(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099206
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】包装用板紙
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20170313BHJP
D21H 27/30 20060101ALI20170313BHJP
D21H 27/10 20060101ALI20170313BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
B65D65/40 A
D21H27/30 C
D21H27/10
B32B27/10
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-226018(P2013-226018)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-85958(P2015-85958A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083183
【弁理士】
【氏名又は名称】西 良久
(72)【発明者】
【氏名】冨森 亮一
(72)【発明者】
【氏名】三井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】光石 拓己
【審査官】
吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−062160(JP,A)
【文献】
特開2012−229046(JP,A)
【文献】
特開2005−256234(JP,A)
【文献】
特開2005−154941(JP,A)
【文献】
特開2004−231213(JP,A)
【文献】
特開2005−314700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B32B 27/10
D21H 27/10
D21H 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色層の上に漂白パルプ層を有し、該漂白パルプ層の上に樹脂層を有して積層された板紙の表層に、容器使用時に剥離されるシール材が接着された包装用板紙において、
表層が前記樹脂層または樹脂層の上に積層された原紙層からなり、
前記シール材を剥離した際に、表層のみがその厚み方向の中途位置で剥がれて板紙側に残留するように、
表層が樹脂層の場合に、白色顔料を添加した白色着色樹脂を用い、
表層が原紙層の場合に、所定の内部結合強さの原紙を用いてなり、
シール材剥離後の表層のISO白色度が、水浸漬24時間経過後で65%以上になるように設定されていることを特徴とする包装用板紙。
【請求項2】
表層が樹脂層の場合に、白色着色樹脂は、LDPE、LLDPE、HDPE、PP、PET、またはPLAを含む樹脂に、白色顔料を3重量%から30重量%の範囲(より好ましくは、10重量%から20重量%)で添加していることを特徴とする請求項1に記載の包装用板紙。
【請求項3】
白色着色樹脂層の白色顔料となる無機物の粒径が0.15μmから0.27μmの範囲内のものを使用してなることを特徴とする請求項2に記載の包装用板紙。
【請求項4】
表層が原紙層の場合に、インターナルボンドテスター法による内部結合強さが500mj以下の原紙を用いてなることを特徴とする請求項1に記載の包装用板紙。
【請求項5】
ISO白色度が、水浸漬24時間経過後で65%以上であって、シール材の剥離後の表層への水分の浸透により、表層のガラス化が発生している部分と、発生していない部分の白色度の差が10%未満になることを特徴とする請求項1に記載の包装用板紙。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの包装用板紙を用いて成形された包装用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間層に機能性を有する着色層を設けた板紙の表層上に接着したシール材を剥がすことで、表層のみをその厚みの中途位置で剥離させ、露出して残った表層に水分が付着し、または浸透しても着色層が透けて見えないように白色度を維持した包装用板紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カップ、パウチ、ラッピング用紙、贈答用紙器箱等の各種紙製容器包装の資材である紙に、美粧性もしくは、各種光線(可視光、紫外線、赤外線)のカット機能を付与し、なおかつ白色度が高いなどの外観の良好な紙を提供するため、3層以上に積層された板紙20の中間層に着色層22を設け、その表裏層に漂白パルプ層21、23を設けた紙が製造されている(
