特許第6099275号(P6099275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099275
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】分解組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20170313BHJP
【FI】
   A23L7/10 A
   A23L7/10 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-144667(P2014-144667)
(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公開番号】特開2016-19489(P2016-19489A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2014年7月29日
【審判番号】不服2015-11575(P2015-11575/J1)
【審判請求日】2015年6月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397046386
【氏名又は名称】たかい食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591173213
【氏名又は名称】三和澱粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 正純
(72)【発明者】
【氏名】高井 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸本 尚大
(72)【発明者】
【氏名】末武 周一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 彰友
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 齊藤 真由美
【審判官】 木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−330257(JP,A)
【文献】 特開2007−169442(JP,A)
【文献】 特表2008−542503(JP,A)
【文献】 特開2005−336423(JP,A)
【文献】 特開平09−165401(JP,A)
【文献】 特開平05−115254(JP,A)
【文献】 特表2004−501212(JP,A)
【文献】 特開平03−182501(JP,A)
【文献】 特開昭52−010430(JP,A)
【文献】 特開昭53−148554(JP,A)
【文献】 特開昭56−068400(JP,A)
【文献】 特開昭57−132857(JP,A)
【文献】 特開昭64−071474(JP,A)
【文献】 特開昭63−061001(JP,A)
【文献】 再公表実用新案第2005/030845(JP,A1)
【文献】 特開平05−043601(JP,A)
【文献】 栗本技報,1986年,Vol.15,p.103−117
【文献】 二國二郎監修「澱粉科学ハンドブック」株式会社朝倉書店発行,1978年3月1日,p.34−39,518−520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 30/00-30/20, C13K 13/00, A23L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料に水を加えて調整したときの原料の水分が15〜50%となるように、澱粉および/又は澱粉含有物と水とを押出機のシリンダー内に添加し、下記分解組成物の物性を有するように前記シリンダー内で前記澱粉および/又は澱粉含有物を圧縮、混合、混錬、加熱、せん断の処理を行うことによって前記澱粉および/又は澱粉含有物を分解して得られる分解組成物であり、前記分解組成物中の可溶性成分の重量平均分子量は、20万以上550万以下であり、且つ、固形分10%でのラピッドビスコアナライザーを用いた粘度分析による、前記分解組成物の最終粘度は、10mPa・s以上200mPa・s以下となることを特徴とする分解組成物の製造方法。
【請求項2】
前記可溶性成分の糖組成において7糖以下の割合は、5.0%以下である請求項1記載の方法
【請求項3】
請求項1又は2項に記載の分解組成物を製造するための分解組成物の製造方法であって、原料に水を加えて調整したときの原料の水分が15〜50%となるように、澱粉および/又は澱粉含有物と水とを押出機のシリンダー内に添加し、前記シリンダー内で前記澱粉および/又は澱粉含有物を圧縮、混合、混錬、加熱、せん断の処理を行うことにより、前記分解組成物中の可溶性成分の重量平均分子量は、20万以上550万以下であり、且つ、固形分10%でのラピッドビスコアナライザーを用いた粘度分析による、前記分解組成物の最終粘度は、10mPa・s以上200mPa・s以下となるように、前記澱粉及び澱粉含有物を分解することを特徴とする分解組成物の製造方法。
【請求項4】
