(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の発電素子と前記第二の発電素子とが、前記振動部材から及ぼされる振動により該第一の発電素子および該第二の発電素子に対して一方への圧縮変形と他方への引張変形とが交互に繰り返し生ぜしめられるように配置されている請求項1に記載の磁歪素子利用の振動発電装置。
前記第一の発電素子と前記第二の発電素子が互いに並列的に配置されていると共に長さ方向の両端部分が相互に固定されることによって複合構造の振動変形部材が構成されており、
前記振動部材による振動が該振動変形部材に対して曲げ方向に及ぼされた際に、該第一の発電素子および該第二の発電素子の一方に圧縮変形が生ぜしめられると共に他方に引張変形が生ぜしめられる請求項2に記載の磁歪素子利用の振動発電装置。
前記第一の発電素子と前記第二の発電素子との少なくとも一方の側における磁路上に磁気抵抗調節機構が設けられている請求項1〜3の何れか一項に記載の磁歪素子利用の振動発電装置。
前記第一の発電素子の飽和磁化Ms1に対して、前記第二の発電素子の飽和磁化Ms2が下式を満たしている請求項1〜6の何れか一項に記載の磁歪素子利用の振動発電装置。
Ms1*0.4≦Ms2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、振動エネルギーの電気エネルギーへの変換効率の向上が図られ得る、新規な構造とされた磁歪素子利用の振動発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、振動部材に装着されて磁歪材料の逆磁歪効果を利用して振動エネルギーを電気エネルギーに変換する振動発電装置において、磁歪材料からなり第一のコイルが巻かれた第一の発電素子と、磁歪材料でない磁性材料からなり第二のコイルが巻かれた第二の発電素子とに対して、磁石およびヨーク部材から及ぼされるバイアス磁界が並列的に及ぼされるようにして、前記振動部材から及ぼされる振動により該第一の発電素子に惹起される前記バイアス磁界による磁束の変化を前記第一のコイルで電気エネルギーとして取り出されるようにすると共に、該第一の発電素子の圧縮及び引張変形に伴う磁束の変化により及ぼされる前記第二の発電素子の磁束の変化を前記第二のコイルで電気エネルギーとして取り出されるようにした磁歪素子利用の振動発電装置を、特徴とする。
【0010】
本態様の振動発電装置では、磁歪素子である第一の発電素子に惹起される磁気抵抗の変化に着目し、第一の発電素子と並列的にバイアス磁界が及ぼされる第二の発電素子を、磁歪材料を用いないで構成した。このような並列的な磁気回路では、磁歪素子の逆磁歪作用に基づいて第一の発電素子の磁気抵抗ひいては透磁率が変化せしめられるのに伴って、磁歪素子でなく単なる磁性材料で構成された第二の発電素子においても磁束が変化せしめられることとなる。それ故、振動変形せしめられる第一の発電素子における磁束の主動的な変化を第一のコイルで電気エネルギーとして取り出すと共に、第一の発電素子の磁束の変化に伴って受動的に惹起される第二の発電素子における磁束の変化を第二のコイルで電気エネルギーとして取り出すことができる。その結果、磁歪材料という特別な材質を用いる必要なく単なる磁性材料で構成された第二の発電素子を用いて、磁歪素子利用の振動発電装置における振動エネルギーから電気エネルギーへの変換効率の向上が図られ得るのである。
【0011】
なお、本発明の振動発電装置では、主動的な磁束が生ぜしめられる第一の発電素子には振動外力によって応力が惹起される必要があるが、第一の発電素子の磁気抵抗変化に伴って受動的な磁束変化が生ぜしめられる第二の発電素子は振動外力によって応力が生ぜしめられる必要はない。それ故、第二の発電素子を、振動外力が及ぼされる構造とする他、振動外力が及ぼされない構造とすることも可能である。
【0012】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る振動発電装置であって、前記第一の発電素子と前記第二の発電素子とが、前記振動部材から及ぼされる振動により該第一の発電素子および該第二の発電素子に対して一方への圧縮変形と他方への引張変形とが交互に繰り返し生ぜしめられるように配置されているものである。
【0013】
本態様の振動発電装置では、第一の発電素子に対して第二の発電素子を強度部材として利用することも可能であり、これにより、例えば、第二の発電素子の強度を利用して、第一の発電素子に対して曲げ方向に及ぼされる外力のモーメント中心を第一の発電素子の外部に設定することで、第一の発電素子に対して圧縮/引張方向の応力を生ぜしめて発電効率の向上を図ることが可能となる。
