(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が適用された電子機器について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0015】
[アンテナ装置の構成]
本発明が適用された電子機器は、例えば携帯電話等の携帯型電子機器であり、コイルモジュール1が組み込まれている。コイルモジュール1は、近距離無線通信機能を実現するものである。具体的に、本発明が適用されたコイルモジュール1は、
図1、
図2に示すように、NFC等のRFID用のモジュールであり、磁性材料により形成されたシート状の磁性シート4と、磁性シート4が貼着される、面状に巻回されたスパイラルコイル状のアンテナコイル5とを備える。
【0016】
磁性シート4は、例えば、NiZn系フェライトの焼結体からなる。磁性シート4は、予め薄くシート状に塗布したフェライト粒子を高温環境下で焼結させることによりシート化し、その後、所定の形状に型抜きすることにより形成される。あるいは、磁性シート4は、予め最終形状と同形状にフェライト粒子をシート状に塗布し、焼結することにより形成することもできる。その他、磁性シート4は、長方形断面を持った型に、フェライト粒子を詰め込み、平面視矩形状の直方体にフェライト粒子を焼結し、この焼結体を薄くスライスすることにより、所定の形状を得ることもできる。
【0017】
なお、磁性シート4は、軟磁性粉末からなる磁性粒子と結合材としての樹脂とを含んでいてもよい。
【0018】
また、磁性粒子は、フェライト等の酸化物磁性体、センダスト、パーマロイ等のFe系、Co系、Ni系、Fe−Ni系、Fe−Co系、Fe−Al系、Fe−Si系、Fe−Si−Al系、Fe−Ni−Si−Al系等の結晶系、微結晶系磁性体、あるいはFe−Si−B系、Fe−Si−B−C系、Co−Si−B系、Co−Zr系、Co−Nb系、Co−Ta系等のアモルファス金属磁性体の粒子を用いることができる。
【0019】
なかでも、NFC等のRFID用アンテナモジュールに用いられる磁性シート4は、磁性材料として上述したNiZn系フェライトが好適に用いられる。
【0020】
結合材は、熱、紫外線照射等により硬化する樹脂等を用いることができる。結合材としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル等の樹脂、あるいはシリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム等の周知の材料を用いることができる。なお、結合材は、上述の樹脂又はゴムに、難燃剤、反応調整剤、架橋剤又はシランカップリング剤等の表面処理剤を適量加えてもよい。
【0021】
なお、磁性シート4は、単一の磁性材料で構成する場合のみに限らず、2種類以上の磁性材料を、混合して用いてもよく、あるいは多層に積層して形成してもよい。また、磁性シート4は、同一の磁性材料であっても、磁性粒子の粒径及び/又は形状を複数選択して混合してもよく、あるいは多層に積層して形成してもよい。
【0022】
アンテナコイル5は、ポリイミド等によるフレキシブル基板7にCu箔等からなる導電パターンがスパイラルコイル状に形成されてなる。フレキシブル基板7は、略矩形状に形成され、外側縁に沿って略矩形状に周回するアンテナコイル5が形成されている。
【0023】
磁性シート4は、フレキシブル基板7の一面7a上に、接着剤層6を介して重畳されている。接着剤層6は、接着剤や接着テープなど公知のものを用いることができる。また、磁性シート4は、アンテナコイル5の少なくとも一部と重畳される。これにより、コイルモジュール1は、磁束をアンテナコイル5に効率よく引き込み、リーダライタと誘導結合によって磁気的に結合され、変調された電磁波を受信する。受信信号は、アンテナコイル5と連続された端子部を介してメモリに供給される。
【0024】
[本願構成]
ここで、磁性シート4は、フレキシブル基板7の形状に応じて略矩形状に形成され、少なくともアンテナコイル5の中心から幅方向の一方側に重畳されている。これにより、コイルモジュール1は、磁性シート4が重畳された幅方向の一方側において、磁性シート4が重畳されていない幅方向の他方側に比して、結合効率が向上される。
【0025】
ここで、コイルモジュール1は、
図2に示すように、アンテナコイル5を通過するリーダライタからの磁束Fが、コイルの導線が一方向に周回するアンテナコイル5の一方側とコイルの導線が他方向に周回するアンテナコイル5の他方側とで、反対方向の電流を生じさせ、効率よく結合させることができない。