前記原料に水を加えて調整したときの原料の水分は、15〜50%であり、押出機処理にあたり、原料投入口シリンダー温度は100℃以下であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記押出機は、単軸押出機、2軸押出機、又はタンデム型押出機である請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記タンデム型押出機は、上段シリンダーと、中段シリンダーと、下段シリンダーとからなる3段型、又は上段シリンダーと、下段シリンダーとからなる2段型である請求項3〜5項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記押出機は、真空脱気機構を有する請求項3〜6項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉および/又は澱粉含有物を原料として、押出機を用い、シリンダー内で圧縮、混合、混錬、加熱、せん断などの処理を行うことによって、従来にはない、高分子分解物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉および/又は澱粉含有物を原料とした分解の一般的な湿式分解法においては、原料に対して100%以上の水を加えて懸濁状態にして加熱を行い、原料中の澱粉を糊化させた後に酵素もしくは酸を添加することによって分解を行う(非特許文献1、特許文献1、2)。以後上記の方法で分解された生成物を従来型分解物と呼称する。
【0003】
上記の分解法で製造された従来型分解物は、最大でも重量平均分子量10〜20万程度である。なぜなら、重量平均分子量20万以上の高分子量となる分解物を得ようとすると、製造中に沈殿物を生じ易く、かつ高粘度となってしまうため製造自体が非常に困難が予想され、確立された技術が存在しないためである。また、低濃度での製造は、濃縮、乾燥といったエネルギーコストが高くなり、製造方法としては現実的ではない。すなわち、重量平均分子量20万以上の分解物を商業的に製造することは、これまで知られていない。また、分解を進めるほどグルコース、マルトースといった糖組成の中でも低分子となる7糖以下の割合が増加する傾向にあるため、甘味度が増す傾向がある。既存の分解度の異なるサンプルを種々分析したところ、その割合はどれも5.0%以上であった。また、固形分10%におけるRVA最終粘度が、10mPa・sを超えることはなかった。
【0004】
また、澱粉および/又は澱粉含有物を原料とした高分子の製品として、α化澱粉および/又はα化澱粉含有物が知られている。
【0005】
α化澱粉および/又はα化澱粉含有物は、澱粉および/又は澱粉含有物を原料として、シングルもしくはダブルドラムドライヤーに原料懸濁液を供給することで、ドライヤー表面で糊化と乾燥を同時に行うことにより製造されることが多い。他の製造方法として、押出機やスプレードライヤーを用いる方法が知られている(非特許文献2)。
【0006】
α化澱粉の例としては、コーンスターチを原料としたα化コーンスターチ、ワキシースターチを原料としたα化ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉を原料としたα化小麦澱粉、タピオカ澱粉を原料としたα化タピオカ澱粉などがある。
【0007】
α化澱粉含有物の例としては寒梅粉が挙げられる。モチ米を蒸してついた餅を焼き色が付かないように焼き、それを微粒子に粉砕して製造される。
【0008】
これらα化澱粉および/又はα化澱粉含有物は、原料中の澱粉の糊化を目的として加熱処理が施されており、分子の大きさとしては、ほぼ澱粉そのものであり、高粘度となる。種々α化澱粉および/又はα化澱粉含有物を測定したところ、固形分10%におけるRVA最終粘度が、200mPa・sを下回ることはなかった。糖組成、重量平均分子量については、高粘度のため、測定することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-207247
【特許文献2】特開2003-250485
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】澱粉科学の辞典 425-227 2003
【非特許文献2】澱粉科学の辞典 415-417 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に普及している、澱粉および/又は澱粉含有物を原料とした酸や酵素を用いた従来型分解物とα化澱粉および/又はα化澱粉含有物の、分子量として中間に位置するものは従来存在しなかった。
【0012】
澱粉および/又は澱粉含有物の有効利用が注目されてきている中で、高濃度であっても甘味を生じさせない組成物は、粘性に特徴を有するスープ、飲料、介護食などを提供することができるが、このような有用な組成物はこれまで知られていない。
【0013】
したがって、本発明は、澱粉および/又は澱粉含有物を有効利用し、安価に有用な分解物組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明者らは、押出成形機について鋭意研究の結果、本発明を見出すに至った。
【0015】
