特許第6099312号(P6099312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099312
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】プロテオグリカン固定化有機材料
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/03 20060101AFI20170313BHJP
   D06M 15/15 20060101ALI20170313BHJP
   C07K 14/46 20060101ALI20170313BHJP
   C07K 17/08 20060101ALI20170313BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   D06M15/03
   D06M15/15
   C07K14/46
   C07K17/08
   C08B37/00 Q
【請求項の数】3
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-57111(P2012-57111)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189401(P2013-189401A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年3月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511112652
【氏名又は名称】株式会社グライコスモ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真範
(72)【発明者】
【氏名】児島 薫
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−031408(JP,A)
【文献】 特表2008−509742(JP,A)
【文献】 特開2007−186831(JP,A)
【文献】 特表2012−501701(JP,A)
【文献】 特開2009−207430(JP,A)
【文献】 特開2008−150464(JP,A)
【文献】 特表2004−538034(JP,A)
【文献】 人工臓器,1990年,Vol.19, No.2,p.848-851
【文献】 加工技術, 1999, Vol.34, No.3, p.11-15
【文献】 加工技術, 1999, Vol.34, No.4, p.35-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子繊維材料とプロテオグリカンとが少なくとも一つの一般式(4):
【化1】
[式中、*1は高分子繊維材料中の炭素と共有結合する部位を示し、
*2はプロテオグリカン中の窒素原子と共有結合する部位を示し、
X’は、式(5):
【化2】
(式中、*3は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素のいずれかと共有結合する部位を示す)
で表される基、
式(6):
【化3】
(式中、*3は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素のいずれかと共有結合
する部位を示す)
で表される基、又は
式(7):
【化4】
(式中、*3は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素のいずれかと共有結合する部位を示す)
で表される基を示し、
Yは、式(10):
【化5】
(式中、*4は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、
式(11):
【化6】
(式中、*4は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、又は
式(12):
【化7】
(式中、*4は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基を示す]
で表される基を介して結合してなる、プロテオグリカン固定化高分子繊維材料
【請求項2】
前記高分子繊維材料が、肌に直接触れ得る高分子繊維加工材料である、請求項に記載のプロテオグリカン固定化高分子繊維材料
【請求項3】
プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基が、一般式(1):
【化8】
[式中、*2はプロテオグリカン中の窒素原子と共有結合する部位を示し、
Xは、アジド基、
式(2):
【化9】
で表される基、又は
式(3):
【化10】
で表される基を示し、
Yは、式(10):
【化11】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、
式(11):
【化12】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、又は
式(12):
【化13】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基を示す]
で表される基で置換された、光反応基含有プロテオグリカンと
高分子繊維材料と
光照射下で反応させることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロテオグリカン固定化高分子繊維材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反応基含有プロテオグリカン、並びにプロテオグリカン固定化有機材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、その構造に由来する保水作用、創傷治癒作用、中枢神経の発達補助作用、及び血液凝固阻止作用等、様々な機能を有している。従って、これらの機能に基づいた各種利用例が知られている。例えば、保水作用を利用して、肌に塗布することにより、肌の水分量を高めるという利用例が挙げられる。この利用例に代表されるように、プロテオグリカンの従来の利用例は、プロテオグリカンそのものを使用(例えば肌への塗布)するというものであった(特許文献1)。
【0003】
従来の利用例のように、プロテオグリカンそのものを使用するという利用形態では、利用分野が限定されてしまう。従って、プロテオグリカンが有する種々の機能を他分野において発揮することができる、プロテオグリカンの新規の利用形態の創出が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特開2005−239698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、プロテオグリカンの新規の利用形態を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、プロテオグリカンに置換基として光反応基を有する基を置換させることによって、プロテオグリカンを種々の有機材料に固定化できることを見出した。さらに、プロテオグリカンが固定化された有機材料が、プロテオグリカンの機能に由来する種々の機能を発揮できることを明らかにし、該有機材料がプロテオグリカンの新規の利用形態として有効であることを見出した。これらの知見に基づき、さらに鋭意研究を重ねることによって本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、下記の構成を有する発明を包含する。
【0008】
項1.
プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基が、一般式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
[式中、*2はプロテオグリカン中の窒素原子と共有結合する部位を示し、
Xは、アジド基、
式(2):
【0011】
【化2】
【0012】
で表される基、又は
式(3):
【0013】
【化3】
【0014】
で表される基を示し、
Yは、式(10):
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、
式(11):
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、又は
式(12):
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基を示す]
で表される基で置換された、光反応基含有プロテオグリカン。
【0021】
項2.
