特許第6099112号(P6099112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099112デジタルスマート省エネシステム、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6099112
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】デジタルスマート省エネシステム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/02 20060101AFI20170313BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   F24F11/02 103D
   F24F11/02 S
   F24F11/02 B
   F24F7/007 B
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-568066(P2016-568066)
(86)(22)【出願日】2016年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2016076778
【審査請求日】2016年11月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505048518
【氏名又は名称】株式会社 テクノミライ
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】三輪 和夫
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−148413(JP,A)
【文献】 特開2013−217634(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0181158(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0282183(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0083926(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/02
F24F 7/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空気の温度と湿度を入力し、入力された室内空気の前記温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出手段と、
該エンタルピー算出手段によって算出した室内空気の前記エンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定手段と、
該在室人数推定手段によって算出した前記在室人数に基づいて空調を制御する空調制御手段と
を備えることを特徴とするデジタルスマート省エネシステム。
【請求項2】
前記空調制御手段は、前記在室人数に基づいて空調及び換気を制御することを特徴とする請求項1記載のデジタルスマート省エネシステム。
【請求項3】
室内のCO2濃度を測定するCO2濃度測定手段を備え、
前記在室人数推定手段は、該CO2濃度測定手段によって測定された前記CO2濃度を用いることを特徴とする請求項1記載のデジタルスマート省エネシステム。
【請求項4】
入力された室内空気の前記温度が設定温度を超える場合には、前記空調制御手段は、その制御を解除することを特徴とする請求項1記載のデジタルスマート省エネシステム。
【請求項5】
室内空気の温度と湿度を入力し、入力された前記室内空気の温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出ステップと、
該エンタルピー算出ステップによって算出した室内空気の前記エンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定ステップと、
該在室人数推定ステップによって算出した前記在室人数に基づいて空調を制御する空調制御ステップと
を備えることを特徴とするデジタルスマート省エネ方法。
【請求項6】
コンピュータを、
室内空気の温度と湿度を入力し、入力された室内空気の前記温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出手段と、該エンタルピー算出手段によって算出した室内空気の前記エンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定手段と、該在室人数推定手段によって算出した前記在室人数に基づいて空調を制御する空調制御手段とを備えるデジタルスマート省エネシステム
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルスマート省エネシステム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
