に、他方をホスト分子として用いることができる。すなわち、抗原が被検出物質である場合は、ホスト分子として抗体を用いることができる。逆に抗体が被検出物質である場合には、ホスト分子として抗原を用いることができる。また、DNAのハイブリダイゼーションにおいては、被検出物質がターゲットDNAであり、ホスト分子がプローブDNAである。また、「抗原」は、アレルゲン、ウィルスを含み得る。また、本発明およびその実施の形態によれば、抗体の種類を変えることによって、検出可能なアレルゲンあるいはウィルスの種類を変えることもできる。したがって、本発明およびその実施の形態により検出可能なアレルゲンあるいはウィルスの種類は特に限定されるものではない。また、「被検出物質」が重金属である場合には、重金属イオンを捕集可能な分子をホスト分子に利用することができる。
【0039】
本発明およびその実施の形態において、「第1のホスト分子」および「第2のホスト分子」は、被検出物質の異なる部位に特異的に付着し得るホスト分子である。たとえばターゲットDNAが被検出物質である場合、第1のホスト分子は、ターゲットDNAのたとえば5’末端側でハイブリダイゼーションを起こすプローブDNAである。第2のホスト分子は、ターゲットDNAのたとえば3’末端側でハイブリダイゼーションを起こすプローブDNAである。
【0040】
また、たとえば抗原が被検出物質である場合、第1のホスト分子は一次抗体であり、第2のホスト分子は二次抗体である。ただし、たとえば抗原が被検出物質である場合、一次抗体(第1のホスト分子)で表面が修飾された金属ナノ粒子のみを用いてもよい。
【0041】
本発明およびその実施の形態において、「試料」とは、被検出物質を含む物質または被検出物質を含む可能性がある物質を意味する。試料は、たとえば動物(たとえばヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ニワトリ、ラット、マウスなど)からの生体試料であり得る。生体試料は、たとえば、血液、組織、細胞、分泌液、体液等を含み得る。なお、「試料」はそれらの希釈物を含んでもよい。
【0042】
本発明およびその実施の形態において、「白色光」との用語は、可視域を含む紫外域〜近赤外域の波長範囲(たとえば200nm〜1100nmの波長範囲)を有する連続光、またはパルス光を意味する。
【0043】
本発明およびその実施の形態において、「単色光」との用語は、金属ナノ粒子集合体の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する領域内の波長を有する光である。局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する領域の数は1つでもよく、複数でもよい。
【0044】
本発明およびその実施の形態において、「偏光」との用語は、光電磁波の伝播方向に垂直な電場ベクトルを意味する。
【0045】
本発明およびその実施の形態において、「超親水性」との用語は、基板に保持される液滴の接線と基板表面とのなす接触角が10度以下であることを意味する。
【0046】
本発明およびその実施の形態において、「分散」との用語は、ホスト分子または被検出物質が液体中に浮遊することを意味し、ホスト分子または被検出物質が液体に溶解する場合を含む。つまり、分散液は溶液を含み得るとともに、分散媒は溶媒を含み得る。
【0047】
[実施の形態1]
<金ナノ粒子の配列>
以下の実施の形態では、金属ナノ粒子の一つの例示的形態として金ナノ粒子を採用する。金属ナノ粒子は金ナノ粒子に限定されず、たとえば銀ナノ粒子または銅ナノ粒子等であってもよい。
【0048】
金ナノ粒子の平均粒径は、サブナノメートルオーダー〜ナノメートルオーダー(約2nm〜1000nm)であり、たとえば2nm〜500nm、好ましくは、2nm〜100nm、より好ましくは、5nm〜50nmであり得る。
【0049】
以下に詳細に説明するように、複数の金ナノ粒子が光誘起力によって捕捉されるとともに配列される。本発明およびその実施の形態において、「光誘起力」とは、散逸力、勾配力および物質間光誘起力の総称として用いられる。散逸力とは、光散乱あるいは光吸収といった散逸的過程において、光の運動量が物質に与えられることによって発生する力である。勾配力は、光誘起分極が生じた物質が不均一な電磁場の中に置かれた場合に、電磁気学的なポテンシャルの安定点に物質を移動させる力である。物質間光誘起力とは、光励起された複数の物質中の誘起分極から生じる縦電場による力と横電場(輻射場)による力との和である。
【0050】
図1は、複数の金ナノ粒子が捕捉および配列されるメカニズムを説明するための模式図である。
図2は、金ナノ粒子の2粒子モデルを説明するための図である。
図1および
図2を参照して、複数の金ナノ粒子11は液体中、たとえば水中に分散される。
【0051】
複数の金ナノ粒子11の各々はレーザ光5を受ける。レーザ光5の偏光方向はy方向である。すなわち、レーザ光5の偏光方向は、金ナノ粒子11の中心を結ぶ軸Axと略平行な方向である。この場合、金ナノ粒子11の各々には、レーザ光5の偏光方向に平行な方向に沿って電気分極が生じる。これにより、各金ナノ粒子11は、電磁気学的なポテンシャルの安定点であるレーザ光5のビームウエストの近傍に捕捉される。また、すべての金ナノ粒子11中の電気分極の向きは同一である。このため、
図2に示されるように、近接する金ナノ粒子11の間には引力が生じる。
【0052】
金ナノ粒子は球状セルであると仮定する。この場合、応答光電場は、Maxwell方程式の積分形として表現できる。応答電場E
iは以下の式(1)に従って表わされる。
【0054】
i,jは球状セルの粒子番号である。M,Lは自己相互作用に関連する量である。個々の金ナノ粒子の内部での感受率および電場分布は平坦であるとする。誘起分極P
iは以下の式(2)に従って表わされる。
【0056】
感受率χにはDrudeモデルが適用される。感受率χは以下の式(3)に従って表わされる。
【0058】
χ
bは背景の感受率を表わし、ω
pはプラズマエネルギーを表わし、γは非輻射緩和定数を示し、V
fはフェルミ面上における電子速度を示す。非輻射緩和定数γは光から光以外(たとえば熱)への緩和を示す値である。
【0059】
一方、光誘起力は、以下の式(4)によって一般的に表わされる(T.Iida and H.Ishihara,Phys.Rev.B77,245319(2008))。
【0061】
上記式(2)および式(3)に従ってそれぞれ表わされる誘起分極P
iおよび応答電場E
iが式(4)に代入される。これにより、光誘起力は以下の式(5)に従って表わされる。
【0063】
GはGreen関数を表わす。式(5)の右辺の第1項は入射光による勾配力を表わし、第2項は物質間光誘起力を表わす。入射光による勾配力は光強度勾配に比例する。一方、物質間光誘起力は光強度に比例する。したがって、入射光の光強度勾配および光強度を制御することで、勾配力および物質間光誘起力を調整することができる。
【0064】
図1を再び参照して、水中に分散した金ナノ粒子11の表面は、金ナノ粒子11の作成時に添加された保護基により覆われており、そのイオン化により表面電荷を有している。各金ナノ粒子11の表面には同種の電荷が分布する。このため、複数の金ナノ粒子11の間には斥力が生じる。レーザ光の照射によるトラップ力(散逸力および勾配力)と、電気分極による金ナノ粒子間の引力(物質間光誘起力)と、表面電荷による斥力とが釣り合うことで、複数の金ナノ粒子11をレーザ光5の偏光方向と平行な方向に配列することができる。
【0065】
<金ナノ粒子集合体の形成>
金ナノ粒子の各々はホスト分子で修飾される。ホスト分子には、金ナノ粒子と相互作用し得る部位が存在する。金ナノ粒子の表面へのホスト分子の固定は上記部位を介して行なわれる。「相互作用」とは、化学結合、ファンデルワールス力、静電的相互作用、疎水性相互作用および吸着力などをいう。金と相互作用し得る部位(基)としては、たとえばチオール基が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0066】
本実施の形態における被検出物質はターゲットDNAである。プローブDNAで修飾された金ナノ粒子は、ターゲットDNAの存在下において、DNAのハイブリダイゼーションにより凝集し、金ナノ粒子集合体を形成する。一方、プローブDNA同士はハイブリダイゼーションを起こさない。「ハイブリダイゼーション」とは、2種の一本鎖核酸の間での再会合反応を意味する。以下に説明するように、本実施の形態では、塩基配列が相補的な関係にある2個の1本鎖DNAの間で二重鎖が形成される。しかし、ハイブリダイゼーションはこれに限定されず、1個の一本鎖DNAと1個のRNAとの間、または2個のRNAの間での二重鎖形成を含む。
【0067】
図3は、DNAのハイブリダイゼーションによる金ナノ粒子の凝集を説明するための概念図である。
図3(A)は、プローブDNAの塩基配列の一例を示す図である。
図3(B)は、金ナノ粒子の凝集前後の状態を示す模式図である。
【0068】
図3(A)を参照して、本実施の形態における被検出物質はターゲットDNA18である。ターゲットDNA18は、たとえば24個のアデニンの塩基配列を有する一本鎖DNAである。このターゲットDNA18を特異的に付着させることができるプローブDNA13,14が準備される。
【0069】
プローブDNA13は、3’末端にたとえばチオール基(SHで表す)を有する一本鎖DNAである。プローブDNA13は、チオール基と5’末端との間に、ターゲットDNAの3’末端側の塩基配列と相補的な塩基配列を有する。本実施の形態における上記相補的な塩基配列は、12個のチミン(Tで表す)である。
【0070】
プローブDNA14は、5’末端にたとえばチオール基を有する一本鎖DNAである。プローブDNA14は、3’末端とチオール基との間に、ターゲットDNAの5’末端側の塩基配列と相補的な塩基配列を有する。本実施の形態における上記相補的な塩基配列は、12個のチミンである。
【0071】
次に
図3(B)を参照して、本実施の形態において用いられる一部の金ナノ粒子11の表面は、チオール基を介してプローブDNA13で修飾される。残りの金ナノ粒子12の表面は、チオール基を介してプローブDNA14で修飾される。金ナノ粒子をプローブDNAで修飾するための方法として、たとえば以下の方法を用いることができる。
【0072】
まず、金ナノ粒子を分散した液に3.61μMのチオール化DNAを添加して、その液をたとえば16時間放置する。その後、上記分散液へ塩化ナトリウムとリン酸バッファ(pH7.0)とを0.1M,10mMになるように添加して、その液をたとえば40時間放置する。遠心分離によってナノ粒子を沈殿させて洗浄を行なう。なお、金ナノ粒子分散液は、市販品を用いてもよく、金イオン(金錯体イオン)含有分散液および還元剤を用いて分散液内還元反応によって製造してもよい。たとえば、塩化金酸分散液にクエン酸を加えてもよい。
【0073】
ターゲットDNA18を含む液に金ナノ粒子11,12が導入されると、プローブDNA13とターゲットDNA18との間、およびプローブDNA14とターゲットDNA18との間でハイブリダイゼーションが起こる。これにより金ナノ粒子11,12が凝集し、金ナノ粒子集合体10が形成される。
【0074】
<検出装置および方法>
図4は、本発明の実施の形態1に係る検出装置の概略的構成を示した図である。
