特許第6099243号(P6099243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099243フェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099243
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】フェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/10 20060101AFI20170313BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   G21F9/10 G
   G21F9/10 B
   G21F9/12 501B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-191537(P2012-191537)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-48164(P2014-48164A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒 義和
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】高畠 容子
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−182596(JP,A)
【文献】 特開昭62−266499(JP,A)
【文献】 特開昭58−223798(JP,A)
【文献】 特開2013−242291(JP,A)
【文献】 特開2014−020916(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/122168(WO,A1)
【文献】 特開平05−027094(JP,A)
【文献】 特公昭38−004552(JP,B1)
【文献】 特開2013−075252(JP,A)
【文献】 特許第5652559(JP,B2)
【文献】 竹下健二,尾形剛志,福島原発事故で発生した汚染水処理へのイオン交換技術の適用,日本イオン交換学会誌,2012年 2月 2日,Vol.23 No.1,p.1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/10
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムならびに遷移金属イオンを含む放射性廃液にフェロシアン化物イオンを添加して、前記遷移金属イオンを取り込んでフェロシアン化遷移金属を生成し、その生成したフェロシアン化遷移金属により前記放射性セシウムを吸着して、その放射性セシウムを吸着したフェロシアン化遷移金属の粒子を廃液から分離するフェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法であって、前記放射性廃液に対するフェロシアン化物イオンの添加量が不足である場合は、前記放射性廃液に対するフェロシアン化物イオンの添加量を増加し、前記放射性廃液に対してフェロシアン化物イオンを過剰に添加した場合は、前記放射性廃液中に遷移金属の溶液を添加するものにおいて、
前記フェロシアン化物イオン源がフェロシアン化カリウムであり、
前記放射性廃液に含まれる遷移金属の種類に応じて、前記放射性廃液中の前記遷移金属の除去率が90%以上となるように、前記放射性廃液に含まれている前記遷移金属の総量に対する前記フェロシアン化カリウムの重量比を調整し、
前記放射性廃液に含まれる遷移金属がZnである場合、Niである場合、Coである場合、Mnである場合の順で、前記放射性廃液に含まれている前記遷移金属の総量に対する前記フェロシアン化カリウムの重量比を大きくすることを特徴とするフェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法において、
前記放射性セシウムを吸着したフェロシアン化遷移金属を有する廃液にアニオン系ポリマー溶液を添加してフロックを生成させ、そのフロックを沈降させた後、上澄み液をフィルターでろ過することを特徴とするフェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載のフェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法において、
前記放射性廃液が、海水成分を含んだ放射性廃液であることを特徴とするフェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液の除染方法に係り、特にフェロシアン化物イオンによるセシウム及び遷移金属の除染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電設備の事故などで出た放射性汚水は、燃料成分や海水成分や設備の腐食成分などを含んでおり、この汚水は水処理され、処理された水は燃料冷却に再利用されが、Cs,Mn,Co,Ru,Sbやベータ核種など各種成分が濃縮された濃縮廃液は残る。そのためこの濃縮廃液の除染処理が必要となる。
【0003】
Ni,Co,Feなどのフェロシアン化遷移金属は、例えばCs−134,Cs−137等の放射性セシウムを選択的に吸着するので除染に好適であることが知られている。図5は、このフェロシアン化遷移金属を使用した従来の放射性廃液の除染方法を説明するためのフローチャートである。
【0004】
図5に示すように、まず、ステップ(以下、Sと略記する)11で例えばフェロシアン化ニッケル等のフェロシアン化遷移金属からなるセシウム除染剤を調製(合成)する。予め準備した放射性廃液に前記セシウム除染剤を所定量添加して、廃液中の放射性セシウムの除染を行う(S12)。
【0005】
