特許第6099197号(P6099197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099197梨地調印刷用インク組成物及び梨地調印刷面付きガラス製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099197
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】梨地調印刷用インク組成物及び梨地調印刷面付きガラス製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/02 20140101AFI20170313BHJP
   C03C 17/04 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C09D11/02
   C03C17/04 A
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-65048(P2013-65048)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189602(P2014-189602A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】福浪 基文
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−227819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
C03C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末と,樹脂と,溶剤とを含んでなる組成物であって,該樹脂が少なくとも1種の親水性樹脂と,少なくとも1種の疎水性樹脂を含んでなり,且つ該ガラス粉末を構成するガラスの軟化点が,含まれる樹脂のうち最も熱分解最終温度が高いものの空気中における熱分解最終温度よりも低いものであることを特徴とする,梨地調印刷用インク組成物。
【請求項2】
該ガラスの軟化点が,含まれる樹脂のうち最も熱分解最終温度が高いものの空気中における熱分解最終温度よりも20〜80℃低いものである,請求項1の梨地調印刷用インク組成物。
【請求項3】
含まれる樹脂全体の熱分解最終温度とガラス粉末の軟化点との差が25〜75℃である,請求項1又は2の梨地調印刷用インク組成物。
【請求項4】
該親水性樹脂が,水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂,及びグルコース単位あたりの水酸基数の平均値が1以上であるセルロース誘導体のうちの少なくとも1種である請求項〜3の何れか梨地調印刷用インク組成物。
【請求項5】
該親水性樹脂が,グルコース単位あたりの水酸基数の平均値が1〜1.9である,請求項4梨地調印刷用インク組成物。
【請求項6】
該親水性樹脂がメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースのうちの少なくとも1種である,請求項1〜の何れかの梨地調印刷用インク組成物。
【請求項7】
該疎水性樹脂が,(メタ)アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂およびロジンエステル系樹脂のうちの少なくとも1種である,請求項1〜の何れかの梨地調印刷用インク組成物。
【請求項8】
該インク組成物中における該親水性樹脂に対する該疎水性樹脂の重量比が0.3〜11である,請求項1〜の何れかの梨地調印刷用インク組成物。
【請求項9】
該インク組成物中における該ガラス粉末100重量部に対する該疎水性樹脂の量が15重量部以下である,請求項1〜の何れかの梨地調印刷用インク組成物。
【請求項10】
該ガラスの軟化点が515〜575℃である,請求項1〜の何れかの梨地調印刷用インク組成物。
【請求項11】
ガラス製品を準備し,該ガラス製品の表面の少なくとも一部に請求項〜10の何れかの梨地調印刷用インク組成物を印刷し,該ガラス粉末を構成するガラスの軟化点より高い温度で該印刷されたインク組成物を焼成することによる,印刷面付きガラス製品の製造方法。
【請求項12】
該印刷面の算術平均粗さが,2.5〜10μmである,請求項11の製造方法。
【請求項13】
