特許第6099574号(P6099574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099574
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】外傷性脳損傷を処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/185 20060101AFI20170313BHJP
   A61K 31/221 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170313BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20170313BHJP
   A61K 31/41 20060101ALI20170313BHJP
   A61K 31/325 20060101ALI20170313BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   A61K31/185
   A61K31/221
   A61P25/00
   A61P43/00 121
   A61K31/198
   A61K31/41
   A61K31/325
   A61K37/02
   A61P27/16
【請求項の数】17
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-552693(P2013-552693)
(86)(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公表番号】特表2014-511374(P2014-511374A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】US2012023855
(87)【国際公開番号】WO2012106654
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2015年2月2日
(31)【優先権主張番号】61/439,671
(32)【優先日】2011年2月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509024112
【氏名又は名称】ハフ イヤ インスティテュート
(73)【特許権者】
【識別番号】594003676
【氏名又は名称】オクラホマ メディカル リサーチ ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】OKLAHOMA MEDICAL RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】コプケ、 リチャード ディ.
(72)【発明者】
【氏名】フロイド、 ロバート エイ.
(72)【発明者】
【氏名】タウナー、 レアール
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−544712(JP,A)
【文献】 Journal of Neurotrauma,(2008), 25,1449-1457
【文献】 Neurotherapeutics,Vol.7, No.1 (2010),51-61
【文献】 In vitro blood-brain barrier permeability and cerebral endothelial cell uptake of the neuroprotective nitrone compound NXY-059 in normoxic, hypoxic and ischemic conditions,Brain Res.,2002年,Vol.955,pp229-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/185
A61K 31/198
A61K 31/221
A61K 31/325
A61K 31/41
A61K 38/00
A61P 25/00
A61P 27/16
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外傷性脳損傷の処置用の組成物であって、
前記組成物は、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンおよびN−アセチルシステインを含み、
前記外傷性脳損傷は、騒音への暴露または爆風への暴露により誘発されたものである、組成物。
【請求項2】
前記外傷性脳損傷が、非開放性脳損傷である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口投与される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、生物体が外傷性脳損傷を受けた1〜4時間後に投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、アセチル−L−カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D−メチオニン、カルバマチオンおよびスゼト・シラー(Szeto−Schiller)ペプチドからなる群より選択される1種以上の化合物を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
外傷性脳損傷の処置用の組成物であって、
前記組成物は、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンと、N−アセチルシステイン、アセチル−L−カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D−メチオニン、カルバマチオン、およびスゼト・シラーペプチドからなる群より選択される1種以上の化合物と、を含み、
前記外傷性脳損傷が、騒音への暴露により誘発される非開放性脳損傷である、組成物。
【請求項7】
外傷性脳損傷の処置用の組成物であって、
前記組成物は、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンと、N−アセチルシステイン、アセチル−L−カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D−メチオニン、カルバマチオン、およびスゼト・シラーペプチドからなる群より選択される1種以上の化合物と、を含み、
