特許第6099563号(P6099563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099563
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】p型ドープされたシリコン層
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/208 20060101AFI20170313BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20170313BHJP
   H01L 21/225 20060101ALI20170313BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20170313BHJP
   H01L 31/068 20120101ALI20170313BHJP
【FI】
   H01L21/208 Z
   C01B33/02 D
   H01L21/225 R
   H01L31/04 440
   H01L31/06 300
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-526397(P2013-526397)
(86)(22)【出願日】2011年8月19日
(65)【公表番号】特表2013-538454(P2013-538454A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】EP2011064279
(87)【国際公開番号】WO2012028476
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年8月18日
(31)【優先権主張番号】102010040231.1
(32)【優先日】2010年9月3日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヴィーバー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス パッツ
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト シュテューガー
(72)【発明者】
【氏名】ヤスミン レームクール
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−100576(JP,A)
【文献】 特開2000−031066(JP,A)
【文献】 特開2007−022959(JP,A)
【文献】 特開2006−156582(JP,A)
【文献】 米国特許第07674926(US,B1)
【文献】 特開2003−171556(JP,A)
【文献】 特開2010−135579(JP,A)
【文献】 特開2010−183011(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0022897(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/208
C01B 33/02
H01L 21/225
H01L 31/068
H01L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基材を準備する工程、
(b)少なくとも1のケイ素化合物、及び、ドーパントとして、THF、並びにNR3(式中、R=H、アルキル、アリール)からなる群から選択された錯形成剤との少なくとも1のBH3錯体を含有する処方物を準備する工程、
(c)前記処方物を前記基材に設ける工程、
(d)コーティングされた前記基材を放射線照射及び/又は熱処理し、ケイ素からなる、p型ドープされた層を形成させる工程、
を含む、
基材上に配置された少なくとも1つのp型ドープされたシリコン層を製造する方法。
【請求項2】
前記ケイ素化合物が、ケイ素−水素−化合物、ケイ素−ハロゲン化物、ケイ素−オルガニル、オリゴマーのケイ素化合物Sin2n+2又はSin2n(式中、n=8〜100及びR=H、ハロゲン、オルガニルであり、各Rは独立して選択されてよい)又はこれらケイ素化合物の任意の混合物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ケイ素化合物が、工程b)での使用前に、部分的に又は完全にオリゴマー化され、オリゴマー化された前記ケイ素化合物のモル質量は330g/mol〜10000g/molに調節される請求項2記載の方法。
【請求項4】