図7参照)。
着色層22としては、未漂白パルプを用いる方法や、漂白パルプにウルトラマリン青、プロシア青、鉛丹、酸化鉄、黄鉛、アルミニウム粉、カーボンブラック等の各種無機顔料を添加する方法が用いられている。
通常、紙が多量の水分、もしくは少量であっても長時間水分と接し続けた場合、表裏面及び端面から水分が浸透し、乾燥した状態に比べ透明性が向上する現象が発生する。
従来の中間層に着色層22を設けた原紙においてそのようなガラス化現象が発生した場合、表面又は裏面の漂白パルプ層21、23が半透明になることで、着色層22が透けて見え、紙の外観に影響を与え、特に、食品の容器などの包装に用いる場合に、使用者は衛生面での印象を悪くする惧れがある。
特に、これらの現象が顕著に表れる例として、カップ貼り合せ部の原紙端面から液体内容物や内容物中の水分が浸透した場合、カップのトップシールを剥離した後の、表面のラミネート樹脂層及び漂白パルプ層の一部がなくなった部分から水分が浸透して半透明化して着色層が透けて見えるケースが挙げられる。
一方、本出願人は、特開2012−229046号公報において、2枚の原紙間に遮光性印刷層を備えた積層遮光紙を用いて成形される遮光性紙カップで、積層遮光紙の紙カップの内側となる原紙の外側に、樹脂層を介して遮光印刷層を積層し、積層遮光紙の2枚の原紙の坪量の和が150〜350g/m
2であり、かつ一方の原紙の坪量が他方の原紙の坪量に対して1.3倍以上とすることで、坪量の大きい方の剛性により坪量の小さい方のそりやねじれを防止し、しかもいずれの原紙でも遮光性印刷層を隠蔽し、容易に紙カップを成形することができ、また、蓋をはがす場合、原紙の層中で剥離を生じさせ遮光印刷層の露出を防止している。
しかし、上記構成では、遮光印刷層の色彩をマスクして外から見える原紙層の色合いの変化を最小に抑えることは十分ではなかった。
また、特開平6−143877号公報では、紙の表面の黒ずみを消す方法として遮蔽層の外側に着色層として白色などを塗布する構成が開示されているが、水分が表層に浸透することで半透明化し遮蔽層の色味が透けることまでは解決できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−229046号公報
【特許文献2】特開平6−143877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の解決しようとする問題点は、着色層を中間に設け漂白パルプ層を機能性板紙の表面のパルプ層に水分が浸透した際に、パルプ層が透けても着色層をマスクし、外観が損なわれないようにした包装用板紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1の発明では、
機能性を有する着色層の上に漂白パルプ層を有し、該漂白パルプ層の上に樹脂層を有して積層された板紙の表層に、容器使用時に剥離されるシール材が接着された包装用板紙において、
表層が前記樹脂層または樹脂層の上に積層された原紙層からなり、
前記シール材を剥離した際に、表層のみがその厚み方向の中途位置で剥がれて板紙側に残留するように、
表層が樹脂層の場合に、白色顔料を添加した白色着色樹脂を用い、
表層が原紙層の場合に、所定の内部結合強さの原紙を用いてなり、
シール材剥離後の表層のISO白色度が、水浸漬24時間経過後で65%以上になるように設定されていることを特徴とする。
請求項2の発明では、
表層が樹脂層の場合に、白色着色樹脂は、LDPE、LLDPE、HDPE、PP、PET、またはPLAを含む樹脂に、白色顔料を3重量%から30重量%の範囲で添加していることを特徴とする。前記白色顔料の添加量は、10重量%から20重量%の範囲がより好ましい。
請求項3の発明では、
白色着色樹脂層の白色顔料となる無機物の粒径が0.15μmから0.27μmの範囲内のものを使用してなることを特徴とする。
前記無機物の粒径は、0.15μmから0.20μmの範囲がより好ましい。
請求項4の発明では、
表層が原紙層の場合に、インターナルボンドテスター法による内部結合強さが500mj以下の原紙を用いてなることを特徴とする。
前記内部結合強さは、150mjから300mjの範囲がより好ましい。
請求項5の発明では、
ISO白色度が、水浸漬24時間経過後で65%以上であって、シール材の剥離後の表層への水分の浸透により、表層のガラス化が発生している部分と、発生していない部分の白色度の差が10%未満になることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明は、板紙の中間層に機能性を有する着色層を設けているため、使用に際して接着されたシール材を剥離する際に、該シール材と接着された表層を確実にその厚みの中途位置で剥がして残りを板紙側に残留させることで、付着した水や浸透する水に対して表層が樹脂層の場合には、白色着色樹脂層として白色の劣化を防ぎ、表層が原紙層の場合には、原紙がガラス化しても樹脂層により水分浸透を押さえることで白色度の低下を最小限に抑えることができる。
