特許第6099495号(P6099495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099495難燃剤溶融混練物及びこれを用いたポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099495
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】難燃剤溶融混練物及びこれを用いたポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/02 20060101AFI20170313BHJP
   C08J 9/12 20060101ALI20170313BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20170313BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20170313BHJP
   C08L 61/18 20060101ALI20170313BHJP
   C08K 5/523 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C08L15/02
   C08J9/12
   C08J3/22
   C08L25/04
   C08L61/18
   C08K5/523
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-131128(P2013-131128)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-4019(P2015-4019A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 達之
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 良
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−516019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 15/02
C08J 3/22
C08J 9/12
C08K 5/523
C08L 25/04
C08L 61/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭素化ポリブタジエン系難燃剤、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン及び熱安定剤の溶融混練物であって、
該熱安定剤の配合量が該臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して5〜35重量部であり、該溶融混練物のJIS K7210:1990の条件Hにおけるメルトフローレイトが2〜30g/10分であることを特徴とする難燃剤溶融混練物。
【請求項2】
ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンの配合量が、臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して2〜15重量部であることを特徴とする請求項1に記載の難燃剤溶融混練物。
【請求項3】
熱安定剤が、エポキシ樹脂系熱安定剤、ホスファイト系熱安定剤、フェノール系熱安定剤及びヒンダードアミン系熱安定剤から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃剤溶融混練物。
【請求項4】
前記溶融混練物が、さらに芳香族リン酸エステルを含み、該芳香族リン酸エステルの配合量が、臭素化ブタジエン系共重合体100重量部に対して、0.5〜5重量部であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の難燃剤溶融混練物。
【請求項5】
ポリスチレン系樹脂、請求項1〜4のいずれかに記載の難燃剤溶融混練物及び物理発泡剤を混練してなる発泡性溶融樹脂組成物を押出して発泡体を得ることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な難燃剤溶融混練物及び該難燃剤溶融混練物を難燃剤として用いるポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関し、詳しくは、製造時の熱安定性に優れ、かつ、生産性、製造安定性にも優れた新規な難燃剤溶融混練物、及びこれを難燃剤として用いた難燃性に優れると共にリサイクル性に優れるポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系樹脂材料に気泡調整剤を加え、押出機で加熱混練し、次いで物理発泡剤を該押出機中に圧入し更に混練し、これらの溶融混合物を高圧域から低圧域(通常は大気中)に押し出し、ポリスチレン系樹脂発泡体(以下、押出発泡体又は発泡体ともいう。)を得る方法が知られている。
【0003】
前記押出発泡体を建築用の断熱材として使用するには、例えば、JIS A9511(2006R)記載の押出ポリスチレンフォーム保温板の燃焼性規格を満足することが要求される。そのために、該押出発泡体中には難燃剤が添加されており、該難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン(以下、HBCDという。)が広く使用されてきた。HBCDは、汎用性があり、比較的少量の添加で難燃効果が得られる優れた難燃剤である。
しかし、HBCDに対しては化審法やREACHによる規制の動きがあり、規制対象物質に指定された場合を想定し、HBCD難燃剤を使用しない難燃剤代替押出発泡体製造技術の開発が求められている。
【0004】
一方、前記押出発泡体の製造方法における発泡剤としては、従来、ジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(以下、CFCという。)が広く使用されてきたが、オゾンホール拡大の問題との関連性が疑われているCFCは使用が控えられ、オゾン破壊係数の小さい水素原子含有塩化フッ化炭化水素(以下、HCFCという。)やオゾン破壊係数が0(ゼロ)の水素原子含有フッ化炭化水素(以下、HFCという。)がCFCの代わりに用いられるようになった。また更に、地球温暖化の観点からHCFCやHFCに代わり、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、地球温暖化係数も小さいイソブタンやイソペンタン等の飽和炭化水素が用いられるようになった。
【0005】
しかし、ブタンなどの飽和炭化水素は可燃性であることから、ポリスチレン系樹脂押出発泡体に十分な難燃性を付与するためには、HFC等の不燃性発泡剤を用いて製造する場合よりも多くの難燃剤を添加しなければならなくなった。多量の難燃剤が添加されると、押出発泡の安定性が著しく損なわれたり、得られた発泡板の物性が損なわれたりするという問題が新たに発生した。
【0006】
上記の状況において、HBCD以外の優れた難燃剤を用いたポリスチレン系樹脂押出発泡体の検討がなされてきた。例えば、特許文献1に代表される臭素化ブタジエン−スチレン共重合体などの臭素化ポリブタジエンタイプのものが提案されている。
【0007】
また、この臭素化ポリブタジエン系難燃剤の熱安定性を改善するために、臭素化ブタジエンホモポリマー又は臭素化スチレン/ブタジエンブロックコポリマーにアルキルホスファイト及び/又はエポキシ化合物を含有させた難燃剤を用いる方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−516019号公報
