特許第6099249号(P6099249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099249
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】呼気ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/083 20060101AFI20170313BHJP
   A61B 5/087 20060101ALI20170313BHJP
   A61B 5/097 20060101ALI20170313BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20170313BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   A61B5/08 100
   A61B5/08 200
   A61B5/08 400
   G01N1/02 W
   G01N33/497 A
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-275085(P2012-275085)
(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公開番号】特開2013-144104(P2013-144104A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2015年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-275193(P2011-275193)
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114190
【氏名又は名称】ミナト医科学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田功
(72)【発明者】
【氏名】關 修三
【審査官】 ▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−509586(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/149638(WO,A1)
【文献】 特開昭62−188969(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01547523(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0067480(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08 − 5/097
G01N 1/00 − 1/26
G01N 33/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸気の流量を測定する呼吸流量センサと、
サンプルガスに含まれる測定対象ガスのガス濃度を分析するガス分析と、
呼吸気の一部をサンプルガスとして前記ガス分析計に導入するサンプリング回路と、
前記サンプリング回路の内部の前記サンプルガスを輸送するガス輸送と、
速度制御が可能なモータを用い単位時間に一定容積を排気するポンプと、
前記ポンプの前記モータを位相同期ループ制御するPLL制御手段と、
前記サンプリング回路の中を輸送される前記サンプルガスの輸送速度所定の一定速度v0になるように前記ガス輸送部を制御する定輸送速度制御手段と、
測定環境の温度と湿度と気圧を含む環境状態を測定する環境状態測定部と、
前記環境状態測定部で測定した環境状態に応じて前記ガス輸送部を制御して前記サンプルガスの輸送速度を所定の一定速度v0になるように補正する環境状態補正手段と
を設けたことを特徴とする呼気ガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は呼気ガス分析装置の改良に関するもので、特に呼吸気ガス分析の精度を向上させることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
