特許第6099479号(P6099479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099479
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】ひび割れ検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20170313BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   G01N21/88 Z
   G01N21/88 J
   G06T1/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-107390(P2013-107390)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-228357(P2014-228357A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】小山 哲
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 剛
(72)【発明者】
【氏名】堀口 賢一
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−162583(JP,A)
【文献】 特開2012−002531(JP,A)
【文献】 特開2011−106923(JP,A)
【文献】 米国特許第07295695(US,B1)
【文献】 特開昭63−040844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/958
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(方法A)コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうに当たり、ひび割れ判別画像を作成する方法であって、該方法は、ステップ1A、ステップ2A、およびステップ3Aからなり、
(方法B)コンクリート表面に生じている面的に広がりを持った対象物であるしみ跡、湧水や剥離剥落などの変状およびケーブルや架線などの人工構造物に代表される面状対象物に相当する非ひび割れ判別画像を作成する方法であって、該方法は、ステップ1B、ステップ2B、およびステップ3Bからなり、
前記(方法A)および前記(方法B)を備えたひび割れ検出方法であって、
(方法A)
ひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度を擬似的に設定し、ガボール関数を適用して対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、この2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成するステップ1A、
ウェーブレット係数テーブル内において、前記コンクリート表面の濃度と仮定する局所領域内の近傍画素の平均濃度と、前記ひび割れの濃度と仮定する注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れと判定してひび割れ画素とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも小さな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなひび割れ画素を連結して一つの塊を形成し、塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合はひび割れと判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる二値化画像を作成するステップ2A、
前記塊の特徴量を特定し、塊の特徴量ごとにひび割れとひび割れ以外のノイズ種が予め規定されている特徴量テーブルを参照して、複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって特徴量が特定されている前記塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、
前記塊ごとの特徴量の特定と各塊の判別分析をステップ2Aにおける全ての塊に実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されてなるひび割れ判別画像を作成するステップ3A、からなり、
前記特徴量テーブルの作成は、任意のコンクリート表面に対して前記ステップ1A、ステップ2Aを実行して二値化画像を作成し、該二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算するとともに、それぞれの塊に対する観測結果である、塊がひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれか一種、を割り当てるものであり、
(方法B)
前記対象物の濃度とコンクリート表面の濃度を擬似的に設定し、ラプラシアンガウシアン関数を適用して対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、この2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、これら対象物の検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成するステップ1B、
ウェーブレット係数テーブル内において、前記コンクリート表面の濃度と仮定する局所領域内の近傍画素の平均濃度と、前記面状対象物の濃度と仮定する注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合は該近傍画素における該注目画素を面状対象物と判定し、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも小さな場合は該近傍画素における該注目画素を面状対象物でないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこない、面状対象物と判定された画素に対して面状対象物とノイズの判別処理をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなって、面状対象物と判定された画素を連結して一つの塊を形成し、塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合は面状対象物と判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる二値化画像を作成するステップ2B、
前記塊の特徴量を特定し、塊の特徴量ごとにしみ跡、湧水や剥離剥落などの変状、ケーブルや架線などの人工構造物などが予め規定されている特徴量テーブルを参照して、複数の特徴量を説明変数とし、これら面状対象物を目的変数とする判別分析をおこなって特徴量が特定されている前記塊を面状対象物であると判定し、
前記塊ごとの特徴量の特定と各塊の判別分析をステップ2Bにおける全ての塊に実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されてなる非ひび割れ判別画像を作成するステップ3B、からなり、
次に、方法Aで作成されたひび割れ判別画像と方法Bで作成された非ひび割れ判別画像の差分によってひび割れ画像を作成する、ひび割れ検出方法。
【請求項2】
