特許第6099257号(P6099257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099257マグネシウム基合金薄板及び箔材並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099257
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】マグネシウム基合金薄板及び箔材並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/00 20060101AFI20170313BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20170313BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20170313BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170313BHJP
【FI】
   C22C23/00
   C22F1/06
   B21B3/00 L
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 605
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630H
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 685A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-21862(P2013-21862)
(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公開番号】特開2014-152354(P2014-152354A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】染川 英俊
(72)【発明者】
【氏名】黒田 秀治
(72)【発明者】
【氏名】谷内 泰志
(72)【発明者】
【氏名】大澤 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】井上 忠信
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−057658(JP,A)
【文献】 特開2009−161818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00−23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg−Ag系2元系マグネシウム合金であって、Agの含有量が、0.02mol%≦Agmol%<0.2mol%で、残部がMg及び不可避的不純物からなり、AgがMg母相内に析出物を生成することなく均一に固溶し、平均結晶粒径の範囲が10μmから500μmであることを特徴とする強度及び減衰能に優れたマグネシウム合金薄板材又は箔材。
【請求項2】
請求項に記載のマグネシウム合金薄板材又は箔材であって、素材の最終厚さが1mm以下であることを特徴とする強度及び減衰能に優れたマグネシウム合金薄板材又は箔材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマグネシウム合金薄板材又は箔材の製造方法であって、
鋳造後の前記マグネシウム合金鋳片に、
450〜525℃の温度範囲で、〜12時間保持後水冷する溶体化熱処理を施し、
200〜450℃の温度範囲で、前記マグネシウム合金鋳片に対し平均結晶粒径が50μm以下になるまで相当塑性ひずみ2以下の塑性変形加工を施し、
200〜400℃の温度範囲で、前記塑性変形マグネシウム合金材に対し1回ごとの圧下率が10〜20%の条件で1mm以下まで圧延加工を施すことを特徴とする強度及び減衰能に優れたマグネシウム合金薄板材又は箔材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀やアルミニウム等の溶質元素が少量添加されたマグネシウム基合金に関し、合金素材の厚みが1mm以下であるマグネシウム基合金薄板及び箔材に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は実用金属材料の中で最軽量であり、比強度・比剛性が優れているため、ノートパソコンを始めとする電子機器や、自動車やバイクなどの移動用構造部材の車体軽量化材料として使用されている。また、マグネシウムは、減衰能特性が優れることから、スピーカーやヘッドホンなどの音響関連部品や、リアクトル収納ケースのように、コイルや機械装置などの振動源の振動や騒音の低減用部材として使用されている。
