特許第6099254号(P6099254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099254
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】車両の変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   F16H61/02
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-3049(P2013-3049)
(22)【出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2014-134257(P2014-134257A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 利和
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−184254(JP,U)
【文献】 特表2008−540951(JP,A)
【文献】 特開2004−108495(JP,A)
【文献】 特開2004−026064(JP,A)
【文献】 特開2002−130466(JP,A)
【文献】 特開2000−104824(JP,A)
【文献】 特開平10−246321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
61/16−61/24
61/66−61/70
63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機(15)と、前記変速機(15)をシフトアップ又はシフトダウンさせてアクセルペダル(11)の踏み込み量又はドライバ要求トルクから求められる目標変速段に前記変速機(15)を変速制御する変速制御手段(18)と、前記アクセルペダル(11)の踏み込み量がゼロの状態で作動可能な補助ブレーキ(13)と、操作スイッチ(26)が入れられている状態で前記補助ブレーキ(13)が作動すると前記変速機(15)をシフトダウンさせるシフトダウン制御手段(21)とを備えた車両の変速装置において、
前記アクセルペダル(11)が踏み込まれた走行状態から前記アクセルペダル(11)の踏み込み量が減少して前記変速機(15)をシフトアップさせるアクセルペダル(11)の踏み込み量又はドライバ要求トルクを記憶する記憶手段(18b)を備え、
前記変速制御手段(18)は、
前記操作スイッチ(26)が入れられておりかつ前記アクセルペダル(11)が踏み込まれた走行状態から前記アクセルペダル(11)の踏み込み量が減少してゼロとされる場合のシフトアップを保留し、
シフトアップが保留された後に前記アクセルペダル(11)の踏み込み量又は前記ドライバ要求トルクが前記記憶手段(18b)に記憶された前記アクセルペダル(11)の踏み込み量又は前記ドライバ要求トルクに達するまで前記シフトアップの保留を継続する
ことを特徴とする車両の変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助ブレーキの利きを向上させるために自動でシフトダウンを行えるようにした車両の変速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックなど商用車において、自動変速装置を搭載するものが多く見られる。このような自動変速装置として、機械的なクラッチと歯車式の変速機を用い、これらの作動状態を検出する各種センサとこれらを駆動するアクチュエータを設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような車両の変速装置では、運転者の操作力で手動変速するのでなく、各種センサの検出信号に基づいてコントロールユニットによりアクチュエータを制御し、所定の変速マップに従って変速機をシフトアップ又はシフトダウンさせて、アクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機を変速制御している。
【0003】
また、このような比較的大型の車両では、主ブレーキ装置の補助として、アクセルオフ時や主ブレーキオン時に作動する排気ブレーキなどの補助ブレーキを備えている。この排気ブレーキなどの補助ブレーキは、運転者のスイッチ操作により補助ブレーキが有効な状態に設定されているときに、運転者がアクセルペダルを解放してその踏み込み量をゼロにすると作動し、逆に、運転者がアクセルペダルを踏み込むと、その補助ブレーキ状態を解除し、車両を加速することができるように構成される。
【0004】
一方、排気ブレーキなどの補助ブレーキは、高速道路などを走行中で変速機が高い段数にシフトアップされていると、ギヤ比の関係から、あまり減速作用を得られないことがある。そこで、近年普及してきた上記機械式自動変速機を備えた車両では、補助ブレーキの作動にあたって、変速機を高い段数から低い段数に自動的に変速するシフトダウンを行い、補助ブレーキによる制動力を高めるシフトダウン制御が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6ー241300号公報
