(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099522
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】長短複合紡績糸及びこの紡績糸を用いた編地
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20170313BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20170313BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20170313BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
D02G3/36
D02G1/02 A
D01F8/14 B
D04B1/16
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-178119(P2013-178119)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-45112(P2015-45112A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 武史
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−055848(JP,A)
【文献】
特開2000−248430(JP,A)
【文献】
特開2002−339199(JP,A)
【文献】
特開2002−038347(JP,A)
【文献】
特開2005−273116(JP,A)
【文献】
特許第5031890(JP,B2)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0020645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 3/36
D01F 8/14
D02G 1/02
D04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部にポリエステルマルチフィラメント糸、
鞘部にポリエステル短繊維を配した二層構造を有する複合紡績糸であり、
芯部のポリエステルマルチフィラメント糸が、
互いに熱収縮特性の異なるポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとが偏芯して複合された複合フィラメントによって構成され、捲縮率が60%以上であり、
紡績糸全体に対する芯部の質量比が20〜70質量%であり、
鞘部のポリエステル短繊維を構成する重合体が、リン酸を0.5〜1.5モル%共重合した共重合ポリエステルであり、
紡績糸の熱水収縮率が10%以上であることを特徴とする長短複合紡績糸。
【請求項2】
芯部のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸であることを特徴とする請求項1記載の長短複合紡績糸。
【請求項3】
リング紡績によるものであることを特徴とする請求項1または2記載の長短複合紡績糸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の長短複合紡績糸を用いて製編された編地であって、熱処理が施されることにより長短複合紡績糸を構成する芯部のポリエステルマルチフィラメント糸が捲縮を発現してなり、スナッグ試験評価が4.5以上であることを特徴とする編地。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載の長短複合紡績糸のみを用いて製編されていることを特徴とする請求項4記載の編地。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項記載の長短複合紡績糸を用いて製編した編地を、湿潤状態で温度130℃〜145℃、時間10分〜90分で熱処理を施し、鞘部のポリエステル短繊維の強度を低下させると同時に、芯部のマルチフィラメント糸の捲縮を発現させ、長短複合紡績糸を収縮させることを特徴とする請求項4記載の編地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸張率・伸張回復率に優れ、かつ抗ピリング性、抗スナッギング性に優れた編地を得ることができる長短複合紡績糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アウトドアレジャーのなかでも、特に、登山やトレッキング等においては、運動中に発した汗が休憩中に冷えて体調を崩す原因となる「汗冷え」を抑えるために、近年では、綿素材のように吸汗性を有する生地ではなく、ポリエステル紡績糸等を生地に用いて、保水せず、かつ肌擦れしにくくしている。このようなアウトドアレジャー等の運動着の素材には、ポリウレタンを用いてストレッチ性を付与することが多いが、洗濯時に塩素等と接触したり、屋外で着用する等による紫外線によって、ウレタン劣化等が生じて、経時的にストレッチ性が損なわれていく。
