(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099337
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】基礎の仮支持方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
E04G23/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-201024(P2012-201024)
(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公開番号】特開2014-55453(P2014-55453A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】石田 俊久
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−123672(JP,A)
【文献】
特開2011−007008(JP,A)
【文献】
特開平02−020767(JP,A)
【文献】
特開2012−112121(JP,A)
【文献】
特開2007−009658(JP,A)
【文献】
特開2004−143671(JP,A)
【文献】
特開2001−271499(JP,A)
【文献】
特開平11−148231(JP,A)
【文献】
特開2002−339379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
E02D 17/06
E02D 27/34
E02D 35/00
E01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物を免震化する際の当該既存建物の基礎の仮支持方法であって、
前記既存建物の柱間の下方に位置する地盤を掘削して、下方に向かうに従って狭くなる掘削空間を形成する工程と、
当該掘削空間の底部にマットスラブの一部を反力盤として設けるとともに、前記掘削空間において、掘削により露出した前記基礎の下面に、掘削口から延びる一対のレールを取り付ける工程と、
地上にて、予め、上方に向かうに従って拡がる形状の支保工を複数組み立てておき、当該組み立てた支保工を前記掘削口に投入し、搬送装置を前記一対のレールに取り付けて、当該搬送装置で前記支保工を吊り下げ支持して、この状態で、前記搬送装置を前記一対のレールに沿って移動させることで、前記掘削空間内で前記支保工を水平移動し、所定の反力盤上に設置する工程と、
前記支保工により前記反力盤に反力をとって前記基礎を仮支持する工程と、を備えることを特徴とする基礎の仮支持方法。
【請求項2】
前記反力盤は、前記既存建物の柱間の略中央に位置しており、かつ、前記マットスラブに略等しい厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の基礎の仮支持方法。
【請求項3】
前記掘削空間は、水平面内で交差する方向にトンネル状に延びることを特徴とする請求項1または2に記載の基礎の仮支持方法。
【請求項4】
前記支保工は、複数の鉄骨部材からなる架台と、当該架台に設けられたジャッキとを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の基礎の仮支持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎の仮支持方法に関する。詳しくは、杭のない基礎を有する既存建物について、この既存建物を基礎下で免震化する際の当該既存建物の基礎の仮支持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建物を基礎下で免震化する、基礎免震レトロフィット工事が知られている(特許文献1参照)。
この基礎免震レトロフィット工事は、具体的には、例えば、杭のない基礎を有する既存建物を免震化する場合、既存建物の基礎の直下を掘削し、この掘削した部分に支保工を架設して、掘削した部分の底面に反力をとって基礎を仮支持する。その後、積層ゴムなどの免震装置を基礎の直下に取り付けて、その後、ジャッキを取り外す。これにより、免震装置で基礎を支持して、既存建物を免震化する。
【0003】
ここで、建物上層の鉛直荷重は主に柱を介して下層に伝達されるため、既存建物の基礎のうち柱の直下に位置する部分(以降、柱直下部と呼ぶ)は、残りの部分(以降、非柱直下部と呼ぶ)に比べて大きな鉛直荷重がかかっている。よって、既存建物の基礎を仮支持する際、柱直下部から離れた位置を支持すると、基礎の柱直下部から支持点までの部分に大きなモーメントやせん断力が生じることになり、基礎を補強する必要が生じるので、施工コストが高くなる。そのため、できるだけ柱直下部に近い箇所を支持することが必要となる。
【0004】
そこで、特許文献1に示すように、柱直下部の下の地盤を囲むように略鉛直な簡易山留壁を設け、支保工によりこの山留壁の近傍を仮支持することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−242450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、柱直下部を支持する地盤を山留壁で囲んでいても、この地盤には柱直下部により大きな荷重がかかるため、この地盤の強度や性状によっては、地盤の安定性を確保することが困難であった。
【0007】