次にS13で遷移金属を除染するために例えば水酸化鉄やキレート樹脂等の別の除染剤を準備し、この別の除染剤を前記廃液に添加することにより廃液中の遷移金属の除染を行い(S14)、除染済み廃液とする(S15)という手順で除染作業が行われる。
このような除染方法については、例えば下記の非特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】International Atomic Energy Agency : “Chemical Precipitation Processes for the Treatment of Aqueous Radioactive Waste,”Technical Reports Series 337 (1992).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来の除染方法では、放射性セシウムを除染するためにフェロシアン化遷移金属を予め調製(合成)する必要がある。
【0008】
さらに、フェロシアン化遷移金属を廃液に添加してセシウムの除染を行っただけでは、廃液中に放射性の遷移金属が残存するため、その遷移金属の除染のためにキレート樹脂などの別の除染剤を用いて遷移金属の除染を行う必要がある。
このようなことから従来の除染方法では、材料コストが高くつき、しかも除染作業が煩雑で能率が悪いなどの欠点がある。
【0009】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、材料コストが安価で、しかも除染作業が簡単で能率の良いセシウム及び遷移金属の除染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、放射性セシウムならびに遷移金属イオンを含む放射性廃液にフェロシアン化物イオンを添加して、前記遷移金属イオンを取り込んでフェロシアン化遷移金属を生成し、その生成したフェロシアン化遷移金属により前記放射性セシウムを吸着して、その放射性セシウムを吸着したフェロシアン化遷移金属の粒子を廃液から分離するフェロシアン化物イオンによる放射性セシウム及び放射性遷移金属の除染方法であって、前記放射性廃液に対するフェロシアン化物イオンの添加量が不足である場合は、前記放射性廃液に対するフェロシアン化物イオンの添加量を増加し、前記放射性廃液に対してフェロシアン化物イオンを過剰に添加した場合は、前記放射性廃液中に遷移金属の溶液を添加するものにおいて、前記フェロシアン化物イオン源がフェロシアン化カリウムであり、前記放射性廃液に含まれる遷移金属の種類に応じて、前記放射性廃液中の前記遷移金属の除去率が90%以上となるように、前記放射性廃液に含まれている前記遷移金属の総量に対する前記フェロシアン化カリウムの重量比を調整し、前記放射性廃液に含まれる遷移金属がZnである場合、Niである場合、Coである場合、Mnである場合の順で、前記放射性廃液に含まれている前記遷移金属の総量に対する前記フェロシアン化カリウムの重量比を大きくすることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第の手段は前記第1の手段において、前記放射性セシウムを吸着したフェロシアン化遷移金属を有する廃液にアニオン系ポリマー溶液を添加してフロックを生成させ、そのフロックを沈降させた後、上澄み液をフィルターでろ過することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第の手段は前記第1又は第2のいずれかの手段において、前記放射性廃液が、海水成分を含んだ放射性廃液であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は前述のような構成になっており、セシウムを吸着するためのフェロシアン化遷移金属を生成する遷移金属イオンは廃液中のものがそのまま使用でき、しかもセシウムを含む多種の元素を同時に除染できるから、材料コストの低減が図れ、しかも除染作業が簡単で能率の良い除染方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例に係る放射性廃液の除染方法を説明するためのフローチャートである。
図2】模擬廃液中における放射性核種の除染前の初期濃度、ポリマーによる微粒子回収後の濃度、フィルターによる微粒子回収後の濃度、除染係数(DF)をそれぞれ示した図表である。
図3】模擬廃液中における非放射性核種の除染前の初期濃度、フィルターによる微粒子回収後の濃度、除染係数(DF)をそれぞれ示した図表である。
図4】遷移金属除去の適用範囲について検討するために、遷移金属とフェロシアン化カリウムの重量比をパラメータとして試験を行った際の各試料の分析結果と各元素の除去率を示した図表である。
図5】従来のフェロシアン化遷移金属を使用した放射性廃液の除染方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、例えばフェロシアン化カリウム[K4[Fe(CN)6]]を海水と放射性核種を含む放射性廃液に添加して、廃液中でフェロシアン化遷移金属を生成することで、Cs−134,Cs−137等の放射性セシウムとフェロシアン化遷移金属を共に除染しようとするものである。
【0018】
廃液に含まれる海水由来の遷移金属は、溶解度によりZn>Ni>Co>Mnの順でフェロシアン化金属を生成する。生成したフェロシアン化金属はCsをよく吸着し、Csを吸着した粒子を除去することで、Csと遷移金属を共に除去することができる。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る放射性廃液の除染方法を説明するためのフローチャートである。
【0020】
まず、S1で放射性廃液に対してフェロシアン化カリウム水溶液を添加することにより、廃液中で不溶性のフェロシアン化遷移金属が生成し、そのフェロシアン化遷移金属によってCsが吸着され、Csを吸着したフェロシアン化遷移金属を回収することにより、Csとフェロシアン化遷移金属の同時除染が行われ(S2)、それにより除染済みの廃液が得られる(S3)。