すなわち、本発明の分解組成物の製造方法は、原料に水を加えて調整したときの原料の水分が15〜50%となるように、澱粉および/又は澱粉含有物と水とを押出機のシリンダー内に添加し、下記分解組成物の物性を有するように前記シリンダー内で前記澱粉および/又は澱粉含有物を圧縮、混合、混錬、加熱、せん断の処理を行うことによって前記澱粉および/又は澱粉含有物を分解して得られる分解組成物であり、前記分解組成物中の可溶性成分の重量平均分子量は、20万以上550万以下であり、且つ、固形分10%でのラピッドビスコアナライザーを用いた粘度分析による、前記分解組成物の最終粘度は、10mPa・s以上200mPa・s以下となることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の分解組成物の製造方法の好ましい態様において、前記可溶性成分の糖組成において7糖以下の割合は、5.0%以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の分解組成物の製造方法は、本発明の分解組成物を製造するための分解組成物の製造方法であって、原料は澱粉および/又は澱粉含有物であり、前記原料に水を加えて調整したときの原料の水分が15〜50%となるように調湿し、前記調湿後の前記原料を押出機のシリンダー内に添加し、前記シリンダー内で前記澱粉および/又は澱粉含有物を圧縮、混合、混錬、加熱、せん断の処理を行うことによる分解組成物の製造方法であり、前記押出機はタンデム型押出機であり、上段シリンダーと、中段シリンダーと、下段シリンダーとからなる3段型、又は上段シリンダーと、下段シリンダーとからなる2段型であり、上段シリンダーの温度は100〜150℃であり、中段シリンダーの温度は100〜200℃であり、下段シリンダーの温度は100〜200℃であって、前記分解組成物中の可溶性成分の重量平均分子量は、20万以上550万以下であり、且つ、固形分10%でのラピッドビスコアナライザーを用いた粘度分析による、前記分解組成物の最終粘度は、10mPa・s以上200mPa・s以下となるように、前記澱粉及び澱粉含有物を分解することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の分解組成物の製造方法の好ましい実施態様において、前記押出機処理にあたり、原料投入口シリンダー温度は100℃以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の分解組成物の製造方法の好ましい実施態様において、前記押出機は、単軸押出機、又は2軸押出機であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の分解組成物の製造方法の好ましい実施態様において、さらに、前記押出機は、真空脱気機構を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の澱粉および/又は澱粉含有物を原料とした分解物を増粘材として使用することにより、従来実現できなかった粘度を発現させることが可能であるという有利な効果を奏する。特にこの増粘効果は、本発明の澱粉および/又は澱粉含有物を原料とした分解物特有の重量平均分子量が20万以上550万以下という、限られた分子量に依存するものであり、また、高濃度となった場合でも甘味を生じさせず、粘性に特徴を有するスープ、飲料、介護食などを提供することができるという有利な効果を奏する。また、本発明の分解組成物は、適度な粘度を有することから、米飯、麺に添加することにより、米飯、麺をコーティングし、乾燥や白化といった劣化を抑制し、米飯、麺同士がほぐれやすくなるといった有利な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の分解組成物は、澱粉および/又は澱粉含有物と水とを押出機のシリンダー内に添加し、前記シリンダー内で前記澱粉および/又は澱粉含有物を圧縮、混合、混錬、加熱、せん断の処理を行うことによって得られる分解組成物であり、前記分解組成物中の可溶性成分の重量平均分子量は、20万以上550万以下であり、且つ、固形分10%でのRVAを用いた粘度分析による、前記分解組成物の最終粘度は、10mPa・s以上200mPa・s以下となることを特徴とする。本発明の分解組成物は、澱粉および/又は澱粉含有物と水とを押出機のシリンダー内に添加し、前記シリンダー内で前記澱粉および/又は澱粉含有物を圧縮、混合、混錬、加熱、せん断の処理を行うことによって得られる分解組成物であり、薬品、例えば酵素等を添加することなく水を添加して、簡便に生産可能となっている。一般的な湿式分解法においては、澱粉および/又は澱粉含有物に対して100%以上の水を加えて懸濁状態にして加熱を行い、原料中の澱粉を糊化させた後に酵素もしくは酸を添加することによって分解を行うが、本発明は酵素や酸等の薬品を用いることなしに、物理的な力により澱粉分子等の分解を行うことが可能である。
【0024】
澱粉および/又は澱粉含有物としては、押出機により、液化することが可能であれば、特に限定されず、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等の一般的な澱粉、及び例えば、米、とうもろこし、じゃがいも、さつまいも、小麦、キャッサバ等の一般的な澱粉含有物を挙げることができる。
【0025】