【0003】
一方、ストレッチ性を有する素材としては、熱収縮特性の異なるポリマーをサイドバイサイドに並列して配置した捲縮糸からなる編物も多く提案されており、加えて、この様な捲縮糸を芯部に配し、周りを短繊維で覆った長短複合紡績糸を使用した編物も提案されている(例えば、特許文献1)。これらは優れたストレッチ性やストレッチバック性を有しているが、高い捲縮性からスナッギングが発生しやすいという問題がある。
【0004】
また、加えて、保水性を抑え、かつ運動中の生地と肌との擦れによる刺激を抑えるべく、ポリエステル紡績糸を用いた素材については、鞘部にポリエステル繊維を配すと、ピリングが発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−220049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した問題点を解決し、アウトレジャーに好適な生地であって、ピリングやスナッギングが発生しにくい生地を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、芯部にポリエステルマルチフィラメント糸、
鞘部にポリエステル短繊維を配した二層構造を有する複合紡績糸であり、
芯部のポリエステルマルチフィラメント糸が、
互いに熱収縮特性の異なるポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとが偏芯して複合された複合フィラメントによって構成され、捲縮率が60%以上であり、
紡績糸全体に対する芯部の質量比が20〜70質量%であり、
鞘部のポリエステル短繊維を構成する重合体が、リン酸を0.5〜1.5モル%共重合した共重合ポリエステルであり、
紡績糸の熱水収縮率が10%以上であることを特徴とする長短複合紡績糸を要旨とするものである。
【0009】
次に、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の芯部には、ポリエステルマルチフィラメント糸が配される。そして、このポリエステルマルチフィラメント糸は、互いに熱収縮特性の異なるポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとが偏芯して複合された複合フィラメントによって構成される。ここで偏心して複合された形態とは、偏心芯鞘型や、並列に配されたサイドバイサイド型が挙げられるが、サイドバイサイド型が好ましい。本発明において、互いに熱収縮特性の異なるポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとが偏芯して複合された複合フィラメントを用いることにより、本発明の長短複合紡績糸を用いた編地生機を、例えば、染色加工等の高温での熱処理により熱収縮を発生させ、高い捲縮率を発現させることができ、編地にストレッチ性を付与すると共に、生地全体の度目が詰められて、抗スナッギング性を高めることができる。
【0011】
ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとの組み合わせは、互いにアルキル鎖の長さが異なるポリエステルであり、長短複合紡績糸とした場合でも糸として収縮特性を良好に維持することができる。
【0012】
本発明におけるポリエステルマルチフィラメント糸の捲縮率は60%以上である。捲縮率が60%に満たない場合、マルチフィラメント糸を鞘部の短繊維束で被覆して長短複合紡績糸とし、かつ生地にした後、高温下での熱処理にて十分に捲縮が発現せず、目的とするストレッチ性、抗スナッギング性を十分発揮しない懸念がある。ポリエスエルマルチフィラメント糸は、鞘部の短繊維束で被覆されることにより拘束され、自由度がある程度奪われるので、複合紡績糸の形態では、マルチフィラメント糸の捲縮発現能力が阻害される傾向となるが、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートの組み合わせは、良好に捲縮を発現して生地に伸縮性を付与するとともに、生地の度目を詰めて、スナッギングの発生を効果的に抑制することができる。マルチフィラメント糸の捲縮率の値が大きいと、熱処理により捲縮が大きく発現することになるが、得られる生地の外観等を考慮すると、捲縮率の上限は80%程度とする。また、複合紡績糸において芯部と鞘部との結束力を向上させることができることから、ポリエステルマルチフィラメント糸は、仮撚加工糸であることが好ましい。なお、ポリエステルマルチフィラメント糸の捲縮率とは、沸水中で処理された後に発現する捲縮率のことをいう。
【0013】
長短複合紡績糸の糸全体に対する芯部のマルチフィラメント糸が占める割合は、質量比で20〜70質量%であり、好ましくは30〜45%である。芯部の比率が20%未満では、鞘部の拘束が強すぎて、熱処理により捲縮が発現し難く、生地に目的とするストレッチ性を付与できず、一方、70質量%を超えると、芯部のマルチフィラメント糸を鞘部の短繊維束が良好に被覆できず、捲縮発現したフィラメントの一部が糸表面に表出することにより、スナッギングが発生しやすくなる。また、糸を得る工程において、精紡上がりの糸を仕上げ巻取する際の繋ぎ合わせがうまくいかない懸念がある。
