(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の撹拌用スプレーノズルは前記撹拌部の前記流路の内面に周方向に並んで配置されており、前記流路の中心方向に向けられている、請求項1に記載の乾式冷却装置。
前記撹拌用スプレーノズル及び前記冷却用スプレーノズルから噴射する単位時間当たりの水量の合計量Wと、前記撹拌用スプレーノズルから噴射する単位時間当たりの水量wAとの比(wA/W)は式(3)で表される条件を満たす、請求項6に記載の排ガス冷却方法。
0.1≦wA/W≦0.2 …(3)
前記溶融金属精錬炉と前記乾式冷却装置とを接続する前記ダクトは、前記溶融金属精錬炉の炉口付近から上方に延びる部分と、前記乾式冷却装置の前記撹拌部に接続するために排ガスの流れを上向きから下向きに変える湾曲部とを有し、
前記複数の撹拌用スプレーノズルのうち前記湾曲部の外周側に相当する位置のノズルから噴射する水量を、前記湾曲部の内周側に相当する位置のノズルから噴射する水量よりも多くする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の排ガス冷却方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の
図1によると、冷却塔3の底部3cに貯留水4が収容されており、排出装置13によって粗いダストが排出される。他方、胴部3bに設けられたガス排出管9から冷却されたガスが外に排出される。ガスと共にガス排出管9から排出される細かいダストを取り除くため、冷却塔3の下流側にフィルターを配置した場合、フィルターが目詰まりして集塵効率が低下する問題が生じやすい。これは、ガス排出管9の基端が胴部3b内において貯留水4が収容された底部3cの直上であり且つ下方に向けて開口しており、湿潤ダスト及び水滴がガスと共にガス排出管9に流入し、これらが下流のフィルターに付着しやすいためである。
【0007】
また特許文献1に記載の発明は、鋭角に折れ曲がる流路を有するダクト5を採用したことでダクトに整流機能を持たせるとともに冷却水の使用によって装置の小スペース化及び小型化を図っている。しかし、ダクト5内において排ガスの流れ方向が急激に変わるため、排ガスの圧力損失が大きくなりやすく、またダクト5内面へのダストの衝突によって摩耗が生じやすい。
【0008】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、コンパクトなサイズでありながら、排ガスの偏流に起因する湿潤ダストの発生を十分に抑制できる乾式冷却装置及びこれを用いた排ガス冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の乾式冷却装置は、溶融金属精錬炉からの排ガスを冷却するためのものであり、排ガスを移送するダクトに接続されており上方から下方に向かって延びる相当直径dの流路を有する撹拌部と、撹拌部との接合部から下方に向かうに従って流路断面が拡大するテーパ部と当該テーパ部との接合部から下方に延びる相当直径Dの直胴部とを有する冷却装置本体と、撹拌部の流路内であって撹拌部とテーパ部との接合部よりも上方に距離L離れた位置に設けられており、排ガスに向けて水を噴射する複数の撹拌用スプレーノズルと、直胴部内のテーパ部との接合部近傍に設けられており、冷却装置本体内の排ガスに向けて水を噴射する複数の冷却用スプレーノズルと、冷却装置本体の下部に設けられた排気口とを備え、撹拌部の相当直径d(単位:m)、直胴部の相当直径D(単位:m)及び距離L(単位:m)が式(1)及び式(2)で表される条件を満たす。
0.58≦d/D<1.0 …(1)
0.44≦L/D<1.5 …(2)
【0010】
ここでいう「相当直径」は下記式で定義される長さ(単位:m)を意味し、式中、Sは流路断面積(m