本発明は、地盤の安定性を確保しながら、既存建物を低コストで免震化できる基礎の仮支持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の基礎の仮支持方法は、既存建物(例えば、後述の既存建物1)を免震化する際の当該既存建物の基礎(例えば、後述の基礎3)の仮支持方法であって、前記既存建物の柱(例えば、後述の柱5)間の下方に位置する地盤を掘削して、下方に向かうに従って狭くなる掘削空間を形成する工程(例えば、後述のステップS1)と、当該掘削空間に上方に向かうに従って拡がる形状の支保工(例えば、後述の支保工30)を設けて、前記基礎を仮支持する工程(例えば、後述のステップS2〜S4)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、柱間の下方に位置する地盤を掘削して、下方に向かうに従って狭くなる掘削空間を形成した。よって、柱の下方に位置する地盤は、下方に向かうに従って拡がる形状となる。これにより、柱を支持する地盤がすべり破壊するのを防止して、地盤の安定性を確保できる。
また、上方に向かうに従って拡がる支保工を用いたので、基礎の極力柱寄りの位置を仮支持できるから、基礎に大きなモーメントやせん断力が生じるのを防ぐことができ、既存建物を低コストで免震化できる。
【0010】
請求項
1に記載の基礎の仮支持方法は、前記掘削空間の底部に反力盤(例えば、後述のマットスラブ22a)を設け、当該反力盤に前記支保工を設けることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、掘削空間の底部に反力盤を設け、この反力盤に支保工を設けたので、反力盤を介して支保工の反力を確実に地盤に伝達できる。
【0012】
請求項3に記載の基礎の仮支持方法は、前記掘削空間は、水平面内で交差する方向にトンネル状に延びることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、掘削空間を、水平面内で交差する方向にトンネル状に延びるように形成した。よって、例えば、地上などの広い場所で支保工を組み立てておき、この組み立てた支保工を掘削空間に投入して移動して設置できるので、狭隘な掘削空間で支保工を組み立てる必要がない。そのため、支保工を容易に設置でき、作業員の安全性を向上しつつ、施工コストをさらに低減できる。
【0014】
請求項4に記載の基礎の仮支持方法は、前記支保工は、複数の鉄骨部材(例えば、後述の基部33、鉛直フレーム34、水平フレーム35、補強フレーム36)からなる架台(例えば、後述の架台31)と、当該架台に設けられたジャッキ(例えば、後述のジャッキ32)とを備えることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、複数の鉄骨部材からなる架台と、この架台に設けられたジャッキと、を含んで支保工を構成した。よって、支保工を簡易に製作することができ、施工コストを低減できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、柱間の下方に位置する地盤を掘削して、下方に向かうに従って狭くなる掘削空間を形成した。よって、柱の下方に位置する地盤は、下方に向かうに従って拡がる形状となる。これにより、柱を支持する地盤がすべり破壊するのを防止して、地盤の安定性を確保できる。
また、上方に向かうに従って拡がる支保工を用いたので、基礎の極力柱寄りの位置を仮支持できるから、基礎に大きなモーメントやせん断力が生じるのを防ぐことができ、既存建物を低コストで免震化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る基礎の仮支持方法が適用される既存建物の基礎部分の断面図である。
【
図2】前記実施形態に係る既存建物が免震化された状態を示す断面である。
【
図3】前記実施形態に係る既存建物を免震化する手順のフローチャートである。
【
図4】前記実施形態に係る既存建物を免震化する手順を説明するための図(その1)である。
【
図5】前記実施形態に係る既存建物を免震化する手順を説明するための図(その2)である。
【
図6】前記実施形態に係る既存建物を免震化する手順を説明するための図(その3)である。
【
図7】前記実施形態に係る既存建物を免震化する手順を説明するための図(その4)である。
【
図8】前記実施形態に係る既存建物を免震化する手順を説明するための図(その5)である。
【
図9】前記実施形態に係る既存建物を免震化する手順を説明するための図(その6)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る基礎の仮支持方法が適用される既存建物1の基礎部分の断面図である。
既存建物1は、地下躯体2を有しており、この地下躯体2は、基礎3と、基礎3の上に設けられた床4と、この基礎3から上方に延びる複数本の柱5と、を備えている。
【0019】
基礎3は、地盤6の上に構築された杭のないべた基礎であり、この基礎3は、フーチング10と、これらフーチング10同士を連結する基礎梁11と、基礎梁11同士の間に設けられた耐圧版12と、を備える。
上述の柱5は、フーチング10の中心部から上方に延びている。
以降、基礎3のうちフーチング10の中心部を、柱5の直下に位置する柱直下部13とし、柱5同士の間など残る部分を非柱直下部14とする。
【0020】
本発明では、
図2に示すように、既存建物1の基礎3の下に設置スペース21を形成し、この設置スペース21に免震装置20を設置して、免震装置20により既存建物1の基礎3を支持することで、既存建物1の基礎3を免震化するものである。
【0021】
具体的には、既存建物1の基礎3の下には、免震装置20を設置するための設置スペース21が形成されている。この設置スペース21の底面には、全面に亘って、鉄筋コンクリート造のマットスラブ22が構築されている。このマットスラブ22のうちフーチング10の中心部(柱直下部13)の直下には、鉄筋コンクリート造である免震基礎23が設けられ、免震装置20は、この免震基礎23の上に設けられている。
免震装置20は、基礎3が水平方向に移動可能な状態を保持しつつ、マットスラブ22に反力をとって基礎3のフーチング10の中心部を下から支持している。
【0022】
図3は、既存建物1の基礎3を免震化する手順を示すフローチャートである。
ステップS1では、既存建物1の外部に掘削口を設け、この掘削口から既存建物1の基礎3の下に掘り進んで、
