特許第6099473号(P6099473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099473
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】スタビライザブッシュ
(51)【国際特許分類】
   B60G 21/055 20060101AFI20170313BHJP
   F16F 1/16 20060101ALI20170313BHJP
   F16F 1/373 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   B60G21/055
   F16F1/16
   F16F1/373
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-94167(P2013-94167)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-213797(P2014-213797A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】堀 啓介
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−046110(JP,A)
【文献】 特開2007−161146(JP,A)
【文献】 実開昭61−064532(JP,U)
【文献】 特開平11−291736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
F16F 1/00− 3/12
15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿通孔を有する筒状の本体ゴム弾性体を備えていると共に、該本体ゴム弾性体が周上の一部で周方向に分断されており、該本体ゴム弾性体の分断部からスタビライザバーが該挿通孔に挿入されると共に、該本体ゴム弾性体の外周面が車両ボデー側に取り付けられることにより、該スタビライザバーを該車両ボデーに弾性支持せしめるようにされたスタビライザブッシュにおいて、
前記本体ゴム弾性体の前記挿通孔に対する前記スタビライザバーの挿通によって該本体ゴム弾性体が軸直角方向に予圧縮されるようになっていると共に、該挿通孔の内径寸法が軸方向両端部分において軸方向中間部分よりも小さくされている一方、
該本体ゴム弾性体の該挿通孔には軸直角方向で対向して内方に突出する一対の突起部が該本体ゴム弾性体の前記分断部を周方向に外れて形成されており、該突起部が周方向に所定幅をもって軸方向に連続して延びていると共に、該突起部の周方向両端には該挿通孔の内周面から内周側に立ち上がる段差が形成されており、且つ、
該本体ゴム弾性体の該挿通孔の内径が、該突起部の形成部位と該突起部を外れた部位とを含む全周に亘って該スタビライザバーの外径よりも小さくされて、該挿通孔の内周面の全体が該スタビライザバーの外周面に当接されて予圧縮されるようになっていると共に、
該スタビライザバーの該挿通孔への挿通による該本体ゴム弾性体の圧縮率が、該一対の突起部の形成部分において該一対の突起部を外れた部分よりも20%〜30%大きく設定されていることを特徴とするスタビライザブッシュ。
【請求項2】
前記本体ゴム弾性体の内径寸法が、前記一対の突起部を外れた部位の軸方向両端部分において該一対の突起部の形成部位における軸方向中間部分よりも大きくされている請求項1に記載のスタビライザブッシュ。
【請求項3】
前記本体ゴム弾性体の内径寸法が、軸方向両端部分の所定長さに亘って一定とされている請求項1又は2に記載のスタビライザブッシュ。
【請求項4】
前記突起部の突出寸法が周方向で一定とされている請求項1〜3の何れか1項に記載のスタビライザブッシュ。
【請求項5】
前記突部の周方向幅寸法:bが、前記スタビライザバーの直径:Dに対して、0.5D<b<0.9Dの範囲に設定されている請求項1〜4の何れか1項に記載のスタビライザブッシュ。
【請求項6】
前記本体ゴム弾性体の径方向中間部分には周方向に延びる中間板が固着されており、該本体ゴム弾性体の軸方向両端部における該中間板の内周側には、軸方向端面に開口する複数の肉抜凹部が形成されている請求項1〜の何れか1項に記載のスタビライザブッシュ。
【請求項7】
前記肉抜凹部が前記中間板の内周面に隣接して形成されている請求項に記載のスタビライザブッシュ。
