(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均一次粒子径が1〜20nmであるヒュームドシリカと、重合性単量体および/又は溶媒とを、遠心運動型攪拌機を用いて混合することを特徴とする請求項1に記載の歯科用組成物の製造方法。
前記のヒュームドシリカと、重合性単量体および/又は溶媒とを、遠心運動型攪拌機を用いて混合する際、該遠心運動型攪拌機の自転及び公転の回転数を500〜2000rpmとし、得られる混合物の23℃における粘度が1〜1000Pa・sとなるように各成分を混合する第一混合工程を含む請求項6に記載の歯科用組成物の製造方法。
前記第一混合工程で得られた23℃の粘度が1〜1000Pa・sの混合物と、重合性単量体および/又は溶媒とを混合し、23℃における粘度が0.001〜0.5Pa・sである歯科用組成物とする請求項7に記載の歯科用組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、重合性単量体、ヒュームドシリカ、及び溶媒を含む歯科用組成物であって、前記ヒュームドシリカの平均一次粒子径が1〜20nmであり、かつ、レーザー回折散乱法で測定した前記ヒュームドシリカの凝集二次粒子径の中位径が50〜500nmであり、さらに、凝集二次粒子径が50〜500nmである前記ヒュームドシリカの割合が90体積%以上であることを特徴とする歯科用組成物である。なお、当然のことではあるが、凝集二次粒子径が50〜500nmである前記ヒュームドシリカの割合は、全凝集二次粒子(全ヒュームドシリカの凝集二次粒子)中の値である。次に、各成分について説明する。
【0019】
(重合性単量体)
本発明において、重合性単量体としては、公知の重合性単量体を制限無く使用することができる。重合性単量体において、分子中に存在する重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。特に硬化速度の点からアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であるのが好ましく、生物学的親和性が高いことや高い機械強度が得られることからアクリロイル基、メタクリロイル基が最も好ましい。
【0020】
このような重合性単量体の中で、アクリロイル基またはメタクリロイル基を少なくとも一つ有する重合性単量体を具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート(アクリレート又はメタアクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、エチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテ−ト、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセテ−ト、2−(メタ)アクリルオキシエチルプロピオネ−ト、3−(メタ)アクリルオキシプロピルアセテ−ト等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオ−ルジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリルジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
【0021】
アクリルアミド基またはメタクリルアミド基を少なくとも一つ有する重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−メチロ−ル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−スクシン(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、等を挙げることができる。
【0022】
ビニル基を少なくとも一つ有する重合性単量体を具体的に例示すると、酢酸ビニル、2−アミノエチレン等を挙げることができる。
【0023】
アリル基を少なくとも一つ有する重合性単量体を具体的に例示すると、3−アミノ−1−プロペン、3−イソチオシアナート1−プロペン等を挙げることができる。
【0024】
エチニル基を少なくとも一つ有する重合性単量体を具体的に例示すると、2−アミノエチン、フェニルアセチレン等を挙げることができる。
【0025】
スチリル基を少なくとも一つ有する重合性単量体を具体的に例示すると、スチレン、メトキシスチレン等を挙げることができる。
【0026】
また、本発明の歯科用組成物が歯科用接着材や歯科用前処理材等のような接着性を必要とする場合には、重合性単量体は、酸性基含有重合性単量体、および/または水酸基含有重合性単量体を含むことが好ましい(酸性基含有重合性単量体、および水酸基含有重合性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体を含むことが好ましい。)。当該発明に用いられる各重合性単量体について詳述する。
【0027】
(酸性基含有重合性単量体)
歯科用接着材や歯科用前処理材には、歯質や補綴物への接着を目的として、酸性基含有重合性単量体を配合することが一般的である。酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
【0028】
ここで、酸性基とは、該基を有す重合性単量体の水分散媒又は水懸濁液が酸性を呈す基であり、単なる酸性基だけでなく、当該酸性基の二つが脱水縮合した酸無水物構造や、酸性基がハロゲン化された酸ハロゲン化物基であってもよい。中でも、酸性基含有重合性単量体の酸解離定数(pKa)が5以下となるような酸性基を選択することが好ましく、3以下となることがより好ましい。具体的には、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)
2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)
2}、リン酸水素ジエステル基{(−O−)
2P(=O)OH}、スルホ基(−SO
