(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アイソセンター位置に配置された被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射装置であって、
前記被照射体に荷電粒子線を照射する照射部と、
前記照射部に設けられ、荷電粒子線を走査する電磁石と、
前記照射部に設けられ、荷電粒子線の線量分布を測定する線量分布測定手段と、
前記線量分布測定手段よりも前記荷電粒子線の照射方向における下流側に設けられ、前記荷電粒子線の照射方向と垂直な平面における前記荷電粒子線の形状の成形を行うコリメータと、
前記線量分布測定手段の測定結果と前記コリメータの開口の形状のデータとに基づいて、前記線量分布モニタの測定結果を補正して前記アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を算出する線量分布算出手段と、を備え
、
前記線量分布算出手段は、前記照射部に入射した荷電粒子線の線量分布を荷電粒子線の照射方向と直交する方向の位置座標の関数とし、当該関数に対して前記電磁石の走査に対応する関数を畳み込み積分して得られる前記電磁石によって走査された直後の位置における荷電粒子線の線量分布の関数と、前記線量分布測定手段の測定結果から得られる線量分布の中心位置座標と、前記コリメータの効果と、に基づいて、前記アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を算出し、
前記照射方向と直交する方向をX軸方向とした場合に、前記照射部に入射した荷電粒子線の線量分布のX軸位置座標の関数f(x)が下記の式(1)で表され、前記電磁石の走査に対応する関数g(x)が下記の式(2)で表され、前記電磁石によって走査された直後の位置における荷電粒子線の線量分布の関数DM(x)が下記の式(3)で表され、前記コリメータの効果が下記の式(4),(5)で表され、前記アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布DI(x)が下記の式(6)で表される、
ことを特徴とする荷電粒子線照射装置。
[数1]
[数2]
[数3]
[数4]
[数5]
但し、式(1)におけるAは規格化定数、σMは線量分布測定手段の位置における線量分布のX軸方向の広がり、μMは線量分布測定手段の位置における線量分布のX軸上の中心位置座標である。また、式(2)におけるRはワブリング半径である。また、式(4),(5)におけるaはコリメータの開口の幅(X軸方向における幅)に依存するパラメータ、sは入射した荷電粒子線の粒子エネルギー,電磁石の磁場強度,及びコリメータからアイソセンター位置までの距離に依存するパラメータである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した治療計画装置においては、画像データ上で線量分布計画の確認を行っているが、実際に照射された荷電粒子線の線量分布を測定しておらず、確認に対する信頼性が高いとは言えない。荷電粒子線の径路上に線量分布モニタを設けることも考えられるが、この場合、測定できる線量分布は線量分布モニタ位置のものであり、アイソセンター位置における線量分布とは異なる。荷電粒子線の線量分布の確認は治療の信頼性を確保する上で重要であることから、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を精度良く確認するための技術が強く求められている。
【0006】
そこで、本発明は、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を精度良く算出できる荷電粒子線照射装置及び荷電粒子線の線量分布算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、アイソセンター位置に配置された被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射装置であって、被照射体に荷電粒子線を照射する照射部と、
照射部に設けられ、荷電粒子線を走査する電磁石と、照射部に設けられ、荷電粒子線の線量分布を測定する線量分布測定手段と、線量分布測定手段よりも荷電粒子線の照射方向における下流側に設けられ、荷電粒子線の照射方向と垂直な平面における荷電粒子線の形状の成形を行うコリメータと、線量分布測定手段の測定結果とコリメータの開口の形状のデータとに基づいて、線量分布モニタの測定結果を補正してアイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を算出する線量分布算出手段と、を備え
