【実施例】
【0017】
以下の実施例において、本発明者らは、高レベルの騒音および爆風への暴露(高圧暴露)が、背側蝸牛神経核、海馬、および嗅内皮質をはじめとする特定領域において外傷性脳損傷に関連する分子的および細胞的な変化を誘発し得ることを実証する。その上、本発明者らは、2,4−ジスルホニルPBN(HPN−07)を単独で、またはNACと組み合わせて含む組成物の投与が、外傷性脳損傷に関連する細胞変化を回復させ得ることを実証する。それを実行することにより、騒音による耳鳴をはじめとする外傷性脳損傷の症状を、低減することができる。あるいは本発明者らは、4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロン、NACおよびALCARを含む組成物が、類似の治療効果を有し得ることを実証する。
【0018】
実施例1
この実施例の目的は、2,4−ジスルホニルPBN(HPN−07)およびNACを含む組成物が、背側蝸牛神経核の騒音による外傷性脳損傷を示す分子変化を回復させるのに効果的であることを実証することである。
【0019】
慢性的な音響暴露による耳鳴に見舞われた動物のMRI試験で、背側蝸牛神経核における脳活性の上昇が実証されている。前初期遺伝子であるc−fosの発現は、神経細胞活性マーカとして受け入れられ広く用いられている。c−fos発現の増加が、騒音暴露後数時間から5.5週間目まで中枢神経系において観察されており、c−fosの発現が、耳鳴、または騒音誘発性の耳鳴に関連する可塑性の、神経相関を表し得ることが示唆される。c−fosの発現増加は、脳損傷にも関連付けられている。この実施例では、c−fosの発現を、HPN−07およびNACを含む組成物の投与を実施する場合および実施しない場合について、115dB SPLオクターブ帯域騒音暴露の1時間〜21日目後において検査した。
【0020】
成体ラット(スプラグードゥーリー、各群4〜6匹)を、試験に用いた。騒音群(N)および騒音+処置群(N/T)の動物を、14kHzを中心とする115dB SPLオクターブ帯域騒音に1時間暴露した。20mg/kgのHPN07および50mg/kgのNACを含む組成物を、騒音暴露の4時間後に腹腔投与し、続く2日間において1日2回ずつ腹腔内投与した。騒音暴露を受けなかったラットを、正常対照(NC)とした。聴性脳幹反応(ABR)および歪成分耳音響放射(DPOAE)を、騒音暴露および安楽死の前に記録した。脳幹を、騒音暴露1時間後(1H)、8H、24H、7日後(7D)および21Dに回収し、パラフィン包埋用に処理して6μmの厚さで切片にした。c−fos陽性細胞を、免疫組織化学的染色により、切片において同定した。免疫密度(immunodensity)を、陽性細胞数/mm
2として光学顕微鏡により決定した。データを統計解析した(一元配置ANOVAおよびターキーHSD検定)。
【0021】
図1に、正常対照群(A)、騒音暴露群(B、C、E)および騒音/処置群(D、F)の背側蝸牛神経核(DCN)から得られた、光学顕微鏡によるc−fos免疫染色像の例を示す。騒音暴露1時間後に、多数の陽性c−fos染色細胞が主に紡錘状の細胞体層に見出され、分子層および深部層における陽性細胞はほとんどなく(B)、c−fos発現が騒音暴露の直後にDCNにおいて上方制御されることが示唆された。陽性細胞数は、騒音暴露後8H(C)および24H(E)に減少し、7Dおよび21Dに正常レベルまで回復した(データは示さず)。DCNにおける陽性染色細胞を計数し、統計解析した(G)。NC群に比較したc−fos陽性細胞数の有意な増加が、1H−N、8H−Nおよび24H−N群において見出された(p<0.01)。有意差は、8H−N群と8H−N/T群の間にも見出され(p<0.01)、HPN−07およびNACを含む組成物での処置が、騒音曝露後のこの時点でDCNにおけるc−fos発現を下方制御することが示唆された。
【0022】
図2に、PVCNにおけるc−fos免疫染色密度測定の結果を示す。c−fos陽性細胞数の有意な増加が、NC群に比較した1H−N群において見出され(p<0.01)、c−fos発現が騒音暴露の直後にPVCNにおいて上方制御されることが示唆された。
【0023】