これにより、シール材剥離後に水分が表層に付着しても着色層の色彩が透けて見えることがなく、使用者に対して外観の美粧性を保つことができ、外観上の悪印象を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】実施例1のシール材剥離時の表層の破壊線を説明する部分断面図である。
【
図4】実施例2のシール材剥離時の表層の破壊線を説明する部分断面図である。
【
図5】白色顔料含有量と白色度の関係を示すグラフである。
【
図6】(a)は白色度測定結果の比較を示す表、(b)は同グラフである。
【
図7】従来例(比較例)の部分断面図であり、シール材剥離時の表層の破壊線を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
この発明では、表層が樹脂層または樹脂層の上に積層された原紙層からなり、前記表層に接着したシール材を剥離した際に、表層がその厚み方向の中途位置で剥がれ板紙側に残留するようにして、シール材剥離後の表層の白色度の低下を実現した。
【0009】
この発明の好適な包装用板紙10を、
図1をもとに説明すると、中間層に機能性を有する無機顔料などを含んだ着色層2を有しており、該着色層2の両面を挟むように一対のパルプ層1、3を積層し、各パルプ層1、3の上に表層となる白色着色樹脂層4、5をそれぞれ積層した5層構造からなっている。
【0010】
ここで着色層2は、従来の着色層と同様に、遮光性を有する黒色や紫外線吸収を有する赤色などであればよい。
また、着色層2はパルプに顔料を混ぜたものでも良い。
パルプ層1、3は、漂白パルプでも、未晒しのパルプであってもよい。
そして、表層となる白色着色樹脂層4、5は、LDPE、LLDPE、HDPE、PP、PET、またはPLAのいずれか1つまたは複数を含む樹脂からなっており、該樹脂に白色顔料を3重量%から30重量%の範囲で添加している。
【0011】
上記白色顔料の含有量については、
図5に示すように、ガラス化の発生を再現したISO白色度58.2%原紙の上に、白色顔料(一例として酸化チタンを用いた)の含有量を0重量%から30重量%とした各段階のフィルムを重ねた状態にて、ISO白色度測定を実施した。
上記白色度の測定より、外観低下の基準値として設けたISO白色度65%を超えるためには、3重量%以上の白色顔料を透明樹脂(一例としてLDPEを用いた)に添加する必要があることが確認された。
【0012】
白色顔料が3重量%未満であると十分な隠蔽性を得ることができない。
30重量%を超えると、白色度の効果が殆ど変わらず経済的ではなく、また樹脂の強さが低下するおそれがある。
この発明では、白色顔料が10重量%から20重量%の範囲で添加することが隠蔽性および強さの点で好ましい。
【0013】
白色着色樹脂層4の白色顔料となる無機物の粒径は、0.15μmから0.27μmの範囲内のものが使用される。
0.15μm未満では白色着色樹脂層4が中途位置で剥がれずに漂白パルプ層1との接着個所で剥がれるおそれがあり、0.27μmを超えるとラベルとの接着面ではがれるおそれがある。
前記粒度は0.15μmから0.20μmの範囲内のものを使用することで、より確実にラベルの剥離時に白色着色樹脂層4をその厚みの中途位置でラベルと共に剥がすことができ、好ましい。
【0014】
そして、前記白色着色樹脂層4、5のいずれか一方または双方の外側に、使用時に剥離される密封用のシール材9が接着され、容器が形成される。
なお、一方の白色着色樹脂層4のみにシール材9をヒートシールする場合は、他方の白色着色樹脂層5は形成しなくてもよい。
【0015】
説明上は、白色着色樹脂層4の外側にヒートシールされたシール材9を剥がすものとする。
上記構成にすることで、シール材9の剥離後に、層内で破壊が発生した白色着色樹脂層4のISO白色度は、水浸漬24時間経過後で65%以上、より好ましくは70%以上となり外観低下を防止することができる。
【0016】
この発明の他の好適な包装用板紙10として、
図2をもとに説明すると、中間層に着色層2を有しており、該着色層2の両面を挟むように一対のパルプ層1、3を積層し、各パルプ層1、3の上にそれぞれ樹脂層4’、5’を積層し、該樹脂層4’、5’の外側に原紙層6、7をそれぞれ積層した7層構造からなっている。
【0017】
ここで、樹脂層4’、5’は着色されていない樹脂を用いることができる。
また、前記樹脂層4’、5’及び前記原紙層6,7は、表裏のいずれか一方に積層されていてもよい。