2)を示し、Lは当該流路断面の縁の全長(m)を示す。なお、撹拌部の流路の断面形状、及び、直胴部の断面形状は正円に限定されるものではない。
相当直径=4×S/L
【0011】
上記乾式冷却装置によれば、撹拌部の流路の相当直径dが直胴部の相当直径Dよりも小さく(式(1))、このような比較的狭い空間である撹拌部内を流れる排ガスに向けて撹拌用スプレーノズルから水を噴射可能である。排ガスの冷却に水の気化熱を利用するため、装置をコンパクトなサイズにすることができる。
【0012】
本発明者らは、本発明によって排ガスの偏流を解消できるメカニズムについて以下のとおり推察する。まず、高温の排ガスに撹拌用スプレーノズルから水を噴射すると撹拌部の流路内で液滴が気化して膨張する。比較的狭い撹拌部の流路内で発生した水蒸気は、排ガスの流れを乱す役割を果たす。この状態で流路を所定の距離にわたって流れることで(式(2))、排ガスの偏流が十分に解消されると推察される。
【0013】
偏流が十分に解消された排ガスは、テーパ部を通過後、より広い空間である直胴部に流れ込む。直胴部において冷却用スプレーノズルから噴射する水によって所望の温度にまで排ガスを冷却することができる。直胴部に流入する排ガスは偏流が十分に解消されている。このため、冷却用スプレーノズルから噴射された水を十分に揮発させることができる。これに対し、仮に排ガスの偏流が十分に解消されていない状態で直胴部で水を噴射すると、理論上は噴射した水全量を気化可能な温度及び圧力条件であっても、例えば、排ガスの流速が高い領域は排ガス温度が高く、排ガスの速度が低い領域は排ガス温度が低いという状態が生じる。この場合、排ガス温度が低い領域では水が気化しなかったり水蒸気が凝縮して水滴が発生する。
【0014】
上記複数の撹拌用スプレーノズルは撹拌部の流路の内面に周方向に並んで配置されており、流路の中心方向に向けられていることが好ましい。これにより、撹拌部の流路内を流れる排ガスに、複数の方向から水を噴射することができ、より確実に排ガスの偏流を解消できる。
【0015】
上記撹拌用スプレーノズル及び上記冷却用スプレーノズルは、単位時間当たりに噴射する水量を変更可能であることが好ましい。これにより、排ガスの流量又は温度等の条件に応じて、適切な水量を噴射することができる。
【0016】
上記撹拌用スプレーノズル及び上記冷却用スプレーノズルとしては、水のみが噴射される一流体スプレーノズルを用いることができる。水を噴射するために圧縮空気等の気体を用いずに水のみを噴射することで、水の噴射に伴って冷却装置内のガス量(水蒸気を除く)が増大することはなく、冷却装置をよりコンパクトにすることが可能である。
【0017】
また、本発明は、上記乾式冷却装置を用いて溶融金属精錬炉からの排ガスを冷却する方法を提供する。この冷却方法では、撹拌用スプレーノズルから水を噴射することによって排ガスを撹拌するとともに、冷却用スプレーノズルから水を噴射することによって冷却装置本体内の排ガスを乾式冷却する。
【0018】
上記冷却方法によれば、排ガスの偏流を十分に解消した状態で、排ガスを更に冷却するため、排ガスの偏流に起因する湿潤ダストの発生を十分に抑制することができる。
【0019】
上記排ガス冷却方法においては、撹拌用スプレーノズル及び冷却用スプレーノズルから噴射する単位時間当たりの水量の合計量Wと、撹拌用スプレーノズルから噴射する単位時間当たりの水量w
Aとの比(w
A/W)は、式(3)で表される条件を満たすことが好ましい。撹拌用スプレーノズルから噴射する水量をこの範囲内に設定することにより、撹拌部において排ガスの偏流を十分に解消できるとともに、噴射されたミスト同士が衝突又は接触することによって液滴が成長し、これに伴って液滴の蒸発が阻害される現象を十分に防止できる。
0.1≦w
A/W≦0.2 …(3)
【0020】
上記排ガス冷却方法は、直胴部の下端断面における温度分布をシミュレーションによって解析し、当該下端断面の位置において水滴が残らない温度の標準偏差の上限値σ