【0003】
純マグネシウムは、優れた減衰特性を示すが、その強度は他の金属材料と比べて極めて低い。そのため、特許文献1、2で示すように、溶質元素を添加し、高減衰特性を維持したまま素材の高強度化を図っている。例えば、特許文献1に挙げられるように、Mg−(0.5〜9)mass%Ni−(0.2〜3)mass%Ca合金、Mg−(0.2〜10)mass%Cu−(0.1〜3)mass%Ca合金、Mg−(0.05〜0.6)mass%Mn−(0.2〜3)mass%Ca−(0.01〜0.1)mass%Be合金、Mg−(0.05〜0.6)mass%Mn−(0.2〜3)mass%Ca−(0.001〜0.1)mass%Be合金が開発されている。また、特許文献2に示すように、Y、Nd、Srから選択される1種類以上の元素を1元素当たり(0.01〜6)mass%添加し、Al、Ca、Zr、Sn、Mnを実質的に含有しないことで、高強度及び高減衰特性を兼ね備えている。しかし、これらの文献の合金では、振動や騒音の低減を目的としているため、合金素材の形状は鋳造材を始めとする板厚のあるバルク材であって、薄板や箔材を対象としていない。
【0004】
音響関連部品に適応するためには、素材の厚さを薄くする必要がある。マグネシウムの薄板化や箔片化は、特許文献3〜5で示すように温間圧延により作製するのが一般的である。特許文献3には、Alを(1〜3.5)mass%、Znを(1〜6)mass%、Mnを(0.1〜2)mass%を含有する板厚(0.2〜2)mmからなるマグネシウム合金薄板が開示されている。また、特許文献4には、Alを(1〜11)mass%、Znを(0.1〜2)mass%、Mnを(0.15〜0.5)mass%を含有する板厚(0.02〜0.2)mmのマグネシウム合金薄板が開示されている。特許文献5では、Al、Zn、Mn、Si、Ca、Sr、Y、Cu、Ag、Ce、Sn、Li、Zr、Be及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種類の元素を合計7.3mass%以上含有し、厚さがmm以下のマグネシウム合金板が開示されている。
【0005】
ところで、素材の強化機構と減衰挙動の主機構は、転位運動(転位と溶質元素の相互作用)であるが、強度と減衰能を同時に改善することは不可能である。すなわち、溶質元素添加により、転位運動を阻害させることは、素材の高強度化につながるが、逆に減衰特性を低下させる。そのため、溶質元素を多量に添加することは、減衰特性の向上とはならない。
【0006】
少量の溶質元素を添加したマグネシウム二元系合金が、特許文献6、7に開示されている。特許文献6には、マグネシウムより原子半径の大きな1種類の溶質原子0.03〜0.54mol%と残部がマグネシウムからなり、マグネシウム母相の平均結晶粒径が1.5μm以下である高強度・高延性マグネシウム合金が開示されている。しかし、このマグネシウム合金のように結晶粒径が微細な場合、結晶粒界が転位運動を阻害するため、減衰特性を低下させるという問題がある。また、特許文献7には、Ce、La、Yを0.01〜0.5mol%添加したマグネシウム合金が開示されている。しかしながら、このマグネシウム合金は、高強度と深絞り性向上を目的とするもので、減衰特性についての記載は全くされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−113436号公報
【特許文献2】特開2012−087379号公報
【特許文献3】特開2003−328063号公報
【特許文献4】特開2009−120883号公報
【特許文献5】特開2012−21182号公報
【特許文献6】特開2006−16658号公報
【特許文献7】特開2008−214668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や2に記載されているように、高減衰能マグネシウム合金は開発されているものの、これらの合金は全てバルク材に限られ、高強度・高減衰特性を有するマグネシウム合金薄板や箔に関するものではない。これは、マグネシウムの難塑性加工性に起因している。マグネシウム合金の薄板化や箔化は、特許文献3や4で開示されているように、比較的塑性加工しやすいAlとZnを添加した商用マグネシウム合金(AZ系合金)で行われているのみである。一方、多量の溶質元素添加は、前述のように減衰能改善の観点から好ましくない。