、線量分布算出手段は、照射部に入射した荷電粒子線の線量分布を荷電粒子線の照射方向と直交する方向の位置座標の関数とし、当該関数に対して電磁石の走査に対応する関数を畳み込み積分して得られる前記電磁石によって走査された直後の位置における荷電粒子線の線量分布の関数と、線量分布測定手段の測定結果から得られる線量分布の中心位置座標と、コリメータの効果と、に基づいて、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を算出し、照射方向と直交する方向をX軸方向とした場合に、照射部に入射した荷電粒子線の線量分布のX軸位置座標の関数f(x)が下記の式(1)で表され、電磁石の走査に対応する関数g(x)が下記の式(2)で表され、電磁石によって走査された直後の位置における荷電粒子線の線量分布の関数DM(x)が下記の式(3)で表され、コリメータの効果が下記の式(4),(5)で表され、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布DI(x)が下記の式(6)で表される、ことを特徴とする。
[数1]
[数2]
[数3]
[数4]
[数5]
但し、式(1)におけるAは規格化定数、σMは線量分布測定手段の位置における線量分布のX軸方向の広がり、μMは線量分布測定手段の位置における線量分布のX軸上の中心位置座標である。また、式(2)におけるRはワブリング半径である。また、式(4),(5)におけるaはコリメータの開口の幅(X軸方向における幅)に依存するパラメータ、sは入射した荷電粒子線の粒子エネルギー,電磁石の磁場強度,及びコリメータからアイソセンター位置までの距離に依存するパラメータである。
【0008】
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、照射部を通過する荷電粒子線の線量分布の測定結果に基づいて、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を算出することができる。従って、この荷電粒子線照射装置によれば、実際に照射することでアイソセンター位置における線量分布を治療前に確認することが可能になる。しかも、この荷電粒子線照射装置では、実際に照射された荷電粒子線の線量分布の測定結果を用いることで、実際の測定結果を用いない場合と比べて、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を精度良く算出することができる。
また、電磁石によって走査された直後の位置における線量分布を表す関数に対して実際の荷電粒子線の線量分布の測定結果を利用することで、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を算出することができる。
この場合、線量分布を表す関数DM(x)に対して実際の荷電粒子線の線量分布の測定結果を利用することで、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を精度良く算出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アイソセンター位置における荷電粒子線の線量分布を精度良く算出できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1に示されるように、照射部1は、荷電粒子線照射装置100において、治療台105を取り囲むように設けられた回転ガントリ103に取り付けられ、この回転ガントリ103によって治療台105の回りに回転可能とされている。そして、治療台105に寝かされた患者の腫瘍等の被照射体に対して、荷電粒子線P(
図2参照)を照射する。荷電粒子線Pは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、荷電粒子線Pとしては、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線等が挙げられる。
【0022】
なお、
図1には示されていないが、荷電粒子線照射装置100は、イオン源で生成した荷電粒子線を加速して荷電粒子線Pを出射するサイクロトロンを治療台105及び回転ガントリ103から離れた位置に備えている。サイクロトロンから出射された荷電粒子線Pはビーム輸送系を介して照射部1に供給される。この荷電粒子線照射装置100は、制御装置10によって統括的に制御されている。
【0023】
図2に示されるように、照射部1は、荷電粒子線Pの照射方向に順に配列された四極磁石2、ワブリング磁石3、散乱体4、リッジフィルタ5、線量分布モニタ(線量分布測定手段)6、マルチリーフコリメータ7、及びスノート8を備えている。以下、照射部1を通る荷電粒子線Pの照射方向をZ軸方向、Z軸に直交する二方向をX軸方向及びY軸方向として説明に用いる。X軸方向及びY軸方向は互いに直交する方向である。
【0024】
照射部1の入口に最も近い四極磁石2は、ビーム輸送ラインを介して入力された荷電粒子線Pが発散するのを抑えて収束させる電磁石である。四極磁石2の下流には、ワブリング磁石3が配置されている。ワブリング磁石3は、正規分布状の荷電粒子線Pを円軌道で走査することで一様な照射野を形成するための電磁石である。
【0025】
散乱体4は、ワブリング磁石3で走査された荷電粒子線Pの拡散を行う。このような散乱体4は、例えば鉛製の板から構成されている。散乱体4は、荷電粒子線Pを照射方向と直交する方向(XY平面内の方向)に広がりを持つ幅広のビームへと拡散させる。