前記ステップ3Bにおける前記特徴量テーブルに対し、それぞれの塊と、特徴量テーブルにおける前記グループの重心位置の間の距離をマハラノビスの汎距離で特定し、このマハラノビスの汎距離から塊がそれぞれのグループに属する確率値を特定し、該確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正する請求項1に記載のひび割れ検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうひび割れ検出方法に係り、特に、撮影されたコンクリート表面の汚れや照明条件などによってひび割れの検出が困難な場合においても、簡易に高精度のひび割れ検出をおこなうことのできるひび割れ検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表面上のひび割れを検出する方法としては、従来、調査員がスケールを使用しながら目視観察をおこない、ひび割れの幅や長さを測定する方法が一般的であった。しかし、この目視観察による方法は調査員の測定技量などによって精度のばらつきが大きくなることや、ひび割れが大量に存在する場合においては大量の情報を正確に処理するために莫大な労力および時間を要するといった問題があった。
【0003】
上記の問題に対して、コンクリート表面の撮影画像をコンピュータに取り込み、画像をひび割れ領域とそれ以外の領域とに2値化処理する画像処理手法が適用されている。画像の2値化処理とは、ある濃度値に対して画像の濃度を0または1に表現することであり、例えば、入力画像f(i,j)に対して2値化処理で得られる2値化画像b(i,j)はb(i,j)=1(f(i,j)>k)、0(f(i,j)≦k)となる。ここで、kは2値化する際の閾値であり、したがって2値化画像の良し悪しは閾値kの選定によって決まるといってよい。
【0004】
従来の閾値を求める手法としては、固定閾値または可変閾値による処理方法がある。固定閾値による処理方法には、Pタイル法やモード法、相関比を用いた方法などが挙げられる。固定閾値による処理方法は、対象画像の濃度ヒストグラムを作成し、画像の背景(コンクリート表面)の濃度値とひび割れの濃度値との間に明確な谷が現れるような双峰性のヒストグラムが得られる場合において有効な方法である。
【0005】
一方、可変閾値による処理方法は、照明条件などによって撮影ムラが生じ、背景の濃度値と対象部分の濃度値が画像全体で一定でない場合に有効な方法である。この可変閾値処理法は、注目している画素を中心とする局所領域の平均濃度値を閾値とする方法である。この方法の欠点は、背景領域の微妙な濃淡変化に応じて、例えばひび割れ以外のノイズが多い画像となってしまう点である。
【0006】
従来の画像処理方法は、撮影された入力画像に対して閾値を決定し、2値化処理をおこないながらひび割れの抽出をおこなうものである。すなわち、この一般的な処理の流れは次のようになる。1)撮影画像をコンピュータに取り込んで入力画像を作成する。2)入力画像の濃度の補正をする。3)2値化処理をおこなってひび割れの抽出をおこなう。
【0007】
上記する従来の画像処理法は、濃度が一様なコンクリート表面上のひび割れの検出においては比較的高精度のひび割れ検出が可能である。しかし、実際のコンクリート構造物の表面は様々な汚れを含んでおり、さらにはひび割れの濃度も、ひび割れの幅や深度などに応じてばらつきがあるのが一般的である。このようなコンクリート表面に対して従来の画像処理法を用いると、ひび割れの抽出に際しては様々な問題が生じ得る。例えば、固定閾値処理の場合において、コンクリート表面上の汚れ領域とひび割れ領域が同程度の濃度値である場合には、これらを2値化処理することが極めて困難となる。濃度ヒストグラムが双峰性を呈していて、閾値を容易に決定できたとしても、ひび割れ領域と判断される範囲には汚れ領域が含まれる可能性が極めて高くなる。また、逆に、ひび割れ周辺部の汚れ領域を含ませないような閾値をあらたに設定しようとすると、今度は他のひび割れ領域を除外してしまうことになってしまう。
【0008】
可変閾値処理の場合には、コンクリート表面上の汚れが多くなるにしたがって、ひび割れ抽出画像中にひび割れ以外のノイズが多く含まれることになり、場合によってはひび割れ抽出画像を一見しても、どの部分がひび割れ領域なのか全く判別できないこととなる。
【0009】
上記する従来手法の問題に対して本発明者等は、撮影されたコンクリート表面の汚れや照明条件などによってひび割れの検出が困難な場合においても、簡易に高精度のひび割れ検出をおこなうことのできるひび割れ検出方法を発案し、特許文献1にその開示をおこなっている。このひび割れ検出方法は、対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成するステップ、ウェーブレット係数テーブル内において局所領域内の近傍画素の平均濃度と注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合はこの注目画素をひび割れと判定し、閾値よりも小さな場合は注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこなうことでひび割れ抽出画像を作成するステップ、からなる検出方法である。
【0010】
この検出方法では、さらに輪郭線追跡処理により、任意の画素に対してこれに隣接する8方向の画素を対象に繋がりのある画素を連結し、連結された画素の集合体にラベリングをおこなっている。ここで、ラベリングごとに構成画素の数(もしくは対応する面積)がその閾値よりも小さな場合にラベリングされた集合体をノイズと見なして除去するようにしている。
【0011】
上記するウェーブレット変換を適用してなるひび割れ検出方法によってその検出精度は格段に向上するものの、本発明者等によるこのひび割れ検出方法に関する更なる検証によれば、解析パラメータとしてウェーブレット係数値とウェーブレット係数テーブル内の閾値との許容値を25、ノイズ除去のための閾値として輪郭線追跡処理から求められるひび割れと判定された画素の一塊の個数を10(この値以下であればこの一塊の画素を除去)で計算した結果、ひび割れ以外の多くのノイズが検出されており、そのさらなる改良が必要であることが分かっている。
【0012】
なお、ひび割れ判定の閾値を大きくする、もしくはノイズ除去の閾値を大きくすることによってひび割れ以外のノイズ部分を減少させることはできるが、その一方で一部の細かいひび割れや不連続なひび割れを検出しない可能性が生じ易くなってしまい、得策とは言い難い。
【0013】
そこで、上記する問題を解決するべく、本発明者等は、コンピュータ処理にて得られた二値化画像から、ひび割れや型枠跡、コンクリート表面の汚れなどの領域を多変量解析の一手法である判別処理にて自動的に高い精度でひび割れとノイズを判別する発案に至っている。
【0014】
より具体的には、得られた二値化画像の各オブジェクト(二値化画像にて同じ値を持つ画素を連結してできる一つの塊)の形状に関する特徴量として、面積や周囲長、円形度などの項目を選定して特徴量を計算する。これらの塊の特徴量に関しては、予め特徴量テーブルが作成されている。
【0015】
この特徴量テーブルの作成は、現在そのコンクリート表面のひび割れ検出対象となっているコンクリート表面であってもよいし、それ以外のコンクリート表面であってもよいが、ある任意のコンクリート表面に対して二値化画像を作成し、二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算してテーブル化しておく。そして、この特徴量テーブルにはさらに、この任意のコンクリート表面に関する観測結果、すなわち、それぞれの塊がひび割れである場合は区分「3」、ノイズ種の中でも型枠や傷跡などの場合は区分「2」、ノイズ種の中でもしみ跡や汚れなどの雑音の場合は区分「1」、などといった具合に、観測結果であるそれぞれの塊が、ひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれの区分に属するかが割り当てられている。この特徴量テーブルに対し、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって、特徴量が特定されている塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、この判定された結果を予測値とするものである。
【0016】
この改良されたひび割れ検出方法によれば、ひび割れと微細なノイズの判別率が92%以上と高い結果が得られることが本発明者等によって特定されている。
【0017】
しかしながら、ひび割れと型枠跡の判別率は70%程度とやや低くなり、誤判別する可能性があることもまた本発明者等によって特定されている。