該印刷面が梨地調印刷面である,請求項11又は12の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,インク組成物に関し,特に印刷用インク組成物に,取り分け梨地調の表面をガラス製品に付与するためのインク組成物に関し,更に,当該組成物により梨地調の表面を付与されたガラス製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,サテン絵具をガラス製品の表面に印刷し,これを焼成して細かい凹凸を形成することで,艶消し状またはすりガラス状の外観の文字や模様をガラス製品の表面に施す技術が知られている(特許文献1参照)。しかしながら,この技術で得られる印刷表面は凹凸が非常に小さく,より凹凸の度合いの大きい梨地調印刷が近年加飾のバリエーションとして望まれている。
【0003】
また,スクリーン印刷法によりインクのみを板ガラス上に塗布し,インクが乾燥する前にインク層上にガラスビーズを振りかけ,板ガラス上にガラスビーズを付着させた後,インクを乾燥させてガラスビーズを板ガラス表面上に固着させ,加熱炉中で400〜700℃で加熱して,球状又は球状に近い凸部を有する凹凸模様を形成する方法も知られている(特許文献2)。ガラスビーズの他,粒状ガラスを振り掛けて,凹凸を形成する方法も知られているが,これらの方法はいずれも2工程を要するもので,量産には適さない。
【0004】
また近年,ガラス粉末と無機顔料を含むインクをガラス表面に塗布して地色を形成し,その上にガラス粉末と5重量%未満の無機顔料を含む凹凸形成インクを斑状に塗布して表面に凹凸を形成し,これに更にガラス粉末と無機顔料を含むインキを塗布して文字又は模様を形成した後,加熱してインキを焼き付けることによる,ガラス印刷方法が提案されており,和紙調,しぼ加工様の凹凸が強調された印刷製品が得られている(特許文献3参照)。しかしながら,この方法には,工程が複数に亘るという問題があり,また,半透明な梨地調表面を形成するものではない。
【0005】
また,ガラスペーストインクに酸窒化チタンを添加したものである発泡性材料をガラス製品に印刷し,加熱して酸窒化チタン中の窒素をガス化発泡させることにより,厚盛印刷や柚子肌状の外観を得る試みがなされている(特許文献4参照)。しかしながら,この方法では印刷層を無色にすることはできない。
【0006】
一方,ガラス容器等の製造において,放電加工した金型を用いて成形することにより梨地調の表面を有するガラス製品を製造する方法が知られている。しかし,この製法は少量多品種の製品に対応するには不利であり,また,梨地調の表面上に別途着色印刷を施すことも困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−258971号公報
【特許文献2】特開2006−290669号公報
【特許文献3】特開2007−55150号公報
【特許文献4】特開2011−195749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況において,本発明の一目的は,一工程の印刷と焼成により従来のサテン調の印刷よりも凹凸が強調された梨地調の表面をガラス製品に付与するためのインク組成物を提供することである。
【0009】
本発明の更なる一目的は,このインクをガラス容器,食器,花瓶等のガラス製品に印刷後焼成し,意匠性に優れた高級なイメージを有する梨地調印刷面付きガラス製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは,上記の課題を解決するための研究において,ガラス粉末と,溶剤と,少なくとも1種の親水性樹脂と,少なくとも1種の疎水性樹脂を含むインク組成物であって,ガラス粉末が,何れかの樹脂の空気中における焼失温度(熱分解最終温度)よりも低い軟化点を有するガラスの粉末であるインク組成物を調製してガラス製品への印刷及び焼成を試みたところ,(1)そのようなインク組成物を,従来のスクリーン印刷等慣用の手法でガラス製品の表面に一工程で印刷し,印刷されたインク組成物層を焼成するだけで,簡単に梨地調の表面をガラス製品に付与することができることを見出し,更に,(2)使用する親水性樹脂,疎水性樹脂の種類や量を適宜調整することで,梨地の凹凸の大きさを調整することもでき,意匠性の高いガラス製品を非常に容易に製造できることを見出した。本発明は,これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち本発明は,以下のものを提供する。
1.ガラス粉末と,樹脂と,溶剤とを含んでなる組成物であって,該樹脂が少なくとも1種の親水性樹脂と,少なくとも1種の疎水性樹脂を含んでなり,且つ該ガラス粉末を構成するガラスの軟化点が,含まれる樹脂の何れかの空気中における熱分解最終温度よりも低いものであることを特徴とする,インク組成物。
