特許第6099318号(P6099318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099318
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】水蒸気観測装置および気象レーダ
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/95 20060101AFI20170313BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   G01S13/95
   G01W1/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-97756(P2012-97756)
(22)【出願日】2012年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-224884(P2013-224884A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】能木場 裕也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 将徳
(72)【発明者】
【氏名】河原 登
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 司
(72)【発明者】
【氏名】高松 政彦
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−201797(JP,A)
【文献】 特開平10−268047(JP,A)
【文献】 特開平02−280082(JP,A)
【文献】 特開昭59−035165(JP,A)
【文献】 特開平02−280083(JP,A)
【文献】 米国特許第05675081(US,A)
【文献】 特開2002−031682(JP,A)
【文献】 特開2007−243795(JP,A)
【文献】 特開2000−275330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/95−13/95
G01W 1/00− 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象レーダの空中線系に太陽から到来する雑音のレベルまたは位相を前記気象レーダが行うスキャンに同期して計測する雑音計測手段と、
前記太陽の方向における水蒸気の量または分布に、前記レベルまたは前記位相を換算する換算手段と
を備えたことを特徴とする水蒸気観測装置。
【請求項2】
伝搬路上にある水蒸気による減衰量または移相量に格差がある2つの異なる周波数で気象レーダの空中線系に太陽から個別に到来する雑音のレベルL1,L2、または位相φ1,φ2を前記気象レーダが行うスキャンに同期して計測する雑音計測手段と、
前記太陽の方向における水蒸気の量または分布に、前記レベルの差(=L1−L2)または前記位相の差(φ1−φ2)を換算する換算手段と
を備えたことを特徴とする水蒸気観測装置。
【請求項3】
気象レーダの空中線系に太陽から到来する雑音の周波数スペクトルを計測する雑音計測手段と、
前記太陽の方向における水蒸気の量または分布に、前記雑音の周波数スペクトルを換算する換算手段と
を備えたことを特徴とする水蒸気観測装置。
【請求項4】
気象目標から到来する反射波を分析し、前記気象目標を観測する気象レーダであって、
前記気象目標のスキャンの過程で所定の期間に亘って太陽を追尾する請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置を備えた
ことを特徴とする気象レーダ。
【請求項5】
気象目標から到来する反射波を分析し、前記気象目標を観測する気象レーダであって、
前記気象目標の観測の結果に、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置によって得られた水蒸気の量または分布の反映を図る反映手段を備えた
ことを特徴とする気象レーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象レーダの覆域の所望の領域における水蒸気の量または分布を求める水蒸気観測装置と、その水蒸気観測装置と連係可能な気象レーダとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気象レーダの覆域にある水蒸気の量や分布は、例えば、地上に配置された多数のGPS受信機にGPS衛星から到来する無線信号の時間差の換算によって得られていた。
なお、本発明に関連性がある先行技術としては、以下に列記する特許文献1〜特許文献4がある。
【0003】