【請求項8】
前記突起部の突出方向に延びる弾性主軸上を周方向に外れた位置に前記肉抜凹部が形成されている請求項又はに記載のスタビライザブッシュ。
【請求項9】
前記本体ゴム弾性体の前記分断部を周方向に外れた位置に前記肉抜凹部が形成されている請求項の何れか1項に記載のスタビライザブッシュ。
【請求項10】
複数の前記肉抜凹部が互いに同じ形状とされていると共に、該肉抜凹部が前記本体ゴム弾性体の周上で等間隔に配置されている請求項の何れか1項に記載のスタビライザブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタビライザバーの中間部分を車両ボデーに弾性連結するスタビライザブッシュに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両には、乗り心地や操縦安定性の向上等を目的として、車体のロールを抑えるスタビライザが装備されている。スタビライザは、ばね鋼の棒材からなるスタビライザバーの両端部が車輪側に取り付けられると共に、スタビライザバーの中間部分がスタビライザブッシュによって車両ボデー側に弾性的に取り付けられるようになっている。このスタビライザブッシュは、例えば、特開平10−184792号公報(特許文献1)に示されているように、挿通孔を有する筒状の本体ゴム弾性体を有しており、挿通孔にスタビライザバーが挿通されると共に、外周面が車両ボデーに取り付けられるようになっている。
【0003】
ところで、特許文献1のスタビライザブッシュでは、スタビライザバーのねじりに対する異音の発生等を防ぐために、スタビライザバーが挿通孔に嵌め入れられることにより、本体ゴム弾性体が全周に亘って予圧縮されるようになっている。
【0004】
しかしながら、全周に亘って略一様な予圧縮を施して、硬いばねが要求される車両上下方向において大きなばね定数を設定しようとすると、柔らかいばねが要求される車両前後方向においてもばね定数が大きくなって、要求特性を満たすことが難しい場合もあった。しかも、本体ゴム弾性体の全周に予圧縮を施してばねを硬くすると、ねじり方向の本体ゴム弾性体のばねも硬くなることから、スタビライザバーのねじりに対して本体ゴム弾性体の変形が追従できず、スティックスリップ等に起因する異音が生じるおそれもあった。
【0005】
なお、特許文献1の図9に示されているように、挿通孔を楕円形として、短軸方向を車両上下方向とすることで、車両上下方向の予圧縮量を車両前後方向の予圧縮量よりも大きくすることも考えられる。しかし、このような楕円形の挿通孔であっても、予圧縮量は周方向で徐々に変化するにすぎないことから、特定方向のばねを選択的に硬く設定することは未だ充分に実現されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−184792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、特定の軸直角方向において選択的に硬いばねを設定することができると共に、他の方向では比較的に柔らかいばねを維持することができる、新規な構造のスタビライザブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、挿通孔を有する筒状の本体ゴム弾性体を備えていると共に、該本体ゴム弾性体が周上の一部で周方向に分断されており、該本体ゴム弾性体の分断部からスタビライザバーが該挿通孔に挿入されると共に、該本体ゴム弾性体の外周面が車両ボデー側に取り付けられることにより、該スタビライザバーを該車両ボデーに弾性支持せしめるようにされたスタビライザブッシュにおいて、前記本体ゴム弾性体の前記挿通孔に対する前記スタビライザバーの挿通によって該本体ゴム弾性体が軸直角方向に予圧縮されるようになっていると共に、該挿通孔の内径寸法が軸方向両端部分において軸方向中間部分よりも小さくされている一方、該本体ゴム弾性体の該挿通孔には軸直角方向で対向して内方に突出する一対の突起部が該本体ゴム弾性体の前記分断部を周方向に外れて形成されており、該突起部が周方向に所定幅をもって軸方向に連続して延びていると共に、該突起部の周方向両端には該挿通孔の内周面から内周側に立ち上がる段差が形成されており、且つ、該本体ゴム弾性体の該挿通孔の内径が、該突起部の形成部位と該突起部を外れた部位とを含む全周に亘って該スタビライザバーの外径よりも小さくされて、該挿通孔の内周面の全体が該スタビライザバーの外周面に当接されて予圧縮されるようになっていると共に、該スタビライザバーの該挿通孔への挿通による該本体ゴム弾性体の圧縮率が、該一対の突起部の形成部分において該一対の突起部を外れた部分よりも20%〜30%大きく設定されていることを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされたスタビライザブッシュによれば、本体ゴム弾性体の挿通孔内に突出する一対の突起部が形成されていることから、それら一対の突起部の対向方向において本体ゴム弾性体の予圧縮量が周上で部分的に大きくされる。