【0018】
この原因を本発明者等は次のように分析している。すなわち、上記するウェーブレット変換を適用してなるひび割れ検出方法ではガボール関数が適用されているが、このガボール関数はひび割れのような幅の狭い線状のオブジェクトの検出に適しているものの、幅の広い面状の型枠跡や剥落部、漏水部などのオブジェクトの検出には適していないためである。このように幅の広い面状の型枠跡や剥落部、漏水部などのオブジェクトの検出には、ラプラシアンガウシアン関数を適用することによって判別率を高めることができる。
【0019】
そこで本発明者等は、型枠跡等の面状のノイズと微細なノイズの双方を精度よく除去することができ、もってひび割れを高い精度で検出することのできるひび割れ検出方法の発案に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−162583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、型枠跡等の面状のノイズと微細なノイズの双方を精度よく除去することができ、もってひび割れを高い精度で検出することのできるひび割れ検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成すべく、本発明によるひび割れ検出方法は、
(方法A)コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうに当たり、ひび割れ判別画像を作成する方法であって、該方法は、ステップ1A、ステップ2A、およびステップ3Aからなり、
(方法B)コンクリート表面に生じている面的に広がりを持った対象物であるしみ跡、湧水や剥離剥落などの変状およびケーブルや架線などの人工構造物に代表される面状対象物に相当する非ひび割れ判別画像を作成する方法であって、該方法は、ステップ1B、ステップ2B、およびステップ3Bからなり、
前記(方法A)および前記(方法B)を備えたひび割れ検出方法であって、
(方法A)
ひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度を擬似的に設定し、ガボール関数を適用して対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、この2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成するステップ1A、
ウェーブレット係数テーブル内において、前記コンクリート表面の濃度と仮定する局所領域内の近傍画素の平均濃度と、前記ひび割れの濃度と仮定する注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れと判定してひび割れ画素とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも小さな場合は該近傍画素における該注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなひび割れ画素を連結して一つの塊を形成し、塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合はひび割れと判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる二値化画像を作成するステップ2A、
前記塊の特徴量を特定し、塊の特徴量ごとにひび割れとひび割れ以外のノイズ種が予め規定されている特徴量テーブルを参照して、複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって特徴量が特定されている前記塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、
前記塊ごとの特徴量の特定と各塊の判別分析をステップ2Aにおける全ての塊に実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されてなるひび割れ判別画像を作成するステップ3A、からなり、
前記特徴量テーブルの作成は、任意のコンクリート表面に対して前記ステップ1A、ステップ2Aを実行して二値化画像を作成し、該二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算するとともに、それぞれの塊に対する観測結果である、塊がひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれか一種、を割り当てるものであり、
(方法B)
前記対象物の濃度とコンクリート表面の濃度を擬似的に設定し、ラプラシアンガウシアン関数を適用して対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、この2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、これら対象物の検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成するステップ1B、
ウェーブレット係数テーブル内において、前記コンクリート表面の濃度と仮定する局所領域内の近傍画素の平均濃度と、前記面状対象物の濃度と仮定する注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合は該近傍画素における該注目画素を面状対象物と判定し、任意の近傍画素における任意の注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも小さな場合は該近傍画素における該注目画素を面状対象物でないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこない、面状対象物と判定された画素に対して面状対象物とノイズの判別処理をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなって、面状対象物と判定された画素を連結して一つの塊を形成し、塊が予め設定されている塊の閾値よりも小さな場合はノイズと判定し、塊の閾値よりも大きな場合は面状対象物と判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる二値化画像を作成するステップ2B、
前記塊の特徴量を特定し、塊の特徴量ごとにしみ跡、湧水や剥離剥落などの変状、ケーブルや架線などの人工構造物などが予め規定されている特徴量テーブルを参照して、複数の特徴量を説明変数とし、これら面状対象物を目的変数とする判別分析をおこなって特徴量が特定されている前記塊を面状対象物であると判定し、
前記塊ごとの特徴量の特定と各塊の判別分析をステップ2Bにおける全ての塊に実行することにより、二値化画像からさらにノイズが除去されてなる非ひび割れ判別画像を作成するステップ3B、からなり、
次に、方法Aで作成されたひび割れ判別画像と方法Bで作成された非ひび割れ判別画像の差分によってひび割れ画像を作成するものである。
【0023】
ウェーブレット(wavelet)とは、小さな波という意味であり、局在性を持つ波の基本単位を、ウェーブレット関数を用いた式で表現することができる。このウェーブレット関数を拡大または縮小することにより、時間情報や空間情報と周波数情報を同時に解析することが可能となる。このウェーブレット係数を、ひび割れを有するコンクリート表面に適用する場合のこの係数の特徴としては、コンクリート表面の濃度と、ひび割れの濃度と、ひび割れ幅に依存するということである。例えば、ひび割れ幅が大きくなるにつれてウェーブレット係数の値は大きくなる傾向があり、また、ひび割れの濃度が濃くなるにつれて(黒色に近づくにつれて)ウェーブレット係数の値は大きくなる傾向がある。
【0024】
ウェーブレット変換によって算定されるウェーブレット係数を用いて、ひび割れの検出をおこなうアルゴリズムは以下のようになる。まず、コンクリート表面の撮影画像とウェーブレット関数との内積よりウェーブレット係数を求める。このウェーブレット係数を256階調に変換することで、連続量を持ったウェーブレット画像が作成できる。