有機材料とプロテオグリカンとが少なくとも一つの一般式(4):
【0022】
【化7】
【0023】
[式中、*1は有機材料中の炭素と共有結合する部位を示し、
*2はプロテオグリカン中の窒素原子と共有結合する部位を示し、
X’は、式(5):
【0024】
【化8】
【0025】
(式中、*3は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素のいずれかと共有結合する部位を示す)
で表される基、
式(6):
【0026】
【化9】
【0027】
(式中、*3は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素のいずれかと共有結合する部位を示す)
で表される基、又は
式(7):
【0028】
【化10】
【0029】
(式中、*3は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素のいずれかと共有結合する部位を示す)
で表される基を示し、
Yは、式(10):
【0030】
【化11】
【0031】
(式中、*4は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、
式(11):
【0032】
【化12】
【0033】
(式中、*4は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、又は
式(12):
【0034】
【化13】
【0035】
(式中、*4は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基を示す]
で表される基を介して結合してなる、プロテオグリカン固定化有機材料。
【0036】
項3.
前記有機材料が高分子繊維材料である項2に記載のプロテオグリカン含有有機材料。
【0037】
項4.
前記有機材料がプラスチック材料である項2に記載のプロテオグリカン含有有機材料。
【0038】
項5.
プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基が、一般式(1):
【0039】
【化14】
【0040】
[式中、*2はプロテオグリカン中の窒素原子と共有結合する部位を示し、
Xは、アジド基、
式(2):
【0041】
【化15】
【0042】
で表される基、又は
式(3):
【0043】
【化16】
【0044】
で表される基を示し、
Yは、式(10):
【0045】
【化17】
【0046】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、
式(11):
【0047】
【化18】
【0048】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基、又は
式(12):
【0049】
【化19】
【0050】
(式中、*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す)
で表される基を示す]
で表される基で置換された、光反応基含有プロテオグリカンと
有機材料とを
光照射下で反応させることを特徴とする、項2〜4のいずれかに記載のプロテオグリカン含有有機材料の製造方法。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、プロテオグリカンの新規の利用形態を提供することができる。具体的には、プロテオグリカンを有機材料に固定化することによって、プロテオグリカンが有する種々の機能が付与されたプロテオグリカン固定化有機材料を提供することができる。例えば、プロテオグリカンが固定化された高分子繊維材料は、単に肌に接触させるというだけで、驚くべきことに、肌水分量を顕著に増加させることができる。また、別の例では、プロテオグリカンが固定化されたシャーレ上で細胞を培養することにより、該細胞の増殖速度を著しく増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】光反応基含有プロテオグリカン調製の反応式を示す。
図2】プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレの製造方法(パターン1)の概略を示す。
図3】プロテオグリカンがプラスチックシャーレに固定化されていることを確認した結果を示す。
図4】プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレの製造方法(パターン2)の概略を示す。
図5】プロテオグリカンが繊維に固定化されていることを確認した結果を示す。
図6】プロテオグリカン固定化ナイロン繊維の保湿特性を評価した結果を示す。
図7】プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレの、細胞増殖に対する影響を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
1.光反応基含有プロテオグリカン
本発明は、プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基が、一般式(1):
【0054】
【化20】
【0055】
[式中、X、Yは前記に同じである]