【0014】
本発明の長短複合紡績糸の鞘部には、リン酸を共重合したポリエステルによって構成されるポリエステル短繊維を配する。本発明では、汗冷えを防ぐために保水性の少ない繊維を使用することから、鞘部に配する繊維には、ポリエステル短繊維を配する。なお、汎用されているポリエチレンテレフタレートからなる短繊維は、強力に非常に優れており、強過ぎるがためにピリング物性に劣るため、本発明では、リン酸を共重合したポリエスエルによって構成されるポリエステル短繊維を配することにより、抗ピリング性が良好となる。
【0015】
リン酸を共重合したポリエステル短繊維は、生地製編段階では強力を維持しているが、例えば、温度130〜145℃、時間10〜90分の湿潤状態で熱処理を施すことによってポリエステル短繊維の強度が低下し、抗ピリング性に優れるものとなる。リン酸の共重合量としては、0.5〜1.5モル%である。共重合量が0.5モル%未満では、所望とする抗ピリング性が発揮できず、逆に1.5モル%を超えると上記した湿潤状態での熱処理において過度の強力低下を起こす懸念がある。なお、ポリエスエルは、アルキレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルを用いるとよく、エチレンテレフタレート単位を好ましく用いる。
【0016】
本発明の長短複合紡績糸は、熱水収縮率が10%以上であり、好ましくは10〜25%である。複合紡績糸が高い熱水収縮率を有することにより、染色加工等の熱処理によって生地全体の度目を詰め、ストレッチ性、抗ピリング性、抗スナッギング性を生地に付与することができる。本発明においては、芯部に上記した捲縮率を発現する特定の2種のポリエステルからなるマルチフィラメント糸を配し、芯部の比率を20〜70質量%として鞘部の短繊維束にて被覆してなる紡績糸であることにより、熱水収縮率10%以上とすることができる。
【0017】
本発明の長短複合紡績糸は、公知の精紡機を用いて、精紡におけるフロントローラー上で芯部に配されるマルチフィラメント糸を、鞘部を形成する短繊維束に重ねる様に供給し、その後に加撚・巻取することで得ることができる。このとき、芯部のマルチフィラメント糸に一定の張力を掛ける、もしくは鞘部の短繊維束をオーバーフィードさせるなどすることによって、鞘部のカバリング率を上げることができる。
【0018】
紡績の手法としては、リング紡績が最も適している。ピリング防止だけを目的とするのであれば、MVS等の結束紡績の手法を用いることにより、鞘部に汎用のポリエチレンテレフタレート短繊維を用いた場合でも抗ピリング性を向上できるが、結束紡績により得られる紡績糸は、糸の結束が強いことから、熱処理により良好に捲縮が発現できずにストレッチ性を付与しにくく、また、紡績糸自体が硬く締まった状態であるため、肌擦れ等による刺激が大きい。このような理由から、本発明では、鞘部には抗ピリング性に優れる特定の共重合ポリエステル短繊維を配するとともに、得られる紡績糸の風合いがソフトとなるリング紡績を好ましく採用する。
【0019】
本発明の長短複合紡績糸を用いて編地を作成する場合、この複合紡績糸の収縮によって生地の度目を詰める必要があることから、本発明の長短複合紡績糸以外の糸と併用して編地を製編するときには、伸縮性のない糸は用いないことが好ましい。ここで伸縮性のない糸とは、捲縮や弾性等を有しない糸であり、例えば、一般的な通常の短繊維100%からなる紡績糸や捲縮を有しない非弾性のフィラメント原糸が該当する。伸縮性のない糸を用いると、生地の度目を十分に詰めることができず、編地に所望の伸縮性が付与できず、また、得られた編地はスナッギングが生じやすいものとなる。なお、伸縮性のない糸は用いないことが好ましいとしたが、同一面上でなければ、スナッギングやピリング発生に影響しないため、用いてもよい。ここで同一面上でない例としては、ダブルフェースなどの二層構造編地が挙げられ、一面に本発明の長短複合紡績糸を用いて、他面に伸縮性を有しない糸を用いる。他面に配する伸縮性を有しない糸は、他面の組織や編込長等を適宜設計することにより生地を伸縮させる余裕を作ることができるため、伸縮性を有しない糸を用いることができるのである。
【0020】
また、長短複合紡績糸の収縮によって編地にストレッチ性を付与し、かつ度目がしっかり詰まって抗スナッギング性が向上させるためには、熱処理により複合紡績糸が収縮した後に得られる編地は、カバーファクターが0.055〜0.066であることが好ましく、0.058〜0.062であることがより好ましい。カバーファクターが、0.055未満では、度目が甘くスナッギングを起こしやすくなり、逆にカバーファクターが0.065を超えると、度目が詰まりすぎているために、紡績糸がストレッチ性を十分に発現しない懸念がある。所望のカバーファクターの範囲とするには、本発明の長短複合紡績糸を用いたうえで、他の糸と併用する場合は、その併用する糸の収縮率と番手、編組織を考慮した上で編機のゲージ、編込長を適宜設定すればよい。