【0025】
ウェーブレット係数は、上記するようにひび割れ幅やひび割れの濃度、コンクリート表面の濃度によって変化することから、擬似的に作成されたデータを用いてひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度に関するウェーブレット係数を各階調ごとに算定しておき、ウェーブレット係数テーブルを作成しておく。このウェーブレット係数テーブルにある各階調ごとのウェーブレット係数が、ひび割れ検出の際の閾値となる。例えば、対比される2つの濃度(一方の濃度をコンクリート表面の濃度、他方の濃度をひび割れの濃度と仮定することができる)に対応するウェーブレット係数(閾値)がウェーブレット係数テーブルを参照すれば一義的に決定される。したがって、後述するように、撮影画像において対比される2つの濃度間のウェーブレット係数を算定した際に、このウェーブレット係数がウェーブレット係数テーブルの閾値よりも大きな場合は、ひび割れであると判断できるし、閾値よりも小さな場合はひび割れでないと判断することができる。
【0026】
このウェーブレット係数テーブルを作成する際の擬似的なデータは特に限定するものではないが、例えば、ひび割れ幅が1画素(1ピクセル)〜5画素(5ピクセル)までの中で、各画素幅のひび割れごとに、コンクリート表面の階調とひび割れの階調に対応するウェーブレット係数を算定する。閾値の設定に際しては、例えば、ひび割れ幅が1画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れに対応するウェーブレット係数を選定し、ひび割れ幅が5画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れ領域でない箇所のウェーブレット係数を選定し、これら2つのウェーブレット係数の平均値をもって任意の階調における閾値とすることができる。
【0027】
本発明のひび割れ検出方法においては、微細なノイズを除去してなるひび割れ判別画像の作成ルート(方法A)と、型枠跡等の面状のノイズに関する非ひび割れ判別画像の作成ルート(方法B)をそれぞれおこない、それぞれの作成ルートにおいて適用するウェーブレット関数に関し、線状オブジェクトの検出に好適なガボール関数と面状のオブジェクトの検出に好適なラプラシアンガウシアン関数を使い分けることがその大きな特徴の一つである。
【0028】
ガボール関数を適用してひび割れ判別画像を作成する方法A、ラプラシアンガウシアン関数を適用して非ひび割れ判別画像を作成する方法Bのいずれにおいても、それらのステップ1A,1Bにおいて、上記するウェーブレット係数テーブルを作成しておくとともに、撮影画像に対してレンズ収差補正やあおり補正などの補正処理をおこない、これをコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する。このウェーブレット画像の作成は、コンピュータ内部において以下のように実施される。まず、適宜に設定された広域領域(例えば30×30画素の領域)に対してウェーブレット係数を算定する。次に、この広域領域から一画素移動した広域領域(同じように例えば30×30画素の領域であって、移動前の30×30画素の領域とほとんどの画素が共通している)で、同じようにウェーブレット係数を算定する。この操作を入力画像全体に繰り返すことにより、コンピュータ内部には、ウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像が作成される。
【0029】
次に方法A、方法Bのステップ2A,2Bにおいて、このウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像において、ウェーブレット係数テーブル内の閾値(ウェーブレット係数)とウェーブレット画像を構成するウェーブレット係数とを比較し、画像を構成するウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合はひび割れまたは面状対象物と判断し(画面上では例えば白色)、閾値よりも小さな場合はひび割れまたは面状対象物でないと判断する(画面上では例えば黒色)。そして、この操作をウェーブレット画像全体でおこなうことにより、黒い背景色内に白いひび割れまたは面状対象物が描き出された途中段階の二値化画像が作成される。
【0030】
方法A、方法Bにおけるステップ2A,2Bにおいて、この途中段階の二値化画像に対して輪郭線追跡処理をおこなってひび割れまたは面状対象物に対してノイズの除去処理をおこなう。
【0031】
この輪郭線追跡処理は、ひび割れまたは面状対象物に対してノイズを除去するものである。輪郭線追跡処理は、ある任意の画素(ひび割れと判断されている画素)から出発して、隣接する画素がひび割れ箇所の場合には出発画素と接続し、さらに隣接する画素がひび割れ箇所の場合にはさらに双方を接続し、最終的に出発画素に閉合した場合(例えば、第1画素、第2画素、…、第n−1画素、第n画素、第1画素の順に接続される場合)や、次に繋がるひび割れ箇所が存在しなくなった場合に終了するものである。この輪郭線追跡処理によれば、ループ状に閉合するようなひび割れラインや、複数の屈曲部を備えて線状に伸びるひび割れラインなど、適宜のひび割れラインが作成されることになる。この際、繋げられる画素数の最小数を予め設定しておくことにより、この設定数以下の画素はすべてひび割れでないとして、画面のひび割れ表示から削除することができる。
【0032】
次に、方法A、方法Bにおけるステップ3A,3Bにおいて、ステップ2A,2Bで作成された二値化画像に対して、画素が連結してなる多数の塊(オブジェクト)の形状からひび割れ、型枠跡、しみ跡、人工構造物などの判別をおこなう。
【0033】
具体的には、方法A、方法Bのステップ3A,3Bにおいて、塊の特徴量を特定する。ここで、塊の特徴量とは、塊の形状に影響を与える要因のことであり、その一例として、塊の面積、塊の外接四角形の高さや幅、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸、塊の面積とその外接四角形の面積の比率、塊の外接四角形の幅と高さの比率、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸の比率、塊の真円度((周囲長)2÷(4π×面積)の一般式から算定される塊の真円度)、塊の外周の凹凸度(フラクタル次元)、塊の外周の長さなどを挙げることができる。
【0034】
これらの塊の特徴量に関しては、予め特徴量テーブルが作成されている。この特徴量テーブルの作成は、現在そのコンクリート表面のひび割れ検出対象となっているコンクリート表面であってもよいし、それ以外のコンクリート表面であってもよいが、ある任意のコンクリート表面に対して上記するステップ1A、ステップ2Aおよびステップ1B、ステップ2Bを同様に実行して二値化画像を作成し、二値化画像を構成するそれぞれの塊の複数の特徴量をコンピュータで計算してテーブル化しておく。
【0035】
そして、この特徴量テーブルにはさらに、この任意のコンクリート表面に関する観測結果、すなわち、それぞれの塊がひび割れである場合は区分「3」、ノイズ種の中でも型枠や傷跡などの場合は区分「2」、ノイズ種の中でもしみ跡や汚れなどの雑音の場合は区分「1」、などといった具合に、観測結果であるそれぞれの塊が、ひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれの区分に属するかが割り当てられている。
【0036】
この特徴量テーブルに対し、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなって、特徴量が特定されている塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、この判定された結果を予測値とするものである。
【0037】
たとえば、実際にひび割れである塊に対してその予測値がひび割れであれば予測値と観測結果が一致することになり、実際にひび割れではない塊(ノイズ種の一種)に対して予測値がひび割れであれば予測値と観測結果が一致していないことになる。