【0014】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様に係る振動発電装置であって、前記第一の発電素子と前記第二の発電素子が互いに並列的に配置されていると共に長さ方向の両端部分が相互に固定されることによって複合構造の振動変形部材が構成されており、前記振動部材による振動が該振動変形部材に対して曲げ方向に及ぼされた際に、該第一の発電素子および該第二の発電素子の一方に圧縮変形が生ぜしめられると共に他方に引張変形が生ぜしめられるようになっているものである。
【0015】
本態様の振動発電装置では、第一の発電素子と第二の発電素子が機械構造的に並列的に配された梁を構成する複合構造の振動変形部材とされている。それ故、かかる振動変形部材に対して外力が曲げ方向に及ぼされた際の中立軸を、例えば第一の発電素子と第二の発電素子の中間部分に設定することで、磁歪材料からなる第一の発電素子に対して圧縮変形と引張変形を交互に一層効率的に生ぜしめることが可能になる。
【0016】
本発明の第四の態様は、前記第一〜第三の何れかの態様に係る振動発電装置であって、前記第一の発電素子と前記第二の発電素子との少なくとも一方の側における磁路上に磁気抵抗調節機構が設けられているものである。
【0017】
本態様の振動発電装置では、磁気抵抗調節機構を採用したことで、並列的な磁路を形成する第一の発電素子側の磁路と第二の発電素子側の磁路とにおける磁気抵抗を相対的に調節することが可能になる。そして、第一の発電素子側の磁路と第二の発電素子側の磁路とにおける磁気抵抗を相対的に調節することで、第二の発電素子に惹起される磁束の変化量ひいては第二のコイルで得られる電気エネルギーをより効率的に増大させることが可能になる。
【0018】
本発明の第五の態様は、前記第四の態様に係る振動発電装置であって、前記磁気抵抗調節機構として、前記第一の発電素子側と前記第二の発電素子側との互いに並列的な磁路の少なくとも一方の磁路上に設けられた磁気ギャップと、前記第一の発電素子側と前記第二の発電素子側との互いに並列的な磁路の少なくとも一方の磁路上に配置された非磁性材と、前記第一の発電素子および前記第二の発電素子における相対的な形状差との、少なくとも一つが採用されているものである。
【0019】
本態様の振動発電装置では、磁気抵抗調節機構を簡単な部材や構造をもって実現することが可能になる。
【0020】
本発明の第六の態様は、前記第一〜第五の何れかの態様に係る振動発電装置であって、前記第一の発電素子側と前記第二の発電素子側との互いに並列的な磁路において、該第一の発電素子側の磁路における磁気抵抗R1の最小値R1
min と最大値R1
max に対して、該第二の発電素子側の磁路が下式で表される磁気抵抗R2を有しているものである。
R1
min *1.2≦R2≦R1
max *0.8
【0021】
本態様の振動発電装置では、第一の発電素子側と第二の発電素子側との磁路における各磁気抵抗を上式を満足するように調節することで、第一の発電素子側に惹起される逆磁歪作用に基づく磁束の変化に伴って第二の発電素子側に惹起される磁束の変化量を一層大きく確保することが可能になる。その結果、第一及び第二のコイルによって電気エネルギーを一層効率的に得ることが可能になるのである。
【0022】
本発明の第七の態様は、前記第一〜第六の何れかの態様に係る振動発電装置であって、前記第一の発電素子の飽和磁化Ms1に対して、前記第二の発電素子の飽和磁化Ms2が下式を満たしているものである。
Ms1*0.4≦Ms2
【0023】
本態様の振動発電装置では、第一の発電素子と第二の発電素子とを相互に断面積を大きく異ならせることなく、第一の発電素子側に惹起される逆磁歪作用に基づく磁束の変化に伴って第二の発電素子側に惹起される磁束の変化量をより大きく確保することが可能になる。なお、本態様では、前記第六の態様に記載の条件式も合わせて満たすことが好適である。
【0024】
本発明の第八の態様は、前記第一〜第七の何れかの態様に係る振動発電装置であって、前記バイアス磁界におけるバイアス磁束Φが、前記第一の発電素子側の磁路における磁気抵抗R1の最小値R1
min および最大値R1
max に対して下式を満たしているものである。
Φ’*0.4≦Φ≦Φ’*1.5
Φ’=((√(R1
max *R1
min )+R1
min )/√(R1
max *R1
min ))
*Ms1
なお、上式中、Ms1は第一の発電素子の飽和磁化である。
【0025】