このため、高強度と高減衰特性の両者を兼ね備えたマグネシウム合金薄板材や箔材は、いまだ開発されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは詳細な試験研究を行った結果、特定の溶質元素を微量添加することにより、高い硬度(強度)特性を維持したまま、減衰特性の改善が可能であることを見出した。室温付近のマグネシウムの転位運動は、底面のみである。しかし、少ないすべり系をうまく活用することで、高い硬度特性を維持したまま、減衰特性の改善が可能であることがわかった。すなわち、硬度特性は、溶質元素による固溶強化で改善し、マグネシウム結晶の主すべり系である底面の配向を変形時の塑性加工の仕方と温度条件を制御することで減衰特性を劣化させない方策を採用した。
【0010】
本発明の第1は、Agの含有量が、0.02mol%≦Agmol%<0.2mol%で、残部がMg及び不可避的不純物からなり、AgがMg母相内に析出物を生成することなく均一に固溶し、平均結晶粒径の範囲が10μmから500μmである強度及び減衰能に優れたマグネシウム合金薄板材又は箔材を提供する。
【0012】
本発明の第は、発明のマグネシウム合金薄板材又は箔材であって、素材の最終厚さが1mm以下である強度及び減衰能に優れたマグネシウム合金薄板材又は箔材を提供する。
【0013】
本発明の第は、発明1又は2のマグネシウム合金薄板材又は箔材の製造方法であって、鋳造後の前記マグネシウム合金鋳片に、450〜525℃の温度範囲で、〜12時間保持後、水冷にて溶体化熱処理を施し、200〜450℃の温度範囲で、前記マグネシウム合金鋳片に対し平均結晶粒径が50μm以下になるまで相当塑性ひずみ2以下の塑性変形加工を施し、200〜400℃の温度範囲で、前記塑性変形マグネシウム合金材に対し1回ごとの圧下率が10〜20%の条件で1mm以下まで圧延加工を施すことにより強度及び減衰能に優れたマグネシウム合金薄板材又は箔材を製造する方法を提供する。
【0014】
本発明を得るためには、溶質元素の添加量aが、0.02mol%≦a≦0.2mol%である。添加量が0.mol%以上の場合、強度改善の観点からは望ましいが、溶質元素の添加量が多いため、減衰特性向上の点からは好ましくない。逆に、0.02mol%未満では、強度の向上が低く、高硬度と高減衰能の両立を図ることが難しい。また、マグネシウム合金薄板材又は箔材のマグネシウム母相の平均結晶粒径は、10μm以上、より好ましくは20μm以上とする。結晶粒微細化にともない、結晶粒界の割合が増加し、硬度改善に寄与するが、結晶粒界は転位運動を阻害するため、減衰能改善の観点からは結晶粒径は粗大であることが望ましい。また、薄板や箔加工前と加工後の平均結晶粒径を比較し、結晶粒径が微細になるのは、動的再結晶が促進される低温かつ大圧下率の条件で加工した場合であり、圧延加工中に、加工温度が高く圧下率が小さい加工条件下では、結晶粒が粗大化することがあるが、その限界値は本願発明の強度と減衰能を維持するために500μmとする。
【0015】
本発明では、Ag(原子半径0.144nm、マグネシウムに対する最大固溶量3.8mol%)を添加元素として扱ったが、Li(0.157nm、17mol%)、Al(0.144nm、11.5mol%)、Zn(0.137nm、2.4mol%)、Sn(0.158nm、3.4mol%)から選択される一種類の元素に置き換えることが可能である。その理由として、Agの原子半径は、マグネシウムの原子半径0.160nmより小さく、置換型元素として作用する。上記の代替溶質元素も、マグネシウムの原子半径よりも小さく、Agの原子半径に近いため、同じ挙動を呈する。また、本発明の添加量0.3mol%は、マグネシウムに対するAgの最大固溶量と比べて極めて少ない。そのため、溶質元素はマグネシウム母相内に固溶状態として存在し、強度と減衰能に影響を及ぼす主要因は、個々の固溶溶質元素と転位との相互作用と考えられる。前記の代替元素も、マグネシウムに対して広い固溶限をもつため、マグネシウム母相内ではAgと同じ状態で存在し、同じ振る舞いをするため代替可能であることは明白である。
【0016】