【0021】
カバーファクターは、「JIS L1096 8.8 編目長及びカバーファクターの手法」により求められる値であり、下式によって算出される。
S1(mm/ループ)=L/n
S1:編目長(mm/ループ)
L:ほぐした糸の長さ(mm)
n:ほぐした編目数(ループ)
Fw=1/S1√N
Fw:恒重式番手の場合のカバーファクター
S1:編目長(mm)
N:恒重式番手
【0022】
本発明の長短複合紡績糸を用いる編地において、編組織は特に限定されるものではないが、抗ピリング性、抗スナッギング性を考慮すれば、より表面が平滑で、かつ度目が均一に詰まるような組織、例えば天竺編やスムース編及びその応用組織等を選択することが好ましい。
【0023】
本発明の長短複合紡績糸を用いた編地は、公知の染色加工技術で加工が可能であるが、湿潤状態で温度130℃〜145℃、時間10分〜90分で熱処理を施すことによって、鞘部のポリエステル短繊維の強度を低下させて抗ピリング性を付与すると同時に、芯部のマルチフィラメント糸の捲縮を発現させて紡績糸を収縮させ、編地の度目を詰めて、ストレッチ性と抗スナッギング性を付与することができる。この熱処理は、生機を精錬した後のリラックス段階や、染色段階等において行うとよい。なお、ここで湿潤状態とは、水中や染色液等の処理液中、編地が水分を十分に含んでいる状態あるいは高湿下をいう。
【発明の効果】
【0024】
本発明の長短複合紡績糸によれば、伸張率・伸張回復率に優れ、かつ抗ピリング性、抗スナッギング性に優れた編地を得ることができる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の評価は下記の方法で行った。
【0026】
<糸の測定>
芯部に使用したフィラメント糸及び長短複合紡績糸について、以下の通り測定した。
(1)捲縮率:芯部に使用したフィラメント糸について、JIS L1013 伸縮性:A法に基づき、前処理として沸水中に入れ30分処理した後、一昼夜自然乾燥した試料を用いて測定を行い、結果をJIS L1015の条件で算出して捲縮率(%)で示した。
(2)熱水収縮率:得られた長短複合紡績糸について、JIS L1013 寸法変化率における熱水寸法変化率:A法(かせ寸法変化率)に基づき測定を行い、結果を熱水寸法変化率(%)で示した。
【0027】
<生地の測定>
得られた長短複合紡績糸を用いた編地について、以下の通り測定を行った。
(1)伸長率:JIS L1096 伸縮織物及び編物の伸縮性における伸び率:D法(編物の定荷重法)に基づき測定し、結果を伸び率(%)で示した。
(2)伸長回復率:JIS L1096 伸縮織物及び編物の伸縮性における伸張回復率及び残留ひずみ率:E法(繰返し定荷重法)に基づき測定を行い、結果を伸張回復率(%)で示した。
(3)ピリング:JIS L1076A法(ICI形法)に基づき測定し、結果を級判定で示した。
(4)スナッギング:JIS L1058 D−3法(金鋸法)に基づき測定し、結果を級判定で示した。
(5)生地外観:得られた編地について検反台上で外観を確認し、以下3段階で判定を行った。
○:生地外観に問題は見られず、良好な生地外観である。
△:外観上で気になる欠点が散見される。
×:外観上で気になる欠点が多く見受けられる。
(6)着用感:得られた編地を用いてTシャツを縫製し、これを着用して運動した際の着用感について、動きやすさ、肌触り及び汗冷え感から以下3段階で判定を行った。
○:動きやすく、汗冷え感は少なく、良好な肌触りである。
△:動きやすさ及び/または汗冷え感及び/または肌触りで、やや気になる点がある。
×:動きやすさ及び/または汗冷え感及び/または肌触りでかなり不快と感じる点がある。
【0028】
実施例1
公知のリング紡績機からなる精紡装置を用い、芯部に配するマルチフィラメント糸として、ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV:1.2 三菱化学社製 商品名「ノバデュラン5020」)とポリエチレンテレフタレート(固有粘度IV:0.45)が質量比50:50で並列に配されたポリエステルフィラメント仮撚加工糸(60dtex/24f)を用意し、鞘部に配するポリエステル短繊維束として、リン酸1.3モル%共重合したポリエチレンテレフタレート短繊維(1.45デシテックスの粗糸130ゲレン/30ヤード)を用意し、粗糸をバックローラーより供給し、エプロン、フロントローラーにてドラフト率37.15倍でドラフトし、マルチフィラメント糸を短繊維束と重なるようにフロントローラーより供給した後、Z撚、撚数24回/吋で撚り掛けし、40番手の複合紡績糸とした。芯部/鞘部の比率は40/60であった。なお、フィラメントを構成するポリエスエルの固有粘度は、フェノールとテトラクロロエタンとの等質量混合物を溶媒とし20℃で測定した。
【0029】
得られた長短複合紡績糸のみを使用し、30インチ28ゲージの丸編機を用いて天竺編地を製編し、得られた生機を精練後、液流染色機中で140℃×30分の湿潤状態での熱処理を施した後、プレセット−染色−乾燥−吸水樹脂付与−ファイナルセットと加工を進め、目付160g/m
