特許第6099397号(P6099397)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099397ローズマリーエキス及び酢酸レチノールを含むヒアルロン酸分解抑制剤
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  • 特許6099397-ローズマリーエキス及び酢酸レチノールを含むヒアルロン酸分解抑制剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099397
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】ローズマリーエキス及び酢酸レチノールを含むヒアルロン酸分解抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/53 20060101AFI20170313BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20170313BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20170313BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20170313BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20170313BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   A61K36/53
   A61K31/07
   A61K8/97
   A61K8/67
   A61P43/00 111
   A61P17/16
   A61P17/10
   A61P17/02
   A61P37/08
   A61Q19/02
   A61Q19/08
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-533414(P2012-533414)
(86)(22)【出願日】2012年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2012066593
(87)【国際公開番号】WO2014002232
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2015年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】飯野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】落合 信彦
(72)【発明者】
【氏名】常長 誠
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/119099(WO,A1)
【文献】 特開2006−241044(JP,A)
【文献】 特開平08−333267(JP,A)
【文献】 特開2002−080338(JP,A)
【文献】 特開2010−270062(JP,A)
【文献】 特開2011−012055(JP,A)
【文献】 特開2005−132745(JP,A)
【文献】 Food Science and Technology Research,2000年,Vol.6,No.1,pp.74-77
【文献】 日本化学会講演予稿集,,1997年,Vol.72nd,No.2,p.1419,4PB006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 8/00−8/99
A61K 31/00−31/80
A61P 17/02
A61P 17/10
A61P 17/16
A61P 37/08
A61P 43/00
A61Q 19/02
A61Q 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズマリーエキスと、酸レチノールを含む、ヒアルロニダーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記ローズマリーエキスが、乾燥重量として0.00001〜0.1質量%で配合される、請求項1記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記酢酸レチノールが、0.000001〜0.01質量%で配合される、請求項1又は2に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたヒアルロニダーゼ阻害作用を有するヒアルロニダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老化に関する研究が進められている。皮膚老化の原因は、マクロ的にみれば加齢が重要な因子であるが、それに加えて乾燥、酸化、太陽光(紫外線)等による影響も皮膚老化に関わる直接的な因子として挙げられる。皮膚老化の具体的な現象としては、ヒアルロン酸をはじめとするムコ多糖類の減少、コラーゲンの架橋反応、紫外線による細胞の損傷などが知られている。
【0003】