図4を参照して、検出装置100は、光トラップ用光源101(第1の光源)と、照明用光源102と、光学部品104と、対物レンズ103と、キット20と、撮影機器108(受光器)と、演算部106(検出器)と、調整機構112とを備える。x方向およびy方向は水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は鉛直方向を表す。重力の向きはz方向下方である。
【0075】
光トラップ用光源101は、金ナノ粒子11,12を集合させるための偏光としてレーザ光5を発する。キット20におけるレーザ光5の偏光方向はy方向である。レーザ光5はz方向上方にキット20に照射される(
図5参照)。
【0076】
光トラップ用光源101の具体的な構成は特に限定されるものではなく、ナノ物質の操作に用いられる公知の光源を用いることができる。光トラップ用光源101は、たとえば近赤外(たとえば波長1064nm)の連続光を発生させる。なお、偏光の種類は直線偏光に限定されず、たとえば円偏光または楕円偏光でもよく、さらには軸対称偏光であってもよい。軸対称偏光は、ラジアル偏光およびアジミュサル偏光を含む。
【0077】
照明用光源102は、キット20内のサンプル30(
図5参照)を照らすための光を発する。照明用光源102は、たとえば白色光6を発する光源である。1つの実施例として、ハロゲンランプを照明用光源102に用いることができる。なお、照明用光源102に、レーザ光源等の単色光源を用いることも可能である。ただし、白色光源を照明用光源102に用いることによって検出装置100を低コストで実現できる。
【0078】
光学部品104は、たとえばミラー、プリズム、または光ファイバ等を含む。光学部品104は、光トラップ用光源101からのレーザ光5および照明用光源102からの白色光6をキット20に導くために用いられる。
【0079】
対物レンズ103は、光トラップ用光源101からのレーザ光5を集光する。対物レンズ103により集光された光がサンプル30に照射される。サンプル30は、たとえばターゲットDNA18と、プローブDNA13,14をそれぞれ表面に修飾した金ナノ粒子11,12とが導入された液体である。なお、本実施の形態において、対物レンズ103を通過後のレーザ光5の強度は、たとえば、光トラップ用光源101から出力されるレーザ光5の強度の約10%である。なお、対物レンズ103および光学部品104は、たとえば顕微鏡本体(図示せず)に組み込まれる。
【0080】
また、対物レンズ103は、サンプル30からの光を取り込むためにも用いられる。サンプル30からの光を高効率に取り込むために、対物レンズ103の開口数(NA)は高いことが好ましい。なお、対物レンズ103を介して照明用光源102からの白色光6をキット20に照射してもよい。
【0081】
撮影機器108は、レーザ光5のビームウエストの近傍を撮影する。撮影機器108は照明用光源102から液体に照射され液体を通過した白色光6を受光するので、本発明に係る「受光器」に相当する。撮影機器108は、たとえばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを備えたビデオカメラによって実現される。なお、撮影機器108で撮影される画像は、動画であっても静止画であってもよい。
【0082】
図4に示された構成では、対物レンズ103の位置は固定されている。調整機構112は、キット20が搭載されたXYZ軸ステージ114(
図5参照)のx方向、y方向およびz方向の位置を調整するものである。調整機構112には、たとえば顕微鏡に付属の焦準ハンドルを用いることができる。これにより、対物レンズ103に対するキット20の相対位置が調整される。なお、調整機構112の具体的な構成は特に限定されるものではない。また、調整機構112は、固定されたキット20に対して、対物レンズ103の位置を調整してもよい。
【0083】
レーザ変位計109は、レーザ光5のビームウエストの位置を調整するために用いることができる。また、サンプル30の分散液の厚さを測定して気液界面の位置を決定する際にもレーザ変位計109を用いることができる。レーザ変位計109は、たとえばレーザ変位計109とキット20との間の鉛直方向の距離を測定するとともに、キット20の水平方向の変位を測定する。調整機構112は、レーザ変位計109の測定結果に基づいて、XYZ軸ステージの位置を調整してもよい。ただし、レーザ変位計109は必須の構成ではない。
【0084】
演算部106は、たとえばマイクロコンピュータあるいはパーソナルコンピュータ等によって実現される。演算部106は、撮影機器108からの信号(たとえば撮影機器108によって撮影された動画の信号)を受ける。演算部106は、撮影機器108からの信号に基づいて、ターゲットDNA18を検出する。
【0085】
図5は、
図4に示した検出装置100のキット20付近の構成を示した拡大図である。
図5(A)は、キット20付近の構成を示す図である。
図5(B)は、対物レンズ103の光学系をより詳細に示す図である。
図5(A)を参照して、キット20は基板21を含む。キット20は、基板21上に設けられた液面ガイド24を含んでもよい。
【0086】
基板21には、試料および金ナノ粒子11,12が導入されたサンプル30が滴下される。基板21は、白色光に対して透明な材料で作成することができる。好ましくは、基板21に用いられる材料は、たとえばガラス、石英のように、偏光に対して異方性を示さない材料である。
【0087】
液面ガイド24は、サンプル30を滴下すべき位置を示す。液面ガイド24の形状は、滴下するサンプル30の体積、および形成すべき気液界面の基板21からの高さ(z方向の距離)等に応じて適宜定められる。液面ガイド24は、たとえばポリマーフィルムのように、撥水性を有する材料で作成することができる。キット20には、たとえば市販のガラスボトムディッシュを用いることができる。したがってキット20の構成は
図5(A)に示された構成に限定されるものではない。
【0088】
この実施の形態では、レーザ光5のビームウエストが液体中にあるように、対物レンズ103とサンプル30との間の距離が決定される。レーザ光5のビームウエストは、対物レンズ103の焦点の位置に形成される。つまり、対物レンズ103の焦点が液体中に位置するように、対物レンズ103とサンプル30との間の相対位置は調整される。
【0089】
D2は、基板21の上面21aと対物レンズ103の焦点との間の距離である。対物レンズ103の焦点を液体中に位置するために、距離D2が調整される。距離D2は、対物レンズ103の焦点距離F、基板21の厚さTおよび、対物レンズ103の主面103aとXYZ軸ステージ114の上面114a(基板21の下面21b)との間の距離D1から、たとえば以下のように調整することができる。
【0090】
焦点距離Fは、対物レンズ103の仕様値から既知である。また、基板21の厚さTは、基板21(たとえばガラスボトムディッシュ)の仕様値から既知である。
【0091】
調整機構112の制御部(図示せず)は、たとえば使用者による初期化操作に基づいて、XYZ軸ステージ114を所定の基準位置に移動させる機能を有する。XYZ軸ステージ114が基準位置にあるときの距離D1の値は、基準値として制御部が予め有している。制御部は、使用者の操作に応じてXYZ軸ステージ114のz方向の位置を調整する際、XYZ軸ステージ114の基準位置からのz方向の変位量に基づいて、調整後の距離D1を算出する。
【0092】
対物レンズ103の焦点距離Fは、距離D1と、基板21の厚さTと、距離D2との和に等しい(F=D1+T+D2)。すなわち距離D2は、D2=F−D1−Tと表わされる。上記のように、焦点距離Fおよび基板21の厚さTは既知の値である。また、距離D1は、調整機構112の制御部によって算出される。したがって、調整機構112の制御部は、距離D2を算出することができる。
【0093】
図5(B)を参照して、距離D2の算出方法を、具体例を挙げてより詳細に説明する。対物レンズ103には、たとえばNikon CFI Plan Fluor 100XH oil(観察倍率:100×、作動距離:0.16mm、焦点距離:2mm)を用いることができる。
【0094】
対物レンズ103の上面103bと基板21の下面21bとの間の距離を160μmに設定したとき、対物レンズ103の焦点は、基板21の上面21aと一致する。この距離を作動距離(WD)と呼ぶ。対物レンズ103の上面103bと基板21の下面21bとの間はイマージョンオイル115で浸されている。
【0095】
対物レンズ103は、この状態から、対物レンズ103の上面103bが基板21の下面21bと接触する直前までz軸方向に移動可能である。つまり、対物レンズ103は、z方向に160μm以下の距離を移動できる。したがって、対物レンズ103の焦点のz方向の範囲(距離D2の範囲)は、基板21の上面21aから0mm以上160μm以下である。なお、サンプル30は空気と異なる屈折率(分散媒が水またはリン酸バッファの場合1.33)を有するので、サンプル30の屈折率を考慮してピントを調整することが望ましい。
【0096】
また、観察系の倍率は、顕微鏡本体(図示せず)に組み込まれた結像レンズ(図示せず)の焦点距離の仕様値を用いて、倍率=結像レンズ焦点距離/対物レンズ焦点距離=200mm/2mm=100倍と算出される。
【0097】
気液界面31から基板21の上面21aまでの距離D3が大きくなるに従って、観察系のピントの位置は、対物レンズ103の焦点の位置からずれる。ピントが合った画像を取得するために、対物レンズ103の焦点の水平方向(y方向)の位置を、たとえば気液界面31の端すなわち液面ガイド24の近傍の気液界面31に設定することができる。一例としてサンプル30の体積が15μLである場合、対物レンズ103の焦点の水平方向の位置は、液面ガイド24を基準としたy方向の位置がたとえば50μm以下であることが望ましい。
【0098】
また、距離D2は、たとえば20μm以下に設定することが好ましい。焦点距離Fはたとえば2mmであり、厚さTはたとえば0.17mmである。したがって、距離D1の基準値をD1α、距離D1の基準値D1αからの変位量をD1βと表すとき、距離D2=F−T−(D1α+D1β)=2,000−170−(D1α+D1β)と表される。つまり、距離D2を20μm以下にするためには、D1=(D1α+D1β)を1810μm以上に設定すればよい。
【0099】
なお、
図4および
図5に示した構成では、水平面(xy平面)に置かれた基板21上にサンプル30が滴下される。また、対物レンズ103は、基板21の鉛直方向(z方向)下方に配置される。しかし、基板が置かれる面は厳密な水平面に限定されるものではなく、水平面に対して傾きを有していてもよい。また、対物レンズは、基板の鉛直方向上方および下方のどちらに配置してもよい。たとえば、水平面に置かれた基板の鉛直方向上方に対物レンズを配置することができる。これにより、鉛直方向上方から下方に向かって(言い換えると基板について気液界面と同一側から)レーザ光が照射される。
【0100】
図6は、
図5に示したレーザ光5のビームウエストの近傍における金ナノ粒子11,12の凝集を説明するための模式図である。
図6(A)は、凝集前の金ナノ粒子11,12を表す。
図6(B)は、凝集後の金ナノ粒子11,12を表す。
【0101】
図6(A)を参照して、レーザ光5を気液界面に照射することで、金ナノ粒子11,12が気液界面に集まる。これにより、ビームウエストの近傍における金ナノ粒子11,12の密度は、他の位置における密度と比べて局所的に高くなる。ビームウエストにおけるビーム径は、たとえば数μm程度である。
【0102】
次に