MAXを求める工程と、排ガスの温度又は流量の変動に伴って撹拌用スプレーノズル及び冷却用スプレーノズルから噴射する水量を変更する際、変更予定の条件で直胴部の下端断面における温度分布をシミュレーションによって解析して当該下端断面の位置における温度の標準偏差の値σを求める工程と、下記式(4)で定義される偏流度が1以下となるように、撹拌用スプレーノズル及び冷却用スプレーノズルから噴射する水量を設定する工程とを更に備えてもよい。
偏流度=σ/σ
MAX …(4)
【0021】
偏流度が1となる運転条件をシミュレーションによって選出し、設定した条件で冷却を行うことによって、湿潤ダスト発生の有無の調査等をその都度行わなくても、湿潤ダストの発生を抑制した排ガスの冷却を安定的に行うことができる。
【0022】
溶融金属精錬炉と乾式冷却装置とを接続するダクトが溶融金属精錬炉の炉口付近から上方に延びる部分と、乾式冷却装置の撹拌部に接続するために排ガスの流れを上向きから下向きに変える湾曲部とを有する場合、複数の撹拌用スプレーノズルのうち湾曲部の外周側に相当する位置のノズルから噴射する水量を、湾曲部の内周側に相当する位置のノズルから噴射する水量よりも多くすることが好ましい。
【0023】
曲管のダクトを経由して冷却装置内に流れ込む排ガスのうち、湾曲部のアウトコース側を通過したガスは流速が高く、インコース側を通過したガスは流速が低いという偏った流れとなっている。このため、アウトコース側のガスはインコース側のガスよりも高い温度のまま冷却装置に導入されやすい。偏流に伴う温度不均一の状態をより確実に解消するには、撹拌用スプレーノズルから噴射される水の量を上記のように設定すればよい。すなわち、撹拌部内のより高温である側に多くの水を噴射し、より低温である側に噴射する水量を減らすことで、冷却装置内における湿潤ダスト及び水滴の発生をより確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コンパクトなサイズでありながら、排ガスの偏流に起因する湿潤ダストの発生を十分に抑制することのできる乾式冷却装置及びこれを用いた排ガス冷却方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
<乾式冷却装置>
図1は、本発明に係る乾式冷却装置の一実施形態を模式的に示す正面図である。同図に示す乾式冷却装置50は、転炉(溶融金属精錬炉)20から排出される高温の排ガスを冷却するためのものであり、ダクト30を介して転炉20に係合されている。ダクト30は、転炉20の炉口付近から上方に延びる部分30aと、乾式冷却装置50の撹拌部1に接続するために排ガスの流れを上向きから下向きに変える湾曲部30bを有する。乾式冷却装置50は、撹拌部1と、テーパ部3と、直胴部5とを備え、これらの構成が鉛直方向の上方から下方に向けて並ぶように配置されている。テーパ部3と直胴部5とによって冷却装置本体が構成されている。以下、各構成について説明する。
【0028】
(撹拌部)
撹拌部1は、転炉20からの高温の排ガスに水を噴射することによって排ガスを冷却するとともに、排ガスを撹拌して排ガスの偏流を解消するためのものである。撹拌部1は、その上端1aがダクト30に接合されており、下端1bがテーパ部3に接合されている。
図2に示すように、撹拌部1の内部には上方から下方に鉛直方向に延びる排ガス用流路1cが設けられている。流路1c内には複数の撹拌用スプレーノズル2が設けられている。
【0029】
複数の撹拌用スプレーノズル2は、撹拌部1の流路1c内の排ガスに向けて水を噴射するためのものである。
図3は、撹拌部1の内部構造を模式的に示す横断面図である。6本の撹拌用スプレーノズル2は、流路1c内面の周方向に等間隔に並んで配置されている。各撹拌用スプレーノズル2は、流路1cの中心方向に向けられている。液滴の残留を抑制するため、撹拌用スプレーノズル2としては放射状に水を噴射できるタイプのものを採用することが好ましい。