【0026】
しかし、コイルモジュール1は、磁性シート4がアンテナコイル5の中心から幅方向の一方側に重畳されているため、当該一方側において効率よく磁束を引き込むとともに、幅方向の他方側における発電効率を下げて、当該一方側で発生する電流と反対向きの電流量を相対的に低くすることができる。これにより、コイルモジュール1は、良好な通信特性を備えることができる。
【0027】
なお、磁性シート4は、アンテナコイル5の巻回中心から幅方向の一方側に一部でも重畳されていれば、上述した効果を奏することができるが、当該一方側の全領域と重畳されていることが好ましい。
【0028】
このコイルモジュール1は、電子機器の筐体内に組み込まれる際に、
図3及び
図4に示すように、アンテナコイル5の一部が電子機器筐体の内部構造物10と重畳される重畳部1aと内部構造物10の主面部10aより外側に張り出す張出部1bとを有する。
【0029】
ここで、内部構造物10は、通信を行うリーダライタと対向する主面部10aを有し、シート状のコイルモジュール1は、この主面部10aに重畳して配置されるものとする。すなわち、コイルモジュール1は、アンテナコイル5が形成されたフレキシブル基板7が、電子機器筐体内に設けられたバッテリ缶等の内部構造物10と一部が重畳するとともに、この内部構造物10の外縁部から外側へ張り出すように配置される。これにより、コイルモジュール1は、アンテナコイル5も、一部が内部構造物10と重畳するとともに、他の一部が内部構造物10と重畳しないこととなる。
【0030】
この磁性シート4は、このアンテナコイル5の内部構造物10と重畳する面側の、アンテナコイル5の内部構造物10と重畳しない一方側に重畳されることが好ましい。特に、内部構造物10が、バッテリ缶等の金属体である場合、コイルモジュール1は、内部構造物10と重畳するアンテナコイル5の幅方向の他方側おいて、磁界成分が金属体と干渉(結合)し、アンテナコイル5のインダクタンスが実質的に減少するために、共振周波数がシフトしてしまうおそれや、また、インダクタンスの実質的減少によって、受信感度が低下する。一方で、コイルモジュール1は、磁性シート4が重畳されるアンテナコイル5の幅方向の一方側では、金属体との干渉もなく、かつ上述したように効率よく磁束を引き込むことができる。
【0031】
これにより、コイルモジュール1は、重畳部1aにおける結合を抑制して、張出部1bにおいて発生する電流と反対向きの電流量を相対的に低くするとともに、磁性シート4によって重畳部1aから張出部1bへ磁束を誘導させ、張出部1bにおける結合を促進させ、通信特性の向上を図ることができる。
【0032】
また、コイルモジュール1は、張出部1bに設けられている磁性シート4がバッテリ缶等の内部構造物10と重畳されないため、この電子機器筐体内において、コイルモジュール1は、アンテナコイル5が形成されたフレキシブル基板7のみが内部構造物10と重畳し、磁性シート4は重畳されない。したがって、電子機器筐体は、内部構造物10の厚さ方向において、磁性シート4及び接着剤層の厚み分、薄型化を図ることができる。
【0033】
[他の構成1]
また、コイルモジュール1は、アンテナコイル5の中心から他方側の全領域が、内部構造物10と重畳していることが好ましい。これにより、コイルモジュール1は、アンテナコイル5の当該他方側における電流量をできるだけ小さくすることができる。すなわち、アンテナコイル5の一方側における電流と反対向きの電流をできるだけ小さくすることができる。
【0034】
[他の構成2]
また、コイルモジュール1は、アンテナコイル5の中心が、内部構造物10の外縁部に合わせて設けられ、磁性シート4が、アンテナコイル5の内部構造物10と重畳する面側の内部構造物10と重畳しない位置、すなわち張出部1bに設けられることが好ましい。
【0035】
これにより、磁性シート4が貼着されたアンテナコイル5の一方側は、金属体の影響を受けることなく、かつ磁性シート4によって効率よく磁束を引き込むことができる。
【0036】
[近距離無線通信システム]
次に、コイルモジュール1による近距離無線通信機能について説明する。例えば
図5に示すように、コイルモジュール1は、例えば携帯電話機30の筐体20内部に組み込まれ、コイルモジュール1は、RFID用の無線通信システム40として使用される。
【0037】