【0021】
Csを吸着したフェロシアン化遷移金属の廃液からの回収としては、廃液にアニオン系ポリマー溶液を添加する方法、フィルターでろ過する方法、ポリマー溶液とフィルターを併用する方法などがある。廃液中にポリマー溶液を添加することでフロックを生成させ、フェロシアン化遷移金属を沈降させたのち、上澄み液をフィルターでろ過することで、ポリマーのみでは回収できないより微細なフェロシアン化遷移金属を廃液から回収することができる。
【0022】
放射性廃液に対してフェロシアン化カリウムを過剰に添加した場合は、鉄等の遷移金属元素の溶液を添加すれば余剰のフェロシアン化イオンを除去することができる。一方、放射性廃液に対してフェロシアン化カリウムの添加量が少量であったり、あるいは除染元素の除去率が低ければ、フェロシアン化カリウムの添加量を増加すればよい。
【0023】
フェロシアン化カリウムの添加量は、放射性廃液に含まれている遷移金属の総量に対して重量比で[遷移金属]:[フェロシアン化カリウム]=1:6を超えないようにする。この重量比1:6は、図4より求めた値である。
【0024】
次に具体的な実例について説明する。
約50重量%の海水を含む模擬廃液に対してフェロシアン化カリウム溶液を、重量比で[遷移金属]:[フェロシアン化カリウム]=1:3となるように添加し、10分間攪拌・混合した。
【0025】
混合後の模擬廃液を2つに分けて、一方にはアニオン系ポリマー溶液による固液分離を行い、他方にはメンブレンフィルターでろ過する固液分離を行った。
【0026】
前記アニオン系ポリマー溶液としてDia-Nitrix Co.,Ltd製のAP410を用い、5mg/Lの割合で添加した。また、前記メンブレンフィルターとして、目開きが0.1μmのメンブレンフィルターを用い、吸引ろ過方式を採用した。
【0027】
図2ならびに図3は、模擬廃液中における放射性核種(図2)ならびに非放射性核種(図3)の除染前の初期濃度、ポリマーによる微粒子回収後の濃度、フィルターによる微粒子回収後の濃度、またこれらの濃度から算出した除染係数(DF)を、それぞれ示した図表である。
【0028】
除染係数(DF)は、DF=(除染前初期濃度)÷(回収後濃度)の式で算出した。放射性核種濃度はγ線分析により、非放射性核種濃度はICP−AES分析により、それぞれ求めた。
【0029】
また、この実例では、模擬廃液の濃度が定量下限値未満であったため、図3に示すようにZn,Fe,CoのDFは算出できなかった。
【0030】
図2の結果から明らかなように、前述の除染処理で放射性Cs−134,Cs−137,Co−60の濃度が明らかに低下しており、液中での不溶性フェロシアン化遷移金属の合成によるCsとCoの同時除染が可能であることが実証された。
【0031】
この実例の場合、MnおよびSbよりもCoの方がより優先的に除染されているが、これは不溶性フェロシアン化物の溶解度の差に起因するものである。添加するフェロシアン化カリウムの濃度は本実例より約3倍高くすることが可能であるため、より高濃度のフェロシアン化イオンを添加すれば、遷移金属の除染係数(除去率)をさらに向上させることができる。
【0032】
この実例ではアニオン系ポリマー溶液による固液分離と、メンブレンフィルターでろ過する固液分離を個別に行ったが、ポリマー溶液とメンブレンフィルターを併用した方が効率よくより高い除染係数(除去率)が得られる可能性がある。
【0033】
次に遷移金属除去の適用範囲について検討した結果を説明する。
本発明者らが今まで行った各種試験結果を参考にして、遷移金属とフェロシアン化カリウム(KFC)の重量比をパラメータとした試験を以下の手順で行った。
【0034】
(1)塩化マンガン、塩化コバルト、硝酸ニッケル、塩化亜鉛を計量し、それらを50%海水に溶解して、フィード液とした。
(2)フェロシアン化カリウムを純水に溶解し、8000mg/Lのフェロシアン化カリウム溶液とした。
(3)前記フィード液30mLを分取し、これに前記フェロシアン化カリウム溶液を所定量添加し、40分間混合・攪拌した。
【0035】
(4)混合後の試験液を0.1μmのメンブレンフィルターで吸引ろ過した。
(5)ろ過後の試験液を少量分取し、これに1000mg/Lの硝酸銅水溶液を添加し、フェロシアン化銅が生成しないことを確かめた。
(6)フェロシアン化銅が生成しない試験液は、そのまま分析試料とした。
【0036】
(7)フェロシアン化銅が生成した試験液については、1000mg/Lの硝酸銅水溶液を添加し、20分間混合・攪拌した。
(8)混合後の試験液を0.1μmのメンブレンフィルターで吸引ろ過した。
(9)ろ過後の試験液を少量分取し、これに1000mg/Lの硝酸銅水溶液を所定量添加し、フェロシアン化銅が生成しないことを確かめた後、その試験液を分析試料とした。
【0037】
分析試料の各元素濃度は、ICP−AESにより分析した。海水中のNaが分析の妨害となるため、適切なNa濃度となるように分析試料を希釈した後に分析を行ったため、同じ元素でも定量下限値が試料により異なる。
【0038】
図4はその分析結果と各元素の除去率をまとめて示した図表であり、[遷移金属]:[KFC](重量比)を1:10〜3:2の範囲で変えて試料1〜12を作成し、各試料での分析結果と各元素の除去率を示している。
【0039】
この図表から明らかなように、Zn>Ni>Co>Mnの順で除去され、Znは少量のフェロシアン化カリウムでも除去可能であるが、Mnは[遷移金属]:[KFC]が1:6(試料5)までフェロシアン化カリウムを添加しなければ90%以上の除去は行えないことが分かる。
【0040】
従って、高い除去率を得るためには、[遷移金属]:[KFC]を1:10〜1:6の範囲、好ましくは1:10〜1:7の範囲に規制すれは良いことが判明した。
【0041】
前記フェロシアン化物イオン源としてフェロシアン化物カリウム溶液を用いたが、フェロシアン化物ナトリウム溶液を用いることも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5