【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの発明によって限定されるものではない。
【0050】
1.評価項目
(1)樹脂組成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製ECA500NMR)を用いて、
1H−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から求めた(分解能:500MHz、溶媒:重水素化クロロホルム、温度:25℃)。
【0051】
(2)密着性
塩化メチレンに、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を溶液濃度が15質量%になるように混合した。その溶液を古河電気工業株式会社製GTS銅箔(厚さ175μm)の粗化処理面に流延塗布し、減圧下、120℃、24時間加熱乾燥させ、厚み10μmの被膜を作製した。なお、比較例6は、200℃、24時間加熱乾燥させた。
得られた被膜に、JIS K5400に規定されたクロスカット法に準拠して切込みを入れ、マス目を100個形成した。その後、市販のセロハンテープ(「CT−24(幅24mm)」、ニチバン株式会社製)を、切り込み方向の一方向に平行な方向に、端部を残して貼りつけ、その上から消しゴムでこすって十分に接着させ、貼付面に対して90度の角度の方向に瞬間的に引き剥がした。引き剥がした後、被膜層に残るマス目の数を目視で確認した。
【0052】
(3)揮発物量
(2)で得られた被膜からオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を削りだし、それから10mgを精秤して試料カップに詰め、島津製作所製ダブルショットパイロライザPY−2020iDを用いて
200℃で10分間加熱したときに発生する揮発成分を、GC/MSを用いて測定をおこなった。GCはアジレント・テクノロジー社製6890N(カラム:UA5(MS/HT)−30M−0.25F、キャリアガス:ヘリウム)を用いて定量をおこない、MSはアジレント・テクノロジー社製5975Cを用いた。揮発物量は、ヘキサデカンを標準試料として作成した検量線を用いて算出した。
【0053】
(4)弾性率
(2)で得られた溶液をPETフィルム上に流延塗布した後、減圧下、120℃、24時間乾燥し、PETフィルムからフィルムを剥離し、厚み100μmのフィルムを作製した。
得られたフィルムを、JIS K−2318に準拠して、インテスコ社製引張圧縮試験機を用いて測定した。
【0054】
(5)摩擦係数
(4)で得られたフィルムの摩擦係数を、協和界面科学製自動摩擦摩耗解析装置TS501を用いて測定した(接触子:SUS製の線状接触子、荷重500g、速度5cm/秒)。
【0055】
(6)耐熱性
(4)で得られたフィルムを120℃雰囲気下に3時間静置した。実施例、比較例すべてにおいて、フィルム形状が維持され、樹脂が溶融する等の問題は発生しなかった。
【0056】
(7)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
送液装置:ウォーターズ社製Isocratic HPLC Pump 1515
検出器:ウォーターズ社製Refractive Index Detector 2414
カラム:Mixed−D(充填シリカゲル粒径5μm、チューブ長さ300mm、内径7.5mm)
溶媒:クロロホルム
流速:1mL/分
測定温度:40℃
【0057】
(8)ガラス転移温度
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて、−80℃から300℃まで10℃/分で昇温し、昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値をガラス転移温度とした。
【0058】
2.製造例
<(A)オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂>
・(A−1)
[重合]
攪拌装置を備えた反応容器中に、二価フェノール成分としてビスフェノールC42.03質量部、末端封止剤としてp−tert−ブチルフェノール(PTBP)1.32質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム18.71質量部、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド(BTBAC)0.38質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム0.16質量部を仕込み、水1000質量部に溶解した(水相)。これとは別に、化学式(2)で示されるオルガノシロキサン36.04質量部を塩化メチレン200質量部に溶解した(有機相1)。この有機相1を、攪拌下、水相中に添加し、さらに15℃で30分間攪拌を続けた。
【0059】
【化3】
【0060】
続いて、この有機相1とは別に、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸クロライド(DEDC)53.10質量部を塩化メチレン400質量部に溶解した(有機相2)。(ビスフェノールC:オルガノシロキサン:DEDC:PTBP=93.4:6.6:102.5:5.0(モル比))この有機相2を、水相と有機相1の混合溶液中に攪拌下で添加し、さらに15℃で2時間重合反応をおこなった。この時、有機相1と有機相2は一つの有機相となった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、新たに塩化メチレン200質量部、純水1000質量部と酢酸1質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で10回洗浄した後に、有機相を蒸発させ、固形物を取り出した後に25℃24時間真空乾燥をおこない、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を得た。得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂の樹脂組成を確認したところ、仕込みの配合と同じ樹脂組成であった。
【0061】
[再沈殿乾燥]
得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、メタノール1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、85℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−1)を得た。(A−1)中に占める共重合成分としてのオルガノシロキサン化合物の残基の含有量は30質量%であった。(A−1)の重量平均分子量は90000、ガラス転移温度は176℃であった。
【0062】
・(A−2)
(A−1)10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、メタノール1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、120℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−2)を得た。
【0063】
・(A−3)
(A−1)10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、メタノール1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、150℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−3)を得た。
【0064】
・(A−4)
(A−1)10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、ヘキサン1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、170℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−4)を得た。
【0065】
・(A−5)
(A−1)10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、ヘキサン1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、200℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−5)を得た。
【0066】
・(A−6)
(A−1)10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、ヘキサン1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、250℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−6)を得た。
【0067】
・(A−7)
オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂中に占める共重合成分としてのオルガノシロキサン残基の含有量を5質量%となるようにして重合した以外は、(A−1)の重合する際と同様の操作をおこなって、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を得た。
得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を、(A−1)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−2)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−3)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作を順におこない、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−7)を得た。
【0068】
・(A−8)
オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂中に占める共重合成分としてのオルガノシロキサン残基の含有量を15質量%となるようにして重合した以外は、(A−1)の重合する際と同様の操作をおこなって、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を得た。
得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を、(A−1)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−2)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−3)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作を順におこない、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−8)を得た。
【0069】
・(A−9)
オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂中に占める共重合成分としてのオルガノシロキサン残基の含有量を50質量%となるようにして重合した以外は、(A−1)の重合する際と同様の操作をおこなって、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を得た。
得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を、(A−1)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−2)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−3)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作を順におこない、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−9)を得た。
【0070】
・(A−10)
ビスフェノール成分を、(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに変更して重合した以外は、(A−1)の重合する際と同様の操作をおこなって、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を得た。
得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を、(A−1)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−2)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−3)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作を順におこない、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−10)を得た。
【0071】
・(A−11)
ビスフェノール成分を、ビスフェノールAFに変更して重合した以外は、(A−1)の重合する際と同様の操作をおこなって、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を得た。
得られたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂を、(A−1)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−2)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作、(A−3)の再沈殿し乾燥する際と同様の操作を順におこない、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−11)を得た。
【0072】
<(B)ポリアリレート樹脂>
・(B−1)
攪拌装置を備えた反応容器中に、二価フェノール成分としてビスフェノールC77.28質量部、末端封止剤としてPTBP2.71質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム10.82質量部、重合触媒としてBTBAC0.38質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム0.16質量部を仕込み、水1000質量部に溶解した(水相)。
【0073】
続いて、テレフタル酸とイソフタル酸の等量混合物(MPC)63.04質量部を塩化メチレン400質量部に溶解した(有機相)。(ビスフェノールC:MPC:PTBP:BTBAC=100:103:6(モル比))この有機相2を、水相と有機相1の混合溶液中に攪拌下で添加し、さらに15℃で2時間重合反応をおこなった。この時、有機相1と有機相2は一つの有機相となった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、新たに塩化メチレン200質量部、純水1000質量部と酢酸1質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で10回洗浄した後に、有機相を蒸発させ、固形物を取り出した後に25℃24時間真空乾燥をおこない、ポリアリレート樹脂(B−1)を得た。得られたポリアリレート樹脂の樹脂組成を確認したところ、仕込みの配合と同じ樹脂組成であった。(B−1)の重量平均分子量は89000、ガラス転移温度は180℃であった。
【0074】
<(C)ポリカーボネート樹脂>
・(C−1)
ビスフェノールA74質量部を、6重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液550質量部に溶解した溶液に、塩化メチレン250質量部を加えて攪拌しながら、冷却下、該溶液にホスゲンガスを950質量部/分間の割合で15分間吹き込んだ。ついで、この反応液を静置して有機層を分離し、重合度が2〜4であり、分子末端がクロロホーメート基であるポリカーボネート樹脂オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
【0075】
このポリカーボネート樹脂オリゴマーの塩化メチレン溶液200質量部に、塩化メチレンを加えて全量を450質量部とした後、これに、ビスフェノールC20.6質量部を、8重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液200質量部と混合し、さらに分子量調節剤としてPTBP2.0質量部を加えた。つぎに、この混合液を激しく攪拌しながら、触媒として7重量%濃度のトリエチルアミン水溶液を2質量部加え、28℃において、攪拌下に1.5時間反応した。反応終了後、反応生成物を塩化メチレン1000質量部で希釈し、ついで、水1500質量部で2回、0.01規定濃度の塩酸1000質量部で1回、さらに水1000質量部で2回の順で洗浄した後、有機層をメタノール中に投入し、析出した固体を濾過して乾燥することにより、ポリカーボネート樹脂(C−1)を得た。(C−1)の重量平均分子量は85000、ガラス転移温度は128℃であった。
【0076】
実施例1
オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂(A−5)30質量部、ポリアリレート樹脂(B−1)70質量部を、固形分濃度が15質量%になるように、塩化メチレンに溶解させ、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂組成物の樹脂溶液を作製した。
【0077】
実施例2〜17、比較例1〜6
用いるオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂と他の樹脂の種類と含有比率を表1のように変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、ポリアリレート樹脂組成物の樹脂溶液を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に、ポリアリレート樹脂組成物について評価した結果を示す。
【0080】
実施例1〜17の樹脂組成物は、密着性、剛性、表面潤滑性いずれにも優れていた。
実施例1〜4の樹脂組成物は、揮発物量のみが異なる実施例である。揮発物量が多くなると、密着性が低下することがわかる。
実施例3、5〜9の樹脂組成物は、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂と他の樹脂の含有比率のみが異なった実施例である。オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂の含有量が多くなると、密着性が向上し、弾性率が低下することがわかる。
実施例14、16、17の樹脂組成物は、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂のビスフェノール成分のみが異なった実施例である。ビスフェノール成分が、ビスフェノールC、ビスフェノールAFの場合、密着性が高くなることがわかる。
実施例1〜9の樹脂組成物の密着性評価から、密着性は、揮発物量と、オルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂と他の樹脂の含有比率に影響されることがわかる。
【0081】
比較例1、2の樹脂組成物は揮発物量が多かったため、密着性が低かった。
比較例3の樹脂組成物は樹脂を含有していなかったため、弾性率が低かった。
比較例4の樹脂組成物は、用いたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂の含有量が少なかったため、密着性が低かった。
比較例5の樹脂組成物は、用いたオルガノシロキサン共重合ポリアリレート樹脂の含有量が少なかったため、弾性率が低かった。
比較例6の樹脂組成物は、揮発物量が少なかったため、密着性が低かった。