(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099148
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20170313BHJP
H02P 6/28 20160101ALI20170313BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P6/28
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-183331(P2013-183331)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-50908(P2015-50908A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】鞍谷 真一
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−112416(JP,A)
【文献】
特開2009−131065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対のアームが相数に対応して複数組設けられ、各相の上アームと下アームにそれぞれスイッチング素子を有し、各スイッチング素子のオン・オフに基づいてモータを駆動するインバータ回路と、
前記インバータ回路を通って流れる前記モータの電流を検出するための単一の電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流の電流値と目標電流値との偏差に基づき、前記各スイッチング素子をオン・オフさせるためのPWM信号のデューティを算出するデューティ算出手段と、
前記デューティ算出手段で算出されたデューティに基づいて、複数のPWM周期からなる一制御周期内で、各相につき、前記各PWM周期に対応した複数のPWM信号を生成し、当該PWM信号を前記各スイッチング素子へ出力するPWM信号生成手段と、
前記PWM信号生成手段で生成されたPWM信号の位相を、一制御周期内で徐々にシフトさせる位相移動手段と、を備えたモータ制御装置において、
前記PWM信号生成手段は、n番目の制御周期で前記電流検出手段が検出した電流に基づき、前記デューティ算出手段が各相のPWM信号のデューティを算出した後、n+1番目の制御周期で、前記算出されたデューティを持ったPWM信号を生成して出力し、
前記位相移動手段は、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせる、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記位相移動手段は、
前記デューティ算出手段によって算出された、n+2番目の制御周期の所定のPWM周期における、各相のデューティの順位付け結果に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、
前記位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせる、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記モータの回転角度を検出する回転角度検出手段をさらに備え、
前記位相移動手段は、
前記回転角度検出手段から取得した前記モータの回転角度と、各相のデューティとの関係に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、
前記位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせる、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記モータの回転角度を検出する回転角度検出手段をさらに備え、
前記位相移動手段は、
前記回転角度検出手段から取得した前記モータの回転角度に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における前記モータの回転角度の推定値を演算し、
前記回転角度の推定値と各相のデューティとの関係に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、
前記位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせる、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記モータの回転角度を検出する回転角度検出手段をさらに備え、
前記位相移動手段は、
前記回転角度検出手段から取得した前記モータの回転角度に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における前記モータの回転角度の推定値を演算し、
前記回転角度の推定値に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相のデューティの推定値を演算し、
前記各相のデューティの推定値の順位付け結果に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、
前記位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせる、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のモータ制御装置において、
前記PWM信号生成手段は、n+1番目の制御周期で、前記電流検出手段が電流を検出するまでに、前記デューティ算出手段で算出されたデューティを持ったPWM信号を生成して出力する、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のモータ制御装置において、