呼気ガス分析装置は、呼吸気中の測定対象ガスのガス濃度やガス量等を分析し、生体機能の評価や各種疾患の診断、治療効果の評価等に用いるものである。
呼気ガス分析装置には、呼吸代謝に関する指標を求める呼吸代謝測定装置や、肺の洗い出し検査等をおこなう肺機能検査装置、ピロリ菌の存在を検査するピロリ菌検査装置等、各種のものがある。本発明はこれらすべての呼気ガス分析装置に関するものである。
ここでは呼吸代謝測定用の呼気ガス分析装置を例にして説明するが、これ以外の呼気ガス分析装置についても同様である。
【0003】
従来の呼吸代謝測定用の呼気ガス分析装置の例を図2に示す。図2(A)は装置のブロック図であり、図2(B)は測定時に被検者がセンサ部を装着したときの様子である。
【0004】
装置は、図2(A)に示すように、センサ部21と、呼吸流量センサ22、制御部23、サンプリング回路24、ガス分析計25、ガス輸送部26を有する。
【0005】
センサ部21は呼吸マスク28で集めた全ての呼吸気を通過させる部分であり、その内部に呼吸流量センサ22を設けるとともに、サンプリング回路24を接続して呼吸気ガスの一部をサンプルガスとして採取するようにしている。
【0006】
呼吸流量セン22はセンサ部21を通過する呼吸気流量を測定し電気信号に変換して制御部23に転送する。
【0007】
サンプリング回路24は、その一端をセンサ部21に接続し、他端をガス分析計25に接続しており、センサ部21を通過する呼吸気の一部をサンプルガスとしてガス分析計25に導入する。サンプリング回路24には、通常、サンプリングチューブ又はキャピラリと称する細管が用いられる。
【0008】
ガス分析計25はサンプリング回路24を経由して輸送されるてくるサンプルガスに含まれる測定対象ガスのガス濃度を測定し、その結果を制御部23に転送する。
呼吸代謝測定用の呼気ガス分析では測定ガスは酸素ガスと炭酸ガスであり、このためガス分析計25として酸素ガス分析計と炭酸ガス分析計を備える(酸素ガス又は炭酸ガスの一方のみを測定するものもある)。目的によっては酸素ガスと炭酸ガス以外のガスを追加して測定することもある。
【0009】
ガス輸送部26はサンプリング回路24に接続し、サンプリング回路24の内部のサンプルガスを強制的にガス分析計25に輸送する。
【0010】
呼気ガス分析検査では、まず、図2(B)に示すように、呼吸気が漏れないように被検者に呼吸マスク28を着用させ、これにセンサ部21を接続して、肺に出入りする全ての呼吸気を測定できるようにする。
【0011】
検査を開始すると、呼吸流量セン22で呼吸気流量が測定され、これは電気信号に変換されて制御部23に転送される。
【0012】
同時に、サンプリング回路24に接続したガス輸送部26を駆動し、センサ部21の呼吸気流量の一部をサンプルガスとして、サンプリング回路24を経由してガス分析計25に導入され、測定ガスのガス濃度が測定され、このデータは電気信号に変換されて制御部23に転送される。
【0013】
以上に述べたように、呼吸流量は即時的に測定されるが、呼吸気のサンプルガスはセンサ部21で採取し、サンプリング回路24を通ってガス分析計25に輸送されるため、センサ部21からガス分析計25までの輸送距離Lを、時間tdをかけて輸送されることになる。つまり、ガス分析データは、図2(C)に示すように、呼吸流量データが得られる時刻tから時間tdだけ遅れて得られる。
【0014】
制御部23は、呼吸流量センサ22から流量のデータを受け取り、流量に関する各種データや気量(体積)に関する各種データを算出する。
気量(体積)は、流量をある期間に積分して求めることができる。例えば、1回の吸気時にわたって流量を積分すると、1回吸気量(1回の吸気で肺に吸い込む空気の量)を得ることができる。同様に、1回呼気量や、分時(1分間当たりの)吸気量、分時呼気量などを求めることができる。
【0015】
また、制御部23は、ガス分析計25のデータを受け取り、ガス濃度に関する各種データ、例えば、所定期間の平均酸素ガス濃度や平均炭酸ガス濃度(吸気平均酸素ガス濃度や吸気平均炭酸ガス濃度、呼気平均酸素ガス濃度、呼気平均炭酸ガス濃度など)などを算出する。
【0016】
さらに、制御部23は、呼吸流量センサ22で測定した流量データとガス分析計25で測定したガス濃度データを組み合わせて、呼吸気に含まれる測定対象ガスの量(体積)、例えば、1回吸気中の酸素ガス量と炭酸ガス量、1回呼気中の酸素ガス量と炭酸ガス量、1分間あたりの呼気と吸気中の酸素ガス量と炭酸ガス量などを求めることができる。