【0030】
本実施形態においては、6本の撹拌用スプレーノズル2が等間隔に配置されているが任意の間隔で設けてもよい。また、後述の距離Lの条件を満たす範囲であれば、全ての撹拌用スプレーノズル2が同一平面上に存在していなくてもよく、異なる高さに設けられていてもよい。また、排ガスの偏流を解消できる限り、撹拌用スプレーノズル2の本数に制限はなく、2本以上であればよい。
【0031】
撹拌用スプレーノズル2としては、水のみを噴射する一流体スプレーノズル、水を圧縮気体(例えば、圧縮空気)によって噴射する二流体スプレーノズル及びこれらを組み合わせて使用できる。これらのタイプのノズルのうち、一流体スプレーノズルを採用すれば、水の噴射に伴って乾式冷却装置50内のガス量が増大せず、乾式冷却装置50をよりコンパクトにすることが可能である。また、撹拌用スプレーノズル2としては、単位時間当たりに噴射する水量を調節できるものであることが好ましい。これにより、排ガスの温度又は流量の変化に応じて、適切な水量を噴射することができる。
【0032】
(テーパ部)
テーパ部3は、撹拌部1と直胴部5とを接続するためのものであり、直胴部5とともに冷却装置本体部を構成する。テーパ部3は、撹拌部1と上端が接合し、下端が直胴部5と接合している。テーパ部3は、撹拌部1との接合部3aから下方に向かうに従って断面積が拡大する流路3bを内部に有する(
図2参照)。流路3bの上端断面は撹拌部1の下端断面と一致し、下端断面は直胴部5の上端断面と一致している。
【0033】
(直胴部)
直胴部5は、テーパ部3からの排ガスを冷却するためのものであり、上方から下方に鉛直方向に延びる内壁5aを有する(
図2参照)。直胴部5には収容する排ガスに向けて水を噴射して排ガスを冷却するための複数の冷却用スプレーノズル6が設けられている。複数の冷却用スプレーノズル6は、テーパ部3との接合部近傍に設けられている。なお、直胴部の長さ(テーパ部3との接合部5bから下端断面5cまでの距離)をAとすると、冷却用スプレーノズル6は接合部5bからA/10の距離の範囲に設けることが好ましく、A/20の距離の範囲に設けることが更に好ましい。このような高い位置に冷却用スプレーノズル6を設けることで、直胴部5内において排ガスを十分に冷却でき、また水滴が気化しないまま排気口8から排出されるのを十分に抑制できる。液滴を確実に気化させる観点から、直胴部5における排ガス(気化した水蒸気も含む)の滞留時間は好ましくは3〜15秒であり、より好ましくは5〜10秒である。
【0034】
単位時間あたりに処理すべき排ガス量及び排ガス温度等にもよるが、直胴部5の長さAは10〜20m程度とすればよく、また相当直径Dは4〜11m程度とすればよい。
【0035】
8本の冷却用スプレーノズル6は、直胴部5の内面の周方向に等間隔に並んで配置されている。各冷却用スプレーノズル6は、直胴部5の軸線CL方向に向けられており、液滴の残留を抑制するため、冷却用スプレーノズル6としては放射状に水を噴射できるタイプのものを採用することが好ましい。
【0036】
冷却用スプレーノズル6としては、水のみを噴射する一流体スプレーノズル又は水を圧縮気体(例えば、圧縮空気)によって噴射する二流体スプレーノズルを使用できる。これらのタイプのノズルのうち、一流体スプレーノズルを採用すれば、水の噴射に伴って乾式冷却装置50内のガス量が増大せず、乾式冷却装置50をよりコンパクトにすることが可能である。また、冷却用スプレーノズル6としては、単位時間当たりに噴射する水量を調節できるものであることが好ましい。これにより、排ガスの温度又は流量の変化に応じて、適切な水量を噴射することができる。
【0037】
本実施形態においては、8本の冷却用スプレーノズル6が等間隔に配置されているが任意の間隔で設けてもよい。また、偏流を生じさせることなく、十分に排ガスを冷却できる限り、冷却用スプレーノズル6の本数に制限はなく、2本以上であればよい。