前記PWM信号生成手段は、n+1番目の制御周期で、前記デューティ算出手段がデューティを算出した後、直ちに当該デューティ持ったPWM信号を生成して出力する、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項8】
上下一対のアームが相数に対応して複数組設けられ、各相の上アームと下アームにそれぞれスイッチング素子を有し、各スイッチング素子のオン・オフに基づいてモータを駆動するインバータ回路と、
前記インバータ回路を通って流れる前記モータの電流を検出するための単一の電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流の電流値と目標電流値との偏差に基づき、前記各スイッチング素子をオン・オフさせるためのPWM信号のデューティを算出するデューティ算出手段と、
前記デューティ算出手段で算出されたデューティに基づいて、複数のPWM周期からなる一制御周期内で、各相につき、前記各PWM周期に対応した複数のPWM信号を生成し、当該PWM信号を前記各スイッチング素子へ出力するPWM信号生成手段と、
前記PWM信号生成手段で生成されたPWM信号の位相を、一制御周期内で徐々にシフトさせる位相移動手段と、を備えたモータ制御装置において、
前記PWM信号生成手段は、n番目の制御周期で前記電流検出手段が検出した電流に基づき、前記デューティ算出手段が各相のPWM信号のデューティを算出した後、n+1番目の制御周期で、前記電流検出手段が電流を検出するまでに、前記算出されたデューティを持ったPWM信号を生成して出力し、
前記位相移動手段は、n+1番目の制御周期で、前記電流検出手段が電流を検出した直後から、PWM信号の位相を徐々にシフトさせる、ことを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)方式によりモータを制御するモータ制御装置に関し、特に、単一の電流検出手段を用いて各相の電流を検出するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両の電動パワーステアリング装置においては、ハンドルの操舵トルクに応じた操舵補助力をステアリング機構に与えるために、3相ブラシレスモータなどの電動式モータが設けられる。このモータの回転を制御する装置として、PWM方式を用いたモータ制御装置が知られている(特許文献1〜12参照)。
【0003】
一般に、PWM方式のモータ制御装置は、PWM信号に基づいてモータを駆動するインバータ回路と、このインバータ回路の動作を制御する制御部と、モータ電流を検出する電流検出回路とを備えている。インバータ回路は、上下一対のアームを相の数だけ有しており、各組の上アームと下アームにそれぞれスイッチング素子が設けられる。電流検出回路は、インバータ回路に流れる各相のモータ電流を検出する電流検出抵抗(以下「シャント抵抗」という。)を含む。制御部は、モータに流すべき電流の目標値と、シャント抵抗で検出された電流の値との偏差に基づき、インバータ回路の各スイッチング素子ごとに、所定のデューティを持ったPWM信号を生成し、これをインバータ回路へ出力する。インバータ回路の各スイッチング素子は、このPWM信号によりオン・オフ動作を行う。これにより、電源からインバータ回路を通ってモータへ電流が流れ、モータが回転する。
【0004】
ところで、モータ電流を検出するシャント抵抗を、インバータ回路の各相の下アームにそれぞれ設けた場合は、モータに流れる各相の電流を実測値として検出することができる。しかしながら、この場合は、相の数だけシャント抵抗が必要であり、回路構成が複雑となる。そこで、単一のシャント抵抗を用いて各相の電流を検出することが、従来より行われている(特許文献1〜3、5、11等参照)。この方式を、以下「シングルシャント方式」と呼ぶ。シングルシャント方式では、シャント抵抗に流れる2相の電流を検出し、それらの検出値を用いて、残りの1相の電流を演算により求める(詳細は後述)。
【0005】
図11は、シングルシャント方式によるモータ制御装置の一例を示している。モータ制御装置200は、電源回路5とモータ6との間に設けられており、インバータ回路2、電流検出回路3、および制御部20を備えている。モータ6は、例えば車両の電動パワーステアリング装置に用いられる3相ブラシレスモータである。このモータ6の回転角度を検出するために、レゾルバなどの角度検出器7が設けられている。電源回路5は、直流電源、整流回路、および平滑回路などから構成される。
【0006】
インバータ回路2は、上下一対のアームがA相、B相、C相に対応して3組設けられた3相ブリッジから構成されている。A相の上アームa1と下アームa2は、それぞれスイッチング素子Q1、Q2を有している。B相の上アームa3と下アームa4は、それぞれスイッチング素子Q3、Q4を有している。C相の上アームa5と下アームa6は、それぞれスイッチング素子Q5、Q6を有している。これらのスイッチング素子Q1〜Q6は、例えばFET(電界効果トランジスタ)からなる。以下、各相の上アームのスイッチング素子を「上段スイッチング素子」、各相の下アームのスイッチング素子を「下段スイッチング素子」という。
【0007】
モータ6に流れる電流を検出するための電流検出回路3は、シャント抵抗Rsと増幅回路31から構成される。シャント抵抗Rsは、インバータ回路2とグランドGとの間に接続されている。増幅回路31は、シャント抵抗Rsの両端の電圧を増幅し、制御部20へ出力する。制御部20は、増幅回路31より与えられる電圧から算出した検出電流値と、トルクセンサ(図示省略)より与えられる操舵トルクから算出した目標電流値との偏差に基づいて、各相のPWM信号のデューティを算出する。そして、このデューティに基づいて生成した各相のPWM信号(PWM1〜PWM6)を、インバータ回路2へ出力する。インバータ回路2のスイッチング素子Q1〜Q6は、これらのPWM信号によりオン・オフ動作を行う。これによって、電源回路5からインバータ回路2を通ってモータ6へ電流が流れ、モータ6が回転する。そして、PWM信号のデューティと位相に応じたスイッチング素子Q1〜Q6のオン・オフのパターンに従って、モータ6に流れる電流の大きさや方向が制御される。