なかでも、β−D−N−アセチルグルコサミンとβ−D−グルクロン酸が交互に結合した直鎖状の高分子多糖で、コンドロイチン硫酸などともに哺乳動物の結合組織に広く存在するグリコサミノグルカンの一種であるヒアルロン酸は、細胞間隙への水分の保持、組織内にジェリー状のマトリックスを形成することに基づく細胞の保持、組織の潤滑性と柔軟性の保持、機械的障害等の外力に対する抵抗、および細菌感染の防止など、多くの機能を有している(非特許文献1参照)。また、皮膚のヒアルロン酸量は加齢とともに減少し、それに伴い、小じわやかさつき等の皮膚老化が現れるといわれている。そのため、このような老化した皮膚の改善剤として、ヒアルロン酸を配合した化粧料が数多く提案されている。しかしながらこれら従来の化粧料は、皮膚表面における保湿効果を発揮するだけであり、本質的に老化肌を改善し得るものではない。また、皮膚中のヒアルロン酸量を上昇させる薬剤を配合した化粧料も最近多く提案されるようになってきた(特許文献1参照)が、これらも老化肌を明瞭に改善し、治療し得るまでには至っていないのが現状である。ヒアルロン酸の外用もしくはヒアルロン酸の産生促進剤の外用によって、必ずしも老化肌を明瞭に改善できないのは、皮膚中でのヒアルロン酸の分解速度が速いからだと考えられている。皮膚中のヒアルロン酸は、生体内で合成されると同時にその分解酵素であるヒアルロニダーゼによる酵素分解を受けている為に速く、皮膚中のヒアルロン酸の半減期はおよそ1日であるとの報告がある(非特許文献2参照)。ヒアルロニダーゼは、生体中に広く分布し、皮膚にも存在する酵素で、その名の通りヒアルロン酸を分解する。従って、ヒアルロン酸分解を促進するヒアルロニダーゼの活性を抑制することは、製剤に使用されているヒアルロン酸の安定性や、皮膚に塗布した後の製剤のヒアルロン酸及び皮膚に存在していたヒアルロン酸の安定性に寄与すると考えられる。また、ヒアルロニダーゼは炎症酵素としても知られ、この活性を抑制することは炎症を抑え、また、アレルギーにも抑制的に働くことが知られている。以上のような理由から、皮膚の弾力性及び保湿性を維持し、しわ、小皺、かさつきを防ぎ、うるおいのある若々しい肌の状態を維持する為に、ヒアルロン酸分解酵素であるヒアルロニダーゼの有効な抑制剤を開発することが求められてきた。
【0004】
ローズマリー、タイム、及びメリッサといったシソ科植物の抽出物が、ヒアルロニダーゼの阻害活性や血小板凝集抑制作用、さらにはヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を示し、抗炎症作用を有することが示されている(特許文献2)。この文献において、ローズマリー、タイム、又はメリッサのいずれかから抽出されたヒアルロニダーゼ阻害物質、それらの混合物、さらには他の抗アレルギー剤との混合物について記載はあるものの、相加効果を超える相乗効果を発揮するような混合物については何ら記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−209261号公報
【特許文献2】特開平8−333267号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"BioIndustry"、vol.8、p.346(1991)
【非特許文献2】TammiR.etal,.J.Invest.Dermatol.,97,126〜130(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、安全で、かつ簡便に用いることができる、ヒトにおけるヒアルロニダーゼ阻害作用を有するヒアルロニダーゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題の解決に向けて広く種々の物質についてヒアルロニダーゼ阻害作用について鋭意研究を行ったところ、ヒアルロニダーゼ阻害作用が知られているローズマリーのエキスと、ヒアルロニダーゼ阻害作用が知られていないビタミンA類とを併用した場合に、ヒアルロニダーゼ阻害作用が大幅に増強されることを驚くべきことに見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明は、以下の発明に関する:
[1]ローズマリーエキスと、ビタミンA類とを含む、ヒアルロニダーゼ阻害剤。
[2]前記ビタミンA類が、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールからなる群から選ばれる、[1]に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
[3]前記ビタミンA類が、酢酸レチノールである、[1]又は[2]に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含む、皮膚老化、しわ、肌荒れ、乾燥肌、かさつき、ニキビ及びアトピー性皮膚炎からなる群から選ばれる皮膚トラブルの改善又は予防用の皮膚外用剤。
[5][1]〜[3]のいずれか一項に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎、乾燥肌、関節炎、歯肉炎、リウマチ、変形性関節症、及び熱傷からなる群から選ばれるヒアルロン酸減少関連疾患の治療のための皮膚外用剤。
[6]ヒアルロン酸の減少を改善又は予防するためのローズマリーエキス及びビタミンA類の使用。
[7]皮膚老化、しわ、肌荒れ、乾燥肌、かさつき、ニキビやアトピー性皮膚炎といった皮膚トラブルを予防又は改善するため、又は乾燥肌、関節炎、歯肉炎、リウマチ、変形性関節症、熱傷といったヒアルロン酸減少関連疾患の治療のためのローズマリーエキス及びビタミンA類の使用。
[8]ヒアルロン酸の減少を患う対象において、ローズマリーエキスと、ビタミンA類とを投与することを含む、ヒアルロニダーゼ阻害方法。
[9]ヒアルロン酸が減少している対象において、ローズマリーエキスと、ビタミンA類とを投与することを含む、ヒアルロン酸減少を改善又は予防するための美容方法又は治療方法。
[10]前記美容方法又は治療方法が、しわ、肌荒れ、乾燥肌、かさつき、ニキビやアトピー性皮膚炎といった皮膚トラブルの改善又は予防のためである、[9]に記載の美容方法又は治療方法。
[11]ヒアルロン酸減少を患う対象において、ローズマリーエキスと、ビタミンA類とを投与することを含む、アトピー性皮膚炎、乾燥肌、関節炎、歯肉炎、リウマチ、変形性関節症、熱傷といったヒアルロン酸減少関連疾患の治療方法。
[12]ヒアルロニダーゼ阻害剤の製造のための、ローズマリーエキス及びビタミンA類の使用。