図3に、正常対照群(A)、騒音暴露群(B、C、E)および騒音/処置群(D、F)の前腹側蝸牛神経核(AVCN)から得られた、光学顕微鏡によるc−fos免疫染色像の例を提供する。騒音暴露1時間後に、多数の陽性c−fos染色細胞がAVCNに見出され(B)、c−fos発現が騒音暴露の直後にAVCNにおいて上方制御されることが示唆された。陽性細胞数は、騒音暴露後8H(C)および7〜21D(図示せず)に正常レベルまで回復した。しかし、騒音暴露後24Hに、第二の上方制御ピークが存在した。DCNにおける陽性染色細胞数を計数し、統計解析した(G)。c−fos陽性細胞数の有意な増加が、NC群に比較した1H−N群および24H−N群において見出された(p<0.05または0.01)。有意差は、8H−N群と8H−N/T群の間にも見いだされ(p<0.01)、HPN−07およびNACを含む組成物の投与が、騒音暴露後のこの時点でDCNにおけるc−fos発現を下方制御することが示唆された。
【0024】
図4に、騒音暴露およびHPN−07+NAC処置後の異なる時点でのDCN、AVCNおよびPVCNのc−fos発現の比較を提供する。有意差が、1H−N、8H−Nおよび24H−N/T群における3種の核の間に見出された(p<0.05または0.01)。DCNは、騒音暴露後の2つの時点(1Hおよび8H)でVCNよりも有意に多くのc−fos陽性細胞を有し(p<0.01)、DCNが深部層のみに直接の聴覚入力を有するものの、騒音暴露に対して感受性があることも示唆された。
【0025】
要約すると、実施例1は、以下のことを実証している:(1)c−fos発現は、騒音暴露の直後に蝸牛神経核の神経細胞において上方制御された;(2)c−fos発現は、DCNにおいて騒音暴露24時間後に、そしてVCNにおいて8Hに、正常レベルに回復した;(3)騒音暴露後24Hに、AVCNにおいて第二の上方制御ピークがある;(4)騒音暴露後に、VCNよりもDCNにおいて多くのc−fos陽性神経細胞が見出された;ならびに(5)HPN−07およびNACを含む組成物の投与は、DCN(8H)およびAVCN(24H)においてc−fos発現を下方制御し得る。このデータから、HPN−07およびNACでの処置が、DCNおよびAVCNにおいて騒音による外傷性脳損傷の影響を低減するのに効果的であることが示唆される。更に、騒音による耳鳴の心理物理的証拠を有する動物において、DCNにおける自発的な活性上昇が以前に示されており、そのような活性亢進が騒音による耳鳴に関連し得ることが示唆された。つまりこれらの結果から、HPN−07とNACとの組み合わせが、騒音による耳鳴、および騒音による蝸牛神経核への損傷に関連する他の状態を処置するのに効果的となり得ることも示唆される。
【0026】
実施例2
この実施例において、細胞型に特異的なシナプス活性マーカであるプレセレベリン、ならびに神経細胞マーカであるPEP−19(カートホイール細胞マーカ)およびNeuNに加え、透過型電子顕微鏡試験(TEM)を用いて、105dB SPLオクターブ帯域の騒音暴露後4時間目に開始した4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロン、NACおよびALCAR(4−OHPBN+NAC+ALCAR)を含む組成物の非存在下および存在下、暴露後10日目のチンチラのDCNにおけるシナプス変性を検査した。
【0027】
3〜5歳のチンチラを、以下の3つの群(各群6匹)に分けた:1)正常対照;2)騒音暴露のみ(4kHzを中心とする105dB SPLオクターブ帯域騒音を6時間);3)騒音暴露に加えて、騒音暴露4時間後に開始し、続く2日間に1日2回実施した4−OHPBN+NAC+ALCARでの処置。処置群の動物は、ジメチルスルホキシド(40%)、ポリエチレングリコール400(40%)、および生理食塩水(20%)に溶解された4−OH−PBN 20mg/kgと、水中の20%NAC(0.05%無水エデト酸二ナトリウム、pH7.0、Hospira Inc., lake Forest, IL)50mg/kgと、生理食塩水中のALCAR(Sigma−Aldrich Onc. At. Lous, MO)20mg/kgと、を受けた。これらの薬剤を、別々に腹腔内投与した。脳幹を回収して、4%パラホルムアルデヒドによる心内灌流により固定した。脳幹を、クリオトームで厚さ18〜20μmに連続的に薄切した。抗プレセレベリン、抗PEP−19または抗NeuN抗体を用いた免疫組織化学的標識を切片で実施して、騒音暴露後のシナプスおよび神経細胞への処置の有効性を評価した。免疫密度を、免疫陽性細胞数/mm
