特許第6099353号(P6099353)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099353化粧料による皮膚の濃色部位の目立ちを抑制する効果の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099353
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】化粧料による皮膚の濃色部位の目立ちを抑制する効果の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/90 20170101AFI20170313BHJP
   A45D 44/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   G06T7/00 100A
   A45D44/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-231341(P2012-231341)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-85681(P2014-85681A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100161296
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 茂久
(72)【発明者】
【氏名】石黒 陽平
(72)【発明者】
【氏名】奥浦 朋子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 浩志
【審査官】 佐藤 実
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−075629(JP,A)
【文献】 特開2000−207560(JP,A)
【文献】 上田眞司 外1名,皮膚テクスチャの解析と合成,第46回 システム制御情報学会研究発表講演会講演論文集,システム制御情報学会,2002年 5月17日,第395−396頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 − 7/90
A45D 44/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料による皮膚の濃色部位の目立ちを抑制する効果の評価方法であって、
(a)前記化粧料を塗布した塗布面の撮像画像を得る工程と、
(b)前記撮像画像を空間周波数解析し、得られた解析結果に基づき前記効果と関連する指標値を得る工程と、
(c)前記指標値に基づき、前記効果を評価する工程と、
を備え
前記工程(b)は、(b1)前記撮像画像に基づき二次元フーリエ変換を行って二次元パワースペクトルを得て、前記得られた二次元パワースペクトルをノイズパワースペクトルに換算する工程を含み、
前記解析結果とは、前記ノイズパワースペクトルであり、
前記指標値は、所定範囲の空間周波数に対応する前記ノイズパワースペクトルから統計的手法により得られる値であり、
前記所定範囲は、前記濃色部位の直径をAとして、1.0cycle/A以上、かつ、3.0cycle/A以下に対応する空間周波数の範囲である、方法。
【請求項2】
請求項に記載の方法において、
前記指標値は、前記所定範囲の空間周波数に対応する前記ノイズパワースペクトルを積算した値である、方法。
【請求項3】
請求項に記載の方法において、
前記工程(c)は、前記指標値が大きいほど、前記効果が高いと評価する工程を含む、方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の方法において、
前記所定範囲は、前記濃色部位の直径をAとして、1.5cycle/A以上、かつ、2.0cycle/A以下に対応する空間周波数の範囲である、方法。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の方法において、
前記濃色部位は、しみ又はそばかすを含む部位である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に塗布する化粧料の視覚的効果に関する。
【背景技術】
【0002】