【0038】
ここで、「判別分析」とは、予め与えられているデータが異なるグループに分かれることが明らかな場合に、新しいデータが得られた際に、どちらのグループに入るのかを判別するための基準となる判別関数を得るための手法のことである。
【0039】
方法Aでは、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数としている。
【0040】
同様に、方法Bではそれぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、剥離剥落,しみ跡,人工構造物もしくはいずれかのノイズ種を目的変数としている。
【0041】
ステップ3A、3Bでは、ステップ2A、2Bで特定されている二値化画像に内蔵されている多数の塊のそれぞれに対して、その特徴量の特定と判別分析を実行することにより、ひび割れ判別画像や型枠跡等の面状の非ひび割れ判別画像を作成することができる。
【0042】
方法Aでガボール関数を適用してひび割れ判別画像が作成され、方法Bでラプラシアンガウシアン関数を適用して非ひび割れ判別画像が作成されたら、最後にコンピュータ内でひび割れ判別画像から非ひび割れ判別画像の差分画像を作成することにより、この差分画像に相当するひび割れ画像が作成される。
【0043】
本発明のひび割れ検出方法によれば、ガボール関数を適用して微細なノイズを除去しながらひび割れ判別画像を作成するルートと、ラプラシアンガウシアン関数を適用して型枠跡等の面状のノイズに関する非ひび割れ判別画像を作成するルートをそれぞれおこない、それぞれの作成ルートにて作成されたひび割れ判別画像と非ひび割れ判別画像の差分によってひび割れ画像を作成することにより、線状で細い微細なノイズと型枠跡等の面状のノイズの双方がともに効果的に取り除かれた、高精度なひび割れ画像を作成することができる。
【0044】
ノイズの除去が終了してひび割れ画像が作成されたら、ひび割れ幅の推定をおこなうのがよい。ここで、ひび割れ幅の推定方法の実施の形態を説明する。このひび割れ幅の推定に際し、今回撮影対象となるコンクリート表面とは異なり、以前に撮影された撮影対象のコンクリート表面において貼付けされたクラックスケールの撮影画像であって、既に蓄積されている該クラックスケールの撮影画像をデータベースとして設定しておく。このクラックスケールの撮影画像のデータベースには、クラックスケールの最小幅から最大幅までの複数の実寸値qが含まれており、さらに、撮影距離やレンズ焦点距離、空間分解能が異なる複数の画像データから構成されるものである。
【0045】
一方、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に対して第3のステップで作成されているひび割れ画像に対し、さらに細線化処理を実行してその中心線で構成される、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像を作成する。
【0046】
データベース中のクラックスケールの撮影画像をコンピュータに入力してクラックスケールの入力画像とし、クラックスケールの入力画像をウェーブレット変換することによってクラックスケールのウェーブレット画像を作成し、クラックスケールのウェーブレット画像に対して細線化処理を実行してその中心線で構成される、クラックスケールの細線化画像を作成し、クラックスケールの細線化画像において、ひび割れ幅の推定式の説明変数pを、p=(ウェーブレット係数の値)−(ウェーブレット係数の閾値)とし、クラックスケールの撮影画像から特定されるクラックスケールの実寸値qと説明変数pより回帰分析をおこなう。そして、説明変数pをパラメータとする以下のひび割れ幅の推定式:y=a+bp (a,bは回帰分析で特定された定数、pは説明変数)を求め、推定式のpに対し、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像におけるウェーブレット係数の値とウェーブレット係数の閾値から特定されるpを適用することにより、撮影対象ごとにそれぞれのコンクリート表面のひび割れ幅を特定する。
【0047】
ここで、回帰分析にて特定されるひび割れ幅の推定式は、蓄積されるクラックスケールのデータ量等によって変化する。また、説明変数pは、クラックスケールの細線化画像の全画素数に対応した値からなる。
【0048】
回帰分析の結果、クラックスケールにおけるひび割れ幅、ウェーブレット係数、注目画素の輝度、周辺画素の平均輝度、空間分解能や相関係数から構成されるデータベースを作成することができる。
【0049】
また、前記回帰分析の結果、相関係数が一定の高さ以上のクラックスケールの撮影画像のみを使用して前記ひび割れ幅の推定式を求めてもよい。推定式の精度は、回帰分析にて求められる相関係数に依存するところが大きく、より具体的には、一定の高い相関係数を有するクラックスケールの撮影画像のみを使用して回帰分析をおこない、ひび割れ幅の推定式を特定するのが望ましい。このことにより、クラックスケールを撮影した際のピントの不具合やクラックスケールの貼り方が浮いていることに依拠するぼけた画像を除去することができ、結果として推定式の精度向上に繋がる。
【0050】
【0051】
最後に、推定されたひび割れ幅に基づくひび割れデータ、すなわち、全ひび割れ長さの算定やひび割れ幅ごとのひび割れ長さの算定、ひび割れ幅ごとの分布図の作成、ひび割れ展開図の作成などをおこない、該ひび割れデータから所望の情報を抽出することが可能となる。
【0052】
また、本発明によるひび割れ検出方法の好ましい実施の形態は、前記特徴量テーブルに対し、それぞれの塊と、特徴量テーブルにおける前記グループの重心位置の間の距離をマハラノビスの汎距離で特定し、このマハラノビスの汎距離から塊がそれぞれのグループに属する確率値を特定し、該確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正するものである。
【0053】
判別関数には、超平面・直線による線形判別関数と、超曲面・曲線によるマハラノビス汎距離よる非線形判別関数がある。本実施の形態では、それぞれの塊と特徴量テーブルにおけるグループの重心位置の間の距離をこのマハラノビス汎距離で特定することとし、このマハラノビスの汎距離から塊がそれぞれのグループに属する確率値を特定し、この確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正するものである。
【0054】
このように確率値に基づいてそれぞれの塊の判定結果を修正することにより、各塊に対する予測値を修正して修正予測値とし、この修正予測値に基づくひび割れ画像を作成することができ、ひび割れ検出精度はさらに向上する。
【0055】
そして、この確率値に関しては、確率値の閾値を予め規定しておき、特定された確率値がこの閾値を下回る場合にはどのグループにも属さないものとし、どのグループにも属さない塊に対しては人為的に該塊のグループを特定するようにしてもよい。
【0056】
すなわち、どのグループにも属さないものに関しては、これをさらに何等かのアルゴリズムを適用してコンピュータ処理するよりも、撮影画像と確率値に基づいて観測者(技術者)が判断した方が効率的であり、結果の精度も好ましいものとなるのが理由である。
【発明の効果】
【0057】
以上の説明から理解できるように、本発明のひび割れ検出方法によれば、ガボール関数を適用して微細なノイズを除去しながらひび割れ判別画像を作成するルートと、ラプラシアンガウシアン関数を適用して型枠跡等の面状のノイズに関する非ひび割れ判別画像を作成するルートをそれぞれおこない、それぞれの作成ルートにて作成されたひび割れ判別画像と非ひび割れ判別画像の差分によってひび割れ画像を作成することにより、線状で細い微細なノイズと型枠跡等の面状のノイズの双方がともに効果的に取り除かれた、高精度なひび割れ画像を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】(a)は入力画像と局所領域の関係を示した模式図であり、(b)は局所領域と注目画素の関係を示した模式図である。
図2】本発明のひび割れ検出方法を示したフローである。