[13]老化、しわ、肌荒れ、乾燥肌、かさつき、ニキビやアトピー性皮膚炎といった皮膚トラブルの改善又は予防のための化粧料又は医薬品の製造のための、ローズマリーエキス及びビタミンA類の使用。
[14]アトピー性皮膚炎、乾燥肌、関節炎、歯肉炎、リウマチ、変形性関節症、熱傷といったヒアルロン酸減少関連疾患の治療のための医薬品の製造のための、ローズマリーエキス及びビタミンA類の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤に含まれるビタミンA類は、単独で用いられた場合には、ヒアルロニダーゼ阻害作用を発揮しないか、ほとんど発揮しないものの、ローズマリーエキスと併せて用いられた場合に、ローズマリーエキスの有するヒアルロニダーゼ阻害作用を有意に増強することが可能であり、ヒト皮膚の老化、しわ、肌荒れ、乾燥肌、かさつき、ニキビやアトピー性皮膚炎といった皮膚トラブル、あるいは関節炎、歯肉炎、リウマチおよび変形性関節症、熱傷などのヒアルロン酸減少関連疾患の改善又は予防のうちのいずれかの効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ローズマリーエキスが、ヒアルロニダーゼ阻害作用を有するが、酢酸レチノールはヒアルロニダーゼ阻害作用を有さない一方で、ローズマリーエキスと酢酸レチノールの併用により、ローズマリーエキスのヒアルロニダーゼ阻害作用が有意に増強したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、ヒアルロニダーゼとは、グリコシド結合を切断することによりヒアルロン酸を分解する酵素の総称である。ヒアルロニダーゼは、動物組織に広く分布しており、その活性を阻害することにより、体内、特に皮膚や関節液などでヒアルロン酸含量を高めることが期待される。切断されるグリコシド結合はグルクロニド結合又はN−アセチルグルコサミニド結合の場合がある。
【0013】
本発明においてヒアルロニダーゼ阻害剤とは、ヒアルロニダーゼのヒアルロン酸分解活性を阻害する薬剤をいい、それにより、体内、特に関節液や皮膚におけるヒアルロン酸含量を増加することが可能である。本発明の好ましい態様では、ヒアルロニダーゼ阻害剤は、特にローズマリーエキスと、ビタミンA類とを含む。
【0014】
ヒアルロン酸は、体内において弾力性、保湿性、潤滑性に関わっており、老化と共にヒアルロン酸含量が低下すること、そして皮膚におけるヒアルロン酸の低下によりしわ、肌荒れ、乾燥肌やかさつきといった症状が起こることが知られている。また、ヒアルロニダーゼは炎症に関わることが知られており、ヒアルロニダーゼの活性化が、アトピー性皮膚炎やニキビと関連していることも知られている。したがって、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤により、老化、しわ、肌荒れ、乾燥肌、かさつき、ニキビやアトピー性皮膚炎といった皮膚トラブル、さらにはヒアルロン酸減少関連疾患、例えば乾燥肌、関節炎、歯肉炎、リウマチおよび変形性関節症、熱傷の治療、改善又は予防することが可能になる。
【0015】
本発明において、ローズマリーエキスとは、地中海沿岸地方を原産とするシソ科ロスマリヌス属のローズマリー(Rosmarinus officinalis)に由来する抽出物であり、該植物の植物全体、特に全草、葉及び花が原材料として用いられる。ローズマリーエキスは、抗菌性、抗酸化効果、抗炎症効果を有することが知られており、皮膚改善剤等のアンチエイジング剤、免疫賦活剤、抗糖尿病剤、抗骨粗しょう症剤、抗肥満剤、睡眠促進剤、抗中枢神経剤等の医薬品として使用できることが報告されている。
【0016】
本発明のローズマリーエキスは、常法により得ることができ、例えば植物を抽出溶媒とともに浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等の有機溶媒等を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。上記溶媒で抽出した得た抽出液をそのまま、あるいは濃縮したエキスを吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD−2)のカラムにて吸着させた後、メタノールまたはエタノールで溶出し、濃縮したものも使用することができる。更には、乾燥したものも使用することができる。また、分配法、例えば水/酢酸エチルで抽出した抽出物等も用いられる。
【0017】
このようにして得た上記植物またはその抽出物は、いずれも優れたヒアルロニダーゼ阻害作用を有する。皮膚に直接適用する化粧料又は医薬品、例えば皮膚外用剤などに用いる観点から、低刺激性の溶媒、例えば水、1,3−ブチレングリコール、グリセリンなどを用いて抽出された抽出物が好ましく、例えば1,3−ブチレングリコールの50質量%水溶液が用いられることが好ましい。
【0018】
上記植物またはその抽出物を化粧料又は医薬品に配合して用いる場合、化粧料又は医薬品全量中に乾燥重量として0.00001〜0.1質量%で配合するのが好ましく、より好ましくは0.00005〜0.01質量%、さらに好ましくは0.0001〜0.001質量%で配合される。
【0019】
ビタミンA類は、欠乏すると夜盲症やくる病を発生することが知られており、皮膚においては、皮膚や粘膜の角質化、皮膚の異常乾燥、色素沈着などが生じることが知られており、皮膚に対してはニキビの治療、皮膚ターンオーバーの促進のために用いられていたが、ヒアルロニダーゼ阻害作用を増強しうることについては何ら記載も示唆もされていない。ビタミンA類としては、レチノール、レチナール、レチノイン酸といったビタミンA群及びそれらの前駆体や誘導体、例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、トレチノイン酸、レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノールなどのうちの1種類、又は2種類以上の成分が含まれるものとする。皮膚への適用の観点から、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールが好ましく、特に酢酸レチノールが好ましい。