(1) 「様々な地形上に設置しなければならない気象レーダ装置の方位角と仰角を補正する手段において、傾斜角を取得する傾斜計および空中線の機械軸と電機軸のずれから仰角傾斜補正テーブルを作成する仰角傾斜補正テーブル作成手段と、磁気コンパスによる磁気方位および周辺装置からの磁気影響であるところの自差情報から真方位初期値を算出する真方位初期値算出手段と、GPS受信機から得られる位置および時刻情報から太陽の方位角を算出する太陽方位角算出手段と、GPS受信機から得られる位置および時刻情報から太陽の仰角を算出する太陽仰角算出手段と、前記太陽方位角算出手段から得られる太陽方位角を前記真方位初期値算出手段によって補正するオフセット太陽方位角算出手段と、前記太陽仰角算出手段から得られる太陽仰角を前記仰角傾斜補正テーブルによって補正するオフセット太陽仰角算出手段と、前記オフセット太陽方位角とオフセット太陽仰角から走査範囲を決められた空中線によって太陽ノイズを測定し前記オフセット太陽方位角算出手段から得られる方位角と受信値がピークになる方位角の差分を真方位補正値とする真方位補正値算出手段と、前記真方位補正値算出手段から得られる真方位補正値と前記真方位初期値の差分を前記自差情報として更新する自差情報更新手段とを備える」ことにより、「GPSと磁気コンパスの情報、および、太陽ノイズの方向によって、気象レーダが送出する空中線の正確な方位角と仰角を算出できる」点に特徴がある気象レーダの方位角と仰角補正手段…特許文献1
【0004】
(2) 「気象予測モデルに気象レーダの雨水量データを同化する雨水量同化手段と、前記雨水量データに基づいて水蒸気凝結時に発生する潜熱量を表す潜熱ボーガスを作成する潜熱ボーガス作成手段と、前記潜熱ボーガスを前記気象予測モデル内に同化するデータ同化手段とを具備し、前記データ同化手段は、前記潜熱量から求められる上昇温度を用いてナッジング処理によりデータ同化前のモデル内で計算される気温を補正する」ことによって、「雨水量のレーダデータ同化を終了した後に予測計算を継続しても、モデル領域内での降雨状況を模擬し続けられる」点に特徴がある気象予測システム…特許文献2
【0005】
(3) 「気象レーダで観測された雨水量データを気象予測モデルに同化して当該モデルで得られる予測値を定期的に観測値と比較し、その比較結果を前記モデルに内挿する気象予測システムであって、前記気象レーダを予め高度別に区分された複数の階層で走査して得られる階層別の雨水量データを取得してそれぞれ気象予測モデルに同化し、低階層側で観測されなかった地点の上層で雨水量データの同化が得られた場合には上層での同化を採用する同化手段と、前記同化手段で同化された気象予測モデルで、雨水量が既定値以上存在する地点を判定する判定手段と、前記雨水量が既定値以上存在する地点について水蒸気ボーガスを作成して前記気象予測モデル内に同化することで水蒸気ボーガス同化手段とを具備し、前記水蒸気ボーガス同化手段は、前記雨水量が既定値以上存在する地点についてデータ同化前のモデル内で表現されている水蒸気量と同点の気温と気圧で求められる飽和水蒸気量とを比較しナッシング処理して飽和水蒸気量に近づける」ことによって、「レーダ波が遮蔽される観測不能領域での雨水量データの同化を適切に補正する」点に特徴がある気象予測システム…特許文献3
【0006】
(4) 「気象予測モデルに気象レーダの雨水量データを同化する雨水量同化手段と、前記雨水量データ同化の結果、周囲に同化された雨水量が既定値以上存在する地点を判定する判定手段と、前記雨水量が既定値以上存在する地点について水蒸気ボーガスを作成して前記気象予測モデル内に同化する水蒸気ボーガス同化手段とを具備し、前記水蒸気ボーガス同化手段は、前記雨水量が既定値以上存在する地点についてデータ同化前のモデル内で表現されている水蒸気量と同点の気温と気圧で求められる飽和水蒸気量とを比較しナッシング処理して飽和水蒸気量に近づける」ことによって、「雨水量のレーダデータ同化を終了した後に予測計算を継続しても、モデル領域内での降雨状況を模擬し続けられる」点に特徴がある気象予測システム…特許文献4
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−163975号公報
【特許文献2】特開2007−010561号公報
【特許文献3】特開2006−220444号公報
【特許文献4】特開2006−038583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した従来例では、地上に多数のGPS受信機が設置され、しかも、これらのGPS受信機によって個別に受信された無線信号の時間差の総合的な判別を行う装置だけではなく、これらの装置と上記GPS受信機との間に確保された通信路(伝送路)が備えなければならなかった。
【0009】
したがって、気象レーダの覆域の所望の領域における水蒸気の量または分布を安価に精度よく得ることができる技術が強く要望されていた。
【0010】
本発明は、気象レーダの効率的な活用の下で、簡便に精度よく、かつ安価に覆域内の所望の領域における水蒸気の量や分布を得ることができる水蒸気観測装置および気象レーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明では、雑音計測手段は、気象レーダの空中線系に太陽から到来する雑音のレベルまたは位相を前記気象レーダが行うスキャンに同期して計測する。換算手段は、前記太陽の方向における水蒸気の量または分布に、前記レベルまたは前記位相を換算する。