本態様の振動発電装置では、バイアス磁界を不必要に大きくすることなく、第一の発電素子の逆磁歪作用による磁束の変化量を効率的に得ることが可能になる。また、本態様では、第二の発電素子の飽和磁化を、第一の発電素子の飽和磁化以上の値に設定することが好ましく、それによって、第二の発電素子においても、断面積を第一の発電素子に比して著しく大きくする必要もなく、大きな磁束の変化量を効率的に確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に従う構造とされた磁歪素子利用の振動発電装置では、磁歪材料からなる第一の発電素子に対する磁路を非磁歪材料からなる第二の発電素子によって並列的に構成し、第一の発電素子に対して主動的に惹起される磁束変化に加えて、第二の発電素子に対して受動的に惹起される磁束変化も利用することにより、第一の発電素子に及ぼされる振動エネルギーを第一のコイルと第二のコイルにより電気エネルギーへ効率的に変換することが出来て、発電効率の向上が図られ得る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
まず、
図1および
図2には、本発明の第一の実施形態としての磁歪素子利用の振動発電装置10の正面図および平面図が示されている。この振動発電装置10は、自動車の車両ボデー等の振動部材に装着されて用いられる。そして、振動部材から加振力として及ぼされる振動エネルギーを電気エネルギーに変換して起電力を取り出し得るようになっている。
【0030】
より詳細には、振動発電装置10は、振動部材11に対して固定的に取り付けられる取付側部材12を備えていると共に、該取付側部材12から離隔配置されたマス側部材14が設けられている。そして、これら取付側部材12とマス側部材14とが、第一の発電素子16および第二の発電素子18によって連結されている。
【0031】
第一の発電素子16と第二の発電素子18は、何れも、板状やロッド状などの長手状とされている。そして、第一の発電素子16および第二の発電素子18は、互いに所定距離を隔てて並列的に配置されており、それぞれ、長さ方向の各端部が取付側部材12とマス側部材14に固着されることによって、取付側部材12とマス側部材14の間に跨がって配されている。
【0032】
なお、第一及び第二の発電素子16,18における各端部の取付側部材12やマス側部材14に対する固定構造は限定されず、圧入や溶着の他、接着やカシメ、ボルトやリベットなどの公知の各種の固定構造が適宜に採用され得る。
【0033】
而して、長さ方向の両側に配された取付側部材12とマス側部材14が、第一及び第二の発電素子16,18で連結されることにより、全体として長手状形態をもった単一の梁状部材として振動発電装置10が構成されている。かかる振動発電装置10は、取付側部材12が直接的又は適宜にブラケット等を介して間接的に振動部材11に取り付けられることにより、振動部材11から外方に突出する片持梁構造の振動発電装置を構成することとなる。
【0034】
ここにおいて、第一の発電素子16は、磁歪素子である材質によって構成されている。即ち、第一の発電素子16は、変形に伴う応力変化で透磁率が変化するものであり、第一の発電素子16の逆磁歪効果により機械的エネルギーである振動が磁気的エネルギーに変換されることとなる。なお、第一の発電素子16を構成する磁歪材料は特に限定されるものでないが、強度に優れた鉄系の磁歪材料が望ましく、例えば、鉄−ガリウム系合金や鉄−コバルト系合金、鉄−ニッケル系合金、テルジウム−ジスプロシウム−鉄系合金等が、好適に採用され得る。
【0035】
また、第一の発電素子16には、第一のコイル20が外挿状態で巻回されており、第一の発電素子16において逆磁歪効果で惹起される振動変形に伴う磁気エネルギーとしての磁束変化が、第一のコイル20により電気エネルギーとしての起電力に変換されるようになっている。そして、この第一のコイル20の巻線の両端が、必要に応じて整流装置等を介して、図示しないキャパシタ等の蓄電装置に電気的に接続されており、第一の発電素子16で得られる電気エネルギーが外部へ取り出されるようになっている。
【0036】
一方、第二の発電素子18は、それ自体が振動変形に伴って能動的に磁束変化を惹起させる必要がなく、磁歪素子でない磁性材料からなる材質によって構成されている。なお、第二の発電素子18を構成する磁性材料は、鉄および鉄系合金やハーマロイ系合金、フェライト化合物、アモルファスなどの磁路を構成し得る公知の各種の強磁性体が採用可能であり、特に限定されるものでないが、目的とする受動的な発電を効率的に達成するために軟磁性材料であることが望ましい。なかでも、初透磁率や最大透磁率などの透磁率が高いこと、残留磁束密度や飽和磁束密度が高いこと、保磁力が小さいこと、などを指標として選択採用されることが望ましい。具体的には、例えばFe,Co,Ni,Gb,Tb,Dy等元素とそれらの合金・金属間化合物,FeSi,NiFe,CoFe,SmCo,NdFeB,CoCr,CoPtなどのフェロ磁性を有する強磁性材や、Fe,Ni,Co酸化物等の如き各種フェライト系材料,TbFe等の如きFe,Coなどの重希土類金属の金属間化合物などのフェリ磁性を有する強磁性材が好適に用いられ得る。
