特許第6099143号(P6099143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099143
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】電気音響変換器
(51)【国際特許分類】
   H04R 23/00 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   H04R23/00 320
   H04R23/00 310
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-123393(P2013-123393)
(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公開番号】特開2014-241527(P2014-241527A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−183330(JP,A)
【文献】 特開2011−205298(JP,A)
【文献】 実開昭54−156519(JP,U)
【文献】 特開昭55−140400(JP,A)
【文献】 米国特許第04306120(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状電極と、この針状電極に対向する対向電極とを有し、上記針状電極と上記対向電極との間に高周波電圧を印加して上記針状電極と上記対向電極との間で放電させ電気音響変換する電気音響変換器であって、
上記対向電極は、上記針状電極から延びるプラズマを囲む円筒面を有するとともに円筒面の一部に中心軸線と平行な線に沿った切除部を有し、
上記針状電極および対向電極が水平方向を向いている姿勢において、上記対向電極の上記切除部が垂直方向上側に位置するように、上記針状電極と上記対向電極との位置関係が設定されている電気音響変換器。
【請求項2】
上記対向電極は全体として円筒形であって、円筒形の一部が中心軸線と平行な線に沿って切り欠かれることにより周方向の一部が開放した上記切除部となっている請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項3】
対向電極は全体として円筒形であって、内周側の一部が半径方向外側に向かい拡張されることにより上記切除部となっている請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項4】
上記対向電極は、中心軸線方向において上記針状電極に連続する位置に配置されている請求項1、2または3記載の電気音響変換器。
【請求項5】
上記対向電極の円筒面の中心軸線上に上記針状電極が配置されている請求項1乃至4のいずれかに記載の電気音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波放電を利用することによって振動板を不要にした電気音響変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なマイクロホンやスピーカなどの電気音響変換器では、振動板の機械的な振動を利用して電気音響変換される。マイクロホンの場合、音波を受けて振動する振動板の振動を、電磁的な変化、静電容量の変化、あるいは光電的な変化などとしてとらえて電気信号に変換する。スピーカの場合、一般的には、音声信号を電磁変換して振動板の振動に変換し、音波として放出するようになっている。これら電気音響変換器における振動板は、空気振動を電気信号に、電気信号を空気振動に変換するために用いられる。
【0003】
振動板を備えた機械振動系の電気音響変換器の制御方式には、質量制御、抵抗制御、弾性制御がある。振動板の共振周波数は、主要周波数帯域の下限付近、中央、上限付近にそれぞれ存在するように設計される。従来一般的に使用されている振動板を備えた電気音響変換器、特にマイクロホンは、いずれの制御方式にせよ、振動板が存在することに起因する周波数応答の限界が存在する。したがって、振動板の質量を極限まで小さくしたとしても、質量が存在する以上慣性力が働き、周波数において集音限界が存在することになる。
【0004】
そこで、振動板を持たない電気音響変換器の研究が行われている。その成果の一例として、放電を利用して粒子速度を検出し、電気音響変換する方法が特許文献1に記載されている。特許文献1記載の発明は、針状放電電極と、この放電電極を、間隔をおいて取り囲む対向電極を備えている。対向電極は、球状をなしていて音波を透過するように穿孔された導電材料からなり、放電電極は、上記球状対向電極の内部に伸びて球の中心近傍に到達している。放電電極には、高周波電圧発生回路から高周波電圧信号が印加される。この高周波電圧信号は、高周波電圧発生回路において、音波に変換されるべき低周波信号によって変調されている。放電電極と対向電極との間で上記高周波電圧信号に対応したコロナ放電が行われ、上記低周波信号すなわち音波が放射されるようになっている。