2として測定した。細胞数を統計解析した(一元配置ANOVAおよびターキーHSD解析)。4%の新鮮な脱重合パラホルムアルデヒドおよび0.125%グルタルアルデヒドで灌流された3匹のチンチラ(各群1匹)の脳組織をTEM試験に用いて、チンチラのDCNの中央部におけるシナプス変性を検査した。
【0028】
図5に、正常対照群(5A)、騒音暴露群(5B)および騒音/処置群(5C)のDCNの中央部から、光学顕微鏡により得られたプレセレベリン免疫染色像の例を提供する。陽性プレセレベリン染色細胞が、DCNの紡錘状の細胞体層および深部層に見出された(A〜Cの矢印および矢じり)。紡錘状の細胞体層の陽性染色細胞を計数して、統計解析した(D)。有意差が、DCNの中央部のみで群間に見出されたが、外側および内側部には見出されなかった。中央部では、有意差が、正常対照群と騒音暴露群の間(p<0.01)、および騒音暴露群と騒音/処置群の間(p<0.05)に見出された。
【0029】
図6に、正常対照群(6A)、騒音暴露群(6B)および騒音/処置群(6C)のDCNの中央部から、光学顕微鏡により得られたPEP−19免疫染色像の例を提供する。陽性PEP−19染色細胞が、DCNの紡錘状の細胞体層および深部層に見出された(A〜Cの矢印および矢じり)。紡錘状の細胞体層の陽性染色細胞を計数して、統計解析した(D)。全ての領域で、群間に有意差は全く見出されなかった(p>0.05)。
【0030】
図7に、正常対照群(7A)、騒音暴露群(7B)および騒音/処置群(7C)のDCNの中央部から、光学顕微鏡により得られたNeuN免疫染色像の例を示す。多数の陽性NeuN染色細胞が、紡錘状の細胞体層および深部層に見出され、DCNの分子層にはほとんど見出されなかった。陽性染色細胞を計数して、統計解析した(D)。有意差は、全ての領域で、群間に有意差は全く見出されなかった(p>0.05)。
【0031】
図8に、正常対照(左の列)、騒音暴露(中央の列)および騒音/処置(右の列)のチンチラのDCNの中央部においてカートホイール細胞体(A〜F)およびその一次樹状突起(D1、G〜L)を取り囲む神経末端の例を提供する。パネルD〜FおよびJ〜Lの像は、それぞれパネルA〜CおよびG〜Iのより高倍率の像である。2つの型の末端PVD(多型性小胞、高密度(pleomorphic vesicles, dense))およびPVL(多型性小胞、低密度(lusent))が、カートホイール細胞体、およびその一次樹状突起を取り囲んで見出された。3群のいずれのチンチラPVDシナプス末端にも、明白な変化は見出されなかった。正常対照群のPVLに比較して、騒音暴露群および騒音/処置群のPVLにおいては、巨大な小胞が認められたが(E、F、Kの矢じり)、騒音/処置群のD1を取り囲む神経末端のPVLには、認められなかった(L)。その上、正常対照群および騒音/処置群において凸形状を有するシナプス膜(D、F、JおよびLの矢印)は、騒音暴露されたチンチラでは平坦に見え、より低密度の輪郭を有した(EおよびKの白抜き矢印)。
【0032】
要約すると、実施例2により以下のことが実証される:(1)プレセレベリン発現の下方制御は、騒音暴露群のDCNの中央部のみに見出され;(2)本試験において用いられた騒音暴露は、カートホイール細胞の喪失(PEP−19により標識)またはDCNにおける他の神経細胞の喪失(NeuNにより標識)を誘発しなかった;(3)TEMにより、DCNの中央部のカートホイール細胞体およびその一次樹状突起を取り囲む神経末端において、小胞の拡大およびシナプス膜の平坦化が示された;(4)DCNの中央部のシナプス変性は、騒音暴露の一結果である可能性がある;(5)4−OHPBN+NAC+ALCARを含む組成物の投与は、プレセレベリンの発現を有意に回復させ、DCN内のカートホイール細胞体およびその一次樹状突起を取り囲むシナプスの変性を低減した。つまり、騒音暴露後の早期4−OHPBN+NAC+ALCAR処置は、正常な中枢聴覚構造を維持する働きがある。