本発明の薄板材や箔材(本発明における箔材とは厚さ0.20mm以下の薄板材と定義)を得るために、次の加工法と手順が挙げられる。始めに、重力鋳造や連続鋳造、ダイキャスト法などを用いて、薄板化や箔化に加工するための鋳塊材料(加工材)を作製する。加工材の初期の平均結晶粒径が粗大であると、薄板や箔への加工中に変形双晶が発生し、しわ、バリや割れが生じ、健全な素材を創製することが難しい。そのため、薄板や箔への加工を行う前に、押出や圧延、鍛造を用いて加工材の平均結晶粒径を50μm以下にしておくことが望ましい。結晶粒径が50μm以下であると、しわやバリ、割れ等の起点となる変形双晶の発生を抑制することができる。その際、強ひずみ加工を行うことが目的ではないので、相当塑性ひずみ2以下、加工温度は200〜450℃であればよい。勿論、加工材の平均結晶粒径が50μm以下であれば、直接、薄板や箔に加工しても構わない。また、強ひずみ加工を行う前に、加工材の鋳造(デンドライト)組織を低減し、溶質元素を固溶させるため、溶体化処理を450〜525℃の温度範囲で、2〜12時間行うことが望ましい。溶体化処理温度について、溶質元素の添加量0.3mol%が固溶する温度範囲内であれば良い。また、保持時間が12時間以上の場合、添加元素が十分に固溶できるため、溶体化処理を長時間行う必要はない。一方、保持時間が2時間以下の場合、溶質元素の拡散が不十分なため、鋳造組織が残っていることが考えられる。
【0017】
次に、加工材の薄板化や箔化は、素材を薄く引き延ばすことと、底面の集合組織を制御するため、圧延加工することが望ましい。圧延加工時の温度と圧下率は、200〜400℃、10〜20%であればよい。加工温度が低い場合(200℃より低い温度)や圧下率が大きな場合(20%より大きな圧下率)、図7で示すように試料の端で割れが生じ、健全な素材の製造が難しい。一方で、加工温度が高い場合(400℃以上)、加工中に試料の燃焼が懸念され、作業上危険である。また、加工率が小さい場合(10%以下)、試料の巻き取りが難しく、表面粗さが大きくなり(光沢がなくなり)表面状態が好ましくない。
【発明の効果】
【0018】
上記発明により、純マグネシウムの硬さと減衰能と比較して、優れた強度・減衰特性を示すようになった。これは、溶質元素添加による固溶強化と温間圧延による底面集合組織の形成と推測する。本発明の合金は、優れた材料特性を有するにも関わらず、溶質元素の添加量が極めて少ないため、著しいコスト増をもたらさない特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施例の健全なMg−0.03mol%Ag合金箔の外観写真。
図2】箔加工前のMg−0.05mol%Ag合金の微細組織例。
図3】EBSD観察を用いたMg−0.05mol%Ag合金の微細組織例。
図4】Mg−0.1mol%Ag合金の光学顕微鏡組織観察例。
図5】Mg−0.05mol%Ag合金の底面集合組織形成例。
図6】Agの添加量と内部摩擦比との関係。
図7】加工温度が低く圧下率が大きかったため端部に割れがあるMg−0.1mol%Ag合金箔の外観写真。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
<実施例>
Ag目標含有量が0.02mol%、0.03mol%、0.05mol%、0.1mol%、0.2mol%、0.3mol%である6種類のMg-Ag合金鋳造材を溶製した。Ag目標含有量0.02mol%、0.03mol%、0.05mol%、0.1mol%、0.2mol%は、本発明の範囲内の実施例、Ag目標含有量0.3mol%は、本発明の範囲外の比較例である。目標含有量の銀(Ag)と純マグネシウム(Mg)(純度99.94mass%)を合わせて800g秤量し、アルゴン雰囲気に置換できる溶解炉内に設置し、750℃にて完全に溶解させた後、鉄製鋳型に鋳込んで鋳造材を作製した。Agの含有量は、鋳造材を500℃で、2時間の溶体化処理した後、ICP発光分光分析法により評価した。組成分析の結果は表1に示す。6種類の合金全て、以下に示す手順及び条件にて作製した。
【0021】
得られた鋳造材を、温度500℃で2時間炉内保持後に水冷する溶体化処理を施した後、機械加工により、直径40mm、高さ50mmの押出加工用円柱ビレットを作製した。前記ビレットを最大450℃まで加熱することが可能な直径190mm、高さ170mmの鉄製コンテナ内に投入し、温度275℃で30分間保持した後、押出比42:1にて押出による温間ひずみ付与加工を行い、厚さ3mm、幅10mmの押出材を作製した。その後、前記押出材に対し、ロール雰囲気を300℃に加熱保持した圧延機を使用し、1回毎の圧下率10%の条件で、圧延加工を繰り返し、最終厚さが23μmのマグネシウム合金箔を作製した。本実施例にて作製した典型的な外観写真を図1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
箔片加工を行う直前の試料、すなわち、溶体化処理を施した後、押出加工を行ったMg−0.1mol%Ag合金試料の微細組織観察例を図2に示す。光学顕微鏡を用いた微細組織観察では、マグネシウム母相の平均結晶粒径は10μmであった。他のMg−Ag合金も平均結晶粒径が25〜10μmの範囲内で50μm以下であった。なお、平均結晶粒径は、切片法を用いて算出した。