で表される基で置換された、光反応基含有プロテオグリカンに関する。
【0056】
プロテオグリカンとしては、タンパク質にグリコサミノグリカン側鎖が共有結合した化合物であれば特に限定されないが、例えば、アグリカン、バーシカン、デコリン、ビグリカン、フィブロモデュリン、ルミカン、パールカン、シンデカン、セルグリシン、ブレビカン、ケラトカン、ミメカン、バーマカン、又はアグリン等が例示される。この中でも、好ましくはアグリカン、バーシカン、シンデカン、又はデコリンが挙げられ、より好ましくはアグリカンが挙げられる。
【0057】
「プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基」とは、プロテオグリカン中のアミノ基であれば特に限定されず、例えばプロテオグリカンのコアタンパク質のアミノ末端に存在するアミノ基、或いは該コアタンパク質を構成するアミノ酸の側鎖に存在するアミノ基が挙げられる。
【0058】
「プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基が、一般式(1)で表される基で置換された」とは、換言すれば、プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基から水素を除いて得られる窒素原子に、一般式(1)で表される基中の*2で示される部位が、共有結合により連結されたことを示す。置換されたアミノ基の数は、特に限定されず、プロテオグリカン中のアミノ基のうちの一つであってもよいし、プロテオグリカン中のアミノ基の全部であってもよい。
【0059】
Xは、アジド基、
式(2):
【0060】
【化21】
【0061】
で表される基、又は
式(3):
【0062】
【化22】
【0063】
で表される基である。Xとしては、好ましくはアジド基、又は式(2)で表される基が挙げられ、より好ましくはアジド基が挙げられる。
【0064】
Xの置換位置としては、一般式(1)で表される基中、ベンゼン環に結合しているYで表される基の位置を1位とした場合に、2位、3位、又は4位の置換位置が挙げられる。これらの中でも、Xの置換位置として4位の置換位置が好ましく挙げられる。
【0065】
Yは、式(10):
【0066】
【化23】
【0067】
で表される基、
式(11):
【0068】
【化24】
【0069】
で表される基、又は
式(12):
【0070】
【化25】
【0071】
で表される基である。*4は一般式(1)で表される基中のベンゼン環上の炭素と共有結合する部位を示す。Yとしては、好ましくは式(10)で表される基が挙げられる。
【0072】
一般式(1)で表される基としては、具体的には4−アジドベンゾイル基、3−アジドベンゾイル基、2−アジドベンゾイル基、4−トリフルオロメチルジアジリンベンゾイル基、3−トリフルオロメチルジアジリンベンゾイル基、2−トリフルオロメチルジアジリンベンゾイル基、4−ベンゾイルベンゾイル基、3−ベンゾイルベンゾイル基、又は2−ベンゾイルベンゾイル基が挙げられる。これらの中でも、好ましくは4−アジドベンゾイル基、3−アジドベンゾイル基、又は2−アジドベンゾイル基が挙げられ、より好ましくは4−アジドベンゾイル基が挙げられる。
【0073】
光反応基含有プロテオグリカンは、プロテオグリカンと一般式(8):
【0074】
【化26】
【0075】
[式中、Xは前記に同じである。
Y’は、式(13):
【0076】
【化27】
【0077】
で表される基、
式(14):
【0078】
【化28】
【0079】
で表される基、又は
式(15):
【0080】
【化29】
【0081】
で表される基を示す。]
で表される化合物とを反応させることにより製造することができる。より詳細には、該反応により、プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基と、一般式(8)で表される化合物中のカルボキシル基との間で結合を形成させることにより製造することができる。この結合は、Y’が式(13)で表される基である場合はアミド結合であり、Y’が式(14)で表される基である場合は尿素結合であり、Y’が式(15)で表される基である場合はチオ尿素結合である。
【0082】
Y’としては、好ましくは式(13)で表される基が挙げられる。
【0083】
一般式(8)で表される化合物としては、具体的には4−アジド安息香酸、3−アジド安息香酸、2−アジド安息香酸、4−トリフルオロメチルジアジリン安息香酸、3−トリフルオロメチルジアジリン安息香酸、2−トリフルオロメチルジアジリン安息香酸、4−ベンゾイル安息香酸、3−ベンゾイル安息香酸、又は2−ベンゾイル安息香酸が挙げられる。これらの中でも、好ましくは4−アジド安息香酸、3−アジド安息香酸、又は2−アジド安息香酸が挙げられ、より好ましくは4−アジド安息香酸が挙げられる。
【0084】
反応は、アミド結合、尿素結合、又はチオ尿素結合を形成させることができる、公知の方法又はこれに準じた方法に従って行うことができる。例えば、アミド結合の場合は、適当な溶媒中、脱水縮合剤の存在下で反応させることにより行われる。尿素結合又はチオ尿素結合の場合は、適当な溶媒中で反応させればよい。
【0085】