しみ、そばかす、ほくろ等の皮膚における他の部位に比べて濃色の部位(以下、「濃色部位」と呼ぶ)を目立たなくするために、可視光の透過性が低い化粧層を皮膚上に形成することが行われていた。例えば、可視光の透過性が低い基材が配合された化粧料を皮膚に塗布したり、化粧料を皮膚に厚く塗ったり、顔料の配合量の多い化粧料を皮膚に塗布することが行われていた。濃色部位は、濃色部位と周囲の他の部位との色の差によって知覚される。このため、化粧料による濃色部位の目立ち抑制の効果は、濃色部位と他の部位との間の色情報の差(例えば、輝度差や明度差)に基づき評価されていた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−144393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可視光の透過性が低い化粧層を皮膚上に形成する方法では、皮膚の透明感が失われて、見た目の不自然さが発生し得る。そこで、可視光の透過性の低下を抑制しつつ、濃色部位の目立ち抑制の効果が高い化粧料の研究及び開発が行われている。しかしながら、上述した特許文献1に記載された評価方法では、「可視光の透過性の低下を抑制しつつ濃色部位の目立ちを抑制する」という効果を客観的に評価することができないという問題があった。その他、従来の評価方法においては、その容易化、低コスト化、省資源化等が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態によれば、化粧料による皮膚の濃色部位の目立ちを抑制する効果の評価方法が提供される。この方法は、(a)前記化粧料を塗布した塗布面の撮像画像を得る工程と;(b)前記撮像画像を空間周波数解析し、得られた解析結果に基づき前記効果と関連する指標値を得る工程と;(c)前記指標値に基づき、前記効果を評価する工程と;を備え;前記工程(b)は、(b1)前記撮像画像に基づき二次元フーリエ変換を行って二次元パワースペクトルを得て、前記得られた二次元パワースペクトルをノイズパワースペクトルに換算する工程を含み;前記解析結果とは、前記ノイズパワースペクトルであり;前記指標値は、所定範囲の空間周波数に対応する前記ノイズパワースペクトルから統計的手法により得られる値であり;前記所定範囲は、前記濃色部位の直径をAとして、1.0cycle/A以上、かつ、3.0cycle/A以下に対応する空間周波数の範囲である。
この形態の方法によれば、撮像画像を空間周波数解析し、得られた解析結果に基づき、化粧料による皮膚の濃色部位の目立ちを抑制する効果と関連する指標値を得て、かかる指標に基づき効果を評価するので、可視光の透過率の低下を抑制しつつ濃色部位の目立ちを抑制する効果を客観的に評価することができる。換言すると、化粧料を用いて可視光の透過率として一定の値を確保しつつ、濃色部位を目立たなくする手法において、濃色部位の目立ちを抑制する効果を評価することができる。なお、「化粧料を用いて可視光の透過率として一定の値を確保しつつ、濃色部位を目立たなくする手法」としては、例えば、化粧料の原材料(粒子)を、濃色部位を含む領域に分散して配置する手法が想定される。加えて、撮像画像に基づき評価するので、濃色部位の目立ち抑制の効果を客観的に評価することができる。また、二次元フーリエ変換、及び二次元パワースペクトルをノイズパワースペクトルに変換することにより解析結果を得るので、短時間で解析結果を得ることができる。また、統計的手法により得られる値を指標値とするので、短期間で指標値を得ることができる。また、濃色部位の目立ち抑制効果を正確に評価することができる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、化粧料による皮膚の濃色部位の目立ちを抑制する効果の評価方法が提供される。この方法は、(a)前記化粧料を塗布した塗布面の撮像画像を得る工程と、(b)前記撮像画像を空間周波数解析し、得られた解析結果に基づき前記効果と関連する指標値を得る工程と、(c)前記指標値に基づき、前記効果を評価する工程と、を備える。この形態の方法によれば、撮像画像を空間周波数解析し、得られた解析結果に基づき、化粧料による皮膚の濃色部位の目立ちを抑制する効果と関連する指標値を得て、かかる指標に基づき効果を評価するので、可視光の透過率の低下を抑制しつつ濃色部位の目立ちを抑制する効果を客観的に評価することができる。換言すると、化粧料を用いて可視光の透過率として一定の値を確保しつつ、濃色部位を目立たなくする手法において、濃色部位の目立ちを抑制する効果を評価することができる。なお、「化粧料を用いて可視光の透過率として一定の値を確保しつつ、濃色部位を目立たなくする手法」としては、例えば、化粧料の原材料(粒子)を、濃色部位を含む領域に分散して配置する手法が想定される。加えて、撮像画像に基づき評価するので、濃色部位の目立ち抑制の効果を客観的に評価することができる。
【0007】
(2)上記形態の方法において、前記工程(b)は、(b1)前記撮像画像に基づき二次元フーリエ変換を行って二次元パワースペクトルを得て、前記得られた二次元パワースペクトルをノイズパワースペクトルに換算する工程を含み、前記解析結果とは、前記ノイズパワースペクトルであってもよい。この形態の方法によれば、二次元フーリエ変換、及び二次元パワースペクトルをノイズパワースペクトルに変換することにより解析結果を得るので、短時間で解析結果を得ることができる。