【特許文献2】特開2012−512942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の臭素化ポリブタジエン系難燃剤は、発泡体に優れた難燃性を付与することができるものであるが、押出加工時の熱安定性に劣り、それに起因して発泡体に黒点の発生や変色が生じるといった問題点があった。
【0010】
また、特許文献2においては、上記臭素化ポリブタジエン系難燃剤とアルキルホスファイト及び/又はエポキシ化合物等の熱安定剤とを併用したことから、特許文献1の難燃剤に比べ押出加工時の熱安定性が若干改善される。
【0011】
しかし、特許文献2の難燃剤は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤と熱安定剤であるアルキルホスファイトやエポキシ化合物とのドライブレンドにより調製されているので、継続的に安定した状態で押出発泡体を製造することが難しかった。
また、このドライブレンド法では前記各成分が均一に混合されていないため、添加した熱安定剤の機能が十分に発揮されないため、臭素化ポリブタジエン系難燃剤の熱安定性がそれほど改善されず、加熱により黒点や変色が発生する場合があった。そのため、特許文献2の難燃剤を用いてポリスチレン系樹脂発泡体を製造した場合には、押出時の熱安定性は若干改善されるものの、押出発泡時の黒点の発生や基材樹脂であるポリスチレン系樹脂の分解による分子量の低下や黄変を抑えきることは困難であった。
【0012】
このため、臭素化ポリブタジエン系難燃剤を用いて、黒点の発生や変色がなく、かつ難燃性に優れるポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法の開発研究が強く望まれていたが、未だそのような提案がなされていないのが現状である。
【0013】
本発明は前記従来技術の実状に鑑み、ポリスチレン系樹脂発泡体を製造する際などに、押出発泡時に黒点が発生することを防ぎ、かつ押出時における基材樹脂であるポリスチレン系樹脂の分解による分子量の低下や黄変を抑制でき、押出発泡体に高度な難燃性を付与することができる新規な難燃剤溶融混練物及び該難燃剤溶融混練物を用いたポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法を提供することを、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、以下に示す、難燃剤溶融混練物、及び該難燃剤溶融混練物を難燃剤として用いたポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法が提供される。
<1>臭素化ポリブタジエン系難燃剤、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン及び熱安定剤の溶融混練物であって、該熱安定剤の配合量が該臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して5〜35重量部であり、該溶融混練物のJIS K7210:1990の条件Hにおけるメルトフローレイトが2〜30g/10分であることを特徴とする難燃剤溶融混練物。
<2>ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンの配合量が、臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して2〜15重量部であることを特徴とする<1>に記載の難燃剤溶融混練物。
<3>熱安定剤が、エポキシ樹脂系熱安定剤、ホスファイト系熱安定剤、フェノール系熱安定剤及びヒンダードアミン系熱安定剤から選択される1種以上であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の難燃剤溶融混練物
<4>難燃剤溶融混練物が、さらに芳香族リン酸エステルを含み、該芳香族リン酸エステルの配合量が、臭素化ブタジエン系共重合体100重量部に対して、0.5〜5重量部であることを特徴とする<1>〜<>のいずれかに記載の難燃剤溶融混練物。
>ポリスチレン系樹脂、<1>〜<>のいずれかに記載の難燃剤溶融混練物及び物理発泡剤を混練してなる発泡性溶融樹脂組成物を押出して発泡体を得ることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る新規な難燃剤溶融混練物は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤を含む難燃剤と熱安定剤との溶融混練物であることから、該溶融混練物を難燃剤として押出機に供給して押出発泡体を製造することにより、熱安定剤が臭素化ポリブタジエン系難燃剤に対して効果的に作用して押出加工温度において臭素化ポリブタジエン系難燃剤を安定化させ、黒点の発生や変色を抑制、防止することができ、かつ、燃焼時には臭素化ポリブタジエン系難燃剤が効果的に分解して高度な難燃性を押出発泡体に付与することができる。さらに、この難燃剤溶融混練物は、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを含有することにより、その流動性が向上し、そのメルトフローレートが特定範囲にあることから、溶融混練時に適度な流動性を示し、低い加工温度でも、安定して臭素化ポリブタジエン系難燃剤と熱安定剤とが溶融混練されているので、押出発泡体を製造する過程では、より確実に黒点の発生や変色を抑制、防止することができ、さらに、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンは、臭素化ポリブタジエン系難燃剤の有する優れた難燃性を更に向上させる難燃助剤としても機能することから、本発明に係る難燃剤溶融混練物はさらに高度な難燃性を有するものである。
したがって、本発明の難燃剤溶融混練物を用いると、たとえ臭素化ポリブタジエン系難燃剤の配合量が少量であっても、高度な難燃性及び十分な酸素指数を有する発泡体を得ることができ、しかも基材樹脂であるポリスチレン系樹脂の着色が抑制され、再生原料としても使用可能な、ポリスチレン系樹脂押出発泡体が得られる。
【0016】
また、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法は、上記難燃剤溶融混練物とポリスチレン系樹脂を任意の割合で押出機に供給し、さらに発泡剤と混練して押出発泡させることにより、難燃性に優れ、かつ黒点、黄変に代表される外観の不具合のない良好な発泡体を得ることができる。
また、該難燃剤溶融混練物を用いて製造された押出発泡体や、その端材・スクラップを加熱溶融しリサイクル原料として再利用する際にもリサイクル原料の分子量の低下や黄変が抑制でき、かつ黒点の発生を抑制できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1に係る難燃剤溶融混練物1を原料ポリスチレン系樹脂に配合した樹脂組成物の黒点発生状況の観察写真
図2】比較例3に係る難燃剤溶融混練物7を原料ポリスチレン系樹脂に配合した樹脂組成物の黒点発生状況の観察写真
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の難燃剤溶融混練物について詳細に説明する。
本発明の難燃剤溶融混練物は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン及び熱安定剤の溶融混練物であって、該溶融混練物のJIS K7210:1990の条件Hにおけるメルトフローレイトが2〜30g/10分であることを特徴としている。
【0019】