2の丸編生地を得た。この生地の密度は48w/吋×60c/吋、編込長は2.65mm/ループであり、カバーファクターは0.597であった。
【0030】
比較例1
芯部に配されるポリエステルマルチフィラメント糸として、高収縮成分として、2−2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン5モル%とイソフタル酸8モル%とを、エチレングリコールとテレフタル酸と共に共重合させたポリエステル系共重合体と用い、低収縮成分として、ポリエチレンテレフタレートとが用いられ、これらが質量比50:50で並列に配されたポリエステル複合マルチフィラメント糸(56dtex/12f)を用いたこと、紡績糸を得る際のドラフト率を37.15倍としたこと以外は、実施例1と同様にして、40番手の複合紡績糸を得た。芯部/鞘部の比率は38/62であった。
【0031】
得られた紡績糸のみを用いて、実施例1と同様にして、編地を製編、加工し、目付150g/m
2の丸編生地を得た。生地の密度は、生地の密度は46w/吋×58c/吋、編込長は2.70mm/ループであり、カバーファクターは0.586であった。
【0032】
比較例2
芯部に配されるポリエステルマルチフィラメント糸として、ポリエチレンテレフタレートのみからなる仮撚加工糸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして紡績を行い、40番手の複合紡績糸を得た。芯部/鞘部の比率は40/60であった。得られた紡績糸のみを用いて、実施例1と同様にして編地を製編、加工し、目付154g/m
2の丸編生地を得た。生地の密度は37w/吋×56c/吋、編込長は2.76mm/ループであり、カバーファクターは0.0573であった。
【0033】
比較例3
実施例1において、芯部に配される仮撚加工糸の総繊度を110dtex/48fとしたこと、ポリエステル短繊維束の番手を60ゲレン/30ヤードとしたこと、ドラフト率を41.13倍としたこと以外は、実施例1と同様にして紡績を行い、40番手の紡績糸とした。芯部/鞘部の比率は75/25であった。得られた紡績糸のみを用いて、実施例2と同様にして編地を製編、加工し、目付155g/m
2の丸編生地を得た。生地の密度は50w/吋×61c/吋、編込長は2.63mm/ループであり、カバーファクターは0.0601であった。
【0034】
比較例4
実施例1において、芯部に配される仮撚加工糸の総繊度を22dtex/12fとし、ポリエステル短繊維束の番手を180ゲレン/30ヤードとしたこと、ドラフト率35.94倍としたこと以外は、実施例1と同様にして紡績を行い、40番手の紡績糸とした。芯部/鞘部の比率は15/85であった。得られた紡績糸のみを用いて、実施例1と同様にして編地を製編、加工し、目付158g/m
2の丸編生地を得た。この生地の密度は38w/吋×55c/吋、編込長は2.69mm/ループであり、カバーファクターは0.0587であった。
【0035】
比較例5
実施例1において、鞘部に配されるポリエステル短繊維として、リン酸を共重合していないポリエチレンテレフタレート短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして紡績を行い、40番手の紡績糸とした。芯部/鞘部の比率は40/60であった。得られた紡績糸のみを用いて、実施例1と同様にして編地を製編、加工し、目付158g/m
2の丸編生地を得た。この生地の密度は47w/吋×59c/吋、編込長は2.64mm/ループであり、カバーファクターは0.0599であった。
【0036】
実施例1及び比較例1〜5のマルチフィラメント糸および紡績糸について、評価結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1〜5の編地について、評価結果を表2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1、表2に示す通り、実施例1は、ストレッチ性に優れ、抗ピリング性・抗スナッギング性について良好な編地であり、外観、着用感共に優れていた。
【0040】
一方、比較例1は、抗ピリング性、スナッギング性ともに、実施例よりも劣るものであった。
【0041】
比較例2は、得られた編地はストレッチ性に劣り、抗スナッギング性も劣るものであった。
【0042】
比較例3は、紡績糸における芯部のフィラメント糸の比率が大きいため、鞘部の短繊維束で十分にカバリングできず、結果として外観的に斑が大きく、抗スナッギング性に劣るものであった。加えて、精紡不良・繋ぎ合わせ不良等、紡績工程でも問題があった。
【0043】
比較例4は、紡績糸における芯部のフィラメント糸の比率が小さいため、鞘部の短繊維束が、芯部のフィラメント糸の動きを強く拘束して、十分に捲縮が発現できず、結果としてストレッチ性や抗スナッギング性に劣るものであった。
【0044】
比較例5は、鞘部の短繊維強度が高過ぎために、ピリングが多く発生した。また、ピリングが多く発生することから、スナッギングの評価にも劣るものとなった。