【0008】
(3)上記形態の方法において、前記指標値は、所定範囲の空間周波数に対応する前記ノイズパワースペクトルの統計から統計的手法により得られる値であってもよい。この形態の方法によれば、統計的手法により得られる値を指標値とするので、短期間で指標値を得ることができる。
【0009】
(4)上記形態の方法において、前記指標値は、前記所定範囲の空間周波数に対応する前記ノイズパワースペクトルを積算した値であってもよい。この形態の方法によれば、短期間で指標値を得ることができる。
【0010】
(5)上記形態の方法において、前記工程(c)は、前記指標値が大きいほど、前記効果が高いと評価する工程を含んでもよい。この形態の方法によれば、空間周波数の所定範囲として、濃色部位の目立ちの抑制に寄与し得る空間周波数の範囲を選択することにより、積算という簡単な処理により、簡単に効果を評価することができる。
【0011】
(6)上記形態の方法において、前記所定範囲は、前記濃色部位の直径をAとして、1.0cycle/A以上、かつ、3.0cycle/A以下に対応する空間周波数の範囲であってもよい。この形態の方法によれば、濃色部位の目立ち抑制効果を正確に評価することができる。
【0012】
(7)上記形態の方法において、前記所定範囲は、前記濃色部位の直径をAとして、1.5cycle/A以上、かつ、2.0cycle/A以下に対応する空間周波数の範囲であってもよい。この形態の方法によれば、濃色部位の目立ち抑制効果をより正確に評価することができる。
【0013】
(8)上記形態の方法において、前記濃色部位は、しみ又はそばかすを含む部位であってもよい。この形態の方法によれば、化粧料における「可視光の透過性の低下を抑制しつつ、しみ又はそばかすを含む部位の目立ちを抑制する」効果を客観的に評価することができる。
【0014】
本発明は、種々の態様で実現することも可能である。例えば、上述した評価方法の少なくとも一部の工程を実現する装置や、コンピュータープログラムや、そのコンピュータープログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態における化粧料による可視光の透過性の低下を抑制しつつ濃色部位の目立ちを抑制する効果を評価する方法の手順を示すフローチャートである。
図2】ステップS115bで得られるNPSの一例を模式的に示す説明図である。
図3】上述したステップS120において、NPS値の積算対象となる空間周波数の範囲を決定する処理の手順を示すフローチャートである。
図4】ステップS205〜S215の処理結果を模式的に示す説明図である。
図5】ステップS120における空間周波数の範囲を決定する処理の一例を示す説明図である。
図6】本実施例のステップS115bにより得られたNPSを示す説明図である。
図7】第1実施例の試料1,2を用いた撮像画像を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A1.目立ち抑制効果の評価方法:
図1は、本実施形態における、化粧料による可視光の透過性の低下を抑制しつつ濃色部位の目立ちを抑制する効果を評価する方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態において、化粧料とは、ファンデーションや、おしろいや、チーク等の皮膚に塗布し得る任意の化粧料を意味する。また、本実施形態において、濃色部位とは、しみやそばかすやほくろ等の皮膚における他の部位に比べて濃色である部位を意味する。なお、濃色部位には、色素沈着した部位を含む。また、本実施形態において、皮膚とは、人などの任意の生物の皮膚であって、顔などの任意の部位の皮膚を意味する。なお、以降では、化粧料による可視光の透過性の低下を抑制しつつ濃色部位の目立ちを抑制する効果を、単に「目立ち抑制効果」とも呼ぶ。
【0017】
図1に示すように、まず、被験者の皮膚又は皮膚のレプリカ(以下、「被験面」と呼ぶ)上に化粧層を形成する(ステップS105)。化粧層の形成方法としては、例えば、被験面上に化粧料を塗布する方法、表裏の両面に粘着性を有するテープの一方の面に化粧料を付着させ、他方の面を被験面に貼り付ける方法、などを採用することができる。皮膚のレプリカとしては、例えば、シリコーンゴム製の皮膚や、皮膚と同様の色紙を採用することができる。なお、化粧層を形成する領域には、濃色部位はあってもなくても良い。
【0018】