前記外傷性脳損傷が、爆風への暴露により誘発される非開放性脳損傷である、組成物。
【請求項8】
経口投与される、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、生物体が外傷性脳損傷を受けた1〜4時間後に投与される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
耳鳴の処置用の組成物であって、
前記組成物は、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンおよびN−アセチルシステインを含み、
前記耳鳴は、騒音への暴露または爆風への暴露により誘発されたものである、組成物。
【請求項11】
経口投与される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、アセチル−L−カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D−メチオニン、カルバマチオンおよびスゼト・シラーペプチドからなる群より選択される1種以上の化合物を更に含む、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
生物体が外傷性脳損傷を受けた1〜4時間後に投与される、請求項10〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
外傷性脳損傷を有する生物体における耳鳴の処置用の組成物であって、
前記組成物は、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンと、N−アセチルシステイン、アセチル−L−カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D−メチオニン、カルバマチオン、およびスゼト・シラーペプチドからなる群より選択される1種以上の化合物と、を含み、
前記耳鳴は、騒音への暴露または爆風への暴露により誘発されたものである、組成物。
【請求項15】
経口投与される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
生物体の騒音への暴露または爆風への暴露の1〜4時間後に投与される、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
中枢神経系における化合物の生物学的利用率を増加させるための、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンを含む組成物であって、
前記化合物は前記組成物の投与と同時またはその後に投与され、
前記化合物は、N−アセチルシステイン、アセチル−L−カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D−メチオニン、カルバマチオンおよびスゼト・シラーペプチドからなる群より選択される1種以上の化合物である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
爆風による過度の圧力が、頭蓋骨を通して脳に伝達されるとする証拠が増えている。これにより、脳の聴覚中枢、例えば脳幹、側頭葉、および視床への傷害など、外傷性脳損傷(TBI)を誘発する可能性を生じ、難聴、めまい、および耳鳴などの症状を示す可能性がある。特に顕著なことは、爆風関連のTBIが、非爆風関連のTBIに比較して、有意に高い割合(60%)で難聴および耳鳴を生じるという観察である。同様に、蝸牛神経核、下丘、内側膝状体および一次聴覚皮質など、強度の音響または騒音により誘発される中枢聴覚構造の変化が報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
一部の物理的傷害は恒久的影響を有するが、爆風による外傷により引き起こされる二次的な分子的および細胞的プロセスから生じる長期的傷害結果の多くは、物理的傷害の影響を増幅させる。TBIは、挫傷、びまん性軸索損傷、血腫、クモ膜下出血を含め、ほぼ即座に損傷プロセスを開始し、その後間もなく様々な二次的損傷が続く。二次的損傷は、虚血、浮腫、酸化的傷害、ATP減少、細胞骨格の変化、炎症、および細胞死経路の活性化などを含み得る。今日まで、これらの二次的な分子および細胞プロセスに取り組む効果的治療アプローチについては、徹底して研究されることがなかった。つまり、TBIの被害に関連するこれらの問題を処置するのに適した処置方法および化合物の実質的な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0003】
騒音または爆風による外傷性脳損傷を処置する方法が、提供される。一実施形態において、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンを含む組成物の薬学的有効量が、騒音または爆風により脳損傷を受けた生物体に投与される。この実施形態の一態様において、該組成物は、N−アセチルシステイン(NAC)を更に含む。この実施形態の別の態様において、該組成物は、経口投与される。
【0004】
外傷性脳損傷を処置する方法が、提供される。一実施形態において、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンを含む組成物の薬学的有効量が、外傷性脳損傷に見舞われた生物体に投与される。この実施形態の一態様において、該組成物は、N−アセチルシステイン(NAC)を更に含む。この実施形態の別の態様において、該組成物は、経口投与される。
【0005】
別の実施形態において、脳損傷を処置する該方法は、4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロンを含む組成物を、脳損傷を有する生物体に投与することを含む。この実施形態の一態様において、該組成物は、NACを更に含む。この実施形態の一態様において、該組成物は、NACおよびアセチル−L−カルニチン(ALCAR)を更に含む。この実施形態の更に別の態様において、該組成物は、経口投与される。
【0006】
耳鳴を処置する方法が、提供される。一実施形態において、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンを含む組成物の治療有効量が、騒音誘発による耳鳴に罹患した生物体に投与される。この実施形態の一態様において、該組成物は、N−アセチルシステイン(NAC)を更に含む。この実施形態の別の態様において、該組成物は、経口投与される。