【0020】
本発明で用いるビタミンA類の配合量は、ローズマリーエキスのヒアルロニダーゼ阻害効果を増強することができれば特に制限されず、例えば化粧料又は医薬品全体として、通常0.000001〜0.01質量%、好ましくは0.000005〜0.001質量%、特に好ましくは0.00001〜0.0001質量%であれば良い。
【0021】
ローズマリーエキスとビタミンA類の配合比は、ローズマリーエキスのヒアルロニダーゼ阻害効果を増強することができる範囲であればよく、例えばローズマリーエキス1質量部に対し、ビタミンA類0.01質量部〜5質量部で用いることができ、より好ましくは0.05〜1質量部、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部で用いることができる。
【0022】
ビタミンA類は、通常、ヒアルロニダーゼ阻害作用を有することはないため、ローズマリーエキスと併用された場合に、ローズマリーエキスの有するヒアルロニダーゼ阻害作用を増強しさせすれば、相加を超える相乗効果を発揮しているといえる。例え、ビタミンA類が、ヒアルロニダーゼ阻害作用を有していたとしても、その作用は弱い一方で、ローズマリーエキスと併用された場合に、ローズマリーエキスの有するヒアルロニダーゼ阻害作用を大きく増強するため、相加を超える相乗効果が発揮されている。
【0023】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、さらに化粧料や医薬品に配合されてもよい。したがって、ローズマリーエキスとビタミンA類に加えて、さらに必要により、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等に用いられる有効成分及び/又は賦形剤、例えば保湿剤、酸化防止剤、油分、紫外線防御剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、グリセリン、ヒアルロン酸などの基剤、pH調整剤粉末成分、紫外線吸収剤、安定剤、抗菌剤、香料、色材、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0024】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0025】
また、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤を配合した化粧料又は医薬品は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等の皮膚外用剤であってもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。
【0026】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤が配合された化粧料として、例えば化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等のフェーシャル化粧料や、ファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、日焼け止め剤、芳香化粧料、毛髪用化粧料、浴用剤等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0027】
また、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、経皮投与の他、経口投与、他の非経口投与(例えば、経粘膜、舌下、筋肉内、関節内又は皮下投与)によって投与されてもよい。したがって、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、ヒアルロン酸量低下によるしわ、肌荒れ、乾燥肌、かさつき、ニキビやアトピー性皮膚炎といった皮膚トラブルを防止する皮膚外用に用いる化粧料又は医薬品の他に、老化による人体のヒアルロン酸量の低下を防ぐ食品、ヒアルロン酸分解が異常に亢進した症状、特に歯肉炎、リウマチおよび変形性関節症や、関節炎の予防治療、熱傷の初期治療などに対するヒアルロン酸異常分解疾患治療剤等の医薬組成物に配合することができる。本発明のヒアルロニダーダーゼ阻害剤を医薬組成物として用いる場合、その剤型は特に制限されず、投与経路等に応じて適宜選択することができる。例えば、経口投与に適した製剤として、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などを挙げることができ、非経口投与に適した製剤として、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などを挙げることができる。注射剤は、関節内注射、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、点滴などのいずれに用いるものであってもよい。
【0028】
本発明は、ヒアルロン酸が減少している対象において、ローズマリーエキスと、ビタミンA類と塗布をすることを含む、ヒアルロン酸減少を改善又は予防するための美容方法又は治療方法にも関する。本発明の美容方法又は治療方法において、ローズマリーエキスと、ビタミンA類とは、同時に塗布されてもよいし、時間をあけて別々に塗布されてもよい。美容方法とは、単に個人的に行われる方法のみならず、美容に関わる商品の提供の際に、顧客にあわせた化粧料の処方として提供され、医師以外の化粧料販売員やエステティシャンにより提供される。
【0029】