【0026】
リッジフィルタ5は、散乱体4で散乱された荷電粒子線Pの線量分布の調整を行う。具体的には、リッジフィルタ5は、患者の体内の腫瘍の厚さ(照射方向における腫瘍の長さ)に対応するように、荷電粒子線Pに拡大ブラッグピーク(SOBP)を与える。
【0027】
線量分布モニタ6は、通過する荷電粒子線Pの線量分布の測定を行う。線量分布モニタ6は、X軸方向又はY軸方向で延在して格子状に配列された複数の金属ワイヤを有しており、荷電粒子線Pが照射された金属ワイヤから発生する電子を検出する。これらの複数の金属線にはX軸及びY軸の位置座標に応じたチャネル番号が付されており、各チャネル番号の金属ワイヤから発生した電子を検出することで、荷電粒子線Pの線量分布の測定が行われる。
【0028】
マルチリーフコリメータ7は、照射方向と垂直な平面(XY平面)における荷電粒子線Pの形状の成形を行う。マルチリーフコリメータ7は、X軸方向で対向する二列の櫛歯を有しており、対向する櫛歯間の開口を調整することで、開口を通過する荷電粒子線Pの成形を行う。なお、マルチリーフコリメータ7に代えて、ブロックコリメータを用いても良い。ブロックコリメータとしては、患者の腫瘍形状に合わせて穴を形成された金属柱等が用いられる。
【0029】
スノート8は、照射方向(Z軸方向)の奥行きについて荷電粒子線Pを腫瘍の形状に合わせて成形するボーラスを保持する部材である。ボーラスは、荷電粒子線Pの最大到達深さの部分の立体形状を、腫瘍の最大深さ部分の形状に合わせて成形する。
【0030】
図1及び
図2に示されるように、荷電粒子線照射装置100は、その全体的な制御を行う制御装置10を備えている。制御装置10は、患者に対する荷電粒子線Pの照射制御やマルチリーフコリメータ7の位置制御を行う。また、制御装置10は、アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布を算出するための線量分布算出部(線量分布算出手段)11を有している。線量分布算出部11は、線量分布モニタ6の測定結果に基づいて、アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布を算出する。
【0031】
次に、本実施形態に係る荷電粒子線照射装置100における線量分布算出方法について説明する。
【0032】
図3に示されるように、本実施形態に係る線量分布算出方法は、線量分布モニタ6が荷電粒子線Pの線量分布を測定する線量分布測定ステップS1と、線量分布算出部11がアイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布を算出する線量分布算出ステップS2と、を有している。
【0033】
ここで、
図4は、XZ平面における荷電粒子線Pの線量分布の変化を説明するための概略図である。
図4において、四極磁石2、リッジフィルタ5、及びスノート8の描写を省略する。照射部1における中心軸(照射部1を構成する機器2〜8の略中心を通る軸)をCとして示す。
【0034】
図4に示されるように、ビーム輸送ラインから入射した荷電粒子線Pは、四極磁石2により収束され、その線量分布はW1のような山なりの状態となる。この場合の線量分布W1は、位置座標xの関数f(x)として下記の式(1)で表すことができる。式(1)におけるAは規格化定数である。また、
μMは
線量分布モニタ6の位置における線量分布の中心位置座標である。
σMは
線量分布モニタ6の位置における線量分布の広がりである。この関数f(x)はガウシアン(ガウス関数)となる。
【数1】
【0035】
線量分布W1の荷電粒子線Pがワブリング磁石3によって走査されると、線量分布はW2の状態(二つの山からなる状態)となる。この場合のワブリング半径をRとする。ワブリング半径Rは、入射した荷電粒子線Pの粒子エネルギーE、ワブリング磁石3の磁場強度B、ワブリング磁石3から線量分布W2の現在位置までの距離Lwに依存するパラメータである。ここで、線
量分布W1に対するワブリング磁石3の走査の影響を表す関数g(x)を検討すると、下記の式(2)として表すことができる。この場合、線量分布W2の関数D
M(x)は、下記の式(3)として表すことができる。すなわち、関数D
M(x)は、関数f(x)及び関数g(x)を畳み込み積分することで求めることができる。
【数2】
【数3】
【0036】
その後、荷電粒子線Pが散乱体4によってX軸方向及びY軸方向に拡散されると、線量分布はW3の状態となる。線量分布W3は、線量分布モニタ6の位置(線量分布測定位置)における荷電粒子線Pの線量分布である
。この線量分布W3が線量分布測定ステップS1において線量分布モニタ6に測定される。
【0037】
図5は、線量分布モニタ6の測定結果の一例を示すグラフである。横軸は、線量分布モニタ6のX軸座標に対応するチャネル番号、縦軸は線量相当値を示している。線量相当値とは、荷電粒子線Pの線量に比例する値であり、所定の係数を乗じることで線量が得られる。
【0038】
線量分布算出部11は、