【0012】
すなわち、上記雑音計測手段および換算手段は、気象レーダに余剰の処理量があるならば、その処理量の活用により実現されるため、気象レーダの構成が基本的に変更されなくても、太陽雑音の伝搬路上にある地域における水蒸気の量および分布が精度よく簡便に、かつ安価に求められる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、雑音計測手段は、伝搬路上にある水蒸気による減衰量または移相量に格差がある2つの異なる周波数で気象レーダの空中線系に太陽から個別に到来する雑音のレベルL1,L2、または位相φ1,φ2を前記気象レーダが行うスキャンに同期して計測する。換算手段は、前記太陽の方向における水蒸気の量または分布に、前記レベルの差(=L1−L2)または前記位相の差(φ1−φ2)を換算する。
【0014】
すなわち、上記水蒸気の量または分布は、気象レーダの構成が基本的に変更されなくても、太陽から到来する雑音に含まれ、かつ周波数が異なる成分のレベルや位相の差の換算により求められる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、雑音計測手段は、気象レーダの空中線系に太陽から到来する雑音の周波数スペクトルを計測する。換算手段は、前記太陽の方向における水蒸気の量または分布に、前記雑音の周波数スペクトルを換算する。
【0016】
すなわち、上記水蒸気の量または分布は、気象レーダの構成が基本的に変更されなくても、太陽から到来する雑音の周波数スペクトルの換算により求められる。
【0021】
請求項4に記載の発明では、気象目標から到来する反射波を分析し、前記気象目標を観測する気象レーダにおいて、水蒸気観測装置は、前記気象目標のスキャンの過程で所定の期間に亘って太陽を追尾する。
【0022】
すなわち、上記所定の期間には、気象目標のスキャンの対象となる方向に航空機等の遮蔽体が一次的に介在した場合であっても、太陽から到来した雑音等の観測が精度よく実現される。
【0025】
請求項に記載の発明では、気象目標から到来する反射波を分析し、前記気象目標を観測する気象レーダにおいて、反映手段は、前記気象目標の観測の結果に、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置によって得られた水蒸気の量または分布の反映を図る。
【0026】
すなわち、上記水蒸気の量または分布は、指示画面上にマッピングされて出力される。
【発明の効果】
【0027】
本発明が適用された気象観測系では、コストが大幅に増加することなく、精度や信頼性が高められる。
【0028】
また、本発明が適用された気象レーダは、ランニングコストの大幅な増加と、スキャンの速度や頻度の大幅な低下との何れも生じることなく、既述の雑音等の観測が実現される。
【0029】
さらに、本発明が適用された気象レーダは、ランニングコストの大幅な増加を伴うことなく、安定に性能が高められる。
【0030】
また、本発明が適用された気象レーダは、水蒸気の量や分布と気象目標との関連性が視覚情報として容易に識別可能となる。
【0031】
したがって、本発明によれば、気象観測系の精度、性能、信頼性および利便性に併せて、付加価値が安価に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態を示す図である。
図2】本実施形態における制御部の動作フローチャートである。
図3】データベース15Sの構成を示す図である。
図4】制御レジスタ15Cの構成を示す図である。
図5】データベース15Vの構成を示す図である。
図6】本実施形態に係る気象レーダによって行われ得るスキャンの方式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
【0034】
本実施形態に係る気象レーダでは、送受信部11のアンテナ端子に空中線系12が接続され、その送受信部11の復調出力は信号処理部13の入力に接続される。信号処理部13の出力は指示部14の入力に接続され、これらの送受信部11、信号処理部13および指示部14には、制御部15の対応する入出力ポートが接続される。空中線系12は、制御部15の配下で旋回角や仰角の設定および可変が図られ、これらの旋回角や仰角で示される方向に所定の幅の主ローブを有する開口アンテナとして構成される。
【0035】
〔各部の基本的な連係〕
このような構成の気象レーダでは、各部は、制御部15の配下で以下の通りに連係することにより、所定の地域に位置する雨雲等の気象目標を検出し、かつ気象情報を取得する。
【0036】
送受信部11は、送信波を所定の周期で生成する。空中線系12は、制御部15の配下で反復して行われるボリュームスキャンに供され、このようなボリュームスキャンによる覆域に上記送信波を照射する。