上記したように、臭素化ポリブタジエン系難燃剤は、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂の難燃剤として用いる場合に、優れた難燃性付与効果を示すものである。しかしながら、溶融加工時の熱安定性に劣るため、溶融加工条件によっては重合体から臭素が遊離しやすく、この臭素の遊離により難燃性付与効果を低下させる恐れや熱可塑性樹脂を分解させる恐れがある。さらに、臭素化ポリブタジエン系難燃剤はポリマーであるため、臭素の遊離によって該重合体中で炭素−炭素不飽和結合が形成されると、該重合体自体又は熱可塑性樹脂が着色される恐れや、不飽和結合の架橋により臭素化ポリブタジエン系難燃剤のゲル化や黒点の発生の原因となり得るといった種々の問題点があった。
【0020】
一般に、溶融加工時に臭素の遊離を抑制するためには、熱安定剤を配合する方法が考えられるが、単にドライブレンド法により熱安定剤を臭素化ポリブタジエン系難燃剤に配合しただけでは、変色や黒点の発生を十分に抑制することができなかった。
【0021】
本発明者等は、かかる問題点を解消するために、まず、押出発泡体の製造時に、臭素化ポリブタジエン系難燃剤と熱安定剤をドライブレンド法ではなく、臭素化ポリブタジエン系難燃剤に熱安定剤を配合し、これらを溶融混練して難燃剤溶融混練物として、押出発泡体の基材樹脂に配合することを試みた。具体的には、臭素化ポリブタジエン系難燃剤が黒点化せず、かつ著しく変色しない加工温度条件で臭素化ポリブタジエン系難燃剤と熱安定剤とを溶融混練して難燃剤溶融混練物を難燃剤として用いて、ポリスチレン系樹脂を基材樹脂とする押出発泡体を製造したところ、効果的に黒点の発生や押出発泡体の変色を抑制できることが判明した。
【0022】
一方、黒点の発生及び変色をより効果的に抑制するという観点からは、臭素化ポリブタジエン系難燃剤と熱安定剤との溶融加工温度は、押出可能な温度範囲においてより低い温度とすることが好ましいが、低温で、具体的には押出時の樹脂温度が190℃以下となるように溶融混練を試みたところ、難燃剤溶融混練物を得ることは可能であったが、臭素化ポリブタジエン系難燃剤の流動性が著しく悪く、混練物の吐出量を上げると押出機の負荷が高まり、さらには混練物の樹脂温度が上昇してしまい、効率良くかつ安定的に所望の溶融混練物が得られないことを知見した。そこで、更に検討を進めた結果、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを配合して溶融混練加工すると、意外にも、溶融加工温度を低くしても容易かつ安定的に製造することが可能であり、しかもそれ自体に黒点の発生や変色が抑制された難燃剤溶融混練物が得られることを知見した。更には、この新規な難燃剤溶融混練物は、ポリスチレン系樹脂発泡体を製造する際に、押出発泡時に黒点が発生することを防ぎ、かつ押出時における基材樹脂であるポリスチレン系樹脂の分解による分子量の低下や黄変をより効果的に抑制できることを知見した。本発明はこれらの知見に基づいてなされたものである。
【0023】
本発明において、臭素系難燃剤として用いる前記臭素化ポリブタジエン系難燃剤それ自体は従来公知のものであり、たとえば特許文献1や2で開示されるものがそのまま使用できる。
一般に、難燃剤として使用される臭素化ポリブタジエン系難燃剤は、ポリブタジエン換算で、重量平均分子量1.0×10〜2.0×10程度、好ましくは2.0×10〜1.0×10、より好ましくは5.0×10〜1.0×10、さらに好ましくは5.0×10〜1.0×10のブタジエン系重合体を臭素化することにより製造される。
【0024】
臭素化ポリブタジエン系難燃剤をポリスチレン系樹脂の難燃剤として用いる場合、ポリスチレン系樹脂との相溶性を考慮すると、臭素化ポリブタジエン系難燃剤は、スチレン系単量体成分単位を含むブロック共重合体、ランダム共重合体又はグラフト共重合体であることが好ましく(以下、これらを併せて臭素化ブタジエン−スチレン共重合体ともいう。)、ポリスチレン系重合体ブロックと臭素化ポリブタジエンブロックとのブロック共重合体であることがより好ましい。
また、スチレン系単量体としては、スチレン、臭素化スチレン、塩素化スチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレンなどが例示でき、これこれらの中でも、スチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン又はこれらの混合物が好ましく、より好ましくはスチレンである。
【0025】
難燃性付与効果の観点から、臭素化ポリブタジエン系難燃剤中の臭素含有率は、60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは63重量%以上である。なお、上記臭素含有率は、JIS K7392:2009に基づき求めることができる。
【0026】
臭素化ポリブタジエン系難燃剤の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、好ましくは1.0×10〜2.0×10程度であり、その200℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度は、4000〜8000Pa・s程度である。
【0027】
一般に、代表的な臭素化ポリブタジエン系難燃剤である臭素化ブタジエン−スチレンブロック共重合体は下記一般式で表すことができる。
【0028】
【化1】

(式中、X、Y及びZは、正の整数である。)
【0029】
このような臭素化ブタジエン−スチレンブロック共重合体は、たとえばブタジエン−スチレンブロック共重合体を臭素化することにより製造される。
本発明で好ましく用いられるポリスチレン−臭素化ポリブタジエン共重合体としては、Chemtura社のEmerald3000、ICL−IP社のFR122Pなどの市販品を挙げられる。
【0030】
本発明において、臭素化ポリブタジエン系難燃剤及び熱安定剤と共に、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを用いる。
【0031】
このポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンが下記の構造式で表され、それ自体公知の化合物である。
【化2】

(nは繰り返し単位である)
【0032】
このポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンは、臭素化ポリブタジエン系難燃剤を可塑化し、臭素化ポリブタジエン系難燃剤の流動性を高める。
このため、臭素化ポリブタジエン系難燃剤にポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを配合させると、溶融加工時に臭素化ポリブタジエン系難燃剤の粘度を低下させるので、押出機の負荷が軽減され、溶融加工温度が低い条件においても、安定的に黒点や変色のない難燃剤溶融混練物を簡便に製造することができる。
【0033】
また、上記ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンは、臭素化ポリブタジエン系難燃剤の有する優れた難燃性を更に向上させる難燃助剤としても機能することから、本発明に係る難燃剤溶融混練物はさらに高度な難燃性を有するものである。
したがって、本発明の難燃剤溶融混練物を用いると、たとえ臭素化ポリブタジエン系難燃剤の配合量が少量であっても、高度な難燃性及び十分な酸素指数を有する発泡体を得ることができ、しかも基材樹脂であるポリスチレン系樹脂の着色が抑制され、再生原料としても使用可能な、ポリスチレン系樹脂押出発泡体が得られる。
【0034】
ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンの配合量は、特に制約はないが、臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して2〜15重量部、好ましくは3〜12重量部である。
配合量が上記範囲内であると、難燃剤溶融混練物のMFRを所望の範囲に調整しやくすく、さらに該難燃剤溶融混練物は優れた難燃性付与効果を示し、好ましい結果を与える。
【0035】
本発明の難燃剤溶融混練物には、更に熱安定剤が配合される。
熱安定剤としては、エポキシ樹脂系安定剤、ホスファイト系安定剤、フェノール系安定剤及びヒンダードアミン系安定剤から選ばれる一種以上のものが挙げられる。
これらの熱安定剤の総配合量は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して、5〜30重量部とすることが好ましく、より好ましくは10〜25重量部である。
【0036】
エポキシ樹脂系安定剤としては、ノボラック型またはビスフェノール型が好ましい。ビスフェノール型エポキシ系化合物としては、特に臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、所謂臭素化エポキシ化合物が好ましい。
【0037】
ホスファイト系安定剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデン−ビス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ジホスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4,−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビスステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチル−1−フェニルオキシ)(2−エチルヘキシルオキシ)ホスホラス、モノ(ジノニルフェニル)モノ−p−ノニルフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、テトラアルキル(C=12〜16)−4,4’−イソプロピリデン−(ビスフェニル)ジホスファイト、ヘキサトリデシル−1,1,3−トリス(3−t−ブチル−6−メチル−4オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリデシルホスファイトなどがあげられる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでも、押出安定性の点から、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトまたはビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイトが好ましい。
【0038】
フェノール系安定剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、テトラキス−[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、押出安定性、難燃性の点から、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0039】
ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、または4−ヒドロキシ−1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの脂肪族または芳香族カルボン酸エステル、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートなどがあげられる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでも、難燃性に関して消炎を早める効果、および押出発泡体の耐熱性を低下させない点から、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、又はビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケートが好ましい。
【0040】
本発明の難燃剤溶融混練物は、上記したように、臭素化ポリブタジエン系難燃剤、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン及び熱安定剤を必須成分とするが、JIS K7210:1990の条件H(200℃、5kg荷重)におけるメルトフローレイト(MFR)は2〜30g/10分の範囲、好ましくは5〜30g/10分、更に好ましくは5〜20g/10分であるように調製されている。
【0041】
難燃剤溶融混練物のMFRが2〜30g/10分となるようにポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを臭素化ポリブタジエン系難燃剤に配合して溶融混練することにより、溶融混練物中に黒点が発生することや溶融混練物自体が変色することを抑制しつつ、該溶融混練物を高吐出量で効率よく、かつ安定して製造することができる。さらに、該難燃剤溶融混練物をポリスチレンなどの熱可塑性樹脂に難燃剤として添加して押出加工することにより、熱可塑性樹脂に高い難燃性を付与することができると共に、臭素化ポリブタジエン系難燃剤中への熱安定剤の分散性が向上しているためか、その押出加工時の加熱下においても、黒点の発生や熱可塑性樹脂の変色を効果的に抑制できる。
【0042】
本発明の難燃剤溶融物は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン及び熱安定剤とを含む混合物を押出機やミキサー等に投入し、溶融混練させることにより作製される。
溶融混練時の温度は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤からの臭素の遊離を効果的に抑制するためには溶融混練時の樹脂温度は低いほど好ましく、概ね190℃以下、好ましくは185℃以下とする。一方、上記観点からは、溶融混練時の樹脂温度の下限は特に制限されることはないが、臭素化ポリブタジエン系難燃剤と熱安定剤、さらにはポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンとを安定して溶融混練するためには概ね140℃以上とすることが好ましく、150℃以上とすることが好ましい。
また、難燃剤溶融混練物は、計量性、取扱の容易性等から押出機からストランド状に押出した後、カットしてペレット化しておくことが好ましい。
【0043】
本発明の難燃剤溶融混練物には、流動性向上剤として、更に芳香族リン酸エステルを含有させておくことが好ましい。
芳香族リン酸エステルを含有させることにより、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンと芳香族リン酸エステルとの相乗効果により、少量の含有量で臭素化ブタジエン系難燃剤を含む難燃剤溶融混練物の流動性を効果的に向上させることができる。
【0044】
芳香族リン酸エステルの具体例としては、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシリルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)等が挙げられる。
これらの中でも、取扱い性や、効果の発現性がより顕著なことから、トリフェニルホスフェート(TPP)などの芳香族リン酸エステルが好ましい。
【0045】