図5に示す測定結果の線量分布データ(折れ線状のデータ)に対してフィッティングを行う。このようなフィッティングには、Levenberg−Marquardt法やNelder−Mead Simplex法等を利用することができる。フィッティング後の線量分布データの一例を
図5に一点鎖線として示す。
【0039】
ここで、線量
分布モニタ6の位置における線量分布の広がりσ
Mと線量
分布モニタ6の位置におけるワブリング半径R
Mは
、実測で決定することができる。従って、上記の式(3)におけるフリーパラメータは、規格化定数Aと線量
分布モニタ6の位置における線量分布の中心位置座標μ
Mのみである。Aは規格化定数なので、物理的な意味はない。このため、フィッティングによってμ
Mが求められる。線量分布算出部11は、フィッティングによって求めたμ
Mを、アイソセンター位置における線量分布W4の中心位置座標μ
Iとして用いる。
【0040】
アイソセンター位置における線量分布W4は、上記の式(3)にマルチリーフコリメータ7の効果を乗じることで求められる。マルチリーフコリメータ7の効果は、下記の式(4),(5)として表わすことができる。下記の式(4),(5)において、aはマルチリーフコリメータ7の開口の幅q(X軸方向における幅)等に依存するパラメータである。また、sは、入射した荷電粒子線Pの粒子エネルギーE、ワブリング磁石3の磁場強度B、マルチリーフコリメータ7からアイソセンター位置までの距離L
CI等に依存するパラメータである。
【数4】
【0041】
アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布W4を表す関数D
I(x)は、f(x)とg(x)とを畳み込み積分をしたものにh(x)を乗じたものとなる。従って、関数D
I(x)を下記の式(6)として表すことができる。式(6)において、アイソセンター位置における線量分布W4の中心位置座標μ
Iにはフィッティングで求めたμ
Mを用いる。また、アイソセンター位置における線量分布W4の広がりσ
I及びアイソセンター位置におけるワブリング半径R
Iには計
算で決定した値を利用する。
【数5】
【0042】
線量分布算出部11は、線量分布算出ステップS2において上記の式(6)に基づいて、アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布W4の関数D
I(x)を算出する。線量分布算出部11は、線量モニタ6の測定結果のフィッティングデータと上記の式(6)とに基づいて、アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布W4を算出することができる。なお、線量分布をX軸位置座標の関数とした場合の算出について説明したが、線量分布をY軸位置座標の関数とした場合も同様に算出することができる。
【0043】
以上説明した荷電粒子線照射装置100及び荷電粒子線の線量分布算出方法によれば、照射部1を通過する荷電粒子線Pの線量分布の測定結果に基づいて、アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布を算出することができる。従って、この荷電粒子線照射装置100及び線量分布算出方法によれば、実際に照射することでアイソセンター位置における線量分布を治療前に確認することが可能になる。しかも、この荷電粒子線照射装置100及び線量分布算出方法では、実際に照射部1を通過する荷電粒子線Pの線量分布の測定結果を用いるので、線量分布の測定結果を用いない場合と比べて、アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布を精度良く算出することができる。
【0044】
また、この荷電粒子線照射装置100及び線量分布算出方法によれば、上述した式(1)〜(6)を用い、実際の荷電粒子線Pの線量分布の測定結果を踏まえて線量分布を算出することで、アイソセンター位置における荷電粒子線Pの線量分布を一層精度良く算出することができる。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、アイソセンター位置における線量分布の中心位置座標μ
Iは、フィッティングにより求められたμ
Mと同じにする必要はない。照射部1の入口側のプロファイルモニタによって当該プロファイルモニタの位置における線量分布の中心位置座標μpを測定した場合には、μpを用いてアイソセンター位置における線量分布の中心位置座標μ
Iを算出することもできる。具体的には、μpと、プロファイルモニタから線量分布モニタ6までの距離L
PMと、線量分布モニタ6からアイソセンター位置までの距離L
MIと、を用いて下記の式(7)から求めることができる。
【数6】
【0046】
また、本発明は、ワブラー法による荷電粒子線の線量分布算出に限られない。例えば、ワブリング磁石を使わずに、複数の散乱体により荷電粒子線を拡散させる二重散乱体法においても本発明を有効に適用することができる
。更に、本発明は、上述したような関数を用いた算出方法に限られず、様々な方法によりアイソセンター位置の線量分布の算出を行うことができる。