【0037】
上記送信波が覆域に位置する雨雲等で反射することによって発生した反射波は、空中線系12に到来する。
【0038】
送受信部11は、このような反射波を受信して復調することにより、上記スキャンに同期した復調信号を生成する。信号処理部13は、その復調信号に、グランドクラッタの除去、MTI(Moving
Target Indicator)等のレーダ信号処理を施す。制御部15は、信号処理部13と連係することにより、上記雨雲等の位置その他の気象情報を取得する。
【0039】
信号処理部13は、指示部14に備えられた表示装置(図示されない。)の指示画面上に上記気象情報および雨雲等の位置を既述のボリュームスキャンに整合したマッピングの下で出力する。
【0040】
〔本実施形態における各部の特徴的な連係〕
本発明の特徴は、本実施形態では、上記気象目標の検出の過程において、信号処理部13および制御部15が送受信部11および空中線系12と連係して下で行う下記の処理の手順にある。
【0041】
図2は、本実施形態における制御部の動作フローチャートである。
以下、図1および図2を参照して本実施形態の特徴的な動作を説明する。
制御部15は、その主記憶の所定の領域に配置され、かつ後述する処理の過程で参照される下記の情報を有する。
【0042】
(1) 図3に示すように、時刻(年、月、日を含む。)tおよび後述する天候wに対応し、かつ空中線系12に対する太陽の方向(例えば、方位角および仰角で示される。)dが予め登録されたデータベース15S
【0043】
(2) 図4に示すように、空中線系12に対してとり得る太陽の方向d毎に、後述する太陽雑音の伝搬路が地形(例えば、山の稜線の方位、高度情報)や地物によって妨げられる割合が所定の限度を下回っている(太陽雑音の観測の精度が十分である)か否かを示す2値情報である計測フラグfmが予め登録された制御レジスタ15C
【0044】
(3) 図5に示すように、上記時刻(年、月、日を含む。)tと、後述する太陽雑音の伝搬路にある地域の天候wと、その太陽雑音のレベルLtとに対応し、該当するレベルLtの換算値として予め実測や実験値として求められた「該当する地域における水蒸気の量または分布」が予め登録されたデータベース15V
【0045】
既述のボリュームスキャンの過程では、制御部15は、送受信部11を介して空中線系12の(主ローブの)方位角および仰角を以下の通りに可変することにより、既述のボリュームスキャンを行う。
【0046】
(1) ボリュームスキャンの周期を好適な値(例えば、5分ないし10分)に設定する。
(2) ボリュームスキャンが1回終わる度に、例えば、30秒間(以下、単に「計測期間」という。)に亘って、その時点における時刻Tと、上記地域の天候Wとをキーとして上記データベース15Sを所定の頻度で反復して参照することにより、太陽の方向Dを逐次求める(図2ステップS1)。
【0047】
(3) このようにして求められた太陽の方向Dに空中線系12の(開口面の)方位角および仰角を維持することにより、その太陽を追尾する(図2ステップS2)。
(4) 制御レジスタ15Cのレコードの内、上記逐次求められた太陽の方向Dとの相関性が最も高いレコードにある計測フラグfmの値が「0」である期間を上記計測期間から除外する(図2ステップS3)。
【0048】
このようにして識別された計測期間には、各部は、以下の通りに連係する。
送受信部11は、空中線系12に太陽から到来した太陽雑音を受信し、その太陽雑音のレベルLを求める。
制御部15は、以下の処理を行う。
【0049】
(1) データベース15Vのレコードの内、上記計測期間と、その時点における太陽雑音の伝搬路上にある地域の天候Wと、既述の通りに求められた太陽雑音のレベルLとの組み合わせに最も相関性が高いレコードを特定し、そのレコードに格納されている水蒸気の量および分布を求める(図2ステップS4)。
【0050】
(2) 求められた水蒸気の量および分布を所定の形式の画像情報に変換し、指示部14の指示画面に重畳して出力する(図2ステップS5)。
【0051】
また、制御部15は、上記計測期間が計測すると、後続するボリュームスキャンを開始する。
すなわち、本実施形態では、制御部15の処理量の余剰分の活用の下で気象レーダに備えられた空中線系12、送受信部11、信号処理部13および指示部14が協働することにより、気象レーダの構成が大幅に変更されることなく、太陽雑音の伝搬路上にある地域における水蒸気の量および分布が精度よく簡便に、かつ安価に求められる。
【0052】
なお、本実施形態では、水蒸気の量や分布に換算される太陽雑音のレベルLは、計測期間に受信された太陽雑音のレベルLの積分値(平均値)として求められている。
【0053】
しかし、このような太陽雑音のレベルLは、水蒸気の量や分布のが所望の精度で得られるならば、計測期間に受信された太陽雑音のレベルに移動平均、指数平滑その他の如何なる処理が施されることによって求められてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、空中線系12の開口面に対してとり得る太陽の方向d毎に、太陽雑音の伝搬路が地形や地物によって妨げられる割合が所定の限度を上回る期間が計測期間から除外されている。