溶媒としては、水、又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えばジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、又はピリジンを用いればよい。溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
脱水縮合剤としても公知のものを採用することができる。例えば、水溶性カルボジイミド(WSC)等を用いればよい。
【0087】
反応温度及び反応時間の条件も、公知の方法に従って適宜設定できる。例えば、室温(15〜25℃)下で2〜24時間程度という条件で行えばよい。
【0088】
上記反応により生成された光反応基含有プロテオグリカンは、公知の精製手段(塩析、又はクロマトグラフィー等)により精製してもよい。
【0089】
光反応性基の導入の確認は、IRの吸収スペクトルで、光反応性基の吸収に由来する波長の吸収を確認することにより行うことができる。光反応性基の吸収に由来する波長は既に知られており、例えばアジド基の場合は2150 cm-1付近である。
【0090】
本発明の光反応基含有プロテオグリカンを用いることにより、後述のプロテオグリカン固定化有機材料を簡便且つ効率的に製造することができる。また、本発明の光反応基含有プロテオグリカンは、安定性に優れ、水溶液の状態でも長期間保存することができる。さらに、有機材料へのプロテオグリカンの固定化が容易に行えるため、有機材料として種々の有機材料を採用してみることにより、プロテオグリカンの新規の利用形態の探索にも使用できる。
【0091】
2.プロテオグリカン固定化有機材料
本発明は、有機材料とプロテオグリカンとが少なくとも一つの一般式(4):
【0092】
【化30】
【0093】
[式中、X’及びYは前記に同じである。]
で表される基を介して結合してなる、プロテオグリカン固定化有機材料に関する。
【0094】
有機材料としては、炭素−水素結合を有する材料、例えばメチル基、又はメチレン基を有する材料であれば特に限定されない。このような材料としては、例えば、高分子繊維材料、プラスチック材料が挙げられる。
【0095】
高分子繊維材料としては、特に限定されないが、例えば、綿、毛、絹、麻、ビスコース繊維、銅アンモニア繊維、アセテート繊維、プロミックス繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニリデン系合成繊維、ポリ塩化ビニル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリアクリロニトリル系合成繊維、ポリエチレン系合成繊維、ポリプロピレン系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、ポリクラール系合成繊維、炭素繊維、若しくは羽毛等の高分子繊維そのもの、又はこれらの高分子繊維を加工した材料が挙げられる。これらの中でも好ましくはナイロン繊維が挙げられる。
【0096】
ナイロン繊維としては、ナイロン6繊維、ナイロン11繊維、ナイロン12繊維、ナイロン46繊維、ナイロン6,6繊維、ナイロン6,10繊維、又はナイロン6,12繊維が挙げられる。これらの中でも好ましくはナイロン6,6繊維が挙げられる。
【0097】
上記高分子繊維を加工した材料としては、例えば衣類、寝具、バンドエイド、マスク、包帯、又は介護用品等が挙げられる。衣類としては、特に限定されないが、肌に直接触れ得るものが好ましく挙げられる。このような衣類としては、例えば帽子、肌着、手袋、靴下、ストッキング、マフラー、ストール、下着、又はオムツ(赤ちゃん用、介護用)等が挙げられる。寝具としては、特に限定されないが、肌に直接触れ得るものが好ましく挙げられる。このような寝具としては、例えば、シーツ、布団カバー、又は枕カバーなどが挙げられる。
【0098】
プラスチック材料としては、特に限定されないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタンジエンスチレン樹脂、スチレンアクリロニトリルコポリマー、アクリル樹脂、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、若しくはポリアミドイミド等のプラスチックそのもの、又はこれらのプラスチックを加工した材料が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレン又はポリ塩化ビニルが好ましく挙げられる。
【0099】
上記プラスチックを加工した材料としては、例えばプラスチック製シャーレや医療用チューブが挙げられる。
【0100】
プロテオグリカンとしては、上記「1.光反応基含有プロテオグリカン」に記載のものと同一のものが挙げられる。
【0101】
有機材料とプロテオグリカンとは、少なくとも1つの一般式(4)で表される基を介して結合している。一般式(4)中、*1は有機材料中の炭素と共有結合する部位を示し、*2はプロテオグリカン中の窒素原子と共有結合する部位を示す。
【0102】
すなわち、「一般式(4)で表される基を介して結合している」とは、一般式(4)で示される基の*1で示される部位が有機材料中の炭素原子と共有結合し、一般式(4)で示される基の*2で示される部位がプロテオグリカン中の窒素原子と共有結合することにより、有機材料とプロテオグリカンとが連結(換言すれば、有機材料にプロテオグリカンが固定化)していることを示す。