化粧層が形成された被験面を撮像して撮像画像を得る(ステップS110)。撮像装置としては、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラなど、デジタル画像データを得ることができる任意のデバイスを採用することができる。但し、化粧層における光学的変量(可視光透過率や輝度や色等)の分布状態を解析するのに十分な解像度(例えば、150dpi以上の解像度)の画像を得ることが可能なデバイスが好ましい。化粧料は、様々な粒子径の基材から構成されており、化粧層ではこれら基材の粒子が分散して存在している。したがって、化粧層において光学的変量は空間的に分布し、後述するようにこの光学的変量の分布状態に基づき、可視光の透過性の低下を抑制しつつ濃色部位の目立ちを抑制する効果を評価する。なお、以降では、光学的変量の一例として輝度を用いて説明するが、輝度に限らず、化粧層において化粧料の塗布面と、化粧料が塗布されていないとを識別し得る任意の光学的変量を採用することができる。
【0019】
ステップS110で得られた撮像画像を空間周波数解析することにより、化粧層における光学的変量の分布状態を取得する(ステップS115)。本実施形態では、化粧層における光学的変量の分布状態として、輝度値のノイズパワースペクトル(以下、「NPS」と呼ぶ)を採用する。具体的な処理手順としては、先ず、撮像画像データから各画素の輝度値データを取得し、パーソナルコンピューター等の演算装置を用いて輝度値データを二次元フーリエ変換することにより、二次元パワースペクトルを取得する(ステップS115a)。二次元パワースペクトルは、画像中の変動の強さを、二次元の空間周波数ごとに分解して表す。二次元パワースペクトルの取得は、例えば、公知の画像処理ソフトウェアであるImageJ(Abramoff, M.D., Magelhaes, P.J., Ram, S.J. Biophotonics International, 11(7), p36-p42 (2004))を用いることができる。次に、二次元パワースペクトルをNPSに換算する(ステップS115b)。かかる換算方法としては、例えば、公知のradial frequency法(論文「CT画像におけるノイズパワースペクトル算出方法の比較評価」医用画像情報学会雑誌 Vol.25 No.2 2008 p29-p34)を採用することができる。
【0020】
図2は、ステップS115bで得られるNPSの一例を模式的に示す説明図である。図2において、横軸は空間周波数を示し、縦軸はNPS値を示す。なお、横軸の単位は、1mm(ミリメートル)当たりのサイクル(周期)である。ステップS115bが実行された結果、例えば、図2に示すNPS曲線L1を得ることができる。このNPS曲線L1では、空間周波数が低いほど、NPS値が大きい。
【0021】
図1に示すように、光学的変量の分布状態が取得されると、上述した目立ち抑制効果と関連する指標値が算出される(ステップS120)。本実施形態では、指標値として、所定範囲の空間周波数に対応するノイズパワースペクトル値を積算して得られた値を採用する。また、本実施形態では、積算する空間周波数の範囲は、濃色部位の直径をAとすると、1.5cycle/A以上、かつ、2.0cycle/A以下を採用する。なお、濃色部位の直径Aとして、上限値をAu、下限値をAdと設定した場合、積算する空間周波数の範囲の下限値Fu及び上限値Fdは、以下の式(1),(2)により決定される。
Fu=2.0/Ad ・・・(1)
Fd=1.5/Au ・・・(2)
【0022】
例えば、直径Aの下限値が5mmであり、上限値が10mmである場合には、積算する空間周波数の範囲は、0.15cycle/mm以上、かつ、0.40cycle/mm以下となる。積算する空間周波数の範囲は、想定される濃色部位の直径から求めることができる。また、所定範囲の空間周波数に対応するNPS値の積算は、パーソナルコンピューター等の演算装置により実行することができる。
【0023】
指標値が算出されると、得られた指標値に基づき、前述の目立ち抑制効果を評価する(ステップS125)。具体的には、上述したように所定範囲の空間周波数に対応するNPS値の積算値を指標値として採用した場合、指標値がより高いほど、目立ち抑制効果がより高いと評価する。
【0024】
以上のようにして目立ち抑制効果を評価することができるので、例えば、化粧品の原材料を選定する際に、目立ち抑制効果を考慮することができる。具体的には、複数の原材料をそれぞれ用いた複数の試料を製作し、これら試料を対象として上述した処理を行うことにより各試料の目立ち抑制効果の相対的な高さを把握して、かかる効果の高さに基づき、いずれの原材料を用いるかを決定することができる。なお、化粧層における光学的変量の分布状態は、原材料の粒子径や輝度を調整することにより制御することができる。例えば、粒子径をより大きくするほど低周波帯域におけるNPS値をより大きくすることができる。また、例えば、粒子の輝度をより高くするほど、NPS値をより大きくすることができる。したがって、目立ち抑制効果の評価結果に基づき、化粧料の原材料の粒子径や輝度を調整することもできる。