【0055】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、太陽雑音のレベルLが所望の精度で計測されるならば、上記地形や地物による太陽雑音の伝搬の妨げは無視されてもよい。
【0056】
さらに、本実施形態では、太陽雑音の伝搬路上にある地域における減衰量が反映されたレベルLに基づいて、その地域における水蒸気の量や分布が求められている。
【0057】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、「太陽雑音が分布する帯域上における異なる複数の周波数(水蒸気によって減衰し易い周波数と減衰し難い周波数)の成分の位相の差」が上記レベルLに代えて用いられてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、上記太陽雑音のレベルLは、所定の周波数帯における計測値として与えられている。
【0059】
しかし、このようなレベルLは、例えば、太陽雑音が分布する帯域上における異なる2つの周波数f1、f2の成分のレベルの差で代替されてもよい。
【0060】
さらに、本実施形態では、太陽雑音のレベルLの換算により水蒸気の量や分布が求められている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、水蒸気の量や分布は、以下の何れの換算によって求められてもよい。
【0061】
(1) 水蒸気の量や分布に応じた太陽雑音の電力および周波数スペクトルの変化
(2) 気象レーダから送信された送信波が水蒸気で反射する過程で生じ、その送信波の偏波と同じ偏波とその偏波に直交する偏波とでそれぞれ到来した反射波の位相および電力
【0062】
また、本実施形態では、太陽雑音のレベルLの換算により水蒸気の量や分布が求められている。
【0063】
しかし、このような換算の対象は、上記水蒸気の量または分布に換算可能であるならば、例えば、以下のように周波数が異なる反射波として気象目標から個別に到来した反射波のレベルや位相の差であってもよい。
【0064】
(1) 気象レーダによって所定の頻度で(例えば、単一あるいは複数の送信波が送信される度、あるいはスキャンの周期毎に)周波数が切り替えられて送信された送信波に応じて個別に気象目標から到来した反射波
【0065】
(2) 気象レーダによって送信された送信波にサブキャリア等として含まれる異なる周波数の成分に応じて個別に気象目標から到来した反射波
【0066】
さらに、本実施形態では、既述の換算により求められた水蒸気の量や分布は、例えば、空中線系12の主ローブの方向において水蒸気が分布し得る領域のサイズや地理的あるいは気候的な要因に応じて偏差が生じ得る場合には、例えば、実測された水蒸気画像に基づいて得られた水蒸気の量や分布が予め登録されたデータベースが備えられ、そのデータベースのレコードの内、既述の計測期間に得られた計測の結果との相関性が高いレコードに登録されている値、またはその値に基づく近似値や予測値として求められてもよい。
【0067】
また、上述した換算の過程では、データベース15Vのレコードの内、計測された太陽雑音のレベルL等との相関性が最大であるレコードが参照されることによって、水蒸気の量または分布が求められている。
【0068】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、上記データベース15Vに代えて、太陽雑音のレベルL等に対して水蒸気の量や分布を示す実験式が適用されることによって換算が行われてもよい。
【0069】
さらに、本実施形態では、空中線系12の方位角および仰角を太陽の方向に維持する期間は、ボリュームスキャンの周期で、そのボリュームスキャンの末尾、または後続するボリュームスキャンの先頭における30秒間として設定されている。
【0070】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、レーダ信号処理の過程に支障が発生せず、あるいはこのような支障があっても別途対処が可能であるならば、例えば、ボリュームスキャンの過程で空中線系12の主ローブの方向が太陽の方向に所定の精度で一致する期間にそのボリュームスキャンの速度が所望の低い値に設定されることにより、計測期間がボリュームスキャンの途中に組み込まれてもよい。
【0071】
また、本実施形態では、図1に示す気象レーダは、その気象レーダが設置されたサイトのみの周辺における水蒸気の量や分布を求めている。
【0072】
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、例えば、本発明が個別に適用されて異なるサイトに設置された複数の気象レーダによって個別に得られた水蒸気の量や分布が通信路を介して統合され、かつ適宜地理的にマッピングされ、あるいは相互間における補間(補完)処理が施されることによって、地理的により広範な領域における水蒸気の量や分布が求められるためにも、適用可能である。