本発明で用いられる米澱粉又は米粒は、特に限定されるものではない。例えば、米澱粉又は米粒として、うるち米、もち米等を原料とする米澱粉又は米粒を用いることができる。米粒としては、精白米、玄米、屑米、古米などを挙げることできる。
【0026】
また、本発明においては、米粉を用いることもできる。一般に、米粉は、うるち米、もち米を問わず、粳米、糯米の生米を精米し粉砕、粉末化したもので、粉砕する前の生米としては、精白米、玄米、屑米、古米などを挙げることができるが、特に制限されることなく、本発明の組成物等に米粉として用いることができる。
【0027】
前記米粉の製粉方法は、胴搗き製粉、ロール製粉、石臼製粉、気流粉砕製粉、ピンミル製粉のいずれの方法も用いることができる。
【0028】
また、本発明の好ましい実施態様において、前記米粉の粒度としては、米粒でも液化可能であるので、粒径の上限については特に限定されない。例えば、一般的な篩(メッシュ)の規格である、3.5メッシュから635メッシュを使用することができる。なお3.5メッシュは約5.6mm、635メッシュは約20μmとなる。なお、平均粒度の測定方法については、米粉業界通例で行う「メッシュパス」でおおよその粒子径を測定する方法によるものである。具体的には、ザル状の篩を使用し刷毛でこすり、何メッシュの金網を通ったものが、結果的に何μmであるかによって定めることができる。したがって、より正確には、平均粒度としては、最低150メッシュパス、最高330メッシュパスの平均粒度が30〜80μmとすることができる。
【0029】
本発明において、重量平均分子量は以下の方法に従って測定することができる。すなわち、固形分濃度1%の水溶液を調製し、0.45μmフィルターでろ過後、昭和電工(株)製や東ソー(株)製などのゲルろ過タイプのカラムを用い、標準を種々の分子量のプルランとした、通常のゲルろ過クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0030】
本発明において、粘度については、固形分10%水溶液を調製し、RVA-4500(フォスジャパン(株)製)35℃で21分攪拌後、21-33分に掛けて5℃/分で昇温し、95℃で10分維持した後、5℃/分で冷却し、50℃まで冷却する。RVA最終粘度とは、95℃まで昇温後50℃まで冷却したときの粘度を示す。
【0031】
本発明において、麺、米飯のほぐれの効果等という観点から、前期分解組成物中の可溶性成分の重量平均分子量は、20万以上550万以下である。20万未満であると、低分子過ぎて麺、米飯の表面に十分な水和層を形成できずにほぐれ効果等が望めず、550万を超えると分子が大きすぎて、麺、米飯の表面の水和層が高粘度となって付着性が高くなり、ほぐれ効果が望めないからである。
【0032】
また、本発明において、タレ・スープの粘度出し等の効果という観点から、固形分10%ラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いた粘度分析による、前期分解組成物の最終粘度は、10mPa・s以上200mPa・s以下となることを特徴とする。10mPa・s未満であると、低粘度過ぎてタレ・スープの麺や具材への乗りやからみが悪くなり、200mPa・sを超えると、高粘度過ぎてタレ・スープとしての口当たりが重くなり不適とされるからである。
【0033】
また、本発明の分解組成物の好ましい態様において、甘味を示さないという観点から、前記可溶性成分の糖組成において7糖以下の割合は、5.0%以下であることを特徴とする。
【0034】
本発明において、糖組成は以下の方法に従って測定することができる。固形分濃度1%の水溶液を調製し、0.45μmフィルターでろ過後、カラムとして例えばMCI CK04S(三菱化学社製)を用いた通常の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の通常分析法にて、糖組成を測定することができる。
【0035】
また、本発明の分解組成物の製造方法は、本発明の分解組成物を製造するための分解組成物の製造方法であって、澱粉および/又は澱粉含有物と水とを押出機のシリンダー内に添加し、前記シリンダー内で前記澱粉および/又は澱粉含有物を圧縮、混合、混錬、加熱、せん断の処理を行うことを特徴とする。本発明の製造方法の特徴の一つとして、薬品、例えば酵素等を添加することなく水を添加して、簡便に有用な分解組成物を生産可能となっている。一般的な湿式分解法においては、澱粉および/又は澱粉含有物に対して100%以上の水を加えて懸濁状態にして加熱を行い、原料中の澱粉を糊化させた後に酵素もしくは酸を添加することによって分解を行うが、本発明は酵素や酸等の薬品を用いることなしに、物理的な力により澱粉分子等の分解を行うことが可能である。
【0036】
また、本発明の分解物組成物の好ましい実施態様において、分解時の適性粘度という観点から、前記原料に水を加えて調整したときの原料水分は、15〜50%であることを特徴とする。15%未満であると、押出機内で高粘度となり機械に過剰な負荷がかかる虞があり、50%を超えると、低粘度過ぎて押出機内で分解されにくい虞があるからである。
【0037】
また、本発明の分解組成物の製造方法の好ましい実施態様において、前記押出機は、単軸押出機、2軸押出機、又はタンデム型押出機であることを特徴とする。タンデム型多段押出機は、2段から5段までのシリンダー構成が好ましく、混練の均一性、自由度という観点から、各段に存在するスクリュー本数は1〜8本が望ましい。タンデム型押出機は2段以上のシリンダー構成が望ましいが、量産性、メンテナンスの簡易さから、2段から3段の構成が特に好ましい。