上記臭素化ポリブタジエン系難燃剤に対する芳香族リン酸エステルの配合量は、溶融混練物の流動性を向上させる機能が発揮され、かつ難燃性付与効果を阻害しない範囲であれば特に制約はないが、流動性向上剤が上記臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して0.5〜5重量部配合されていることが好ましく、更に1〜4重量部配合されていることがより好ましい。
【0046】
前記臭素化ポリブタジエン系難燃剤のほかに、本発明の目的、効果を妨げない範囲において、他の難燃剤を混合して使用することができる。他の難燃剤として、例えば、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル))に代表される2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル基を有する有機化合物、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートおよびトリス(2,3−ジブロモプロピル)シアヌレートに代表される2,3−ジブロモプロピル基を有する有機化合物、モノ(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレートに代表される臭素化イソシアヌレート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、スズ酸亜鉛、シアヌル酸、ペンタブロモトルエン、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0047】
さらに、上記難燃剤溶融混練物には、本発明の目的、効果を妨げない範囲において、ポリスチレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂を配合することができる。その配合量は、上記溶融混練物中に20重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは5重量%である。また、着色剤を配合しても良い。
【0048】
つぎに、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法は、ポリスチレン系樹脂と上記難燃剤溶融混練物と発泡剤を混練して得られる発泡性溶融樹脂組成物を押出して押出発泡体を製造する方法が採用される。
【0049】
具体例としては、ポリスチレン系樹脂、難燃剤溶融混練物、必要に応じて気泡調整剤やその他の添加剤を押出機に供給して、加熱、混練し、更に発泡剤を該押出機中に圧入し、混練して得られた発泡性ポリスチレン系樹脂溶融組成物を、例えば、フラットダイを通して高圧の押出機内より低圧域(通常は大気中)に押出して、発泡させると共に、該ダイの出口に配置された成形型〔平行あるいは入口から出口に向かって緩やかに拡大するよう設置された上下2枚のポリテトラフルオロエチレン樹脂等からなる板で構成されるもの(以下、ガイダーとも言う。)〕や成形ロール等の成形具を通過させることによって板状に成形し、板状のポリスチレン系樹脂押出発泡体(以下、単に押出発泡体ともいう。)を製造する方法が挙げられる。
【0050】
本発明方法は上記板状押出発泡体の製造方法に限定されるものではなく、サーキュラーダイから押出された筒状の発泡体をシート状に切り開いて又は筒状の発泡体の内面を融着させてシート状押出発泡体とする方法、ストランド状に押出された発泡体を粒子状に切断して粒子状の押出発泡体とする方法、また、発泡剤を含む発泡性溶融樹脂組成物を水中に押出すなどして急冷して(発泡させない)粒子状に切断し、その後、発泡剤を含む発泡性樹脂粒子をスチームなどの加熱媒体により加熱することにより発泡させ粒子状の発泡体とする方法に適用できることはもちろんである。
【0051】
本発明の製造方法においては、難燃剤として上述した特定の難燃剤溶融混練物を用いる以外の基本的な製造方法は、従来公知の押出発泡体の製造方法を利用できる。
【0052】
本発明において押出機に供給されるポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレンやスチレンを主成分とするスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体等が挙げられる。上記スチレン系共重合体におけるスチレン単位成分含有量は50モル%以上が好ましく、特に好ましくは80モル%以上である。
【0053】
上記ポリスチレン系樹脂としては、本発明の目的、効果が達成される範囲内において、その他の重合体を混合したものであってもよい。その他の重合体としては、ポリエステル樹脂、ポリエチレン系樹脂(エチレン単独重合体及びエチレン単位成分含有量が50モル%以上のエチレン共重合体の群から選択される1種、或いは2種以上の混合物)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体及びプロピレン単位成分含有量が50モル%以上のプロピレン共重合体の群から選択される1種、或いは2種以上の混合物)、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−エチレン共重合体等が挙げられ、これらの他の重合体は、ポリスチレン系樹脂中で50重量%未満となるように、好ましくは30重量%以下となるように、更に好ましくは10重量%以下となるように、目的に応じて混合することができる。
【0054】
本発明においては、炭素数3〜5の飽和炭化水素(A)と以下に示す他の発泡剤(B)とを含有する複合発泡剤を用いることが、背景技術に記載した観点から好ましい。
【0055】
前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(A)としては、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。
上記の飽和炭化水素(A)は、単独又は2種以上混合して使用することができる。
前記飽和炭化水素(A)の中では、発泡性の点からプロパン、n−ブタン、i−ブタンあるいはこれらの混合物が好ましい。また、発泡体の断熱性能の点からn−ブタン、i−ブタンあるいはこれらの混合物が好ましく、特に好ましくはi−ブタンである。
【0056】
他の発泡剤(B)としては、有機系物理発泡剤、及び無機系物理発泡剤を用いることができる。
前記有機系物理発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどのアルコール類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチルなどの蟻酸エステル類、塩化メチル、塩化エチルなどの塩化アルキル類などが挙げられる。また、オゾン破壊係数が0、かつ地球温暖化係数の小さいトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロプロペンなどのフッ化不飽和炭化水素を用いることもできる。
前記無機系物理発泡剤としては、例えば水、二酸化炭素、窒素などが挙げられる。
上記の他の発泡剤(B)は、単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0057】
前記他の発泡剤(B)の中では、発泡性、発泡体成形性などの点からは、塩化メチル、塩化エチル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、メタノール、エタノール、水、二酸化炭素が好ましい。
【0058】