【0008】
図12〜
図15は、シングルシャント方式によるモータ電流検出の原理を説明する図である。
図12に示すように、鋸歯状のキャリア信号に基づいて、A相、B相、C相のデューティに応じた各相のPWM信号が生成される。PWM信号の生成方法については、よく知られているので、ここでは説明を省略する。以下、デューティが最大の相を「最大相」、デューティが最小の相を「最小相」、デューティ中間の相を「中間相」という。
図12では、A相が最大相、B相が最小相、C相が中間相となっている。
【0009】
なお、
図12の各相のPWM信号は、各相の上段スイッチング素子に与えられるPWM信号(
図11のPWM1、PWM3、PWM5)を表している。後述の各図においても同様である。各相の下段スイッチング素子に与えられるPWM信号(
図11のPWM2、PWM4、PWM6)は、
図12の各相のPWM信号をほぼ反転したものとなる。
図12に示されているPWM周期は、キャリア信号の立下りから次の立下りまでの期間であり、5つのPWM周期によって1つの制御周期が構成される。1PWM周期は、例えば50μsである。この場合、1制御周期は250μsとなる。また、
図12に示されている斜線部分は、シャント抵抗Rsに流れる電流を検出するための電流検出区間を示している。この電流検出区間は、各制御周期の最後のPWM周期において、中間相(C相)および最小相(B相)の各PWM信号が立ち上がるまでの所定区間として設定されている。
【0010】
図13は、
図12の一点鎖線で囲んだ部分を拡大し、これにシャント抵抗Rsに流れる電流(シャント電流)の波形を加えた図である。
図13において、W1はA相電流を検出する電流検出区間であり、W2はB相電流を検出する電流検出区間である。
【0011】
電流検出区間W1では、A相PWM信号が「H」(High)、B相PWM信号が「L」(Low)、C相PWM信号が「L」となっている。このため、
図14に示すように、上段スイッチング素子Q1、Q3、Q5がそれぞれON、OFF、OFFで、下段スイッチング素子Q2、Q4、Q6がそれぞれOFF、ON、ONとなる。その結果、
図14の破線矢印で示す電流経路が形成され、シャント抵抗Rsには、A相電流I
Aが流れる。このA相電流I
Aによってシャント抵抗Rsの両端に生じる電圧が、増幅回路31(
図11)を介して制御部20に入力され、制御部20においてA/D変換(アナログ−デジタル変換)されることで、A相電流の電流値I
Aが検出される。
【0012】
電流検出区間W2では、A相PWM信号が「H」、B相PWM信号が「L」、C相PWM信号が「H」となっている。このため、
図15に示すように、上段スイッチング素子Q1、Q3、Q5がそれぞれON、OFF、ONで、下段スイッチング素子Q2、Q4、Q6がそれぞれOFF、ON、OFFとなる。その結果、
図15の破線矢印で示す電流経路が形成され、シャント抵抗Rsには、逆極性のB相電流−I
Bが流れる。このB相電流−I
Bによってシャント抵抗Rsの両端に生じる電圧が、増幅回路31(
図11)を介して制御部20に入力され、制御部20においてA/D変換されることで、B相電流の電流値I
Bが検出される。
【0013】
A相電流の電流値I
Aと、B相電流の電流値I
Bとが検出されると、C相電流の電流値I
Cは、I
AとI
Bとを用いて、演算により求めることができる。すなわち、キルヒホッフの法則により、各相の電流値I
A、I
B、I
Cの間には、I
A+I
B+I
C=0の関係があるので、C相電流の電流値I
Cは、I
C=−(I
A+I
B)として算出することができる。
【0014】
このようなシングルシャント方式によるモータ制御装置200において、シャント抵抗Rsで検出された電流が制御部20で正常にA/D変換されるためには、同じ大きさの電流が一定期間(例えば2μs以上)連続してシャント抵抗Rsに流れなければならない。しかるに、PWM信号の各相のデューティの大小関係によっては、一つの相と他の相との間で、インバータ回路2のスイッチング素子Q1〜Q6がオン・オフするタイミングの間隔が、非常に短くなる場合がある。このときは、電流検出に必要な電流がシャント抵抗Rsに流れないため、2相の電流検出ができなくなり、残りの1相の電流の算出も不可能となる。
【0015】
そこで、一つの相と他の相との間における、スイッチング素子のオン・オフのタイミングの間隔が閾値より短い場合は、PWM信号の位相をシフトさせる方法が知られている(特許文献1、2、7参照)。例えば、
図12では、最大相であるA相のPWM信号に対して、中間相であるC相のPWM信号の位相は、遅れ方向にシフトしている。また、最小相であるB相のPWM信号の位相は、中間相であるC相のPWM信号の位相よりもさらに遅れ方向にシフトしている。このような位相シフトにより、一つの相と他の相との間で、スイッチング素子のオン・オフのタイミングの間隔が大きくなり、シャント抵抗Rsには電流検出に必要な時間だけ電流が流れる。その結果、十分な電流検出区間W1、W2が確保されるので、モータ6に流れる2相の電流を正確に検出することができる。
【0016】
しかしながら、1つの制御周期から次の制御周期へ移行したときに、PWM信号の位相が急にシフトすると、モータ電流に瞬間的に急激な変動が発生し、これが原因で、モータで電流リップルに基づく騒音が発生するという問題がある。そこで、特許文献1では、PWM信号の位相を徐々にシフトさせることにより、急激な電流変動を抑制し、モータの騒音発生を防止している。
【0017】