【0033】
実施例3
この実施例の目的は、爆風暴露後の海馬および皮質における様々な脳損傷バイオマーカに対する、NACと2,4−ジスルホニルPBN(HPN−07)との組み合わせの影響を実証することである。
【0034】
雄ロングエバンス有色ラットを、3回の爆風(14psi、爆風の間隔は1.5分間)に暴露した。ラットに通常の生理食塩水中の300mg/kg NAC+300mg/kg HPN−07を、爆風暴露1時間後に腹腔内注射し、その後、ラットの処置群には続く2日間に1日2回継続して注射した。爆風を受けたラットまたは受けなかったラットに、担体溶液を注射し、対照として使用した。各群および各時点で、ラット6匹を用いた。動物は全て、爆風暴露後3時間、24時間、7日および21日目に10%パラホルムアルデヒドで心内灌流した(各群の各時点に6匹。合計54匹)。脳を採取して、30μmに低温薄切した。アミロイド前駆蛋白質(APP)およびグリア原線維酸性蛋白質(GFAP)レベルを、海馬および聴覚皮質のCA1領域において測定して、外傷性または爆風による脳損傷のレベルを示した。ウサギ抗APP IgG(1:100、Millipore)またはGFAP IgG(1:500、Millipore)およびアビジン・ビオチン複合体(ABC)法を用いた免疫組織化学的染色により、レベルを測定した。光学または共焦顕微鏡測定により、像を採取した。APP陽性染色を計数して、
図9に示された通り統計解析した(ANOVAおよび事後検定)。
【0035】
APP染色は、対照群(爆風暴露なし)では海馬および皮質のCA1領域に存在しない。しかし爆風暴露24時間後に、強度のAPP陽性染色が、海馬および皮質のCA1領域において見出され、脳損傷を示している。この損傷は、HPN−07およびNACでの併用処置を受けた場合には両方の領域で低減した(共焦顕微鏡像は示さず)。APP蛋白質が、損傷への応答として軸索および細胞体に蓄積されることも、観察された(共焦顕微鏡像は示さず)。
図9に、共焦顕微鏡像において見出されたAPP陽性体の定量を提供する。有意差が、爆風暴露24時間後に、正常対照(NC)と爆風群(24H−B)の間(p<0.001および0.05)、ならびに爆風群(24H−B)と爆風+処置群(24H−B/T)の間(p<0.001)に見出された。これらの結果から、爆風暴露1時間後のHPN−07とNACとの組み合わせが、脳におけるAPP形成および発現を阻害することが示され、従って爆風による脳損傷から生じる傷害がHPN−07およびNAC処置により低減することが示唆された。
【0036】
図10は、爆風後21日目に、正常対照群の背側蝸牛神経核(DCN−4×、
図10A)およびDCNの中央部(20×、
図10B)、爆風暴露群(
図10C)および爆風/処置群(
図10D)の、光学顕微鏡により得られたGFAP免疫染色像を示す。陽性GFAP染色細胞が、DCNの全ての層に見出されたが、それらのほとんどは、表層に位置している。正常対照には、陽性細胞がほとんど見出されない。より多くのGFAP陽性細胞が、爆風後21日目のDCNに見出され、処置後のDCNでは陽性細胞がより少ない。DCNにおける陽性染色細胞を計数して統計解析し、その結果を
図10Eに提供している。有意差は、DCNの中央部の群間に見出されたが(p<0.05)、DCNの外側および内側では見出されなかった(全てp>0.05)。これらの結果から、HPN−07およびNACでの処置が、爆風暴露後のグリア細胞活性を阻害し、DCNにおける領域的な効果を有し得ることが実証される。このデータは、NAC/HPN−07処置が、DCNおよび聴覚皮質などの聴覚中枢を含め、爆風によるTBIを低減することを裏付けている。
【0037】
実施例4
この実施例の目的は、血液脳関門透過性に対するHPN−07およびNACの影響を検証することである。
【0038】