それ故、一対の突起部が対向配置される特定の軸直角方向において、予圧縮による大きなばね定数を設定することができる。
【0011】
しかも、一対の突起部の各周方向両端には挿通孔の内周面から内周側に立ち上がる段差が形成されており、一対の突起部が形成された部分と、それら一対の突起部を周方向に外れた部分とにおいて、本体ゴム弾性体の予圧縮量が大きく異なるようになっている。それ故、一対の突起部が形成される特定の軸直角方向でばね定数を大きく設定しつつ、他の方向ではばね定数を小さく設定することが可能であり、要求特性に応じたばね比を容易に得ることができる。
【0012】
加えて、挿通孔の内径寸法が軸方向両端部分において軸方向中間部分よりも小さくされていることにより、軸方向両端部分が大きく予圧縮されて、挿通孔の内周面とスタビライザバーの外周面との間に外部から異物が侵入するのを防ぐことができると共に、軸方向中間部分の圧縮量を調節することで、ばね特性を適切に調節することができる。特に、一対の突起部が形成される方向において、軸方向全長に亘って略一定の大きな圧縮量を確保しようとすると、スタビライザバーを挿通孔に嵌め入れ難くなるおそれがあるが、挿通孔の軸方向中間部分が軸方向両端部分よりも大径とされて、本体ゴム弾性体の圧縮量が軸方向中間部分で低減されることによって、必要なばねを確保しながら充分な組付け易さも実現することができる。
さらに、本態様では、一対の突起部の形成方向で本体ゴム弾性体のばね定数が適切に調節されることから、一対の突起部の形成方向と他の方向との間で充分に大きなばね比を得ることができると共に、ばねが硬すぎることによってスタビライザバーを挿通孔に組み付け難くなる等の不具合を回避することもできる。
【0013】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記本体ゴム弾性体の内径寸法が、前記一対の突起部を外れた部位の軸方向両端部分において該一対の突起部の形成部位における軸方向中間部分よりも大きくされているものである。
【0014】
第二の態様によれば、一対の突起部が形成された部分の全体が、一対の突起部を外れた部分に対して大きく圧縮されることから、一対の突起部が形成された特定の軸直角方向において、他の方向よりも充分に硬いばねを実現して、要求特性に応じたばね比を有利に実現することができる。
【0015】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記本体ゴム弾性体の内径寸法が、軸方向両端部分の所定長さに亘って一定とされているものである。
【0016】
第三の態様によれば、本体ゴム弾性体の軸方向両端部分が所定長さに亘ってスタビライザバーに押し当てられることから、異物の侵入が問題になり易い軸方向両端部分においてシール性が確保されると共に、シール部分がある程度の長さで設けられることで、スタビライザバーのこじり変位等に対しても、シール性が保持される。
【0017】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記突起部の突出寸法が周方向で一定とされているものである。
【0018】
第四の態様によれば、一対の突起部の形成部分において周上で略一定の圧縮量が確保されて、目的とするばね定数を容易且つ高度に設定することができる。更に、突起部の全体が略一様に圧縮されることで、予圧縮による応力が分散されて、耐久性の向上も図られ得る。
【0019】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか1つの態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記突部の周方向幅寸法:bが、前記スタビライザバーの直径:Dに対して、0.5D<b<0.9Dの範囲に設定されているものである。
【0020】