【0038】
直胴部5の下端には下側テーパ部9が設けられている。下側テーパ部9の側面に排気口8が設けられており、冷却された排ガスを排出できるようになっている。なお、下側テーパ部9の下端にはダスト排出装置(不図示)が設けられている。排気口8を出た排ガスは、乾式冷却装置50の下流側に配置された集塵装置(不図示)に送られる。
【0039】
(シミュレーションによる条件設定)
本実施形態において、
図2に示す撹拌部1の相当直径d(単位:m)、直胴部5の相当直径D(単位:m)及び距離L(単位:m)は、式(1)及び式(2)で表される条件を満たす。これらの条件はシミュレーションによる解析によって求められた条件である。なお、距離Lは、撹拌用スプレーノズル2が設けられた位置から撹拌部1とテーパ部3との接合部3aまでの距離を意味する。なお、複数の撹拌用スプレーノズル2が互いに異なる高さに設けられている場合、距離Lは最も低い位置に設けられたスプレーノズル2から接合部3aまでの距離を意味する。
0.58≦d/D<1.0 …(1)
0.44≦L/D<1.5 …(2)
【0040】
図4は、偏流度と、撹拌部1の流路1cの相当直径d(直胴部5の相当直径D基準)との関係を示すグラフであり、式(1)の条件の根拠となるシミュレーション結果をプロットしたものである。この条件は、撹拌部1の流路1cが直胴部5よりも細いことを意味する。
図4のグラフに示すように、d/Dの値が上記範囲であると、直胴部5の下端断面5cにおける偏流度を1以下とすることができる。なお、偏流度とは後述する方法によって算出される値であり、その値が1以下であるとき、直胴部5の下端断面5c(
図1のA−A断面)において水滴が発生しないことを意味する。
図4のハッチングを付した領域は液滴が発生しない許容領域を示す(
図5,6も同様)。
【0041】
d/Dの値が0.58未満であると、撹拌部1において排ガスの偏流を十分に解消できず、温度分布が不均一な排ガスがテーパ部3及び直胴部5に流入する。その結果、直胴部5内において液滴が完全に蒸発せず、湿潤ダストが発生する。他方、d/Dの値が1を超えると、設備費用が増大する傾向となる。かかる観点から、d/Dの値は、好ましくは0.58〜0.9であり、より好ましくは0.58〜0.8であり、更に好ましくは0.6〜0.7である。
【0042】
図5は、偏流度とL/Dとの関係を示すグラフであり、式(2)の条件の根拠となるシミュレーション結果をプロットしたものである。この条件は、撹拌用スプレーノズル2から水が噴射された後の排ガスが所定の距離にわたって撹拌部1の流路1cを流れることを意味する。
図5のグラフに示すように、L/Dの値が上記範囲であると、直胴部5の下端断面5cにおける偏流度を1以下とすることができる。
【0043】
L/Dの値が0.44未満であると、撹拌部1において排ガスの偏流を十分に解消できず、温度分布が不均一な排ガスがテーパ部3及び直胴部5に流入する。その結果、直胴部5内において液滴が完全に蒸発せず、湿潤ダストが発生する。L/Dの値は、好ましくは0.5〜1.4であり、より好ましくは0.6〜1.4である。なお、L/Dの値が1.5以上であると設備費用が増大する傾向となる。
【0044】
(偏流度の算出方法)
偏流度は、次のようにして求められる値である。
(i)直胴部5の下端断面5cの温度分布をシミュレーションによって解析し、当該断面5cの温度分布及びその標準偏差を求める。変動パラメータの値を変更しながら、複数回の計算を実行し、直胴部5の下端断面5cの位置において水滴が残らない上限の標準偏差の値σ
MAXを求める。なお、この解析を行う際の
固定パラメータは相当直径d,D、距離L及びスプレーノズル2,6からそれぞれ噴射する水量等である。他方、
変動パラメータは、ダクト30からの排ガス温度及び流量、並びに、排気口8から排出する排ガス温度等である。