【0103】
「少なくとも一つの一般式(4)で表される基」とは、有機材料とプロテオグリカンの結合を介する一般式(4)で表される基の数が、一つであってもよいし、複数であってもよいことを意味する。上限の数は、有機材料中の炭素数又はプロテオグリカン中のアミノ基の数のいずれか少ない数である。
【0104】
X’は、式(5):
【0105】
【化31】
【0106】
で表される基、
式(6):
【0107】
【化32】
【0108】
で表される基、又は
式(7):
【0109】
【化33】
【0110】
で表される基である。X’としては、好ましくは式(5)で表される基、又は式(6)で表される基が挙げられ、より好ましくは式(5)で表される基が挙げられる。
【0111】
*3は一般式(4)で表される基中のベンゼン環上の炭素のいずれかと共有結合する部位を示す。
【0112】
X’の置換位置としては、一般式(4)で表される基中、ベンゼン環に結合しているYで表される基の位置を1位とした場合に、2位、3位、又は4位の置換位置が挙げられる。これらの中でも、Xの置換位置として4位の置換位置が好ましく挙げられる。
【0113】
Yとしては、好ましくは式(10)で表される基が挙げられる。
【0114】
本発明のプロテオグリカン固定化有機材料は、プロテオグリカンの新規の利用形態を提供するものである。具体的には、本発明は、プロテオグリカンが有する機能が付与された有機材料を提供することができる。また、プロテオグリカンが非常に強固に有機材料に固定化されているため、繰り返し使用することができる。例えば、プロテオグリカンが固定化された衣類は、洗剤で洗浄した後でも、プロテオグリカンの固定化が保持されている。
【0115】
特に、本発明においては、有機材料として高分子繊維材料を用いた場合、一般式(4)で表される基を介して結合したプロテオグリカンの作用により、該材料が接する部分に保湿性を与えられることが見出された。この効果は前記材料を単に肌に接触させることにより得られるため、非常に簡便にプロテオグリカンの保湿性を発揮できる。さらに、高分子繊維材料に固定化されたプロテオグリカンは、洗剤による洗浄後でも保持されるため、何回でも繰り返してプロテオグリカンの効果を発揮できる。このように、高分子繊維材料にプロテオグリカンを固定化することにより、プロテオグリカンの従来の利用形態とは全く異なる、新規の利用形態が提供される。
【0116】
有機材料として、プラスチック材料を用いた場合、例えばプラスチック製シャーレを用いた場合は、固定化されたプロテオグリカンの作用により、該シャーレ上で培養される細胞の増殖速度を増加させることができる。これにより、例えば、短期間で大量の細胞を調製することができる。また、有機材料として、例えば医療用チューブを用いた場合は、固定化されたプロテオグリカンの作用により、医療用チューブ内の血液の凝固を阻止或いは遅延させることができる。
【0117】
3.プロテオグリカン固定化有機材料の製造方法
本発明は、上記「2.プロテオグリカン固定化有機材料」で説明したプロテオグリカン固定化有機材料の、製造方法に関する。
【0118】
3−1.製造方法1
本発明は、プロテオグリカンの少なくとも一つのアミノ基が、一般式(1)で表される基で置換された、光反応基含有プロテオグリカンと
有機材料とを
光照射下で反応させることを特徴とする、プロテオグリカン固定化有機材料の製造方法に関する。
【0119】
光反応基含有プロテオグリカンは、上記「1.光反応基含有プロテオグリカン」の説明と同一である。
【0120】
有機材料は、上記「2.プロテオグリカン固定化有機材料」の説明と同一である。
【0121】
光は、一般式(1)中、Xで表される基(以下、「光反応基」と示すこともある)を活性化させ、該活性化された光反応基を有機材料中の炭素原子と共有結合させる波長を含む光であれば特に限定されない。例えば、アジド基は300nm付近の波長の光を吸収し、活性化された基であるナイトレン基に変化することから、光反応基がアジド基である場合は、300nm付近の波長を含む光(自然光、好ましくはUV光)を採用すればよい。また、式(2)で表される基は360nm付近の波長の光を吸収し、活性化された基であるカルベン基に変化することから、光反応基が式(2)で表される基である場合は、360nm付近の波長を含む光(自然光、好ましくはUV光)を採用すればよい。さらに、式(3)で表される基は360nm付近の波長の光を吸収し、該基中のカルボニル基がラジカル性の強い励起三重項状態になることから、光反応基が式(3)で表される基である場合は、360nm付近の波長を含む光(自然光、好ましくはUV光)を採用すればよい。
【0122】
光源としては、上記光を発生できる光源である限り特に限定されないが、例えばUVランプ、白熱電球、蛍光灯、アーク灯、無電球放電灯、HIDランプ、低圧放電灯、冷陰極型蛍光管、外部電極型蛍光管、エレクトロルミネセンスライト、レーザー、又は放射光等が挙げられる。
【0123】