【0073】
さらに、上記ボリュームスキャンは、本実施形態に係る気象レーダによって行われるスキャンの一形態であり、例えば、図6(a)〜(e)に示されるように、ボリュームスキャン、RHIスキャン、セクターRHIスキャン、セクターPPIスキャン、PPIスキャン等の何れであってもよい。
【0074】
また、本実施形態において信号処理部13および制御部15が既述の通りに送受信部11および空中線系12と協働して行う特徴的な連係は、如何なる機能分散や負荷分散の下で実現されてもよく、例えば、図1に示す気象レーダとは別体の装置、あるいはその気象レーダに増設や付加が可能なパッケージ(モジュール)として構成されてもよい。
【0075】
さらに、本実施形態では、既述の太陽雑音のレベル、または異なる周波数の反射波の帯域については、送受信部11によって本来的に受信されるべき反射波の帯域外にある場合には、その送受信部11の受信帯域が拡張され、もしくはその受信帯域が制御部15の配下で適宜可変されることによって確保されてもよい。
【0076】
また、このような帯域の確保は、必要であるならば、空中線系12や信号処理部13の帯域も送受信部11の受信帯域と同様に設定されてもよい。
【0077】
さらに、本実施形態では、データベース15Vの各レコードに登録される水蒸気の量または分布は、晴天時その他の理想的な状態における実測値との差として求められてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、計測期間に空中線系12の主ローブの方向が太陽の方向に維持されることによって、太陽雑音のレベルLの計測結果に飛行機等の通過等に起因する誤差の圧縮が図られている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、上記誤差が許容可能な限度を超えない場合には、計測期間における空中線系12による太陽の追尾は行われなくてもよい。
【0079】
さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0080】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に記載しなかった発明の構成、作用および効果を「特許請求の範囲」、「課題を解決するための手段」および「発明の効果」の各欄の記載に準じた様式により列記する。
【0081】
[請求項9] 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、
前記雑音計測手段は、
前記気象レーダが前記スキャンの過程で太陽の方向が追尾される期間に、前記計測の結果に積分処理を施し、前記換算の対象とする
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0082】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、前記雑音計測手段は、前記気象レーダが前記スキャンの過程で太陽の方向が追尾される期間に、前記計測の結果に積分処理を施し、前記換算の対象とする。
【0083】
すなわち、太陽から到来する雑音のレベルや位相は、その太陽の方向が気象レーダによって追尾されつつ積分されるために、航空機等によって一時的に遮蔽されても精度よく計測される。
【0084】
したがって、水蒸気の量や分布は、多様な環境において安定に確度高く求められる。
【0085】
[請求項10]
請求項4に記載の水蒸気観測装置において、
前記雑音計測手段は、
前記気象レーダが前記スキャンの過程で前記気象目標を追尾する期間に、前記計測の結果に積分処理を施し、前記換算の対象とする
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0086】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項4に記載の水蒸気観測装置において、前記雑音計測手段は、前記気象レーダが前記スキャンの過程で前記気象目標を追尾する期間に、前記計測の結果に積分処理を施し、前記換算の対象とする。
【0087】
すなわち、気象目標から到来し、差が水蒸気の量や分布に換算される反射波のレベルや位相は、その気象目標が移動する場合であっても気象レーダによって追尾されつつ積分されるために、航空機等によって一時的に遮蔽されても精度よく計測される。
【0088】
したがって、水蒸気の量や分布は、多様な環境において安定に確度高く求められる。
【0089】
[請求項11] 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、
時刻または前記太陽の方向、ならびに前記太陽の方向における地形または地物の分布に基づいて、前記太陽から到来する前記雑音の伝搬路が遮蔽される程度を識別する遮蔽限度識別手段を備え、