【0005】
特許文献1記載の発明はイオンスピーカといわれるものであり、マイクロホンとして使用することは想定されていない。そこで本発明者は、放電を利用して音波を電気信号に変換することができるマイクロホンに関して先に提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2記載の発明は、針状電極と、針状電極に対向する対向電極と、針状電極と対向電極の間に形成される放電部と、この放電部を含み放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、上記放電部に音波を導入する音波導入部と、上記高周波発振回路で発振され上記放電部に導入される音波に応じて変調された信号を取り出す変調信号取り出し部と、を備えている。上記高周波発振回路が針状電極と対向電極との間の放電部を帰還路として高周波発振することにより上記放電部は高周波放電し、放電部の等価インピーダンスが音波に応じ変化して周波数変調される。この周波数変調された信号を復調することにより、音波に応じた信号すなわち音声信号を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−140400号公報
【特許文献2】特開2010-183330号公報
【0008】
特許文献1,2に記載されているような高周波放電を利用した電気音響変換器として、例えばイオンスピーカ(イオンツイータ)がある。また、特許文献2に記載されている技術を採用することにより、イオンマイクロホンを実現することができる。特許文献2記載の発明のように、針状電極とこれに対向する対向電極との間に高周波電圧を印加すると、針状電極の先端部から対向電極に向かってプラズマが発生する。プラズマは針状電極から対向電極に向かって火炎のように発生するので、放電炎といわれることもある。針状電極はプラズマに接しているため高温になる。
【0009】
針状電極に対向する電極は、これを平板状の電極ではなく円筒形状の電極にすることにより電気音響変換器の感度を高めることができることがわかった。また、放電電力を増大させることによっても電気音響変換器の感度を高めることができる。しかし、放電電力が過大になると、電極間で火花放電に移行して実質的にショートした状態になり、電気音響変換器として動作しなくなる。針状電極に対向する電極を、上記のように円筒形状の電極とし、円筒形状の電極で針状電極を取り囲んだ構成にすると、火花放電を発生しやすくなる。その理由を以下に説明する。
【0010】
図8は、高周波放電を利用した従来の電気音響変換器の例を示す。図8において、針状電極3に対向する対向電極4は円筒形状に形成されている。針状電極3と対向電極4の中心軸線方向の位置関係は、針状電極3の先端側に、かつ、針状電極3の先端に連続して対向電極4が位置する関係になっている。針状電極3と対向電極4の中心軸線は共通で、中心軸線方向から見た位置関係は、針状電極3の外周を、一定の間隙をおいて対向電極4が取り囲む位置関係になっている。針状電極3の基部は円筒形状の絶縁筒5で覆われ、絶縁筒5はさらに円筒形状の絶縁筒6に嵌められ、絶縁筒6は円板状のベース1を厚さ方向に貫通し、ベース1に固着されている。
【0011】
ベース1の外周には円筒形のケース2の一端部内周が嵌め合いによって固着され、ベース1の一面側に向かってケース2が延び出ている。ケース2の延出方向に針状電極3が延び出るとともに、針状電極3はケース2のほぼ中心軸線上に、かつ、ケース2で囲まれる空間内に位置している。ケース2のベース1固着側とは反対側は開口端になっていて、この開口端の内周に対向電極4の外周が嵌め込まれ、対向電極4がケース2に固着されている。
【0012】
針状電極3には、高周波発振回路などを含むドライバ7から高周波電圧が印加される。針状電極3と対向電極4は放電部を構成していて、この放電部に高周波電圧が印加されることにより、上記放電部に高周波放電が生起される。この放電は火炎放電といわれるもので、図8における符号8は、上記放電部において放電によって生じる放電炎すなわちプラズマを示している。
【0013】
電気音響変換器は、通常、音波が横方向から入射し出射するような姿勢で設置される。換言すれば、水平方向の姿勢を中心にして、必要に応じ適宜上斜めあるいは下斜めに傾けた姿勢で使用される。図8に示す電気音響変換器の姿勢は通常の使用態様であって、左横方向から音波が入射し、または左横方向に音波が出射する姿勢になっている。プラズマ8は電離によって生じた荷電粒子を含む気体であり、高温になる。プラズマ8は高温の気体であるから、図8に示すように電気音響変換器の姿勢が横向きになっていると、針状電極3の先端から対向電極4の中心軸線に沿って延び出たプラズマ8は、その先端部が温度上昇によって上向きに湾曲する。