ヒアルロン酸が減少している対象とは、加齢に伴いヒアルロン酸が減少している対象の他、アトピー性皮膚炎、乾燥肌、関節炎、歯肉炎、リウマチ、変形性関節症、や熱傷などのヒアルロン酸減少関連疾患を患っている対象のことをいう。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによってなんら限定されるものでない。なお、配合量はすべて質量%である。
【0031】
製造例:ローズマリー抽出液の製造
ローズマリーの葉10kgを細切りにした物に対し、50質量%の1,3−ブチレングリコール水溶液を添加し、室温で7〜10日間浸漬した。浸漬後、ろ過して不要物を取り除き、濾液をさらに冷所で7〜10日間インキュベートした。インキュベート後にろ過して不要物を取り除き、ローズマリーエキス BGを取得した。
【0032】
実施例:ヒアルロン酸分解抑制試験
50μLのヒアルロニダーゼ溶液(1mg/mL)(シグマアルドリッチジャパン株式会社)をマイクロチューブに入れ、評価薬剤を50μL加えて37℃で10分間インキュベートした。評価薬剤として、ローズマリーエキスBG(丸善製薬(株))、酢酸レチノール(ビーエーエスエフジャパン(株))、ローズマリーエキスBG及び酢酸レチノールを用い、対照では評価薬剤の代わりに水を加えた。ローズマリーエキスBGは、ヒアルロン酸ナトリウム水溶液添加後における終濃度が乾燥重量で0.000165質量%となるように添加し、酢酸レチノールは同終濃度が0.0000516質量%となるように添加した。インキュベート後、1mg/mLヒアルロン酸ナトリウム溶液(株式会社資生堂、分子量110〜160万)を400μL加えて、さらに37℃で10分間インキュベートした後、50μlの水酸化ナトリウム水溶液(0.2M)を加えて反応を止めた。この溶液を3分間煮沸した後、流水で冷却し、10%p−DMAB(ジメチルアミノベンズアルデヒド)溶液(ナカライテスク株式会社)を300μL加えて37℃で20分間インキュベートした。室温に戻した後、100μLずつ96ウェルプレートに移して、POWERSCAN HT(DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いてOD585nmを測定した。対照の吸光度を100とした結果を図1に示す。図1から、ローズマリーエキスは、単独でヒアルロニダーゼ阻害作用を有する一方で、酢酸レチノールはヒアルロニダーゼ阻害作用を発揮しないものの、ローズマリーエキスと酢酸レチノールを併用した場合に、ローズマリーエキスの有するヒアルロニダーゼ阻害作用を増強することができることが示された。
【0033】
処方例(化粧水) (質量%)
エタノール 5.0
グリセリン 0.5
ジプロピレングリコール 2.0
1,3−ブチレングリコール 6.0
セージ油 0.01
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.03
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 0.1
酢酸レチノール 0.00005
ローズマリーエキス(乾燥重量) 0.001
エイジツエキス(乾燥重量) 0.001
オウバクエキス(乾燥重量) 0.001
トゲナシエキス(乾燥重量) 0.001
ラベンダー油 0.1
トウニンエキス(乾燥重量) 0.1
アルギン酸ナトリウム 0.001
精製水 残余
【0034】
処方例(乳液) (質量%)
ジメチルポリシロキサン 2.0
ベヘニルアルコール 1.0
バチルアルコール 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 7.0
エリスリトール 2.0
硬化油 3.0
スクワラン 6.0
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 2.0
イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 1.0
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1.0
酢酸レチノール 0.0001
ローズマリーエキス(乾燥重量) 0.001
水酸化カリウム 適量
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
フェノキシエタノール 適量
カルボキシビニルポリマー 0.1
精製水 残余
【0035】
処方例(クリーム) (質量%)
流動パラフィン 8.0
ワセリン 3.0
ジメチルポリシロキサン 2.0
ステアリルアルコール 3.0
ベヘニルアルコール 2.0
グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 4.0
トレハロース 1.0
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 4.0
モノイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 2.0
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1.0
親油型モノステアリン酸グリセリン 2.0
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
水酸化カリウム 0.015
油溶性甘草エキス(乾燥重量) 0.1
酢酸レチノール 0.0001
酢酸トコフェロール 0.1
ローズマリーエキス(乾燥重量) 0.0002
パラオキシ安息香酸エステル 適量
フェノキシエタノール 適量
ジブチルヒドロキシトルエン 適量
エデト酸三ナトリウム 0.05
4−t−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン 0.01
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 0.1
β−カロチン 0.01
ポリビニルアルコール 0.5
ヒドロキシエチルセルロース 0.5
カルボキシビニルポリマー 0.05
精製水 残余
香料 適量
図1