図3】擬似画像を示した図である。
図4図3の擬似画像のウェーブレット係数の鳥瞰図である。
図5】ウェーブレット係数テーブルの一実施の形態を示した図である。
図6図2のフローにおけるひび割れ幅の推定値の算定方法の実施の形態のフロー図である。
図7】ひび割れ幅の推定値の算定方法の他の実施の形態のフロー図である。
図8】(a)は撮影画像を示した写真図であり、(b)は方法Aで作成された二値化画像を示した図である。
図9】(a)は方法Aで作成されたひび割れ判別画像を示した図であり、(b)は方法Bで作成された二値化画像を示した図である。
図10】(a)は方法Bで作成された非ひび割れ判別画像(架線検出画像)を示した図であり、(b)は方法Bで作成された非ひび割れ判別画像(黒色しみ跡検出画像)を示した図である。
図11図9aのひび割れ判別画像と、図10a,bの非ひび割れ判別画像の差分に基づいて作成されたひび割れ画像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、図面を参照して本発明のひび割れ検出方法の実施の形態を説明する。図1aは、入力画像と局所領域の関係を示した模式図である。本発明のひび割れ検出方法では、入力画像1における広域領域2でウェーブレット変換をおこない、広域領域2の中心である局所領域3におけるひび割れの検出をおこなうものである。入力画像1内をくまなく広域領域2を上下左右に平行移動して、入力画像1内におけるひび割れの検出をおこなう。この方法により、従来の固定閾値法のように、例えば入力画像1内で一つの閾値を決める方法に比べて、精度のよいひび割れの検出をおこなうことができる。
【0060】
図1bは、局所領域3を拡大した図であり、図示する実施形態では、たとえば3×3の9つの画素(8つの近傍画素31,31,…と、中央に位置する注目画素32)を対象としてひび割れ判定をおこなう。なお、ウェーブレット係数の算定は、図1aにおける広域領域2を対象としておこなわれる。ここで、図2で示すフローにおける、方法Aではウェーブレット関数(マザーウェーブレット関数)としてガボール関数を用いた以下の式でウェーブレット変換をおこなうことでウェーブレット係数を算定する。
【0061】
[数1]
【0062】
[数2]
【0063】
[数3]
【0064】
ここで、f(x、y)は入力画像(ここで、x、yは2次元入力画像中の任意の座標である)を、Ψはマザーウェーブレット関数(ガボール関数)を、(x、y)はΨの平行移動量を、aはΨの拡大や縮小を(ここで、aは周波数の逆数であって、幾つかの周波数領域について計算するための周波数幅を整数kで示した値)、fは中心周波数を、σはガウス関数の標準偏差を、θは波の進行方向を表す回転角を、(x’、y’)は(x、y)を角度θだけ回転させた座標を、それぞれ示している。
【0065】
ここで、数式1を用いて計算した複数のθ、kに対して、ウェーブレット係数Ψの累計値C(x、y)を求めたのが数式4となる。
【0066】
[数4]
【0067】
上記のパラメータは、任意に設定できるが、例えば、σを0.5〜2に、aは0〜5に、fは0.1に、回転角は0〜180度に、それぞれ設定できる。
【0068】
数式4における平行移動量(x、y)は、注目画素の位置に対応するものであり、注目画素の位置を順次移動させることによって、ウェーブレット係数の連続量(C(x、y))が算定でき、この連続量を図示することによってウェーブレット画像が作成できる。
【0069】
一方、図2で示すフローにおける、方法Bではウェーブレット関数(マザーウェーブレット関数)としてラプラシアンガウシアン関数を用いた以下の式でウェーブレット変換をおこなうことでウェーブレット係数を算定する。以下、数式5にラプラシアンガウシアン関数を、数式6にウェーブレット展開係数(二次元ウェーブレット変換基本式)を、数式7に数式6で示すウェーブレット展開係数の絶対値の累計値からなる特徴量を、それぞれ示す。
【0070】
[数5]
【0071】
[数6]
【0072】
[数7]
【0073】
ここで、f(x、y)は入力画像を、(x、y)は(x、y)の平面上の平行移動量を、σはガウス関数の標準偏差を、それぞれ示している。
【0074】
広域領域2を構成する全画素に対して、方法A,方法Bともに、ウェーブレット係数をそれぞれに固有の上算定式に基づいて算定した後、注目画素を一つ左右または上下に移動させてできる広域領域2の全画素において同様にウェーブレット係数を算定する。このウェーブレット係数算定を入力画像全体で実施することにより、適宜の範囲内における構成画素がそれぞれのウェーブレット係数を備えたウェーブレット画像(ウェーブレット係数の連続量からなる画像)を作成することができる。
【0075】
次に、図2に基づいて、ひび割れ検出方法の一実施形態を説明する。
【0076】
まず、CCDカメラ等のデジタルカメラで撮影されたコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに取り込むことにより、入力画像の作成(ステップS10)がおこなわれる。
【0077】
次に、方法A,方法Bともに、入力画像とは何らの関係もない、対比する2つの濃度からなる擬似画像に対して、ウェーブレット係数の算定をおこなう。例えば、図3に示すように、コンクリート表面と仮定される背景色a(例えば、背景色のR、G、Bが、255,255,255とする)と、ひび割れと仮定される線分b1〜b5からなる擬似画像のウェーブレット係数を求める。ここで、線分b1〜b5は、線幅が順に1画素(1ピクセル)〜5画素(5ピクセル)まで変化しており、さらに、各線分は、3種類の濃度を備えている(例えば、線分b1では、濃度の濃い順に、b11(黒色)、b12(薄い黒色)、b13(灰色)と変化している)。この擬似画像に対してウェーブレット変換をおこなうことで算定されるウェーブレット係数の鳥瞰図を示したのが図4である。図4において、X軸は線分の幅を、Y軸は線分の色の濃度を、Z軸はウェーブレット係数をそれぞれ示している。この線幅の設定は、最終的に抽出したいひび割れ幅の最大値によって設定すればよい。なお、画素幅ごとに、ひび割れ領域のウェーブレット係数と、ひび割れ領域以外のウェーブレット係数が算定できる。本実施形態では、コンクリート表面と仮定される任意の濃度(階調)と、ひび割れと仮定される任意の濃度(階調)に対応する閾値(ウェーブレット係数)を算定するにあたり、例えば、ひび割れ幅が1画素幅の場合におけるひび割れ領域のウェーブレット係数と、ひび割れ幅が5画素幅の場合におけるひび割れ領域以外のウェーブレット係数との平均値をもって、設定したひび割れ幅範囲内において対象となる階調に対応した閾値としている。この閾値の設定は、勿論任意でかまわない。
【0078】
対比する2つの濃度の組み合わせをそれぞれ0〜255の256階調でおこなうことで、図5に示すようなウェーブレット係数テーブルの作成(図2のステップS30A,30B)がおこなわれる。なお、この作業は、図示するフロー位置でなくともよく、例えば、入力画像の作成前であってもかまわない。
【0079】
図2に戻り、方法Aでは入力画像をガボール関数を適用してウェーブレット変換することにより、方法Bでは入力画像をラプラシアンガウシアン関数を適用してウェーブレット変換することにより、それぞれウェーブレット画像の作成(ステップS20A,S20B)がおこなわれる。ウェーブレット画像は、上記するように各画素が固有のウェーブレット係数を備えた連続量からなるものであり、各画素のウェーブレット係数を対応するウェーブレット係数テーブルのウェーブレット係数(閾値)と比較することにより、黒い背景色内に白いひび割れが描き出された途中段階の二値化画像(ノイズの一部が除去されていない二値化画像)が作成される。
【0080】