図6(B)を参照して、金ナノ粒子11,12の周囲にターゲットDNA18が存在すると、プローブDNA13とターゲットDNA18との間、およびプローブDNA14とターゲットDNA18との間でハイブリダイゼーションが起こる。ターゲットDNA18の長さは、たとえばナノメートルのオーダー(たとえば数ナノメートルから数十ナノメートル)である。なお、上述のようにレーザ光5の波長は、たとえば1064nmである。したがって、金ナノ粒子11,12の間の距離は、レーザ光5の波長以下および可視光の波長以下のスケールで固定される。
【0103】
粒子間距離が固定された金ナノ粒子11,12の表面に存在するプローブDNA13,14は、その周囲の他のターゲットDNA18との間でさらにハイブリダイゼーションを起こす。DNAのハイブリダイゼーションによって金ナノ粒子11,12の集合体のサイズが大きくなることで、その周囲にターゲットDNA18が存在する確率が高まるので、DNAのハイブリダイゼーションが一層起こり易くなる。このため、金ナノ粒子11,12の集合体のサイズが増大するに従って、DNAのハイブリダイゼーションが起こる頻度が増加する。言い換えると、本実施の形態によれば、光照射によって金ナノ粒子集合体の形成を加速させることができる。その結果、金ナノ粒子11,12が高密度に凝集した金ナノ粒子集合体が短時間で形成される。
【0104】
図7は、本発明の実施の形態1に係るターゲットDNA18の検出方法を説明したフローチャートである。
図4、
図5および
図7を参照して、ステップS1において、試料を含むサンプル30に、プローブDNA13,14でそれぞれ修飾された金ナノ粒子11,12が導入される。
【0105】
ステップS2において、調整機構112によって、対物レンズ103の焦点に対するサンプル30の位置が調整される。上記のように、対物レンズ103の焦点は、液体中にあり、かつ気液界面31の近傍に位置することが好ましい。この実施の形態のように、サンプル30の体積が微小(たとえばマイクロリットルのオーダー)である場合、対物レンズ103の焦点の位置は、レーザ光5の光軸Lに沿った基板21の上面と気液界面31との間の中点Mよりも気液界面31側となるように調整される。対物レンズ103の焦点と気液界面31との間の距離は、たとえば以下のように調整することができる。
【0106】
調整機構112の制御部は、滴下されたサンプル30の画像をカメラ(図示せず)で撮影して、この画像から気液界面31の基板21からの高さD3を求める。液面ガイド24で囲まれた領域の面積は一定であるため、サンプル30の体積(滴下量)と気液界面31の高さD3との間には対応関係が存在する。制御部は、この対応関係を、たとえばテーブルとして予め記憶する。このテーブルと、サンプル30の実際の滴下量とに従って、気液界面31の高さD3を求めることができる。あるいは、制御部は、測定毎にサンプル30の画像を撮影して、気液界面31の高さD3を求めてもよい。
【0107】
図5で説明したように、対物レンズ103の焦点距離Fと、基板21の厚さTと、対物レンズ103の主面103aと基板21の下面21bとの間の距離D1とに基づいて、基板21の上面21aから焦点までの距離D2を求めることができる。したがって、上述のように気液界面31の高さD3をさらに求めることで、気液界面31と焦点との間の距離D4を算出することができる。
【0108】
なお、液面ガイド24で囲まれた領域がたとえば半径Rの円である場合には、サンプル30の画像を撮影しなくてもよい。この場合、滴下されたサンプル30の形状を半楕円球と近似することができる。このため、サンプル30の体積Vと、サンプル30の最大高さH(上記領域の中心における、レーザ光5の光軸に沿った基板21の上面と気液界面31との間の距離)との間には、V=2πR
2H/3と表される関係が成立する。つまり、最大高さHは(3/2)×V/(πR
2)に等しい。したがって、サンプルの滴下量から、上記領域の中心における気液界面の最大高さを求めることができる。たとえば、V=15μLで液滴の基板上での半径が2.5mmの場合であれば、H=1.15mmと見積ることができる。このような見積から液滴の形状とサイズとをモデリングでき、レーザ照射位置を決める際の参考にできる。
【0109】
ステップS3において、光トラップ用光源101からのレーザ光5をキット20に照射する。サンプル30がターゲットDNA18を含む場合、光照射開始から一定の時間が経過すると、金ナノ粒子集合体10が形成される。
【0110】
ステップS4において、撮影機器108でサンプル30の画像を撮影する。なお、撮影機器108で動画を撮影する場合、ステップS3において光の照射を開始する前から撮影を開始してもよい。
【0111】
ステップS5において、演算部106は、撮影機器108からの画像を処理するとともに、その処理結果に基づいて、ターゲットDNA18の有無を判定する。画像処理には、種々の公知の信号処理技術を用いることができる。
【0112】
たとえば、ターゲットDNA18が存在する場合の金ナノ粒子集合体の形状の特徴が予め分かっている場合には、パターン認識の技術を用いることができる。以下に示すように、ある測定条件下における金ナノ粒子集合体はネットワーク状に形成される。演算部106は、パターン認識の技術を用いて、このネットワーク状のパターンの特徴を抽出する。パターンの特徴が抽出されると、ターゲットDNA18が存在すると判定される。あるいは、たとえば、金ナノ粒子集合体の形成により透過光が減少して画像の色が濃くなった部分の面積に基づいて、ターゲットDNA18の有無を判定することができる。
【0113】
続いて、ターゲットDNA18の検出結果の一例について、撮影機器108で撮影された画像を参照しながら説明する。サンプル30は、以下の方法により作成された。
【0114】
まず、プローブDNA13で修飾された金ナノ粒子11を含む分散液(以下、分散液Aと呼ぶ)と、プローブDNA14で修飾された金ナノ粒子12を含む分散液(以下、分散液Bと呼ぶ)とを別々に調製した。分散液A,Bの金ナノ粒子の濃度は5.0nMである。
【0115】
濃度5.0nMの分散液A中での金ナノ粒子11の平均粒子間距離(中心間距離)、および濃度5.0nMの分散液B中での金ナノ粒子12の平均粒子間距離は、いずれも0.693μmと計算される。
【0116】
また、分散液Aと、分散液Bと、被検出物質を含む分散液との等量混合液中での金ナノ粒子11,12の各々の濃度は、5.0/3=1.66nMとなる。このため、上記等量混合液中での金ナノ粒子11の平均粒子間距離、および金ナノ粒子12の平均粒子間距離は、いずれも0.999μmと計算される。
【0117】
さらに、上記等量混合液中において金ナノ粒子11と金ナノ粒子12とが均等に混合されているとすると、金ナノ粒子11,12を互いに区別をしない場合の金ナノ粒子の濃度は1.66+1.66=3.33nMとなる。このため、上記等量混合液中での金ナノ粒子の平均粒子間距離は0.793μmと計算される。
【0118】
なお、DNAの隣接する塩基間の距離は0.34nmであることが知られている。本実施の形態で用いられるプローブDNA13,14の各々の塩基数は12であるので、プローブDNA13,14の大きさ(長さ)は、いずれも0.34×12=4.08nm程度と計算される。また、ターゲットDNA18の塩基数は24であるので、ターゲットDNA18の大きさは0.34×24=8.16nm程度と計算される。このことから、プローブDNA13,14とターゲットDNA18とがハイブリダイゼーションを起こす前の状態において、金ナノ粒子は、金ナノ粒子の平均の表面間距離が、プローブDNA13とプローブ14とターゲットDNA18との長さの和よりも大きい状態で液体中に分散していることが好ましい。
【0119】
金ナノ粒子の平均の表面間距離は、金ナノ粒子の平均粒子間距離(中心間距離)から金ナノ粒子の直径を差し引くことにより算出される。上記の平均粒子間距離0.793μmから金ナノ粒子の直径30nmを差し引くと、0.790μmとなる。したがって、金ナノ粒子の平均の表面間距離は、プローブDNA13とプローブ14とターゲットDNA18との長さの和である4.08+4.08+8.16=16.32nmよりも大きいので、上述の条件を満たしている。
【0120】
次に、サンプル30の原液として、100μMのターゲットDNAの原液と、100μMのミスマッチDNAの原液とを調製した。ターゲットDNA18は、
図3で説明したように、プローブDNA13,14と相補的な塩基配列を有する相補鎖DNAである。ミスマッチDNAとは、ミスマッチの塩基が存在するために、プローブDNA13,14との間でハイブリダイゼーションを起こさないDNAである。相補鎖DNAの原液をリン酸バッファで10,000倍に希釈し、10nM 希釈分散液とした。一方、ミスマッチDNAの原液をリン酸バッファで100倍に希釈し、1μM 希釈分散液とした。つまり、ミスマッチDNAの希釈分散液の濃度は、相補鎖DNAの希釈分散液の濃度の100倍である。
【0121】
上記分散液を用いて、比較のために2つのサンプルを準備した。一方のサンプルは、5μLの分散液Aと、5μLの分散液Bと、5μLの相補鎖DNAの希釈分散液と含む。他方のサンプルは、5μLの分散液Aと、5μLの分散液Bと、5μLのミスマッチDNAの希釈分散液と含む。つまり、各サンプルの体積は15μLである。これらサンプルが基板21上に滴下された。
【0122】
図8〜
図17に示す画像は、サンプルの水平方向(
図4のx方向およびy方向)の画像である。なお、これらの画像では、液面ガイド24(
図5参照)は示されていない。
【0123】
図8(A)は、光を照射せずに相補鎖DNAの希釈分散液(濃度10nM)を含むサンプルを1時間自然乾燥させた後のサンプルの画像である。
図8(A)を参照して、相補鎖DNAとプローブDNAとの間のハイブリダイゼーションにより金ナノ粒子凝集体がネットワーク状に形成される。
【0124】
一方、
図8(B)は、光を照射せずにミスマッチDNAの希釈分散液(濃度1μM)を含むサンプルを1時間自然乾燥させた後のサンプルの基板上の画像である。
図8(B)を参照して、ミスマッチDNAとプローブDNAとの間のハイブリダイゼーションが起こらない場合には、数μm程度の団子状の凝集体が観察された。
図8(A)および
図8(B)から分かるように、DNAのハイブリダイゼーションの有無により、自然乾燥後に観察された凝集体の形状には明確な差異が存在する。
【0125】
図9(A)は、光照射前における相補鎖DNAの希釈分散液(濃度10nM)のビームウエストの周辺の画像である。
図9(B)は、光照射前におけるミスマッチDNAの希釈分散液(濃度1μM)のビームウエストの周辺の画像である。
【0126】
図9(A)および
図9(B)を参照して、撮影機器108で撮影された領域の大きさは69μm×52μmである。画像下側の色の濃い部分(Lで表す)は液体である。画像上側の色の薄い部分(Aで表す)は気体である。液体と気体との間の白い部分(Iで表す)は気液界面である。レーザ光5の照射前には、相補鎖DNAの希釈分散液およびミスマッチDNAの希釈分散液のいずれにおいても、金ナノ粒子集合体10は観察されない。
【0127】
上記希釈分散液の各々の気液界面の近傍にレーザ光5を2分40秒間照射した。光トラップ用光源101から出力されるレーザ光5の強度は0.2Wに設定した。
【0128】
図10(A)は、光照射後における、相補鎖DNAの希釈分散液(濃度10nM)の基板上の画像であり、
図10(B)は、光照射後における、ミスマッチDNAの希釈分散液(濃度1μM)の基板上の画像である。
図10(A)および
図10(B)は、