【特許文献2】特開平10−246321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、シフトダウン制御が行われる条件となる補助ブレーキの作動にあっては、図5に示すように、アクセルペダルが踏み込まれた走行状態から、そのアクセルペダルの踏み込み量を減少させて、最終的にその踏み込みを解放して踏み込み量をゼロとする必要がある。このように、アクセルペダルが踏み込まれた走行状態から、アクセルペダルの踏み込み量を減少させるけれども、その踏み込み量がゼロに達しない状態では、所定の変速マップに従って、アクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機は変速制御されることになる。ここで、従来の変速制御では、アクセルペダルが踏み込まれた走行状態から、アクセルペダルの踏み込み量を減少させると、エンジンの回転速度を低減させて消費する燃料を抑制する考え方から、変速マップに示された所定のシフトアップラインを通過した時に、変速機の段数をより高い段数に変更するシフトアップを行うようになっている。
【0007】
してみると、図5の変速制御内容に示すように、アクセルペダルが踏み込まれた走行状態から、そのアクセルペダルの踏み込み量を徐々に減少させると、アクセルペダルの踏み込み量がゼロになる以前に一旦シフトアップされることになる(t1)。そして、その後アクセルペダルの踏み込み量がゼロになった時点(t2)で、次にアクセルペダルが踏み込まれるまで(t3)、補助ブレーキが作動する。そして、この補助ブレーキの作動に伴って変速機はシフトダウンされることになる(t2〜t3)。すると、結果として、アクセルペダルの踏み込み量を減少させる以前の走行状態と、補助ブレーキが作動した状態における変速機の変速段が同じとなってしまい、補助ブレーキによる制動力を高めることができない不具合を生じさせる。
【0008】
本発明の目的は、補助ブレーキの作動時におけるシフトダウン制御を欲したときに、走行状態の変速段より補助ブレーキが作動した状態における変速機の変速段を確実に低い段数にして、補助ブレーキによる制動力を高め得る車両の変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、変速機と、変速機をシフトアップ又はシフトダウンさせてアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機を変速制御する変速制御手段と、アクセルペダルの踏み込み量がゼロの状態で作動可能な補助ブレーキと、操作スイッチが入れられている状態で補助ブレーキが作動すると変速機をシフトダウンさせるシフトダウン制御手段とを備えた車両の変速装置の改良である。
【0010】
その特徴ある構成は、変速制御手段が、操作スイッチが入れられておりかつアクセルペダルが踏み込まれた走行状態からアクセルペダルの踏み込み量が減少してゼロとされる場合のシフトアップを保留するところにある。
【0011】
この場合、アクセルペダルが踏み込まれた走行状態からアクセルペダルの踏み込み量が減少して変速機をシフトアップさせるアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクを記憶する記憶手段を備え、変速制御手段は、シフトアップが保留された後にアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクが記憶手段に記憶されたアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクに達するまでシフトアップの保留を継続することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両の変速装置では、アクセルペダルが踏み込まれた走行状態からアクセルペダルの踏み込み量が減少してゼロとされる場合のシフトアップを保留するので、アクセルペダルが踏み込まれた走行状態から、そのアクセルペダルの踏み込み量を減少させて、そのアクセルペダルの踏み込み量がゼロになるまで、変速機がシフトアップされることはない。そして、アクセルペダルの踏み込み量がゼロになった時点で補助ブレーキが作動し、シフトダウンされるので、アクセルペダルの踏み込み量を減少させる以前の走行状態の変速段より補助ブレーキが作動した状態における変速機の変速段を確実に低い段数にすることができる。この結果、補助ブレーキによる制動力を高めることができる。
【0013】
その後、アクセルペダルが踏み込まれると、補助ブレーキは非作動となって、シフトダウン制御手段によるシフトダウンは解除され、シフトダウンされていた変速機は一旦シフトアップすることになる。そして、補助ブレーキが非作動となった時のアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクが変速機をシフトアップさせるアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクになっていると、変速制御手段により変速機は更にシフトアップされることになる。この結果、補助ブレーキが作動した状態からアクセルペダルが踏み込まれると、2段階のシフトアップが直ちに行われることになり、エンジンの回転数が著しく低下して運転者に違和感を生じさせる不具合が生じる。