第五の態様によれば、スタビライザバーの挿通孔への装着時に、一対の突部が倒れ変形等の歪な変形を生じることなく突出方向に安定して圧縮されると共に、一対の突部が形成された特定方向のばね定数を選択的に高めて、ばね比のチューニング自由度を有利に得ることができる。
【0023】
本発明の第の態様は、第一〜第の何れか1つの態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記本体ゴム弾性体の径方向中間部分には周方向に延びる中間板が固着されており、該本体ゴム弾性体の軸方向両端部における該中間板の内周側には、軸方向端面に開口する複数の肉抜凹部が形成されているものである。
【0024】
の態様によれば、肉抜凹部の形成部分において本体ゴム弾性体の軸方向長さが実質的に小さくなることから、ねじり方向のばね定数が小さくなって、スタビライザバーのねじりに対する本体ゴム弾性体の追従性が高められる。それ故、スタビライザバーのねじりに対して、スティックスリップ等に起因する異音を低減することができる。
【0025】
しかも、肉抜凹部は、本体ゴム弾性体に対して、中間板の内周側において形成されていると共に、軸方向中間部分よりも内径が小さく厚肉とされた軸方向両端部分に形成されている。これにより、本体ゴム弾性体の軸方向両端部分における変形剛性が適切に低減されて、スタビライザバーと本体ゴム弾性体の間のシール性を確保しながら、スタビライザバーの挿通孔への挿通を容易に行うことができる。加えて、本体ゴム弾性体において肉抜凹部の内周側でスタビライザバーの外周面に重ね合わされる部分は、肉抜凹部によって変形を許容され易くなっていることから、スタビライザバーの外周面への弾性的な密着を充分に実現しながら、スタビライザバーのこじり等の変位に対する追従性が向上して、異物の侵入をより効果的に防ぐことができる。
【0026】
本発明の第の態様は、第の態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記肉抜凹部が前記中間板の内周面に隣接して形成されているものである。
【0027】
の態様によれば、本体ゴム弾性体において中間板で拘束される部分が小さくなって、ねじり方向のばねをより小さく設定することができることから、スタビライザバーのねじりに対する追従性が向上して、スティックスリップ等に起因する異音を防ぐことができる。
【0028】
本発明の第の態様は、第又は第の態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記突起部の突出方向に延びる弾性主軸上を周方向に外れた位置に前記肉抜凹部が形成されているものである。
【0029】
の態様によれば、一対の突起部の圧縮量が肉抜凹部の形成によって低減されるのを抑えて、一対の突起部の形成部分において予圧縮による高いばね定数を設定することができる。
【0030】
本発明の第の態様は、第〜第の何れか1つの態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、前記本体ゴム弾性体の前記分断部を周方向に外れた位置に前記肉抜凹部が形成されているものである。
【0031】
の態様によれば、分断部における本体ゴム弾性体の変形剛性が肉抜凹部の形成によって低下するのを防いで、本体ゴム弾性体の分断部における歪な変形や、装着状態における分断部の隙間の形成等が回避される。
【0032】
本発明の第十の態様は、第〜第の何れか1つの態様に記載されたスタビライザブッシュにおいて、複数の前記肉抜凹部が互いに同じ形状とされていると共に、該肉抜凹部が前記本体ゴム弾性体の周上で等間隔に配置されているものである。
【0033】
十の態様によれば、軸方向およびねじり方向のばね定数が肉抜凹の形成によって周上でばらつくのを防いで、目的とするばね特性を容易に且つ精度良く設定することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、周方向両端に段差をもって突出する一対の突起部が形成されていることによって、それら一対の突起部が突出する特定の軸直角方向において圧縮量を確保してばね定数を大きく設定しつつ、他の方向でのばね定数を小さく設定することが可能とされる。しかも、スタビライザバーが挿通される挿通孔の内径が、軸方向両端部分において軸方向中間部分よりも小さくされており、軸方向両端部分においてスタビライザバーと本体ゴム弾性体の間への異物の侵入を防止しながら、軸方向中間部分においてばね特性のチューニングをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態としてのスタビライザブッシュを背面右下からの視点で示す斜視図。