反応は、光反応基含有プロテオグリカンと有機材料とが接した状態で行う限り特に限定されず、適当な溶媒中で行ってもよく、溶媒非存在下で行ってもよい。適当な溶媒(例えば水)中で行う場合は、例えば有機材料に光反応基含有プロテオグリカン水溶液を塗布し、該溶液を乾燥させずに、該塗布領域に光を照射すればよい。また、溶媒非存在下で行う場合は、例えば有機材料に光反応性基含有プロテオグリカン水溶液を塗布し、該水溶液を乾燥させた後、該塗布領域に光を照射すればよい。
【0124】
光照射下で反応させることにより、光反応基含有プロテオグリカン中の光反応基が活性化し、該活性化した基と有機材料とが連結され、プロテオグリカン固定化有機材料が得られる。
【0125】
上記製造方法により、プロテオグリカン固定化有機材料を非常に簡便に且つ効率的に製造することができる。
【0126】
3−2.製造方法2
本発明は、プロテオグリカン含有有機材料の製造方法であって、下記工程(a)及び(b):
(a)一般式(8)で表される化合物と有機材料とを光照射下で反応させ、光反応基含有有機材料を得る工程、
(b)プロテオグリカンと、工程(a)で得られた光反応基含有有機材料とを反応させ、プロテオグリカン含有有機材料を得る工程
を含む製造方法に関する。
【0127】
この製造方法により、プロテオグリカン含有有機材料を非常に簡便に且つ効率的に製造することができる。以下に、各工程について説明する。
【0128】
3−2−1.工程(a)
工程(a)は、一般式(8)で表される化合物と有機材料とを光照射下で反応させ、光反応基含有有機材料を得る工程である。
【0129】
有機材料については、上記「2.プロテオグリカン固定化有機材料」の説明と同一である。光、及び反応については、上記「3−1.製造方法1」の説明と同一である。
【0130】
一般式(8)で表される化合物と有機材料とを光照射下で反応させることにより、一般式(8)で表される化合物中の光反応基が活性化し、該活性化された基と有機材料とガ連結され、光反応基含有有機材料が得られる。
【0131】
従って、得られる光反応基含有有機材料は、有機材料の少なくとも一つの炭素が、一般式(9):
【0132】
【化34】
【0133】
[式中、X’及びY’は前記に同じである]
で表される基で置換された材料である。
【0134】
得られた光反応基含有有機材料は、そのまま工程(b)に用いてもよいし、例えば、有機材料と未反応の、光反応基を有する化合物を、溶媒(例えばDMSO)を用いた洗浄によって除いてもよい。
【0135】
3−2−2.工程(b)
工程(b)は、プロテオグリカンと、工程(a)で得られた光反応基含有有機材料とを反応させ、プロテオグリカン含有有機材料を得る工程である。
【0136】
プロテオグリカンは、上記「1.光反応基含有プロテオグリカン」の説明と同一である。
【0137】
反応は、プロテオグリカン中のアミノ基と光反応基含有有機材料中のカルボキシル基とが結合を形成する反応である。この結合は、Y’が式(13)で表される基である場合はアミド結合であり、Y’が式(14)で表される基である場合は尿素結合であり、Y’が式(15)で表される基である場合はチオ尿素結合である。
【0138】
反応は、アミド結合、尿素結合、又はチオ尿素結合を形成させることができる、公知の方法又はこれに準じた方法に従って行うことができる。例えば、アミド結合の場合は、適当な溶媒中、脱水縮合剤の存在下で反応させることにより行われる。尿素結合又はチオ尿素結合の場合は、適当な溶媒中で反応させればよい。
【0139】
溶媒としては、水、又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えばジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、又はピリジンを用いればよい。溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0140】
脱水縮合剤としても公知のものを採用することができる。例えば、水溶性カルボジイミド(WSC)を用いればよい。
【0141】
反応温度及び反応時間の条件も、公知の方法に従って適宜設定できる。例えば、室温下で12時間程度という条件で行えばよい。
【実施例】
【0142】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0143】
実施例1.光反応基含有プロテオグリカンの調製(小スケール)
図1に示す反応式に従って、光反応性含有プロテオグリカンを調製した。詳細を以下に説明する。
【0144】
鮭鼻軟骨由来のプロテオグリカン(30 mg)を蒸留水 (2 mL)に溶解させ、室温にて24時間放置した。放置後の溶液を「プロテオグリカン水溶液(小スケール用)」として下記工程で使用した。一方で、4−アジド安息香酸(6.4 mg,39.6 μmol)、及び水溶性カルボジイミド(WSC)(12 mg, 62.6 μmol)をジメチルフォルムアミド(400 μL)に溶解し、遮光下1時間室温にて撹拌した。撹拌後の溶液を「4−アジド安息香酸活性エステル体溶液」として下記工程で使用した。
【0145】
4−アジド安息香酸活性エステル体溶液(80 μL)をプロテオグリカン水溶液(小スケール用)に滴下し、遮光下室温にて12時間撹拌した。次いで遠心分離操作(2500 r.p.m.×10 min)を行い、上澄みを回収した。その上澄みに食塩が飽和量溶解したエタノール(食塩飽和エタノール)(6 mL)を加え、遮光下4℃にて12時間放置した。生じた白色沈殿を遠心分離操作(2500 r.p.m.×10 min)にて白色粉末として回収した。白色粉末をエタノール(3 mL)で洗浄し、光反応基含有プロテオグリカン(25.6 mg)を得た。光反応性基(アジド基)の導入の確認は、IRの吸収スペクトルで、アジド基の吸収に由来する2150 cm-1の吸収を確認することにより行った。