図16は、特許文献1による位相シフト方法を示した図である。ここでは、制御周期(n)で検出された電流値に基づいて、制御周期(n+2)でPWM信号の位相を徐々にシフトさせる例を示している。
【0018】
制御周期(n)における最後のPWM周期の電流検出区間(斜線部)で、2相の電流が検出されるとともに、これらに基づき他の1相の電流が演算により検出される。検出された各相の電流値を包括的にI(n)で表す。また、制御周期(n)では、角度検出器7によりモータ6の回転角度も検出される。そして、検出された電流値I(n)と、目標電流値と、検出されたモータ回転角度とを用いて、PWM信号の各相のデューティが算出される。算出された各相のデューティを包括的にD(n)で表す。次に、算出された各相のデューティを比較し、順位付けを行うことによって、PWM信号の最大相、最小相、および中間相を決定する。そして、このデューティの大小関係に応じて、どの相の位相をどれだけシフトさせるかを演算し、各相の位相シフト量を決定する。決定された各相の位相シフト量を包括的にP(n)で表す。
【0019】
なお、制御周期(n+1)におけるPWM信号のデューティD(n−1)と位相シフト量P(n−1)は、制御周期(n−1)の電流検出区間(斜線部)において検出された電流値I(n−1)と、目標電流値と、当該制御周期(n−1)で検出されたモータ回転角度とを用いて決定される。
【0020】
デューティと位相シフト量が決まれば、PWM信号の生成が可能となる。そこで、制御周期(n+2)において、位相が徐々にシフトするPWM信号を出力する。ここでは、A相の位相を進み方向へ徐々にシフトさせ、B相の位相を遅れ方向へ徐々にシフトさせている。C相の位相はシフトさせていない。A相とB相については、図からわかるように、PWM周期#1〜#5の各周期ごとに1/5ずつシフトさせて、PWM周期#5でシフトを完了している。その結果、PWM周期#5において、各相のPWM信号のオン・オフするタイミングの間隔が長くなり、電流検出区間(斜線部)で2相の電流が検出可能となる。
【0021】
このように、PWM信号の位相を徐々にシフトさせることにより、モータ電流の急激な変動を抑制して、電流リップルによる騒音発生を防止しつつ、2相の電流を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特許第4884356号公報
【特許文献2】特開2010−279141号公報
【特許文献3】特開2007−112416号公報
【特許文献4】特開平10−155278号公報
【特許文献5】特表2005−531270号公報
【特許文献6】特開2001−95279号公報
【特許文献7】米国特許第6735537号明細書
【特許文献8】特許第2540140号公報
【特許文献9】特開昭63−73898号公報
【特許文献10】特開平9−191508号公報
【特許文献11】特開2002−291284号公報
【特許文献12】特開2011−193637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
図16に示した位相シフト方法においては、制御周期(n)で検出された電流値I(n)やモータ回転角度に基づいて、PWM信号のデューティD(n)と位相シフト量P(n)が決定されるが、これらの値を反映したPWM信号が出力されるのは、制御周期(n+2)である。これは、CPUの演算処理に一定時間を要することから、当該PWM信号の出力が、制御周期(n+1)には間に合わないためである。したがって、電流やモータ回転角度(以下、「電流等」という。)の検出からデューティおよび位相シフト量の決定を経て、PWM信号が出力されるまでに、1制御周期以上の遅延が生じることになる。このため、モータの応答性が悪く、ハンドルを速く切った場合の追従性能が十分でないという問題があった。
【0024】
そこで、本発明の課題は、モータの応答性を向上させたモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係るモータ制御装置は、上下一対のアームが相数に対応して複数組設けられ、各相の上アームと下アームにそれぞれスイッチング素子を有し、各スイッチング素子のオン・オフに基づいてモータを駆動するインバータ回路と、このインバータ回路を通って流れるモータの電流を検出するための単一の電流検出手段と、この電流検出手段により検出された電流の電流値と目標電流値との偏差に基づき、各スイッチング素子をオン・オフさせるためのPWM信号のデューティを算出するデューティ算出手段と、このデューティ算出手段で算出されたデューティに基づいて、複数のPWM周期からなる一制御周期内で、各相につき、各PWM周期に対応した複数のPWM信号を生成し、当該PWM信号を各スイッチング素子へ出力するPWM信号生成手段と、このPWM信号生成手段で生成されたPWM信号の位相を、一制御周期内で徐々にシフトさせる位相移動手段とを備える。PWM信号生成手段は、
n番目の制御周期で電流検出手段が検出した電流に基づき、デューティ算出手段が各相のPWM信号のデューティを算出した後、
n+1番目の制御周期で、当該算出されたデューティを持ったPWM信号を生成して出力
し、位相移動手段は、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせる。
【0026】
このようにすると、デューティが算出された後、位相のシフトが開始されるまでの間に、当該デューティを持ったPWM信号が出力されるので、従来よりも早いタイミングで、PWM信号のデューティが切り替わる。このため、モータの応答性が向上し、ハンドルを速く切ったような場合でも、十分な追従性能を発揮することができる。
【0028】
本発明において、位相移動手段は、デューティ算出手段によって算出された、n+2番目の制御周期の所定のPWM周期における、各相のデューティの順位付け結果に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、当該位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせるようにしてもよい。