呼気と吸気の酸素ガス量を比較すると、呼吸代謝データを得ることができる。例えば、1回の呼吸時の呼気と吸気の酸素ガス量を比較すると1回の呼吸で体内に摂取される酸素の量(1回呼吸時酸素ガス摂取量)を求めることができる。同様に、呼気と吸気の炭酸ガス量を比較すると、1回の呼吸で体外に排泄される炭酸ガスの量(1回呼吸時炭酸ガス排泄量)や、分時酸素ガス摂取量、分時炭酸ガス排泄量などを求めることができる。
【0017】
ただし、前述のように、サンプルガスの輸送に時間tdを要するため、呼吸流量センサ22のデータとガス分析計25のデータを組み合わせて呼吸気に含まれる測定対象ガスの量に関するパラメータを測定する場合は、時間遅れtdを正確に考慮する必要がある。
つまり、図2(C)に示す時刻tの呼吸流量データと、時刻t+tdのガス濃度データを組み合わせて、測定ガスの量を評価する必要がある。
【0018】
遅れ時間tdは、測定前に校正して求めている。校正は、テストガスを流してその時の遅れ時間を実測しておこなう。
【0019】
しかし、校正後に何らかの理由で輸送時間tdが変動すると、ガスの量の評価が不正確になる。
この問題を解決するため、制御部23を制御して、サンプリング回路24の内部を通過するサンプルガスの流れが一定流量になるようにする定流量サンプリング技術が開示されている(例えば特許文献1など)。図3は特許文献1の実施例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特表2008-337525
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
前述のように、輸送時間tdが変化すると、ガスの量の評価が不正確になる。
特許文献1等の定流量サンプリング方式では、定流量であるため、サンプルガスの状態と測定環境(気圧や温度、湿度等)が変化しないなら、輸送時間tdが一定に維持される。
しかし、呼吸気ガス(サンプルガス)の状態は変化するため、サンプルガスの体積が変化し、ガスの密度が変化する。ガス密度が変化すると、定流量サンプリング方式では、図2(D)のように、輸送速度が変化して輸送時間tdが変化し、正確な呼気ガス分析ができなくなる。
本発明は、このような課題を解決し、より正確な呼気ガス分析をおこなうことのできる呼気ガス分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そこで、発明では、
呼吸気の流量を測定する呼吸流量センサと、
サンプルガスに含まれる測定対象ガスのガス濃度を分析するガス分析と、
呼吸気の一部をサンプルガスとして前記ガス分析計に導入するサンプリング回路と、
前記サンプリング回路の内部の前記サンプルガスを輸送するガス輸送と、
速度制御が可能なモータを用い単位時間に一定容積を排気するポンプと、
前記ポンプの前記モータを位相同期ループ制御するPLL制御手段と、
前記サンプリング回路の中を輸送される前記サンプルガスの輸送速度所定の一定速度v0になるように前記ガス輸送部を制御する定輸送速度制御手段と、
測定環境の温度と湿度と気圧を含む環境状態を測定する環境状態測定部と、
前記環境状態測定部で測定した環境状態に応じて前記ガス輸送部を制御して前記サンプルガスの輸送速度を所定の一定速度v0になるように補正する環境状態補正手段と
を設けた呼気ガス分析装置とした。
【発明の効果】
【0023】
発明により、サンプルガスの状態が変化しても、サンプルガスの輸送速度が所定の一定値v0になるように、定輸送速度制御手段でガス輸送部を制御する。
【0024】
また、本発明により、サンプルガスの状態が変化しても、環境状態測定手段により環境状態を測定し、環境状態に応じて前記ガス輸送手段の制御を補正して、サンプルガスの輸送速度が所定の一定値v0になるように、定輸送速度制御手段でガス輸送部を制御する。
【0025】
また、本発明により、測定環境の状態が変化して、ガス分析計内部を含むサンプリング回路全体の容積が変化して、サンプルガスの状態(密度)が変化しても、常に、サンプルガスの輸送速度が所定の一定値v0になるように、定輸送速度制御手段でガス輸送部を制御する。
【0026】
また、本発明により、サンプルガスと測定環境の状態の一方又は両方が変化しても、常に、サンプルガスの輸送速度が所定の一定値v0になるように、定輸送速度制御手段でガス輸送部を制御する。