ケイ素を含有する処方物が溶媒を含む請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記基材のコーティングが、フレキソ/グラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、デジタルオフセット印刷及びスクリーン印刷、スプレー法、回転コーティング法、浸漬法、及び、メニスカスコーティング、スリットコーティング、スロットダイコーティング及びカーテンコーティングから選択される方法、を用いて行われる請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理を200〜1000℃の温度で実施する請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(b)〜(d)を複数回実施する請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記基材が導電性であるか又は導電性表面を有する請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
p型ドープがホウ素ドープであり、ホウ素がTHF、並びにNR3(式中、R=H、アルキル、アリール)からなる群から選択された錯形成剤とのBH3錯体の群からの化合物によって導入されたものであることを特徴とする、基材及びp型ドープされたシリコン層を含むコーティングされた基材。
【請求項10】
前記基材が導電性であるか又は導電性表面を有する、請求項9記載のコーティングされた基材。
【請求項11】
求項1から8のいずれか1項記載の方法を含む、光起電装置の製造方法
【請求項12】
少なくとも1のケイ素化合物を含む処方物を設ける工程、及び、コーティングされた前記基材を放射線照射及び/又は熱処理し、ケイ素からなる、p型ドープされた層を形成させる工程、を含む方法により製造される、シリコン層のp型ドープのための、THF、並びにNR3(式中、R=H、アルキル、アリール)からなる群から選択された錯形成剤とのBH3錯体の群からの化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型ドープされたシリコン層の製造方法、特に液状シラン含有処方物から製造されるp型ドープされたシリコン層の製造方法に関する。本発明はさらに、p型ドープされたシリコン層でコーティングされた基材に関する。本発明はさらに、シリコン層のp型ドープのための、ホウ素化合物を基礎とする所定のドーパントの使用に関する。
【0002】
シリコン層の合成は、半導体産業にとって、とりわけ、例えばソーラーセル、フォトダイオード及びトランジスターにおける使用のためのエレクトロニクス又はオプトエレクトロニクス部材層の製造にとって、極めて重要である。
【0003】
ソーラーセルの製造では、様々なドーピングの半導体層が必要とされる。1又は複数のシリコン層を適した基材に析出させることによって、1又は複数のp−n−遷移又はpin遷移若しくはnip遷移を生じさせることができ、これはソーラーセルとして作用する。析出を、薄層に適した塗布装置の1つ、例えばロールtoロールコーターを用いて行う。発生する層を、適した温度処理によって安定化させ、その結果、前記層は典型的には、微結晶性の、ナノ結晶性の及び無定形の組織の混合物を収容する。明示的に記載されていない限り、ここでは全ての微結晶性の、ナノ結晶性の及び/又は無定形の層が、一般的に「変換されたSi層」と称されるものであり、というのも、正確な区別化及び決定は、大抵の場合には良好には可能でないか、又は、達成される結果にとって副次的な意義しかないからである。
【0004】
この場合に、p型ドープされたシリコン層は、原則的に、種々の方法を介して製造される。しかし、このうちCVD技術は、高真空中で実施されなければならないという欠点を有する。気相析出を基礎とする方法は、さらに、i)熱反応実施の場合には極めて高温の使用が必要であるか、又はii)電磁線の形で前駆体の分解のために必要なエネルギーの導入の場合には高いエネルギー密度が必要である、という欠点を有する。両者の場合に、前駆体の分解のために必要なエネルギーを狙いを定めてかつ均一に導入することは、極めて高価な装置的上出費を用いないと可能でない。p型ドープしたシリコン層の製造のための他の方法も欠点があるので、したがって、p型ドープしたシリコン層は、好ましくは、液相からの析出によって形成される。
【0005】
p型ドープしたシリコン層の製造のためのこの種の液相方法では、液状出発材料又は溶液であって固形又は液状の出発材料、ドープ材及び場合によって更なる添加剤を含むものが、コーティングすべき基材に設けられ、そして引き続き、熱によって及び/又は電磁線によってp型ドープしたシリコン層へと変換される。
【0006】