【0029】
本発明において、モータの回転角度を検出する回転角度検出手段をさらに備え、位相移動手段は、回転角度検出手段から取得したモータの回転角度と各相のデューティとの関係に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、当該位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせるようにしてもよい。
【0030】
本発明において、モータの回転角度を検出する回転角度検出手段をさらに備え、位相移動手段は、回転角度検出手段から取得したモータの回転角度に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期におけるモータの回転角度の推定値を演算し、この回転角度の推定値と各相のデューティとの関係に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、当該位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせるようにしてもよい。
【0031】
本発明において、モータの回転角度を検出する回転角度検出手段をさらに備え、位相移動手段は、回転角度検出手段から取得したモータの回転角度に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期におけるモータの回転角度の推定値を演算し、この回転角度の推定値に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相のデューティの推定値を演算し、このデューティの推定値の順位付け結果に基づいて、n+2番目の制御周期の最後のPWM周期における各相の位相シフト量を算出し、当該位相シフト量に基づき、n+2番目の制御周期で、PWM信号の位相を徐々にシフトさせるようにしてもよい。
【0032】
本発明において、PWM信号生成手段は、n+1番目の制御周期で、電流検出手段が電流を検出するまでに、デューティ算出手段で算出されたデューティを持ったPWM信号を生成して出力してもよい。
【0033】
本発明において、PWM信号生成手段は、n+1番目の制御周期で、デューティ算出手段がデューティを算出した後、直ちに当該デューティを持ったPWM信号を生成して出力してもよい。
【0034】
本発明において、PWM信号生成手段は、n番目の制御周期で電流検出手段が検出した電流に基づき、デューティ算出手段が各相のPWM信号のデューティを算出した後、n+1番目の制御周期で、電流検出手段が電流を検出するまでに、上記算出されたデューティを持ったPWM信号を生成して出力し、位相移動手段は、n+1番目の制御周期で、電流検出手段が電流を検出した直後から、PWM信号の位相を徐々にシフトさせるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、モータの応答性を向上させたモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態に係るモータ制御装置の回路図である。
【
図2】CPUの各部の相互関係を示したブロック図である。
【
図3】本発明の原理を説明するタイミングチャートである。
【
図4】位相シフト処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】モータ回転角度とデューティとの関係を示した図である。
【
図6】モータ回転角度と最大相、中間相、最小相との関係を示したテーブルである。
【
図7】位相シフト処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図8】位相シフト処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図9】位相シフト処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図10】モータ制御装置の他の例を示す回路図である。
【
図11】シングルシャント方式によるモータ制御装置の一例を示した回路図である。
【
図12】キャリア信号と各相のPWM信号を示したタイミングチャートである。
【
図14】電流検出区間W1におけるインバータ回路の電流経路を示した図である。
【
図15】電流検出区間W2におけるインバータ回路の電流経路を示した図である。
【
図16】従来の位相シフト方式を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。図面では、同一の部分または対応する部分に、同一の符号を付してある。
【0038】
まず、
図1を参照して、モータ制御装置の構成について説明する。モータ制御装置100は、電源回路5とモータ6との間に設けられており、インバータ回路2、電流検出回路3、および制御部10を備えている。モータ6は、例えば車両の電動パワーステアリング装置に用いられる3相ブラシレスモータである。このモータ6の回転角度を検出するために、レゾルバなどの角度検出器7が設けられている。
図1のモータ制御装置100の構成は、
図11のモータ制御装置200の構成と基本的に同じであるが、制御部10の機能が、
図11の制御部20の機能と異なっている(詳細は後述)。
【0039】
制御部10は、CPU1とメモリ4とを備えている。CPU1は、キャリア信号生成部11、デューティ算出部12、PWM信号生成部13、デューティ比較部14、位相シフト量算出部15、および位相移動部16を有している。メモリ4は、ROMやRAMなどを含む。インバータ回路2、電流検出回路3、および電源回路5は、
図11で示したものと同じであるので、これらについての説明は省略する。
【0040】