【0038】
また、本発明の分解組成物の製造方法の好ましい実施態様において、前記タンデム型押出機は、上段シリンダーと、中段シリンダーと、下段シリンダーとからなる3段型、又は上段シリンダーと、下段シリンダーとからなる2段型であることを特徴とする。また、原料投入口への水蒸気逆流を防止するという観点から、好ましくは、投入口の付近のシリンダー温度は、100℃以下とすることを特徴とする。また、各シリンダー内のスクリュー構成は単軸、2軸が望ましく、量産性、メンテナンスの簡易さから2軸が特に好ましい。
【0039】
本発明において、例えば、ワキシーコーンスターチ由来の分解組成物の製造の場合、3段タンデム型押出機を利用し、澱粉結晶を崩壊させる観点から上段シリンダー温度100〜150℃、澱粉分子を分解するという観点から中段シリンダー温度100〜200℃、中段シリンダーに引き続き澱粉分子を分解し、更に生成物の水分を下げ、乾燥しやすくするという観点から下段シリンダー温度100〜200℃とすることが望ましい。また、例えば、米由来の分解組成物の製造の場合、2段タンデム型押出機を利用し、米に含有される澱粉結晶を崩壊させる観点から上段シリンダー温度100〜150℃、澱粉分子を分解し、更に生成物の水分を下げ、乾燥しやすくするという観点から下段シリンダー温度100〜200℃とすることが望ましい。酵素等の薬品を使用しないことから、酵素失活等を検討する必要がなく、比較的高い温度を使用することができる点も特徴的である。
【0040】
また、本発明において、好ましくは、押出機処理にあたり、処理温度は、原料投入口温度100℃以下とし、最終出口温度100〜200℃とすることができる。
【0041】
また、本発明の分解組成物の製造方法の好ましい実施態様において、さらに、前記押出機は、真空脱気機構を有することを特徴とする。また、本発明において、好ましくは、前記タンデム型多段押出機の各段の最後に真空脱気可能機構があり、生成物の水分を減少させることが可能であることが望ましい。
【実施例】
【0042】
本発明をさらに以下の実施例において詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1:実施例試料1)
うるち米(ジャポニカ米)を洗米後、水分を添加し、水分23.2%に調湿後、この原料を2軸2段タンデム型押出機にて処理を行った。処理時間は1分以内であった。(1段目:L/D=12、2段目:L/D=12、それぞれスクリュー径100mm)尚、スクリューの長さをL、スクリュー径をDとする。
回転数:200rpm
入口温度設定:室温(約20℃)
上段シリンダー温度設定:120℃
下段シリンダー温度設定:120℃
得られた生成物の水分は、11.5%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0044】
(実施例2:実施例試料2)
もち米(ジャポニカ米)を洗米後、水分を添加し、水分22.5%に調湿後、この原料を2軸2段タンデム型押出機にて処理を行った。処理時間は、1分以内であった。(1段目:L/D=12、2段目:L/D=12、それぞれスクリュー径100mm)
回転数:200rpm
入口温度設定:室温(約20℃)
上段シリンダー温度設定:120℃
下段シリンダー温度設定:120℃
得られた生成物の水分は、10.3%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0045】
(実施例3:実施例試料3)
もち米(インディカ米)を洗米後、水分を添加し、水分20.8%に調湿後、この原料を2軸2段タンデム型押出機にて処理を行った。処理時間は、1分以内であった。(1段目:L/D=12、2段目:L/D=12、それぞれスクリュー径100mm)
回転数:200rpm
入口温度設定:室温(約20℃)
上段シリンダー温度設定:120℃
下段シリンダー温度設定:120℃
得られた生成物の水分は、9.5%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0046】
(実施例4:実施例試料4)
市販のワキシーコーンスターチに水を添加し、水分45.6%に調湿したワキシーコーンスターチを得た。この原料を2軸2段タンデム型押出機にて処理を行った。処理時間は、1分以内であった。(1段目:L/D=12、2段目:L/D=12、それぞれスクリュー径100mm)
回転数:200rpm
入口温度設定:80℃
上段シリンダー温度設定:140℃
下段シリンダー温度設定:140℃
得られた生成物の水分は、19.6%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0047】
(実施例5:実施例試料5)
市販のワキシーコーンスターチに水を添加し、水分47.7%に調湿したワキシーコーンスターチを得た。この原料を単軸3段タンデム型押出機にて処理を行った。処理時間は2分以内であった。(1段目:L/D=8、2段目:L/D=15、3段目:L/D=15 それぞれスクリュー径15mm)
回転数:400rpm
入口温度設定:室温(約20℃)