【0014】
けれども、シフトアップが保留された後にアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクが変速機をシフトアップさせるアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクになるまで、そのシフトアップの保留を継続することにより、補助ブレーキが非作動となった時の変速制御手段による変速機のシフトアップを防止することができる。この結果、アクセルペダルが踏み込まれることによる2段階のシフトアップは禁止され、エンジンの回転数が一時に著しく低下することに起因して、運転者に違和感を生じさせるようなことはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明実施形態の変速装置の変速制御手段における動作を示すフローチャートである。
図2】その変速装置のシフトダウン制御手段の動作を示すフローチャートである。
図3】その変速装置を含む車両の構成図である。
図4】その補助ブレーキスイッチとアクセルペダルと変速マップによる判断とシフトアップの保留状態と実際の変速制御内容との関係を示す図である。
図5】従来の補助ブレーキスイッチとアクセルペダルと変速マップによる判断と実際の変速制御内容との関係を示す図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図3に、本発明の変速装置を適用した車両10の要部構成を示す。この車両10はトラック等の大型車両であって、この車両10には、図示しないが、前輪17a及び後輪17bの回転を直接的に制動可能な主ブレーキ装置と、その主ブレーキ装置を運転者の踏み込みにより作動させるブレーキペダルが設けられる。そして、この車両10には、主ブレーキ装置の補助として、アクセルペダル11が踏み込まれていないアクセルオフ時や、その主ブレーキ装置が作動したときに作動する、補助ブレーキとしての排気ブレーキ13が設けられる。この補助ブレーキとしての排気ブレーキ13は、エンジン12の排気通路に配設され、その排気ブレーキ13の制御装置である補助ブレーキECU(電子制御ユニット)14が備えられる。
【0018】
エンジン12には変速機15が連結され、シャフト16を介して後輪17bが更に連結される。エンジン12の出力を後輪17bに伝達する変速機15は、変速制御手段を構成する自動変速ECU18により制御される機械式の自動変速機15であって、自動変速ECU18は、変速機15をシフトアップ又はシフトダウン可能に構成される。この自動変速ECU18にはメモリ18aが設けられ、そのメモリ18aには、アクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルク等の条件に応じた目標変速段が記載された変速マップが記憶される。ここで、ドライバ要求トルクとは、アクセルペダル11の踏み込みにより開閉するスロットルの開度と車速との積から求められるものである。
【0019】
また、この車両10には、エンジン12の制御装置であるエンジンECU19と、補助ブレーキ13が作動すると、その変速機15をシフトダウンさせるシフトダウン制御手段であるシフトダウン制御ECU21が設けられる。そして、このエンジンECU19からはエンジン12における燃料噴射装置12aにその制御出力が接続される。また、シフトダウン制御ECU21は、自動変速ECU18に指令を発して排気ブレーキ13の作動に伴うシフトダウンを実行させるように構成される。
【0020】
また、車両10には、アクセルペダル11の踏み込み量を検出するアクセルセンサ24と、車両の走行速度を検出する車速センサ22が設けられる。また、車両10には、補助ブレーキである排気ブレーキ13や、その排気ブレーキが作動したときにシフトダウンを可能にする操作スイッチ26が設けられる。そして、上述した補助ブレーキECU14,自動変速ECU18,エンジンECU19,シフトダウン制御ECU21,車速センサ22,アクセルセンサ24及び操作スイッチ26等は、図示しない他の機器と共にCAN(Controller Area Network)23を介して連結され、互いに交信可能に構成される。
【0021】
そして、エンジンECU19は、運転者がアクセルペダル11を踏み込んで車両10を走行させる時に、エンジン12に供給される燃料流量をアクセルペダル11の踏み込み量に応じて増減させ、エンジン12の回転をその所望の回転に維持させるように構成される。そして、そのアクセルペダル11の踏み込み量や、車速センサ22が検出する車両10の走行速度が変化すると、変速制御手段である自動変速ECU18は、そのアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機15を変速制御するように構成される。即ち、自動変速ECU18は、変速機15をシフトアップ又はシフトダウンさせることにより、メモリ18aに記憶された変速マップに従って、アクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機15を変速制御するように構成される。