図2は、CPU1の各部11〜16の相互関係を示したブロック図である。実際には、これらの各部11〜16の機能は、ソフトウェアによって実現される。
【0041】
キャリア信号生成部11は、
図12で示したような鋸歯状のキャリア信号を生成する。デューティ算出部12は、電流検出回路3で検出されたモータ電流の電流値と、トルクセンサ(図示省略)より与えられる操舵トルクから算出した目標電流値との偏差、および、角度検出器7より与えられるモータ6の回転角度に基づいて、各相のPWM信号のデューティを算出する。PWM信号生成部13は、キャリア信号生成部11で生成されたキャリア信号と、デューティ算出部12で算出されたデューティとに基づいて、各相のPWM信号(
図1のPWM1〜PWM6)を生成し、これらのPWM信号を位相移動部16を介してインバータ回路2へ出力する。
【0042】
デューティ比較部14は、デューティ算出部12で算出された各相のデューティを比較し、デューティが最大の最大相、デューティが最小の最小相、およびデューティが中間の中間相を決定する。すなわち、各相のデューティを大きさによって順位付けする。位相シフト量算出部15は、デューティ比較部14での順位付け結果に基づいて、位相シフト量を算出する。位相移動部16は、位相シフト量算出部15で算出された位相シフト量に基づいて、PWM信号生成部13で生成されたPWM信号の位相をシフトさせる。
【0043】
以上の構成において、シャント抵抗Rsは、本発明における「電流検出手段」の一例である。デューティ算出部12は、本発明における「デューティ算出手段」の一例である。PWM信号生成部13は、本発明における「PWM信号生成手段」の一例である。デューティ比較部14、位相シフト量算出部15、および位相移動部16は、本発明における「位相移動手段」の一例である。回転検出器7は、本発明における「回転角度検出手段」の一例である。
【0044】
次に、
図3を参照しながら、本発明の基本的な原理について説明する。
図3は、
図16と対応しており、
図16中の符号と同じ符号を用いている。ここでは、
図16と同様に、制御周期(n)で検出された電流値に基づいて、制御周期(n+2)でPWM信号の位相を徐々にシフトさせる例を示している。
図3において、
図16と異なるのは、算出されたデューティD(n)を持つPWM信号を出力するタイミングである。
【0045】
図16の場合は、制御周期(n)で検出された電流値I(n)やモータ回転角度に基づいて決定されたデューティD(n)および位相シフト量P(n)を持つPWM信号を、制御周期(n+2)で出力している。つまり、デューティD(n)と位相シフト量P(n)を、共に、制御周期(n+2)でPWM信号に反映させている。これに対して、
図3の場合は、制御周期(n)で検出された電流値I(n)やモータ回転角度に基づいて決定されたデューティD(n)のPWM信号を、制御周期(n+1)で出力する。つまり、デューティD(n)を制御周期(n+1)でPWM信号に反映させる。一方、位相シフト量P(n)のPWM信号は、
図16と同様に、制御周期(n+2)で出力する。つまり、位相シフト量P(n)については、制御周期(n+2)でPWM信号に反映させる。この結果、
図3では、デューティD(n)をPWM信号に反映させるタイミングが、位相シフト量P(n)をPWM信号に反映させるタイミングよりも先行する。以下、さらに詳細に説明する。
【0046】
図3において、制御周期(n)における最後のPWM周期の電流検出区間(斜線部)で、シャント抵抗Rsを流れる2相の電流が検出される。他の1相の電流は、前述のように演算により検出される。検出された各相の電流値を包括的にI(n)で表す。また、制御周期(n)では、角度検出器7によりモータ6の回転角度も検出される。そして、検出された電流値I(n)と、目標電流値と、検出されたモータ回転角度とを用いて、デューティ算出部12において、PWM信号の各相のデューティが算出される。算出された各相のデューティを包括的にD(n)で表す。PWM信号生成部13は、デューティ算出部12がデューティD(n)を算出した後、位相移動部16が制御周期(n+2)で位相のシフトを開始するまでの間に、算出されたデューティD(n)を持ったPWM信号を生成し出力する。このPWM信号の出力は、制御周期(n+1)の電流検出区間(斜線部)で電流が検出されるまでに行われるのが望ましく、デューティD(n)の算出後、直ちに行われるのがさらに望ましい。
【0047】
これにより、
図16の制御周期(n+2)のPWM周期#1、#2におけるデューティD(n)のPWM信号が、
図3のように、前倒しで制御周期(n+1)に入ってくることになる。すなわち、
図16の場合よりも早いタイミングで、PWM信号のデューティがD(n−1)からD(n)に切り替わる。本発明では、デューティの出力を位相シフト量の出力から切り離しているため、CPU1の処理時間を考慮しても、算出したデューティD(n)を制御周期(n+1)にすばやく反映させることができる。
【0048】
但し、PWM周期#1、#2のPWM信号の位相シフト量は、制御周期(n−1)で検出された電流値I(n−1)やモータ回転角度に基づいて決定される位相シフト量P(n−1)となる。これは、PWM周期#2において電流を検出する必要があることから、それより前に位相が変動したのでは、PWM周期#2の電流検出区間が十分確保できなくなる可能性があるためである。
【0049】
一方、位相移動部16によりPWM信号の位相を徐々にシフトさせる処理は、位相シフト量算出部15で算出された位相シフト量P(n)に基づいて、制御周期(n+2)に入ってから開始される。この点は
図16と同じである。但し、制御周期(n+2)においては、制御周期(n)での電流等の検出に基づいて位相シフト量が確定しているのは、PWM周期#3〜#5のみである。PWM周期#6、#7の位相シフト量は、制御周期(n+1)での電流等の検出に基づいて算出されるため、未確定である。
【0050】