3H)、及び酸無水物骨格{−C(=O)−O−C(=O)−}等が挙げられる。
【0029】
以上のような具体的な基の中でも、水に対する安定性が高く、歯面のスメアー層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できるため、カルボキシル基、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基がより好ましい。その中でも上記の効果が最も高いリン酸二水素モノエステル基とリン酸水素ジエステル基が最も好ましい。
【0030】
リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基を有する重合性単量体としては、具体的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。
【0031】
カルボキシル基を有する重合性単量体としては、具体的には、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0032】
スルホ基を有する重合性単量体としては、具体的には、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等が挙げられる。
【0033】
以上のような酸性基を有する重合性単量体の中でも、特に好ましい単量体を例示すると、下記式の化合物が挙げられる。
【0035】
なお、上記式で示される酸性基含有重合性単量体において、R
1は、水素原子、またはメチル基である。
【0036】
上記に例示した重合性単量体、酸性基含有重合性単量体の他、歯科材料用組成物には、含まれる重合性単量体の親水性と疎水性とを調整するという観点から、両親媒性を有する水酸基含有重合性単量体を配合する場合がある。次に、水酸基含有重合性単量体について説明する。
【0037】
(水酸基含有重合性単量体)
水酸基含有重合性単量体は、酸性基含有重合性単量体の項で記載した酸性基を分子中に有さず、少なくとも1つの水酸基と、少なくとも1つの重合性不飽和基を有する水溶性の化合物であれば公知の化合物を用いることができる。ここで水溶性とは20℃における水への溶解度が10質量%以上で、好ましくは水と任意の割合で相溶するものであることが好ましい。
【0038】
具体的な化合物を例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,4−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロ−ル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは、歯質中への接着性能向上のためにも好適である。
【0039】
(好ましい重合性単量体の配合量)
こうした重合性単量体の内、酸性基含有重合性単量体は、重合性単量体成分の全量として用いることもできる。ただし、歯科用組成物の歯質に対する浸透性を調節したり、硬化体の強度を向上させたりする観点から、酸性基非含有重合性単量体と併用するのが好適である。ここで酸性基非含有重合性単量体とは、酸性基含有重合性単量体の項で説明した酸性基を分子中に有さず、少なくとも1つの重合性不飽和基を有する化合物を指す。酸性基含有重合性単量体は、エナメル質および象牙質の両方に対する接着強度を良好にする観点から、全重合性単量体成分中において5質量%以上含有させるのが好適であり、5〜60質量%含有させるのがより好適であり、10〜50質量%含有させるのが特に好適である。酸性基含有重合性単量体のみで100質量%のならない場合の残分は、当然のことながら、酸性基非含有重合性単量体である。
【0040】
水酸基含有重合性単量体は、酸性基非含有重合性単量体に含まれるが、この水酸基含有重合性単量体を使用する場合には、以下の配合量とすることが好ましい。酸性基非含有重合性単量体を水酸基含有重合性単量体とその他重合性単量体に分けた場合、歯科用組成物中における疎水性成分と親水性成分の分離抑制、及び吸水性の観点から、酸性基重合性単量体5〜60質量%、水酸基含有重合性単量体5〜60質量%、その他の重合性単量体0〜90質量%とすることが好ましく、さらに、酸性基重合性単量体10〜50質量%、水酸基含有重合性単量体10〜50質量%、その他の重合性単量体30〜70質量%とすることが好ましい。
【0041】
(ヒュームドシリカ)
本発明においてヒュームドシリカとは、火炎加水分解法によって製造された非晶質シリカであり、煙霧質シリカとも別名されるものである。具体的には、四塩化ケイ素を酸水素炎中で高温加水分解させることで製造することができる。この方法によって製造されたヒュームドシリカは、前記のように三次元のネットワークを有した凝集二次粒子を形成している。この凝集二次粒子の隙間に重合体が絡み合い、強固で密度の高いネットワークが形成されることで粘度増加効果と高い接着強さが得られる。一方、シリカ以外の他の無機充填材はもちろんのこと、同じシリカであっても、湿式法、ゾルゲル法、火炎溶融法等の他の製造方法で得られたものは、ヒュームドシリカのように、分散媒中において、三次元のネットワークを有した凝集二次粒子が形成され難く、これらのみを用いたのでは、ヒュームドシリカを用いる本発明のような優れた増粘効果と接着強さに関する効果は得られない。
【0042】
本発明に用いるヒュームドシリカは、本発明の歯科用組成物に使用する重合性単量体や溶媒等の分散媒とのなじみや分散性の向上のためにシランカップリング剤に代表される表面処理剤で疎水度を調節することができる。カップリング処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられ、特に好ましくは、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンが用いられる。
【0043】