雄ロングエバンス有色ラット(Harlan Laboratories, Indianapolis, Indiana、体重360〜400g)に対し、生理食塩水に5ml/kgで溶解された300mg/kg NAC+300mg/kg HPN−07の組み合わせを、腹腔内注射した。対照群の動物には、同様の容量の生理食塩水を腹腔内注射した。薬物または生理食塩水は、初日に1回投与し、その後、続く2日間に1日2回投与した。
【0039】
初期薬物投与後7日目に、核磁気共鳴画像(MRI)を利用して、血液脳関門(BBB)の破綻を検出した。造影剤(Magnevist=GdDTPA)の注射後に、造影後T1強調MRI画像に記録されたコントラストの増強は、血液脳関門の破綻を示している。T1強化像の極度に高い強度は、ベースラインで注射されたガドリニウム系造影剤の漏出によるものである。
【0040】
磁気共鳴画像を、0.4mmolGd/kg Magnevistの注射の前および後に得て、血液脳関門の破綻領域を実証した。MRIパラメータおよび画像スケールの倍率は、T1強化像全てにおいて一定に維持した。画像を、視覚的および関心部分(ROI)測定の両方で評価した。ROI測定を、その時点(T1強化像における造影材料の注射前および後)の脳で得た。ROIシグナル強度の差を、造影材料を注射する前の値に関して標準化して、
図11に示された通り%変化として報告した。
【0041】
NACは、血液脳関門透過性を増加させないことで知られるため、これらの結果は予期されないものであり、HPN−07が血液脳関門を効果的に増加させて、それにより任意の共投与化合物の生物学的利用率を増加させることを初めて示した。つまり本発明は、2,4−ジスルホニルPBNを、血液脳関門の透過性を上昇させるのに十分な量で患者に投与すること、および脳の状態を処置または診断するのに用いられる第二の化合物または物質を投与すること、を含む、血液−脳透過性を上昇させる方法にも関する。
【0042】
実施例5
この実施例の目的は、騒音によるTBIを生じる海馬および嗅内皮質への損傷を処置する際の、2,4−ジスルホニルPBNの長期影響を決定することである。
【0043】
この実施例において、3〜5歳チンチラを、3群に自由に分けた(各群の各時点にチンチラ6匹)。騒音暴露群および騒音+処置群のチンチラに、4kHzを中心とする105dB SPLオクターブ帯域騒音に6時間暴露した。騒音+処置群のチンチラは、騒音暴露4時間後にHPN−07処置(300mg/kg、腹腔内)を開始し、その後、続く2日間に1日2回処置を受けた。正常対照群および騒音暴露のみの群のチンチラは、担体溶液を受けた(腹腔内)。騒音暴露後21日目および6ヶ月目にチンチラを安楽死させて、4%のPBS中パラホルムアルデヒドで灌流した。脳を摘出して、固定剤中に1週間、後固定した。脳を30μmで低温薄切した。ヤギ抗ダブルコルチン(1:100)を用いて、神経前駆細胞を標識した。海馬および嗅内皮質のCA1領域から、光学顕微鏡により像を撮影した。ダブルコルチン染色は、騒音暴露後の神経細胞傷害および神経細胞死の後の脳の神経形成を表す。
【0044】
図12は、騒音に暴露されなかった対照の対象(
図12A)、騒音暴露6ヶ月後の処置なし(
図12B)およびHPN−07処置ありの対象(
図12C)の、海馬のダブルコルチン免疫染色区分を示す。そこに示される通り、ダブルコルチン染色の密度は、騒音に暴露された対象では、HPN−07処置対象に比較して顕著に増加しており、HPN−07処置対象では対照の対象と同等のダブルコルチン密度を示している。
【0045】
類似の結果が、
図13に示された通り嗅内皮質において得られた。
図13Aに、対照条件下(外傷性騒音に暴露されていない)の対象において非常に低レベルのダブルコルチン染色を示す。
図13Bおよび13Dに、外傷性騒音事象への暴露後、それぞれ21日目および6ヶ月目のダブルコルチン染色増加を実証している。
図13Cおよび13Eは、HPN−07処置が、両方の時点でダブルコルチン染色レベルを低減することを実証している。
【0046】