【0022】
一方、運転者がアクセルペダル11の踏み込みを解除して、そのアクセルペダル11が解放された事実をアクセルセンサ24が検出して出力すると、エンジンECU19は、エンジン12に供給される燃料流量を、エンジン12の回転がアイドリング速度で維持するために必要な最小量にするように構成される。このため、変速機15において走行ギヤが選択され、相応の速度で車両10が走行中に、アクセルペダル11が解放された事実をアクセルセンサ24が検出して出力すると、アイドリング速度で維持されようとするエンジン12が後輪17bの回転を制動する、いわゆるエンジンブレーキの状態になる。
【0023】
この実施の形態における排気ブレーキ13は、エンジン12の排気通路に開閉弁を設ける構造のものであり、このエンジンブレーキの状態のときに、運転者が操作スイッチ26を操作することにより、補助ブレーキECU14はエンジン12の排気通路に設けられた開閉弁を閉じるように構成される。そして、開閉弁が閉じられると、エンジン12は回転速度をさらに減速させ、これにより排気ブレーキ13は、車両10に対して実質的にブレーキとして作用することになる。
【0024】
この実施の形態における操作スイッチ26は、その操作レバー26aを運転者が傾倒させるように構成され、図3の点線で示す基本状態がオフ状態を示し、このオフ状態ではエンジンブレーキ状態であっても、補助ブレーキECU14は、排気ブレーキ13の排気通路に設けられた図示しない開閉弁を閉じないように構成される。そして、その操作レバー26aをオフ状態から一段階傾倒させて、破線で示す第一傾倒状態にすると、エンジンブレーキ状態において排気通路に設けられた開閉弁を閉じて、エンジン12の回転速度をさらに減速させるように構成される。
【0025】
そして、この実施の形態における操作スイッチ26は、その操作レバー26aを破線で示す第一傾倒状態から更に一段階傾倒させて実線で示す第二傾倒状態にすると、エンジンブレーキ状態において排気ブレーキ13が作動すると、更に変速機15におけるシフトダウンを行うように構成される。変速機15におけるシフトダウンは、シフトダウン制御ECU21が自動変速ECU18に指令を発することにより実現される。即ち、操作スイッチ26の操作レバー26aが実線で示す第二傾倒状態になるように傾倒操作されている状態において、エンジンブレーキ状態になると、シフトダウン制御ECU21は自動変速ECU18に指令を出して、変速機15におけるシフトダウンを行うように構成される。
【0026】
自動変速ECU18には、メモリに18aに情報を記憶させる記憶手段である記憶回路18bが設けられる。この記憶回路18bがメモリ18aに記憶させる具体的な情報は、アクセルペダル11が踏み込まれた走行状態からアクセルペダル11の踏み込み量が減少して変速機15をシフトアップさせるアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクである。
【0027】
一方、変速制御手段である自動変速ECU18は、操作スイッチ26の操作レバー26aが入れられて、エンジンブレーキ時におけるシフトダウンを許容する第二傾倒状態になっており、かつアクセルペダル11が踏み込まれた走行状態からそのアクセルペダル11の踏み込み量が減少してゼロとされる場合のシフトアップを保留するように構成される。そして、この変速制御手段である自動変速ECU18は、シフトアップが保留された後にアクセルセンサ24の検出するアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクが記憶回路18bによりメモリ18aに記憶されたアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクに再び達するまで、シフトアップの保留を継続するように構成される。
【0028】
次に、このように構成された車両の変速装置の動作を説明する。
【0029】
先ず、シフトダウン制御手段であるシフトダウン制御ECU21における制御を図2に示す。この図2に示すよう、変速機15において走行ギヤが選択され、相応の速度で車両10が走行中に、運転者がアクセルペダル11の踏み込みを解除してエンジンブレーキの状態にすると、そのアクセルペダル11が解放された事実はアクセルセンサ24により検出されて出力される。この検出出力によりエンジンブレーキ状態である(S21)ことを検知したシフトダウン制御ECU21は、次に、運転席にある操作スイッチ26が操作されて、その操作レバー26aが図3の点線で示すオフ状態以外の状態になっているか否か確認する(S22)。即ち、補助ブレーキである排気ブレーキ13は、運転者により使用するかどうかを選択できるようになっている。その結果、操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の点線で示すオフ状態であった場合は、既に補助ブレーキが作動している場合には、その補助ブレーキを解除(S24)、即ち排気ブレーキ13の図示しない開閉弁を開制御して、リターンする。