本発明で使用するヒュームドシリカの平均一次粒子径は、物性と分散性の観点から、1〜20nmである。一次粒子径が1nm未満となった場合、ヒュームドシリカを混合した際の粘度上昇が著しく分散が困難となる。また、ヒュームドシリカ自体の生産性が低下するため、好ましくない。一方、一次粒子径が20nmを超える場合、凝集二次粒子径が大きくなり易く、沈降の原因となるため好ましくない。歯科用組成物における沈降抑制効果、その生産性、およびヒュームドシリカの分散性を考慮すると、ヒュームドシリカの一次粒子径は1〜13nmが好ましく、最も好ましくは1〜10nmである。なお、本発明のヒュームドシリカの平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡を使用して測定したものである。
【0044】
市販のヒュームドシリカのレーザー回折散乱法で(ヒュームドシリカ0.5gをエタノールの10gに分散し測定)測定した凝集二次粒子の中位径は、通常、1〜500μmと大きい。本発明においては、このような状態のヒュームドシリカと、重合性単量体および/又は溶媒とを特定の混合方法により混合する(ヒュームドシリカと重合性単量体と特定の混合方法により混合するか、ヒュームドシリカと溶媒とを特定の混合方法により混合するか、ヒュームドシリカと、重合性単量体および溶媒とを特定の混合方法により混合する。)。その結果、重合性単量体と溶媒とを含む媒体中に、凝集二次粒子径の中位径が50〜500nmであり、さらに、凝集二次粒子径が50〜500nmである凝集二次粒子の割合が全凝集二次粒子中の90体積%以上となるように、ヒュームドシリカを分散させた歯科用組成物を得ることができる。
【0045】
歯科用組成物におけるヒュームドシリカの配合量は、特に制限されるものではなく、歯科用組成物の粘度調整と硬化体の機械的物性の向上、更にはそれによる接着強さの向上という物性面での観点と、分散媒の種類に合わせて製造時の粘度調整を行うという製造面での観点から最適な添加量を決定すればよい。それらを勘案すると、好ましい配合量は、重合性単量体成分100質量部に対して1〜100質量部であり、さらに3〜50質量部の範囲がより好ましい。
【0046】
また、ヒュームドシリカの増粘効果や接着強さ向上効果は、水、アルコール、および前記水酸基含有重合性単量体を含む極性分散媒で、且つ低いpH(通常pH3以下、好ましくはpH2以下)の状態では発揮され難いことが知られている(微粒子工学大系全2巻第II巻応用技術、2002年1月18日所版第1刷発行、柳田博明監修、株式会社フジ・テクノシステム発行、556ページ、
図19参照)。これは、低いpHの極性分散媒中では、ヒュームドシリカの凝集二次粒子間の水素結合の形成による三次元のネットワークが形成され難いためと考えられる。したがって、前記の酸性基含有重合性単量体を含有しており、水酸基含有重合性単量体、水、アルコール等の水酸基含有の極性分散媒を含む場合には、三次元ネットワークの効果が低下する傾向にあり、粘度低下が生じるおそれがある。そのため、ヒュームドシリカの配合量は、重合性単量体成分100質量部に対して、5〜200質量部が好ましく、さらに10〜100質量部の範囲がより好ましい。配合量が前記範囲を満足することにより、ヒュームドシリカを配合することによる接着性向上効果とその耐久性向上効果、および粘度調整効果が十分に発揮される。
【0047】
(溶媒)
本発明において、溶媒は、室温で揮発性を有するものを使用することができる。揮発性とは、760mmHgでの沸点が120℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを指す。このような揮発性の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、水、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。なお、これらの揮発性有機溶媒、および水は、歯科用組成物を歯面に塗布した際に、硬化させる前にエアブローすることにより除去される。これらの溶媒の配合量は、通常、重合性単量体成分100質量部に対して2〜400質量部の範囲、より好ましくは5〜150質量部である。
【0048】
(その他の添加成分)
さらに、本発明の歯科用組成物の中には、必要に応じて、重合開始剤、重合促進剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、変色防止剤、抗菌材、着色顔料、色素、重合体、ヒュームドシリカ以外のフィラー等の従来公知の添加剤等の成分を、任意に添加できる。
【0049】
重合開始剤は一般に熱重合開始剤と光重合開始剤に分類されるが、歯科用組成物中に使用することのできる重合開始剤は特に限定されず、公知のラジカル発生剤を用いることができる。熱重合開始剤として具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類が好適に使用される。
【0050】
また、上記有機過酸化物とアミンを組み合わせて用いる事により重合を常温で行う事も可能であり、この様なアミンとしてはアミン基がアリール基に結合した第二級又は第三級アミンが硬化促進の点で好ましく用いられる。例えば、N,N’−ジメチル−p−トルイジン、N,N’−ジメチルアニリン、N’−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N−メチル−アニリン、N−メチル−p−トルイジンが好ましい。
【0051】
歯科用接着材として用いる場合、有効量の重合開始剤を配合させる。上記有機過酸化物とアミン化合物の組合せに、さらにスルフィン酸塩またはボレートを組み合わせることも好適である。スルフィン酸塩類としては、ベンゼンスルフィン酸ナートリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナートリウム等が挙げられ、ボレートとしてはトリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナートリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。また、酸素や水との反応によりラジカルを発生するトリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類は有機金属型の重合開始剤としても使用することができる。
【0052】