【0007】
別の実施形態において、騒音による耳鳴を処置する方法は、4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロンを含む組成物を、騒音による耳鳴に罹患した生物体に投与することを含む。この実施形態の一態様において、該組成物は、NACを更に含む。この実施形態の別の態様において、該組成物は、NACおよびアセチル−L−カルニチン(ALCAR)を更に含む。この実施形態の更に別の態様において、該組成物は、経口投与される。
【0008】
本発明は、中枢神経系において化合物の生物学的利用率を増加させる方法にも関する。該方法は、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンを、血液脳関門の透過性を上昇させるのに十分な量で生物体に投与すること、および該化合物を、2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロンの投与と同時に、またはその後に、生物体に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A-1F】対照の対象(1A)、騒音に暴露された対象(1B−騒音後1時間目;1C−騒音後8時間目;1E−騒音後24時間目)、ならびに、騒音暴露後4時間目に2,4−ジスルホニルα−フェニルtert−ブチルニトロン(2,4−ジスルホニルPBN)およびNACで処置された対象(1D−騒音後8時間目;1F−騒音後24時間目)における、c−fosについて免疫染色された背側蝸牛神経核(DCN)の像を提供する。
図1G図1A〜1Fの像からDCNにおいて計数されたc−fos陽性細胞の数を表す棒グラフを提供する(NC=正常対照、H−N=騒音暴露後時間、D−N=騒音暴露後日数、T=2,4−ジスルホニルPBN+NACの処置を受けた)。
図2】2,4−ジスルホニルPBNおよびNACでの処置の非存在下、および存在下で、騒音暴露後の様々な時点での後腹側蝸牛神経核(PVCN)におけるc−fos陽性細胞の数を表す棒グラフを提供する(NC=正常対照、H−N=騒音暴露後時間、D−N=騒音暴露後日数、T=2,4−ジスルホニルPBN+NACの処置を受けた)。
図3A-3F】対照の対象(3A)、騒音に暴露された対象(3B−騒音暴露後1時間目;3C−騒音暴露後8時間目;3E−騒音暴露後24時間目)、ならびに、騒音暴露後4時間目に2,4−ジスルホニルPBNおよびNACで処置された対象(3D−騒音暴露後8時間目;3F−騒音暴露後24時間目)における、c−fosについて免疫染色された前腹側蝸牛神経核(AVCN)の像を提供する。
図3G図3A〜3Fの像からAVCNにおいて計数されたc−fos陽性細胞の数を表す棒グラフを提供する(NC=正常対照、H−N=騒音暴露後時間、D−N=騒音暴露後日数、T=2,4−ジスルホニルPBN+NACの受けた処置)。
図4図1G図2および図3Gの結果の比較を表す棒グラフを提供する。
図5A-5C】対照の対象(5A)、騒音に暴露された対象(5B)、および、騒音に暴露され4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロン(4−OHPBN)+NAC+ALCARで処置された対象(5C)における、プレセレベリンについて免疫染色されたDCNの中央部の像を提供する。
図5D】対照の対象、騒音に暴露された対象、および、騒音に暴露され4−OHPBN+NAC+ALCARで処置された対象における、DCNの外側、中央、および内側部のプレセレベリン陽性細胞の密度を表す棒グラフを提供する。
図6A-6C】対照の対象(6A)、騒音に暴露された対象(6B)、および、騒音に暴露され処置(4−OHPBN+NAC+ALCAR)された対象(6C)における、PEP−19について免疫染色されたDCNの中央部の像を提供する。
図6D】対照の対象、騒音に暴露された対象、および、騒音に暴露され処置(4−OHPBN+NAC+ALCAR)された対象における、DCNの外側、中央、および内側部のPEP−19陽性細胞の密度を表す棒グラフを提供する。
図7A-7C】対照の対象(7A)、騒音に暴露された対象(7B)、および、騒音に暴露され処置(4−OHPBN+NAC+ALCAR)された対象(7C)における、NeuNについて免疫染色されたDCNの中央部の像を提供する。
図7D】対照の対象、騒音に暴露された対象、および、騒音に暴露され処置(4−OHPBN+NAC+ALCAR)された対象における、DCNの外側、中央、および内側部のNeu−N陽性細胞の密度を表す棒グラフを提供する。
図8A-8C】対照の対象(8A)、騒音暴露後の対象(8B)、および、騒音暴露後4時間目に4−OHPBN+NAC+ALCARで処置された対象(8C)の、DCNの中央部のカートホイール細胞体を取り囲む神経末端の透過型電子顕微鏡像を提供する。
図8D-8F】それぞれ図8A〜8Cをより高い倍率で表す。
図8G-8I】対照の対象(8G)、騒音暴露後の対象(8H)、および、騒音暴露後4時間目に4−OHPBN+NAC+ALCARで処置された対象(8I)の、DCNの中央部のカートホイール細胞体の一次樹状突起を取り囲む神経末端の透過型電子顕微鏡像を提供する。
図8J-8L】それぞれ図8G〜8Iをより高い倍率で表す。
図9】爆風に暴露された対象の海馬におけるアミロイド前駆蛋白質(APP)に陽性の細胞の密度を表す棒グラフを提供する(NC=正常対照(爆風なし)、H−B=爆風暴露後時間、D−B=爆風暴露後日数、T=爆風暴露後4時間目の2,4−ジスルホニルPBN+NACでの処置)。
図10A】正常対照の対象におけるグリア原線維酸性蛋白質(GFAP)について免疫染色されたDCNの光学顕微鏡像(倍率4倍)を提供する。
図10B-10D】正常対照の対象(10B)、爆風に暴露された対象(10C)、および、爆風に暴露された後2,4−ジスルホニルPBN+NACで処置された対象(10D)の、GFAPについて免疫染色されたDCNの中央部の光学顕微鏡像(倍率20倍)を提供する。
図10E】対照の対象、爆風に暴露された対象、および、爆風に暴露された後2,4−ジスルホニルPBN+NACで処置された対象の、DCNの外側、中央、および内側部におけるGFAP陽性細胞の密度を表す棒グラフを提供する。
図11】爆風に暴露された対象の、爆風1時間後に投与される2,4−ジスルホニルPBN(HPN−07)+NACの非存在下(対照)および存在下の、血液脳関門透過性の%上昇率を表す棒グラフを提供する。