ここで、PWM周期#3〜#7におけるそれぞれの位相シフト量は、PWM周期#7の位相シフト量と、PWM周期#2の位相シフト量との差を5等分することで算出される。PWM周期#2の位相シフト量は、制御周期(n−1)での電流等の検出に基づき確定しているので、PWM周期#7の位相シフト量を何らかの方法により決定する必要がある。そこで、本実施形態では、第1の方法として、デューティの確定しているPWM周期#1〜#5のうち、PWM周期#7に一番近いPWM周期#5のデューティに基づいて、PWM周期#7の位相シフト量を決定する。すなわち、PWM周期#5における各相のデューティの大小を比較して順位付けを行い、最大相、中間相、最小相を決定する。そして、その結果に応じて、PWM周期#7の各相の位相シフト量を決定する。例えば、最大相については位相シフト量を0μs(シフトさせない)、中間相については位相シフト量を6μs、最小相については位相シフト量を12μsに決定する。
【0051】
以上のように、本実施形態では、制御周期(n)での電流等の検出に基づいて、デューティ算出部12がデューティD(n)を算出した後、制御周期(n+2)で位相のシフトが開始されるまでの間に、PWM信号生成部13がデューティD(n)のPWM信号を生成して出力するようにしている。このため、従来よりも早いタイミングでPWM信号のデューティを切り替えることができるので、モータ6の応答性が向上し、ハンドルを速く切った場合でも、十分な追従性能を発揮することができる。
【0052】
なお、
図3のPWM周期#7においては、デューティD(n+1)は、制御周期(n+1)での電流等の検出に基づいて決定され、位相シフト量P(n)は、制御周期(n)での電流等の検出に基づいて決定される。したがって、PWM周期#7のデューティの大小関係と位相シフト量は必ずしも対応していないが、位相シフトにより十分な電流検出区間が確保できることに変わりはないので、モータ電流を検出する上で問題は生じない。
【0053】
図4は、
図3で説明した位相シフト処理において、CPU1が実行する処理を表したフローチャートである。このフローチャートの一連の手順は、1制御周期ごとに繰り返し実行される。以下では、制御周期(n+1)での処理について述べる。
【0054】
ステップS1では、制御周期(n)において検出された電流値およびモータ回転角度に基づいて、PWM周期#1〜#5における各相のデューティを算出し、算出したデューティをメモリ4に書き込む。すなわち、PWM周期#1〜#5のデューティを設定する。
【0055】
ステップS2では、PWM周期#1、#2における各相の位相シフト量を、メモリ4から読み出す。この位相シフト量は、制御周期(n−1)での電流等の検出に基づいて制御周期(n)で算出済みであり、メモリ4に格納されている。
【0056】
ステップS3では、PWM周期#5における各相のデューティの大きさを比較して、デューティの順位付けを行う。すなわち、最大相、中間相、最小相を決定する。
【0057】
ステップS4では、ステップS3での順位付けの結果から、PWM周期#7における最大相、中間相、最小相の位相シフト量を算出し、算出した位相シフト量をメモリ4に書き込む。すなわち、PWM周期#7の位相シフト量を設定する。
【0058】
ステップS5では、PWM周期#2と#7間の位相変化量を5等分することによって、PWM周期#3〜#6における最大相、中間相、最小相の位相シフト量を算出し、算出した位相シフト量をメモリ4に書き込む。
【0059】
ステップS6では、PWM周期#1〜#5のデューティおよび位相シフト量をメモリ4から読み込み、PWM信号を生成して出力する。
【0060】
ステップS7では、制御周期(n+1)における最後のPWM周期の電流検出区間で、シャント抵抗Rsに流れる最大相と最小相の電流の値を検出する。
【0061】
ステップS8では、ステップS7で検出した2相の電流値を用いて、残りの中間相の電流値を演算により求める。
【0062】
上述した実施形態においては、PWM周期#7の位相シフト量を、PWM周期#5のデューティの順位付け結果により決定する第1の方法を採用したが、PWM周期#7の位相シフト量を決定するには、他にも以下のような方法がある。
【0063】
まず、第2の方法として、PWM周期#5のモータ6の回転角度に基づいて、PWM周期#7の位相シフト量を決定する方法がある。
【0064】
図5は、一般的な正弦波駆動の場合の、モータ回転角度とデューティとの関係を示している。これからわかるように、60°間隔でA相、B相、C相のデューティの大小関係が入れ替わる。そして、モータ回転角度に対応して、最大相、最小相、中間相が一義的に定まる。
図6は、モータ回転角度と最大相、最小相、中間相の関係を示したテーブルである。このテーブルは、メモリ4にあらかじめ記憶されている。したがって、角度検出器7から取得したモータ6の回転角度に対して、
図6のテーブルを参照することで、最大相、中間相、最小相が定まり、デューティの順位付けができる。そして、この順位付けの結果に基づいて、位相シフト量を決定することができる。
【0065】
図7は、上記第2の方法を採用した場合の、位相シフト処理の手順を表したフローチャートである。
図7においては、
図4のステップS3が、ステップS3aに置き換わっている。ステップS3aでは、制御周期(n)において角度検出器7から取得したモータ6の回転角度に対し、
図6のテーブルから最大相、中間相、最小相を決定して、PWM周期#5のデューティの順位付けを行う。そして、ステップS4において、ステップS3aでの順位付けの結果から、PWM周期#7における最大相、中間相、最小相の位相シフト量を算出し、各位相シフト量をメモリ4に書き込む。ステップS1〜S2、およびS5〜S8に関しては、
図4の場合と同じであるので、説明を省略する。
【0066】
次に、第3の方法として、PWM周期#7のモータ回転角度を推定し、当該推定値に基づいて、PWM周期#7の位相シフト量を決定する方法がある。