また、光重合開始剤として、光照射によりラジカルを発生する光増感剤を用いる事も好ましく、光重合触媒は、空気の混入が少ない状態で硬化性組成物を重合させることができる点で最も好適に使用される。紫外線に対する光増感剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン化合物系、アセトインベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物系、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-メトキシチオキサントン、2-ヒドロキシチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系化合物が挙げられる。
【0053】
又、可視光線で重合を開始する光増感剤は、人体に有害な紫外線を必要としないためより好適に適用される。これらの例として、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類等が挙げられる。中でもカンファーキノンが最も好ましく用いられる。
又、上記光増感剤に光重合促進剤を組み合わせて用いる事も好ましい。第3級アミン類を促進剤として用いる場合には、特に芳香族基に直接窒素原子が置換した第3級アミン類がより好適に用いられる。光重合促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第3級アミン類;5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類等が好適に使用できる。
【0054】
これらの光重合促進剤のうち少なくとも一種を選んで用いることができ、さらに二種以上を混合して用いることもできる。上記重合開始剤の添加量は、適宜決定すればよい。一般には、重合性単量体100質量部に対して、0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0055】
(歯科用組成物)
本発明の歯科用組成物は、上記重合性単量体、ヒュームドシリカ、溶媒、必要に応じて、上記その他の成分を含み、ヒュームドシリカの平均一次粒子径が1〜20nmであり、 レーザー回折散乱法で測定したヒュームドシリカの凝集二次粒子径の中位径が50〜500nmであり、かつ、凝集二次粒子径が50〜500nmであるヒュームドシリカの割合が90体積%以上となるものである。
【0056】
本発明において、凝集二次粒子の中位径は、レーザー回折散乱法により求めた体積基準の粒度分布から得られる中位径である。本発明においては、レーザー回折散乱法のよる中位径、粒度分布は以下のように測定した。
【0057】
具体的には、例えば、まず、ヒュームドシリカを分散させた歯科用組成物5gとエタノール10gとを混合する。歯科用組成物そのものを測定することもできるが、ヒュームドシリカ濃度が高い場合には、測定誤差が大きくなる可能性がある。そのため、上記の通り、歯科用組成物を希釈することが好ましい。通常であれば、エタノールで希釈した際、ヒュームドシリカが固形分濃度として1〜30質量%の範囲となるように希釈することが好ましい。
【0058】
次いで、希釈した歯科用組成物を、内径2.4cm、高さ5.4cmの容量20ccの円柱形状のガラス容器(例えばASONE社、ラボスクリュー管瓶No.5)に入れる。これを、回転撹拌器(例えば太陽科学工業株式会社、ROTATOR、RT−50)に回転中心からガラス瓶の中心から外側の端部が10〜12cmの位置になるようにセットし、毎分60回転のスピードで回転撹拌する。この時、概ね5分後には歯科用組成物がエタノールに対して目視で均一になる。本発明者等の検討では、約5分から3時間の回転撹拌処理を施した場合の粒度分布は変わらず、本回転撹拌条件においてヒュームドシリカの凝集二次粒子の中位径も変わらないことを確認している。つまり、上記の通りに希釈し、上記混合条件では、ヒュームドシリカの分散状態は変わるものではないことを確認した。
【0059】
本発明では、上記条件で20分間回転撹拌を行った後、溶媒にエタノールを使用し、レーザー回折散乱法による粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社、LS230)により粒度分布、中位径の測定を行う。なお、以上の分散及び粒度分布測定の際に、超音波処理を行うとヒュームドシリカの凝集二次粒子径に影響を与えるため行わない。
【0060】
本発明の歯科用組成物は、ヒュームドシリカの凝集二次粒子径の中位径が50〜500nmであり、さらに、凝集二次粒子径が50〜500nmであるヒュームドシリカの割合がヒュームドシリカの全凝集二次粒子中の90体積%以上となるように制御されたものである。このような状態でヒュームドシリカを分散させることにより、優れた物性(接着性、耐久性)を有し、粘度調整が容易であり、さらに、凝集粒子の沈降を抑制することができる。
【0061】
ヒュームドシリカの凝集二次粒子の中位径が50nm未満となる場合には、三次元ネットワークが不十分になり、接着性や粘度が低下する。一方、ヒュームドシリカの分散が不十分で凝集二次粒子径の体積頻度の中位径が500nmを超える場合には、歯科用組成物の粘度が著しく低い場合や長期間の保管する場合に沈降する原因となる。
【0062】
また、前記の酸性基含有重合性単量体を含有しており、水酸基含有重合性単量体、水、アルコール等の水酸基含有の極性分散媒を含む場合には、前記の様に三次元ネットワークの効果が低下する傾向にある。そのため、増粘効果や接着強さ向上効果が発揮され難く、ヒュームドシリカの沈降も生じ易くなる。その結果、凝集二次粒子の中位径が50nm未満となった場合には、さらに接着性や粘度が低下するという問題がある。一方、500nmを超える場合には、沈降するリスクがより高くなる。そのため、本発明の歯科用組成物が特に顕著な効果を発揮するのは、凝集二次粒子径の体積頻度の中位径が100〜300nmの範囲となる場合である。
【0063】