無線通信システム40は、リーダライタ41が、コイルモジュール1とともに携帯電話機30に組み込まれたメモリモジュール42に対してアクセスするものである。ここで、コイルモジュール1とリーダライタ41とは、三次元直交座標系xyzのxy平面において互いに対向するように配置されているものとする。
【0038】
リーダライタ41は、xy平面において互いに対向するコイルモジュール1のアンテナコイル5に対して、z軸方向に磁界を発信する発信器として機能し、具体的には、アンテナコイル5に向けて磁界を発信するアンテナ43と、メモリモジュール42と通信を行う制御基板44とを備える。
【0039】
すなわち、リーダライタ41は、アンテナ43と電気的に接続された制御基板44が配設されている。この制御基板44には、一又は複数の集積回路チップ等の電子部品からなる制御回路が実装されている。この制御回路は、アンテナコイル5を介してメモリモジュール42から受信されたデータに基づいて、各種の処理を実行する。例えば、制御回路は、メモリモジュール42に対してデータを送信する場合、データを符号化し、符号化したデータに基づいて、所定の周波数(例えば、13.56MHz)の搬送波を変調し、変調した変調信号を増幅し、増幅した変調信号でアンテナ43を駆動する。また、制御回路は、メモリモジュール42からデータを読み出す場合、アンテナ43で受信されたデータの変調信号を増幅し、増幅したデータの変調信号を復調し、復調したデータを復号する。なお、制御回路では、一般的なリーダライタで用いられる符号化方式及び変調方式が用いられ、例えば、マンチェスタ符号化方式やASK(Amplitude Shift Keying)変調方式が用いられている。
【0040】
コイルモジュール1は、アンテナコイル5が、リーダライタ41から発信される磁界を受けリーダライタ41と誘導結合して、携帯電話機30に組み込まれた記憶媒体であるメモリモジュール42に信号を供給する。
【0041】
アンテナコイル5は、リーダライタ41から発信される磁界を受けると、リーダライタ41と誘導結合によって磁気的に結合され、変調された電磁波を受信して、端子部8a、8bを介して受信信号をメモリモジュール42に供給する。
【0042】
メモリモジュール42は、アンテナコイル5に流れる電流により駆動し、リーダライタ41との間で通信を行う。具体的に、メモリモジュール42は、受信された変調信号を復調し、復調したデータを復号して、復号したデータを、当該メモリモジュール42が有する内部メモリに書き込む。また、メモリモジュール42は、リーダライタ41に送信するデータを内部メモリから読み出し、読み出したデータを符号化し、符号化したデータに基づいて搬送波を変調し、誘導結合によって磁気的に結合されたアンテナコイル5を介して変調された電波をリーダライタ41に送信する。
【0043】
以上、本発明に係るコイルモジュール1として、RFID用のアンテナモジュールに適用した場合を例に説明したが、本発明は、RFID用のアンテナモジュールの他にも、例えばQi等の非接触充電用のモジュールやその他のアンテナモジュールに適用してもよい。
【実施例】
【0044】
次いで、本発明が適用されたコイルモジュール1と従来のコイルモジュールとを比較した実施例について説明する。実施例及び比較例ともに、
図7及び
図10に示すように、コイルモジュールをリーダライタに対向させて配置し、徐々にリーダライタを
図7及び
図10中矢印Y軸方向へ移動させたときのk値の変化をシミュレーションで求めた。
【0045】
<比較例>
比較例に係るコイルモジュール50は、
図6に示すように、フレキシブル基板の外側縁に沿って形成されたアンテナコイル51と、アンテナコイル51に磁束を引き込む磁性シート53とを有し、磁性シート53がアンテナコイル5の中心に差し込まれている。また、コイルモジュール50は、内部構造物10に見立てた金属板55に、相対向する長手方向の側縁部の一方側を隣接させて配置され、金属板55とともにリーダライタ41と対向される。
【0046】
磁性シート4は、アンテナコイル51と略同じ幅を有し、アンテナコイル51の略全領域に亘って重畳されている。また、磁性シート4は、アンテナコイル51の中心よりも金属板55側において、磁性シート4がリーダライタ41側に配置され、アンテナコイル51の中心よりも金属板55と反対側において、アンテナコイル51がリーダライタ41側に配置される。
【0047】
このコイルモジュール50とリーダライタ41とを対向させた所定の位置から、リーダライタ41とコイルモジュール50との相対的な位置関係を変化させたときの通信特性について評価した。