【0030】
一方、操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の点線で示すオフ状態以外の位置である場合は、運転者により排気ブレーキ13を使用する意思が表されたものであり、この場合、シフトダウン制御ECU21は、次に、運転席にある操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の実線で示す第二傾倒状態になっているか否か確認する(S23)。即ち、補助ブレーキ作動時のシフトダウンを行う意思表示がなされているか否か確認する。その結果、操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の実線で示す第二傾倒状態になっていない場合には、シフトダウンすることなく、補助ブレーキECU14に指令を出して、操作レバー26aの操作位置に基づいて、補助ブレーキである排気ブレーキ13を作動させ(S25)、リターンする。即ち、操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の破線で示す第一傾倒状態であると、排気通路に設けられた開閉弁を閉じて排気ブレーキ13を作動させる。よって、運転者が排気ブレーキ13の作動に伴うシフトダウンを好まない場合には、シフトダウンが実行されないように選択することができる。
【0031】
逆に、操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の実線で示す第二傾倒状態になっているときには、シフトダウン制御ECU21は、自動変速ECU18に指令を出して変速機15をシフトダウンさせ、それとともに補助ブレーキECU14に指令を出して、排気ブレーキ13を作動させ(S26)、リターンする。これにより、補助ブレーキによる制動力を高めることが可能になる。
【0032】
次に、変速制御手段である自動変装ECU18における制御を説明する。図4に示すように、アクセルペダル11が踏み込まれた走行状態からそのアクセルペダルの踏み込み量が減少すると、その踏み込み量がゼロになる以前に、メモリ18aに記憶された変速マップの変速機15をシフトアップさせるシフトアップラインを通過することになる。図1に示すように、このような変速マップの判断結果が、シフトアップラインを通過していない状態、即ち、シフトアップでない場合には(S11)、その都度、記憶回路18bを介して、そのアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクを更新して自動変速ECU18におけるメモリ18aに記憶させる(S14)。
【0033】
一方、変速マップの判断結果が、シフトアップラインを通過して、シフトアップの場合には、次に操作スイッチ26が入れられて、操作レバー26aが図3の実線で示す第二傾倒状態になっているかどうか判断する。即ち、補助ブレーキが作動した時のシフトダウンを行う意思表示がなされているかを判断する(S12)。その結果、操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の実線で示す第二傾倒状態になっていない場合には、変速マップの判断結果が図4に示すシフトアップラインを通過した段階で、自動変速ECU18は、メモリ18aに記憶された変速マップに従って変速機15をシフトアップさせ(S15)、リターンする。
【0034】
逆に、操作スイッチ26の操作レバー26aが図3の実線で示す第二傾倒状態になっているときには、次に、自動変速ECU18は、シフトダウン制御ECU21におけるメモリ18aに記憶された、シフトアップラインを通過した時のアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクと、現在のアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクとを比較する(S13)。そして、現在のアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクが、メモリ18aに記憶されたアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクより小さい場合、変速機15のシフトアップを保留して(S16)、リターンする。即ち、図4に示す、シフトアップラインを通過して再びそのシフトアップラインにまで達していない状態では、変速機15のシフトアップは保留される(S16)。
【0035】
そして、このシフトアップが保留されている状態から再びアクセルペダルが踏み込まれ、その後のアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクが、メモリ18aに記憶されたアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクに再び達した場合(図4のT4)、変速機15のシフトアップの保留は解除され、変速機15はシフトアップされ(S15)、リターンする。即ち、図4に示す、シフトアップラインを通過して再びそのシフトアップラインに達した状態で、変速機15はシフトアップされる(S15)。