本発明の歯科用組成物は、ヒュームドシリカの凝集二次粒子径と特定の分布としているため、以上のような低いpHの極性分散媒を使用しても、優れた効果を発揮する。つまり、本発明の歯科用組成物は、酸性基含有重合性単量体を含有し、水酸基含有重合単量体および/または水、アルコール等の水酸基含有の極性分散媒を含む歯科用接着材や歯科用前処理材の用途に使用した場合でも、優れた効果を発揮する。
【0064】
また、本発明においては、凝集二次粒子径が50〜500nmであるヒュームドシリカ(粒子)が、全凝集二次粒子中に、90体積%以上存在する状態で分散していなければならない。歯科用組成物がより優れた効果を発揮するためには、凝集二次粒子径が50〜500nmのヒュームドシリカ(粒子)の割合は、好ましくは95体積%以上、さらに好ましくは97体積%以上、最も好ましくは100体積%である。
【0065】
当然のことながら、凝集二次粒子径が500nmを超える粒子の割合は、全凝集二次粒子中、10体積%未満であり、好ましくは5体積%未満であり、さらに好ましくは3体積%未満、最も好ましくは0体積%である。その中でも、凝集二次粒子径が1μm以上となる粒子の割合は、沈降の抑制効果を高くするためには、全凝集二次粒子中、5体積%未満とすることが好ましい。凝集二次粒子径が1μm以上となる粒子は、より好ましくは3体積%未満、さらに好ましくは1体積%未満、最も好ましくは0体積%未満である。一方、本発明の歯科用組成物においては、50nm未満の凝集二次粒子が存在しない方が好ましい。
【0066】
また、本発明の歯科用組成物は、23℃における粘度が0.001〜0.5Pa・sであることが好ましい。粘度が高い場合には、ヒュームドシリカの沈降の問題が生じない場合があるが、粘度が比較的低くなると、ヒュームドシリカの沈降の問題が顕著になる。ただし、本発明のようにヒュームドシリカが分散していれば、歯科用組成物の23℃における粘度が0.001〜0.5Pa・sと比較的低粘度であったとしても、沈降の問題を高度に抑制できる。
【0067】
(歯科用組成物の製造方法)
本発明の歯科用組成物において、上記の凝集二次粒子径の範囲を満足するようにヒュームドシリカを分散する方法としては、以下の方法を採用することが好ましい。すなわち、混合容器を自転と公転させて、自転と公転の2種類の遠心力で撹拌する遠心運動型攪拌機(例えば泡とり錬太郎、THINKY社商標)を使用して、重合性単量体、溶媒、ヒュームドシリカ、必要に応じて配合される配合剤とを混合することが好ましい。遠心運動型攪拌機を使用して、重合性単量体、溶媒、ヒュームドシリカを混合することにより、本発明の歯科用組成物を容易に製造できる。
【0068】
遠心運動型撹拌機を使用した場合は、ヒュームドシリカへのせん断力の調整が比較的容易なため均一な分散条件を実現でき、またその自転と公転の回転スピードおよび重合性単量体や溶媒等の分散媒とヒュームドシリカの混合比を任意に調節することができる。その結果、重合性単量体や溶媒等の分散媒中でのヒュームドシリカ凝集体の凝集二次粒子径の制御が短時間にかつ容易に達成できる。
【0069】
ヒュームドシリカを他の成分と混合する際には、ヒュームドシリカの種類や配合量に合わせて、好適な粘度範囲に調整する目的で、分散媒である重合性単量体及び溶媒の量を調整することが好ましい。その際には、重合性単量体のみを分散媒として用いてもよいし、溶媒のみを分散媒として用いることもできるし、重合性単量体および溶媒との混合分散媒を用いることもできる。
【0070】
遠心運動型撹拌機で混合を行う場合には、分散効率が高いため、シェアーがかかり発熱を生じて重合性単量体が重合してしまう場合がある。そのため、重合性単量体と溶媒とを混合した分散媒(混合分散媒)とヒュームドシリカを混合することが好ましい。重合性の成分が溶媒で希釈されることで重合性単量体の重合を抑制することができる。また、溶媒を添加することにより分散媒の粘度が低下するため、多量のヒュームドシリカを分散媒中に添加する事が可能になる。なお、重合性単量体が重合するのを防ぐために、重合性単量体を含む分散媒を使用した場合には、10〜70℃の温度で混合することが好ましい。
【0071】
また、ヒュームドシリカを分散媒と混合する際、粘度の急激な上昇や混合による発熱を抑制したい場合には、ヒュームドシリカを複数回に分けて分散媒と混合することもできる。
【0072】
(好適な製造条件)
(第一混合工程)
遠心運動型攪拌機を用いて本発明の歯科用組成物を製造する場合において、様々な用途に対応できるようにするためには、以下の方法を採用することが好ましい。具体的には、前記のヒュームドシリカと、重合性単量体および/又は溶媒を、遠心運動型攪拌機を用いて混合する際、該遠心運動型攪拌機の自転及び公転の回転数を500〜2000rpmとし、 得られる混合物の23℃における粘度が1〜1000Pa・sとなるように各成分を混合する第一混合工程を実施することが好ましい。こうすることにより比較的粘度の高いものから低いものまで、本発明の要件を満足した歯科用組成物を製造することできる。
【0073】
この第一混合工程においては、得られる混合物の粘度(23℃)を1〜1000Pa・Sとすることが好ましい。23℃における混合物の粘度が1〜1000Pa・sであることにより、通常の混合温度(10〜70℃)においても、適度な粘度を有するため、せん断力がかかり、十分な混錬を行うことができる。よりヒュームドシリカの分散性を向上させるためには、23℃における混合物の粘度は、50〜800Pa・sであることが好ましい。なお、混合物の粘度は、遠心運動型攪拌機で混合して得られたものの粘度であり、目的とする全量のヒュームドシリカを配合した後に測定されるものである。遠心運度型攪拌機を用いた場合には、その機械の容量等に応じて最適時間は異なるが、通常、ヒュームドシリカ配合毎に1回あたり0.5〜5分混合すればよい。
【0074】