【0027】
これら本発明により、呼気ガス分析装置において、輸送時間tdの変動は無く、呼吸気の流量とガス濃度のデータを正確に同期させて評価することができる。
また、測定環境の状態が変化しても、輸送時間tdは変動が無く正確であり、呼吸気の流量とガス濃度のデータを正確に同期させて評価することができる。
また、輸送時間tdが正確であるため、時刻tに流量と、時刻tから時間tdだけ遅れて測定されるガス濃度を用いて求めるガス量も正確になり、流量を積分して得られる吸気量や、吸気気中の酸素ガス量や酸素ガス量、これらから計算される酸素摂取量や炭酸ガス排泄量などの呼吸代謝データを、正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の装置の構成例であり、(A)は装置のブロック図、(B)はガス輸送部、(C)はPLL制御の構成図、(D)定輸送速度制御手段を設けたときのサンプルガスのガス密度と輸送速度の関係である。
図2】従来のガス分析装置の構成例で、(A)は装置のブロック図、(B)は被検者にセンサ部を接続したマスクを装着させたときの外観、(C)は呼吸流量データとガス分析データの位相のずれを表す図、(D)は定流量制御のサンプルガスのガス密度と輸送速度の関係を示す図である。
図3】特許文献1に記載されている構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、実施例により、本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0030】
本発明の実施例を図1に示す。
装置は、図1(A)に示すように、センサ部1と、呼吸流量計センサ2、制御部3、サンプリング回路4、ガス分析計5、ガス輸送部6を有する。
【0031】
センサ部1は呼吸マスク28で集めた全ての呼吸気を通過させる部分であり、その内部に呼吸流量センサ2を設けるとともに、サンプリング回路4を接続して呼吸気ガスの一部をサンプルガスとして採取するようにしている。
【0032】
呼吸流量セン2はセンサ部1を通過する呼吸気流量を測定し電気信号に変換して制御部3に転送する。
【0033】
サンプリング回路4は、その一端をセンサ部1に接続し、他端をガス分析計5に接続しており、センサ部1を通過する呼吸気の一部をサンプルガスとしてガス分析計5に導入する。サンプリング回路4には、通常、サンプリングチューブ又はキャピラリと称する細管を用いる。
【0034】
ガス分析計5はサンプリング回路4を経由して輸送されるてくるサンプルガスに含まれる測定対象ガスのガス濃度を測定し、その結果を制御部3に転送する。
呼吸代謝測定用の呼気ガス分析では測定ガスは酸素ガスと炭酸ガスであり、このためガス分析計5として酸素ガス分析計と炭酸ガス分析計を備える(酸素ガス又は炭酸ガスの一方のみを測定し、他方のガス濃度は研鑽によって求めてもよい)。目的によっては酸素ガスと炭酸ガス以外のガスを追加して測定することもある。
【0035】
ガス輸送部6はサンプリング回路4に接続し、サンプリング回路4の内部のサンプルガスを強制的にガス分析計5に輸送する。
【0036】
呼気ガス分析検査では、まず、図2(B)と同様に、呼吸気が漏れないように被検者に呼吸マスク28を着用させ、これにセンサ部1を接続して、肺に出入りする全ての呼吸気センサ部1に通して測定できるようにする。
【0037】
検査を開始すると、呼吸流量セン2で呼吸気流量が測定され、これは電気信号に変換されて制御部3に転送される。
【0038】
同時に、サンプリング回路4に接続したガス輸送部6を駆動し、センサ部1の呼吸気流量の一部をサンプルガスとして、サンプリング回路4を経由してガス分析計5に導入し、測定ガスのガス濃度を測定し、電気信号に変換して制御部3に転送する。
【0039】
以上に述べたように、呼吸流量は即時的に測定されるが、呼吸気のサンプルガスはセンサ部1で採取し、サンプリング回路4を通ってガス分析計5に輸送されるため、センサ部1からガス分析計5までの輸送距離Lを、時間tdをかけて輸送されることになり、ガス分析データは、図2(C)と同様、呼吸流量データが得られる時刻tから時間tdだけ遅れて得られる。
【0040】
制御部3は、呼吸流量センサ2から流量のデータを受け取り、流量に関する各種データを算出する。