好ましく使用可能な出発材料は、この場合に、ヒドリドシラン、並びにドープ材としてホウ素化合物である。ヒドリドシランは、実質的にケイ素原子及び水素原子からなり、そして変換の際に、析出されるケイ素及びガス状水素へと反応する、という利点を有する。析出されたケイ素は、この場合になお、電子的特性のために必要な残存水素含分を含んでよい。ホウ素化合物は、実質的にホウ素原子及び炭化水素基又は水素原子からなる。
【0007】
この場合に、とりわけ、主族IIIの元素化合物の添加によって液状Hシランからの又はSiabcのタイプのヘテロ原子環状シラン化合物からの、p型ドープしたシリコン層の製造のための液相方法は、先行技術に属する。
【0008】
US 5,866,471 Aは、特に、鎖状又は環状ヒドリドシラン及びシリル基置換した鎖状又は環状ヒドリドシランの使用を記載し、これは熱によってドープ材の存在下でn型又はp型の半導体フィルムへと分解されることができる。前述の物質は室温で固形であり、有機溶媒に溶解性であり、好ましくは3〜10000、好ましくは5〜30の重合度を有する。前記物質は、さらに好ましくは、200〜700℃で熱分解され、その際、この硬化時間は10分〜10時間である。
【0009】
EP 1 085 579 A1は、シラン含有液状組成物を使用し、熱、光及び/又はレーザー処理によって変換される、ソーラーセルの製造方法を記載する。液状コーティング組成物は、溶媒及び式Sinm(式中、X=H、Hal、n≧5、m=n、2n−2n、2n)の環状ケイ素化合物及び/又は式Siabc(式中、X=H、Hal、Y=B、P、a≧3、c=1〜a、b=a〜2a+c+2)の修飾したシラン化合物を含んでよい。とりわけp型ドープされたSi層への、前記液状組成物の変化は、乾燥工程に続く変換工程を介して行われることができる。典型的な乾燥温度として100〜200℃の範囲が挙げられる。ここでも、300℃から初めてシリコン層への著しい反応が生じること、300〜550℃で無定形層が生じること、そして、550℃から多結晶層が生じること、が行われる。
【0010】
EP 1 357 154 A1は、光重合可能なシランをUV線で照射することによって製造可能なポリシランを含む、「高級シラン」の組成物を記載する。光重合可能なシランとは、一般式Sinm(式中、n≧3、m≧4、X=H、Hal)のシランであってよく、例示的に挙げる化合物は、式Sin2nの環状シラン、式Sin2n-2の二環式又は多環式構造及び1の環状構造を分子中に有する他のシランであり、これは光に対する極度に高い反応性を示し、かつ、効率的に光重合する。「高級シラン」の組成物は、基材に対して熱分解又は光分解によって、シリコンフィルムへと変換される。この場合に、主族III又はVの元素化合物は、重合前又は後に使用される。この場合に、湿潤フィルムは熱(典型的には100〜200℃)によって乾燥され、その後熱及び/又は光によって変換される。無定形フィルムは、熱処理によって550℃未満の温度で作成され、より高温では多結晶フィルムが生じる。実施例では、10分間の変換時間(350℃、400℃、500℃)が挙げられ、ドーパント物質PH3、P4、B59、B1014が挙げられている。ここでは、安定なクラスター故の長い変換時間並びにその毒性が欠点である。極めて安定なホウ素原子クラスター故に、ホウ素の均質な分布が困難になり、そのため、比較的高いホウ素添加量が必要である(10at%ホウ素)。
【0011】
EP 1640342 A1は、GPCによれば800〜5000g/molの平均分子量を有するポリシランを含む、「高級シラン」の組成物を記載する。この組成物は、第3又は第5の主族の元素も含むことができる。実施例では、シクロペンタシランがデカボランと共に照射される。このフィルムは400℃で30分間、引き続き800℃で5分間硬化される。ここで、安定なクラスター故の長い変換時間並びにその毒性が欠点である。極めて安定なホウ素原子クラスター故に、ホウ素の均質な分布が困難になっている。
【0012】
US 2008022897 A1は、様々なドープ材の使用を記載する。特許請求の範囲においては、組成物のみが記載され、しかし、n型又はp型のSi層を生じる方法の説明はない。請求項1は、Sin2n+2(式中、n=3〜20)及びBR3(式中、各Rが独立してH、アルキル等であってよい)の組成物を記載する。
【0013】
JP2002100576 A1は、ドープ材としてのBH3−スルフィド錯体の使用を記載する。この場合に、錯体、並びに、ヒドリドシランが熱分解され、蒸気相中の好適な不活性有機媒体を通じて一緒に基材へと析出される。実施例では、400℃の析出温度及び少なくとも20分の変換時間が挙げられる。
【0014】