【0037】
そして、磁歪素子でない第二の発電素子18には、ヨーク部材22が組み付けられており、第一の発電素子16と並列的な磁気回路が構成されていると共に、かかる磁気回路に対してバイアス磁界を及ぼす磁石手段としての永久磁石24が設けられている。具体的には、ヨーク部材22は、第一及び第二の発電素子16,18の側方を並列的に延びて配されている。このヨーク部材22は、取付側部材12とマス側部材14との間に跨がって延びる長手形状とされており、第一及び第二の発電素子16,18に対して側方に離隔して配置されている。そして、ヨーク部材22の長さ方向一方の端部が、永久磁石24を介して、第一及び第二の発電素子16,18における取付側部材12側の端部に対して磁気的に接続されている。また、ヨーク部材22の長さ方向他方の端部は、接続ヨーク26を介して、第一及び第二の発電素子16,18におけるマス側部材14側の端部に対して磁気的に接続されている。
【0038】
これにより、
図3にモデル的に示すように、第一及び第二の発電素子16,18とヨーク部材22、接続ヨーク26および永久磁石24により、閉磁路状の磁気回路が構成されている。この磁気回路には永久磁石24の発生磁力に基づいてバイアス磁束が及ぼされていると共に、かかる磁気回路上では第一の発電素子16と第二の発電素子18が互いに並列的な磁路を構成している。
【0039】
それ故、このような磁気回路では、
図4にモデル的に示すように、振動部材11から振動発電装置10に振動が及ぼされて第一の発電素子16が変形することで逆磁歪効果で磁気抵抗が変化すると、第一の発電素子16と並列回路を構成する第二の発電素子18の磁気抵抗が相対的に変化する。その結果、磁歪素子からなる第一の発電素子16の主動的な磁束の変化に伴って、磁歪素子でない第二の発電素子18にも、受動的にしろ、磁束の変化が惹起されることとなる。因みに、本実施形態に従う構造とされた振動発電装置10において、振動入力に際して第一の発電素子16および第二の発電素子18において主動的および受動的に惹起される磁束の変化態様をシミュレーションした演算結果を、
図5に示す。
【0040】
そして、本実施形態では、かかる第二の発電素子18に対して、第二のコイル28が外挿状態で巻回されている。即ち、第二の発電素子18は、磁歪素子でないものの、振動発電装置10へ振動が及ぼされた際には、上述のように磁束変化が生ぜしめられることから、かかる第二の発電素子18に生ぜしめられる磁気エネルギーとしての磁束変化が、第二のコイル28により電気エネルギーとしての起電力に変換されるようになっている。そして、この第二のコイル28を通じて得られた電気エネルギーが、第一のコイル20と同様に、外部へ取り出されるようになっている。
【0041】
なお、
図1,2では、第一の発電素子16と第二の発電素子18が略同じ形状で示されているが、異なっていても良く、円形断面や矩形断面などの断面形状も各別に任意に採用され得る。また、これら第一及び第二の発電素子16,18は、全長に亘って一定の断面形状である必要もないし、長さ方向に湾曲等していても良い。更にまた、
図1,2では、第一の発電素子16と第二の発電素子18が略平行に延びる状態で配されているが、相互に平行配置されていなくても良い。
【0042】
尤も、本実施形態の振動発電装置10は、振動部材11に対して片持梁構造をもって装着されて、振動部材11における振動が曲げ方向の加振力として作用せしめられることとなる。それ故、第一及び第二の発電素子16,18の並設面である
図1の紙面と略平行な平面内で曲げ方向の加振力が及ぼされるようにすると共に、第一及び第二の発電素子16,18が振動部材11の振動方向に対して略直交する方向に延びる状態で、第一の発電素子16と第二の発電素子18を互いに略平行に配置することが望ましい。
【0043】
これにより、振動部材11における直線的な往復加振力を、振動発電装置10の曲げ方向の加振力として高効率で及ぼすことができると共に、振動発電装置10の曲げ方向の振動変形に基づいて第一の発電素子16と第二の発電素子18に対して圧縮応力およびと引張応力をより効率的に交互に惹起せしめことが可能になる。その結果、第一の発電素子16における主動的な磁束変化量を一層効率的に生ぜしめて、第一及び第二の発電素子16,18の磁束変化ひいては第一及び第二のコイル20,28によって取得される電気エネルギーの増大を図ることが可能になる。特に、本実施形態では、第一及び第二の発電素子16,18の両端が取付側部材12およびマス側部材14によって固定されており、これらにより複合構造の振動変形部材が構成されている。これにより、かかる振動変形部材に対して振動が及ぼされることにより、第一の発電素子16および第二の発電素子18の一方に圧縮変形が生ぜしめられる一方、他方に引張変形が生ぜしめられる。このように、第一及び第二の発電素子16,18に対して一体として振動が加えられることにより、圧縮および引張変形が更に容易に惹起され得る。
