(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099480
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】多層油性菓子
(51)【国際特許分類】
A23G 1/00 20060101AFI20170313BHJP
A23G 1/30 20060101ALI20170313BHJP
A23G 1/02 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
A23G1/00
A23G1/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-112223(P2013-112223)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-230503(P2014-230503A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 秀人
(72)【発明者】
【氏名】五味 やよい
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−153044(JP,A)
【文献】
特開平08−242768(JP,A)
【文献】
特開2007−330203(JP,A)
【文献】
特開2006−006247(JP,A)
【文献】
特表2010−524491(JP,A)
【文献】
特表2004−533844(JP,A)
【文献】
特開2006−180786(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0217429(US,A1)
【文献】
特開平04−346755(JP,A)
【文献】
特開平04−234948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる油性菓子原料から構成される2種の油性層を交互に積層した多層積層構造を有する多層油性菓子であって、前記多層積層構造は4層以上の油性層を積層してなり、多層積層構造の各油性層の厚さは0.02mm〜0.5mmの範囲内であり、2種の油性層の少なくとも1つの層をエアレーションさせて比重差をつけており、各油性層がチョコレート生地層であり、2種の油性層の充填量の質量比が1:0.5〜2であり、2種の油性菓子原料もしくは油性層の比重差が0.1〜0.4である、多層油性菓子。
【請求項2】
チョコレート生地層を構成する異なる油性菓子原料が、ビターチョコレート、ブラックチョコレート、ミルクチョコレート、チョコレートクリーム、ホワイトチョコレート、カラーチョコレート、生チョコレートからなる群から選択される、比重と色が異なるものである、請求項1に記載の多層油性菓子。
【請求項3】
前記油性層がチョコレート生地層とエアレーションされたホワイトチョコレート生地層の2種の層から構成される、請求項1又は2に記載の多層油性菓子。
【請求項4】
油性層の数が4〜100層、好ましくは5〜80層、より好ましくは7〜60層、特に10〜50層である、請求項1、2又は3に記載の多層油性菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種の油性菓子原料層(油性層)が層状に重なった多層油性菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
2種のチョコレートを組み合わせたチョコレート製品が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1〜4は、2色又はそれ以上のチョコレートを用いた模様付チョコレートを開示する。
【0004】
これらの模様付チョコレートは、2色のチョコレートが各々肉厚であって、各チョコレートの食感が明確に区別できるか、或いは2色のチョコレートがマーブル状に混ざり合っていて、各チョコレートの食感を明確に認識できないかのいずれかであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−235453号公報
【特許文献2】特開平9−23818号公報
【特許文献3】特許第4348136号
【特許文献4】特許第3117970号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、2種の油性菓子原料を組み合わせて新たな食感の多層油性菓子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、比重の異なる2種類の油性菓子原料の油性層を積層することで、今までにない食感と風味を有する嗜好性の高い多層油性菓子が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、以下の多層油性菓子を提供するものである。
項1. 異なる油性菓子原料から構成される2種又は3種の油性層を交互に積層した多層積層構造を有する多層油性菓子であって、前記多層積層構造は4層以上の油性層を積層してなり、多層積層構造の各油性層の厚さは0.02mm〜0.5mmの範囲内であり、2種又は3種の油性層の少なくとも1つの層をエアレーションさせて比重差をつけている、多層油性菓子。
項2. 前記各油性層がチョコレート生地層である、項1に記載の多層油性菓子。
項3. 前記油性層がチョコレート生地層とエアレーションされたホワイトチョコレート生地層の2種の層から構成される、項1又は2に記載の多層油性菓子。
項4. 前記油性層が2種の層から構成され、2種の油性層の充填量の質量比が1:0.5〜2である、項1〜3のいずれかに記載の多層油性菓子。