前記雑音計測手段と前記換算手段との双方もしくは何れか一方は、
前記程度が所定の限度を超えるときに稼働を停止する
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0090】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、遮蔽限度識別手段は、時刻または前記太陽の方向、ならびに前記太陽の方向における地形または地物の分布に基づいて、前記太陽から到来する前記雑音の伝搬路が遮蔽される程度を識別する。前記雑音計測手段と前記換算手段との双方もしくは何れか一方は、前記程度が所定の限度を超えるときに稼働を停止する。
【0091】
すなわち、太陽から到来する雑音のレベルや位相の観測が十分な精度で実現されない状況には、雑音計測手段や換算手段の機能が阻止される。
【0092】
したがって、雑音計測手段や換算手段が有効に機能しない状態における稼働が見合わせられることにより、ランニングコストの削減に併せて、熱設計や実装性に関する余裕度の向上が可能となる。
【0093】
[請求項12] 請求項4に記載の水蒸気観測装置において、
前記気象目標の方向、ならびに前記気象目標の方向における地形または地物の分布に基づいて、前記気象目標から到来する反射波の伝搬路が遮蔽される程度を識別する遮蔽限度識別手段を備え、
前記雑音計測手段と前記換算手段との双方もしくは何れか一方は、
前記程度が所定の限度を超えるときに稼働を停止する
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0094】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項4に記載の水蒸気観測装置において、遮蔽限度識別手段は、前記気象目標の方向、ならびに前記気象目標の方向における地形または地物の分布に基づいて、前記気象目標から到来する反射波の伝搬路が遮蔽される程度を識別する。前記雑音計測手段と前記換算手段との双方もしくは何れか一方は、前記程度が所定の限度を超えるときに稼働を停止する。
【0095】
すなわち、気象目標から到来する反射波のレベルや位相の観測が十分な精度で実現されない状況には、雑音計測手段や換算手段の機能が阻止される。
【0096】
したがって、雑音計測手段や換算手段が有効に機能しない状態における稼働が見合わせられることにより、ランニングコストの削減に併せて、熱設計や実装性に関する余裕度の向上が可能となる。
【0097】
[請求項13] 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、
実測された水蒸気画像が示す前記太陽の方向における水蒸気の量または分布が登録されたデータベースを備え、
前記換算手段は、
前記データベースのレコードの内、前記雑音計測手段によって行われた計測の結果との相関性が高いレコードの値、または前記値に基づく近似値もしくは予測値として、前記太陽の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0098】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、データベースには、実測された水蒸気画像が示す前記太陽の方向における水蒸気の量または分布が登録される。前記換算手段は、前記データベースのレコードの内、前記雑音計測手段によって行われた計測の結果との相関性が高いレコードの値、または前記値に基づく近似値もしくは予測値として、前記太陽の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る。
【0099】
すなわち、水蒸気の量や分布に対する上記計測の結果の換算は、実績がある水蒸気画像との相関性の下でより精度よく行われる。
【0100】
したがって、気象条件や季節に対する整合性が向上し、上記換算の精度および信頼性が高められる。
【0101】
[請求項14] 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、
実測された水蒸気画像が示す前記気象目標の方向における水蒸気の量または分布が登録されたデータベースを備え、
前記換算手段は、
前記データベースのレコードの内、前記雑音計測手段によって行われた計測の結果との相関性が高いレコードの値、または前記値に基づく近似値として、前記気象目標の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0102】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、データベースは、実測された水蒸気画像が示す前記気象目標の方向における水蒸気の量または分布が登録される。前記換算手段は、前記データベースのレコードの内、前記雑音計測手段によって行われた計測の結果との相関性が高いレコードの値、または前記値に基づく近似値として、前記気象目標の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る。