上段シリンダー温度設定:130℃
中段シリンダー温度設定:130℃
下段シリンダー温度設定:130℃
得られた生成物の水分は、13.8%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0048】
(実施例6:実施例試料6)
市販のワキシーコーンスターチに水を添加し、水分30.6%に調湿したワキシーコーンスターチを得た。この原料を2軸押出機にて処理を行った。処理時間は、1分以内であった。(L/D=20 スクリュー径15mm)
回転数:500rpm
入口温度設定:室温(約20℃)
シリンダー温度設定:140℃
得られた生成物の水分は、18.5%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0049】
(実施例7:実施例試料7)
市販のワキシーコーンスターチに水を添加し、水分40.3%に調湿したワキシーコーンスターチを得た。この原料を2軸押出機にて処理を行った。処理時間は、1分以内であった。(L/D=20 スクリュー径15mm)
回転数:700rpm
入口温度設定:室温(約20℃)
シリンダー温度設定:140℃
得られた生成物の水分は、27.0%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0050】
(実施例8:実施例試料8)
市販のコーンスターチに水を添加し、水分23.7%に調湿したワキシーコーンスターチを得た。この原料を2軸押出機にて処理を行った。(L/D=20 スクリュー径45mm)
回転数:250rpm
入口温度設定:50℃
シリンダー温度設定:120〜140℃
得られた生成物の水分は、15.0%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0051】
(実施例9:実施例試料9)
市販のワキシーコーンスターチに水を添加し、水分45.6%に調湿したワキシーコーンスターチを得た。この原料を2軸2段タンデム型押出機にて処理を行った。(1段目:L/D=12、2段目:L/D=12、それぞれスクリュー径100mm)
回転数:200rpm
入口温度設定:80℃
上段シリンダー温度設定:125℃
下段シリンダー温度設定:125℃
得られた生成物の水分は、20.6%であった。得られた生成物の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0052】
(比較例1:比較例試料1)
モチ米を原料にα化させた市販の寒梅粉(MG寒梅粉:たかい食品(株)製)のRVA最終粘度データを表1に示す。
【0053】
(比較例2:比較例試料2)
ワキシースターチを原料にα化させた、市販のワキシースターチアルファー化品(ワキシーアルファーY:三和澱粉工業(株)製)のRVA最終粘度データを表1に示す。
【0054】
(比較例3:比較例試料3)
コーンスターチを原料にα化させた、市販のコーンスターチアルファー化品(コーンアルファーY:三和澱粉工業(株)製)のRVA最終粘度データを表1に示す。
【0055】
(比較例4:比較例試料4)
ワキシースターチを原料に酵素分解させた、市販のDE2.7の澱粉加水分解物(サンデック#30:三和澱粉工業(株)製)の糖組成、重量平均分子量、RVA最終粘度データを表1に示す。
【0056】
【表1】
*表1中のND : No Date
【0057】
表1の実施例1〜9に示すとおり、澱粉および/又は澱粉含有物を原料として、押出機を用い、薬品を添加することなく水を添加し、シリンダー内で圧縮、混合、混錬、加熱、せん断などの処理を行うことによって得られた分解組成物は、可溶性成分の重量平均分子量が20万以上550万以下、且つ、固形分10%におけるRVA最終粘度が、10mPa・s以上200mPa・s以下となっていることがわかり、本発明の澱粉および/又は澱粉含有物を原料とした分解物を増粘材として使用することにより、従来実現できなかった粘度を発現させることが可能であることが判明した。また、本発明の分解組成物は、適度な粘度を有することから、米飯、麺に添加することにより、米飯、麺をコーティングし、乾燥や白化といった劣化を抑制し、米飯、麺同士がほぐれやすくなることが判明した。また、可溶性成分の糖組成において7糖以下の割合が5.0%以下のものも良好であることが判明し、高濃度となった場合でも甘味を生じさせず、粘性に特徴を有するスープ、飲料、介護食などを提供するなど新たな調味料として提供することが期待できることが判明した。また、いずれも処理時間が1分〜2分以内と非常に短く、簡便に所望の分解組成物を提供し得ることが判明した。
【0058】
一方、澱粉および/又は澱粉含有物を原料としたα化品(比較例1〜3)の固形分10%でのRVA最終粘度が200 mPa・s以上となっており、また、澱粉および/又は澱粉含有物を原料とした従来型分解物の7糖以下の割合が5.0%以上であり、重量平均分子量が20万以下であり、RVAによる最終粘度(固形分10%、50℃)が、10mPa・sを超えることができないことから、有用な素材として不向きであることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
近年、米粉等の有効利用が重要な課題となっており、簡易な本技術は広範な分野において応用可能である。