商業施設、複合施設、ホテル、病院、大学、ターミナル・ステーション、空港、文化施設、地下街、オフィス・住居等の建築設備全体で消費されるエネルギーは、空調関連が約半分を占めており、空調関連の省エネルギー(以下、省エネという)化の推進が建築設備の省エネルギーに大きく貢献する。そのため、空調・熱源システムは、室内の利用形態に対して無駄のない運転が要求され、その実現には、リアルタイムに室内の熱負荷を推定できることが必要となる。これまで、空調関連の省エネの観点から、数多くの熱負荷推定装置が提案されている。例えば、事前に標準となる熱負荷パターンを用意し、熱負荷の推定を行うものなどが提案されている。
【0003】
特許文献1には、室内に備わる各種機器の実績消費電力量と、室内における時系列の最大熱負荷からなる熱負荷パターンと、室内における各種機器の消費電力量とが入力され、実績消費電力量と、熱負荷パターンと、消費電力量とを基に、該当時刻の前記室内の熱負荷を推定し、推定結果の熱負荷推定値を出力する熱負荷推定装置が記載されている。特許文献1に記載の熱負荷推定装置は、人の入退出を検出する赤外線センサ、カメラを利用した画像処理により在室人数を検出する(段落0079)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−152179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の熱負荷推定装置にあっては、赤外線センサ、カメラ、CO2濃度センサによって在室人数を推定する構成であったため、在室人数の把握に際し、センサやカメラが必要となり、高価となる課題がある。在室人数を正確に把握しようとすると、複数台のセンサやカメラが必要となるばかりか、これらセンサ情報を基にして入退出の判定などをリアルタイムで高精度に処理する必要がありコストアップとなる。また、在室人数を正確に把握できたとしても、子供がいる場合もあって、把握した在室人数を根拠としては、必ずしも正確な熱負荷推定を行えるものではない。
【0006】
本発明の目的は、簡単かつ廉価で正確に室内の空調制御を行うことができるデジタルスマート省エネシステム、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るデジタルスマート省エネシステムは、室内空気の温度と湿度を入力し、入力された室内空気の前記温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出手段と、該エンタルピー算出手段によって算出した室内空気の前記エンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定手段と、該在室人数推定手段によって算出した前記在室人数に基づいて空調を制御する空調制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、算出した室内空気のエンタルピーに基づいて算出した在室人数に基づいて空調の制御を変えるので、在室人数が多いか少ないかによって空調の制御を変えることができ、必要最小限のエネルギーで快適に空調することができる。また、簡単かつ廉価で正確に室内の空調制御を行うことができる。
【0009】
前記空調制御手段は、前記エンタルピーに基づいて空調及び換気を制御することで、空調と共に換気についても省エネ化を図ることができる。
【0011】
室内のCO2濃度を測定するCO2濃度測定手段を備え、前記在室人数推定手段は、該CO2濃度測定手段によって測定された前記CO2濃度を用いることで、より精度の高い熱負荷の推定を行うことができる。
【0012】
入力された室内空気の前記温度が設定温度を超える場合には、前記空調制御手段は、その制御を解除することで、過度な省エネをすることなく、環境を快適に制御することができる。
【0013】
本発明に係るデジタルスマート省エネ方法は、室内空気の温度と湿度を入力し、入力された前記室内空気の温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出ステップと、該エンタルピー算出ステップによって算出した室内空気の前記エンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定ステップと、該在室人数推定ステップによって算出した前記在室人数に基づいて空調を制御する空調制御ステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、コンピュータを、室内空気の温度と湿度を入力し、入力された室内空気の前記温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出手段と、該エンタルピー算出手段によって算出した室内空気の前記エンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定手段と、該在室人数推定手段によって算出した前記在室人数に基づいて空調を制御する空調制御手段とを備えるデジタルスマート省エネシステムとして機