図9(A)および
図9(B)にそれぞれ対比される。各画像の中心の円は、レーザ光5のビームウエストの位置を模式的に示す。ビームウエストの鉛直方向(z方向)の位置は、基板21から20μm上方である。
【0129】
まず、
図10(A)を参照して、相補鎖DNAの希釈分散液において、ビームウエストの周辺に金ナノ粒子集合体10が形成される。
【0130】
一方、
図10(B)を参照して、ミスマッチDNAの希釈分散液において、金ナノ粒子集合体10は明確には見られない。このように、ミスマッチDNAの希釈分散液の方が相補鎖DNAの希釈分散液よりも100倍高濃度であるにも関わらず、相補鎖DNAを導入した場合にのみ金ナノ粒子集合体10が形成される。
【0131】
同一のサンプルを用いて、ビームウエストの位置を変更して、ビームウエストの周辺を撮影した。ビームウエストの鉛直方向(z方向)の位置は、基板21から15μm上方である。
【0132】
図11(A)は、ビームウエストの位置が異なる場合の光照射前の相補鎖DNAの希釈分散液(濃度10nM)におけるビームウエストの周辺の画像である。
図11(B)は、ビームウエストの位置が異なる場合のミスマッチDNAの希釈分散液(濃度1μM)におけるビームウエストの周辺の画像である。
図11(A)および
図11(B)は、
図9(A)および
図9(B)にそれぞれ対比される。
図11(A)および
図11(B)を参照して、
図11でも
図9と同様に、光照射前には金ナノ粒子集合体10は明確には見られない。
【0133】
図12(A)は、ビームウエストの位置が異なる場合の光照射後の相補鎖DNAの希釈分散液(濃度10nM)における基板上の画像である。
図12(B)は、ミスマッチDNAの希釈分散液(濃度1μM)における基板上の画像である。
図12(A)および
図12(B)は、
図10(A)および
図10(B)にそれぞれ対比される。
【0134】
図12(A)を参照して、光照射後には100μm×100μm以上の広い領域に金ナノ粒子集合体10が形成される。
図12(A)では、
図10(A)と比べて、同一のサンプルであるにも関わらず、形成された金ナノ粒子集合体10のサイズが大きい。その理由としては、時間の経過に伴ってサンプルの分散媒が蒸発したため、金ナノ粒子11,12および相補鎖DNAの濃度が高くなった可能性が考えられる。なお、ビームウエストの周辺の金ナノ粒子集合体10は、レーザ光5の圧力により吹き飛ばされたと考えられる。
【0135】
一方、
図12(B)を参照して、
図10(B)と同様に、ミスマッチDNAの希釈分散液において、金ナノ粒子集合体10は明確には見られない。
【0136】
以上の検出結果において、基板21上に滴下されたサンプル30に含まれる相補鎖DNAの物質量は、10nM×5μL=50fmol(1fmol=10
−15mol)である。したがって、本実施の形態によれば、50fmol程度の微量のターゲットDNA18を検出できることが分かる。
【0137】
上記物質量は、滴下されたサンプル30全体に含まれる相補鎖DNAの物質量である。このため、撮影機器108の撮影領域に含まれる相補鎖DNAの物質量は50fmolよりも小さい。したがって、50fmolよりも微量のターゲットDNA18を検出できると見積もることができる。
【0138】
また、
図10(A)または
図12(A)によれば、遅くとも2分40秒間の光照射後には金ナノ粒子集合体10の存在が明確に確認される。しかし、金ナノ粒子集合体10が形成されるか否かを確認することが目的であれば、レーザ光5の照射が必要な時間は2分40秒よりも短くてもよい。たとえば、本願発明者の検証実験によれば、光照射時間が1分以内であっても金ナノ粒子集合体を確認することができた。したがって、1分以内の短時間で50fmolよりも微量のターゲットDNA18を検出できると見積もることができる。
【0139】
なお、上記レーザ光5の強度(0.2W)は、本実施の形態における測定条件の一例であって、光強度はこれに限定されるものではない。レーザ光の強度には、金属ナノ粒子の種類および濃度、ならびに被検出物質およびホスト分子の種類および濃度等に応じて、適切な範囲が存在する。つまり、光強度が適切な範囲の下限値よりも低い場合には、金属ナノ粒子をビームウエストの近傍に集合させることができない。一方、光強度が適切な範囲の上限値よりも高い場合には、被検出物質に影響を与える可能性(たとえば熱の影響でDNA間の結合が切れる可能性)がある。したがって、レーザ光の最適な強度は実験に基づいて適宜定められる。
【0140】
次に、相補鎖DNAの希釈分散液の濃度を変更して、ビームウエストの周辺を撮影した。上述の相補鎖DNAの原液をリン酸バッファで100万倍に希釈し、10pM 希釈分散液とした。つまり、この希釈分散液における相補鎖DNAの濃度は、
図9〜
図12で用いられた希釈分散液の濃度の100分の1である。サンプルの体積(15μL)はいずれも等しい。したがって、以下に検出結果を示すサンプルに含まれる相補鎖DNAの物質量は、50fmol×1/100=500amol(1amol=10
−18mol)である。
【0141】
図13は、異なる濃度を有する相補鎖DNAの希釈分散液の光照射後の基板上の画像である。
図13を参照して、ビームウエストの位置は、
図12(A)に示したビームウエストの位置(z方向について基板21から15μm上方)と等しい。また、光の照射時間も
図12(A)の場合と等しい。
【0142】
図13における金ナノ粒子集合体のサイズは、
図12(A)における金ナノ粒子集合体のサイズよりも小さいことが分かる。この結果から、金ナノ粒子集合体のサイズは、サンプルに含まれる相補鎖DNAの物質量に応じて異なることが分かる。
【0143】
図14は、光照射開始後のミスマッチDNAの希釈分散液の気液界面(ビームウエスト周辺)の時間変化を示した連続写真である。
図15は、光照射開始後の相補鎖DNAの希釈分散液の気液界面(ビームウエスト周辺)の時間変化を示した連続写真である。
図16は、相補鎖DNAの希釈分散液の濃度を100pMとした場合の気液界面(ビームウエスト周辺)の連続写真である。
図17は、相補鎖DNAの希釈分散液の濃度を1pMとした場合の気液界面(ビームウエスト周辺)の連続写真である。
図14〜
図17では、レーザ光5の照射開始時刻を0秒とし、6秒毎の様子が示される。また、液体(L)、気体(A)および気液界面(I)の位置は、
図9〜
図13における位置と同等であるため示されていない。各サンプルの体積は15μLである。
【0144】
まず、
図14を参照して、上述のミスマッチDNAの原液をリン酸バッファで100倍に希釈し、1μM 希釈分散液を調製した。滴下された希釈分散液の体積は5μLであるため、サンプルに含まれるミスマッチDNAの物質量は1μM×5μL=5pmol(1pmol=10
−12mol)である。
【0145】
ミスマッチDNAの希釈分散液を含むサンプルについては、光照射後もサンプル内に金ナノ粒子集合体10は形成されない。なお、60秒以降の画像において、気液界面にはバブルが発生している。
【0146】
次に、
図15を参照して、相補鎖DNAの原液をリン酸バッファで10,000倍に希釈し、10nM 希釈分散液を調製した。サンプルに含まれる相補鎖DNAの物質量は10nM×5μL=50fmolである。つまり、相補鎖DNAの物質量は、
図14に示したサンプルに含まれるミスマッチDNAの物質量の100分の1である。また、相補鎖DNAの濃度は、50fmol/15μL=3.3nMである。
【0147】
サンプルに含まれる相補鎖DNAの物質量が、
図14に示したサンプルに含まれるミスマッチDNAの物質量と等しい場合(すなわち、相補鎖DNAの原液を100倍に希釈して調製されたサンプルの場合)、光を照射しなくても金ナノ粒子集合体が自発的に形成される。一方、
図15に示した10,000倍に希釈したサンプルでは、光を照射しない場合、金ナノ粒子集合体の自発的な形成は生じにくい。しかしながら、光を照射することで少なくとも6秒経過後には、気液界面の近傍で金ナノ粒子集合体が確認される。その後、時間が経過するにつれて金ナノ粒子集合体は急速に成長することが分かる。
【0148】
図16を参照して、相補鎖DNAの原液をリン酸バッファで100万倍に希釈し、100pM 希釈分散液を調製した。サンプルに含まれる相補鎖DNAの物質量は100pM×5μL=500amolである。つまり、相補鎖DNAの物質量は、
図14に示したサンプルに含まれるミスマッチDNAの物質量の1万分の1である。また、相補鎖DNAの濃度は、500amol/15μL=33pMである。ビームウエストの位置は、水平方向(x方向)に気液界面よりも13μm液体側であって、鉛直方向(z方向)に基板21から15μm上方である。
【0149】
この相補鎖DNAの希釈分散液においても、少なくとも6秒経過後には気液界面の近傍で金ナノ粒子集合体が確認される。しかし、金ナノ粒子集合体の成長速度は、
図15における成長速度よりも遅い。
【0150】
図17を参照して、相補鎖DNAの原液をリン酸バッファで1億倍に希釈し、1pM 希釈分散液を調製した。サンプルに含まれる相補鎖DNAの物質量は1pM×5μL=5amolである。つまり、相補鎖DNAの物質量は、
図14に示したサンプルに含まれるミスマッチDNAの物質量の100万分の1である。また、相補鎖DNAの濃度は、5amol/15μL=0.33pMである。ビームウエストの位置は、水平方向(x方向)に気液界面よりも3μm液体側であって、鉛直方向(z方向)に基板21から5μm上方である。
【0151】
この相補鎖DNAの希釈分散液においても、6秒経過後には気液界面の近傍で金ナノ粒子集合体を確認することができる。その後、時間の経過に伴って、金ナノ粒子集合体の存在がより明確になる。この検出結果から、本実施の形態によれば5amol程度の微量のターゲットDNA18であっても検出可能であることが分かる。
【0152】
図14〜
図17から分かるように、ミスマッチDNAを含むサンプルでは光を照射しても変化がない一方で、相補鎖DNAを含むサンプルでは50fmol〜5amol程度の微量の物質量であっても、光を照射することで金ナノ粒子集合体が形成される。これにより、微量のターゲットDNA18を特異的に検出することができる。また、金ナノ粒子集合体は、気液界面の近傍に位置するビームウエストで形成され、その後時間の経過に伴って成長する。金ナノ粒子集合体のサイズおよび成長速度は、ターゲットDNA18の物質量に依存することが分かる。
【0153】
微量の被検出物質を検出可能な他の技術としては、たとえばPCR(Polymerase Chain Reaction)による遺伝子検出法、ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法、または蛍光染色フローサイトメトリー等が挙げられる。しかし、たとえばPCR法ではDNAを増幅させるサイクルを繰り返す必要があるため、一般に数時間程度の検出時間を要する。また、ELISA法および蛍光染色フローサイトメトリーにおいても、数時間程度の検出時間を要する。
【0154】
これに対し本実施の形態によれば、たとえば数秒〜1分以内という短時間で迅速に金ナノ粒子集合体の存在を確認することができる。したがって、PCR法などの従来の微量の被検出物質の検出方法と比べて、検出時間を大幅に短縮することができる。
【0155】
特に
図17に示した結果において、光照射開始前に相補鎖DNAがサンプル30中に均一に分散していると仮定すれば、撮影領域(69μm×52μmの領域)に含まれる相補鎖DNAの個数は約12個、すなわち0.02amol(1zmol=10