【0014】
図8は、プラズマ8の先端部が上向きに湾曲した状態を示している。対向電極4は円筒形状になっているため、プラズマ8の先端部が上向きに湾曲すると、プラズマ8が対向電極4に届くことがあり得る。プラズマ8が対向電極4に届くと、プラズマ放電から火花放電に移行し、針状電極3と対向電極4がショートしたのと同じになり、電気音響変換ができなくなる。この技術的課題は、電気音響変換器の感度をよくするために対向電極4を円筒形状にしたことによって明らかになったものである。電気音響変換器の感度をさらに高めようとして、針状電極3に印加する高周波電圧をより高くすると、プラズマ8の大きさおよびその先端部の湾曲が大きくなり、針状電極3と対向電極4とがさらにショートしやすくなる。
【0015】
上に述べた技術的課題の影響を受けないようにするには、図9に示すように、電気音響変換器を上向きに、かつ、中心軸線を垂直方向に向けた姿勢で使用するとよい。針状電極3は垂直方向上向きの姿勢になり、プラズマ8は針状電極3の先端から歪むことなく鉛直に延びる。このときのプラズマ8は、その温度が上昇しても形状は変わらない。このプラズマ8の周囲を、プラズマ8の周囲から一定の間隔をおいて対向電極4が取り囲んでいる。
【0016】
図9に示す電気音響変換器の使用態様によれば、円筒形状の針状電極3に印加する高周波電圧をより高くしてプラズマ8をより大きくしても、針状電極3と円筒形状の対向電極4がショートすることはない。しかし、電気音響変換器すなわちマイクロホンやスピーカを図9に示すように上向きにして使用することは稀である。特に、マイクロホンとして使用する場合、電気音響変換器の真上から真下に向かって音声を発する必要があり、プラズマ8の高温の影響を受ける。したがって、図8に示すような横向きの使用態様においても、プラズマ8が針状電極3と対向電極4をショートすることがないように構造を工夫することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、以上説明してきた従来の高周波放電を利用した電気音響変換器の技術的な課題を解消することを目的とする。すなわち、本発明は、円筒形状の対向電極を備えている高周波放電を利用した電気音響変換器において、プラズマによって針状電極と対向電極がショートされることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
針状電極と、この針状電極に対向する対向電極とを有し、上記針状電極と上記対向電極との間に高周波電圧を印加して上記針状電極と上記対向電極との間で放電させ電気音響変換する電気音響変換器であって、
上記対向電極は、上記針状電極から延びるプラズマを囲む円筒面を有するとともに円筒面の一部に中心軸線と平行な線に沿った切除部を有し、
上記針状電極および対向電極が水平方向を向いている姿勢において、上記対向電極の上記切除部が垂直方向上側に位置するように、上記針状電極と上記対向電極との位置関係が設定されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
電気音響変換器を横向きの姿勢で使用すると、針状電極から延びるプラズマの先端部が上向きに湾曲する。このプラズマの湾曲位置に対向電極の切除部を合わせて電気音響変換器を設置する。プラズマの先端部が上向きに湾曲しようとしても、上記切除部に対応する部分の電界力が他の部分の電界力よりも小さいため、プラズマの先端部が下向きに引き付けられ、プラズマが対向電極に到達することを回避することができる。このようにして、針状電極と対向電極とのショートを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る電気音響変換器の一実施例を示す縦断面図である。
図2】上記実施例の正面図である。
図3】上記実施例中の対向電極を示す縦断面図である。
図4】上記対向電極の正面図である。
図5】本発明に適用可能な対向電極の別の例を示す正面図である。
図6】本発明に適用可能な対向電極のさらに別の例を示す正面図である。
図7】上記対向電極の縦断面図である。
図8】従来の高周波放電を利用した電気音響変換器の例を示す縦断面図である。
図9】上記従来の電気音響変換器を、姿勢を変えた態様で示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る電気音響変換器の実施例を、図面を参照しながら説明する。図8図9に示す従来例の構成と同じ構成部分には同じ符号を付している。
【実施例1】
【0022】