【0044】
なお、ヨーク部材22は、例えばその剛性を利用して、振動入力時に第一の発電素子16に圧縮及び引張方向の応力を生ぜしめる強度部材として利用することも可能であるが、本実施形態では、第一及び第二の発電素子16,18の側方に配されており、第一の発電素子16に変形抵抗を及ぼして発生応力ひいては振動エネルギーから電気エネルギーへの変換効率を低下させるおそれがある。そこで、本実施形態では、かかるヨーク部材22として、曲げ剛性が小さい材質や断面係数の小さい構造を採用することが望ましい。また、後述するように、ヨーク部材22の一端側を第一及び第二の発電素子16,18に対して隙間等を隔てて配置して相対変位可能に構成することも可能である。
【0045】
上述の如き構造とされた本実施形態の振動発電装置10では、磁歪素子からなる第一の発電素子16と並列的磁気回路を構成するように第二の発電素子18を配したことにより、振動入力に際して、第一の発電素子16に生ぜしめられる主動的な磁束変化と併せて、第二の発電素子18にも受動的な磁束変化が生ぜしめられる。それ故、希少な磁歪材料を多く必要とすることなく、単なる磁性材料からなる第二の発電素子18を巧く利用して、第一の発電素子16と第一のコイル20のみからなる場合に比してより効率的に振動エネルギーを電気エネルギーに変換して大きな起電力を取得することが可能になるのである。
【0046】
なお、第一の発電素子16と第二の発電素子18は、磁気回路上で磁束を相互補完的に導く並列回路を構成している。従って、第一の発電素子16および第二の発電素子18におけるそれぞれの磁束および磁束変化量を効率的に確保するには、並列磁路において、第一の発電素子16側の磁路における磁気抵抗R1の最小値R1
min と最大値R1
max と、第二の発電素子18側の磁路における磁気抵抗R2が、下式の関係を満足することが望ましい。尤も、本実施形態では、第一の発電素子16と第二の発電素子18が各単独で並列磁路を構成していることから、第一の発電素子16自体の磁気抵抗をR1、第二の発電素子18自体の磁気抵抗をR2として設定することができる。
R1
min *1.2≦R2≦R1
max *0.8
【0047】
また、第一の発電素子16の磁気抵抗が最小になった場合の第二の発電素子18の磁束Φ2
min と、第一の発電素子16の磁気抵抗が最大になった場合の第二の発電素子18の磁束Φ2
max は、それぞれ下式で表される。なお、Φはバイアス磁束である。
Φ2
min =R1
min /(R1
min +R2)*Φ
Φ2
max =R1
max /(R1
max +R2)*Φ
【0048】
従って、これら両磁束Φ2
min ,Φ2
max の差として表される第二の発電素子18の磁束変化量について、それが最大値となる条件式として下式を得ることができる。
R2=√(R1
max *R1
min )
それ故、第二の発電素子18における磁気抵抗R2の値は、√(R1
max *R1
min )の値を指標として所定の範囲内、例えば0.8〜1.2倍の範囲内に設定することが好適である。
【0049】
また、第一の発電素子16の主動的な磁気抵抗変化に伴って第二の発電素子18に惹起される受動的な磁気抵抗変化を十分に確保するには、第二の発電素子18において十分な磁束変化量が許容されるべきである。それ故、第一の発電素子16の飽和磁化Ms1に対して、第二の発電素子18の飽和磁化Ms2が下式を満たしていることが望ましい。
Ms1*0.4≦Ms2
【0050】
なお、第一の発電素子16に対して第二の発電素子18の断面積を異ならせて設定することができる場合には、第一の発電素子16の断面積A1と第二の発電素子18の断面積A2を考慮して、上式は下記のとおり書き換えることができる。
Bm1*A1*0.4≦Bm2*A2
なお、上式中、Bm1は第一の発電素子16の飽和磁束密度、Bm2は第二の発電素子18の飽和磁束密度である。
【0051】
更にまた、バイアス磁束Φは、小さすぎると発電効率が低下する一方、大きすぎると第二の発電素子18側の磁束変化量ひいては発電効率が低下するおそれがある。そこで、バイアス磁界におけるバイアス磁束Φは、第一の発電素子16側の磁路における磁気抵抗R1の最小値R1
min と最大値R1
max に対して、下式を満足するように設定することが望ましい。
Φ’*0.4≦Φ≦Φ’*1.5
Φ’=((√(R1
max *R1
min )+R1
min )/√(R1
max *R1