項5. 前記油性層が2種の層から構成され、2種の油性菓子原料もしくは油性層の比重差が0.1〜0.4である、項1〜4のいずれかに記載の多層油性菓子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層油性菓子は、各層の厚さが0.5mm以下の薄層を4層以上連続して積層した構造を有し、2種又は3種の油性菓子原料の比重が0.1以上異なるため、各層の口溶けの違いにより比重が高くてスナップ性のある比較的固い層と、比重が低くてとろけて無くなる軟らかい層が口中で次々に現れることで、新しい食感を楽しむことができる嗜好性の高い製品である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】比較例1と実施例1の多層油性菓子の断面図である
【
図2】実施例1(1:1),実施例1−1(2:1)及び比較例3(1:3)の多層油性菓子の断面図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用する油性菓子原料は、菓子原料として使用できる油脂を含む任意の油脂加工品をいう。例えば、植物性油脂、ショートニング、ココアバター等の油脂中にカカオマス、ココアパウダー、糖類、乳製品などを分散させたものである。好ましくはチョコレートを含む油性菓子原料であり、より好ましくはチョコレート生地である。
【0012】
チョコレート生地は、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定める「チョコレート生地」或いは「準チョコレート生地」はもちろんのこと、カカオマス、ココアバター、ココアバター代用脂(テンパー型およびノーテンパー型)、ココアバター分別脂等の油脂に、糖類、糖アルコール、オリゴ糖類、多糖類、乳製品、粉末卵、穀粉、ココアパウダー、乾燥果実、ナッツ、パフ、乳化剤、香料等を分散させた油脂加工品から構成される生地を包含する。
【0013】
乳製品には、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、加糖粉乳、練乳パウダー、発酵乳パウダー、チーズパウダー等の粉乳や牛乳、クリーム、バター、チーズ、濃縮乳、加糖練乳などがあり、チョコレート生地に配合してもしなくてもよい。
【0014】
油性菓子原料としては、ビターチョコレート、ブラックチョコレート、ミルクチョコレート、チョコレートクリーム、ホワイトチョコレート、カラーチョコレート、生チョコレートなどのチョコレート生地が好ましく例示される。
【0015】
ホワイトチョコレート生地とは、上記のチョコレート生地のうち、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定めるカカオ原料が、「ココアバター」だけでできたものをいう。イチゴ味や抹茶味のチョコレートは「ホワイトチョコレート」に含まれる。
【0016】
本発明の多層油性菓子は、異なる油性菓子原料を含む2種類又は3種類の油性層を交互に積層する。2種類の油性層の交互積層はダブルデポジッター(2色同時充填機)で製造可能であり、3種類の油性層の交互積層はトリプルデポジッター(3色同時充填機)で製造可能である。油性層が3種であるとき、3種の油性層がすべて交互に充填された積層構造であってもよく、2種の油性層が交互に充填され、その間に不規則に3番目の油性層が挿入された積層構造であってもよい。例えば2層の油性層から構成される積層構造の場合、2層の比重差が0.1以上であるのが好ましく、3層の油性層から構成される積層構造の場合、任意の2層の比重差が0.1以上であれば残りの1つの油性層はいずれかの油性層と比重が0.1未満であってもよい。
【0017】
積層される各油性層の厚さは、0.5mm以下、例えば0.01〜0.5mm、好ましくは0.02〜0.5mmである。本発明の多層積層構造は、2種類又は3種類の油性層を交互に積層した多層積層構造を有し、この多層積層構造は、4層以上、好ましくは5層以上の層を積層した構造である。多層積層構造を構成する油性層の数は、例えば4〜100層程度、好ましくは5〜80層程度、より好ましくは7〜60層程度、特に10〜50層程度である。
【0018】
本発明の多層油性菓子は、上記多層積層構造の片側或いは両側に0.5mm以上の層がさらに積層されていてもよい。多層積層構造は多層油性菓子の体積で30%以上を占めていれば多層積層構造に基づく新食感を有し得、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上、最も好ましくは55%以上である。多層積層構造の占める割合は、例えば多層油性菓子の断面を写真撮影し(好ましくは顕微鏡写真)、多層積層構造の占める割合を評価すればよい。多層積層構造は2以上であってもよく、例えば0.5mm以上の層厚の油性層を介在して2以上の多層積層構造が積層されていてもよい。多層積層構造以外の部分は、層厚が0.5mm以上の層で構成され、2種類の油性菓子原料のいずれかから構成される層であってもよく、2種類の油性菓子原料以外の原料から構成される層であってもよい。例えば、本発明の多層積層構造はシェルチョコレートのセンター生地として使用することができ、油性菓子原料とは異なる菓子原料で覆われた、あるいは異なる菓子原料の層と積層した菓子類も本発明の多層油性菓子に包含される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態の多層構造は、2種類の油性層が交互に積層された構造であり、同じ層を2層以上積層した場合には1つの層とみなすものとする。従って、同じ層を2層以上積層し、層厚が0.02mm〜0.5mmであれば、本発明の積層構造を構成する1つの層とみなす。
【0020】
各層を構成する2種類の油性菓子原料(及び結果としての2種類の油性層)は、比重が0.1以上異なることが好ましく、好ましくは2種類の油性菓子原料(及び結果としての油性層)の比重差は、0.1〜0.4程度である。比重差は、原料の成分構成に由来してもよく、一方又は両方の油性菓子原料をエアレーションし、それにより比重差を調整してもよい。比重差があると、2つの層の境界における油性菓子原料の混合が抑制される。