【0036】
このようなシフトダウン制御手段であるシフトダウン制御ECU21における制御と、変速制御手段である自動変装ECU18における制御を時系列的に説明すると、図4に示すように、アクセルペダル11が踏み込まれた走行状態からそのアクセルペダルの踏み込み量が減少すると、その踏み込み量がゼロになる以前に、メモリ18aに記憶された変速マップの変速機15をシフトアップさせるシフトアップラインを通過することになる(T1)。すると、その時のアクセルペダル11の踏み込み量又はドライバ要求トルクは記憶回路18bによりメモリ18aに記憶される(S14)。それとともに、自動変装ECU18では、メモリ18aに記憶された変速マップに従って変速機15のシフトアップが判断される。けれども、操作スイッチ26が入れられており、かつアクセルペダル11が踏み込まれた走行状態からアクセルペダル11の踏み込み量が減少してゼロとされる場合であるので、そのシフトアップは保留される(S16)。このため、アクセルペダル11が踏み込まれた走行状態から、そのアクセルペダル11の踏み込み量を減少させて、そのアクセルペダル11の踏み込み量がゼロになるまで(T1〜T2)、変速機15がシフトアップされることはない。
【0037】
その後、アクセルペダルの踏み込み量がゼロになると(T2)、補助ブレーキである排気ブレーキ13は作動し、それと共に変速機15のシフトダウンが実行される。すると、アクセルペダル11の踏み込み量を減少させる以前の走行状態の変速機15における変速段より、補助ブレーキが作動した状態における変速機15の変速段は低い段数になる。この結果、補助ブレーキによる制動力を確実に高めることができる。
【0038】
その後、アクセルペダル11が踏み込まれると(T3)、補助ブレーキである排気ブレーキ13は非作動となって、シフトダウン制御ECU21は自動変速ECU18に指令を発して、シフトダウンを解除し、シフトダウンされていた変速機15は一旦シフトアップされることになる。
【0039】
そして、アクセルペダル11が更に踏み込まれて、そのアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクが、メモリ18aに記憶された変速機15をシフトアップさせるアクセルペダルの踏み込み量又はドライバ要求トルクになると(T4)、そのシフトアップの保留も解除され、変速制御手段である自動変速ECU18により、変速機15は再びシフトアップされる。この結果、補助ブレーキが非作動となった時(T3)の変速制御手段による変速機15のシフトアップは防止され、排気ブレーキ13が作動している状態からアクセルペダルが踏み込まれた時(T3)の2段階に渡るシフトアップは回避される。この結果、エンジン12の回転数が一時に著しく低下することに起因する運転者の違和感は生じない。
【0040】
なお、上述した実施の形態では、単一の操作スイッチ26を用いて、排気ブレーキ13と変速機15におけるシフトダウンの双方のスイッチとしたけれども、排気ブレーキ13の操作スイッチと変速機15におけるシフトダウンの操作スイッチを別々に設けるようにしても良い。
【0041】
また、上述した実施の形態では、補助ブレーキが排気ブレーキ13である場合を説明したけれども、補助ブレーキは主ブレーキ装置を補助し得る限り、排気ブレーキ13に限られない。例えば、補助ブレーキはリターダであっても良い。図示しないが、リターダは大型車両などに利用されている電気制動装置である。広く知られた形態では、車軸を駆動するためのプロペラ軸に連結されて回転する発電機を設け、この発電機の電気出力に抵抗器を接続する構造のものである。運転席に設けたスイッチ操作によりリターダを制動状態に操作すると、この発電機の出力電流は抵抗器に流れ、プロペラ軸の機械的な負荷が大きくなり車両は制動状態となって、主ブレーキ装置を補助し得るものである。
【0042】
更に、上述した実施の形態では、シフトダウン制御手段であるシフトダウン制御ECU21を独立に形成してCAN23に接続し、補助ブレーキECU14,自動変速ECU18,エンジンECU19,車速センサ22,アクセルセンサ24及び操作スイッチ26等と互いに交信可能にした場合を説明したけれども、補助ブレーキの作動強度を減少させるシフトダウン制御手段は別に独立して設けなくても良い。例えば、補助ブレーキECU14,自動変速ECU18,エンジンECU19に、シフトダウン制御手段としての回路を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0043】
10 車両
11 アクセルペダル
13 排気ブレーキ(補助ブレーキ)
15 自動変速機
18 自動変速ECU(変速制御手段)
18b 記憶回路(記憶手段)
21 シフトダウン制御ECU(シフトダウン制御手段)
26 操作スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5