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、室内の温度と湿度から算出するエンタルピーに基づいて算出する在室人数に基づいて、簡単かつ廉価で正確に室内の空調制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係るデジタルスマート省エネシステムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係るデジタルスマート省エネシステムの全体構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係るデジタルスマート省エネシステムの空調省エネ制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係るデジタルスマート省エネシステムの構成を示すブロック図である。
【0018】
本実施形態は、建物で消費する電力等のエネルギーを最適な状態で管理し、省エネ化を促進するコンピュータによるデジタルスマート省エネシステムに適用した例である。
【0019】
本発明において、「室内」には、ビル全体の内部、階数ごとの内部、空調設備又は換気設備のエリア系統のそれぞれ、及び、室内の間仕切がない一部の領域も含まれる。
【0020】
図1に示すように、デジタルスマート省エネシステム100は、省エネ対象の建物内に設置されている。
【0021】
デジタルスマート省エネシステム100は、空調機101、熱源機102、照明(照明装置)103、その他機器104、室内空気の温度を検出する温度センサ111、室内空気の湿度を検出する湿度センサ112、CO2濃度を検出するCO2濃度センサ113(CO2濃度測定手段)、空調制御部120(空調制御手段)、エンタルピー算出部121(エンタルピー算出手段)、在室人数推定部122(在室人数推定手段)、データベース123、及び空調制御装置131(空調制御手段)を備えて構成される。データベース123には、室内の熱負荷パターン123aと、室内の最大消費電力量データ123bと、が記憶されている。
【0022】
上記空調制御部120、エンタルピー算出部121、在室人数推定部122、及びデータベース123は、パーソナルコンピュータ等の演算制御ユニット110により構成される。演算制御ユニット110は、CPU(Central Processing Unit)等を備えて構成され、装置全体を制御すると共に、デジタルスマート省エネプログラムを実行して、デジタルスマート省エネシステムとして機能させる。
【0023】
空調制御装置131は、空調制御部120から送信された制御値及び制御条件を受け取り、空調機101及び熱源機102等からなる制御対象機器を制御する。
【0024】
<消費電力量>
空調機101にはその消費電力量を計測する電力量計(図示省略)が、熱源機102にはその消費電力量を計測する電力量計(図示省略)が、照明103にはその消費電力量を計測する電力量計(図示省略)が、その他機器104にはその消費電力量を計測する電力量計(図示省略)が設置してあり、それぞれの消費電力量を計測する。計測された各電力量計量は、空調制御部120に送信される。また、パルス検出器10(後記図2参照)により計測された建物内の消費電力は、空調制御部120に送信される。空調機101には、換気設備である外調機設備が共に備えられていてもよい。この場合、外調機設備の換気量、すわなち、流入する外気量も空調制御部120によって制御される。
【0025】
<熱負荷パターン及び最大熱負荷>
室内の熱負荷パターン123aは、例えば熱負荷計算書を基に作成された、室内の1日の最大熱負荷の時系列データである。熱負荷計算書は、気温や日射などの外気条件と、室内の床面積、容積、外壁の構造体、人数、照明、その他熱負荷(日射負荷など)の室内条件から熱負荷を計算する場合に参照される。熱負荷計算書は、一般的に空調設備の設計時に利用するため、室内の最大熱負荷が記載される。
【0026】
また、室内の最大消費電力量123bは、空調機101、熱源機102、照明103、及びその他機器104の定格などから、室内に設置してある各種機器の最大消費電力量の合計値を計算したものである。なお、室内の熱負荷パターン123aは、ここでは熱負荷計算書を基に作成しているが、これに限らず、室内に設置してある各種機器の消費電力量が最大消費電力量となるときの熱負荷パターンであればよい。
【0027】
対象の建物の負荷計算は、下記の通りである。
(1)建物の設備容量の算定は、用途、機能、規模、場所等の内的及び外的な要因により電気設備、機械設備の構成、容量、種別が定められる。
(2)建物で消費するエネルギー数値は、電気設備、機械設備とも使用状況面では、建物の最大収容時、最大稼動時とする。また気候現象面では真夏、真冬、時間面では日中、深夜において最大となる。
(3)対象建物に設置されている空調・換気設備の容量も算出する。換気設備の負荷は、建物内の人間の数等によるものであり、これを実際の使用状況を見積もることにより、余剰を計算する。
【0028】
なお、建設時の電気設備・機械設備の容量は、建物で消費するエネルギーに最大数値と経年劣化、レイアウト変更等の見込数値を合計して最大負荷数値を設定する。