−21mol)程度である。したがって、本実施の形態によれば、サブゼプトモル程度の非常に微量の被検出物質を検出できる可能性が示唆される。また、観測すべき領域が予め特定されていれば、検出時間を数秒程度にまで短縮できる可能性が示される。
【0156】
本実施の形態において検出時間を大幅に短縮できる一つの要因は、ビームウエストの位置をサンプルの気液界面の近傍に調整したことである。サンプルの分散媒は気液界面から蒸発する。これにより、気液界面の近傍における金ナノ粒子およびターゲットDNA18の密度は、バルクにおける密度よりも高くなる。したがって、気液界面の近傍では金ナノ粒子がターゲットDNA18と遭遇する確率が高くなるため、DNAのハイブリダイゼーションが起こり易くなる。
【0157】
ターゲットDNA18の検出時間を短縮できる他の要因としては、レーザ光がビームウエストの周辺の分散媒を加熱することで生じた対流の影響も考えられる。対流により、金ナノ粒子とターゲットDNA18との間の遭遇確率が一層高くなる。実際、撮影機器で撮影した動画によれば対流を観察することができる。
【0158】
たとえば蛍光染色フローサイトメトリーなどの蛍光物質を用いる技術では、試料に高度な前処理を施すため熟練技術者が必要である。また、試薬および検出装置が高価である。
【0159】
本実施の形態によれば、蛍光標識を用いる必要がないため、いわゆるラベルフリー検出を実現することができる。また、蛍光染色法との比較において、検出装置の操作および試薬の調製が容易であるため、熟練技術者を必要としない。さらに、検出装置の構成が簡易であるとともに試薬が安価である。したがって、本実施の形態によれば、検出装置を低コストで提供することができる。
【0160】
本実施の形態ではDNAの検出について説明したが、プローブDNAに替えて抗体を金ナノ粒子に修飾することにより、抗原を検出することができる。一例として、抗原の一種であるアルブミンを被検出物質とすることもできる。この場合、金ナノ粒子は、アルブミンと特異的に結合する抗体であるImmunoglobulin(IgE)によって修飾される。
【0161】
アルブミンの大きさ(長軸の長さ)は約10nm(たとえば牛血清アルブミンの場合6.9nm)である。また、抗体の典型的な大きさ(長さ)は10〜15nmであり、IgEの大きさは約10nmである。したがって、抗原の大きさと抗体の大きさの2倍との和は約30nmと見積もられる。一方、上述のように、分散液中の金ナノ粒子の平均の表面間距離は金ナノ粒子の濃度に基づいて計算され、金ナノ粒子の濃度が7.7μM以下の場合、金ナノ粒子の平均の表面間距離は30nm以上となる。すなわち、金ナノ粒子の濃度7.7μM以下の分散液中の金ナノ粒子は、金ナノ粒子の平均の表面間距離が、抗原の大きさと抗体の大きさの2倍との和よりも大きい状態で液体中に分散している。
【0162】
一例として、金ナノ粒子分散液とアルブミン分散液との混合溶液中での金ナノ粒子の濃度が3.33nMの場合、金ナノ粒子集合体を形成する前の金ナノ粒子の平均の表面間距離は、平均粒子間距離(中心間距離)0.793μmから金ナノ粒子の直径30nmを差し引くと0.790μmとなり、30nmよりも大きい。したがって、金ナノ粒子は、金ナノ粒子の平均の表面間距離が、アルブミンの大きさとIgEの大きさの2倍との和よりも大きい状態で液体中に分散していると言える。
【0163】
[実施の形態2]
実施の形態1では、サンプルの画像に基づいて被検出物質の有無が判断される。しかし、被検出物質の有無を判断するための情報は画像に限定されない。この実施の形態によれば、サンプルの分光によって被検出物質の有無を判断する。
【0164】
実施の形態2における金属ナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴を起こし得る金属ナノ粒子である。たとえば金ナノ粒子に可視〜近赤外域の光を照射した場合、金ナノ粒子の表面では局在表面プラズモン共鳴が誘起される。局在表面プラズモン共鳴を起こし得る金属ナノ粒子であれば、金ナノ粒子以外の金属ナノ粒子も本発明に適用できる。そのような金属ナノ粒子の1つの他の例は、たとえば銀ナノ粒子である。
【0165】
光照射により光の波長以下のスケールまで近接した状態で配列した金ナノ粒子に対して、白色光を照射した場合の散乱スペクトルを計算した。
図18は、近接した金ナノ粒子の個数Nに応じた散乱スペクトルの変化を計算した結果を示した図である。
図18を参照して、縦軸は、金ナノ粒子1個当たりの散乱光の強度を表す。散乱スペクトルのピーク波長およびピーク幅と吸収スペクトルのピーク波長およびピーク幅とは、実質的に同じである。
【0166】
この計算結果によれば、金ナノ粒子の個数Nが1個,2個,4個,8個と増加するに従って、散乱スペクトルのピーク波長は長波長側へとシフトする。また、ピーク波長範囲(たとえば半値全幅の波長範囲)がブロードになる。これら光応答の変化を利用して、ターゲットDNA18の有無を判定することができる。
【0167】
図19は、金ナノ粒子11,12の凝集前後の吸収スペクトルの変化を示した図である。
図19を参照して、金ナノ粒子11,12がある程度の濃度で分散された液に白色光を照射して吸収スペクトルを測定すると、DNAのハイブリダイゼーション前における吸収スペクトルのピーク波長は、緑色の波長範囲(たとえば495〜570nmの波長範囲)に含まれる。このため、金ナノ粒子11,12を含む液の色は、緑色の補色である赤色になる。
【0168】
一方、DNAのハイブリダイゼーション後には、金ナノ粒子集合体10が形成されるため、レーザ光5のビームウエストの近傍に存在する金ナノ粒子の個数Nが増加する。したがって、吸収スペクトルのピーク波長が長波長側へとシフトするとともに、ピーク波長範囲がブロードになる。DNAのハイブリダイゼーション後における吸収スペクトルのピーク波長は、黄色から橙の波長範囲(たとえば570〜620nmの波長範囲)に含まれる。このため、液の色は、黄色〜橙の補色である青色〜青紫色になる。したがって、金ナノ粒子11,12を含む液を分光することで、金ナノ粒子集合体10を検出することができる。つまり、液にターゲットDNA18が含まれるか否かを判定することができる。
【0169】
図20は、本発明の実施の形態2に係る検出装置の概略的構成を示した図である。
図21は、
図20に示した検出装置200の外観斜視図である。
図22は、
図20に示した検出装置200の構成を詳細に説明するためのブロック図である。
【0170】
図20〜
図22を参照して、照明用光源102(第2の光源)は、たとえば白色光6を発する光源であり、たとえばハロゲンランプである。照明用光源102にレーザ光源を用いることも可能である。ただし、白色光源を照明用光源102に用いることによって検出装置200を低コストで実現できる。
【0171】
照明用光源102は、実質的に単色の光を発する光源であってもよい。単色光の波長は、金ナノ粒子集合体10に誘起される局在表面プラズモン共鳴のピークの波長に対応する。ピークの半値全幅の2倍以内の波長領域内に単色光の波長が位置すればよく、単色光自体の線幅は特に限定されない。単色光源には、たとえばレーザ光源を用いてもよい。なお、
図21では照明用光源102は、光トラップ用光源101と同一の筐体に収納されている。
【0172】
光トラップ用光源101からのレーザ光5と、照明用光源102からの白色光6とは、光ファイバ110によって光プローブ107へと導かれる。光プローブ107は、対物レンズ103とキット20とを含む。白色光6は、レーザ光5と同軸で対物レンズ103に導入される。これらの光は、対物レンズ103で集光されて、サンプル30に照射される。サンプル30の透過光は、光ファイバ111によって分光器105へと導かれる。なお、レーザ光5と白色光6とを互いに異なる方向から照射することもできる。
【0173】
分光器105は、サンプル30内で形成された金ナノ粒子集合体10に誘起される局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを測定し、その測定結果を示す信号を演算部106に出力する。分光器105は、照明用光源102からの液体に照射され液体を通過した白色光6を受光するので、本発明に係る「受光器」に相当する。分光器105は、紫外域〜近赤外域(たとえば200nm〜1100nmの波長範囲)でスペクトルを測定可能な分光器であることが好ましい。また、分光器105の波長分解能は、より小さいほど好ましい。たとえば分光器105の波長分解能は、10nm以下、5nm以下、2nm以下、または1nm以下であるが、これに限定されない。演算部106は、金ナノ粒子11,12がDNAのハイブリダイゼーションによって凝集する際の、金ナノ粒子集合体10の吸収スペクトルの変化を追跡する。検出装置200の他の構成は、検出装置100(
図4参照)の構成と同等であるため、詳細な説明を繰り返さない。
【0174】
図23は、本発明の実施の形態2に係る被検出物質の検出方法を説明したフローチャートである。
図23を参照して、ステップS3までの処理は
図7におけるステップS3までの処理と同等であるため、詳細な説明を繰り返さない。
【0175】
ステップS41において、照明用光源102が、キット20へのたとえば白色光6の照射を開始する。なお、ステップS41の処理とステップS3の処理との順番を入れ替えて、レーザ光5の照射前から白色光6の照射を開始してもよい。
【0176】
ステップS51において、分光器105が、金ナノ粒子集合体10の局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを測定する。もし、金ナノ粒子集合体10が形成されていれば、吸収スペクトルのピーク波長が長波長側へとシフトするとともにピーク波長範囲がブロードになる。
【0177】
ステップS61において、演算部106は、たとえば、吸収スペクトルのピーク波長と、そのピーク波長におけるシグナル強度とに基づいて、被検出物質を検出する。たとえば予備的実験によって、サンプル中の被検出物質の濃度と、吸収スペクトルにおけるシグナル強度比との関係が測定される。演算部106は、この関係を、たとえばテーブルとして予め記憶する。演算部106は、分光器105の測定結果からシグナル強度比を算出する。演算部106は、算出されたシグナル強度比が、ある基準値を超えた場合に被検出物質を検出する。その基準値は、上記テーブルに従って予め設定される。
【0178】
なお、演算部106は、上記テーブルに定義された関係と、分光器105の測定結果から得られるシグナル強度比とを用いて、被検出物質の濃度を算出してもよい。また、予備的実験の結果に基づいて、シグナル強度比から被検出物質の濃度を導くための関数を決定し、演算部106は、その関数と、分光器105によって測定されたシグナルの強度によって被検出物質の濃度を算出してもよい。
【0179】
また、サンプルの吸収スペクトルに代えて、散乱スペクトルまたは消衰スペクトルを測定してもよい。消衰スペクトルは、散乱スペクトルと吸収スペクトルとを足し合わせたものである。したがって、散乱スペクトルを測定すること、または消衰スペクトルを測定することは、ピークの位置を議論する際には、吸収スペクトルを測定することと実質的に同等である。いずれの場合においても局在表面プラズモンのスペクトル上のピーク位置はほぼ同じである。
【0180】