この全ての記載の方法は、しかし、使用される化学的に極めて安定なドープ材をSi層中で活性化するために、極めて長い硬化時間を必要とする点で共通している。
【0015】
したがって、本発明の課題は、先行技術の記載の欠点を回避する、p型ドープされたシリコン層の製造方法を提供することである。特に、この方法は、液状シラン処方物の析出を基礎とすることが望ましい。加えて、使用される処方物が安定であり、基材を良好に湿潤し、一様に分布されたドーピングを有する均質なp型ドープされたシリコン層を生じる、p型ドープされたシリコン層の液相製造方法が、提供されることが望ましい。この場合に、良好な導電性を有するp型ドープされたaSi層を製造できることが、さらに特に好ましい。
【0016】
前述の課題は、本発明によって、
(a)基材を準備する工程、
(b)少なくとも1のケイ素化合物、及び、ドーパントとしてヒドロホウ素化剤の群からの少なくとも1の化合物を含有する処方物を準備する工程、
(c)前記処方物を前記基材に設ける工程、
(d)コーティングされた前記基材を放射線照射及び/又は熱処理し、主としてケイ素からなる、p型ドープされた層を形成させる工程、
を含む、基材に配置されたp型ドープされたシリコン層少なくとも1を製造する方法によって解決される。
【0017】
ヒドロホウ素化剤とは、本発明の意味合いにおいて、少なくとも1のホウ素−水素結合を有するホウ素化合物(ジボラン除く)が理解されるべきである。ジボランは、本発明の範囲では、好適なヒドロホウ素化剤から除かれ、というのもジボランはガス状態故に欠点があるからである。加えて、ヒドロホウ素化剤としてのジボランとの反応は極めてゆっくりと進行する。好ましくは、ヒドロホウ素化剤は液状又は固形状である。
【0018】
本発明の方法において好ましく使用される、ヒドロホウ素化剤の群からの化合物は、a)THF、NR3(式中、R=H、アルキル、アリール)並びにSR′2(式中、R′=H、アルキル、アリール)からなる群から選択された錯形成剤とのBH3錯体、又は、b)a)で定義されたBH3錯体と環状ジエンとの反応によって製造可能なBxxn2xn-x(式中、x=1〜4及びn=3〜10)タイプの化合物から選択されている。特に好ましくは、群a)及びb)からは、化合物BH3*THF、BH3SMe2、BH3NMe3又は9−ボラビシクロノナン(9−BBN)、7−ボラビシクロヘプタン及び/又は11−ボラビシクロウンデカンである。特にとりわけ好ましいヒドロホウ素化剤は、BH3*THF、BH3*NMe3及び9−ボラビシクロノナン(9−BBN)である。
【0019】
「少なくとも1のケイ素化合物、及び、ヒドロホウ素化剤の群からの少なくとも1の化合物を含有する」との書き方は、この場合に本発明の意味合いにおいては、少なくとも1のケイ素化合物及びヒドロホウ素化剤の前述の群からの少なくとも1の化合物からなる組成物も、同様に、少なくとも1のケイ素化合物及びヒドロホウ素化剤の群からの少なくとも1の化合物から製造可能な組成物、特に、少なくとも1のケイ素化合物とヒドロホウ素化剤の前述の群からの少なくとも1の化合物との反応生成物をも理解すべきである。
【0020】
前でa)及びb)で挙げたクラスのドープ材は、従来は有機合成化学において、特にアルケンのヒドロホウ素化のために、引き続くヒドロキシル化の際に相応するアンチマルコフニコフ生成物を得るべく使用されていた。
【0021】
したがって、オプトエレクトロニクス部材のためのSi層のドーピングのために前記化合物クラスが使用できることは、特に意外である。前記化合物クラスは、市販され、かつ、貯蔵安定性である。大抵の場合には、前記化合物クラスは有毒でなく、そして、Si層へのドーピング原子の均質な分布を困難にするクラスター形成を示さない。
【0022】
本発明の方法は、複数の利点を提供する。そして、工程d)においては、ドーピングされたp層を生じるより短い時間を達成できる。このことは、ドーピング元素が、先行技術で使用される化合物からよりも、より容易く放出されるためであろう。ドーピング元素の放出の際に発生する残分もまた安定であり、かつ良好に蒸発可能である。更なる利点は、有毒でない、市販で入手可能な物質が使用できることである。意外なことに、新規クラスのドープ材を用いてさらに、極めて良好な導電性を有するp型ドープされたシリコン層が入手可能になる。
【0023】