図2図1に示されたスタビライザブッシュの右側面図。
図3図2のIII−III断面図。
図4図2のIV−IV断面図。
図5図3のV−V断面図。
図6図1に示されたスタビライザブッシュの車両装着状態を示す右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0037】
図1図5には、本発明の一実施形態としてのスタビライザブッシュ10が示されている。スタビライザブッシュ10は、筒状とされた本体ゴム弾性体12を有している。なお、以下の説明において、原則として、上下方向とは車両への装着状態で車両上下方向となる図2中の上下方向を、前後方向とは車両への装着状態で車両前後方向となる図2中の左右方向を、左右方向とは車両への装着状態で車両左右方向となる図3中の左右方向を、それぞれいう。
【0038】
より詳細には、本体ゴム弾性体12は、左右に貫通する挿通孔16が形成された筒状であって、上面が略水平に広がる平面とされていると共に、下面が下方に凸の略半筒状湾曲面とされている。挿通孔16は、内周面が滑らかな湾曲面で構成されており、その内径寸法が軸方向両端部分において軸方向中間部分よりも小さくされている。更に、本実施形態では、本体ゴム弾性体12の内径寸法が、軸方向両端部分の所定長さに亘って略一定とされており、かかる軸方向両端部分が後述するスタビライザバー36の外周面に押し当てられてシールされるシール部18とされている。
【0039】
また、本体ゴム弾性体12における挿通孔16の外周側には、一対の中間板20,20が固着されている。中間板20は、周方向に半周弱の長さで延びる略半円筒形状の湾曲板であって、鉄やアルミニウム合金、硬質の合成樹脂等で形成された硬質材とされている。そして、一対の中間板20,20は、互いに向かい合わせに配置されて、全体として略円筒状を呈しており、挿通孔16の外周側を取り囲むように本体ゴム弾性体12の径方向中間部分に固着されている。これにより、本体ゴム弾性体12は、一対の中間板20,20を挟んで内周側に位置する内周部分22と、一対の中間板20,20を挟んで外周側に位置する外周部分24とに実質的に分けられている。なお、一対の中間板20,20は、対向方向で相互に離れて配置されて、周方向端部間にそれぞれ隙間26が形成されており、隙間26に本体ゴム弾性体12が充填されている。更に、本体ゴム弾性体12は、周上の一部に分断部28が形成されて周方向に分断されており、その分断部28が一方の隙間26に設けられている。
【0040】
さらに、本体ゴム弾性体12の内周部分22には、複数の肉抜凹部30が形成されている。肉抜凹部30は、本体ゴム弾性体12の軸方向端面に開口して軸方向に延びる凹所であって、周方向寸法が径方向寸法よりも大きくされた扁平形状で軸方向に延びている。更に、複数の肉抜凹部30が互いに略同じ形状とされており、それら肉抜凹部30が本体ゴム弾性体12の内周部分22の周上で均等に分散して配置されていると共に、それら複数の肉抜凹部30の周方向での総延長が内周部分22の周長の半分以上の長さとされている。更に、肉抜凹部30は、本体ゴム弾性体12の軸方向両端部を構成するシール部18,18にそれぞれ形成されていると共に、軸方向中間部分までは至らない軸方向深さ寸法とされており、本実施形態では軸方向両側の肉抜凹部30が周上で互いに同じ位置に形成されている。更にまた、肉抜凹部30は、一対の中間板20,20の内周面に隣接して配置されており、周上で複数の肉抜凹部30がそれら中間板20,20に沿って形成されている。なお、複数の肉抜凹部30は、何れも本体ゴム弾性体12の分断部28を周方向に外れた位置に形成されている。
【0041】
また、本体ゴム弾性体12の挿通孔16には、一対の突起部32,32が形成されている。突起部32は、周方向に所定の幅寸法をもって、軸方向の全長に亘って直線的に連続して延びており、径方向内方に向かって突出している。更に、挿通孔16の内周面には、一対の突起部32,32が形成されており、それら一対の突起部32,32が上下方向で対向して配置されて、それぞれ内周側に突出している。このような一対の突起部32,32が形成されることにより、挿通孔16の内径寸法が上下方向において前後方向よりも小さくされている。なお、一対の突起部32,32が挿通孔16の内周面における上下両側に形成されており、一対の突起部32,32が本体ゴム弾性体12の分断部28を周方向で外れた位置に形成されている。特に本実施形態では、一対の突起部32,32の突出方向が、本体ゴム弾性体12において分断部28が延びる径方向(車両前後方向)に対して、略直交する方向とされている。