【0025】
A2.NPS値を積算する空間周波数範囲の決定:
図3は、上述したステップS120において、NPS値の積算対象となる空間周波数の範囲を決定する処理の手順を示すフローチャートである。上述したように、本実施形態のステップS120において、NPS値を積算する空間周波数の範囲は、濃色部位の直径をAとすると、1.5cycle/A以上、かつ、2.0cycle/A以下である。かかる範囲は、以下のようにして決定することができる。
【0026】
先ず、互いに異なる特定の空間周波数に大きなNPS値を有する複数のフィルタを作成する(ステップS205)。例えば、0.10cycle/mmにのみ大きなNPS値を有するフィルタや、0.25cycle/mmにのみ大きなNPS値を有するフィルタなどを作成する。これらのフィルタは、化粧層を模している。フィルタの作成は、例えば、以下のようにして実現することができる。先ず、各空間周波数においてNPSが均一な二次元ホワイトノイズ画像を用意する。なお、かかる画像の大きさとしては、例えば、縦及び横がいずれも256ピクセルの画像を採用することができる。次に、特定の空間周波数のみ通過させるバンドパスフィルタを用意し、二次元ホワイトノイズ画像にバンドパスフィルタを掛けることにより、特定の空間周波数のみ大きなNPS値を持つ二次元配列群を得る。次に、得られた二次元配列群に対して、平均値を25%とし、標準偏差を12.5%とする規格化を行ってフィルタを得る。なお、このようにして得られたフィルタ群は、互いに同等の可視光の透過率を有する。
【0027】
色の濃さの異なる濃色部位モデル画像を作成する(ステップS210)。例えば、円形からフラクタルノイズを掛けることにより、任意の形状の濃色部位のデジタル画像モデルを作成し、かかるモデルの背景色を肌色(R:241,G:187,B:147)に設定する。そして、濃色部位のモデルの色を、RGB値からそれぞれ1つずつ低減させることにより、色の濃さが段階的に異なる複数の濃色部位モデル群を作成することができる。
【0028】
ステップS205において作成された複数のフィルタ群と、ステップS210において作成された複数の濃色部位モデル群とを用いて、フィルタとモデルとの各組合せから成る合成画像群を作成する(ステップS215)。
【0029】
図4は、ステップS205〜S215の処理結果を模式的に示す説明図である。図4(a)は、ステップS205により得られるフィルタ群を、図4(b)は、ステップS210により得られる濃色部位のモデル群を、図4(c)は、ステップS215により得られる合成画像群を、それぞれ示す。
【0030】
図4(a)に示すように、ステップS205では、NPS値が特別に大きい空間周波数が互いに異なるフィルタが複数得られる。図4(b)に示すように、ステップS210では、色の濃さが互いに異なる濃色部位のモデルが表された複数の画像が得られる。なお、これら複数の画像の背景色は同一である。図4(c)に示すように、ステップS215では、各濃色部位モデルに対して、すべてのフィルタが合成されて合成画像群が得られる。なお、図4(c)において、横軸は、フィルタにおける空間周波数(NPS値として特別に大きな値が設定された空間周波数)を示しており、より右側に位置するほど周波数が高い。また、図4(c)において、縦軸は、濃色部位のモデルにおける色の濃さを示しており、より上側に位置するほど色の濃さが高い。
【0031】
合成画像群が得られると、被験者により、各空間周波数の合成画像群において、濃色部位モデルが視認され得る濃色部位の濃さの範囲が特定される(ステップS220)。ステップS220で特定された濃さの範囲のうち、各空間周波数における最小の濃さの値を視認可能な濃さの閾値として求める(ステップS225)。図4(c)に示すように、同じ空間周波数の合成画像群において、濃色部位モデルの色がより濃いほど、濃色部位の視認性は高くなる。また、濃色部位モデルの色の濃さが同じであっても、空間周波数によって視認性が異なる。ここで、視認可能な濃さの閾値がより高いことは、それだけ濃色部位の目立ちが抑制されていることを意味する。換言すると、視認可能な濃さの閾値をより高くさせる空間周波数(フィルタ)は、他の空間周波数(フィルタ)に比べて、濃色部位の色の濃さがより高くないと被験者が濃度部位を視認できないほど、濃色部位の目立ちを抑制している。なお、濃さの値を算出する方法としては、RGBの差分値の他、例えば、Michelsonコントラスト((輝度最大値−輝度最小値)/(輝度最大値+輝度最小値))の2乗(C2)を採用することができる。また、例えば、コントロールとして、フィルタを用いずに視認可能な濃さの閾値を求め、フィルタを用いて求められた各閾値からコントロールの閾値を減算することにより、各フィルタにおける濃色部位の目立ちの抑制効果を表す方法が採用できる。