図1図2において、符号3は針状電極を、符号4は対向電極を示している。針状電極3は、タングステンなどの金属からなる横断面円形の線材の先端を針状に尖らせた形をしている。針状電極3に対向する対向電極4は、素材として例えばステンレス鋼が用いられ、ほぼ円筒形状に形成されている。針状電極3と対向電極4の中心軸線方向の位置関係は、針状電極3の先端側に、かつ、針状電極3の先端に連続して対向電極4が位置する関係になっている。針状電極3と対向電極4は、これらの中心軸線方向から見て中心軸線が共通すなわち対向電極4の円筒面の中心軸線上に針状電極3が配置されている。そして、中心軸線方向から見た針状電極3と対向電極4の位置関係は、針状電極3の外周を、一定の間隙をおいて対向電極4が取り囲んだ位置関係になっている。
【0023】
針状電極3の基部は円筒形状の絶縁筒5で覆われ、絶縁筒5はさらに円筒形状の絶縁筒6に嵌め込まれている。絶縁筒6は円盤状のベース1を厚さ方向に貫通し、ベース1に固着されている。ベース1の外周には円筒形のケース2の一端部内周が嵌められて固定され、ベース1の一面側にケース2が延び出ている。ケース2の延出方向に針状電極3が延び出るとともに、針状電極3はケース2のほぼ中心軸線上に、かつ、ケース2で囲まれた空間内に位置している。ケース2のベース1固着側とは反対側の端部は開口端になっていて、この開口端の内周に対向電極4の外周が嵌め込まれ、対向電極4がケース2に固着されている。
【0024】
本実施例が図8図9に示す従来例と異なる点は、対向電極4に切除部41が形成されている点である。対向電極4は、電気音響変換器の感度を高めるために、基本形状は全体として円筒形であるが、円筒形の一部に切除部41が形成されている。円筒形の対向電極4は、その一部が中心軸線と平行な線に沿って切り欠かれて周方向の一部が開放し、この解放した部分が切除部41になっている。対向電極4に切除部41が形成されることにより、針状電極3と対向電極4との間の電界力分布は、切除部41に対応する部分の電界力が他の部分の電界力よりも小さくなる。切除部41は対向電極4の長さ方向すなわち中心軸線方向全体にまたがって形成されている。ただし、プラズマ8が上向きに湾曲するのはプラズマ8の先端部であるから、上記切除部41は、プラズマ8の先端部に対応する部分にのみ、すなわち、図1において対向電極4の左端部にのみ形成してもよい。
【0025】
針状電極3には、高周波発振回路などを含むドライバ7から高周波電圧が印加される。針状電極3と対向電極4は放電部を構成していて、この放電部に高周波電圧が印加されることにより、上記放電部に高周波放電が生起される。この放電は火炎放電といわれるもので、図1における符号8は、上記放電部において放電によって生じる放電炎すなわちプラズマを示している。対向電極4は、針状電極3から延びるプラズマ8を囲む円筒面を有し、この円筒面の一部に切除部41が形成された形状になっている。
【0026】
すでに述べたとおり、電気音響変換器は、通常、音波が横方向から入射し、あるいは横方向に出射するような姿勢、すなわち、水平方向の姿勢を中心にして、必要に応じ適宜上または下に傾けた姿勢で使用される。図1に示す電気音響変換器の姿勢は通常の使用態様で、左横方向から音波が入射し、または左横方向に向かって音波が出射する姿勢になっている。プラズマ8は高温の気体である。電気音響変換器の姿勢が横向きになっていると、針状電極3の先端から対向電極4の中心軸線に沿って延び出たプラズマ8は、その先端部が温度上昇によって上向きに湾曲しようとする。電気音響変換器は、プラズマ8が湾曲しようとする方向に対向電極4の切除部41が位置するように姿勢を定めて設置する。すなわち、対向電極4の切除部41が上側に位置し、対向電極4の上側が切除部41によって解放される態様で電気音響変換器の姿勢を定める。したがって、針状電極3および対向電極4が水平方向を向いている姿勢において、対向電極4の切除部41が垂直方向上側に位置するように、針状電極と対向電極との位置関係が設定されている。
【0027】
電気音響変換器を上記の姿勢に定め、針状電極3から対向電極4に向かうプラズマ8を生成させると、プラズマ8の先端部が温度上昇によって上向きに湾曲しようとする。しかし、対向電極4の上部が切除部41で開放しているため、針状電極3と対向電極4との間の電界力分布は、切除部41に対応する部分が他の部分よりも小さくなる。したがって、電界力分布によりプラズマ8に作用する引っ張り力は、プラズマ8の上方への引っ張り力よりも、プラズマ8の下方への引っ張り力が大きくなり、温度上昇によって上昇しようとするプラズマ8が下方に引っ張られる。その結果、プラズマ8は、図1に示すように上方への湾曲が抑制され、ほぼ均等化された形状になる。
【0028】
実施例1に係る高周波放電による電気音響変換器によれば、対向電極4の切除部41が上側に位置する姿勢で使用することにより、プラズマ8が温度上昇によって上方に湾曲することを抑制することができる。よって、感度を高めるために針状電極3と対向電極4との間に印加する高周波電圧値を高めても、プラズマ8が針状電極3と対向電極4とをショートさせる火花放電に移行することを防止することができる。