【0146】
実施例2.光反応基含有プロテオグリカンの調製(大スケール)
図1に示す反応式に従って、光反応性含有プロテオグリカンを調製した。詳細を以下に説明する。
【0147】
鮭鼻軟骨由来のプロテオグリカン(1 g)を蒸留水 (70 mL)に溶解させ、室温にて24時間放置した。放置後の溶液を「プロテオグリカン水溶液(大スケール用)」として下記工程で使用した。
【0148】
4−アジド安息香酸(2.2 g, 13.5 mmol)、及び水溶性カルボジイミド(WSC)(3 g, 15.6 mmol)をプロテオグリカン水溶液(大スケール用)へ加え、遮光下12時間室温にて激しく撹拌した。次いで遠心分離操作(2500 r.p.m.×10 min)を行い、上澄みを回収した。その上澄みに食塩が飽和量溶解したエタノール(食塩飽和エタノール)(30 mL)を加え、遮光下4℃にて12時間放置した。生じた白色沈殿を遠心分離操作(2500 r.p.m.×10 min)にて白色粉末として回収した。白色粉末をエタノール(20 mL)で洗浄し、光反応基含有プロテオグリカン(1.26 g)を得た。光反応性基(アジド基)の導入の確認は、IRの吸収スペクトルで、アジド基の吸収に由来する2150 cm-1の吸収を確認することにより行った。
【0149】
実施例3.プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレの製造(パターン1)
図2に示す方法に従って、プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレを製造した。詳細を以下に説明する。
【0150】
0.1 wt %の濃度に調製された、実施例1に係る光反応基含有プロテオグリカンの水溶液(3 mL)を、直径6cmのポリスチレン製プラスチックシャーレに注ぎ込んだ。次にプラスチックシャーレを室温送風下にて水が蒸発するまで放置した。水が蒸発後、プラスチックシャーレにUVライト(254 nm、67ワット)を15分間照射し、プロテオグリカンをプラスチックシャーレに固定化した。(※ 水が蒸発しない状態での固定化も可能である。その場合はUVライト照射時間を30分とする。)その後、十分に蒸留水による洗浄をおこなったあと、プロテオグリカンの検出法であるアルシアンブルー染色法に供した。
【0151】
染色した結果を図3に示す。図3中、左側が上記固定化処理をしたシャーレの染色結果を示し、右側がコントロールのシャーレ(実施例1に係る光反応基含有プロテオグリカンの水溶液の代わりに、プロテオグリカン(光反応基を含有していない)水溶液を用いる以外は、上記と同様の操作を加えたシャーレ)の染色結果を示す。上記固定化処理をしたシャーレが青く染色されていることから、上記固定化処理により、プロテオグリカンがプラスチックシャーレに固定化されたことが確認された。一方、コントロールのシャーレは染色されなかった。
【0152】
実施例4.プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレの製造(パターン2)
図4に示す方法に従って、プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレを製造した。詳細を以下に説明する。
【0153】
4−アジド安息香酸(5 mg, 0.030 mmol)をジメチルスルフォキシド(DMSO: 2 mL)に溶解し、その溶液をプラスチックシャーレに注いだ。UVライトを30分間照射し、溶液を廃棄して、シャーレをDMSOにて洗浄し、固定化されていない4−アジド安息香酸を除いた。次に、DMSO(1 mL)に溶解した水溶性カルボジイミド(WSC)(5 mg, 0.026 mmol)をプラスチックシャーレに注ぎ12時間室温にてシェーカーにて揺らしながら反応させた。その後、DMSO溶液を廃棄し、シャーレをDMSOにて洗浄した。最後にプロテオグリカン水溶液(0.01 wt %;1 mL)をシャーレに注ぎ、12時間室温にてシェーカーにて揺らしながら反応させた。反応後の溶液を廃棄し、シャーレを蒸留水にて十分に洗浄後、プロテオグリカンの検出法であるアルシアンブルー染色法に供し、プロテオグリカンのプラスチックシャーレへの固定化を確認した。
【0154】
実施例5.プロテオグリカン固定化ナイロン繊維の製造(パターン1)
蒸留水(30 mL)に実施例1に係る光反応基含有プロテオグリカン(30 mg)を、0.1 wt %の濃度になるように溶解させ、遮光下室温にて24時間放置した。その水溶液にナイロンとポリウレタンの混合繊維を全体が溶液に浸るようにいれ、5分間室温にて放置した。ついでナイロンとポリウレタンの混合繊維を取出し水滴が落ちない程度に絞ったあとUVライト(UVG-54 Hand held UV Lamp)を用いて15分間、ナイロンとポリウレタンの混合繊維に向けてUVを照射し、プロテオグリカンをナイロンとポリウレタンの混合繊維に固定化した。
【0155】