【0029】
<センサ>
温度センサ111は、室内に設置され、室内空気の温度を検出し、演算制御ユニット110に入力する。
【0030】
湿度センサ112は、室内に設置され、室内空気の湿度を検出し、演算制御ユニット110に入力する。
【0031】
CO2濃度センサ113は、室内に設置され、空気中のCO2濃度を測定する。本実施の形態では、CO2濃度センサ113を用いることなく在室人数の推定を行っているので、本システムの構成上、CO2濃度センサ113は、必須ではない。
【0032】
<エンタルピー算出部121>
エンタルピー算出部121は、入力された室内空気の温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピー(比エンタルピーともいう)を算出する。本実施形態におけるエンタルピーは、1kgの物質(空気)が持っているエンタルピーを示し、エンタルピーの単位は(kJ/kg)である。
【0033】
表1に、温度及び湿度とエンタルピーとの関係を例示する。エンタルピーは、重量絶対湿度に対するものである。
【0034】
【表1】
【0035】
<在室人数推定部122>
在室人数推定部122は、室内空気のエンタルピーによって在室人数を推定する。在室人数推定部122は、温度と湿度から計算されるエンタルピーを用いて在室人数を推定する。
【0036】
エンタルピーは、床面積当たりの在室人数に依存するので、各室において、実際の色々な在室人数とその時のエンタルピーとの関係を記録して表にしておき、この表に基づいてエンタルピーから在室人数を推定することができる。実際には誤差もあって、在室人数とエンタルピーとは一対一に対応していないが、エンタルピーから在室人数の概算を推定することはできる。
【0037】
表2、表3及び表4に温度(℃)、湿度(%)及びエンタルピー(kJ/kgD.A.)の具体例を示す。
【0038】
表2は、2015年のある店舗における休日の具体例である。休日はカレンダーの休日であり、土日・祝日・国民的休暇日(正月など)などである。12月〜3月の暖房期間と4月〜11月の冷房期間について9時〜21時の各時刻における温度(℃)、湿度(%)及びエンタルピー(kJ/kgD.A.)の月平均の具体例を示す。暖房期間の「平均」は暖房期間の平均を示し、冷房期間の「平均」は冷房期間の平均を示し、「年平均」は年間の平均を示し、最下3行の「平均」は9時〜21時の平均を示す。一般に、休日は顧客が多くなり、在室人数も多くなる傾向にある。
表3は、平日の具体例である。平日は休日以外の日である。
表4は、休日と平日の重み付き平均(日数による重み)である。「休/平」は「休日の平均(表2)/平日の平均(表3)」である。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
<空調制御部120>
空調制御部120は、データベース123に蓄積された室内の熱負荷パターン123aと、室内の最大消費電力量123bと、各種機器(空調機101、熱源機102、照明103、その他機器104)の消費電力量と、エンタルピー算出部121により算出されたエンタルピーと、在室人数推定部122により算出された在室人数と、を取得し、これらのデータに基づいて、室内の熱負荷を推定し、空調を制御する制御値及び制御条件を演算する。
【0043】
特に、空調制御部120は、室内空気のエンタルピーによって直接に空調制御を行うことができる。また、在室人数推定部122は、このエンタルピーを基に在室人数を推定し、空調制御部120は、推定した在室人数に基づいて、空調制御を行うこともできる。空調制御部120は、在室人数が多いか少ないかによって空調の制御を変えることで、必要最小限のエネルギーで快適に空調することができる。
【0044】
図2は、デジタルスマート省エネシステムの全体構成を示す図である。
図2に示すように、高圧受電設備1に設置された、電力会社の積算電力計VCTにパルス検出器10を接続し、消費電力を示すパルス検出器10をデジタルスマート省エネシステム100に接続する。また、デジタルスマート省エネシステム100には、遠隔監視装置70が接続されている。
【0045】
断路器Z−DS・高圧真空断路VCBを経由し、変圧器Tr1,Tr2,Tr3,Tr4,高圧受電設備1のサーキット・ブレーカMCBから、配電盤72,74,76,78とサーキット・ブレーカMCBを経路して、各負荷設備82,84,86,88に電力が供給されている。デジタルスマート省エネシステム100は、各負荷設備82,84,86,88にも接続されており、負荷設備に対して、負荷設備の種類によりデジタルやアナログの制御や監視等を行っている。負荷設備には、照明設備,各コンセント,空調設備,機械設備等がある。
【0046】
遠隔監視装置70は、デジタルスマート省エネシステム100と情報の送受信を行い、省エネ対象機器の制御・運転状態の監視、日報・月報データの入手が可能である。また、省エネ対象機器に各種制御情報を送信することで、遠方からの制御情報の更新も可能である。
【0047】
以下、上述のように構成されたデジタルスマート省エネシステム100の動作を説明する。