この第一混合工程で得られる混合物は、23℃の粘度が1〜1000Pa・sとなるように各成分を配合することが好ましい。なお、この混合物は、ヒュームドシリカと重合性単量体を含むもの、ヒュームドシリカと溶媒とを含むもの、ヒュームドシリカと重合性単量体と溶媒とを含むものが該当する。各成分の配合量は、使用するヒュームドシリカ、重合性単量体、溶媒の種類に応じて適宜決定すればよいが、次の配合量とすることが好ましい。具体的には、ヒュームドシリカと重合性単量体を含むものは、重合性単量体(全重合性単量体)100質量部に対して、ヒュームドシリカを5〜70質量部とすることが好ましく、さらに、15〜60質量部とすることが好ましい。また、ヒュームドシリカと重合性単量体と溶媒とを含む場合には、重合性単量体(全重合性単量体)100質量部に対して、ヒュームドシリカを10〜140質量部、溶媒を5〜50質量部とすることが好ましく、さらに、ヒュームドシリカ20〜120質量部、溶媒を25〜40質量部とすることが好ましい。また、ヒュームドシリカと溶媒とを含む場合には、溶媒100質量部に対して、ヒュームドシリカを50〜120質量部とすることが好ましく、さらに60〜110とする質量部とすることが好ましい。中でも、製品の用途、効率的な生産を考慮すると、混合物は、ヒュームドシリカと重合性単量体と溶媒とを含むものであることが好ましい。
【0075】
遠心運動型攪拌機で混合を行う場合の条件としては、上記粘度範囲となる様に仕込み時の分散媒とヒュームドシリカの比率決め、自転および公転速度を決定することが好ましい。 中でも、発熱による溶媒の飛散、または発熱による重合性単量体の重合の抑制と分散の効率化の観点から、自転および公転速度については、500〜2000rpmとすることが好ましい。ここで、自転および公転の速度はそれぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0076】
以上のような第一混合工程で得られる混合物において、ヒュームドシリカ、重合性単量体、および溶媒を含む混合物は、本発明の歯科用組成物に該当する。すなわち、上記条件で遠心運動型攪拌機を用いて23℃の粘度が1〜1000Pa・sの混合物を製造すれば、該混合物(ヒュームドシリカ、重合性単量体、および溶媒を含む混合物)は、レーザー回折散乱法で測定したヒュームドシリカの凝集二次粒子径の中位径が50〜500nmであり、かつ、凝集二次粒子径が50〜500nmであるヒュームドシリカの割合が90体積%以上となる状態でヒュームドシリカが分散したものとなる。よって、この混合物も、本発明の歯科用組成物に該当する。
【0077】
この混合物は、そのままの粘度で使用する用途があれば、そのまま使用することができる。ただし、接着剤等の用途においては、粘度が低いものが好ましいため、該混合物を重合性単量体、および/または溶媒で希釈することが好ましい。一旦、ヒュームドシリカの分散状態のよい該混合物を製造すれば、重合性単量体、および/または溶媒を混合しても、ヒュームドシリカの分散状態は変わらない。次に、重合性単量体、および/または溶媒で希釈した歯科用組成物について説明する。
【0078】
歯科用組成物(混合物の希釈)、およびその用途
本発明においては、前記第一混合工程で得られた23℃の粘度が1〜1000Pa・sの混合物と、重合性単量体、および/又は溶媒とを混合し(混合物と重合性単量体とを混合するか、混合物と溶媒とを混合するか、混合物と、重合性単量体および溶媒とを混合する)、23℃における粘度が0.001〜0.5Pa・sである歯科用組成物とすることもできる。
【0079】
前記の通り、上記方法(第一混合工程)で得られた混合物は、ヒュームドシリカの分散状態が良好であるため、混合物と重合性単量体、および/又は溶媒との混合は、遠心運動型攪拌機だけでなく、モーターを使用した羽根撹拌、プラネタリーミキサー、ボールミル、アトライター、らいかい機等を使用することができる。混合時間は、特に制限されるものではないが、通常、5〜60分であれば均一な歯科用組成物とすることができる。
【0080】
歯科用組成物は、通常、歯質の脱灰のための水や、操作性及び保存安定性の向上を目的としての有機溶媒が配合されている場合が多い。これらの歯科用組成物は、臨床上の目的により要求される粘度が異なるが、本発明の歯科用組成物は、臨床の目的に応じての粘度調整が容易である。そのため、本発明によれば、ヒュームドシリカの分散性が良好であって、かつ23℃における粘度が0.001〜0.5Pa・sの範囲の歯科用組成物容易に製造できる。特に、被膜厚さの低減や保存安定性の向上等を目的として、溶媒の比率が高く粘度が低い0.001〜0.01Pa・sの範囲の歯科用組成物も容易に製造できる。
【0081】
以上のような粘度の歯科用組成物の用途としては、特に制限されるものではなく、公知の用途が挙げられる。具体的な用途としては、窩洞塗布用接着剤、矯正用接着剤、歯牙裂溝封鎖材などの歯科用接着剤、歯科用接着剤、歯科用セメント、接着性充填材の前処理に使用する歯科用プライマー、及びフィッシャーシーラント、知覚過敏抑制剤、歯科用マニキュアなどのコーティング用途が挙げられる。これらの歯科用組成物の用途の中で、特には、酸性基含有重合性単量体を含む接着性を要する材料について特に有用である。このような酸性基含有重合性単量体を有する歯科用組成物としては、例えば、コンポジットレジンや補綴物等の歯科用修復物を歯質に接着させる際に使用される歯科用接着材、ブラケット等の歯列矯正用器具を歯面へ接着させる際に使用される歯科用接着材、歯科用セメント等の歯科用前処理材、歯科用コーティング材、歯科用シーリング材、知覚過敏抑制剤等として特に有用である。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例及び比較例に使用した化合物とその略称)
[酸性基含有重合性単量体]
SPM:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物。
【0084】
[酸性基を有さない水酸基含有重合性単量体]
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート。
【0085】
[その他の重合性単量体]
Bis−GMA:2,2’−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン。
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート。
【0086】
[ヒュームドシリカ]
DM−30:平均一次粒子径7nm、表面処理剤:ジメチルジクロロシラン(株式会杜トクヤマ製)。