その後、水洗い、市販の洗剤による洗浄をおこなったあと、プロテオグリカンの検出法であるアルシアンブルー染色法に供した。(※ 残ったアジド化プロテオグリカン水溶液は、冷暗所に保存し、繰り返し利用が可能であった)
染色した結果を図5に示す。図5中、左側が上記固定化処理をした繊維の染色結果を示し、右側がコントロールの繊維(実施例1に係る光反応基含有プロテオグリカンの水溶液の代わりに、プロテオグリカン(光反応基を含有していない)水溶液を用いる以外は、上記と同様の操作を加えた繊維)の染色結果を示す。上記固定化処理した繊維が青く染色されていることから、上記固定化処理により、プロテオグリカンが繊維に固定化されたことが確認された。一方、コントロールの繊維は染色されなかった。
【0156】
実施例6.プロテオグリカン固定化ナイロン繊維の製造(パターン2)
4−アジド安息香酸(25 mg, 0.15 mmol)をジメチルスルフォキシド(DMSO: 10 mL)に溶解し、その溶液にナイロン繊維を浸した。UVライトを30分間照射し、溶液を廃棄して、ナイロン繊維をDMSOにて洗浄し、固定化されていない4−アジド安息香酸を除いた。次に、水溶性カルボジイミド(WSC)(50 mg, 0.26 mmol)をDMSO(10 mL)に溶解した溶液にナイロン繊維を浸し、12時間室温にてシェーカーにて揺らしながら反応させた。その後、DMSO溶液を廃棄し、ナイロン繊維をDMSOにて洗浄した。最後にプロテオグリカン水溶液(0.01 wt %;1 mL)にナイロン繊維を浸し、12時間室温にてシェーカーにて揺らしながら反応させた。
【0157】
その後、水洗い、市販の洗剤による洗浄を十分におこなったあと、プロテオグリカンの検出法であるアルシアンブルー染色法に供し、プロテオグリカンのナイロン繊維への固定化を確認した。
【0158】
実施例7.プロテオグリカン固定化医療用チューブの製造
0.1 wt % アジド化プロテオグリカン水溶液(2 mL)を片先端をふさいだポリ塩化ビニル製医療用チューブ(容量2.1 mL)へ注入した。次に注入口もふさぎ、UVライトを30分間チューブに照射し、プロテオグリカンを医療用チューブに固定化した。
その後、水洗いによる洗浄をおこなったあと、プロテオグリカンの検出法であるアルシアンブルー染色法に供し、プロテオグリカンの医療用チューブへの固定化を確認した。
【0159】
試験例1.プロテオグリカン固定化ナイロン繊維の保湿特性の評価
実施例5に係るプロテオグリカン固定化ナイロン繊維の保湿特性、具体的には肌水分量に与える影響を評価した。
【0160】
同意を得た男女被験者70人(平均年齢21.2歳)の手首の肌水分を、肌水分計((株)ワールドビューテック 肌水分計YJ-300)にてあらかじめ測定した。該測定部位(手首)に、プロテオグリカン固定化ナイロン繊維を巻き、安静条件下にて1時間装着させた。1時間後、プロテオグリカン固定化ナイロン繊維を巻いていた部位の肌水分を肌水分計で測定した。プロテオグリカン固定化ナイロン繊維を巻く前の肌水分量と、該ナイロン繊維を1時間巻いた後の肌水分量を比較し、肌水分量の変化を調べた。また対照実験として、プロテオグリカンを固定化していないナイロン繊維を巻いた場合も同様に行った。70人それぞれの肌水分量の平均値の結果を図6に示す。
【0161】
図6より、プロテオグリカン固定化繊維を装着した場合のほうが、固定化していない繊維を装着した場合に比較して、3.2倍の肌水分量の増加することが認められた。
【0162】
試験例2.プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレの、細胞増殖に対する影響の評価
実施例3に係るプロテオグリカン固定化プラスチックシャーレと固定化していないシャーレを用いてヒト皮膚繊維芽細胞を培養し、その増殖度合を比較することにより、プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレの細胞増殖促進活性を評価した。
【0163】
正常ヒト皮膚繊維芽細胞を培地(3 % FBS添加MEM)で2.0×104 cells/mlの濃度に希釈した。プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレ4枚及び固定化していないシャーレ4枚それぞれに、該希釈細胞液を1 mLずつ播種した。培養は5 % CO2、37℃の条件下で行った。
【0164】
培養開始後、2日後、4日後、6日後、又は8日後それぞれにおいて、プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレ1枚、及び固定化していないプラスチックシャーレ1枚を、0.25 %トリプシン処理した後、遠心して細胞を回収した。回収した細胞をトリパンブルーにて染色し、細胞数を計測した。測定細胞数に基づき、プロテオグリカン固定化プラスチックシャーレを用いた場合、及び固定化していないシャーレを用いた場合それぞれについての細胞増殖曲線を得た。この結果を図7に示す。
【0165】
図7より、プロテオグリカン固定化シャーレを用いた場合の方が、固定化していないプラスチックシャーレを用いた場合に比べて、有意に速く細胞が増殖することが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7