【0024】
箔片化したMg−Ag合金の微細組織は、走査型電子顕微鏡/電子線後方散乱回折(EBSD)及び光学顕微鏡を用いて観察した。その観察例を図3、4に示す。全ての微細組織は圧延面を観察した。図3から、結晶粒界は、方位差15°以上の大角粒界から構成され、大角粒界で囲まれた結晶粒(図中Gと表記)の平均は、80μmであった。各合金の箔片加工後の平均結晶粒径を表1に示す。図4の光学顕微鏡を用いた組織観察から、析出物や介在物の存在は確認できなかった。また、Mg−0.05mol%Ag合金の集合組織形成例を図5に示す。圧延や押出などを用いたマグネシウム合金展伸材では、その結晶構造である六方晶に起因し、加工方向に対して平行に各結晶粒が配向する。本発明合金も、底面(0001)に集積した底面集合組織の形成が確認できる。なお、他のMg−Ag合金も図4〜6に示す微細組織様相と同様であった。
【0025】
素材の硬さは、ビッカース硬度計を用いて評価するのが一般的である。しかし、本発明で作製した試料の厚さが23μmと薄いため、押込み深さをナノメートルオーダーで制御可能なナノインデンテーションを用いて、各試料の硬さを評価した。押込み荷重1 mN、押込み速度1mN/sの条件にてナノインデンテーション試験を行い、インデント毎にOliver−Pharrの式を用いて硬さを求めた。各試料の測定は、ばらつきを低減させるため50回以上行った。表1に平均値を示す。ここで、平均値は、全測定数の上下10%の硬さ値を削除し、残りの80%の測定結果から求めた。例えば、測定数50点の場合、最大値から5点、最小値から5点ずつ測定結果を取り除き、残りの40点の結果で平均値を求めた。表1に示すように、溶質元素の添加及び添加量の増加にともない、硬さの向上が見られた。また、Mg−Ag合金の硬さは、純マグネシウムと比較して大きな値を示したことから高強度化が達成している。
【0026】
内部摩擦(減衰)特性は、ナノインデンテーション試験中に圧子先端を任意の周波数(1〜300Hz内)で振動させ、Tanδを得ることで評価した。周波数が2、20、200 Hzの3条件にて、押込み荷重1mN一定で、各試料50回以上の測定を行った。硬さと同じ手法にて平均値を求め、表1にその結果を示す。また、図7に溶質元素添加量と内部摩擦比の関係を示す。ここで、内部摩擦比は、純マグネシウムのTanδに対する各合金のTanδの比と定義し、1より大きな値を示した場合は、純マグネシウムの内部摩擦特性と比べて優れていることを示す。また、図中の破線は、純マグネシウムのTanδに対して80%の値を示しているが、この値以下ではマグネシウム合金材料としての減衰特性は劣ると判定した。溶質元素の添加にともない大きな内部摩擦比、すなわち、内部摩擦特性の向上が見られた。しかし、Mg−0.3mol%Ag合金では、3条件とも純マグネシウムの内部摩擦特性の80%以下を示した。以上のことから、強度と減衰能の両特性改善の観点から、溶質元素の添加量は0.3mol%未満が適切であるといえる。
【0027】
<比較例1>
純マグネシウム(純度:99.94mass%)を直径40mm、高さ40mmの押出ビレットに加工した後、押出温度を225℃にしたこと以外、実施例と同じ条件にて厚さ23μmの純マグネシウムの箔を作製した。同試料の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均は、100μmであった。また、ナノインデンテーション試験から得られた硬さと内部摩擦特性の結果を表1に示す。
【0028】
<比較例2>
商用マグネシウム合金(Mg−3mass%Al−1mass%Zn:AZ31)圧延板を使用し、実施例と同じ条件にて厚さ23μmの純マグネシウムの箔を作製した。同試料の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均は、27μmであった。また、ナノインデンテーション試験から得られた硬さと内部摩擦特性の結果を表1に示す。
【符号の説明】
【0029】
G:大角粒界により囲まれた結晶粒
LAG:小角粒界:隣接する結晶粒同士の方位差が15°未満の結晶粒界
I:結晶方位の集積度合い(数値が大きいほど、集積度合いが高い)
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のマグネシウム合金箔材を使用すれば、音響関連部材はもちろんのこと、振動やノイズが問題となる構造部位のインサート材としての適応が可能である。また、素材の厚みが薄い特徴を活かし、医療用機器などのデバイス小型化への応用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7