また、流量に関する各種データから気量(体積)に関する各種データを算出する。気量(体積)は、流量をある期間に積分して求めることができる。例えば、1回の吸気時にわたって流量を積分すると、1回吸気量(1回の吸気で肺に吸い込む空気の量)を得ることができる。同様に、1回呼気量や、分時(1分間当たりの)吸気量、分時呼気量などを求めることができる。
【0041】
また、制御部3は、ガス分析計5のデータを受け取り、ガス濃度に関する各種データ、例えば、所定期間の平均酸素ガス濃度や平均炭酸ガス濃度(吸気平均酸素ガス濃度や吸気平均炭酸ガス濃度、呼気平均酸素ガス濃度、呼気平均炭酸ガス濃度など)などを算出する。
【0042】
さらに、制御部3は測定対象ガスの量(体積)も求める。呼吸流量センサ2で測定した流量データとガス分析計5で測定したガス濃度データを組み合わせると、呼吸気に含まれる測定対象ガスの量(体積)、例えば、1回吸気中の酸素ガス量と炭酸ガス量、1回呼気中の酸素ガス量と炭酸ガス量、1分間あたりの呼気と吸気中の酸素ガス量と炭酸ガス量などを求めることができる。
【0043】
呼気と吸気の酸素ガス量を比較すると、呼吸代謝に関するデータを得ることができる。例えば、1回の呼吸時の呼気と吸気の酸素ガス量を比較すると1回の呼吸で体内に摂取される酸素の量(1回呼吸時酸素ガス摂取量)を求めることができる。同様に、呼気と吸気の炭酸ガス量を比較すると、1回の呼吸で体外に排泄される炭酸ガスの量(1回呼吸時炭酸ガス排泄量)や、分時酸素ガス摂取量、分時炭酸ガス排泄量などを求めることができる。
【0044】
以上は従来の呼気ガス分析計と同様である。
しかし、従来は、前述のように、例えばサンプリング回路4内のサンプルガスを定流量サンプリング方式でサンプルガスを輸送するように制御しても、サンプルガスのガス状態と測定環境(大気の気温や気圧、湿度など)の状態が変化すると、図2(D)のように、サンプルガスのガス密度が変化して、輸送時間tdが変化する。このため、呼吸流量データとガス分析データの同期がとれなくなり、誤ったガス量を求めることになる。
【0045】
そこで、発明では、従来の呼気ガス分析装置に、サンプリング手段の中を輸送されるサンプルガスの輸送速度が所定の一定速度v0になるように前記ガス輸送部を制御する定輸送速度制御手段を設けた。つまり、
呼吸気の流量を測定する呼吸流量測定手段と、
サンプルガスに含まれる測定対象ガスのガス濃度を分析するガス分析手段と、
呼吸気の一部をサンプルガスとして前記ガス分析計に導入するサンプリング手段と、
前記サンプリング回路の内部の前記サンプルガスを輸送するガス輸送手段と、
前記サンプリング手段の中を輸送されるサンプルガスの輸送速度が所定の一定速度v0になるように前記ガス輸送部を制御する定輸送速度制御手段と、
を設けた呼気ガス分析装置とした。
【0046】
また、発明では、呼気ガス分析装置において、
ガス輸送手段に、単位時間当たりに一定容積を排気する、速度制御が可能なモータを用いたポンプを用い、
定輸送速度制御手段に、前記モータを位相同期ループ制御を行うPLL制御手段を用いて、
サンプリング手段の中を輸送されるサンプルガスの輸送速度が所定の一定速度v0になるように制御するようにした。
単位時間当たりに一定容積を排気する、速度制御が可能なモータを用いたポンプとして、例えばロータリーがある。このようなポンプを用いればよい。
【0047】
発明のガス輸送手段と定輸送速度制御手段の実施例を図1(B)に示す。輸送部6にロータリーポンプを用い、定輸送速度制御手段3‘としてPLL制御をおこなうと、単位時間に一定量の排気をおこなうことができるため、サンプルガスの輸送速度を所定の一定速度v0にすることができる。実際には定輸送速度制御手段3‘は制御部3に設ければよい。
PLL制御の基本的なブロック図を図1(C)に示す。図のfiは基準信号、f0は出力信号、11は位相比較器で、12はループ(ロ-パス)フィルタ(LPF)、13は電圧制御発振器(VOC)であり、基準信号に一致した周波数の信号を正確に出力することができる公知の技術である。モータ制御では、この図の電圧制御発振器13をモータとエンコーダに置き換えれば、モータのPLL制御をおこなうことが知られている。また、この一部をソフトウェアで実現することも知られている。
このようにして、モータのPLL制御をおこなうことができる。
【0048】