【0048】
図3は、デジタルスマート省エネシステム100の空調省エネ制御処理を示すフローチャートである。本フローは、デジタルスマート省エネシステム100の演算制御ユニット110(図1参照)がデジタルスマート省エネプログラムを実行することにより行われる。
【0049】
まず、ステップS1で空調制御部120(図1参照)は、温度センサ111(図1参照)により検出された室内空気の温度を入力する。
【0050】
ステップS2で空調制御部120は、湿度センサ112(図1参照)により検出された室内空気の湿度を入力する。
【0051】
ステップS3でエンタルピー算出部121(図1参照)は、入力された室内空気の温度と湿度に基づいてエンタルピー(室内空気の湿り空気全熱量)を算出する。
【0052】
ステップS4で在室人数推定部122(図1参照)は、算出されたエンタルピーに基づいて在室人数を推定する。
【0053】
エンタルピーは熱負荷と相関がある指標である。また、外気熱負荷、人間熱負荷、建物熱負荷、照明熱負荷の内の、在室人数により変化する外気熱負荷、人間熱負荷もあらかじめ指標が求められている。これにより、在室人数推定部122は、熱負荷と相関があるエンタルピーに基づいて在室人数を推定することができる。例えば、実際の人数とエンタルピーとの関係を表にしておいて、その表を参照することによってエンタルピーから人数を推定するようにしてもよい。
【0054】
また、暖房と冷房とでは空調の環境が異なるので、異なる指標によって空調制御することが望ましい。例えば、エンタルピーと在室人数とが線形の関係にあると仮定して制御するとすると、冷房期間においては、温度26.0℃、湿度50.0%、エンタルピー55.4kJ/kgD.A.のときに、在室人数が0.20人/m2であり、暖房期間においては、温度22.0℃、湿度40.0%、エンタルピー38.8kJ/kgD.A.のときに、在室人数が0.20人/m2であった場合に、冷房期間にエンタルピーが44.3(=55.4*0.8)kJ/kgD.A.であれば、在室人数は0.16(0.20*0.8)人/m2であり、暖房期間にエンタルピーが34.9(=38.8*0.9)kJ/kgD.A.であれば、在室人数は0.18(=0.20*0.9)人/m2であると推定する。
【0055】
なお、空調設備の設備容量としては建物の最大の全熱負荷容量が算出されるが、例えば、
全熱負荷容量=外気熱負荷50W・m2+人間熱負荷30W・m2+建物熱負荷20W・m2+照明熱負荷30W・m2
となる。建物室内の例えば商業施設等の来店客人数は、少ない開店後、午前、夜間等と多いピーク時と、平日、休日等に数値差がある。出入口の自動ドアは、顧客の来店時に、顧客の人数にもよるが、約5〜13秒前後開放し、その後閉じる機能を有し、来店客人数にほぼ比例して出入口ドアより外気が流入して、冷房期間は高温度、高湿度の外気熱負荷となり、暖房期間は低温度、低湿度の外気熱負荷となる。その熱エネルギーは、建物売場のエンタルピー数値に影響して、売場の顧客人数に影響することになる。
【0056】
また、商業施設の売場の環境について、全熱負荷を計算することにより空調設備容量を演算する。冷房期間は、温度26℃、湿度50%、エンタルピー54.2kJ/kgD.Aを、暖房期間は、温度22℃、湿度40%、エンタルピー38.8kJ/kgD.A.を、設備容量演算の基準とすると、これが空調設備の設備容量の基となる。建物全熱負荷計算の前提として、建物売場の面積に何人を係数として見込むかについて、例えば売場面積1m2当り通常0.2人とする。1人が呼吸する空気量は1時間当り20m3である。
【0057】
そうすると、建物売場面積2,000m2の場合は、在室人数と、必要な外気量は次の通リとなる。
在室人数=(売場面積2,000m2*0.2人)=400人
であり、呼吸量、すなわち、必要とする
外気量=(400人*20m3/h)=8,000m3/h
である。すなわち、在室人数400人とすると、必要とする外気量は8,000m3/hとなる。冷房期間は売場温度26℃、湿度50%、エンタルピー55.4kJ/kgD.Aを基準とし、暖房期間は売場温度22℃、湿度40%、エンタルピー38.8kJ/kgD.A.を基準とする。
【0058】
この基準のとき、建物室内のCO2数値を安全CO2数値である900ppmに設定する。
例えば、冷房期間であれば、建物室内の検知エンタルピー数値55,4kJ/kgD.A.は、在室人数400人、外気量8,000m3/h、CO2数値900ppmに対応する。そして、例えば検知エンタルピー数値が40kJ/kgD.A.であれば、
CO2係数=40kJ/kgD.A./55.4kJ/kgD.A.=0.722
が、外調機設備(すなわち、換気設備)の稼働係数であり、
CO2数値=(0.722*900ppm)=650ppm
であり、
外気量=通常外気量8,000m3*CO2係数0.722=5,776m3
が必要となり、
制御数量=(8,000m3−5,776m3)=2,224m3
を削減し、すなわち、必要な外気量をこれだけ削減し、外調機設備の
制御係数=係数1.0−稼動係数0.722=0.278