図4に示すように、非柱直下部14の下方に位置する地盤を掘削して、下方に向かうに従って狭くなる掘削空間21aを形成する。
【0023】
この掘削空間21aは、水平面内で交差する方向にトンネル状に延びており、上述の設置スペース21の一部となる。
また、柱直下部13の下の地盤6は、柱直下部13から下方に向かうに従って拡がる形状となり、この地盤6の表面6aは法面となる。
【0024】
ステップS2では、
図5に示すように、掘削空間21aの底部に配筋してコンクリートを打設することで、上述のマットスラブ22の一部である反力盤としてのマットスラブ22aを構築する。また、掘削空間21aにおいて、掘削により露出した基礎3の下面に、掘削口から延びるI形鋼である一対のレール24を取り付ける。
【0025】
ステップS3では、地上にて、予め、
図6に示すような支保工30を複数組み立てておくとともに、
図6に示すような搬送装置40を複数台用意しておく。そして、この組み立てた支保工30を掘削口に投入し、搬送装置40を用いて、掘削空間21a内で支保工30を水平移動し、所定のマットスラブ22a上に設置する。
【0026】
支保工30は、上方に向かうに従って拡がる形状である。この支保工30は、マットスラブ22a上に設置可能な複数の鉄骨部材からなる架台31と、この架台31に設けられたジャッキ32と、を備える。
架台31は、マットスラブ22a上に設置可能な基部33と、この基部33から略鉛直に延びる一対の鉛直フレーム34と、この一対の鉛直フレーム34間に架設されて略水平に延びる水平フレーム35と、鉛直フレーム34の下端側から水平フレーム35の先端部に向かって斜めに延びる補強フレーム36と、を備える。
ジャッキ32は、水平フレーム35の両端に載置されている。
【0027】
搬送装置40は、装置本体41と、この装置本体41に設けられてレール24の下フランジの上面を走行可能な一対の車輪42と、装置本体41に取り付けられた小型の揚重装置43と、を備える。
この搬送装置40は、車輪42により、レール24に沿って移動可能である。
また、小型の揚重装置43は、例えばレバーブロック(登録商標)である。
【0028】
具体的には、クレーンなどにより、掘削口を通して支保工30を地上から掘削空間21aの深さレベルまで下ろす。次に、
図6に示すように、作業員A、Bにより一対のレール24のそれぞれに搬送装置40を取り付けて、これら搬送装置40の揚重装置43で支保工30の水平フレーム35を吊下げ支持する。この状態で、搬送装置40をレール24に沿って移動させることで、支保工30を水平移動して、掘削空間21aの所定位置、例えば基礎梁11の直下に配置する。
【0029】
ステップS4では、
図7に示すように、作業員A、Bにより揚重装置43を操作して、支保工30の基部31をマットスラブ22a上に設置する。そして、支保工30のジャッキ32で基礎梁11の下面を押圧することで、支保工30によりマットスラブ22aに反力をとって基礎3を下から仮支持する。これにより、支保工30は、基礎3の柱直下部13寄りの位置を仮支持することになる。
【0030】
ステップS5では、
図8に示すように、柱直下部13の下の地盤6を掘削して、設置スペース21を完成させる。さらに、マットスラブ22の残りを構築して、マットスラブ22を完成させる。
【0031】
ステップS6では、
図9に示すように、マットスラブ22上に免震基礎23を構築し、この免震基礎23上に免震装置20を設置して、この免震装置20で柱直下部13を支持する。
【0032】
ステップS7では、支保工30による仮支持を解除する。次に、搬送装置40を用いて支保工30をレール24に沿って移動することで、支保工30を撤去する。その後、レール24も撤去する。
【0033】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)非柱直下部14の下方に位置する地盤6を掘削して、下方に向かうに従って狭くなる掘削空間21aを形成した。よって、柱直下部13の下の地盤6は、下方に向かうに従って拡がる形状となる。これにより、柱直下部13を支持する地盤6がすべり破壊するのを防止して、地盤6の安定性を確保できる。
また、上方に向かうに従って拡がる支保工30を用いたので、極力柱直下部13寄りの位置を仮支持できるから、基礎3に大きなモーメントやせん断力が生じるのを防ぐことができ、既存建物1を低コストで免震化できる。
【0034】
(2)掘削空間21aの底部にマットスラブ22aを設け、このマットスラブ22aに支保工30を設けたので、マットスラブ22aを介して支保工30の反力を確実に地盤6に伝達できる。
【0035】
(3)掘削空間21aを、水平面内で交差する方向にトンネル状に延びるように形成した。よって、地上で支保工30を組み立てておき、この組み立てた支保工30を掘削空間21aに投入して移動して設置できるので、狭隘な掘削空間21aで支保工を組み立てる必要がない。そのため、支保工30を容易に設置できる、作業員の安全性を向上しつつ、施工コストをさらに低減できる。
【0036】
(4)基部33、鉛直フレーム34、水平フレーム35、補強フレーム36からなる架台31と、この架台31に設けられたジャッキ32と、を含んで支保工30を構成した。よって、支保工30を簡易に製作することができ、施工コストを低減できる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
1…既存建物
2…地下躯体
3…基礎
4…床
5…柱
6…地盤
6a…地盤の表面
10…フーチング
11…基礎梁
12…耐圧版
13…柱直下部
14…非柱直下部
20…免震装置
21…設置スペース
21a…掘削空間
22、22a…マットスラブ(反力盤)
23…免震基礎
24…レール
30…支保工
31…架台
32…ジャッキ
33…基部
34…鉛直フレーム
35…水平フレーム
36…補強フレーム
40…搬送装置
41…装置本体
42…車輪
43…揚重装置