【0032】
各空間周波数における視認可能な濃さの閾値が得られると、得られた値に基づき、ステップS120において、NPS値を積算する範囲(空間周波数帯域)を決定する(ステップS230)。上述したように、ステップS120で得られた濃さの閾値がより高い空間周波数(フィルタ)は目立ちをより抑制することができる。したがって、濃さの閾値が高い空間周波数帯域を、ステップS120において、NPS値を積算する範囲として決定する。
【0033】
図5は、ステップS120におけるNPS値を積算する範囲を決定する処理の一例を示す説明図である。図5において、横軸は空間周波数を示し、縦軸は視認可能な濃さの閾値を示す。なお、横軸の単位は、「cycle/A」である。なお、Aは、濃色部位の直径を意味する。また、縦軸は、「ΔRGB」であり、背景色と濃色部位のRGBの差分量を表す。
【0034】
図5に示す例では、6人の被験者により、400ルクスの室内光の下、評価対象(合成画像)から1m(メートル)の距離で濃色部位モデルの視認の有無を試験した。被験者はいずれも裸眼又は矯正された状態であり、正常の視力を有していた。
【0035】
図5に示すように、空間周波数が1.0cycle/A以上かつ3.0cycle/A以下の範囲において、濃さの閾値が高い。特に、1.5cycle/A以上かつ2.0cycle/A以下の範囲において、濃さの閾値が高い。これは、空間周波数が1.0cycle/A以上かつ3.0cycle/A以下の範囲、特に、1.5cycle/A以上かつ2.0cycle/A以下の範囲のフィルタは、濃色部位の目立ち抑制効果が高いことを意味する。したがって、図5の例によると、ステップS120における積算する範囲として、「1.5cycle/A以上、かつ、2.0cycle/A以下」が決定され得る。
【0036】
以上説明した実施形態における目立ち抑制効果の評価方法によれば、NPS値を積算する空間周波数の範囲を決定する際に用いるフィルタは、互いに可視光の透過率が同等である。したがって、かかるフィルタを用いて得られた合成画像に基づき決定された範囲でNPS値を積算し、得られた積算値に基づき評価することにより、可視光の透過性の低下を抑制しつつ、濃色部位の目立ち抑制の効果を客観的に評価することができる。換言すると、従来における濃色部位を化粧料により覆い隠す手法とは異なり、所定の可視光の透過率を確保可能な化粧料における濃色部位を目立たなくさせる効果を客観的に評価することができる。
【0037】
また、化粧料を塗布した塗布面を撮像して得られた撮像画像を空間周波数解析して得られた解析結果に基づき、目立ち抑制効果と関連する指標値を得るので、従来における濃色部位を化粧料により覆い隠す手法とは異なり、化粧料の部材(粒子)をまばらに配置することにより濃色部位を目立たなくする手法を採用した場合に、かかる手法における目立ち抑制効果を客観的に評価することができる。
【0038】
また、撮像画像を空間周波数解析する際に、二次元フーリエ変換を行ってノイズパワースペクトルを得るので、短期間で光学的変量の分布状態を取得することができる。また、目立ち抑制効果と関連する指標値として、所定範囲の空間周波数に対応するNPS値を積算して求めるので、短期間で指標値を得ることができる。
【0039】
B.第1実施例:
第1実施例では、前述のステップS105において、化粧料として、フラメンコオレンジ(BASF株式会社)と、フラメンコスパークルオレンジ(BASF株式会社)との2種類の粉体を用いた。OHP(OverHead Projector)紙上に両面テープの一方の面を接着させ、他方の面にそれぞれの化粧料(粉体)を付着させて2つの試料を形成した。以降では、フラメンコオレンジを付着させて形成した化粧層を試料1と呼び、フラメンコスパークルオレンジを付着させて形成した化粧層を試料2と呼ぶ。なお、フラメンコオレンジのメジアン径は、レーザー回折散乱方式で測定して21μmであった。また、フラメンコスパークルオレンジのメジアン径は、レーザー回折散乱方式で測定して43μmであった。これら2つの試料1,2が形成されたOHP紙を、皮膚を模した肌色紙上に載せた。
【0040】
ステップS110では、試料1,2が載置された状態の肌色紙をデジタルスチルカメラで撮像して、撮像画像を得た。なお、得られた画像に対してパース補正を行った。加えて、解像度を150dpiに変換した後、トリミングにより、縦及び横がそれぞれ256ピクセルの画像を得た。このようにして得られた画像に基づき、二次元パワースペクトルを得て(ステップS115a)、さらに、NPSを得た(ステップS115b)。
【0041】