水、二酸化炭素は、他の発泡剤と比べて、ポリスチレン系樹脂に対する可塑化効果が低いため、水、二酸化炭素を発泡剤として使用すると、押出時の圧力が高くなる傾向にある。一方、臭素化ポリブタジエン系難燃剤も、これまで難燃剤として使用されてきたHBCDに比べるとやはり可塑化効果が低く、押出時の圧力が高くなりやすいため、押出発泡体を製造することがさらに難しくなる。本発明の難燃剤溶融混練物は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤を含むが特定のMFRを示す流動性に優れるものである。そのため、上記発泡剤(B)が水及び/又は二酸化炭素を含む場合であっても、本発明の溶融混練物を難燃剤として配合することにより、HBCD使用時と同様な条件で、かつ安定して押出発泡体を製造することができる。
【0059】
前記複合発泡剤においては、飽和炭化水素(A)の配合割合が10〜80モル%であり、他の発泡剤(B)の配合割合が90〜20モル%〔但し、発泡剤(A)と発泡剤(B)との合計量は100モル%〕であることが好ましい。配合割合がこの範囲内の混合発泡剤を使用することにより、安全かつ安定的に高発泡倍率の押出発泡体の製造することができるようになると共に断熱性、難燃性に優れた押出発泡体を製造する上で好ましい。かかる観点から、飽和炭化水素(A)30〜70モル%と他の発泡剤(B)70〜30モル%〔但し、発泡剤(A)と発泡剤(B)との合計量は100モル%〕とを含有する複合発泡剤がより好ましい。
【0060】
本発明における発泡剤の添加量は、発泡性溶融樹脂組成物1kg中に、0.5〜2.5モルとなるように添加することが好ましく、0.8〜2.0モルがより好ましい。
【0061】
本発明においては、このように予め作製した前記難燃剤溶融混練物を難燃剤とし、これをポリスチレン系樹脂に任意の割合で混合し押出機に供給し、さらに発泡剤を供給してこれらを混練して押出発泡させることで、難燃性に優れ、かつ黒点、黄変に代表される外観の不具合のない良好な発泡体を得ることができる。
また、該難燃剤溶融混練物を用いることで、製造された押出発泡体や、その端材・スクラップを加熱溶融しリサイクル原料として再利用する際にもリサイクル原料の分子量の低下や黄変を抑制することができる。
【0062】
難燃剤溶融混練物の添加量は、所望の難燃性により適宜調整されるものであるが、押出発泡板にJIS A9511の燃焼規格を満足するような高度な難燃性を付与するという観点からは、臭素化ポリブタジエン系難燃剤を含む難燃剤の配合量が押出機に投入されるポリスチレン系樹脂100重量部に対し1〜10重量部となるようにすることが好ましく、より好ましくは1.5〜7重量部である。さらに、上記範囲内であれば、難燃性に優れると共に、良好なリサイクル性を有する押出発泡体をより容易に製造可能となる。
【0063】
本発明においては、上記難燃剤とともに、さらにジフェニルアルカン、ジフェニルアルケンから選ばれる少なくとも1種の添加剤を配合することで、得られる発泡体の酸素指数を向上させることができる。該添加剤は上記難燃剤100重量部に対して、1〜20重量部配合されることが好ましく、2〜15重量部配合されることがより好ましい。
【0064】
前記ジフェニルアルカンとしては具体的には、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサンが挙げられる。ジフェニルアルケンは具体的には、例えば、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテンが例示される。
【0065】
本発明の製造方法において、発泡性溶融樹脂組成物には、押出発泡体の平均気泡径を調整するために気泡調整剤を添加することができる。気泡調整剤としては、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物が例示される。また、本発明において該気泡調整剤は2種以上組合せて用いることもできる。前記各種の気泡調整剤の中で、得られる発泡体の気泡径の調整が容易で気泡径を小さくし易い等の理由でタルクが好適に用いられ、特に、粒子径の細かい平均粒径(光透過遠心沈降法による50%粒径)が0.5〜75μmのタルクが好ましい。
【0066】
該気泡調整剤の添加量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.01〜7.5重量部、更に0.1〜5重量部の割合で添加されることが好ましい。
【0067】
本発明の製造方法においては、前記気泡調整剤、難燃剤以外にも、本発明の目的、効果を妨げない範囲において、グラファイト、ハイドロタルサイト、カーボンブラックやアルミニウム等の断熱性向上剤、着色剤、充填剤、滑剤等の各種添加剤を適宜添加することができる。尚、上記気泡調整剤等の各種添加剤は、ポリスチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂を基材とするマスターバッチとして添加しても良い。
【0068】
本発明により得られる押出発泡体の密度は、優れた断熱性と機械的強度の観点から、20〜60kg/m、更に22〜50kg/mであることが好ましく、厚みは、5〜150mm、更に15〜100mmであることが好ましい。
【0069】
本発明の方法によって製造されるポリスチレン系樹脂押出発泡体において、厚み方向の平均気泡径は、より高い断熱性を有する発泡体とする上で0.8mm以下、更に0.5mm以下であることが好ましい。尚、該気泡径が小さすぎる場合は、厚みが厚く、低見掛け密度の板状の押出発泡体を得ること自体が難しい。かかる観点から、厚み方向の平均気泡径は0.05mm以上、更に0.06mm以上、特に0.07mm以上であることが好ましい。
【0070】
上記厚み方向の平均気泡径の測定方法は次のとおりである。まず、押出発泡体を幅方向に3等分し、分割した各測定用サンプルの幅方向中央部付近の幅方向垂直断面(押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面)の顕微鏡拡大写真を得る。次いで、該拡大写真上において発泡体の厚み方向に沿って押出発泡体の全厚みに亘る直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(当然のことながら、この長さは拡大写真上の直線の長さではなく、写真の拡大率を考慮した直線の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各直線上に存在する気泡の平均径Tn(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径Tnの算術平均値を厚み方向の平均気泡径T(mm)とする。なお、押出発泡体の全厚みが1枚の顕微鏡拡大写真に納まらない場合には、数枚に分けて撮影すればよい。
【0071】
本発明においては、前記押出発泡体を加熱融解して得られる再生ポリスチレン系樹脂組成物を、バージン原料のポリスチレン系樹脂、難燃性溶融混練物と共に押出機中にて加熱、混練し、更に発泡剤を該押出機中に圧入して添加し、混練して得られる発泡性溶融樹脂組成物を押出発泡することにより、押出発泡体を製造することができる。本発明の押出発泡体は、前記難燃性溶融混練物を難燃剤として用いて製造されたものであり、押出時加工時の熱安定性に優れているものであることから、その再生原料(再生ポリスチレン系樹脂組成物)は回収時における分子量低下、黄変の程度、黒点の発生が少ないものである。従って、該回収原料を用いることにより、前記押出発泡体を低コストで製造することができる。
【0072】
本発明の製造方法により得られたポリスチレン系樹脂押出発泡体は、建築物の壁、床、屋根等の断熱材や畳芯材等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0073】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0074】
実施例1〜4、比較例1〜3
(難燃剤溶融混練物の製造)