min ))
*Ms1
ただし、上式中、Ms1は第一の発電素子の飽和磁化である。
また、第二の発電素子18側における受動的な磁束変化量が許容されるように、第二の発電素子18側の飽和磁化は、第一の発電素子16側の飽和磁化以上に確保されることが望ましく、同じ断面積を前提とする場合には、第二の発電素子18の飽和磁束密度が第一の発電素子16の飽和磁束密度以上に設定されることが望ましい。
【0052】
次に、
図6〜7には、本発明の第二の実施形態としての磁歪素子利用の振動発電装置30が示されていると共に、
図8には、かかる振動発電装置30の磁気回路構成がモデル的に示されている。
【0053】
本実施形態の振動発電装置30は、第一の実施形態において第一の発電素子16側の磁路と並列的に設けられた第二の発電素子18側の磁路の別態様を例示するものである。それ故、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、それぞれ、図中に第一の実施形態と同じ符号を付することにより詳細な説明を省略する。
【0054】
すなわち、本実施形態では、第一の発電素子16側の磁路と並列的に設けられた第二の発電素子18側の磁路において、第二の発電素子18と直列的に非磁性の特性を有する抵抗部材32が配設されている。具体的に例示すると、
図8に示されているように、第一の発電素子16として鉄−ガリウム合金からなる磁歪素子を採用することとして、その比透磁率を100とする一方、第二の発電素子18としてフェライト系ステンレスからなる軟磁性材を採用することとして、その比透磁率を500とした場合に、かかる抵抗部材32として比透磁率が1の非磁性材を介在させることができる。
【0055】
そして、この抵抗部材32を介在させたことにより、比透磁率が大きい第二の発電素子18を採用しつつ、第二の発電素子18側の磁路の磁気抵抗を増大させることが出来るのである。これにより、互いに並列的な磁路を構成する第一の発電素子16側の磁気抵抗と第二の発電素子18側の磁気抵抗とを、抵抗部材32により相対的に調節することが可能になる。なお、抵抗部材32としては、合成樹脂の他、非磁性や反磁性を示す金属などを採用することも可能である。
【0056】
その結果、第一の実施形態において好適なチューニング範囲として例示した前述の各条件式を満足するように設定することが容易になって、より高度な発電効率を得ることが可能になる。しかも、抵抗部材32を設けたことにより、第二の発電素子18の材質や形状等の設計自由度も大きく確保され得て、例えば製造の容易化や製造コストの低減等を図ることも容易になる。
【0057】
なお、第二の発電素子18側の磁気抵抗を調節する具体的態様は、第二の実施形態に限定的に解釈されるものでない。具体的には、例えば
図9(a)〜(c)に示す如き態様が、第二の実施形態における第二の発電素子18側の磁気抵抗を調節する構造として、何れも、第二の実施形態において第二の発電素子18側に設けられた抵抗部材32に代えて又は加えて、採用することが可能である。
【0058】
すなわち、
図9(a)に示されているように、第二の発電素子18を、その有効断面積を十分に小さく設定した軟磁性材等で構成することにより、小さな断面積によって磁気抵抗を大きく調節することも可能である。そして、小さな断面積の第二の発電素子18における強度や剛性は、重ね合わせるように設けた非磁性材からなる補強部材34で確保することができる。
【0059】
また、
図9(b)には、第二の発電素子18が、磁路の長さ方向で複数(図示では2つ)に分断された軟磁性材18a,18bで構成されることで、各分断部分に設定された磁気ギャップにて磁気抵抗を大きく調節した態様が例示されている。なお、本実施形態において第二の発電素子18の強度や剛性は、軟磁性材18a,18bの分断部分を非磁性材からなる連結部材36で相互に連結固定することによって確保されている。
【0060】
更にまた、
図9(c)には、第二の発電素子18自体に肉抜状のスリットや薄肉部を設けることにより、全体として強度や剛性を確保しつつ、有効断面積を小さくすることで磁気抵抗を大きく調節可能にした態様が例示されている。なお、第二の発電素子18に設けるスリットや薄肉部の具体的形状や大きさ等は、何等限定されるものでない。
【0061】
さらに、前記第一及び第二の実施形態では、第二の発電素子18にも振動入力に伴う外力が及ぼされるようになっており、また、第一の発電素子16と機械的にも並設構造とされて、曲げ方向の振動入力に際して第一の発電素子16に圧縮/引張方向の応力を生ぜしめる強度部材として作用するようになっていた。しかし、かかる第二の発電素子18は、そもそも、変形や応力に基づいて主動的に磁束変化を生ずるものでないことから、変形や応力が生ぜしめられる構造である必要はない。第二の発電素子18に対して振動入力が積極的に及ぼされない構造とした態様を、以下に実施形態として幾つか例示する。