(ii)特定の条件(例えば、転炉20を実際に運転した際に想定される条件)でシミュレーションソフトによる計算を実施し、直胴部5の下端断面5cの温度分布の標準偏差の値σを求める。この標準偏差σが上記σ
MAX以下である場合、すなわち、上記式(4)の定義により表される偏流度が1以下である場合に、直胴部5の下端断面に水滴は発生しない。
【0045】
図7は、直胴部5の下端断面5cの温度分布を示すシミュレーション結果の一例である。
図7の(a)は偏流度が1以下である場合の温度分布図であり、(b)は偏流度が1を超える場合の温度分布図である。これらのシミュレーション解析は解析ソフトFLUENT6.3(アンシスジャパン株式会社製)を用いて実施したものである。直胴部5の下端断面5cにおける温度の平均値は湿潤ダストの発生を防止する観点から200〜600℃程度であることが好ましい。
【0046】
<排ガス冷却方法>
次に、乾式冷却装置50を用いて転炉20からの排ガスを冷却する方法について説明する。
【0047】
転炉20からの高温の排ガスを、ダクト30を経由して乾式冷却装置50の撹拌部1に導入する。ダクト30の湾曲部30bを通過した排ガスは、流れが湾曲部30bの外周側に偏った状態となっている。転炉20からの排出ガスに対し、ダクト30に導入する前、あるいは、ダクト30で移送中にボイラー等によって熱回収を行ってもよい。撹拌部1に流入する排ガスの温度は、好ましくは500〜1000℃であり、より好ましくは500〜800℃である。この温度が1000℃を超えると、大型の乾式冷却装置50を要する傾向となる。
【0048】
撹拌部1の流路1c内において、排ガスに向けて複数の撹拌用スプレーノズル2から水を噴射する。これにより、排ガスの偏った流れを低減させるとともに、ある程度排ガスを冷却する。複数の撹拌用スプレーノズル2から単位時間あたりに噴射する水量は全て同じであってもよいし、互いに異なるように設定してもよい。排ガスの偏流をより確実に解消するため、噴射する水量を以下のように工夫してもよい。すなわち、湾曲部30bの外周側に相当する位置に設けられている撹拌用スプレーノズル2
Oから噴射する水の量を、内周側に相当する位置に設けられている撹拌用スプレーノズル2
Iから噴射する水の量よりも多くしてもよい。このように、偏流に応じて噴射水量を位置によって調節することで、すなわち、流速が高いために高温のガスが流れやすい領域(
図3中の領域R
O)に多くの水を噴射し、流速が遅いために低温のガスが流れやすい領域(
図3中の領域R
I)については噴射する水の量を減らすことで、偏流に伴う温度差をより確実に解消できる。
【0049】
より具体的には、
図3に示すように、6つの撹拌用スプレーノズル2を採用した場合、各スプレーノズル2の単位時間当たりの噴射量の比率は例えば以下のように設定すればよい。
外周側のスプレーノズル2
Oの噴射量:1.2〜1.8(例えば1.5)
内周側のスプレーノズル2
Iの噴射量:0.3〜0.7(例えば0.5)
その他のスプレーノズル2の噴射量 :1.0
【0050】
撹拌部1の外周側の領域R
Oに配置された複数の撹拌用スプレーノズル2の合計噴射量w
Oと、撹拌部1の内周側の領域R
Iに配置された複数の撹拌用スプレーノズル2の合計噴射量w
Iとの比(w
O/w
I)は好ましくは1〜2であり、より好ましくは1.2〜1.8であり、より好ましくは1.3〜1.7である。なお、領域R
Oと領域R
Iのちょうど境界線上に撹拌用スプレーノズル2が設けられている場合は、当該スプレーノズル2の噴射量を二等分し、領域R
O及び領域R
Iにおける噴射量にそれぞれ加算すればよい。
【0051】
複数の撹拌用スプレーノズル2から噴射される合計水量をw
Aとし、複数の冷却用スプレーノズル6から噴射される単位時間当たりの合計水量をw
Cとし、これらの合計量をW(=w
A+w
C)とすると、w
AとWの比(w
A/W)は式(3)で表される条件を満たすことが好ましい。
0.1≦w
A/W≦0.2 …(3)