となり、外調機設備について、これだけ省エネすることができる。暖房期間も同様に演算することができる。
【0059】
上記の通りに、本実施形態は、冷房、暖房期間を通して、検知エンタルピー数値で、在室人数、必要な外気量を演算し、空調設備と共に外調機設備の制御係数をリアルタイムに演算するものである。
【0060】
また、エンタルピー数値によるCO2数値の演算を検証するために、例えば上記エンタルピー数値40kJ/kgD.A.におけるCO2数値をCO2センサで検知したら、仮に650ppmであれば、建物室内の該当売場の外調機設備の制御係数は、
制御係数=(基準CO2数値900ppm−検知CO2数値650ppm)/基準CO2数値900ppm=0.278
となり、空調設備と共に外調機設備について、これだけ省エネすることができる。
【0061】
なお、デジタルスマート省エネシステム100は、CO2濃度センサ113を備えてもよく、CO2濃度により、エンタルピーによる在室人数推定を補完することができる。
【0062】
ステップS5で空調制御部120は、室内の熱負荷パターンを取得する。具体的には、空調制御部120は、データベース123から室内の熱負荷パターン123aを読み込む。上述したように、熱負荷計算書には、外気熱負荷、人間熱負荷、建物熱負荷、照明熱負荷、イベント等に用する機器熱負荷等が記載されており、これらの合計値である室内の熱負荷パターン123aを読み込む。なお、室内の熱負荷パターン123aは、室内の最大熱負荷である。
【0063】
ステップS6で空調制御部120は、室内の消費電力量を取得する。具体的には、室内に設置してある各種機器の最大消費電力量を算出する。例えば、図1に示すように、空調機101と、熱源機102と、照明103と、その他機器104が設置してある場合は、それぞれの定格消費電力量の合計値を、当該室内の最大消費電力量とする。空調制御部120は、空調機101、熱源機102、照明103及びその他機器104の各消費電力量と、パルス検出器10(図2参照)からの消費電力量を取得する。
【0064】
ステップS7で空調制御部120は、データベース123に蓄積された室内の熱負荷パターン123aと、室内の最大消費電力量123bと、各種機器(空調機101、熱源機102、照明103、その他機器104)の消費電力量と、エンタルピー算出部121により算出されたエンタルピーと、在室人数推定部122により算出された在室人数と、を取得し、これらのデータに基づいて、室内の熱負荷を推定し、空調を制御する制御値及び制御条件を演算する。空調制御部120は、室内の熱負荷推定値を空調制御装置131に送信して本フローの処理を終了する。空調制御装置131は、空調制御部120から送信された制御値及び制御条件を受け取り、空調機101及び熱源機102等からなる制御対象機器を制御する。
【0065】
このように、空調制御部120は、室内の熱負荷パターン123aと、室内の最大消費電力量123bと、各種機器の消費電力量と、在室人数推定部122からの現在の室内の在室人数とを用いて、室内の熱負荷推定値を算出する。室内の熱負荷は、在室人数により大きく左右されるため、本実施形態では、在室人数推定部122が、エンタルピーに基づいて在室人数を推定し、空調制御部120は、室内の在室人数を利用することで、より精度の高い熱負荷の推定を行うと共に、この精度の高い熱負荷の推定結果を、空調制御に反映させることで、効果の高い空調省エネ制御を実現する。
【0066】
[適用例]
一般に、建物の空調設備の稼働率は、建物外部の外気温度、湿度と建物内部の収容人員数により冷房時、暖房時共に大きく影響される。
【0067】
建物売場のCO2濃度は、来店客数が少ない場合にはCO2は減少し、来店客数が多い場合にはCO2は増加する。現状では、法令のCO2濃度である1000ppmに対して大きく乖離が発生し、電力を必要以上に消費している場合が多い。
【0068】
そこで、本実施形態では、室内空気のエンタルピーによって在室人数を推定し、空調制御する。在室人数は、建物内部の収容人員数(来店客数と従業員)である。本実施形態では、室内空気のエンタルピーによって在室人数を推定する。ただし、デジタルスマート省エネシステム100は、CO2濃度センサ113を備えており、CO2濃度により、エンタルピーによる在室人数推定結果を補完することができる。
【0069】
以上説明したように、本実施の形態によれば、デジタルスマート省エネシステム100は、室内空気の温度と湿度を入力し、入力された室内空気の温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出部121と、算出した室内空気のエンタルピーに基づいて空調を制御する空調制御部120と、を備える。
【0070】
これにより、算出した室内空気のエンタルピーによって空調の制御を変えることができ、省エネ化を図ることができる。
【0071】
本実施の形態では、デジタルスマート省エネシステム100は、算出した室内空気のエンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定部122を備え、空調制御部120は、算出した在室人数に基づいて、空調を制御する。