DM−20:平均一次粒子径12nm、表面処理剤:ジメチルジクロロシラン(株式会杜トクヤマ製)。
DM−10:平均一次粒子径15nm、表面処理剤:ジメチルジクロロシラン(株式会杜トクヤマ製)。
【0087】
[溶媒]
アセトン。
水。
【0088】
[重合開始剤]
CQ:カンファーキノン。
【0089】
[重合促進剤]
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル。
【0090】
[重合禁止剤]
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン。
【0091】
測定方法
[混練時の粘度測定方法(混合物の粘度)]
本発明の混練時の粘度は、23℃においてCSレオメーター(CVO120HRNF、ボーリン社製)にて測定した粘度である。測定条件としては温度が23℃、直径20mm、傾斜角1度のジェオメトリーによりシェアレート10(1/S)で5分間シェアーを加えた状態で測定を行った。
【0092】
[希釈後の粘度測定方法]
本発明の最終組成物の粘度は23℃において測定対象の粘度に対応したキャノン―フェンスケ粘度計(柴田科学社製)を使用して測定した。
【0093】
[沈降評価方法(混合物、希釈後の歯科用組成物)]
歯科用組成物を透明な6mlのサンプル管に3ml採取して密閉し、25℃遮光下にて60日間静置する。サンプル管をゆっくりと90℃傾けた際に底面に沈殿物が認められた場合を×、わずかに認められた場合を△、認められなかった場合を○とする。△と○の場合に沈降性が良好であると判断した。
【0094】
[接着強さ、およびその耐久性の測定方法;希釈後の歯科用組成物の接着強さ(初期、耐久)]
新鮮抜去牛歯4本を1組とし、注水下、P120、P600の耐水研磨紙で歯面に平行に研磨し、象牙質平面を作成した。次にこれらの面に圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した後、3mmφの穴を有する180μm厚の両面テープを研磨面に貼り付けて接着面を規定した。その接着面に本発明の歯科用組成物を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥し、可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射して硬化させた。その後、8mmφの穴のあいた0.5mm厚のパラフィンワックスを上記3mmφの穴と同心円となるように貼り付けて模擬か洞とし、そこに歯科用コンポジットレジン(エステライトフロークイック、トクヤマデンタル社製)を充填してPPフィルムで軽く圧接した後、光照射10秒による光硬化を行った。最後に、金属アタッチメントをレジンセメント(ビスタイトII、トクヤマデンタル社製)で接着し試験片を作製した。
【0095】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、
島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポ
ジットレジン間の引張り接着強さを測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を初期の接着強さとした。
【0096】
また、上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、熱衝撃試験機に入れ、4℃の水槽に1分間浸漬後、60℃の水槽に移し1分間浸漬し、再び4℃の水槽に戻す操作を、10000回繰り返した。その後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジン間の引張り接着強さを測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を耐久試験後の接着強さとした。
【0097】
[被膜厚さ測定:希釈後の歯科用組成物の被膜厚さ測定]
接着強さ測定と同様の方法で作製した接着試験片をダイヤモンドカッターにて接着界面が露出する様に、界面に対して垂直に1mm厚さで切断し観察試験片とした。この試験片の接着界面を走査型電子顕微鏡により観察し、歯面と歯科用コンポジットレジンの間の本発明に係る歯科用組成物の厚さを被膜厚さとした。測定は等間隔で10カ所測定し、その平均値を被膜厚さとした。この被膜厚さが30μm以下の場合に被膜厚さが良好であると判断した。また、10カ所全ての被膜厚さが、平均値を100%とした場合に100±30%の範囲に含まれる場合に被膜の均一性が良好であると判断した。
【0098】
実施例1
第一混合工程
まず、容量300mlのポリプロピレン製の容器にSPM(21.0g)、HEMA(14.0)g、Bis−GMA(21.0g)、3G(14.0g)、アセトン(21.0g)を添加した。続いて、DM−30(38.5g)を10gずつ4回に分けて添加し、遠心運動型攪拌機(泡とり錬太郎ARV−310/310LED、THINKY社)を使用して、回転数2000rpmの条件で2分間ずつ処理を行った。重合性単量体の合計を100質量部としたときの各成分の割合を表1に示した。また、得られた混合物の評価結果を表1に示した。
【0099】
第二混合工程(混合物の希釈:希釈した歯科用組成物)
次いで、前記混合物、CQ(1.4g)、DMBE(1.4g)、BHT(0.6g)及びアセトン(91.0g)及び水(10.5g)を500mlのビーカー内で、撹拌羽根を有するモーター混合した。混合条件は、回転速度100rpmの条件で、目視で均一になるまで混合した(混合時間10分)。重合性単量体の合計を100質量部としたときの各成分の割合を表1に示した。得られた歯科用組成物の評価結果を表1、4に示した。
【0100】
実施例2〜15、18、19
実施例1における第一混合工程、および第二混合工程の条件を表1、2に示した質量部の割合で実施例1と同様に行った。得られた歯科用組成物の評価結果を表1、2、3、4にそれぞれ示す。
【0101】
実施例16
第一混合工程