図6は、偏流度と撹拌水量率(w
A/W×100)との関係を示すグラフであり、式(3)の条件の根拠となるシミュレーション結果をプロットしたものである。撹拌水量率をこのように設定すると、撹拌部1において排ガスの偏流を十分に解消できる。そして、その後の直胴部5内における冷却処理を経ることで、直胴部5の下端断面5cを通過する排ガスの温度のバラツキを抑制でき、これにより湿潤ダストの発生を十分に抑制できる。
【0052】
w
A/Wの値が0.1未満であると、撹拌部1において排ガスの偏流を十分に解消できず、温度分布が不均一な排ガスがテーパ部3及び直胴部5に流入しやすい。その結果、直胴部5内において液滴が完全に蒸発せず、湿潤ダストが発生しやすい。他方、w
A/Wの値が0.2を超えると、撹拌用スプレーノズル2から噴射されたミスト同士が衝突又は接触することによって液滴が成長し、これに伴ってミストの蒸発が阻害されるおそれがある。w
A/Wの値は、より好ましくは0.12〜0.2であり、更に好ましくは0.15〜0.18である。
【0053】
撹拌部1の流路1c内において偏流が十分に解消された排ガスは、テーパ部3を通過した後、より広い空間である直胴部5に導入される。直胴部5内において、排ガスに向けて冷却用スプレーノズル6から水を噴射することによって、排ガスを冷却する。直胴部5内においては噴射された液滴が排ガス中に十分均一に分散した後、排ガスの熱によって液滴が蒸発する。
【0054】
乾式冷却装置50で所定の温度にまで冷却された排ガスは、排気口8から次工程へと移送される。排気口8を出たガスは、十分に冷却されており、且つ湿潤ダスト及び水滴の発生が十分に抑えられているため、乾式集塵工程に供するのに適している。
【0055】
乾式冷却装置50の運転中において、偏流度を調節するため、撹拌用スプレーノズル2及び冷却用スプレーノズル6から噴射する水量を調節してもよい。乾式冷却装置50に流入する排ガスの温度又は流量の変動に伴って、スプレーノズル2,6の噴水量を変更する場合、直胴部5から排出されるガスに湿潤ダスト又は液滴が発生しないように、以下のように予めシミュレーションによる解析を実施することが好ましい。まず、変更予定の任意の条件での直胴部5の下端断面5cにおける温度分布及びその標準偏差σをシミュレーションによって求める。この値から偏流度を算出し、偏流度が1を超えるか否かを判定する。このようにシミュレーションによる解析を行うことで、偏流度が1以下となるような噴射水量の条件を見つけ出すことができる。
【0056】
上述のとおり、本実施形態によれば、偏流度が1以下となるように、撹拌用スプレーノズル2及び冷却用スプレーノズル6から噴射する水量の適切な条件を選出し、その条件で乾式冷却装置50を運転できる。これにより、運転条件の変更時にも湿潤ダストの発生を抑制でき、集塵装置に悪影響を及ぼすことを十分に防止できる。
【0057】
本実施形態によれば、排ガスの冷却のために水の気化熱を利用するため、乾式冷却装置50を十分にコンパクトなサイズとすることができる。また、撹拌部1において排ガスの偏流を高度に解消でき、すなわち、排ガスの温度ムラが高度に解消された状態で直胴部5での冷却がなされるため、水蒸気の凝縮が生じないギリギリのレベルにまで直胴部5内において排ガスを冷却できる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、転炉からの排ガスを冷却する場合を例示したが、転炉以外の溶融金属精錬炉(例えば、アーク炉、脱リン炉等)からの排ガスの冷却に本発明を適用してもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、排ガスが流れる流路(ダクト30、撹拌部1の流路1c、テーパ部3の流路3b及び直胴部5)の断面がいずれも円形である場合を想定して説明したが、流路の断面形状は矩形、多角形、楕円形又はこれらの組み合わせであってもよい。