仮に、相補鎖DNAの塩基配列と比較して1塩基のみ異なるDNAをサンプルに導入した場合、そのDNAは、ターゲットDNAとハイブリダイゼーションを起こし得る。しかし、相補鎖DNAを導入した場合の吸収スペクトルと、1塩基のみ異なるDNAを導入した場合の吸収スペクトルとは異なる。したがって、たとえば演算部106が、相補鎖DNAとのハイブリダイゼーションにより形成された金ナノ粒子集合体の吸収スペクトルと、1塩基のみ異なるDNAとのハイブリダイゼーションにより形成された金ナノ粒子集合体の吸収スペクトルとを予め記憶しておくことで、1塩基のミスマッチを区別することができる。
【0181】
[実施の形態3]
実施の形態3では、表面増強ラマン散乱(SERS)スペクトルが測定される。本発明の実施の形態1に係るキット20(
図5参照)をSERS用基板として利用することができる。実施の形態3に係る検出装置の構成は、検出装置200(
図20〜
図22参照)の構成と同等であるため、詳細な説明を繰り返さない。
【0182】
金ナノ粒子11,12がターゲットDNA18により結合され、金ナノ粒子集合体10が形成された状態で白色光がキット20に照射される。金ナノ粒子11,12の間の間隙において、局在表面プラズモン共鳴が増強される。つまり、金ナノ粒子11,12の間の間隙では、電場が増強される。ラマン散乱は一般的には3次の非線形光学過程であるので、ラマン散乱光の強度は電場強度が強いほど非線形に増強する。電場が増強されることによって、ラマン散乱光の強度が著しく増大する。分光器105によって増大されたラマン散乱光が検出される。これによりターゲットDNA18が検出される。なお、この実施の形態で説明したSERSは、表面増強共鳴ラマン散乱(SERRS)を含み得る。
【0183】
[実施の形態4]
本発明に実施の形態に係る検出方法を従来の微量の被検出物質の検出装置に適用することで、検出感度を向上させるとともに、検出時間を短縮することができる。また、ラベルフリー検出を実現することができる。実施の形態4では、本発明の実施の形態に係る検出方法をDNAチップの読取装置に適用する構成について説明する。
【0184】
図24は、本発明の実施の形態4に係る検出装置の概略的構成を示す図である。
図25は、
図24に示す検出装置400における処理の流れを説明するための図である。
【0185】
図24および
図25を参照して、検出装置400は、DNAチップ40と、光トラップ用光源101と、対物レンズ103と、照明用光源102と、光学部品104と、対物レンズ405と、フィルタ406,407と、CCDカメラ408(受光器)と、演算部106とを備える。
【0186】
DNAチップ40上には、一般に数百から数万のスポット41が配置される。
図25では描画の都合上、一部のスポットのみが示されている。各スポット41の構成には、たとえば
図5に示されたキット20の構成を適用することができる。各スポット41には、異なるプローブDNAで修飾された金ナノ粒子11,12を含む液が滴下されて、金ナノ粒子11,12が導入される。各スポット41にターゲットDNA18を含む液が滴下される。
【0187】
まず、DNAのハイブリダイゼーションを起こすために、スポット41の各々に光トラップ用光源101からの光が照射される。これにより、ターゲットDNA18とプローブDNA13,14との間のハイブリダイゼーションが加速される。一般に、DNAのハイブリダイゼーションには半日程度を要する。これに対し本実施の形態によれば、ハイブリダイゼーションの反応時間を大幅に短縮することができる。なお、複数のスポット41に同時に光を照射することで、すべてのスポット41に光を照射するのに要する時間を短縮することができる。
【0188】
照明用光源102から、たとえば白色光6が対物レンズ405を介して各スポット41に照射される。フィルタ406,407は、DNAチップ40を透過した光の経路に選択的に設置される。
【0189】
フィルタ406は、DNAのハイブリダイゼーション前における吸収スペクトルのピーク波長を含む波長範囲(たとえば緑色の波長範囲(
図19参照))の光を透過する一方で、それ以外の波長の光を遮断する。これに対し、フィルタ407は、DNAのハイブリダイゼーション後における吸収スペクトルのピーク波長を含む波長範囲(たとえば黄色〜橙の波長範囲)の光を透過する一方で、それ以外の波長の光を遮断する。フィルタ406,407を通過した光は、各スポット41におけるDNAのハイブリダイゼーションの有無に依存した光強度を有する。
【0190】
CCDカメラ408は、各スポット41の光強度に応じた信号を演算部106に出力する。演算部106は、たとえばフィルタ406を透過した光の強度を示す信号と、フィルタ407を透過した光の強度を示す信号との比に基づいて、各スポット41におけるターゲットDNA18とのハイブリダイゼーションの有無を判定する。
【0191】
より詳細に説明すると、ターゲットDNA18との間でハイブリダイゼーションを起こさないプローブDNAが導入されたスポットでは、フィルタ406を透過する波長範囲の光の吸収が相対的に大きい一方で、フィルタ407を透過する波長範囲の光の吸収が相対的に小さい。したがって、フィルタ407を設置した場合の光強度が相対的に大きくなる。
【0192】
一方、ターゲットDNA18との間でハイブリダイゼーションを起こすプローブDNAが導入されたスポットでは、フィルタ406を透過する波長範囲の光の吸収が相対的に小さい一方で、フィルタ407を透過する波長範囲の光の吸収が相対的に大きい。したがって、フィルタ406を設置した場合の光強度が相対的に大きくなる。
【0193】
フィルタ406,407を設置した場合の光強度の相対的な大きさに応じて、2種類のスポット411,412が存在する。スポット411では、フィルタ407を設置した場合の光強度が相対的に大きい。これにより、スポット411に導入された金ナノ粒子の表面を修飾するプローブDNAは、ターゲットDNA18との間でハイブリダイゼーションを起こさないことが示される。一方、スポット412では、フィルタ406を設置した場合の光強度が相対的に大きい。これにより、スポット412に導入された金ナノ粒子の表面を修飾するプローブDNAは、ターゲットDNA18との間でハイブリダイゼーションを起こすことが示される。
【0194】
なお、演算部106は、フィルタ406,407のうちのいずれか一方を設置した場合の光強度を示す信号のみに基づいて、ターゲットDNA18の有無を判定してもよい。また、フィルタ406,407の一方のみを設置してもよい。
【0195】
また、金ナノ粒子11の表面のプローブDNA13を蛍光色素で染色した後、レーザ光で集積化すれば、局在表面プラズモンによる発光増強による高感度化も可能である。
【0196】
また、
図25に示す構成とは異なるDNAチップを使用してもよい。具体的には、塩基配列が既知であるプローブDNA13,14のうちのいずれか一方が各スポット41に予め固定されたDNAチップを準備する。このDNAチップを用いてターゲットDNA18の検出が可能である。
【0197】
図26は、
図25に示すDNAチップ40とは異なるDNAチップを用いた検出処理の流れを説明するための図である。
図26を参照して、DNAチップ40上の各スポット41には、異なるプローブDNA14が予め固定されている。各スポット41には、プローブDNA13で修飾された金ナノ粒子11を含む液が滴下されるとともに、ターゲットDNA18を含む液が滴下される。
図26における他の構成は
図25の構成と同等であるため、詳細な説明を繰り返さない。
【0198】
以上の構成によれば、ターゲットDNA18とプローブDNA13,14との間のハイブリダイゼーションを加速させることにより、被検出物質であるターゲットDNA18を迅速に検出することができる。
【0199】
[実施の形態5]
実施の形態2で説明したように、プローブDNAとハイブリダイゼーションを起こすDNAは相補鎖DNAに限定されない。相補鎖DNAと異なる塩基配列を有するDNAをサンプルに導入した場合であっても、そのDNAが相補鎖DNAの塩基配列と所定値以上の一致率を持つ塩基配列を有していれば、そのDNAはプローブDNAとハイブリダイゼーションを起こし得る。実施の形態5に係る検出装置は、相補鎖DNAと異なる塩基配列を有するDNAが導入された複数種類のサンプルについて、光照射により形成される金ナノ粒子集合体を撮影するとともに吸収スペクトルを測定する。そして、検出装置は、吸収スペクトルの時間変化に基づいて、そのサンプルに導入されたDNAの種類を判別する。
【0200】
図27は、プローブDNAと、被検出物質となり得る、塩基配列の互いに異なる4種類のDNAとを説明するための図である。
図27を参照して、本実施の形態で用いられるプローブDNAは、実施の形態1(
図3参照)で用いられるものと同一である。すなわち、プローブDNA13は、3’末端にチオール基(SHで表す)を有するとともに、そのチオール基と5’末端との間に12個のチミン(Tで表す)を有する一本鎖DNAである。一方、プローブDNA14は、5’末端にチオール基を有するとともに、そのチオール基と3’末端との間に12個のチミンを有する一本鎖DNAである。
【0201】
ターゲットDNA18は、実施の形態1で用いたものと同一である。すなわち、ターゲットDNA18は、5’末端と3’末端との間に24個のアデニン(Aで表す)を有する一本鎖DNAである。ターゲットDNA18とプローブDNA13,14との間ではすべての塩基対が相補的な関係にあるため、ターゲットDNA18を「相補鎖DNA」とも称する。
【0202】
DNA18Bは、5’末端と3’末端との間に24個のチミンを有する一本鎖DNAである。DNA18BとプローブDNA13,14との間ではすべての塩基対がミスマッチであるため、DNA18Bを「完全ミスマッチDNA」とも称する。
【0203】
DNA18Cは、5’末端側に12個のアデニンを有するとともに、3’末端側に12個のチミンを有する一本鎖DNAである。DNA18Cでは、プローブDNA13,14に対し、すべての塩基のうち5’末端側の半分は相補的である一方で3’末端側の半分はミスマッチであるため、DNA18Cを「半ミスマッチDNA」とも称する。
【0204】
DNA18Dは、5’末端から3’末端に向かってチミンとアデニンとが交互に繰り返される一本鎖DNAである。塩基数は他のDNAと同様に24個である。DNA18Dでは相補的な塩基とミスマッチ塩基とが交互に繰り返されるため、DNA18Dを「交互ミスマッチDNA」とも称する。
【0205】
図28は、本発明の実施の形態5に係る検出装置の概略的構成を示した図である。
図28を参照して、検出装置500は、レーザ光5のビームウエストの近傍を撮影するとともに、吸収スペクトルの時間変化を測定することが可能に構成される。検出装置500は、演算部(検出器)506と、分光器508とをさらに備える点において、
図4に示す検出装置100と異なる。なお、演算部506は、演算部106と一体的に構成されていてもよい。
【0206】
より具体的には、分光器508は、サンプル30内で形成された金ナノ粒子集合体10に誘起される局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルを測定し、その測定結果を示す信号を演算部506に出力する。分光器508としては、たとえばマルチチャネル分光器を用いることができる。
【0207】
あるDNA(たとえば半ミスマッチDNAおよび交互ミスマッチDNA)の塩基配列と相補鎖DNAの塩基配列との一致率が所定値以上であれば、演算部506は、そのDNAを被検出物質として検出することが可能である。
【0208】