このようにガス輸送部6に単位時間当たりに一定容積を排気する、速度制御が可能なモータを用いたポンプを用いるとともに、このポンプを定輸送速度制御手段で駆動すことで、サンプリング回路4の内部のサンプルガスの輸送速度を、常に、所定の一定値v0に維持することができ、サンプルガスの輸送時間tdも一定になる。
【0049】
サンプルガスの輸送時間tdが一定であるため、呼吸気の流量のデータとガス濃度のデータを正確に同期させることができる。このため、呼吸気に含まれる測定ガスの量、例えば酸素ガス量や酸素ガス量も、これらから計算される酸素摂取量や炭酸ガス排泄量などの呼吸代謝データも、正確に求めることができる。
【0050】
従来の技術、例えば特許文献1の定流量型のサンプリング技術では、サンプルガスの状態が変動するとサンプルガスの輸送速度が変動し、サンプルガス採取部からガス分析計までのサンプルガスの輸送時間も変動して、呼吸気の流量のデータとガス濃度のデータの同期がずれるため、輸送時間を考慮して得られる呼吸気中の測定ガスの量やこれを用いて算出する各種代謝データに誤差が生じていた。
【0051】
これに対して本発明は、サンプリング回路4の内部のサンプルガスの輸送速度を、常に、所定の一定値v0に維持し、サンプルガスの輸送時間tdも一定にし、測定対象ガスの量や、酸素摂取量や炭酸ガス排泄量などの各種呼吸代謝データを、正確に測定することができる。
【0052】
一方、測定環境の状態、つまり、測定時の気温や気圧、湿度が変化すると、サンプリング回路4(サンプリングチューブとガス分析計の分析部までを含む)の容積が変化し、サンプルガスの量とガス密度が変化し、サンプルガスの輸送速度と輸送時間が変動する。
これを補正して、測定環境の状態が変動しても、サンプルガスの輸送速度を所定の一定速度v0に維持し、輸送時間tdを一定に維持して、呼気ガス分析を正確におこなうようにするのが、発明である。
【0053】
発明は
測定環境の温度と湿度と気圧を含む測定環境状態を測定する環境状態測定部と、
前記環境状態測定部で測定した環境状態に応じて前記ガス輸送部を制御してサンプルガスの輸送速度が所定の一定速度v0になるように補正する環境状態補正手段と
を設けた。
つまり、図1(A)のように、環境状態測定部7を設けている。
【0054】
環境状態測定部は、呼気ガス分析をおこなう測定環境の温度と湿度と気圧を含む測定環境状態を測定する。
環境状態補正手段は以下のとおりである。つまり、
予め、環境状態とサンプリング回路4の容積の関係を求めておき、
呼気ガス分析検査時に、環境状態を環境状態測定部で測定し、
測定した環境状態に対応するサンプリング回路4の容積変化量を勘案して 定輸送速度制御手段によるガス輸送部の制御量を補正し、測定環境の状態が変動しても、サンプルガスの輸送速度を所定の一定速度v0に維持し、輸送時間tdを一定に維持するようにする。
【0055】
つまり、定輸送速度制御手段によるガス輸送部の制御に加えて、
環境状態が変化し、サンプリング回路4の容積変化したとき、サンプリング回路4の容積変化量に応じて、定輸送速度制御手段によるガス輸送部の制御を補正し、サンプルガスの輸送速度を所定の一定速度v0に維持し、輸送時間tdを一定に維持するようにするものである。具体的には図1(C)のLPF12の出力にソフトウェアで補正をかけてポンプ6をPLL制御するようにしている。
【0056】
本発明により、測定環境が変動しサンプリング回路4の容積が変動しても、この容積変動を補正して、サンプリング回路4の内部のサンプルガスの輸送速度を、常に、所定の一定値v0に維持し、サンプルガスの輸送時間tdも一定に維持するように制御するため、呼吸気の流量のデータとガス濃度のデータを正確に同期させることができる、測定対象ガスの量や、酸素摂取量や炭酸ガス排泄量などの各種呼吸代謝データを、正確に測定することができる。
【0057】
以下に、本発明の呼気ガス分析装置の使用法を述べる。
測定の前に、図2(A)と同様、被検者Mにマスク28を装着させ、マスク28にセンサ部1を接続する。続いて、被検者Mの年齢や身長等のIDデータを入力する。
測定を開始すると、被検者Mの呼吸気は全て、センサ部1を通り、時刻tの呼吸流量は呼吸流量センサ2で測定されて電気信号に変換され、制御部3に転送される。
【0058】