【0042】
さらに、突起部32の周方向両端には、それぞれ段差34が形成されている。この段差34は、挿通孔16の内周面から内周側に立ち上がるように形成されており、突起部32が挿通孔16の内周面に対して段付き形状をもって周上で部分的に突出形成されている。なお、本実施形態の段差34は、外周側の端部が挿通孔16の内周面に対して滑らかに連続していると共に、内周側の端部が突起部32の突出先端面に対して角状をなして屈折形状で接続されている。尤も、段差34は、挿通孔16の内周面に対して角状をなして屈折形状で接続されていても良い。
【0043】
さらに、本実施形態の突起部32は、突出先端面が凹状に湾曲して周方向に広がっており、突起部32の突出寸法が周方向で略一定とされている。更にまた、突起部32は、軸方向両端部分が軸方向中間部分よりも内方に大きく突出しており、突起部32の形成部分においても、挿通孔16の他の部分と同様に、軸方向両端部分が軸方向中間部分よりも小さな内径寸法(換言すれば、一対の突起部32,32の径方向対向間距離)を有している。より好適には、挿通孔16は、一対の突起部32,32を外れた前後方向の内径寸法において最小となる軸方向両端部分での前後内径寸法が、一対の突起部32,32が形成された上下方向の内径寸法において最大となる軸方向中間部分での上下内径寸法よりも大きくされる。
【0044】
更にまた、一対の突起部32,32の突出方向に延びる弾性主軸(換言すれば、軸直角方向荷重の主たる入力方向となる径方向線)を周方向に外れた位置に肉抜凹部30が形成されており、主たる荷重の入力方向である上下径方向の両側には肉抜凹部30が形成されていない。
【0045】
そして、スタビライザブッシュ10は、図6に示すように、スタビライザバー36と車両ボデー38の間に介装されて、スタビライザバー36の中間部分を車両ボデー38に弾性連結している。即ち、ばね鋼の棒材で形成されたスタビライザバー36の中間部分が、本体ゴム弾性体12の分断部28を通じて挿通孔16に挿入されると共に、車両ボデー38上に配置されたスタビライザブッシュ10を前後方向に跨いで、本体ゴム弾性体12の外周面に重ね合わされるブラケット40が、前後両側において車両ボデー38にボルト固定される。これにより、本体ゴム弾性体12の内周面がスタビライザバー36に取り付けられると共に、本体ゴム弾性体12の外周面が車両ボデー38に取り付けられて、スタビライザバー36が車両ボデー38に対して本体ゴム弾性体12を介して弾性的に支持されるようになっている。
【0046】
このようなスタビライザブッシュ10の車両装着状態において、本体ゴム弾性体12は、スタビライザバー36とブラケット40および車両ボデー38との間で径方向に予圧縮されている。即ち、図2図4に2点鎖線で示すように、本体ゴム弾性体12における挿通孔16の内径寸法がスタビライザバー36の直径:Dよりも小さくされており、挿通孔16に対するスタビライザバー36の挿通によって、本体ゴム弾性体12が径方向に予圧縮されるようになっている。
【0047】
そこにおいて、挿通孔16の内周面には上下に一対の突起部32,32が形成されていることにより、車両装着状態において、上下方向の予圧縮量が前後方向の予圧縮量よりも大きくされて、上下方向のばね定数が前後方向のばね定数よりも大きく設定されている。特に、一対の突起部32,32がそれぞれ周方向両側に段差34,34を備えた突起形状とされていることにより、一対の突起部32,32が形成された上下方向においてのみ周上で局所的に予圧縮量を大きく確保して、上下方向のばね定数だけを効率的に大きく設定することができる。
【0048】
好適には、一対の突起部32,32の突出高さ寸法を調節する等して、スタビライザバー36の挿通孔16への挿通による本体ゴム弾性体12の圧縮率が、一対の突起部32,32が形成された上下方向において、一対の突起部32,32を外れた前後方向よりも20%〜30%大きく設定されることが望ましい。これにより、車両上下方向での硬いばねと、車両前後方向での柔らかいばねが、それぞれ有効に実現されて、車両の一般的な要求特性を満たすことができると共に、車両上下方向のばねが硬くなり過ぎるのを防いで、スタビライザバー36の組付け不良等が回避される。