以下に検出装置500による測定結果を示す。サンプルに導入されたDNAの種類に応じて吸収スペクトルの時間変化の様子が異なる。完全ミスマッチDNAに対しては吸収スペクトルのピークシフトは生じない一方で、相補鎖DNA、半ミスマッチDNA、および交互ミスマッチDNAに対しては、光照射開始後の数秒から数分以内に明確なピークシフトが生じる。さらに、相補鎖DNA、半ミスマッチDNA、および交互ミスマッチDNAの間では、光照射開始からピークシフトが生じるまでの期間の長さ、およびピークシフトが生じる際の波長のシフト量の時間変化率が異なる。演算部506は、このようなピーク波長の変化の様子を追跡することにより、そのサンプルに導入されたDNAの種類を判別する。
【0209】
ピーク波長の変化の様子を追跡する手法の一例について詳細に説明する。演算部506は、所定の時間間隔(たとえば5秒間隔)で分光器508から吸収スペクトルを示す信号を受ける。演算部506は、たとえば吸収スペクトルの1次微分係数および2次微分係数からピークを検出することにより、ピーク波長を求める。そして、演算部506は、光照射開始時を基準として、ピーク波長が所定のしきい値(たとえば580nm)よりも長くなるまでの所要期間を求める。
【0210】
演算部506は、上記所要期間とDNAの種類との対応関係を示すテーブル(図示せず)を予め保持している。演算部506は、このテーブルを参照することにより、所要期間に基づいて、各サンプルに導入されたDNAの種類を判別する。具体的には、演算部506はサンプルに導入されたDNAについて、たとえば所要期間が0秒から50秒以内であれば相補鎖DNAと判別し、所要期間が50秒から100秒以内であれば半ミスマッチDNAと判別し、所要期間が100秒から200秒以内であれば交互ミスマッチDNAと判別する。また、演算部506は、200秒を経過してもピークシフトが生じなければ、サンプルに導入されたDNAを完全ミスマッチDNAと判別する。
【0211】
また、以下に示すように、相補鎖DNAでは短時間にピークシフトが生じる一方で、半ミスマッチDNAではより長い時間をかけてピークシフトが生じる。したがって、演算部506は、上述の所要期間の演算に代えてあるいは加えて、ピーク波長のシフト量の時間変化率(すなわち
図33に示す曲線の傾き)を演算してもよい。演算部506は、ピーク波長のシフト量の時間変化率とDNAの種類との対応関係を示すテーブルを予め保持することにより、ピーク波長のシフト量の時間変化率からDNAの種類を判別する。さらに、上述の所要期間の演算とピーク波長のシフト量の時間変化率の演算とを併用することにより、判別精度を向上させることができる。なお、検出装置500の他の構成は検出装置100の対応する構成と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0212】
次に、
図27に示す各種DNAのいずれかが導入された4種類の希釈分散液について、検出装置500による測定結果を順に説明する。
【0213】
図29は、相補鎖DNAの希釈分散液の気液界面(ビームウエスト周辺)の光照射開始後の連続写真および吸収スペクトルの時間変化を示した図である。
図29(A)を参照して、レーザ光5の照射開始時刻を0秒とし、撮影機器108を用いて撮影された15秒毎の気液界面の様子が示される。光照射開始から150秒が経過した時点で光照射は停止される。なお、液体(L)、気体(A)および気液界面(I)の位置は、
図9〜
図13における位置と同等であるため示されていない。
【0214】
相補鎖DNAの場合、光照射開始時を基準として15秒経過後には金ナノ粒子集合体の形成が明確に測定される。さらに光照射を継続すると時間の経過に伴い、金ナノ粒子集合体が成長する様子が測定される。一方、150秒経過後に光照射を停止すると、一旦成長した金ナノ粒子集合体が小さくなっていくことが分かる。
【0215】
次に、
図29(B)を参照して、この吸収スペクトルは、分光器508を用いて測定されたものである。横軸は波長を表し、縦軸は吸光度を表す。
図29(B)に示される曲線は、レーザ光5の照射開始から0秒、30秒、60秒、90秒、120秒、150秒、および180秒経過後の吸収スペクトルを表す。
【0216】
光照射開始前(0s)の吸収スペクトルのピーク波長は533.73nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.093である。また、150秒経過後の吸収スペクトルのピーク波長は592.34nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.773である。このように、光照射開始から時間が経過するに従って、ピーク波長が長波長側にシフトする。また、吸収スペクトルがブロード化することも測定される。
【0217】
図30は、完全ミスマッチDNAの希釈分散液の気液界面(ビームウエスト周辺)の光照射開始後の連続写真および吸収スペクトルの時間変化を示した図である。
図30は
図29と対比される。
【0218】
図30(A)を参照して、完全ミスマッチDNAの場合、光照射を開始しても金ナノ粒子集合体の形成は測定されない。
【0219】
図30(B)を参照して、光照射開始前(0s)の吸収スペクトルのピーク波長は531.47nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.105である。また、150秒経過後の吸収スペクトルのピーク波長は563.36nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.326である。
【0220】
なお、
図30に示す測定例においては、150秒経過後に吸収スペクトルのブロード化が起こった。これは、
図30(A)の150秒経過後の画像に示すように、レーザ光5の照射に起因せずに形成された集合体が分光領域内に流入したためと考えられる。
【0221】
図31は、半ミスマッチDNAの希釈分散液の気液界面(ビームウエスト周辺)の光照射開始後の連続写真および吸収スペクトルの時間変化を示した図である。
図31は、
図29および
図30と対比される。
【0222】
図31(A)を参照して、半ミスマッチDNAの場合、光照射による金ナノ粒子集合体の形成が測定される。ただし、半ミスマッチDNAの場合と相補鎖DNAの場合とで150秒経過後の画像同士を比較すると明らかなように、半ミスマッチDNAによって形成される集合体は、相補鎖DNAによって形成される集合体と比べて疎である。
【0223】
図31(B)を参照して、光照射開始前(0s)の吸収スペクトルのピーク波長は535.78nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.078である。また、150秒経過後の吸収スペクトルのピーク波長は596.57nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.791である。
【0224】
図32は、交互ミスマッチDNAの希釈分散液の気液界面(ビームウエスト周辺)の光照射開始後の連続写真および吸収スペクトルの時間変化を示した図である。
図32は、
図29〜
図31と対比される。
【0225】
図32(A)を参照して、交互ミスマッチDNAの場合光照射による金ナノ粒子集合体の形成が測定される。ただし、交互ミスマッチDNAによって形成される集合体は、相補鎖DNAによって形成される集合体と比べて小さい。
【0226】
図32(B)を参照して、光照射開始前(0s)の吸収スペクトルのピーク波長は537.42nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.130である。また、150秒経過後の吸収スペクトルのピーク波長は586.08nmであり、そのピーク波長における吸光度は0.738である。
【0227】
図33は、
図29(B)、
図30(B)、
図31(B)、および
図32(B)に示した吸収スペクトルのピークシフトを説明するための図である。
図33を参照して、横軸は光照射開始後の経過時間を表し、縦軸はピーク波長を表す。上述のように、光照射開始から150秒経過後に光照射を停止している。
【0228】
相補鎖DNAの場合、ピーク波長は、光照射開始時以降30秒までの期間に長波長側へとシフトする。ピーク波長がしきい値(580nm)よりも長くなるまでの所要期間は30秒と見積もられる。その一方で、30秒以降150秒までの期間では、ピーク波長はほぼ一定である。そして、150秒以降において光照射を停止すると、ピーク波長は短波長側にシフトする。これは、
図29(A)で説明したように光照射を停止すると金ナノ粒子集合体が小さくなることによく一致している。
【0229】
半ミスマッチDNAの場合、相補鎖DNAの場合と比べて、光照射開始直後におけるピーク波長の長波長側へのシフトには時間がかかる。しかし、ピーク波長は30秒以降150秒までの期間にも長波長側へのシフトを続ける。ピークシフトの所要期間は90秒と見積もられる。半ミスマッチDNAではピークシフトに時間を要するものの、150秒が経過した時点におけるピーク波長は、相補鎖DNAの場合と同程度である。
【0230】
交互ミスマッチDNAの場合、光照射開始時を基準として60秒が経過するまではピーク波長はほとんど変化しない。一方、60秒以降90秒までの期間にピーク波長は長波長側にシフトする。ピークシフトの所要期間は150秒と見積もられる。交互ミスマッチDNAの場合、相補鎖DNAまたは半ミスマッチDNAの場合と比べて、ピークシフトに時間を要する。
【0231】
完全ミスマッチDNAの場合、レーザ光5を照射してもピーク波長はほとんど変化しない。150秒経過後にピーク波長が一時的に長波長側にシフトしているのは、
図30を参照して既に説明したように、光照射に起因せずに形成された集合体が分光領域内に流入したためと考えられる。
【0232】
このように、サンプル内に導入されたDNAの種類に応じて、ピーク波長の変化の様子が異なる。したがって、本実施の形態によれば、検出装置500はピーク波長の変化の様子を追跡する。これにより、検出装置500は、サンプルに導入されたDNAの種類を判別することができる。
【0233】
実施の形態5に係る検出装置500は、たとえばPCR(Polymerase Chain Reaction)法を用いて生成されたPCR産物の確認に使用することができる。一般に、PCR法によって特定の塩基配列のDNAが増幅されているかを確認する場合、そのDNAに結合すると蛍光を発する色素が反応液に加えられ、蛍光強度が測定される。これに対し、検出装置500を用いれば、ピーク波長の変化の様子を追跡することにより、蛍光色素によるラベルリングを行なわなくてもPCR産物を確認することができる。あるいは、検出装置500は、ピークシフトの所要時間またはスペクトルのシフト量の時間変化率を用いることによって、未知のDNAの塩基配列の特定に補助的に使用することができる。
【0234】
なお、実施の形態5に係る検出装置を実施の形態4において説明したDNAチップの読取装置に適用する構成も可能である。すなわち、DNAチップの複数のスポットの各々は、異なるプローブDNAで修飾された金ナノ粒子を保持している。各スポットにターゲットDNAを含む液が滴下された後に、複数のスポットに同時に光を照射して吸収スペクトルの時間変化を測定する。これにより、複数のスポットについて一括してDNAの種類の判別が可能になるので、被検出物質(ターゲットDNA)の検出に要する時間を短縮することができる。
【0235】