【0072】
これにより、在室人数が多いか少ないかによって空調の制御を変えることができ、必要最小限のエネルギーで快適に空調することができる。
【0073】
また、在室人数の把握は、一般に困難又は高価となる。例えば、従来例のように人の入退出を検出する赤外線センサ、カメラを利用した画像処理を用いると、高価となる。これに対して、本実施形態では、温度と湿度から計算されるエンタルピーを使うので簡単かつ廉価に実現できる。ここで、室内空気の温度と湿度を検出するセンサは、室内の空調設備等に備えられていることが多い。この場合、新たなセンサの導入は避けられるのでより低コスト化を図ることができる。
【0074】
また、従来例では在室人数を把握できたとしても、大人と子供では熱負荷が異なり、最適な空調制御に使うには不適当であった。これに対して、本実施形態では、温度と湿度から計算されるエンタルピーを用いている。エンタルピーは、熱負荷と相関がある指標であるので、指標に乖離がなく正確に最適な空調制御を実現できる。
【0075】
本実施の形態では、デジタルスマート省エネシステム100は、CO2濃度を測定するCO2濃度センサ113を備え、在室人数推定部122は、測定されたCO2濃度を用いる。
【0076】
これにより、より精度の高い熱負荷の推定を行うことができ、この精度の高い熱負荷の推定結果を、空調制御に反映させることで、効果の高い空調省エネ制御を実現することができる。
【0077】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【0078】
例えば、暖房期間においては下限温度を設定し、冷房期間においては上限温度を設定し、さらに、CO2の上限濃度を設定し、これらの温度又は濃度が設定限度を超える場合には、省エネ制御を解除することによって、過度な省エネをすることなく、環境を快適に制御することができる。
【0079】
また、室内をWi−Fiなどによってネットワーク化し、室内温度、湿度、及び、エンタルピー、さらに、建物のエネルギー状況などを関係者に持たせた携帯端末に送信して、その関係者がいつでも参照できるようにすると共に、上記温度又は濃度が設定限度を超えた場合には、その携帯端末にそのことを報知することによって、関係者がリアルタイムに対応することができる。
【0080】
また、上記した実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0081】
また、上記実施の形態では、デジタルスマート省エネシステム及びデジタルスマート省エネ方法という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、装置の名称は省エネ制御装置、方法の名称は空調管理方法等であってもよい。
【0082】
以上説明した本空調省エネ制御処理は、この本空調省エネ制御処理を機能させるためのプログラムでも実現される。このプログラムはコンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納されている。
【0083】
このプログラムを記録した記録媒体は、本デジタルスマート省エネシステムのROMそのものであってもよいし、また、外部記憶装置としてCD−ROMドライブ等のプログラム読取装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することで読み取り可能なCD−ROM等であってもよい。
【0084】
また、上記記録媒体は、磁気テープ、カセットテープ、フレキシブルディスク、ハードディスク、MO/MD/DVD等、又は半導体メモリであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係るデジタルスマート省エネシステム、方法及びプログラムは、建物で消費する電力等のエネルギーを最適な状態で管理し、省エネ化を実現するデジタルスマート省エネシステムに適用して利用効果は大きい。
【符号の説明】
【0086】
100 デジタルスマート省エネシステム
101 空調機
102 熱源機
103 照明(照明装置)
104 その他機器
110 演算制御ユニット
111 温度センサ
112 湿度センサ
113 CO2濃度センサ(CO2濃度測定手段)
120 空調制御部(空調制御手段)
121 エンタルピー算出部(エンタルピー算出手段)
122 在室人数推定部(在室人数推定手段)
123 データベース
123a 室内の熱負荷パターン
123b 室内の最大消費電力量データ
131 空調制御装置(空調制御手段)
【要約】
簡単かつ廉価で正確に室内の空調制御を行うことができるデジタルスマート省エネシステム、方法及びプログラムを提供する。デジタルスマート省エネシステム(100)は、室内空気の温度と湿度を入力し、入力された室内空気の温度と湿度に基づいて、室内空気の湿り空気全熱量であるエンタルピーを算出するエンタルピー算出部(121)と、算出した室内空気のエンタルピーに基づいて在室人数を推定する在室人数推定部(122)と、を備え、空調制御部(120)は、算出した室内空気のエンタルピー及び在室人数に基づいて、空調を制御する。
図1
図2
図3