【0049】
また、突起部32の周方向での幅寸法:bは、スタビライザバー36の直径:Dに対して、0.5D<b<0.9Dの範囲に設定されることが望ましく、より好適には、0.6D<b<0.7Dの範囲に設定される。なお、突起部32の周方向での幅寸法:bがスタビライザバー36の直径:Dに対して小さすぎると、突起部32,32の予圧縮によるばね定数の増加が不充分になって、上下方向の硬いばね特性が得られないおそれがある。一方、突起部32の周方向での幅寸法:bがスタビライザバー36の直径:Dに対して大きすぎると、挿通孔16に対するスタビライザバー36の挿入時に突起部32,32を充分に圧縮変形させてスタビライザバー36を組み付けることが困難になり得る。
【0050】
また、本実施形態では、突起部32,32の突出先端面が湾曲形状とされて、突起部32,32の突出高さ寸法が周上で略一定とされていることから、突起部32,32の形成部分において予圧縮量が略一定となって、応力の分散化による耐久性の向上が図られる。
【0051】
また、挿通孔16は軸方向両端部分が軸方向中間部分よりも内径寸法が小さくされており、本体ゴム弾性体12の軸方向両端部分が内周側に突出するシール部18とされている。それ故、軸方向両端部分において挿通孔16の内周面がスタビライザバー36の外周面により強く押し当てられて異物の侵入が防止されると共に、本体ゴム弾性体12の軸方向中間部分が軸方向両端部分よりも内径寸法を大きくされていることで、本体ゴム弾性体12が軸方向全体に亘って一様に大きく予圧縮されるのを防いで、ばね特性の調節や組付性の向上等が実現される。
【0052】
また、本体ゴム弾性体12に中間板20,20が固着されて、本体ゴム弾性体12が中間板20,20を挟んで内周部分22と外周部分24に実質的に分割されていると共に、内周部分22には複数の肉抜凹部30が形成されている。これにより、内周部分22の周方向でのばねが低減されており、スタビライザバー36のねじりに対して内周部分22が追従することで、スティックスリップ等に起因する異音が低減される。特に、肉抜凹部30が中間板20,20の内周側に隣接して形成されていることにより、本体ゴム弾性体12の内周部分22において中間板20,20で拘束される領域が狭くなって、スタビライザバー36のねじりに対して内周部分22がより追従し易くなる。
【0053】
さらに、一対の突起部32,32の突出方向の弾性主軸上を周方向に外れた位置に肉抜凹部30が形成されている。それ故、一対の突起部32,32の形成部分において本体ゴム弾性体12が上下に有効に予圧縮されて、上下方向の硬いばね特性が有効に実現される。
【0054】
更にまた、肉抜凹部30は、本体ゴム弾性体12の分断部28を外れて形成されている。これにより、本体ゴム弾性体12における分断部28を挟んだ周方向両端部の変形剛性が大きく確保されて、車両への装着状態において分断部28が安定して所定の閉鎖状態に保持される。
【0055】
さらに、複数の肉抜凹部30が互いに略同じ形状とされて、周上で略均等に分散配置されていることから、周上でバランス良くねじり方向や軸方向のばねが設定されて、目的とするばね特性を効率的に実現することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、突起部は突出方向での効率的な予圧縮を実現するために周方向に所定の幅寸法で連続していることが望ましいが、例えば、突起部の周上で部分的に突出先端面に開口する凹溝を軸方向全長に亘って形成して、突起部を周方向で実質的に複数に分割しても良い。
【0057】
また、前記実施形態では、突起部が車両上下方向となる径方向一方向に突出する構造が例示されているが、突起部の突出方向は、要求されるばね特性等に応じて適宜に変更され得る。
【0058】
また、中間板は必須ではなく、中間板のない構造も採用可能である。更に、中間板は1つでも3つ以上でも良く、例えば、一方の隙間がない軸方向視でC字形状の中間板等も採用され得る。
【0059】
また、肉抜凹部も省略することが可能であり、形成する場合であっても形状や形成数等は要求特性に応じて適宜に変更され得る。
【符号の説明】
【0060】
10:スタビライザブッシュ、12:本体ゴム弾性体、16:挿通孔、20:中間板、28:分断部、30:肉抜凹部、32:突起部、34:段差、36:スタビライザバー、38:車両ボデー
図1
図2
図3
図4
図5
図6