図12A-12C】騒音外傷に暴露されなかった対照の対象(図12A)、処置なしの暴露後6ヶ月目の対象(図12B)、および、HPN−07処置ありの暴露後6ヶ月目の対象(図12C)における、海馬のダブルコルチン免疫染色区分を表す。
図13A-13E】騒音外傷に暴露されなかった対照の対象(図13A)、処置なしの暴露後21日目および6ヶ月目の対象(それぞれ図13Bおよび図13D)、ならびにHPN−07処置された同じ時点の対象(それぞれ図13Cおよび13E)における、嗅内皮質のダブルコルチン免疫染色区分を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本発明は、騒音による耳鳴および外傷性脳損傷、ならびに酸化ストレス、プログラム細胞死、または炎症プロセスに関連する脳損傷を処置する方法を提供する。外傷性脳損傷(TBI)は、外部力により引き起こされた、脳機能の変化または脳病理の他の証拠である。TBIを引き起こす外部力として、非限定的に、透過的損傷(脳への物体の透過)、および非透過的もしくは非開放性損傷、例えば爆風もしくは圧力への暴露(爆風によるTBI)、物体による頭部打撲、または騒音への暴露(騒音によるTBI)が挙げられる。本発明は、耳鳴および外傷的脳損傷の処置における2,4−ジスルホニル−α−フェニルtertブチルニトロンの機能性、および、2,4−ジスルホニル−α−フェニルtertブチルニトロンとN−アセチルシステイン(NAC)とを組み合わせることによる相乗効果を実証する。本開示の残り部分の目的のために、2,4−ジスルホニル−α−フェニルtertブチルニトロンは、2,4−ジスルホニルPBNまたはHPN−07と称する。
【0011】
2,4−ジスルホニルPBNは、以下の構造を有する。
【化1】
該化合物の酸形態は、以下の構造を有する。
【化2】
該酸形態は、固体でもあり得るし、低pH溶液中にも見出され得る。該化合物のイオン化塩形態が、より高いpHにおいて存在し、以下の構造のいずれかにより表すことができる。
【化3】
または
【化4】
該塩形態において、Xは、薬学的に許容し得る陽イオンである。最も一般的にはこの陽イオンは、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムなどの一価物質であるが、それは単独の多価であっても、または薬学的に許容し得る一価陰イオンと組み合わされた陽イオン、例えばカルシウムと塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、ヒドロキシルイオン、硝酸イオン、スルホン酸イオン、酢酸イオン、酒石酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、パルモ酸イオン(palmoate)などの陰イオン;マグネシウムとそのような陰イオン;亜鉛とそのような陰イオンの組合せなどであってもよい。これらの物質のうち、遊離酸と単純なナトリウム、カリウム、またはアンモニウムとの塩が最も好ましく、カルシウムおよびマグネシウム塩も好ましいが若干劣る。2,4−ジスルホニルPBN化合物は、米国特許第5,488,145号に詳細に記載されている。米国特許第5,488,145号の全体的な開示は、参照により本明細書に組み入れられる。2,4−ジスルホニルPBNの塩も、以下に説明される2,4−ジスルホニルPBNの使用と同様の手法で、脳損傷および耳鳴の処置に用いることができる。
【0012】
追加として、ミトコンドリアを標的とする抗酸化ペプチドが本発明において有用であり、耳鳴および外傷性脳損傷の処置用の組成物の一部として含まれてもよい。これらの化合物は、酸化ストレスおよびミトコンドリアの傷害を導く細胞内活性酸素種(ROS)の発生を阻止する。ミトコンドリアの酸化的傷害は、アポトーシスおよび壊死を誘発し細胞死をもたらすことが知られている。好ましい抗酸化ペプチドは、スゼト・シラー(Szeto−Schiller)(SS)ペプチドおよびその機能的類似体である。これらの化合物は、交互に並んだ芳香族残基および塩基性アミノ酸を有する。特に、チロシン(Tyr)またはジメチルチロシン(Dmt)類似体を有するペプチドは、オキシラジカルを除去することができる。これらの化合物は、低比重リポ蛋白質の酸化を阻害する。SS−ペプチドとしては、SS−31(D−Arg−Dmt−Lys−Phe−NH)およびSS−02(Dmt−D−Arg−Phe−Lys−NH)などの化合物が挙げられる。TyrおよびDmt含有SS−ペプチドに加えて、トリプトファン含有SS−ペプチドも、本発明において有用である。最後に、SS−ペプチド中に見出されるアミノ酸は、LまたはDであってもよく、天然由来、非天然由来、および天然由来アミノ酸誘導体であってもよい。特に、PCT国際公報WO2005/072295号に開示されたSS−ペプチドが、本発明における使用に適する。2005年8月11日に公開されたWO2005/072295号の全体的開示が、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の組成物は、非限定的にアセチル−L−カルニチン(ALCAR)、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D−メチオニンをはじめとする抗酸化化合物を場合により含んでいてもよい。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロン(4−OHPBN)または4−OHPBNの誘導体を、単独で、または少なくとも1種の抗酸化剤と組み合わせて使用して、脳損傷および騒音による耳鳴を処置する。加えて4−OHPBNの誘導体を配合させて、経口吸収を増強してもよく、生物学的利用性反応速度(bioavailability kinetics)を変化させてもよく、および/または、上記化合物の1種以上と組み合わせて配合させてもよい。好ましくは、脳損傷および耳鳴を処置する組成物は、経口投与される。しかし、該組成物を全身に送達する他の方法も、等しく十分に作用するはずである。
【0014】
実施例で実証される通り、本発明者らは、騒音暴露または爆風暴露の1〜4時間後にN−アセチルシステイン(NAC)と組み合わせて投与される4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロン(4−OHPBN)または2,4−ジスルホニルPBNが、生じた外傷性脳損傷に関連する分子変化を予防し得ることを発見した。更に、背側蝸牛神経核など、騒音または爆風暴露により影響を受ける脳の領域を、耳鳴の病因に関連付け、耳鳴処置の新規な治療的アプローチを提供した。
【0015】