本発明の方法で好ましく使用されるケイ素化合物は、ケイ素−水素−化合物、好ましくは一般式Sin2n+2又はSin2n(式中、n=3〜20)のケイ素−水素−化合物、ケイ素−ハロゲン化物;ケイ素−オルガニル;オリゴマーのケイ素化合物Sin2n+2又はSin2n(式中、そのつどn=8〜100及びR=H、ハロゲン、オルガニルであり、各Rは独立して選択されてよい);又はこれらケイ素化合物の任意の混合物である。さらに、前述の化合物、特に一般式Sin2n+2又はSin2n(式中、n=3〜20)のケイ素−水素−化合物が、工程b)での使用前に、部分的に又は完全にオリゴマー化されることができ、モル質量330g/mol〜10000g/mol、好ましくは400g/mol〜3000g/mol、特に好ましくは500g/mol〜1000g/molに調節されることができる。この場合に、オリゴマー化は、部分的に又は完全に、放射線照射又は熱処理によって行われることができる。
【0024】
特に好ましくは、ケイ素−水素−化合物、即ちシラン及びオリゴシラン又はポリシランが使用され、というのも、これら化合物は、化学合成又はSiH4の触媒作用したアニーリングによって入手され、そして、化合物のモル質量に対して高いケイ素割合を有するからである。シランのうち、特に一般式Sin2n+2(式中、n=3〜10、好ましくはn=4〜8)又はSin2n(式中、n=4〜8、好ましくはn=5、6)のシランが本発明の方法に適している。
【0025】
オリゴマーのケイ素化合物Sin2n+2又はSin2n(n=8〜100、R=H)は、例えば、一般式のSin2n+2又はSin2n(n=3〜20)の1又は複数のケイ素化合物のオリゴマー化によって製造されることができる。オリゴマーのケイ素化合物Sin2n+2又はSin2n(そのつどn=8〜100、R=ハロゲン)は、例えば、1又は複数のケイ素−ハロゲン化物のオリゴマー化によって製造されることができる。最後に、オリゴマーのケイ素化合物Sin2n+2又はSin2n(そのつどn=8〜100、R=オルガニルを有する)は、1又は複数のケイ素−オルガニル物のオリゴマー化によって製造されることができる。全ての場合に、上述のRの各々は独立して選択されてよい。
【0026】
本発明の方法の一変法において、ケイ素含有処方物は、一般式Sin2n+2(n=3〜10、好ましくはn=4〜8)又はSin2n(n=4〜8、好ましくはn=5、6)の高級シラン少なくとも1を含む混合物のオリゴマー化及び/又はポリマー化によって製造されることができる。UV照射又は熱処理を用いたオリゴマー化には、前述の式の高級シラン(n≧3を有する)が使用される。このようにして、液状の低粘性混合物から一工程において、オリゴシラン/ポリシランを含む所望の高粘性液状混合物が製造されることができる。
【0027】
本発明の方法の更なる一変法において、ケイ素含有処方物は、エネルギーリッチな(energetisch)プロセス、例えばUV照射、熱処理を用いて、少なくとも1のケイ素含有化合物及びヒドロホウ素化試薬の群からの少なくとも1のドープ材を含む混合物のオリゴマー化及び/又はポリマー化によって製造されることができる(共オリゴマー化)。ヒドロホウ素化剤の群からの化合物の添加は、したがって、場合によって実施されるケイ素含有化合物のオリゴマー化及び/又はポリマー化の前又は後又はその間にも、行われることができる。
【0028】
本発明の方法で使用されるケイ素含有処方物は、典型的には液状処方物である。これは、前述のケイ素化合物からなり、場合によって溶媒との混合物にある。好ましくは、鎖状、分枝状又は環状の飽和、不飽和又は芳香族の、12個までの炭素原子を有する炭化水素(場合によって、部分的に又は完全にハロゲン化されている)、アルコール、エーテル、カルボン酸、エステル、ニトリル、アミン、アミド、スルホキシド及び水からなる群からの溶媒が使用可能である。特に好ましくは、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ジシクロペンタン、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレン、インダン、インデン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、p−ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン及びクロロホルムである。
【0029】
特に好ましく使用可能な溶媒は、炭化水素n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレン、インダン及びインデンである。
【0030】
場合によって、更なる溶媒、更なるドーパント及び/又は更なる助剤が追加して添加されることができる。この場合に、この更なる剤又は物質は相互に独立して、既にオリゴマー化及び/又はポリマー化の前に混合物に添加されるか、又はその後に初めて添加されることができる。この場合でも、オリゴマー化及び/又はポリマー化は部分的に又は完全に放射線照射又は熱処理によって行われることができ、その際、モル質量330g/mol〜10000g/mol、好ましくは400g/mol〜3000g/mol、特に好ましくは500g/mol〜1000g/molに調節されることができる。全処方物に対する溶媒の割合は、5〜99質量%、好ましくは25〜85質量%、特に好ましくは50〜85質量%であることができる。