次いで、輪郭線追跡処理の内容を概説する。この輪郭線追跡処理は、各ひび割れ領域における任意のひび割れ画素を起点とし(第1画素)、例えば、この第1画素から反時計回りに隣接する画素に注目し、この隣接画素(第2画素)がひび割れ画素である場合には第1画素と第2画素を接続する。以後、同様に第2画素、第3画素、…、第n−1画素、第n画素とひび割れ画素の追跡をおこない、第n画素の次に起点となる第1画素がくる場合には、第一画素〜第n画素までを一つのひび割れ箇所(ひび割れライン)と判定する。あるいは、第n画素の次に続くひび割れ画素が存在しなくなった時点で、第1画素〜第n画素を一つのひび割れ箇所(ひび割れライン)と判定する。なお、ひび割れラインの中には、その途中で二股以上に分岐するようなひび割れも含まれる。この次数nの設定は任意であり、第1画素からの追跡数がこの設定された次数n以上の場合をひび割れと判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる二値化画像が作成される。
【0081】
以上の方法で二値化画像が作成されたら、この二値化画像に対して画像編集ソフトを使用して、ドット部を除去する方法、所定長さ未満の線分を非クラック部として除去するといった方法を適用してノイズの最終除去をおこなってひび割れ判別画像を作成する(ステップS50A)。
【0082】
方法A、Bでは、二値化画像の作成(ステップS40A、S40B)までの処理フローとは別に、独立して、二値化画像に基づいた特徴量テーブルを作成しておく。
【0083】
具体的には、ひび割れ特定対象のコンクリート表面とは異なるコンクリート表面に対して、図2のステップS40A、S40Bまでを実行して二値化画像を作成する。この二値化画像は、同じウェーブレット関数を有する画素が連結してなる多数の塊(オブジェクト)を内蔵しているが、それぞれの塊の有するいくつかの特徴量を特定してこれを特徴量テーブルとしてテーブル化しておく。ここで、塊の特徴量とは、塊の形状に影響を与える要因のことであり、塊の面積、塊の外接四角形の高さや幅、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸、塊の面積とその外接四角形の面積の比率、塊の外接四角形の幅と高さの比率、塊の外形相当の楕円形の長軸と短軸の比率、塊の真円度((周囲長)2÷(4π×面積)の一般式から算定される塊の真円度)、塊の外周の凹凸度(フラクタル次元)、塊の外周の長さなどから構成される。
【0084】
そして、この特徴量テーブルにはさらに、この任意のコンクリート表面に関する観測結果を入力しておく。具体的には、塊がひび割れである場合は区分「3」、ノイズ種の中でも型枠や傷跡などの場合は区分「2」、ノイズ種の中でもしみ跡や汚れなどの雑音の場合は区分「1」などの数字が規定されており、観測結果であるそれぞれの塊が、ひび割れ、ノイズ種からなるグループのいずれの区分に属するかが割り当てられている(ステップS60)。
【0085】
次に、この特徴量テーブルを参照して、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に対して作成されている二値化画像が内蔵する多数の塊に対し、判別分析をおこなって予測値を求めることとする。より具体的には、それぞれの塊の有する複数の特徴量を説明変数とし、ひび割れもしくはいずれかのノイズ種を目的変数とする判別分析をおこなうものであり、この判別分析によってそれぞれの塊をひび割れもしくはノイズ種のいずれかであると判定し、この判定された結果を予測値とする(ステップS61)。
【0086】
ステップS60で作成されている特徴量テーブルに対して、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に対する二値化画像に内蔵される多数の塊(オブジェクト)の判別分析に基づく予測値が付加されて特徴量テーブルは順次更新されていく。なお、ひび割れ特定対象のコンクリート表面に関する実際のひび割れ観測結果も特徴量テーブルに入力される。
【0087】
判別分析にて各塊の予測値が特定され、コンピュータ内の特徴量テーブルに自動入力されることになるが、この予測値と観測値が一致しないものが残りのノイズである。
【0088】
このノイズを確率値を用いて修正し(ステップS63であり、確率値の計算はステップS62)、予測値を修正して特徴量テーブルを更新し、この内容を二値化画像S40A、S40Bに反映して残りのノイズを除去して二値化画像を作成する(ステップS40A、S40B)。
【0089】
ここで、予測値に対して確率値を適用してその修正をおこなう方法を概説する。不図示の特徴量テーブルにおいては、観測値の区分(たとえば「1」)に対して予測値が判定区分(たとえば「1」〜「3」)になった個数を表しておく。たとえば、観測値の区分「1」が予測値の判定区分「1」となる正判別の個数を測定し、観測値の区分「1」が予測値の判定区分「2」となる誤判別の個数を測定し、観測値の区分「1」が予測値の判定区分「3」となる誤判別の個数を測定する。さらに、それぞれの正判別率と誤判別率を求めておく。
【0090】
判別分析の結果に関する考察として、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「3」を測定し、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「2」を測定し、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」を測定する。ここで、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」または「2」となる原因としては、ひび割れとひび割れまたはしみ跡などの領域同士が結合する場合やひび割れ検出が不十分で不連続となるためであり、ひび割れの一部分の領域のオブジェクトに誤判別率が高くなる傾向がある。また、観測値の区分「1」→予測値の判定区分「1」を測定し、観測値の区分「1」→予測値の判定区分「2」を測定し、観測値の区分「1」→予測値の判定区分「3」を測定する。また、観測値の区分「2」→予測値の判定区分「1」を測定し、観測値の区分「2」→予測値の判定区分「2」を測定し、観測値の区分「2」→予測値の判定区分「3」を測定する。観測値の区分「1」→予測値の判定区分「2」または「3」の誤判別率は極めて希であるが、コンクリート表面の汚れや模様で生じる場合がある。観測値の区分「2」→予測値の判定区分「1」または「3」の誤判別は、コンクリート表面のしみ跡、型枠跡、ひび割れ検出の一部分で生じる場合がある。
【0091】
このような判別結果を受け、確率値を適用して予測値の修正をおこなう。観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」または「2」となる場合は、ひび割れがひび割れでないと誤判別するために改善する必要性がある。そこで、マハラノビスの汎距離により、それぞれの塊(オブジェクト)がどのグループに属するかを判別することとする。なお、この方法では該当するグループにどの程度属しているのかが明確でないため、マハラノビスの汎距離を用いてそれぞれの塊がそれぞれのグループに属する確率を算定することとした。なお、マハラノビスの汎距離に関しては、「多変量解析法(奥野忠一ほか)日科技連」を参照した。
【0092】
マハラノビスの汎距離を用いた確率値の計算に関し、判別分析では判別の方法は新たな塊(オブジェクトχが特徴量データによってグループ化された各グループの重心位置Gとの距離で判定する。判別分析では、オブジェクトχと各グループの重心位置Gとの距離d(χ、G)、h=1,2、・・・gで表し、マハラノビスの汎距離が用いられる。ここで、gはグループの数、pはオブジェクトχの次元を表す。χ={x、x、・・・x}がp次元正規分布N(μ、Σ)に従う時、ある一つのグループに対するその平均ベクトルμと母分散・共分散行列Σは次の式8のように書ける。
【0093】
[数8]
【0094】
[数9]
【0095】
また、p次元正規分布の確率密度は次の式10と書くことができる。
【0096】
[数10]
【0097】
式10をマハラノビスの汎距離Dを用いて書き換えると次の式11と書くことができる。
【0098】
[数11]
【0099】
式9で定義したDは自由度pのχ2分布に従う。Dがある値よりも大きくなる確率はχ2分布を用いて求めることができる。
【0100】
このようにして求めた確率値を用いて特徴量データの誤判別率を検討し、観測値の区分「3」→予測値の判定区分「1」または「2」となる誤判別を低減させるための予測値修正法を以下で説明する。
【0101】