2.該親水性樹脂が,水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂,及びグルコース単位あたりの水酸基数の平均値が1以上であるセルロース誘導体のうちの少なくとも1種である,上記1のインク組成物。
3.該親水性樹脂が,グルコース単位あたりの水酸基数の平均値が1〜1.9である,上記2のインク組成物。
4.該親水性樹脂がメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースのうちの少なくとも1種である,上記1〜3の何れかのインク組成物。
5.該疎水性樹脂が,(メタ)アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂およびロジンエステル系樹脂のうちの少なくとも1種である,上記1〜4の何れかのインク組成物。
6.該インク組成物中における該親水性樹脂に対する該疎水性樹脂の重量比が0.3〜11である,上記1〜5の何れかのインク組成物。
7.該インク組成物中における該ガラス粉末100重量部に対する該疎水性樹脂の量が15重量部以下である,上記1〜6の何れかのインク組成物。
8.該ガラスの軟化点が515〜575℃である,上記1〜7の何れかのインク組成物。
9.梨地調印刷用である,上記1〜8のインク組成物。
10.ガラス製品を準備し,該ガラス製品の表面の少なくとも一部に上記1ないし9の何れかのインク組成物を印刷し,該ガラス粉末を構成するガラスの軟化点より高い温度で該印刷されたインク組成物を焼成することによる,印刷面付きガラス製品の製造方法。
11.該印刷面の算術平均粗さが,2.5〜10μmである,上記10の製造方法。
12.該印刷面が梨地調印刷面である,上記10又は11の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
上記のインク組成物は,これを任意のガラス製品の表面に塗布,印刷等で適用して焼成するだけで,その製品に梨地調の表面を与えることができる。また,本発明は,そのような単純な工程だけで,従来のサテン調印刷より凹凸の大きな梨地調の表面を得ることを可能にする。しかも本発明のインク組成物は,従来のスクリーン印刷手法をそのまま用いて製品表面に印刷できることから,製品表面への適用が非常に容易であり,梨地調加工を施した金型等の設備を要しないため,多品種少量生産に即座に対応できる上,大量生産にも適している。更には,インク組成物自体に着色剤を添加し或いは他の着色インクとの併用も容易に行えるため,梨地調印刷面に多様な外観を容易に与えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は,従来のサテン調インクによる印刷面を示す図面代用写真である。
図2図2は,特許文献2の実施例に記載のものと類似の,粒状ガラスをインク層上に振り掛けて加熱する方法で得たクリスタル調のガラス表面を示す図面代用写真である。
図3図3は,本発明の実施例8のインク組成物による印刷面を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において「ガラス製品」とは,ガラスびん等のガラス容器,ガラス製の食器や花瓶,板ガラス等を含む。
【0015】
本明細書において,「梨地調」とは,表面が細かな凹凸で覆われている状態をいう。凹凸の大小は特に限定しないが,本発明によれば,従来のサテン調の印刷(図1)より大きな凹凸を有する,梨地調の表面をガラス製品に付与するのが非常に容易となる。
【0016】
本明細書において,樹脂について「熱分解最終温度」とは,熱重量示差熱分析装置(TG−DTA)において,樹脂を直径5mm×高さ5mmのアルミナ容器に入れ,空気中で昇温速度20℃/分で加熱していったときに樹脂が最終的に焼失に至る温度をいう。
【0017】
本発明のインク組成物は,物品の表面に印刷その他の方法で塗布して焼成するだけで,梨地調の表面を形成することができる。このためには,当該組成物は,ガラス粉末に加えて少なくとも1種の親水性樹脂と,少なくとも1種の疎水性樹脂とを含有することが必須である。理論に拘束されることは意図しないが,親水性樹脂と疎水性樹脂とは相溶し難いため,組成物中に共存するこれら異なるタイプの樹脂分子が,加熱による溶剤の揮発過程でそれぞれ移動し相分離を起こす等により印刷塗膜一面に細かな凹凸が生じ,その状態で焼成が進むと共にそのような凹凸の度合いの増強もされ,焼成完了後に凹凸を有するガラス面が残るものと考えられる。
【0018】