【0048】
具体的な評価条件としては、次のようにした。すなわち、リーダライタ41のアンテナ43は、xy軸方向で規定される外形が70mm×70mmで1.5mmピッチの2巻コイルとした。また、コイルモジュール50のアンテナコイル51は、xy軸方向で規定される外形が30mm×10mmで1mmピッチの4巻のコイルである。コイルモジュール50の磁性シート53は、非透磁率120で、厚さ0.2mmのフェライトシートを保護フィルムで覆ったものを用い、アンテナコイル51の全面に亘って接着剤層を介して接着した。
【0049】
金属板は、xy軸方向で規定される外形が100mm×50mmで厚さ1.0mmのステンレスである。また、金属板55とアンテナコイル51との距離は1.0mmである。さらに、z軸方向で規定される、リーダライタ41のアンテナ43からアンテナコイル51までの距離は40mmとした。
【0050】
ここで、リーダライタ41とアンテナコイル51との相対的な位置関係を示す値として、次のaを用いた。すなわち、aは、リーダライタ41のアンテナ43の中心を通るz軸方向の軸線43aと金属板55の中心を通るz軸方向の軸線55aとを想定したときに、両軸線43a,55aが一致した位置を0(mm)とし、ここから、
図7中矢印Y方向及び反矢印Y方向にリーダライタ41を移動させたときの、両軸線43a,55a間の距離である。
【0051】
以上のような条件の下、aの値を−30mmから+30mmまで変化させたときの、アンテナコイル51の結合係数をシミュレーションで求めた。結合係数の変化を
図8に示す。
【0052】
<実施例>
本実施例では、
図9に示すように、アンテナコイル5の中心よりも一方側に磁性シート4が貼着されたコイルモジュール1を用いた。コイルモジュール1は、アンテナコイル5の中心よりも他方側が、金属板55上に重畳する重畳部1aとされ、アンテナコイル5の中心が金属板55の外縁部に合わせて配置され、アンテナコイル5の中心よりも一方側が金属板55より張り出す張出部1bとされている。また、磁性シート4は、アンテナコイル5の中心よりも一方側の張出部1bの全領域に貼着されている。
【0053】
そして、本実施例においても、コイルモジュール1とリーダライタ41とを対向させて、リーダライタ41とコイルモジュール1との相対的な位置関係を変化させたときの通信特性について評価した。
【0054】
具体的な評価条件は、リーダライタ41、金属板55、リーダライタ41のアンテナ43からアンテナコイル5までの距離については、上述した比較例と同じである。コイルモジュール1のアンテナコイル5は、xy軸方向で規定される外形が30mm×20mmで1.5mmピッチの4巻コイルとした。磁性シート4は、比較例に係る磁性シート52と同じ非透磁率120、厚さ0.2mm、xy軸方向で規定される外形が30mm×10mmのフェライトシートを保護フィルムで覆ったものを用い、コイルモジュール1の張出部1bに接着剤層を介して接着した。
【0055】
リーダライタ41とアンテナコイル5との相対的な位置関係を示す値としては、比較例と同様に、リーダライタ41のアンテナ43の中心を通るz軸方向の軸線43aと金属板55の中心を通るz軸方向の軸線55aとを想定したときに、両軸線43a,55aが一致した位置を0(mm)とし、ここから、
図10中矢印Y軸方向及び反矢印Y軸方向にリーダライタ41を移動させたときの、両軸線43a,55a間の距離aを用いた。
【0056】
以上のような条件の下、aの値を−30mmから+30mmまで変化させたときの、アンテナコイル5の結合係数をシミュレーションで求めた。結合係数の変化を
図11に示す。実施例によれば、比較例に比して結合係数が向上されていることが分かる。これは、アンテナコイル5のサイズが大きい点で、比較例に比して実施例は有利であることにもよるが、少なくとも実施例は比較例と同等以上の結合係数を有するといえる。
【0057】
これは、実施例に係るコイルモジュール1によれば、磁性シート4が貼着されたアンテナコイル5の一方側における電流と反対向きの電流量が抑えられるとともに、磁性シート4によって磁束を効率よく引き込むことができるためである。
【0058】
すなわち、実施例に係る構成によれば、良好な通信特性を実現することができる。また実施例では、金属板55に磁性シート4が重畳することなく電子機器筐体の厚さ方向に薄型化を図ることができ、狭小化されたスペースにも搭載可能なコイルモジュールを用いた電子機器を提供することができる。