【0029】
対向電極4を中心軸線方向から見た切除部41の開き角度は、設計仕様に応じて適宜定めればよい。図3図4に示す例では、切除部41の開き角度は約120度であり、図5に示す例では、切除部41の開き角度は約90度である。切除部41の開き角度が90度以上であれば、プラズマ8の温度上昇による湾曲を確実に防止することができる。
【実施例2】
【0030】
実施例1では、円筒形状の対向電極4の円筒形の一部を、中心軸線と平行な線に沿って切り欠き、周方向の一部を開放させて切除部41を形成していた。しかし、円筒形状の対向電極に形成する切除部の電界力が、他の部分の電界力よりも小さくなっていればよく、必ずしも周方向の一部を開放させる必要はない。
【0031】
図6図7は、対向電極の周方向の一部を開放させることなく対向電極の切除部を形成して、上記切除部に対応する部分の電界力が他の部分の電界力よりも小さくなるようにした実施例2を示す。図6図7において、符号40は対向電極を示している。対向電極40は、もともとの形状は円筒形で、横断面円形の外周面と横断面円形の中心孔401を有していたものである。しかし、中心孔401の一部すなわち対向電極40の内周側の一部が、半径方向外側に向かい拡張され、この拡張部分が切除部402となっている。
【0032】
中心孔401の約半周が半径方向外側に向かい拡張されて切除部402となっていて、切除部402が形成されている部分の対向電極40の肉厚が、他の部分の肉厚よりも薄くなっている。換言すれば、円筒形の対向電極40に、横断面において長円形の孔が、対向電極40の中心からずらして形成された形状になっている。切除部402は、対向電極40の中心軸線方向全体にわたって形成されている。この実施例の場合も、上記切除部402は、プラズマ8の先端部に対応する部分にのみ、すなわち、対向電極4の前端部(図1に示す姿勢において左端部)にのみ形成してもよい。
【0033】
対向電極40は、その外周が図1に示す前記実施例と同様にケース2の先端部内周に嵌め込まれてケース2に固着されている。対向電極40を除く他の構成部材は図1に示す前記実施例と同様であり、針状電極3に対する対向電極40の位置関係も前記実施例と同様である。実施例2に係る電気音響変換器も図1に示すような横向きの姿勢で使用することができ、その場合、対向電極40の切除部402が対向電極40の上側に位置するように姿勢を定める。
【0034】
上記の姿勢で針状電極と対向電極40との間に高周波電圧を印加すると、針状電極と対向電極40で構成される放電部に高周波放電が生起され、放電炎すなわちプラズマが生じる。対向電極40は、針状電極3から延びるプラズマを囲む円筒面を有し、この円筒面の一部に切除部402が形成された形状になっている。プラズマは高温の気体であるから、電気音響変換器の姿勢が横向きになっていると、針状電極の先端から対向電極40の中心軸線に沿って延び出たプラズマは、その先端部が温度上昇によって上向きに湾曲しようとする。電気音響変換器は、プラズマが湾曲しようとする方向に対向電極40の切除部402が位置する姿勢で設置されるため、プラズマが湾曲しようとする方向において対向電極40が遠ざかることになる。
【0035】
針状電極と対向電極40との間の電界力分布は、切除部402に対応する部分が他の部分よりも小さくなり、電界力分布によりプラズマに作用する上方への引っ張り力は、プラズマの下方への引っ張り力が大きくなる。よって、温度上昇により上方に湾曲しようとするプラズマは下方に引っ張られ、プラズマは、図1に示すプラズマの例と同様に、ほぼ均等化された形状になる。
【0036】
このように、実施例2によれば、対向電極40が切除部402を有しているため、針状電極と対向する電極を円筒形の対向電極40としても、針状電極と対向電極40との間でプラズマが火花放電に移行することを防止することができる。また、針状電極と対向電極40との間に印加する高周波電圧値を高めて感度を高めても、針状電極と対向電極40との間でプラズマが火花放電に移行することを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る電気音響変換器は、マイクロホンあるいはスピーカとして利用可能であるとともに、空気の移動、振動あるいは変動などの測定器として利用することができる。特に、機械的な振動板が不要であることから、過酷な環境条件下における測定器として有望である。
【符号の説明】
【0038】
1 ベース
2 ケース
3 針状電極
4 対向電極
5 絶縁筒
8 プラズマ
41 切除部
42 切除部
40 対向電極
402 切除部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9