なお、実施の形態5では、相補鎖DNAが「第1のターゲットDNA」に相当し、半ミスマッチDNAおよび交互ミスマッチDNAのうちいずれか一方が「第2のターゲットDNA」に相当する。ターゲットDNAが「第1のターゲットDNA」と「第2のターゲットDNA」とのいずれか一方である場合、演算部506は、分光器508により測定されるスペクトルの時間変化に基づいてターゲットDNAが「第1のターゲットDNA」および「第2のターゲットDNA」のうちのいずれであるかを判別することができる。
【0236】
また、以上においては検出装置500が撮影機器108および分光器508の両方を備える構成について説明したが、検出装置500にとって撮影機器108は必須の構成要素ではない。したがって、撮影機器108を省略してもよい。
【0237】
[実施の形態6]
実施の形態6では、液滴を保持する基板に代えて、マイクロ流路チップが用いられる。なお、マイクロ流路チップ以外の検出装置の構成は、
図4に示す検出装置100の構成と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0238】
図34は、マイクロ流路チップの流通開始前の状態を説明するための模式図である。
図35は、マイクロ流路チップの流通開始後の状態を説明するための模式図である。
【0239】
図34を参照して、マイクロ流路チップ600には、インレット610と、マイクロ流路620と、アウトレット630とが形成される。流通開始前のインレット610には、ターゲットDNA18と、金ナノ粒子11,12とを含むサンプルが充填されている。
【0240】
マイクロ流路チップ600には、マイクロ流路620を流通するサンプルの量(流量)を制御するためのバルブ641〜643が形成されている。バルブ641〜643の各々は、たとえば圧電素子を用いて実現される。バルブ641は、マイクロ流路620のインレット610側の末端に形成される。バルブ642は、マイクロ流路620の途中に形成される。バルブ643は、マイクロ流路620のアウトレット630側の末端に形成される。ただし、バルブの個数および形成箇所は特に限定されるものではない。
【0241】
続いて、
図35を参照して、サンプルの流通時にはレーザ光5がマイクロ流路620に導入される。これにより、レーザスポット(レーザ光5で示す)において金ナノ粒子集合体10が形成される。形成された金ナノ粒子集合体10は、マイクロ流路620の残りの経路を流通し、アウトレット630に蓄えられる。
【0242】
実施の形態1におけるレーザ光5の照射位置は気液界面である。その理由としては、気液界面では分散媒が蒸発することにより、金ナノ粒子11,12およびターゲットDNA18の濃度が局所的に高くなることが挙げられる。これにより、レーザスポットを通過する金ナノ粒子11,12およびターゲットDNA18の個数が多くなるので、金ナノ粒子集合体がより短時間で形成される。
【0243】
一方、本実施の形態によれば、マイクロ流路チップを用いることにより、金ナノ粒子11,12およびターゲットDNA18の存在領域がマイクロ流路620内の狭い領域に制限されるとともに、その領域に対してレーザ光が照射される。これにより、金ナノ粒子11,12およびターゲットDNA18がレーザスポットを通過する確率(サンプル内の金ナノ粒子11,12およびターゲットDNA18の全数に対するレーザスポットを通過する数の割合)が高くなる。その結果、金ナノ粒子集合体の形成に要する時間を短縮することができる。このように、金ナノ粒子11,12およびターゲットDNA18の存在領域を狭い領域に制限する構成を実現すれば、レーザ光5の照射位置が気液界面であることは必須ではない。
【0244】
以下、マイクロ流路チップを用いた測定結果の一例について説明する。
図36は、
図35に示すXXXVI−XXXVI線に沿うマイクロ流路チップ600の断面図である。
図35を参照して、マイクロ流路620の幅(マイクロ流路620の側面間の距離)は350μmである。マイクロ流路620の高さ(マイクロ流路620の天井面620aと底面620bとの間の距離)は100μmである。マイクロ流路チップ600のz方向下面とマイクロ流路620の底面620bとの間の距離は650μmである。
【0245】
金ナノ粒子11の分散液と、金ナノ粒子12の分散液と、ターゲットDNA(相補鎖DNA)18の分散液との混合液(ターゲットDNAの濃度33pM、体積1.0μL)をマイクロ流路620に流通させた。このとき、
図37に示されるように、マイクロ流路620の途中に気液界面が形成される。レーザ光5はz方向下方から上方に向けてマイクロ流路620に照射した。倍率が40倍の対物レンズ103を用いて、マイクロ流路620の底面620bに生じた流路に沿う方向(x方向)のメニスカスの液体側内部の気液界面近傍にビームウエストが形成されるように光学系を調整した。レーザ光5の波長は1064nmであり、ビームウエストにおけるレーザ出力は0.4Wであった。
【0246】
図37は、光照射開始前において、マイクロ流路中に形成された気液界面近傍を倍率10倍の対物レンズを用いて撮影した光学的透過像である。
図38は、光照射開始後におけるマイクロ流路620のビームウエスト周辺の連続写真(光学的透過像)である。
【0247】
図37および
図38では、プローブDNA13で修飾された金ナノ粒子11の分散液(濃度5.0nM)と、プローブDNA14で修飾された金ナノ粒子12の分散液(濃度5.0nM)と、相補鎖DNAの希釈分散液(濃度100pM)との等量混合溶液(体積1μL)を注入したマイクロ流路620中に形成された気液界面近傍のビームウエスト周辺の様子を示している。金ナノ粒子11の分散液の濃度、金ナノ粒子12の分散液の濃度、および相補鎖DNAの希釈分散液の濃度は、いずれも
図29で説明したものと同等である。対物レンズ103の倍率は40倍である。
【0248】
図38を参照して、
図29(A)に示した連続写真と同様に、30秒以内にビームウエスト近傍に金ナノ粒子の集合体が形成される。ただし、
図29(A)と
図38とでは気液界面の形状が異なるため、金ナノ粒子集合体の形成の様子は若干異なる。なお、ここでは図示しないが、ビームウエスト周辺の吸収スペクトルを測定すると、
図29(B)に示した吸収スペクトルと同様に、時間の経過に伴う吸光度の増大とピークシフトとが確認される。
【0249】
なお、マイクロ流路620の幅がレーザスポットのサイズ(直径)に比べて大きいと、液体中に分散している金ナノ粒子11,12およびターゲットDNA18の一部がレーザスポットを通過せずにマイクロ流路620を流通してしまう可能性がある。そのため、マイクロ流路620の幅がレーザスポットの直径と同等あるいは小さくなるように、マイクロ流路620の幅とレーザスポットの直径との大小関係を決定することが好ましい。ただし、
図36〜
図38に示されるように、マイクロ流路620の幅(350μm)がレーザスポットの径(数十μm)より大きい場合であっても、金ナノ粒子集合体の形成が確認される。したがって、マイクロ流路620の幅がレーザスポットのサイズに比べて大きいことは必須ではない。
【0250】
[実施の形態7]
実施の形態7では、サンプルの液体(分散媒)に対するサンプル保持面の親和度の影響について説明する。具体的には超親水性の基板上が用いられる。なお、実施の形態7に係る検出装置の構成は、
図4に示す検出装置100の構成と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。以下の説明では、まず比較例として疎水性の基板を用いた場合について説明する。
【0251】
図39は、疎水性の基板を用いたキット付近の構成を示した拡大図である。
図39を参照して、基板21は、実施の形態1で用いたものと同等の薄板ガラス(たとえばカバーガラス)であり、疎水性の上面21aを有する。
【0252】
基板21上に滴下されたサンプル30の濃度は10nMであり、その体積は5μLであった。つまり、サンプル30に含まれる相補鎖DNAの物質量は、10nM×5μL=50fmol(1fmol=10
−15mol)であった。液滴の直径は5mmであった。この場合において、液滴の外周部の基板表面から15μmにビームウエストが位置するように光学系を調整した。ビームウエストにおけるレーザ出力は0.2Wであった。
【0253】
図40は、光照射後における疎水性基板上の相補鎖DNAの希釈分散液のビームウエストの周辺の画像である。
図40を参照して、疎水性の基板21を用いると、水平方向(xy平面の方向)に関し液滴の縁に近い場所、すなわち気液界面(I)の近傍にビームウエストが位置する場合には、金ナノ粒子集合体が形成される。これに対し、ここでは図示しないが、ビームウエストが液滴の中央付近に位置する場合には、レーザ光5を照射しても金ナノ粒子集合体はほとんど形成されない。
【0254】
図41は、超親水性の基板を用いたキット付近の構成を示した拡大図である。
図41を参照して、基板22は、その上面22aを超親水性に加工したカバーガラスである。なお、基板22では上面22a全体が超親水性に加工されているが、加工箇所は上面22aの一部であってもよい。つまり、基板22の上面22aのうち少なくともサンプルの液体を保持する領域22bが超親水性を有すればよい。
【0255】
基板22を超親水性にする方法としては、公知の各種手法を採用することができる。本実施の形態では、アセトンで十分に洗浄した上面22aに超親水性コーティング剤(丸昌産業株式会社製セルフェイスコート)をスプレー塗布した。さらに、スプレー塗布後の基板22を60℃で30分間乾燥させた。なお、エタノールで十分に洗浄した上面22aに超親水性コーティング剤をスプレー塗布し、1日以上自然乾燥させる手法によっても基板22を超親水性にすることができる。
【0256】
基板22上に滴下されたサンプル30の濃度は100pMであり、その体積Vは5μLであった。つまり、サンプル30に含まれる相補鎖DNAの物質量は、100pM×5μL=500amol(1amol=10
−18mol)であった。超親水性加工により液滴は上面22aに薄く広がり、液滴の半径Rは5mmであった。
【0257】
実施の形態1において説明したように、サンプル30の体積Vと、半径Rと、最大高さHとの間には、V=2πR
2H/3との関係式が成立する。この関係式に体積V=5μLおよび半径R=5mmを代入して最大高さHを求めると、H=0.287mmとなる。したがって、液滴の接線Ltと基板22の上面22aとのなす接触角θは、tanθ=(0.287/5)=0.0573との関係式に基づいて、θ=3.3度と計算される。なお、
図39に示す疎水性基板の場合、接触角θ=24.7度と計算される。
【0258】
この場合において、液滴の中央付近の上面22aから15μm以内の範囲にビームウエストが位置するように光学系を調整した。ビームウエストにおけるレーザ出力は、疎水性基板の場合と同様に0.2Wであった。
【0259】
図42は、光照射後における超親水性基板上の相補鎖DNAの希釈分散液のビームウエストの周辺の画像である。
図42を参照して、超親水性の基板22を用いると、ビームウエストの位置が液滴の中央付近であっても光照射開始から40秒程度で金ナノ粒子集合体の形成が確認される。
【0260】
このように、超親水性基板を用いることにより、疎水性基板の場合と比べて、基板の中央付近を含む水平方向(基板面方向)の広い範囲で金ナノ粒子集合体が形成される。したがって、本実施の形態によれば、ビームウエストの位置を液滴の縁に近い場所に厳密に調整しなくてもよくなる。これにより、対物レンズ103(
図4参照)の焦点の基板面方向の位置を調整する際における許容度を高めることができる。
【0261】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。