同時に、サンプリング回路4に接続したガス輸送部6で、サンプリング回路4内のサンプルガスを強制的に輸送し、センサ部1を通過する呼吸気の一部をサンプルガスとしてガス分析計5に導入する。
【0059】
ガス分析計5はサンプリング回路4を経由して輸送されるてくるサンプルガスに含まれる測定対象ガス(例えば酸素合すと炭酸ガスなど)のガス濃度を測定し、その結果を制御部3に転送する。
サンプルガスがサンプリング回路4を通過するのに輸送時間tdだけかかるため、時刻tの呼吸流量のガス分析データは、時刻tからtd遅れて測定される。
【0060】
制御部3は、呼吸流量センサ2から流量のデータを受け取り、流量に関する各種データや気量(体積)に関する各種データを算出する。流量をある期間に積分すると気量を求めることができる。例えば、1回の吸気時にわたって流量を積分すると、1回吸気量(1回の吸気で肺に吸い込む空気の量)を得ることができる。同様に、1回呼気量や、分時(1分間当たりの)吸気量、分時呼気量などを求めることができる。
【0061】
また、制御部3は、ガス分析計5のデータを受け取り、ガス濃度に関する各種データ、例えば、所定期間の平均酸素ガス濃度や平均炭酸ガス濃度(吸気平均酸素ガス濃度や吸気平均炭酸ガス濃度、呼気平均酸素ガス濃度、呼気平均炭酸ガス濃度など)などを算出する。
【0062】
さらに、制御部3は、時刻tの呼吸流量データと、時刻tからtd遅れて測定されるガス分析データを組み合わせて、呼吸気に含まれる測定対象ガスの量、例えば、1回吸気中の酸素ガス量と炭酸ガス量、1回呼気中の酸素ガス量と炭酸ガス量、1分間あたりの呼気と吸気中の酸素ガス量と炭酸ガス量などを求めることができる。
さらに、1回呼吸時の呼気と吸気の酸素ガス量を比較すると、1回呼吸時の酸素ガス摂取量を求めることができる。同様に、1回呼吸時の炭酸ガス排泄量や、分時酸素ガス摂取量、分時炭酸ガス排泄量などの呼吸代謝データを求めることができる。
【0063】
ただし、前述のように、呼吸流量データとガス分析データを組み合わせて、呼吸気に含まれる測定対象ガスの量や各種呼吸代謝データを測定する場合は、時間遅れtdを正確に考慮する必要がある。
【0064】
発明により、サンプルガスの状態がどのように変化しても、サンプルガスの輸送速度v0とサンプルガスの輸送時間tdが所定の値になるように定輸送速度制御手段でガス輸送部6を制御している。
また、発明により、サンプリング回路の容積が変動しても、この変動を補正して、サンプルガスの輸送速度v0とサンプルガスの輸送時間tdが所定の値になるように定輸送速度制御手段でガス輸送部6を制御している。
このため、呼吸流量データとガス分析データを正確に同期させることができ、呼吸気に含まれる測定対象ガスの量や、酸素摂取量や炭酸ガス排泄量などの各種呼吸代謝データを、正確に測定することができる。
【0065】
呼吸代謝測定時にはセンサ部1の圧と呼吸気ガスの状態が急速に変動し、これがガス分析計5の入力部では輸送時間の変動として表れる。
本発明では、センサ部1の圧と呼吸気ガスの状態が変動しても、また、測定環境の状態(気圧、気温、大気ガス状態等)が変化しても、常に、ポンプのモータの回転速度を一定に維持し、一定時間に一定量の排気を行うようにしている。このため、サンプリング回路の中を輸送されるサンプルガスの輸送速度が所定の一定速度v0になるように制御される。
【0066】
サンプリング回路4の長さが1m程度、輸送時間が1秒程度の代表的な呼気ガス分析装置において、正確な呼気ガス分析をおこなうには、輸送時間の変動は10mS程度以内に抑えることが求められる。
従来の定流量サンプリング方式では、特に測定環境の変動があった場合に、これを補正する手段を有していなかったため、これよりもはるかに大きな輸送速度の変動が生じて、正確な呼気ガス分析はおこなえなかったが、本発明により、輸送時間の変動を10mSよりも小さくすることができ、正確な呼気ガス分析が可能になった。
【0067】
以上、呼吸代謝測定を例に述べたが、同様に、肺機能検査やピロリ菌検査等の呼気ガス分析においても、呼吸流量データとガス分析データを正確に同期させて、正確なガス分析が可能になり、検査の精度と信頼性を向上させることができる
【符号の説明】
【0068】
1、21:センサ部 2、22:呼吸流量センサ
3、23:制御部 4、24:サンプリング回路
5、25:ガス分析計 6、26:ガス輸送部
7:環境状態測定部
28:呼吸マスク M:被検者
図1
図2
図3