【0021】
本発明におけるエアレーションは、連続エアレーション機で発泡させる方法及び加圧した気体を封入した油性層を充填し、振動させて発泡させる方法等油性層中に気泡を固定する方法をいう。
【0022】
2種類の油性菓子原料を用いる実施形態において、本発明で使用する2種の油性菓子原料の使用量は、一方を1質量部としたときに他方は、好ましくは1/2.2〜2.2質量部、より好ましくは1/2〜2質量部、さらに好ましくは1/1.5〜1.5質量部、特に好ましくは1質量部(すなわち質量比が1:1)である。2種の油性菓子原料の質量での使用量の比が1に近いほど、新食感を強く感じることができる。
【0023】
3種類の油性菓子原料を用いる場合、例えば比重の近い(比重差が0.1未満)の油性層Aと油性層B層ならびにエアレーションした油性層Cを積層する場合、層Aと層Bは1つの油性層とみなして油性菓子原料の使用量が上記の範囲に入るように各油性菓子原料の使用量を決定することができる。また、比重差は層Aと層Bの比重の平均値と層Cの比重で計算すればよい。エアレーションの程度を変えるか、あるいは原料の比重を調整することにより、任意の2つの油性層の比重差がすべて0.1以上である3種の油性層が積層される場合、任意の2種の油性菓子原料の使用量と比重差が上記の範囲になるように調整するのが好ましい。
【0024】
2種類の油性菓子原料は、例えば比重差を満たしていれば同じ原料から構成されてもよいが、例えばミルクチョコレート、ビターチョコレートまたはブラックチョコレートとホワイトチョコレートあるいはカラーチョコレート(イチゴ、パッション、マンゴー、ラズベリー、抹茶、メープル、紅茶などが配合された褐色以外の色のチョコレート)の組み合わせのように比重と色が異なるチョコレートであることが好ましい。好ましい組み合わせは、チョコレートとエアレーションされたホワイトチョコレートである。
【0025】
多層油性菓子の全体の厚さは3〜25mm程度である。
【0026】
油性菓子原料の粘度は、BH型粘度計(ローターNo.5、10rpm)で測定して60〜350ポイズ/40℃程度、好ましくは100〜250ポイズ/40℃程度である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これら例示に限定されるものではない。単位は特に記載がない場合は、質量を基準とする。
【0028】
実施例1〜3及び比較例1〜2
常法により製造したホワイトチョコレート(粘度150ポイズ/40℃、比重1.17)を第1油性菓子原料とし、ミルクチョコレート(粘度130ポイズ/40℃、比重1.22)を第2油性菓子原料とし、それぞれ定法に従って調製した。まず第1油性菓子原料をテンパリング操作して、連続エアレーション機(モンドミックス:ミキシングヘッド回転数 60rpm ヘッド圧 2.5bar或いは2.8bar;希望比重 0.80或いは0.63)でエアレーションを行ない比重を0.83、或いは0.66にした。さらに、別途ホワイトチョコレートをケーキミキサー(カントーミキサー:羽根形状 ホイッハ゜ー 回転数 187rpm 攪拌時間 2min或いは5min)でエアレーションを行ない比重を1.14或いは1.11とした。ここでの比重は、200mlの計量カップを用いて油性菓子原料を注ぎ入れ、擦切って満たしたときの重量を測定し、200で除した値とした。次いで、第2油性菓子原料をテンパリング操作し、径2mmの穴が4つある内ノズルと径9mm、長さ35mmの外ノズルのダブルノズルを使用し、ノズルとモールドとの距離が15mmとなる高さから第1油性菓子原料が50部、第2油性菓子原料が50部の割合になるように調整して、両原料をモールド上に同時に吐出した。その後、振動を与え表面積を1.5倍になるように拡げて、15℃のクーリングトンネルで30分間冷却固化した。冷却固化後に板状になった油性菓子の中央を押さえて半分に割り、マイクロスコープVHX-1000を用いて、2000倍(Z20倍×100倍)に拡大して観察した。その結果、その断面は、2つの生地の境界がくっきりと鮮明で、全断面厚の55%の部分において0.028mm〜0.485mmの油性層が30層重ねあった状態であった。この油性菓子を食すると、スナップ性を有するミルクチョコレートのパリッとした食感と、噛むととろける軟らかいエアレーションしたホワイトチョコレートの食感が口中で次々と発現する好ましい食感を持ち、さらに、2つのチョコレート風味が程よく混ざり合った非常に嗜好性の高いものであった。
【0029】
結果を表1及び
図1に示す。
【0030】
表1中の2つの生地の境界の状態と2つの生地の食感差の○、△、×の評価基準は、表1中に記載した。
【0031】
生地比重の影響
【表1】
【0032】
比重差が0.10未満の場合、比較例1の写真のように2000倍に拡大しても2つの生地の判別がつかない部分が生じ、一体化したように見える。0.5mm以上の厚さの層が生じる。このような層が生じるため、油性層多積層の部分が断面厚に対して50%以下となってしまう。
【0033】
実施例4〜6及び比較例3〜4:2つの生地の充填比率の影響
実施例1で用いたホワイトチョコレート(比重1.11)とミルクチョコレート(比重1.22)を用い、2つの生地の充填量比を表2に記載のようにして実施例1と同様にして多層油性菓子を製造した。結果を表2及び
図2に示す。表2中、断面の状態及び食感の○、△、×の評価基準を以下に示す。
【0034】
断面の状態及び食感の基準
○:交互の層になっている。食感の差を感じる。
△:交互の層に一部混ざりがある。食感の差をあまり感じない。
×:交互の層に一体化が起こっている。食感が同質化している。
【0035】
【表2】