確率値に対して閾値を一定値に規定しておき、あるオブジェクトの各グループに属する確率がそれぞれ閾値以下ならば予測値に対して判別区分「others」を追加してこの判別区分に属することとする。この判別区分「others」に属したオブジェクトは撮影画像と確率値をもとに技術者が判断することとする。
【0102】
予測値修正後の特徴量データに基づく判別分析結果を受けて、予測値の判定区分「1〜3」のどのグループにも属さないオブジェクトに対する取り扱いを検討した。予測値が判定区分「1〜3」のどのグループにも属さない場合、予測値に判定区分「others」を追加し、オブジェクトが判定区分「others」に入った際には確率値から予測値の修正値を計算する。
【0103】
この修正予測値に関し、確率値の高い順を参考にして技術者が最終的な判断を下すこととする。
【0104】
従来法では、図2中のステップS50Aのひび割れ判別画像の作成段階で作成されたひび割れ以外の雑音に対して画像編集ソフトを用いてマニュアル操作でおこなっていたため、この操作は極めて煩雑で手間が掛かることから操作の過程でひび割れの見落としなどの人為的なミスが生じ易かった。これに対し、判別分析をおこない、かつ、確率値を用いてひび割れの予測値を修正しながらひび割れの判定を自動処理することにより得られたステップS50A、S50Bのひび割れ判別画像と非ひび割れ判別画像の差分により得られるひび割れ画像(ステップS70)により、このような人為的なミスが解消される。
【0105】
次に、方法Aで作成されたひび割れ判別画像と方法Bで作成された非ひび割れ判別画像をコンピュータ内で合成し、より具体的にはひび割れ判別画像と非ひび割れ判別画像の差分処理をおこなって差分画像を作成することにより、ひび割れ判別画像中に内包される面状の非ひび割れ判別画像が取り除かれてひび割れ画像が作成される(ステップS70)。
【0106】
このように、図2のフローにおけるステップS70までの処理によれば、ガボール関数を適用して微細なノイズを除去しながらひび割れ判別画像を作成するルート(方法A)と、ラプラシアンガウシアン関数を適用して型枠跡等の面状のノイズに関する非ひび割れ判別画像を作成するルート(方法B)を並行しておこない、それぞれの作成ルートにて作成されたひび割れ判別画像と非ひび割れ判別画像の差分によってひび割れ画像を作成することにより、線状で細い微細なノイズと型枠跡等の面状のノイズの双方がともに効果的に取り除かれた、高精度なひび割れ画像を作成することができる。なお、ここでいう、方法Aと方法Bを「並行しておこなう」とは、2つのルートがあることを意味しているに過ぎず、2つのルートを同時におこなってもよいし、方法Aを実行した後に方法Bを実行してもよく、双方の方法の実行の時間的な制約を課するものではない。
【0107】
ステップS70でひび割れ画像が作成されたら、この作成されたひび割れ画像に対して、それぞれのひび割れの中心線で構成され、たとえばひび割れ全体が1画素幅(1ピクセル幅)を有する細線化画像を作成し、この細線化画像を使用してひび割れ幅の推定値を算定する(ステップS80)。ここで、このひび割れ幅の推定方法を図6に基づいて説明する。
【0108】
ステップS100にてデータベース化されたそれぞれのクラックスケールの撮影画像をコンピュータに入力してそれぞれのクラックスケールの入力画像を作成し、それぞれのクラックスケールの入力画像をウェーブレット変換することによってクラックスケールのウェーブレット画像を作成し(ステップS101)、ウェーブレット画像の各画素のウェーブレット係数を対応するウェーブレット係数テーブルのウェーブレット係数(閾値)と比較することによってクラックスケールの2値化画像を作成する(ステップS102)。そして、これに細線化処理を実行してその中心線で構成される、クラックスケールの細線化画像を作成する(ステップS103)。
【0109】
作成されたクラックスケールの細線化画像において、ひび割れ幅の推定式の説明変数pを、以下の式12で規定する。
【0110】
[数12]
p=(ウェーブレット係数の値)−(ウェーブレット係数の閾値)
【0111】
上記する説明変数pと、クラックスケールの撮影画像から特定されるクラックスケールの実寸値qより、回帰分析をおこなう。
【0112】
回帰分析の結果、説明変数pをパラメータとする以下のひび割れ幅の推定式を得ることができる(ステップS104)。
【0113】
[数13]
y=a+bp
(単位はmm、a、bは回帰分析で特定された定数、pは説明変数)
【0114】
推定式のpに対し、撮影対象のコンクリート表面のひび割れの細線化画像におけるウェーブレット係数の値とウェーブレット係数の閾値から特定されるpを適用することにより、撮影対象ごとにそれぞれのコンクリート表面のひび割れ幅を特定することができる(ステップS104)。
【0115】
図2に戻り、ステップS80によってひび割れ幅の推定をおこなった後に、各ひび割れの分布状態、ひび割れ幅ごとのひび割れ数量などに関するテーブルや図面(ひび割れ展開図など)をデータとして作成する(ステップS90)。
【0116】
なお、図6では、クラックスケールのデータベースからひび割れ幅の推定式の特定までのフローと撮影対象のコンクリート表面の細線化画像の作成までが並行したフロー図となっているが、本発明のひび割れ検出方法は、このフロー図に限定されるものではなく、たとえばステップS100〜ステップS104を先行しておこない、ひび割れ幅の推定式を予め特定しておき、その次に、撮影対象のコンクリート表面における細線化画像の作成をおこなうフローであってもよい。
【0117】
ここで、回帰分析の結果、相関係数が比較的高いクラックスケール画像のみを用いて回帰分析をおこない、ひび割れ幅の推定式を特定するのが望ましい。
【0118】
たとえば、相関係数0.85以上のクラックスケール画像を用いて回帰分析をおこない、特定されたひび割れ幅の推定式(たとえばy=0.029+0.000736p)は極めて高い精度でひび割れ幅を特定することができる。
【0119】
図7は、ひび割れ幅の推定方法に関する他の実施の形態を説明した図である。
【0120】
撮影画像から求められたpは、撮影画像の品質によってばらつきが生じ易い。そこで、撮影画像の品質を一定の基準に基準化するために、以下の式で示される前記基準化されたpを求める。
【0121】
[数14]
【0122】
【0123】
[数15]
【0124】
【0125】
[実施例]
本発明者等は本発明のひび割れ検出方法を実際におこなった。図8aは撮影画像を示した写真図であり、図8bは方法Aで作成された二値化画像を示した図である。また、図9aは方法Aで作成されたひび割れ判別画像を示した図であり、図9bは方法Bで作成された二値化画像を示した図である。また、図10aは方法Bで作成された非ひび割れ判別画像(架線検出画像)を示した図であり、図10bは方法Bで作成された非ひび割れ判別画像(黒色しみ跡検出画像)を示した図である。さらに、図11は、図9aのひび割れ判別画像と、図10a,bの非ひび割れ判別画像の差分に基づいて作成されたひび割れ画像を示した図である。
【0126】
本発明者等の検証によれば、図9aで示すひび割れ判別画像に関し、実際のひび割れとコンクリート表面の汚れなどの雑音との判別率は92%以上と高く、実際のひび割れと型枠跡の判別率は70%程度と高くないことから雑音除去のみをおこなった。
【0127】
そこで、撮影画像にラプラシアンガウシアン関数を適用して得られる図9bの二値化画像の各オブジェクトに対し、判別分析をおこなって図10aで示す架線検出画像、図10bで示す黒色しみ跡検出画像、型枠跡検出画像などを得た後、図9aのひび割れ判別画像と、図10a,bの非ひび割れ判別画像の差分に基づいて、図11で示すひび割れ画像を自動処理にて作成した。このひび割れ画像によれば、型枠跡等が効果的に除去された高精度のひび割れ画像となっている。
【0128】
以上、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0129】
1…入力画像、2…広域領域、3…局所領域、31…近傍画素、32…注目画素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11