本発明の好ましい実施形態を、主に騒音による耳鳴ならびに騒音および爆風による外傷性脳損傷に関連して記載しているが、本明細書に記載される方法および組成物は、様々な異なる事象または要因により誘発される外傷性脳損傷および耳鳴を処置するのに用いられ得ることが、理解されなければならない。本明細書に記載される方法は、虚血、浮腫、酸化的傷害、ATP減少、細胞骨格の変化、炎症、および細胞死経路の活性化など、TBIにより生じる二次的損傷を処置するのに特に有用となり得る。
【0016】
本発明の組成物は、好ましくは経口投与されるが、非限定的に静脈内、皮下、吸入、舌下、真皮下または髄腔内をはじめとする他の送達方法でも投与される。更に、該活性組成物は、ナノ粒子またはデンドリマー製剤として投与されてもよい。ナノ粒子は、多官能性であってもよく、外部磁力を適用させて背側蝸牛神経核などの所望の標的への薬物送達を補助するためにポリマーおよび常磁性酸化鉄粒子で構成されていてもよい。追加として、該組成物を当業者に公知の添加剤とともに製剤して、経口吸収を増強し、生物学的利用性反応速度を変化させてもよい。
【実施例】
【0017】
以下の実施例において、本発明者らは、高レベルの騒音および爆風への暴露(高圧暴露)が、背側蝸牛神経核、海馬、および嗅内皮質をはじめとする特定領域において外傷性脳損傷に関連する分子的および細胞的な変化を誘発し得ることを実証する。その上、本発明者らは、2,4−ジスルホニルPBN(HPN−07)を単独で、またはNACと組み合わせて含む組成物の投与が、外傷性脳損傷に関連する細胞変化を回復させ得ることを実証する。それを実行することにより、騒音による耳鳴をはじめとする外傷性脳損傷の症状を、低減することができる。あるいは本発明者らは、4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロン、NACおよびALCARを含む組成物が、類似の治療効果を有し得ることを実証する。
【0018】
実施例1
この実施例の目的は、2,4−ジスルホニルPBN(HPN−07)およびNACを含む組成物が、背側蝸牛神経核の騒音による外傷性脳損傷を示す分子変化を回復させるのに効果的であることを実証することである。
【0019】
慢性的な音響暴露による耳鳴に見舞われた動物のMRI試験で、背側蝸牛神経核における脳活性の上昇が実証されている。前初期遺伝子であるc−fosの発現は、神経細胞活性マーカとして受け入れられ広く用いられている。c−fos発現の増加が、騒音暴露後数時間から5.5週間目まで中枢神経系において観察されており、c−fosの発現が、耳鳴、または騒音誘発性の耳鳴に関連する可塑性の、神経相関を表し得ることが示唆される。c−fosの発現増加は、脳損傷にも関連付けられている。この実施例では、c−fosの発現を、HPN−07およびNACを含む組成物の投与を実施する場合および実施しない場合について、115dB SPLオクターブ帯域騒音暴露の1時間〜21日目後において検査した。
【0020】
成体ラット(スプラグードゥーリー、各群4〜6匹)を、試験に用いた。騒音群(N)および騒音+処置群(N/T)の動物を、14kHzを中心とする115dB SPLオクターブ帯域騒音に1時間暴露した。20mg/kgのHPN07および50mg/kgのNACを含む組成物を、騒音暴露の4時間後に腹腔投与し、続く2日間において1日2回ずつ腹腔内投与した。騒音暴露を受けなかったラットを、正常対照(NC)とした。聴性脳幹反応(ABR)および歪成分耳音響放射(DPOAE)を、騒音暴露および安楽死の前に記録した。脳幹を、騒音暴露1時間後(1H)、8H、24H、7日後(7D)および21Dに回収し、パラフィン包埋用に処理して6μmの厚さで切片にした。c−fos陽性細胞を、免疫組織化学的染色により、切片において同定した。免疫密度(immunodensity)を、陽性細胞数/mmとして光学顕微鏡により決定した。データを統計解析した(一元配置ANOVAおよびターキーHSD検定)。
【0021】
図1に、正常対照群(A)、騒音暴露群(B、C、E)および騒音/処置群(D、F)の背側蝸牛神経核(DCN)から得られた、光学顕微鏡によるc−fos免疫染色像の例を示す。騒音暴露1時間後に、多数の陽性c−fos染色細胞が主に紡錘状の細胞体層に見出され、分子層および深部層における陽性細胞はほとんどなく(B)、c−fos発現が騒音暴露の直後にDCNにおいて上方制御されることが示唆された。陽性細胞数は、騒音暴露後8H(C)および24H(E)に減少し、7Dおよび21Dに正常レベルまで回復した(データは示さず)。DCNにおける陽性染色細胞を計数し、統計解析した(G)。NC群に比較したc−fos陽性細胞数の有意な増加が、1H−N、8H−Nおよび24H−N群において見出された(p<0.01)。有意差は、8H−N群と8H−N/T群の間にも見出され(p<0.01)、HPN−07およびNACを含む組成物での処置が、騒音曝露後のこの時点でDCNにおけるc−fos発現を下方制御することが示唆された。
【0022】
図2に、PVCNにおけるc−fos免疫染色密度測定の結果を示す。c−fos陽性細胞数の有意な増加が、NC群に比較した1H−N群において見出され(p<0.01)、c−fos発現が騒音暴露の直後にPVCNにおいて上方制御されることが示唆された。
【0023】
図3に、正常対照群(A)、騒音暴露群(B、C、E)および騒音/処置群(D、F)の前腹側蝸牛神経核(AVCN)から得られた、光学顕微鏡によるc−fos免疫染色像の例を提供する。騒音暴露1時間後に、多数の陽性c−fos染色細胞がAVCNに見出され(B)、c−fos発現が騒音暴露の直後にAVCNにおいて上方制御されることが示唆された。陽性細胞数は、騒音暴露後8H(C)および7〜21D(図示せず)に正常レベルまで回復した。しかし、騒音暴露後24Hに、第二の上方制御ピークが存在した。DCNにおける陽性染色細胞数を計数し、統計解析した(G)。c−fos陽性細胞数の有意な増加が、NC群に比較した1H−N群および24H−N群において見出された(p<0.05または0.01)。有意差は、8H−N群と8H−N/T群の間にも見いだされ(p<0.01)、HPN−07およびNACを含む組成物の投与が、騒音暴露後のこの時点でDCNにおけるc−fos発現を下方制御することが示唆された。
【0024】
図4に、騒音暴露およびHPN−07+NAC処置後の異なる時点でのDCN、AVCNおよびPVCNのc−fos発現の比較を提供する。有意差が、1H−N、8H−Nおよび24H−N/T群における3種の核の間に見出された(p<0.05または0.01)。DCNは、騒音暴露後の2つの時点(1Hおよび8H)でVCNよりも有意に多くのc−fos陽性細胞を有し(p<0.01)、DCNが深部層のみに直接の聴覚入力を有するものの、騒音暴露に対して感受性があることも示唆された。