総括すると、これらの結果から、騒音暴露が、外傷性事象の後、長期間持続する海馬および嗅内皮質の幹細胞/修復活性上昇をもたらすことが示唆される。更に、HPN−07で処置された対象の修復活性低下は、この化合物が外傷性騒音事象により誘発される組織損傷を低減するのに効果的であることを示唆している。海馬は、短期記憶から長期記憶への情報の固定、および空間的ナビゲーションにおいて重要な役割を担い、嗅内皮質は、記憶およびナビゲーションのためのネットワーク拠点として機能し、海馬と新皮質の間の主要インターフェースとしても作用する。つまりこれらの結果から、HPN−07が、騒音による長期記憶(LTM)の欠損を処置するのに効果的となり得ることも示唆される。
【0047】
実施例により、騒音および爆風による脳損傷を処置する際の、単独およびNACと組み合わせた2,4−ジスルホニルPBNの有効性が実証される。詳細には2,4−ジスルホニルPBNの使用が、外傷性脳損傷による二次的状態に関連する細胞および分子的影響を低減することが示された。最後に、2,4−ジスルホニルPBNは、意外にも、血液脳関門の透過性を上昇させて、該化合物の生物学的利用率増加を導く。
【0048】
本明細書において用いられた「薬学的有効量」は、細胞の傷害もしくは機能、組織の傷害もしくは機能、または非限定的に騒音による耳鳴をはじめとする外傷性脳損傷による他の機能的もしくは身体的症状に対して治療関連の影響を有する医薬化合物または組成物の量である。治療関連の影響は、騒音および爆風による脳損傷をはじめとし、外傷性脳損傷の身体的もしくは機能的症状の若干の改善、または外傷性脳損傷に関連する細胞的、生理学的、解剖学的または生化学的マーカの変化に関係する。2,4−ジスルホニルPBNとNACとの組み合せ、または4−OHPBNとNACとALCARとの組み合せを含む組成物において、薬学的有効量は、組み合わせとしての投与量が薬学的に有効であることを条件とするが、各々の化合物にとって薬学的有効である投与量であっても、各々の化合物にとっては臨床量未満である(即ち、それぞれ個別で薬学的有効量に満たない)投与量であっても、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0049】
一実施形態において、外傷性脳損傷または耳鳴を処置する方法は、2,4−ジスルホニルPBNおよびNACを含む組成物の薬学的有効量を生物体に投与することを含む。一態様において、該組成物は、2,4−ジスルホニルPBN 1部あたりにNACを少なくとも2部、即ち、NACを2,4−ジスルホニルPBNに対して2:1〜2.5:1の比で含む。別の態様において、該組成物は、等しい部の2,4−ジスルホニルPBNおよびNACを含む。更に、NACと2,4−ジスルホニルPBNとの組成物中で用いられるNACの濃度は、NAC単独で患者を処置する場合よりも実質的に低くてもよい。該組成物は、2,4−ジスルホニルPBN約70mg〜約1200mg、およびNAC約700mg〜約4000mgを含んでいてもよい。更に、2,4−ジスルホニルPBNを含む組成物は、約1mg/kg体重〜約400mg/kg体重、より好ましくはおよそ300mg/kg体重の用量で投与されてもよい。NACを含む組成物は、約5mg/kg体重〜約300mg/kg体重の用量で投与されてもよい。これらの範囲は、本明細書に含まれる実施例に基づいており、他の生物体の薬学的有効量の範囲を限定するものではない。
【0050】
別の実施形態において、外傷性脳損傷または耳鳴を処置する方法は、4−OHPBN+NAC+ALCARを含む組成物の薬学的有効量を、生物体に投与することを含む。そのような組成物は、ALCARとNACと4−OHPBNを組み合わせて用いる場合において、NACについては約5mg/kg〜約300mg/kg、4−OHPBNについては約5mg/kg〜約150mg/kg、およびALCARについては約5mg/kg〜500mg/kgの用量範囲を有し得る。
【0051】
当業者は、本開示を読むことにより、同様に満足な結果ももたらす関連化合物をおそらく認識するであろう。更に、前述の実施例は、騒音暴露および爆風暴露の1〜4時間後に検査対象を処置したが、より短期間内の投与による処置も同様に効果的であるはずであり、おそらく好ましいであろう。加えて、騒音暴露後、爆風暴露後、ストレス後、または他の外傷性脳損傷の原因から48時間を超えて投与される処置も、効果的となる場合がある。従って、前述の開示は、単に本発明の例示とみなされ、本発明の真の範囲は、特許請求の範囲により定義される。