【0062】
図10〜11に示された本発明の第三の実施形態としての磁歪素子利用の振動発電装置40は、振動部材41が図中の左右方向に往復振動するものであり、片持梁構造をもって図中で上方に突出して設けられた振動発電装置40は、取付側部材12とマス側部材14の間に跨がって並列的に延びるように設けられた第一の発電素子16と強度部材42を備えている。そして、振動方向となる図中の左右方向へのマス側部材14の揺動変位に際して、第一の発電素子16と強度部材42とが協働して変形することとなり全体的な断面係数が大きくされて、第一の発電素子16には圧縮/引張方向の変形と応力が生ぜしめられるようになっている。
【0063】
一方、第一の発電素子16には、第二の発電素子18が並列的な磁路を構成するように設けられている。この第二の発電素子18の一方の端部は、永久磁石44を介して、第一の発電素子16と並列的に、ヨーク部材46の一方の端部に固定されている。また、第二の発電素子18の他方の端部は、第一の発電素子16と並列的に、ヨーク部材46の他方の端部に対して磁気的に接続されている。なお、磁気的な接続構造として、本実施形態では、隙間を隔てて対向配置された構造が採用されており、第二の発電素子18やヨーク部材46に対して、振動外力が直接には及ぼされないようになっている。
【0064】
また、
図12に示された本発明の第四の実施形態としての磁歪素子利用の振動発電装置50は、第三の実施形態と同様に振動部材41が図中の左右方向に往復振動するものであって、取付側部材12とマス側部材14の間に跨がって並列的に延びるようにして、2本の第一の発電素子16,16が設けられている。そして、これら2本の第一の発電素子16,16が相互に補強部材として機能することで、振動入力に際して第一の発電素子16に圧縮/引張方向の変形と応力が生ぜしめられるようになっている。
【0065】
一方、それぞれの第一の発電素子16には、第三の実施形態と同様に、第二の発電素子18が並列的な磁路を構成するように設けられている。また、それぞれ対を為す第一の発電素子16と第二の発電素子18には、
図11に示されている振動発電装置40と同様な構造をもって、ヨーク部材46が配されてバイアス磁路が構成されている。即ち、本実施形態においても、第二の発電素子18やヨーク部材46には、振動外力が直接には及ぼされない。
【0066】
さらに、
図13〜14に示された本発明の第五の実施形態としての振動発電装置60は、前記第三の実施形態における強度部材42の機能が、振動部材を利用して発揮されるようになっている。即ち、長手状の第一の発電素子16が、平板状の振動部材61の表面に沿って延びる状態で所定距離を隔てて配されている。かかる振動部材61は、表面が湾曲するような曲げ変形を伴う振動が生ぜしめられるものとされている。第一の発電素子16の長さ方向の両端は、それぞれ、所定厚さのスペーサ62を介して、振動部材61の表面に重ね合わされており、固定用ボルト63a,63bによって、振動部材61の互いに離隔した部位に固定されている。
【0067】
これにより、振動部材61における曲げ振動が、スペーサ62の厚さを利用して増幅されて、第一の発電素子16に対して長さ方向の圧縮/引張変形を生ぜしめるようになっている。従って、本実施形態では、第三の実施形態における強度部材42を設けることなく、振動部材61の振動を第一の発電素子16に及ぼすことで、第一の発電素子16に圧縮/引張応力を有効に生ぜしめることができる。
【0068】
また、本実施形態では、第二の発電素子18が、第一の発電素子16に沿って長さ方向に延びるようにして、第一の発電素子16と並列的に離隔して配されている。そして、第二の発電素子18の一方の端部が、第一の発電素子16の一方の端部に重ね合わされて、固定用ボルト63aにより、振動部材61に対して固定されている。また、第二の発電素子18の他方の端部は、第二の発電素子16の他方の端部に対して隙間を隔てて磁気的に接続された状態で、相対変位可能に対向配置されている。
【0069】
更にまた、第一及び第二の発電素子16,18には、側方に離隔して延びるヨーク部材64が並設されている。そして、ヨーク部材64の一方の端部が、永久磁石66を挟んで、第一及び第二の発電素子16,18の一方の端部に対して磁気的に接続されていると共に、ヨーク部材64の他方の端部が、第一及び第二の発電素子16,18の他方の端部に対して磁気的に接続されている。これにより、全体として閉磁路構造の磁路が構成されており、かかる磁路上で、第一の発電素子16と第二の発電素子18が、互いに並列的な磁路を構成している。なお、第一の発電素子16は、軸方向両端側において、ヨーク部材64に対して直接に接続されているが、第二の発電素子18は、軸方向一端側だけがヨーク部材64に直接に接続されており、軸方向他端側はヨーク部材64に対して所定の隙間からなる磁気抵抗調節機構を介して接続されている。