【0031】
ケイ素含有処方物を用いた基材のコーティングは、知られているように行うことができる。好ましくは、前記処方物は、印刷方法又はコーティング方法(特にフレキソ/グラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、デジタルオフセット印刷及びスクリーン印刷)、スプレー法、回転コーティング法(「Spin-coating」)、浸漬法(「Dip-coating」)から選択される方法を介して、及び、メニスカスコーティング、スリットコーティング、スロットダイコーティング及びカーテンコーティングから選択される方法、を介して析出される。
【0032】
コーティングされた基材の熱処理は、知られているように行われることができ、特にO2及びH2Oの十分な除外下で行われることができる。そして、前記処方物を用いてコーティングされた基材は、おおよそ200〜1000℃、好ましくは250〜700℃、さらに好ましくは300〜650℃の温度に加熱されることができる。この場合に、本発明によって、少なくとも部分的に変換され、そして主としてケイ素からなる層が形成される。新規に製造された層の場合には、UVランプ(例えば、波長254nm又は波長180nm)を用いても、前接続された硬化が架橋によって行われることができる。本発明の方法の好ましい一実施態様において、コーティングされた基材は照射なしに熱処理に供給される。原則的に、温度処理は、炉、加熱したローラー、加熱プレート、赤外線若しくはマイクロ波照射又は類似の手段の使用によって行われることができる。しかし、特に好ましくは、温度処理は、そうすれば生じる少ない出費のために、加熱プレートを用いて又は加熱したローラーを用いてロールtoロール法において、実施される。
【0033】
200℃〜1000℃の温度が十分である。前記層は、水素及び窒素からの又は水素及びアルゴンからのフォーミングガス混合物(例えばH2/N2は体積割合で5/95〜10/90、又は、H2/Arは体積割合で5/95〜10/90)の250℃〜700℃、好ましくは300℃〜650℃の温度での加熱によって後処理されてもよい。
【0034】
コーティングされた基材の熱処理では、少なくとも部分的にオリゴマー化した、主としてケイ素からなるフィルムの変換が、通常は10分間未満、好ましくは5分間未満の間に行われる。変換は、200mbar〜50barまでの圧力下で行われることができる。好ましくは、変換は500mbar〜10barの圧力で行われ、特にとりわけ好ましくは800mbar〜1300mbarの圧力で行われる。この場合に、温度は250℃〜700℃にあることができ、好ましくはp型ドープされたaSi層に関して300℃〜650℃にあることができる。変換は、1又は複数の連続した温度段階において実施されることができる。
【0035】
より長い変換時間によって、発生する層はより多くの水素を失い、これは空格子点、いわゆるdangling bondsを飽和させる。この空格子点は、ドーピング荷電体のための穴を作り出し、それによって、より劣悪なドーピング効率を引き起こすことがある。より長い変換時間は、先行技術に記載のようにさらに欠点があり、というのもそれによってより長いコーティング経路にわたりより高いプロセスコストが発生するからである。
【0036】
上述の通り、本発明の方法は、基材に配置されたシリコン層「少なくとも1」の製造に適している。より多くの相応するシリコン層を基材上で獲得することができるためには、方法工程(b)〜(d)は複数回実施されることができる。方法工程の複数回の通過では、個々の工程は相互に独立して実際的に整えられることができ、その結果、各層の特性は、意図される目的のために個別に調節されることができる。
【0037】
本発明の方法にとっては、多数の基材が使用されることができる。好ましくは、基材は、ガラス、石英ガラス、グラファイト、金属、シリコンからなるか、又は、熱寛容性(hitzevertraeglich)の支持体上に存在するシリコン層、インジウムスズ酸化物層、ZnO:F層又はSnO2:F層からなる。
【0038】
好ましい金属は、アルミニウム、特殊鋼、Cr鋼、チタン、クロム又はモリブデンである。さらに、プラスチックシート、例えばPEN、PET又はポリイミドからのプラスチックシートが使用されることができる。
【0039】
基材として、しかし、既にここに記載の方法により製造された、コーティングされた基材も使用できる。
【0040】