【0067】
図8は、第3の方法を採用した場合の、位相シフト処理の手順を表したフローチャートである。
図8においては、
図4のステップS3が、ステップS3bおよびステップS3cに置き換わっている。ステップS3bでは、PWM周期#7におけるモータ6の回転角度を推定演算する。具体的には、PWM周期#5のモータ回転角度を基準として、それより2周期先のPWM周期#7におけるモータ回転角度の推定値を、次の演算式により求める。
PWM周期#7のモータ回転角度の推定値
=PWM周期#5のモータ回転角度+(モータ角速度×PWM周期時間×2)
PWM周期#5のモータ回転角度は、第2の方法の場合と同様に、制御周期(n)において角度検出器7から取得される。また、モータ角速度は、モータ回転角度の単位時間あたりの変化量から算出することができる。このため、第3の方法では、
図10に示すように、CPU1にモータ角速度算出部17が設けられる(後述の第4の方法でも同様)。
【0068】
ステップS3cでは、ステップS3bで算出されたPWM周期#7のモータ回転角度(推定値)に対し、
図6のテーブルから最大相、中間相、最小相を決定して、PWM周期#7のデューティの順位付けを行う。そして、ステップS4において、ステップS3cでの順位付けの結果から、PWM周期#7における最大相、中間相、最小相の位相シフト量を算出し、各位相シフト量をメモリ4に書き込む。ステップS1〜S2、およびS5〜S8に関しては、
図4の場合と同じであるので、説明を省略する。
【0069】
最後に、第4の方法として、PWM周期#7のモータ回転角度(推定値)に基づいて、PWM周期#7のデューティを推定し、当該デューティの順位付け結果に基づいて、PWM周期#7の位相シフト量を決定する方法がある。
【0070】
図9は、第4の方法を採用した場合の、位相シフト処理の手順を表したフローチャートである。
図9においては、
図4のステップS3が、ステップS3b、ステップS3d、およびステップS3eに置き換わっている。ステップS3bは、
図8のステップS3bと同じであり、ここでは、PWM周期#7におけるモータ6の回転角度の推定値が、前記の演算式に従って算出される。
【0071】
ステップS3dでは、ステップS3bで算出されたPWM周期#7のモータ回転角度(推定値)に基づいて、PWM周期#7におけるデューティを推定演算する。
図2でも述べたように、デューティは、目標電流値と検出電流値とモータ回転角度とから算出できるので、モータ回転角度としてステップS3bで算出された推定値を用いることにより、PWM周期#7のデューティ推定値が得られる。
【0072】
ステップS3eでは、ステップS3dで算出されたPWM周期#7の各相のデューティ(推定値)に対し、順位付けを行う。そして、ステップS4において、ステップS3eでの順位付けの結果から、PWM周期#7における最大相、中間相、最小相の位相シフト量を算出し、各位相シフト量をメモリ4に書き込む。ステップS1〜S2、およびS5〜S8に関しては、
図4の場合と同じであるので、説明を省略する。
【0073】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、
図3では、制御周期(n+2)に入ってから、PWM信号の位相を徐々にシフトさせたが、制御周期(n+1)の電流検出区間で電流が検出された直後から、PWM信号の位相を徐々にシフトさせてもよい。この場合は、上記電流検出までに、デューティD(n)のPWM信号を生成して出力する。
【0074】
また、前記の実施形態では、位相移動部16により、直接、PWM信号の位相をシフトさせたが、各相ごとに生成したキャリア信号の位相をシフトさせることで、結果的にPWM信号の位相をシフトさせてもよい。この場合は、
図2において、キャリア信号生成部11とPWM信号生成部13との間に、位相移動部16を設ければよい。
【0075】
また、位相シフトにあたって、
図12の例では、最大相を基準として、中間相と最小相を電流検出可能な所定量だけシフトさせているが、本発明はこれに限定されない。例えば、特許文献2にも記載されているように、中間相を基準として、最大相と最小相を電流検出可能な所定量だけシフトさせてもよいし、最小相を基準として、最大相と中間相を電流検出可能な所定量だけシフトさせてもよい。
【0076】
また、前記の実施形態では、3相モータの制御装置について述べたが、本発明は、3相モータに限らず、4相以上の多相モータの制御装置にも適用することができる。この場合、インバータ回路2においては、上下一対のアームが相数に応じて複数組設けられる。
【0077】
また、前記の実施形態では、インバータ回路2のスイッチング素子Q1〜Q6としてFETを例に挙げたが、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラモードトランジスタ)のような他のスイッチング素子を使用してもよい。
【0078】
また、前記の実施形態では、モータ6としてブラシレスモータを例に挙げたが、本発明はこれ以外のモータを制御する場合にも適用することができる。
【0079】
さらに、前記の実施形態では、車両の電動パワーステアリング装置に用いられるモータ制御装置を例に挙げたが、本発明はこれ以外の装置に用いられるモータ制御装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 CPU
2 インバータ回路
3 電流検出回路
4 メモリ
6 モータ
7 角度検出器(回転角度検出手段)
10 制御部
12 デューティ算出部(デューティ算出手段)
13 PWM信号生成部(PWM信号生成手段)
14 デューティ比較部(位相移動手段)
15 位相シフト量算出部(位相移動手段)
16 位相移動部(位相移動手段)
100 モータ制御装置
a1、a3、a5 上アーム
a2、a4、a6 下アーム
Q1〜Q6 スイッチング素子
Rs シャント抵抗(電流検出手段)