【0025】
要約すると、実施例1は、以下のことを実証している:(1)c−fos発現は、騒音暴露の直後に蝸牛神経核の神経細胞において上方制御された;(2)c−fos発現は、DCNにおいて騒音暴露24時間後に、そしてVCNにおいて8Hに、正常レベルに回復した;(3)騒音暴露後24Hに、AVCNにおいて第二の上方制御ピークがある;(4)騒音暴露後に、VCNよりもDCNにおいて多くのc−fos陽性神経細胞が見出された;ならびに(5)HPN−07およびNACを含む組成物の投与は、DCN(8H)およびAVCN(24H)においてc−fos発現を下方制御し得る。このデータから、HPN−07およびNACでの処置が、DCNおよびAVCNにおいて騒音による外傷性脳損傷の影響を低減するのに効果的であることが示唆される。更に、騒音による耳鳴の心理物理的証拠を有する動物において、DCNにおける自発的な活性上昇が以前に示されており、そのような活性亢進が騒音による耳鳴に関連し得ることが示唆された。つまりこれらの結果から、HPN−07とNACとの組み合わせが、騒音による耳鳴、および騒音による蝸牛神経核への損傷に関連する他の状態を処置するのに効果的となり得ることも示唆される。
【0026】
実施例2
この実施例において、細胞型に特異的なシナプス活性マーカであるプレセレベリン、ならびに神経細胞マーカであるPEP−19(カートホイール細胞マーカ)およびNeuNに加え、透過型電子顕微鏡試験(TEM)を用いて、105dB SPLオクターブ帯域の騒音暴露後4時間目に開始した4−ヒドロキシ−α−フェニルブチルニトロン、NACおよびALCAR(4−OHPBN+NAC+ALCAR)を含む組成物の非存在下および存在下、暴露後10日目のチンチラのDCNにおけるシナプス変性を検査した。
【0027】
3〜5歳のチンチラを、以下の3つの群(各群6匹)に分けた:1)正常対照;2)騒音暴露のみ(4kHzを中心とする105dB SPLオクターブ帯域騒音を6時間);3)騒音暴露に加えて、騒音暴露4時間後に開始し、続く2日間に1日2回実施した4−OHPBN+NAC+ALCARでの処置。処置群の動物は、ジメチルスルホキシド(40%)、ポリエチレングリコール400(40%)、および生理食塩水(20%)に溶解された4−OH−PBN 20mg/kgと、水中の20%NAC(0.05%無水エデト酸二ナトリウム、pH7.0、Hospira Inc., lake Forest, IL)50mg/kgと、生理食塩水中のALCAR(Sigma−Aldrich Onc. At. Lous, MO)20mg/kgと、を受けた。これらの薬剤を、別々に腹腔内投与した。脳幹を回収して、4%パラホルムアルデヒドによる心内灌流により固定した。脳幹を、クリオトームで厚さ18〜20μmに連続的に薄切した。抗プレセレベリン、抗PEP−19または抗NeuN抗体を用いた免疫組織化学的標識を切片で実施して、騒音暴露後のシナプスおよび神経細胞への処置の有効性を評価した。免疫密度を、免疫陽性細胞数/mmとして測定した。細胞数を統計解析した(一元配置ANOVAおよびターキーHSD解析)。4%の新鮮な脱重合パラホルムアルデヒドおよび0.125%グルタルアルデヒドで灌流された3匹のチンチラ(各群1匹)の脳組織をTEM試験に用いて、チンチラのDCNの中央部におけるシナプス変性を検査した。
【0028】
図5に、正常対照群(5A)、騒音暴露群(5B)および騒音/処置群(5C)のDCNの中央部から、光学顕微鏡により得られたプレセレベリン免疫染色像の例を提供する。陽性プレセレベリン染色細胞が、DCNの紡錘状の細胞体層および深部層に見出された(A〜Cの矢印および矢じり)。紡錘状の細胞体層の陽性染色細胞を計数して、統計解析した(D)。有意差が、DCNの中央部のみで群間に見出されたが、外側および内側部には見出されなかった。中央部では、有意差が、正常対照群と騒音暴露群の間(p<0.01)、および騒音暴露群と騒音/処置群の間(p<0.05)に見出された。
【0029】
図6に、正常対照群(6A)、騒音暴露群(6B)および騒音/処置群(6C)のDCNの中央部から、光学顕微鏡により得られたPEP−19免疫染色像の例を提供する。陽性PEP−19染色細胞が、DCNの紡錘状の細胞体層および深部層に見出された(A〜Cの矢印および矢じり)。紡錘状の細胞体層の陽性染色細胞を計数して、統計解析した(D)。全ての領域で、群間に有意差は全く見出されなかった(p>0.05)。
【0030】
図7に、正常対照群(7A)、騒音暴露群(7B)および騒音/処置群(7C)のDCNの中央部から、光学顕微鏡により得られたNeuN免疫染色像の例を示す。多数の陽性NeuN染色細胞が、紡錘状の細胞体層および深部層に見出され、DCNの分子層にはほとんど見出されなかった。陽性染色細胞を計数して、統計解析した(D)。有意差は、全ての領域で、群間に有意差は全く見出されなかった(p>0.05)。
【0031】
図8に、正常対照(左の列)、騒音暴露(中央の列)および騒音/処置(右の列)のチンチラのDCNの中央部においてカートホイール細胞体(A〜F)およびその一次樹状突起(D1、G〜L)を取り囲む神経末端の例を提供する。パネルD〜FおよびJ〜Lの像は、それぞれパネルA〜CおよびG〜Iのより高倍率の像である。2つの型の末端PVD(多型性小胞、高密度(pleomorphic vesicles, dense))およびPVL(多型性小胞、低密度(lusent))が、カートホイール細胞体、およびその一次樹状突起を取り囲んで見出された。3群のいずれのチンチラPVDシナプス末端にも、明白な変化は見出されなかった。正常対照群のPVLに比較して、騒音暴露群および騒音/処置群のPVLにおいては、巨大な小胞が認められたが(E、F、Kの矢じり)、騒音/処置群のD1を取り囲む神経末端のPVLには、認められなかった(L)。その上、正常対照群および騒音/処置群において凸形状を有するシナプス膜(D、F、JおよびLの矢印)は、騒音暴露されたチンチラでは平坦に見え、より低密度の輪郭を有した(EおよびKの白抜き矢印)。
【0032】