本発明の主題は、基材及びp型ドープされたシリコン層を含むコーティングされた基材であって、p型ドープがホウ素ドープであり、ホウ素がヒドロホウ素化剤の群からの化合物によって、上述のように導入されたことを特徴とする基材でもある。
【0041】
上述のコーティングされた基材は、好ましくは、ここに記載の本発明の方法に応じて製造されることができる。
【0042】
基材として、上で挙げた全ての材料及び配置が考慮され、特に導電性であるか又は導電性表面を有するものが考慮される。
【0043】
本発明の更なる主題は、ここに記載の本発明の方法又はその変法を適用して製造されたか又は製造されることができる、光起電装置、特にソーラーセル又はソーラーセルの組み合わせ物である。
【0044】
本発明は、特に、シリコン層のp型ドーピングのためのヒドロホウ素化剤の群からの化合物の使用をも含む。そのうち特に、少なくとも1のケイ素化合物を含む処方物を設ける工程、及び、コーティングされた基材を放射線照射及び/又は熱処理し、主としてケイ素からなる、p型ドープされた層を形成させる工程、を含む方法によって製造されるシリコン層である。
【0045】
実施例:
記載の層厚を、Ellipsometer SENpro(Sentech社、ベルリン)で測定した。記載の電気的測定を、N2雰囲気(1ppm未満の酸素濃度及び最高1ppmの水含有量を有した)を有するグローブブックス中でKeithley装置を用いて実施した。
【0046】
実施例1:ヒドロホウ素化剤(BH3*THF)でp型ドープしたSi層の製造
2雰囲気(1ppm未満の酸素濃度及び最高1ppmの水含有量を有した)を有するグローブボックス中で、3mLのシクロペンタシランを、3mLのトルエン及び0.5mLのBH3*THF錯体と混合し、開放容器中で波長254nmのUVランプを用いて150分間の期間照射する。この場合に、さらさらとしたシランがよりどろりとする(処方物1)。
【0047】
0.2mLの処方物1及び0.9mLのシクロオクタンからの処方物2 4滴を、サイズ2.5cm×2.5cmのガラス片に設け、スピンコーターを用いて6000rpmで一様に前記ガラス片に分布させる。引き続き、加熱プレートを用いて前記フィルムを500℃で1分間の期間にわたり加熱する。黒っぽい、実質的に酸素不含のp型ドープされたシリコン層が前記基材に発生する。この層厚は、134nmである。導電性測定によって、2×10E+05Ohmcmの比暗抵抗(spez. Dunkelwiderstand)が生じる。
【0048】
実施例2:9−ボラビシクロノナンでp型ドープされたSi層の製造
2雰囲気(1ppm未満の酸素濃度及び最高1ppmの水含有量を有した)を有するグローブボックス中で、4mLのシクロペンタシランを、4mLのシクロオクタンと混合し、開放容器中で波長254nmのUVランプを用いて160分間の期間照射する。この場合に、さらさらとしたシランがよりどろりとする(処方物3)。
【0049】
0.075mLの処方物3、0.141mLのシクロオクタン、0.103mLのトルエン及び0.056mLのシクロペンタシランからの処方物4 4滴を9mgの9−BBNと混合し、サイズ2.5cm×2.5cmのガラス片に設け、スピンコーターを用いて3000rpmで一様に前記ガラス片に分布させる。引き続き、加熱プレートを用いて前記フィルムを500℃で1分間の期間にわたり加熱する。黒っぽい、実質的に酸素不含のp型ドープされたシリコン層が前記基材に発生する。この層厚は、149nmである。導電性測定によって、約7×10E+04Ohmcmの比暗抵抗が生じる。
【0050】
実施例3(比較):デカボランでp型ドープされたSi層の製造
2雰囲気(1ppm未満の酸素濃度及び最高1ppmの水含有量を有した)を有するグローブボックス中で、1.7gの、トルエン中のシクロペンタシラン1:1混合物を、0.05gのデカボランと混合し、開放容器中で波長254nmのUVランプを用いて90分間の期間照射する。この場合に、さらさらとしたシランがよりどろりとする(処方物5)。さらに、2.5mLのシクロペンタシランを単独で55分間照射する。シクロペンタシランは、この場合に、どろりとしたオリゴマーへとオリゴマー化する。0.2mLの前記のどろりとしたオリゴマーを、0.05mLの処方物5及び0.5mLのトルエンと混合する(処方物6)。
【0051】
処方物6 4滴を、サイズ2.5cm×2.5cmのガラス片に設け、スピンコーターを用いて3000rpmで一様に前記ガラス片に分布させる。引き続き、加熱プレートを用いて前記フィルムを500℃で1分間の期間にわたり加熱する。黒っぽい、実質的に酸素不含のp型ドープされたシリコン層が前記基材に発生する。この層厚は、173nmである。導電性測定によって、2.6×10E+09Ohmcmの比暗抵抗が生じる。