二軸押出機(内径47mm、L/D=41)を用い、表3に示す配合条件・製造条件にて臭素化ポリブタジエン系難燃剤と熱安定剤、さらにポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン、トリフェニルホスフェートとを溶融混練し、ストランド状に押出しペレット状にカットすることにより、実施例1〜4及び比較例1〜3の難燃剤溶融混練物を製造した。得られた難燃剤溶融混練物の押出負荷、製造安定性、MFR、着色性(1)、黒点の有無及び難燃剤溶融混練物をポリスチレン樹脂に配合したときの、黒点の発生状況、着色性(2)を評価した。その結果を表3に示す。
【0075】
臭素化ポリブタジエン系難燃剤としては、表1に示すものを用い、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン、トリフェニルホスフェートとしては表2に示すものを用いた。
なお、熱安定剤の配合量は、臭素化ポリブタジエン系難燃剤100重量部に対して、下記(1)を10重量部、(2)を5重量部、(3)を5重量部の合計20重量部とした。
【0076】
[熱安定剤]
(1)ノボラック型エポキシ樹脂系化合物:DIC製、商品名「EPICLON N680」
(2)ホスファイト系化合物:ADEKA製、商品名「PEP36」(ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイト)
(3)フェノール系化合物:BASF製、商品名「Irganox1010」(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表3に示す難燃剤溶融混練物製造時の押出負荷、製造安定性、難燃剤溶融混練物のMFR、着色性(1)、黒点の有無及び難燃剤溶融混練物をポリスチレン系樹脂に配合したときの、黒点の発生状況、着色性(2)の評価方法は以下のとおりである。
【0081】
[押出負荷]
押出負荷は、下記基準より評価した。
◎:押出機のスクリュー負荷が60%未満
○:押出機のスクリュー負荷が60〜70%
×:押出機のスクリュー負荷が70%を超える
※押出機のスクリュー負荷が100%で押出機が停止する
【0082】
[製造安定性]
難燃剤溶融混練物の製造安定性の評価は、下記評価基準により評価した。
○:安定して難燃剤溶融混練物が得られる
△:難燃剤溶融混練物は得られるが、ストランドを安定して引き取ることができない
【0083】
[MFR]
難燃剤溶融混練物のMFRは、JIS K7210:1990の条件H(200℃、5kg荷重)にて測定した。
【0084】
[着色性(1)]
難燃剤溶融混練物中の着色度合いは、次のように評価した。
150℃に加熱したヒートプレス機を用いて、難燃剤溶融混練物をプレス加工して、縦×横×厚み=40×40×2mmの板を作製した。分光式色差計(日本電色工業株式会社製SE−2000)を用いてASTM D1925に基づき反射法にて該試験片のYI値(イエローインデックス)を測定した。(n=5の平均値)
【0085】
[黒点の有無]
難燃剤溶融混練物中の黒点の有無は、次のように評価した。
150℃に加熱したヒートプレス機を用いて、難燃剤溶融混練物をプレス加工して、縦×横×厚み=40×40×2mmの板を作製した。次に、作製した板に含まれる黒点の数を計測した。(n=5の平均値)
【0086】
[難燃剤溶融混練物をポリスチレン系樹脂に配合した後の評価]
内径47mm、L/D=41の二軸押出機にポリスチレン100重量部、臭素化ポリブタジエン系難燃剤の配合量が2重量部となるように難燃剤溶融混練物を供給し、最高温度220℃で溶融混練し、その溶融樹脂を吐出量60kg/hrでストランド状に押出し、ペレット状にカットした。
【0087】
[黒点の発生状況]
前記ペレットを180℃に加熱したヒートプレス機を用いて、プレス加工して、縦×横×厚み=40×40×2mmの板を作製した。次に、作製した板に含まれる黒点の数を計測した。(n=5の平均値)
【0088】
[着色性(2)]
前記ペレットを180℃に加熱したヒートプレス機を用いて、プレス加工して、縦×横×厚み=40×40×2mmの板を作製した。分光式色差計(日本電色工業株式会社製SE−2000)を用いてASTM D1925に基づき反射法にて該試験片のYI値(イエローインデックス)を測定した。(n=5の平均値)
【0089】
表3から、本発明の実施例1〜4の難燃剤溶融混練物1〜4は、熱安定剤と共にポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを流動性向上剤として含有し、かつそのMFRが所定の範囲内(JIS K7210:1990の条件HにおけるMFRが2〜30g/10分)にあることから、スクリュー負荷が小さく製造安定性に優れ、しかも黒点の発生や変色が抑制されたものであることが分かる。またこの難燃剤溶融混練物を原料ポリスチレン系樹脂に配合しても、たとえば図1に示されるように、黒点の発生や変色が生じていないことがわかる。
これに対して、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを含有されておらず、かつ前記MFRが本発明の範囲外(0.7g/10分)である、比較例1〜2の難燃剤溶融混練物5〜6を原料ポリスチレン系樹脂に配合した場合にも黒点の発生や着色が著しいことがわかる。また、比較例3のように、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンが含有されていても、そのMFRが本発明の範囲外(63g/10分)である、難燃剤溶融混練物7はスクリュー負荷は小さく、黒点が含まれていない混練物得られるが、製造安定性に劣り、しかも、この難燃剤溶融混練物を原料ポリスチレン系樹脂に配合させると、図2に示されるように、黒点の発生が著しく実使用に耐え得るものでないことがわかる。
【0090】
(実施例5〜10、比較例4〜7)
(ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造)
実施例5〜10及び比較例4〜7の押出発泡体を得るために、以下に示す装置及び材料を用いた。
【0091】
[押出装置]
内径65mmの第1押出機と内径90mmの第2押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第1押出機の終端付近に設けられており、横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第2押出機の出口に連結され、第2押出機の樹脂出口にはこれと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された賦形装置(ガイダー)が付設された装置を用いた。
【0092】
[ポリスチレン系樹脂]
(1)PS1:ポリスチレン(重量平分子量27万)
(2)RPS1:再生ポリスチレン系樹脂組成物
実施例5で得られたポリスチレン系樹脂押出発泡板を破砕し、その破砕物を内径90mm、L/D=50の単軸押出機に供給して最高温度220℃で混練し、その溶融樹脂を吐出量250kg/hrでストランド状に押出し、ペレット状にカットすることにより再生PS樹脂組成物のペレット(RPS1)を得た。
【0093】
[難燃剤]
難燃剤としては、上記表3に示す難燃剤溶融混練物を用いた。
なお、比較例4では難燃剤溶融混練物1と同一組成のドライブレンド品を難燃剤として用いた。
【0094】
[気泡調整剤]
タルク(松村産業製、ハイフィラー#12)
【0095】