要約すると、実施例2により以下のことが実証される:(1)プレセレベリン発現の下方制御は、騒音暴露群のDCNの中央部のみに見出され;(2)本試験において用いられた騒音暴露は、カートホイール細胞の喪失(PEP−19により標識)またはDCNにおける他の神経細胞の喪失(NeuNにより標識)を誘発しなかった;(3)TEMにより、DCNの中央部のカートホイール細胞体およびその一次樹状突起を取り囲む神経末端において、小胞の拡大およびシナプス膜の平坦化が示された;(4)DCNの中央部のシナプス変性は、騒音暴露の一結果である可能性がある;(5)4−OHPBN+NAC+ALCARを含む組成物の投与は、プレセレベリンの発現を有意に回復させ、DCN内のカートホイール細胞体およびその一次樹状突起を取り囲むシナプスの変性を低減した。つまり、騒音暴露後の早期4−OHPBN+NAC+ALCAR処置は、正常な中枢聴覚構造を維持する働きがある。
【0033】
実施例3
この実施例の目的は、爆風暴露後の海馬および皮質における様々な脳損傷バイオマーカに対する、NACと2,4−ジスルホニルPBN(HPN−07)との組み合わせの影響を実証することである。
【0034】
雄ロングエバンス有色ラットを、3回の爆風(14psi、爆風の間隔は1.5分間)に暴露した。ラットに通常の生理食塩水中の300mg/kg NAC+300mg/kg HPN−07を、爆風暴露1時間後に腹腔内注射し、その後、ラットの処置群には続く2日間に1日2回継続して注射した。爆風を受けたラットまたは受けなかったラットに、担体溶液を注射し、対照として使用した。各群および各時点で、ラット6匹を用いた。動物は全て、爆風暴露後3時間、24時間、7日および21日目に10%パラホルムアルデヒドで心内灌流した(各群の各時点に6匹。合計54匹)。脳を採取して、30μmに低温薄切した。アミロイド前駆蛋白質(APP)およびグリア原線維酸性蛋白質(GFAP)レベルを、海馬および聴覚皮質のCA1領域において測定して、外傷性または爆風による脳損傷のレベルを示した。ウサギ抗APP IgG(1:100、Millipore)またはGFAP IgG(1:500、Millipore)およびアビジン・ビオチン複合体(ABC)法を用いた免疫組織化学的染色により、レベルを測定した。光学または共焦顕微鏡測定により、像を採取した。APP陽性染色を計数して、図9に示された通り統計解析した(ANOVAおよび事後検定)。
【0035】
APP染色は、対照群(爆風暴露なし)では海馬および皮質のCA1領域に存在しない。しかし爆風暴露24時間後に、強度のAPP陽性染色が、海馬および皮質のCA1領域において見出され、脳損傷を示している。この損傷は、HPN−07およびNACでの併用処置を受けた場合には両方の領域で低減した(共焦顕微鏡像は示さず)。APP蛋白質が、損傷への応答として軸索および細胞体に蓄積されることも、観察された(共焦顕微鏡像は示さず)。図9に、共焦顕微鏡像において見出されたAPP陽性体の定量を提供する。有意差が、爆風暴露24時間後に、正常対照(NC)と爆風群(24H−B)の間(p<0.001および0.05)、ならびに爆風群(24H−B)と爆風+処置群(24H−B/T)の間(p<0.001)に見出された。これらの結果から、爆風暴露1時間後のHPN−07とNACとの組み合わせが、脳におけるAPP形成および発現を阻害することが示され、従って爆風による脳損傷から生じる傷害がHPN−07およびNAC処置により低減することが示唆された。
【0036】
図10は、爆風後21日目に、正常対照群の背側蝸牛神経核(DCN−4×、図10A)およびDCNの中央部(20×、図10B)、爆風暴露群(図10C)および爆風/処置群(図10D)の、光学顕微鏡により得られたGFAP免疫染色像を示す。陽性GFAP染色細胞が、DCNの全ての層に見出されたが、それらのほとんどは、表層に位置している。正常対照には、陽性細胞がほとんど見出されない。より多くのGFAP陽性細胞が、爆風後21日目のDCNに見出され、処置後のDCNでは陽性細胞がより少ない。DCNにおける陽性染色細胞を計数して統計解析し、その結果を図10Eに提供している。有意差は、DCNの中央部の群間に見出されたが(p<0.05)、DCNの外側および内側では見出されなかった(全てp>0.05)。これらの結果から、HPN−07およびNACでの処置が、爆風暴露後のグリア細胞活性を阻害し、DCNにおける領域的な効果を有し得ることが実証される。このデータは、NAC/HPN−07処置が、DCNおよび聴覚皮質などの聴覚中枢を含め、爆風によるTBIを低減することを裏付けている。
【0037】
実施例4
この実施例の目的は、血液脳関門透過性に対するHPN−07およびNACの影響を検証することである。
【0038】
雄ロングエバンス有色ラット(Harlan Laboratories, Indianapolis, Indiana、体重360〜400g)に対し、生理食塩水に5ml/kgで溶解された300mg/kg NAC+300mg/kg HPN−07の組み合わせを、腹腔内注射した。対照群の動物には、同様の容量の生理食塩水を腹腔内注射した。薬物または生理食塩水は、初日に1回投与し、その後、続く2日間に1日2回投与した。
【0039】
初期薬物投与後7日目に、核磁気共鳴画像(MRI)を利用して、血液脳関門(BBB)の破綻を検出した。造影剤(Magnevist=GdDTPA)の注射後に、造影後T1強調MRI画像に記録されたコントラストの増強は、血液脳関門の破綻を示している。T1強化像の極度に高い強度は、ベースラインで注射されたガドリニウム系造影剤の漏出によるものである。
【0040】
磁気共鳴画像を、0.4mmolGd/kg Magnevistの注射の前および後に得て、血液脳関門の破綻領域を実証した。MRIパラメータおよび画像スケールの倍率は、T1強化像全てにおいて一定に維持した。画像を、視覚的および関心部分(ROI)測定の両方で評価した。ROI測定を、その時点(T1強化像における造影材料の注射前および後)の脳で得た。ROIシグナル強度の差を、造影材料を注射する前の値に関して標準化して、図11に示された通り%変化として報告した。
【0041】
NACは、血液脳関門透過性を増加させないことで知られるため、これらの結果は予期されないものであり、HPN−07が血液脳関門を効果的に増加させて、それにより任意の共投与化合物の生物学的利用率を増加させることを初めて示した。つまり本発明は、2,4−ジスルホニルPBNを、血液脳関門の透過性を上昇させるのに十分な量で患者に投与すること、および脳の状態を処置または診断するのに用いられる第二の化合物または物質を投与すること、を含む、血液−脳透過性を上昇させる方法にも関する。
【0042】
実施例5
この実施例の目的は、騒音によるTBIを生じる海馬および嗅内皮質への損傷を処置する際の、2,4−ジスルホニルPBNの長期影響を決定することである。
【0043】