そして、原紙層6、7の一方、または双方に前記使用時に剥離される密封用のシール材9が接着され、容器が形成される。
説明上は、原紙層6の外側にヒートシールされたシール材9を剥がすものとする。
【0018】
ここで、前記シール材9が接着された原紙層6は、インターナルボンドテスター法による内部結合強さが500mj以下の原紙を用いる。
500mjを超えると、原紙層6の原紙が厚み方向の中途位置で剥がれず、内側の樹脂層4’との接着面で剥がれるおそれがあるからであり、内部結合強さは、150mjから300mjの範囲が好ましい。
【0019】
上記構成にすることで、シール材9の剥離後に、ほぼ厚みの半分が剥がされた原紙層6のISO白色度が、水浸漬24時間経過後で65%以上、より好ましくは70%以上となり外観低下を防止することができる。
なお、前記白色度が65%以上であっても、表層への水分の浸透により表層のガラス化が発生している部分と、発生していない部分の白色度の差が10%未満であれば、外観に影響を与えることは無い。
【実施例1】
【0020】
実施例1の板紙10は、
図1に示すように、第1層の白色着色樹脂層4の厚みが20μm、第2層の漂白パルプ層1の坪量が80g/m
2、第3層の着色層2の坪量が60g/m
2、第4層の漂白パルプ層3の坪量が80g/m
2、第5層の白色着色樹脂層5の厚みが20μmからなっている。
白色着色樹脂層4、5は、透明なLDPEに白色顔料として酸化チタンを含有させたものを用いた。
【実施例2】
【0021】
実施例2の板紙10は、第1層の原紙層6の坪量が50g/m
2、第2層の樹脂層4’の厚みが15μm、第3層の漂白パルプ層1の坪量が80g/m
2、第4層の着色層2の坪量が60g/m
2、第5層の漂白パルプ層3の坪量が80g/m
2、第6層の樹脂層5’の厚みが15μm、第7層の原紙層7の坪量が50g/m
2からなっている。
【0022】
[比較例]
比較例として従来例で示した板紙20は、第1層の漂白パルプ層21の坪量が80g/m
2、第2層の着色層22の坪量が60g/m
2、第3層の漂白パルプ層23の坪量が80g/m
2からなっている(
図7参照)。
【0023】
上記実施例1、2と比較例の白色度を以下の方法により測定した。
上記板紙10、20のシール面を図の上側とし、表層に、即ち、コップ成型時内面側にヨーグルト用シール材(樹脂)9をヒートシールする。
ヒートシール面が常温になったことを確認した後、シール材9を剥離した。
これにより、カップのトップシールを剥離した後の、表面の接着したシール材9と表層の厚みの中途位置が点線Lの位置で剥がさる状態を
図3、4、7で模式的に示す。
上記準備された板紙を、水中に放置し、経過時間毎の白色度を測定し、その結果を
図6に表とグラフで表示した。
【0024】
上記実施例1,2および比較例において、シール材剥離時には、表層が、
図3、4、7の図中点線で概略的に示す、厚みの中途位置で破壊が発生した。
比較例では、水分浸透により、漂白パルプ層21のガラス化が進行していき、経過時間と共に表層の漂白パルプ層21の白色度が大きく低下していく。
【0025】
実施例1では、シール材剥離後も、白色着色樹脂層4の一部が板材と共に残るため、漂白パルプ層1への水分の浸透は無く、白色度の低下はほとんど発生しない。 1%程度の白色度差であれば誤差範囲であり、外観上の違いも見られなかった。
上記結果は、樹脂や白色顔料を変更しても同様の結果が得られた。
【0026】
実施例2では、シール材剥離後に、板材に残った原紙層6においてガラス化が発生する。
その影響により、多少の白色度の低下は発生するものの、原紙層6の内面に樹脂層4’があるため、それ以上内側への水分浸透が発生しないことから、白色度低下の数値は限定的なものとなった。
ここで、白色度の数値が70%を切ると、外観の低下が分かる状態となるので、比較例では水分浸透による大きな外観低下を避けることは困難であった。
一方、実施例1,2の場合には、24時間の水浸漬後においても、70%以上の白色度を保っており、外観低下を有効に防止できることが確認できた。
【0027】
上記各実施例の包装用板紙1は、各層を積層するものでもよいし、抄紙の段階で各層が形成されるように製紙用化合物を混抄して形成するものであってもよい。
その他この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、要するにこの発明の要旨を変更しない範囲で種々設計変更しうること勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1、3 パルプ層
2 着色層
4,5 白色着色樹脂層
4’、5’ 樹脂層
6、7 原紙層
9 シール材
10 包装用板紙
11、13 パルプ層
12 着色層
20 包装用板紙(従来)
L 表層の剥がれ個所を模式的に示す点線