まず、容量2000mlのポリプロピレン製の容器にSPM(150.0g)、HEMA(100.0g)、Bis−GMA(150.0g)、3G(100.0g)、アセトン(150.0g)を添加した。続いて、DM−30(475.0g)を60gずつ8回に分けて添加し、遠心運動型攪拌機(泡とり錬太郎ARV−310/310LED、THINKY社)を使用して、回転数600rpmの条件で3分間ずつ処理を行った。重合性単量体の合計を100質量部としたときの割合を表2に示した。得られた混合物の評価結果を表2、5に示した。
【0102】
第二混合工程(混合物の希釈:希釈した歯科用組成物)
次いで、前記混合物、CQ(10.0g)、DMBE(10.0g)、BHT(4.0g)及びアセトン(650.0g)及び水(75.0g)を5000mlのビーカー内で、撹拌羽根を有するモーター混合した。混合条件は、回転速度100rpmの条件で、目視で均一になるまで混合した(混合時間10分)。重合性単量体の合計を100質量部としたときの各成分の割合を表2に示した。得られた歯科用組成物の評価結果を表2、5に示した。
【0103】
実施例17
実施例16における第一混合工程、および第二混合工程の条件を表1、2に示した質量部の割合で実施例16と同様に行った。得られた歯科用組成物の評価結果を表2、5に示した。
【0104】
比較例1
第一混合工程
まず、容量500mlのビーカーにSPM(21.0g)、HEMA(14.0g)、Bis−GMA(21.0g)、3G(14.0g)、アセトン(21.0g)を添加した。続いて、DM−30(38.5g)を10gずつ4回に分けて添加し、モーター羽根攪拌300rpmの条件で撹拌しながら混合する事を繰り返した。DM−30全量添加後、3時間撹拌を行った。重合性単量体の合計を100質量部としたときの各成分の割合を表3に示した。得られた歯科用組成物の評価結果を表3に示した。
【0105】
第二混合工程(混合物の希釈:希釈した歯科用組成物)
次いで、前記混合物、CQ(1.4g)、DMBE(1.4g)、BHT(0.6g)及びアセトン(91.0g)及び水(10.5g)を500mlのビーカー内で、撹拌羽根を有するモーター混合した。混合条件は、回転速度100rpmの条件で、目視で均一になるまで混合した(混合時間10分)。重合性単量体の合計を100質量部としたときの各成分の割合を表3に示した。得られた歯科用組成物の評価結果を表3、6に示した。
【0106】
比較例2〜4
比較例1における第一混合工程、および第二混合工程の条件を表3に記載した質量部の割合で比較例1と同様に行った。得られた歯科用組成物の評価結果を表3、6にそれぞれ示した。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
(フィラーの沈降 評価結果)
実施例1〜19の歯科用組成物は、いずれも重合性単量体、アセトン、水等の分散媒とヒュームドシリカの比率及び混練時の粘度が本発明に係るものであり、得られた歯科用組成物は粘度が0.5Pa・s以下と低いにも関わらず、良好な沈降性を示した。実施例1〜17は、酸性基含有重合性単量体、水酸基含有重合性単量体、水等を含んでいるため、凝集二次粒子間の相互作用が起こりにくく、本来であればヒュームドシリカが沈降し易いものであるが、これらを含まない実施例18、19とほぼ同等のフィラー沈降性を示した。その中でも、混合物の粘度、凝集二次粒子径の分散度が好ましい範囲にある実施例1〜3、6〜9、11、13、16、17は、実施例18、19と同じく、フィラーの沈降が全く見られなかった。
【0114】
一方、比較例1〜4は本発明に係る凝集二次粒径よりも粗大な凝集二次粒子を含んでいるため、明らかな沈降が認められた。
【0115】
比較例1は実施例1と同一の組成であるが、モーター付き羽根攪拌装置では第一混合工程でヒュームドシリカを分散させる際の撹拌力が不足している為、粘度が非常に高い当該組成では十分に混練することができない。そのため、500nmを超える凝集二次粒子が80体積%含まれており、これらの沈降が認められた
比較例2は実施例5と同一の組成であり、モーター付き羽根攪拌装置においても混練は可能な粘度である。しかし、モーター付き羽根攪拌装置ではこのような高粘度なペーストの混練時にはムラが出来やすい。そのため、500nm以上の凝集二次粒子が含まれており、沈降が認められた。
【0116】
比較例3はモーター付き羽根攪拌装置において低粘度で混練を行った場合である。この様に低粘度の場合には、十分なせん断力がかからずヒュームドシリカを所望の二次粒子径分布とする事が出来ない。そのため、500nmを超える凝集二次粒子含まれており、沈降が認められた。
【0117】
比較例4は比較例3の第一混合工程で得られる組成物である。粒子径が1μm以上の凝集二次粒子を含んでいるが、溶液の粘度が比較的高いため、比較例5と比べ沈降は良好であった。
【0118】
(被膜厚さと被膜の均一性 評価結果)
実施例1〜19は本発明の凝集二次粒子径の粒度範囲を満足するよう配合および調整された歯科用組成物を用いたものである。いずれの場合においても、被膜厚さ及び被膜の均一性は良好であった。
【0119】
これに対して、比較例1〜4は凝集二次粒子径が本発明の粒度範囲から外れている場合であり、比較例1、2、4は、被膜厚さが30μm以上と厚くなっており、また被膜の均一性も無かった。比較例3は、被膜厚さは30μm以下であったが、被膜の均一性が無かった。
【0120】
(接着強さ 評価結果)
実施例1〜17は本発明の凝集二次粒子径の粒度範囲を満足するよう配合および調整された歯科用組成物を用いたものである。いずれの場合においても、接着試験結果は初期、耐久性共に象牙質に対して良好であった。
【0121】
これに対して、比較例1〜4は凝集二次粒子径が本発明の粒度範囲から外れている場合であり、接着試験において初期の接着強さは良好であったが、耐久性においては不十分な結果であった。
【0122】
特に、比較例1、2では500nmを超える凝集二次粒子が60体積%以上含まれているため、被膜厚さが30μm以上と厚く、不均一となり、接着強さの耐久性が低下した。
【0123】
比較例4は、500nmを超える凝集二次粒子の含有量は比較例3と同一であるが、溶液の粘度が高いため被膜厚みが60μmと厚くなり、比較例3と比べ接着強さの耐久性が低下した。