本発明において,ガラス粉末を構成するガラスの軟化点が,少なくとも何れかの樹脂の熱分解最終温度より低いことが必須である。ガラス製品表面に塗布された本発明のインク組成物の焼成時,ガラス粉末が十分軟化し,融着一体化してガラスの膜を形成したとき,ガラス膜中に樹脂由来の有機物又はその分解物が取り込まれ,焼成の完了後,最終的にガラス膜中に微細な気泡が残ることとなる。上述した加熱過程での樹脂の相分離等による凹凸と残存気泡との相乗効果により,最終的に凹凸の大きな梨地調の表面を得ることができる。本発明の組成物中に含まれる樹脂のうち最も熱分解最終温度が高いものの当該熱分解最終温度と,ガラス粉末を構成するガラスの軟化点の差は,20〜80℃であることが好ましい。この温度差が20℃未満であると,温度を上昇させつつ行う組成物の焼成工程において,ガラスの融着が完了する前に樹脂の焼失が過度に進行し,最終的にガラス中に気泡が僅かしか残らず,気泡による相乗効果が十分に得られずに,凹凸の小さなガラス表面となるおそれがある。逆に上記の温度差が80℃より大きいと,最終的にガラス中に樹脂の残渣が残って褐色に着色した梨地調表面となるおそれがある。樹脂全体の熱分解最終温度とガラス粉末の軟化点との差は,25〜75℃であることがより好ましい。
【0019】
本発明のインク組成物において,親水性樹脂は水やアルコール系等,極性を有する溶剤に親和性を持つものであれば特に制限はなく,例えば,水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂,グルコース単位中の水酸基数の平均値が1以上であるセルロース誘導体等から選択することができる。中でも,グルコース単位中の水酸基数の平均値が1〜1.9である,メチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースのうちの1種又は2種以上を用いることがより好ましい。セルロース誘導体を用いる場合,グルコース単位中の水酸基数の平均値が1未満では親水性が不足するおそれがあり,逆に1.9を超えると本発明において用いる極性溶剤中で凝集するおそれがある。グルコース単位中の水酸基数の平均値は1〜1.4であることがより好ましい。
【0020】
本発明のインク組成物において,疎水性樹脂としては,熱可塑性(メタ)アクリル樹脂,熱可塑性ポリエステル樹脂,ロジンエステル樹脂等を好適に用いることができるが,親水性樹脂と共存させてインク組成物を構成可能で,かつ溶剤の揮発後には親水性樹脂と適度に相分離されるものであれば特に制限はない。
【0021】
本発明のインク組成物中,上記親水性樹脂に対する疎水性樹脂の重量比は,0.3〜11であることが好ましい。親水性樹脂に対する疎水性樹脂の重量比が0.3未満の場合は,均質なインク組成物を調製できないおそれがある。逆にこの比が11を超えると,インク組成物をガラス製品表面に適用し焼成して得られる梨地調表面の凹凸が小さくなるおそれがある。この重量比は,0.3〜3であることがより好ましく,0.3〜1であることが更に好ましい。また,インク組成物中の樹脂のうち最も熱分解最終温度が高いもののの当該熱分解最終温度は,570〜600℃(昇温速度20℃/分)であることが好ましい。
【0022】
本発明のインク組成物中,ガラス粉末100重量部に対する疎水性樹脂の量は15重量部以下であることが好ましく,4〜12重量部であることがより好ましい。疎水性樹脂の量が15重量部を超えると,残炭により印刷面が着色するおそれがあり,また,4重量部未満では,凹凸が小さくなり梨地調の印刷面が得られなくなるおそれがある。
【0023】
本発明のインク組成物は,ソーダ石灰ガラス製の製品の表面への適用を目的とする場合,ガラス粉末を構成するガラスの軟化点が515〜575℃の範囲にあることが好ましく,Bi−B−RO(R:アルカリ金属)系,Bi−B−ZnO系,Bi−SiO2−RO系,Bi−SiO2−B−RO系,ZnO−SiO2−B−RO系等のものが好ましく用いられる。化学的耐久性を高めるため,更にAl,TiO,ZrO等の成分を含有させてもよい。
【0024】
ソーダ石灰ガラスに適用するインク組成物を調製する場合,ガラス粉末を構成するガラスの熱膨張係数は77〜88×10−7/℃(50〜350℃)であることが好ましい。
【0025】
本発明のインク組成物において,ガラス粉末の平均粒径は2〜4μmであることが好ましい。
【0026】
本発明のインク組成物は,ペースト状に調製してスクリーン印刷用インクとして供することが好ましい。上述の樹脂以外に,ガラス製品に梨地調の表面を付与する妨げとならない範囲内で,ガラスペーストや着色ペーストに従来使用されている成分,例えば,エチルセルロース,ニトロセルロース,ポリブチルアクリレート,ポリイソブチルメタクリレート等の樹脂を添加してもよい。
【0027】