この実施例において、3〜5歳チンチラを、3群に自由に分けた(各群の各時点にチンチラ6匹)。騒音暴露群および騒音+処置群のチンチラに、4kHzを中心とする105dB SPLオクターブ帯域騒音に6時間暴露した。騒音+処置群のチンチラは、騒音暴露4時間後にHPN−07処置(300mg/kg、腹腔内)を開始し、その後、続く2日間に1日2回処置を受けた。正常対照群および騒音暴露のみの群のチンチラは、担体溶液を受けた(腹腔内)。騒音暴露後21日目および6ヶ月目にチンチラを安楽死させて、4%のPBS中パラホルムアルデヒドで灌流した。脳を摘出して、固定剤中に1週間、後固定した。脳を30μmで低温薄切した。ヤギ抗ダブルコルチン(1:100)を用いて、神経前駆細胞を標識した。海馬および嗅内皮質のCA1領域から、光学顕微鏡により像を撮影した。ダブルコルチン染色は、騒音暴露後の神経細胞傷害および神経細胞死の後の脳の神経形成を表す。
【0044】
図12は、騒音に暴露されなかった対照の対象(図12A)、騒音暴露6ヶ月後の処置なし(図12B)およびHPN−07処置ありの対象(図12C)の、海馬のダブルコルチン免疫染色区分を示す。そこに示される通り、ダブルコルチン染色の密度は、騒音に暴露された対象では、HPN−07処置対象に比較して顕著に増加しており、HPN−07処置対象では対照の対象と同等のダブルコルチン密度を示している。
【0045】
類似の結果が、図13に示された通り嗅内皮質において得られた。図13Aに、対照条件下(外傷性騒音に暴露されていない)の対象において非常に低レベルのダブルコルチン染色を示す。図13Bおよび13Dに、外傷性騒音事象への暴露後、それぞれ21日目および6ヶ月目のダブルコルチン染色増加を実証している。図13Cおよび13Eは、HPN−07処置が、両方の時点でダブルコルチン染色レベルを低減することを実証している。
【0046】
総括すると、これらの結果から、騒音暴露が、外傷性事象の後、長期間持続する海馬および嗅内皮質の幹細胞/修復活性上昇をもたらすことが示唆される。更に、HPN−07で処置された対象の修復活性低下は、この化合物が外傷性騒音事象により誘発される組織損傷を低減するのに効果的であることを示唆している。海馬は、短期記憶から長期記憶への情報の固定、および空間的ナビゲーションにおいて重要な役割を担い、嗅内皮質は、記憶およびナビゲーションのためのネットワーク拠点として機能し、海馬と新皮質の間の主要インターフェースとしても作用する。つまりこれらの結果から、HPN−07が、騒音による長期記憶(LTM)の欠損を処置するのに効果的となり得ることも示唆される。
【0047】
実施例により、騒音および爆風による脳損傷を処置する際の、単独およびNACと組み合わせた2,4−ジスルホニルPBNの有効性が実証される。詳細には2,4−ジスルホニルPBNの使用が、外傷性脳損傷による二次的状態に関連する細胞および分子的影響を低減することが示された。最後に、2,4−ジスルホニルPBNは、意外にも、血液脳関門の透過性を上昇させて、該化合物の生物学的利用率増加を導く。
【0048】
本明細書において用いられた「薬学的有効量」は、細胞の傷害もしくは機能、組織の傷害もしくは機能、または非限定的に騒音による耳鳴をはじめとする外傷性脳損傷による他の機能的もしくは身体的症状に対して治療関連の影響を有する医薬化合物または組成物の量である。治療関連の影響は、騒音および爆風による脳損傷をはじめとし、外傷性脳損傷の身体的もしくは機能的症状の若干の改善、または外傷性脳損傷に関連する細胞的、生理学的、解剖学的または生化学的マーカの変化に関係する。2,4−ジスルホニルPBNとNACとの組み合せ、または4−OHPBNとNACとALCARとの組み合せを含む組成物において、薬学的有効量は、組み合わせとしての投与量が薬学的に有効であることを条件とするが、各々の化合物にとって薬学的有効である投与量であっても、各々の化合物にとっては臨床量未満である(即ち、それぞれ個別で薬学的有効量に満たない)投与量であっても、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0049】
一実施形態において、外傷性脳損傷または耳鳴を処置する方法は、2,4−ジスルホニルPBNおよびNACを含む組成物の薬学的有効量を生物体に投与することを含む。一態様において、該組成物は、2,4−ジスルホニルPBN 1部あたりにNACを少なくとも2部、即ち、NACを2,4−ジスルホニルPBNに対して2:1〜2.5:1の比で含む。別の態様において、該組成物は、等しい部の2,4−ジスルホニルPBNおよびNACを含む。更に、NACと2,4−ジスルホニルPBNとの組成物中で用いられるNACの濃度は、NAC単独で患者を処置する場合よりも実質的に低くてもよい。該組成物は、2,4−ジスルホニルPBN約70mg〜約1200mg、およびNAC約700mg〜約4000mgを含んでいてもよい。更に、2,4−ジスルホニルPBNを含む組成物は、約1mg/kg体重〜約400mg/kg体重、より好ましくはおよそ300mg/kg体重の用量で投与されてもよい。NACを含む組成物は、約5mg/kg体重〜約300mg/kg体重の用量で投与されてもよい。これらの範囲は、本明細書に含まれる実施例に基づいており、他の生物体の薬学的有効量の範囲を限定するものではない。
【0050】
別の実施形態において、外傷性脳損傷または耳鳴を処置する方法は、4−OHPBN+NAC+ALCARを含む組成物の薬学的有効量を、生物体に投与することを含む。そのような組成物は、ALCARとNACと4−OHPBNを組み合わせて用いる場合において、NACについては約5mg/kg〜約300mg/kg、4−OHPBNについては約5mg/kg〜約150mg/kg、およびALCARについては約5mg/kg〜500mg/kgの用量範囲を有し得る。
【0051】
当業者は、本開示を読むことにより、同様に満足な結果ももたらす関連化合物をおそらく認識するであろう。更に、前述の実施例は、騒音暴露および爆風暴露の1〜4時間後に検査対象を処置したが、より短期間内の投与による処置も同様に効果的であるはずであり、おそらく好ましいであろう。加えて、騒音暴露後、爆風暴露後、ストレス後、または他の外傷性脳損傷の原因から48時間を超えて投与される処置も、効果的となる場合がある。従って、前述の開示は、単に本発明の例示とみなされ、本発明の真の範囲は、特許請求の範囲により定義される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図8J
図8K
図8L
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E