【0070】
このような構造とされた振動発電装置60においては、強度部材を特別に設けなくても、振動部材における曲げ振動によって第一の発電素子16に対して圧縮/引張変形が生ぜしめられ、逆磁歪作用による発電作用が有効に発揮される。また、第二の発電素子18やヨーク部材64には、振動外力が直接に及ぼされないようにされて、第一の発電素子16における応力変化が一層効率的に惹起されるようになっている。
【0071】
更にまた、
図15,16には、本発明の第六の実施形態としての振動発電装置70が示されている。本実施形態の振動発電装置70では、第一の発電素子16が、図中の上下方向に延びるロッド状とされていると共に、第二の発電素子18もロッド状とされて、第一の発電素子16の側方に所定距離を隔てて並設されている。なお、本実施形態では、第一の発電素子16の両側において、一対の第二の発電素子18,18が配設されている。
【0072】
そして、第一の発電素子16の下端はベース部材71上に固定的に取り付けられた支持部材72に固定されている一方、第一の発電素子16の上端は、振動部材73に対して固定的に取り付けられている。かかる振動部材73は、ベース部材71に対して、図中の上下方向で相互に接近および離隔する方向に振動変位せしめられるようになっている。そして、この振動部材73の振動が第一の発電素子16に対して、軸方向の圧縮/引張方向に直接に及ぼされるようになっている。
【0073】
一方、第二の発電素子18は、その下端が支持部材72に固定されている一方、上端は、振動部材73から離隔した自由端とされており、振動外力が及ぼされないようになっている。特に本実施形態では、第二の発電素子18の上端は、第一の発電素子16からも離隔した構造となっている。
【0074】
さらに、第一及び第二の発電素子16,18の側方には、上下方向に延びるヨーク部材74が配されている。かかるヨーク部材74は、下端が支持部材72に固定されている一方、上端が振動部材73から離隔した自由端とされており、接続部材76を介して、第二の発電素子18,18の上端に対して固定的に連結されている。このように、強磁性材で形成されて磁路を構成するヨーク部材74が設けられることで、全体として閉磁路構造の磁路が構成されており、かかる磁路上で、第一の発電素子16と第二の発電素子18,18が、互いに並列的な磁路を構成している。
【0075】
また、かかる閉磁路構造の磁路上には、例えば図示されるようにヨーク部材74の長さ方向中間部分などに位置して、永久磁石78が配されており、磁路上にバイアス磁束が及ぼされるようになっている。なお、第二の発電素子18は、軸方向両端側において、ヨーク部材74に対して直接的に接続されているが、第一の発電素子16は、軸方向下端側だけがヨーク部材74に直接的に接続されており、軸方向上端側はヨーク部材74に対して所定の隙間からなる磁気抵抗調節機構を介して接続されている。
【0076】
本実施形態の振動発電装置70においては、振動部材のベース部材に対する接近および離隔の外力が、第一の発電素子16に対して圧縮/引張方向の振動外力として及ぼされる。従って、第一の実施形態等のように曲げ振動に際して圧縮/引張応力を生ぜしめるための強度部材等の特別な構造が不要となり、構造の簡略化が図られ得る。
【0077】
また、第二の発電素子は単一でも3つ以上でも良いが、本実施形態のように複数設ければ各第二の発電素子の断面積を小さくすることもできる。なお、ヨーク部材や第二の発電素子に対しては外力が及ぼされないことが好ましい。蓋し、振動外力が及ぼされてもヨーク部材や第二の発電素子が主動的に磁束変化を生ずるものでないし、第一の発電素子にだけ振動外力を及ぼすことで振動エネルギーの電気エネルギーへの変換効率の一層の向上が図られ得るからである。
【0078】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明は上述の実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでない。
【0079】
例えば、前記第二の実施形態等では、第二の発電素子18側の磁路に対して磁気抵抗調節機構が採用されている一方、前記第六の実施形態では、第一の発電素子16側の磁路に対して隙間からなる磁気抵抗調節機構が採用されていたが、互いに並列的な磁路を構成するそれら第一の発電素子16側と第二の発電素子18側との双方に少なくとも一つの磁気抵抗調節機構を採用して調節自由度の増大を図ることも可能である。