【0103】
すなわち、水蒸気の量や分布に対する上記計測の結果の換算は、実績がある水蒸気画像との相関性の下でより精度よく行われる。
【0104】
したがって、気象条件や季節に対する整合性が向上し、上記換算の精度および信頼性が高められる。
【0105】
[請求項15] 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、
前記換算手段は、
前記計測手段によって行われた計測の結果に対して実測された水蒸気画像が示す水蒸気の量または分布を示す実験式の値として、前記太陽の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0106】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、前記換算手段は、前記計測手段によって行われた計測の結果に対して実測された水蒸気画像が示す水蒸気の量または分布を示す実験式の値として、前記太陽の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る。
【0107】
すなわち、水蒸気の量や分布に対する上記計測の結果の換算は、実績がある水蒸気画像との相関性があり、かつデータベースとの相関性の吟味に比べて簡易であって速やかに実行可能な算術演算またはアルゴリズムにより実現される。
【0108】
したがって、気象条件や季節に対する整合性の向上に併せて、上記換算の精度、信頼性ならびに応答性や即応性が高められる。
【0109】
[請求項16] 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、
前記換算手段は、
前記計測手段によって行われた計測の結果に対して実測された水蒸気画像が示す水蒸気の量または分布を示す実験式の値として、前記気象目標の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る
ことを特徴とする水蒸気観測装置。
【0110】
このような構成の水蒸気観測装置では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の水蒸気観測装置において、前記換算手段は、前記計測手段によって行われた計測の結果に対して実測された水蒸気画像が示す水蒸気の量または分布を示す実験式の値として、前記気象目標の方向における水蒸気の量または分布の換算値を得る。
【0111】
すなわち、水蒸気の量や分布に対する上記計測の結果の換算は、実績がある水蒸気画像との相関性があり、かつデータベースとの相関性の吟味に比べて簡易であって速やかに実行可能な算術演算またはアルゴリズムにより実現される。
【0112】
したがって、気象条件や季節に対する整合性の向上に併せて、上記換算の精度、信頼性ならびに応答性や即応性が高められる。
【0113】
[請求項17] 請求項5または請求項6に記載の気象レーダにおいて、
前記スキャン制御手段は、
前記太陽が位置しない方向に比べて、前記太陽が位置する方向における前記気象目標のスキャンの速度を低く設定する
ことを特徴とする気象レーダ。
【0114】
このような構成の気象レーダでは、請求項5または請求項6に記載の気象レーダにおいて、前記スキャン制御手段は、前記太陽が位置しない方向に比べて、前記太陽が位置する方向における前記気象目標のスキャンの速度を低く設定する。
【0115】
すなわち、太陽から到来する雑音等の計測や観測は、スキャンの方式と、そのスキャンの下で変更される方向の列との何れもが変更されなくても、好適な長さの期間に実現可能となる。
【0116】
したがって、上記計測や観測の多様や対象および形態に対する柔軟な適応が可能となる。
【0117】
[請求項18] 請求項7に記載の気象レーダにおいて、
前記スキャン制御手段は、
前記気象目標が位置しない方向に比べて、前記気象目標が位置する方向における前記気象目標のスキャンの速度を低く設定する
ことを特徴とする気象レーダ。
【0118】
このような構成の気象レーダでは、請求項7に記載の気象レーダにおいて、前記スキャン制御手段は、前記気象目標が位置しない方向に比べて、前記気象目標が位置する方向における前記気象目標のスキャンの速度を低く設定する。
【0119】
すなわち、気象目標から到来する反射波等の計測や観測は、スキャンの方式と、そのスキャンの下で変更される方向の列との何れもが変更されなくても、好適な長さの期間に実現可能となる。
【0120】
したがって、上記計測や観測の多様や対象および形態に対する柔軟な適応が可能となる。
【符号の説明】
【0121】
11 送受信部
12 空中線系
13 信号処理部
14 指示部
15 制御部
15C 制御レジスタ
15S,15V データベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6