前記押出機に表4、5中に示すそれぞれの配合量となるように樹脂、難燃剤及び気泡調整剤を、前記第1押出機に供給し、220℃まで加熱し、これらを混練し、第1押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から表中に示す配合組成の物理発泡剤を表中に示す割合で溶融物に供給し混練した発泡性樹脂溶融物を、続く第2押出機に供給して樹脂温度を表中に示すような発泡適性温度(表中では発泡樹脂温度と表記した。この発泡温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性樹脂溶融物の温度である)に調整した後、吐出量70kg/hrでダイリップからガイダー内に押出し、押出発泡体を製造した。
【0096】
実施例5〜10及び比較例4〜7で得られたポリスチレン系樹脂押出発泡体の、見掛け密度、厚み、独立気泡率、難燃性、黒点の数、着色性(3)、重量平均分子量、再生樹脂の重量平均分子量及び着色性(4)を表4〜5に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
表4〜5に示す押出発泡体の各種物性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
【0100】
(見掛け密度)
押出発泡体の見掛け密度は、次のようにして求めた。得られた押出発泡体の幅方向の中央部、両端部付近から50×50×40mmの立方体の試料を各々切り出して重量を測定し、該重量を体積で割算することにより夫々の試料の見掛け密度を求め、それらの算術平均値を当該見掛け密度とした。
【0101】
(厚み)
押出発泡体の幅方向中央部付近において、等間隔に5点の厚みを測定し、それらの測定値の算術平均値を押出発泡体の厚み(mm)とした。
【0102】
(独立気泡率)
押出発泡体の独立気泡率は、次のようにして求めた。まず、押出発泡体を幅方向に5等分し、それらの中央部付近から25mm×25mm×20mmのサイズに成形表皮を持たないカットサンプル(計5個)を切り出した。次に、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、各カットサンプルの真の体積Vxを測定し、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し、それら計算値の算術平均値を押出発泡体の独立気泡率とした。なお、測定装置として東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用した。
【0103】
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(Va−W/ρ) (1)
ただし、Vx:上記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡体のカットサンプルを構成する樹脂組成物の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
Va:測定に使用されたカットサンプルの外形寸法から算出されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡体を構成する樹脂組成物の密度(g/cm
【0104】
(難燃性評価−JIS A9511)
製造直後の押出発泡体を気温23℃、相対湿度50%の部屋に移し、その部屋で4週間放置した後、押出発泡体から試験片を無作為に5個切り出して(N=5)、JIS A9511(2006R)の5.13.1「測定方法A」に基づいて燃焼性を測定し、5個の試験片の平均燃焼時間により、押出発泡体の難燃性を評価した。
【0105】
(難燃性評価−LOI−酸素指数)
製造直後の押出発泡体を気温23℃、相対湿度50%の部屋に移し、その部屋で4週間放置した後、押出発泡体から試験片を切り出し、JIS K7201−2:2007に準拠して測定し、難燃性を評価した。点火器の熱源の種類は、液化石油ガス(LPG)を使用し、点火手順はA法を使用し、試験片を試験機内の所定の位置に自立させて行った。試験場所の温度は23℃、湿度50%で行った。
【0106】
(押出発泡体の重量平均分子量,再生樹脂の重量平均分子量)
それぞれの実施例にて得られた発泡体、及び発泡体をリサイクル用の押出機にて溶融しリペレット化したものの重量平均分子量を測定した。リペレットは、得られた発泡体を押出機に供給可能な大きさに破砕し、その破砕物を内径90mm、L/D=50の単軸押出機に供給して最高温度220℃で溶融混練し、その溶融樹脂を吐出量250kg/hrでストランド状に押出し、ペレット状にカットすることによって行なった。
重量平均分子量は、発泡体10mg又はスチレン系樹脂10mgをTHF(テトラヒドロフラン)10mLに溶解させ、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)法により測定し、標準ポリスチレンで校正した値である。上記GPC分析は、使用機器:東ソー(株)製、SC−8020型、カラム:昭和電工(株)製、Shodex AC−80M 2本を直列に連結、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:東ソー(株)製、紫外可視光検出機UV−8020型、を用いて測定した。
【0107】
(黒点の個数)
得られた発泡板の流れ方向に対し垂直に切断した断面部において、黒点の数を数えた。断面部の観察は任意に5箇所で測定し、その合計数を黒点の個数とした。
【0108】
(着色性(3))
押出発泡体の黄変度を外観により測定した。
○:着色していない
×:着色がみられる
【0109】
[着色性(4)]
再生樹脂の黄色度を前記着色性(1)と同じ基準により評価した。まず、180℃に加熱したヒートプレス機を用いて、再生樹脂をプレス加工して、縦×横×厚み=40×40×2mmの板状の試験片を作製した。分光式色差計(日本電色工業株式会社製SE−2000)を用いてASTM D1925に基づき反射法にて該試験片のYI値(イエローインデックス)を測定した(n=5)。
【0110】
実施例5〜10の結果は、本発明方法によれば、難燃剤溶融混練物1〜4を用いたことから、JIS規格による燃焼試験が極めて良好であり、かつ十分な酸素指数(具体的にはLOI値:26.0〜26.5)を有する高度な難燃性を有する発泡体を得ることができ、しかもこの発泡体は押出加工時の熱安定性に優れ、黒点の発生がなく、また基材樹脂であるポリスチレン系樹脂の分解による分子量の低下や黄変を抑制された、リサイクル特性に優れたポリスチレン系樹脂押出発泡体であることを示している。
【0111】
比較例4は、難燃剤溶融混練物1の代わりにこれと同一組成のドライブレンド品を難燃剤とした例である。この比較例4の発泡体は、高度な難燃性を示すが、黒点が著しく発生し、高い熱安定性を兼備することができない。
【0112】
さらに、比較例5〜6は、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンを含有していない難燃剤溶融混練物5〜6を用いた例である。この比較例5〜6で得られる発泡体はJIS規格による燃焼試験の値が極めて悪く(3.5,4.0)、また、酸素指数(LOI)も低く(25.5,25.0)、難燃性の改善がみられない。また、これらの押出発泡体には黒点が著しく発生し、また変色が著しく、更には、再生樹脂の着色性(4)が極めて悪く、高い熱安定性を兼備することができない。
【0113】
比較例7は、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンが含有されていても、そのMFRが本発明の範囲外(63g/10分)の難燃剤溶融混練物7を用いた例である。この比較例7で得られる発泡体は、JIS規格による燃焼試験は1.3と良好であるが、酸素指数LOIが25となり、難燃性の改善がそれほどみられない。しかも、この発泡体は比較例5〜6と同様に黒点が著しく発生し、また変色が著しく、熱安定性に劣るものであった。
図1
図2