また,ペースト状インクを調製するために,ガラスペーストや着色ペーストに従来使用されている溶剤を使用することができる。溶剤は親水性樹脂,疎水性樹脂が共存した状態でペースト状インクを調製できる混合溶剤系が好ましく,水,イソプロピルアルコール,n−ブチルアルコール,ベンジルアルコール,テルピネオール,ジメチルホルムアミド,メチルエチルケトン,エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル,エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート,ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル,ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル,ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート,プロピレングリコールアセテート等を用いることができる。
【0028】
本発明のインク組成物は,さらに必要に応じて沈殿防止剤,分散剤,レベリング剤等の添加剤を配合することができる。また,無機顔料等の着色剤を添加して,着色した梨地調表面を与えるインク組成物とすることも可能であり,ガラス粉末自体を着色し,透明感のある着色梨地調表面を与えるインク組成物とすることも可能である。
【0029】
本発明のインク組成物は,例えば以下のような手順でペースト状に調製することができる。まず,親水性樹脂,疎水性樹脂をそれぞれ溶剤に溶解させる。それぞれの溶剤は相溶することが好ましい。得られた双方の樹脂溶液の混合物にガラス粉末を添加して分散機で分散させることが好ましいが,疎水性樹脂溶液にガラス粉末と親水性樹脂を添加し,分散させてもよい。分散機としては,三本ロール,ボールミル,サンドミル,遊星式攪拌・脱泡装置等を用いることができる。
【0030】
上記で得られたガラスペーストは,適宜の方法でガラス製品の表面に適用することができる。例えば,スクリーン印刷法によりガラス製品の表面に直接印刷することができ,また,必要に応じて粘性を調整して,他の方法でガラス製品の表面塗工,パターニングすることもできる。
【0031】
本発明のインク組成物をガラス製品の表面に適用し焼成すると,インク組成物の持つ機能そのものによって梨地調の印刷面が得られる。焼成の最高温度は600〜630℃とすることが好ましい。印刷面の凹凸は,従来のサテンインクによる印刷表面やケミカルフロストびん表面よりも大きく,算術平均粗さ(Ra)は2.5〜10μmとなる。このインクを用いれば,ガラス製品に,例えば高級食器のような外観の梨地調の表面を非常に単純な工程により低コストで付与することができる。
【実施例】
【0032】
以下,実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが,本発明がこれらの実施例により限定されることは意図しない。
【0033】
〔実施例1〕
Bi−SiO2−RO系ガラス〔R:アルカリ金属,熱膨張係数:84×10−7/℃(50〜350℃),軟化点:560℃〕の粉末21.00gと,熱分解最終温度が約600℃の疎水性熱可塑性飽和共重合ポリエステル〔エリーテルUE3220(ユニチカ製);疎水性樹脂〕1.11gをジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート4.42gに溶解させて得られたビヒクル5.53g,及び熱分解最終温度が約580℃のロジンエステル〔スーパーエステルA−75(荒川化学工業製);疎水性樹脂〕1.11gをジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート1.66gに溶解させて得られたビヒクル2.77g,及び熱分解最終温度が約600℃のヒドロキシプロピルメチルセルロース粉末〔マーポローズ60MP−4000(松本油脂製薬製);親水性樹脂〕0.22gを,蓋付きポリエチレン容器に入れて遊星式攪拌・脱泡装置で撹拌し,インク組成物を作製した。このインク組成物を,厚さ2mmのガラス板に200メッシュスクリーンで印刷した。この印刷塗膜を平均昇温速度20℃/分で約630℃まで昇温し,600℃以上での保持時間が約10分間という条件でガラス板上に焼き付け,放冷した。これによりガラス板上に美しい梨地調の表面が付与された。触針式表面粗さ測定機(ミツトヨSJ410)でこの梨地調の表面の算術平均粗さRaを測定したところ,2.7μmであった。
【0034】
〔実施例2〕