図6は、本実施例のステップS115bにより得られたNPSを示す説明図である。図5における横軸及び縦軸は、いずれも図2における横軸及び縦軸と同じであるので、説明を省略する。図6に示すように、いずれの空間周波数においても、試料2は、試料1に比べてNPS値が大きかった。
【0042】
ステップS120では、濃色部位の直径の下限値を5mmと想定し、また、上限値を10mmと想定して、積算する空間周波数の範囲を、0.15cycle/mm以上、かつ、0.40cycle/mm以下とした。その結果、試料1の積算値は、1.21×10-3であった。また、試料2の積算値は、5.67×10-3であった。したがって、ステップS125では、試料2の方が、試料1に比べて目立ち抑制効果が高いと評価された。
【0043】
図7は、第1実施例の試料1,2を用いた撮像画像を示す説明図である。図7(a)は、濃色部位のモデル画像を示す。図7(b)は、図7(a)に示す濃色部位モデルに試料1を重ねて撮像して得られた撮像画像を示す。図7(c)は、図7(a)に示す濃色部位モデルに試料2を重ねて撮像して得られた撮像画像を示す。図7に示すように、図7(c)の画像の方が、図7(b)の画像に比べて、濃色部位モデルが視認し難い。換言すると、試料2の方が、試料1に比べて、目立ち抑制効果が高い。このように、上述した評価方法により得られた結果は、官能評価に沿ったものであった。
【0044】
C.第2実施例:
上述した第1実施例の試料2における粉体(フラメンコスパークルオレンジ)を用いた化粧料(パウダーファンデーション)と、かかる粉体を用いない化粧料とを用意し、これらを人の顔に塗布して官能評価を行った。
【0045】
試料2における粉体を用いた化粧料(以下、「化粧料1」と呼ぶ)の成分は下記表1に示すとおりである。
【0046】
【表1】
【0047】
上記成分1〜16をヘンシェル型ミキサーを用いて混合した後、アトマイザーにて粉砕した。さらに、成分1〜16の混合粉砕物と成分17とをヘンシェル型ミキサーを用いて混合し、その後、成分18,19をさらに加えて混合してアトマイザーにて粉砕した。かかる粉砕物をふるいに掛けて、中皿にプレスして化粧料1(ファンデーション)を得た。
【0048】
なお、試料2を用いない化粧料(以下、「化粧料2」と呼ぶ)の成分は、上記成分17を省略する点、及び成分17の配合量に相当する量(5.00重量%)だけ、成分1の配合量が多い点において、化粧料1の成分と異なり、他の成分及び製造方法は、化粧料1と同じである。
【0049】
官能評価は、上述の化粧料1及び化粧料2を、実際に人の顔に塗布して行った。具体的には、顔に化粧下地を均一に塗布した後、化粧料1と化粧料2とを、それぞれ同一人物の異なる部位に塗布し、3名の判定者により、どちらの化粧料がしみをより強く隠しているかを評価した。その結果、いずれの判定者も、化粧料1が、化粧料2に比べてより強くしみを隠していると評価した。
【0050】
D.変形例:
D1.変形例1:
上述した実施形態及び実施例では、ステップS115において、二次元フーリエ変換を行うことにより二次元パワースペクトルを得ていたが、二次元フーリエ変換に代えて、ウェーブレット変換により二次元パワースペクトルを得ることもできる。すなわち、一般には、撮像画像を空間周波数解析可能な任意の手法を採用することができる。
【0051】
D2.変形例2:
上述した実施形態及び実施例では、ステップS120において、目立ち抑制効果と関連する指標値として、所定範囲の空間周波数に対応するNPS値を積算して得られた値を用いていたが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、例えば、所定範囲の空間周波数に対応するNPS値の平均値を、目立ち抑制効果と関連する指標値として用いることもできる。また、例えば、所定範囲の空間周波数に対応するNPS値の中央値を、目立ち抑制効果と関連する指標値として用いることもできる。すなわち、一般には、所定範囲の空間周波数に対応するNPSから統計的手法により得られる値を、目立ち抑制効果と関連する指標値として用いることができる。
【0052】
D3.変形例3:
上述した実施形態及び実施例において、化粧層の形成(ステップS105)及び化粧層の撮像(ステップS110)を、目立ち抑制効果の評価手順とは別に既に実行されている場合には、目立ち抑制効果の評価手順におけるステップS105,S110を省略することもできる。この場合、ステップS105及びステップS110に代えて、「化粧層の撮像画像を取得する」工程を行う。撮像画像の取得とは、例えば、ステップS115,S120を実行する演算装置に対して、化粧層の撮像画像データを入力する工程を意味する。
【0053】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
L1…ノイズパワースペクトル(NPS)曲線
図1
図2
図3
図5
図6
図4
図7