Bi−SiO2−RO系ガラス〔R:アルカリ金属,熱膨張係数:84×10−7/℃(50〜350℃),軟化点:560℃〕の粉末23.49gと,熱分解最終温度が約580℃のロジンエステル〔スーパーエステルA−75(荒川化学工業製);疎水性樹脂〕1.24gをジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート1.85gに溶解させて得られたビヒクル3.09g,及び熱分解最終温度が約600℃のヒドロキシプロピルメチルセルロース粉末〔マーポローズ60MP−4000(松本油脂製薬製);親水性樹脂)1.24gとテルピネオール0.49g及びジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート1.85gを,蓋付きポリエチレン容器に入れて遊星式攪拌・脱泡装置で撹拌し,インク組成物を作製した。このインク組成物を,厚さ2mmのガラス板に200メッシュスクリーンで印刷した。この印刷塗膜を平均昇温速度20℃/分で約630℃まで昇温し,600℃以上での保持時間が約10分間という条件でガラス板上に焼き付け,放冷した。これによりガラス板上に美しい梨地調の表面が付与された。触針式表面粗さ測定機(ミツトヨSJ410)でこの梨地調の表面の算術平均粗さRaを測定したところ,3.6μmであった。
【0035】
〔実施例3〕
Bi−SiO2−RO系ガラス〔R:アルカリ金属,熱膨張係数:84×10−7/℃
(50〜350℃),軟化点:560℃〕の粉末20.92gと,熱分解最終温度が約500℃のエチルセルロース粉末〔エトセルSTD7(ダウケミカル製);エトキシ基置換率48.0〜49.5%の疎水性樹脂〕1.10gをテルピネオール7.34gに溶解させて得られたビヒクル8.44g,及び熱分解最終温度が約600℃のヒドロキシプロピルメチルセルロース粉末〔マーポローズ60MP−4000(松本油脂製薬製);親水性樹脂〕3.30gとテルピネオール5.37gを,蓋付きポリエチレン容器に入れて遊星式攪拌・脱泡装置で撹拌し,インクを作製した。このインク組成物を,厚さ2mmのガラス板に200メッシュスクリーンで印刷した。この印刷塗膜を平均昇温速度20℃/分で約630℃まで昇温し,600℃以上での保持時間が約10分間という条件でガラス板上に焼き付け,放冷した。これにより,ガラス板上に美しい梨地調の表面が付与された。触針式表面粗さ測定機(ミツトヨSJ410)でこの梨地調の表面の算術平均粗さRaを測定したところ,2.5μmであった。
【0036】
〔実施例4〜10,比較例1〜3〕
実施例1〜3と同じガラス粉末を用い,表1〜3に示した実施例4〜10及び比較例の組成の1〜3インク組成物を調製し,実施例1〜3と同様にして板ガラスに印刷し,同じ条件で焼成した。全ての実施例及び比較例の組成,分量,疎水性樹脂/親水性樹脂の重量比率,及び焼成面の表面粗さRa(μm)を,表1〜3に纏めて示す。
なお表1〜3中,記号は以下を表す。
樹脂E: マーポローズ60MP−4000(松本油脂製薬製);親水性樹脂(ヒドロキシプロピルメチルセルロース),熱分解最終温度:約600℃
樹脂F: エリーテルUE3220(ユニチカ製);疎水性樹脂(熱可塑性飽和共重合ポリエステル),熱分解最終温度:約600℃
樹脂G: スーパーエステルA−75(荒川化学工業製);疎水性樹脂(特殊ロジンエステル),熱分解最終温度:約580℃
樹脂STD7: エトセルSTD7(ダウケミカル製);エトキシ基置換率48.0〜49.5%の疎水性エチルセルロース,熱分解最終温度:約500℃
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表1〜3に示すように,実施例では,表面粗さRaが2.5〜8.0μmにわたる凹凸を有する梨地調表面が作製されたのに対し,比較例では,表面粗さRaが0.5〜2.4μmに止まっていた。なお,図3は,実施例8において作製した梨地調の印刷面の写真であり,図1は特許文献1に開示されている従来技術に従った方法で,図2は特許文献2と類似の粒状ガラスをインク層上に振り掛けて加熱する方法で得たクリスタル調のガラス表面を示す図面代用写真である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は,単純な工程で従来のサテンインクよりも凹凸の大きい梨地調印刷製品を得るためのインク組成物を提供する。このインクを用いて印刷,焼成すると高級感のある梨地調印刷付ガラス製品を得ることができ,少量多品種生産に好適である。
また,本発明の梨地調印刷用インクは,それ自体に着色剤を含ませることができ,従来の着色ペーストとの併用も可能で,梨地ガラス製品の意匠性を高めることができるという特徴を有する。
図1
図2
図3