(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の素材はいずれも、高強度の素地に成形性や表現性に優れた軟質の成形層を定着する構造のため、異種材料層同士を定着固化させなければならない。このため、大型のものや精巧な立体成型品に適用すると、各材料層の熱収縮率ないし含水率の違いによって層分離したり、ヒビやワレが発生したりしてしまう。特に焼成工程を経る場合は層分離し易く、或いはヒビやワレが発生し易いものとなる。また成形後も経年劣化によって層分離したり、表面にひびが発生したりしてしまう場合があり、保存性に欠けるものであった。
そこでこの発明は、例えば比較的大型の復元品や再現品、複製品を高い精度で得ることを目的の一つとして、表現対象を表現するための成形層を素地上に有する装飾セラミックスのための原材であって、該成形層は表現対象を形状、色、質感等において高い精度で表現することが可能でありながら、優れた耐熱性と素地への定着性とを有し、表面の成形状態の保持性に優れた装飾セラミックスのための原材を提供すること、並びにそのような装飾セラミックスのための原材の製造方法を提供することを課題とする。
また本発明は本発明に係る装飾セラミックスのための原材を用いた装飾セラミックスであって、表現対象が形状、色、質感等において高い精度で表現され、優れた耐熱性と素地への定着性とを有し、表面の成形状態の保持性に優れた装飾セラミックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するためこの発明は、次のような装飾セラミックスのための原材、該原材を用いた装飾セラミックスを提供する。
【0006】
1.装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス
この発明の装飾セラミックスの原材は、基本構成として、
微細凹凸部を有する層形成面を少なくとも1面に有した素地と、
素地の前記層形成面に層形成された成形層(ガラス質被膜からなるものを除く)と、を具備して一体的に形成された装飾セラミックスの原材であって、
前記成形層のうち少なくとも素地と隣接する層部分は、ペタライトを
主剤とするものであり、かつ前記素地の前記微細凹凸部に沿って定着
し、
前記成形層のうち少なくとも前記素地と隣接する境界面は、モード径10μm超かつD50メジアン径10μm超の粒度分布からなり、この粒度分布は、横軸を粒子径とし縦軸を頻度とする粒度対数頻度グラフにおいて縦軸方向に突出した2ピーク以上を有する分散曲線として示されることを特徴とする。
上記のように、後述する特徴を有するペタライトを成形層のうち少なくとも素地と隣接する層部分の
主剤とするものであり、成形層を、素地上の微細凹凸部に沿って層形成して定着させることで、成形層は素地から分離しにくい良好な定着性を有するものとなる。
なお、前記素地の層形成面の微細凹凸部とは、要するに、素地の原料となる素地の混練体を焼成することで素地表面部分に形成される、10μm〜900μm程度の凹凸高さの凹凸部のことである。
また本発明に係る装飾セラミックスは、上記の基本構成を備えた本発明に係る原材に所定の仕上げ処理が施されたものである。ここで仕上げ処理とは、施釉処理、彩色処理、
模様の転写処理の
うちの少なくとも一つの処理、或いはさらに仕上げ焼成を含む処理をいう。
【0007】
2.装飾セラミックスの原材及び該原材を用いる装飾セラミックスの製造方法
この発明の装飾セラミックスの原材は、基本的には、
素地の原料となる素地の混練体を第一焼成することで板状の素地の成形体を得る素地形成工程と、
素地の片面に、成形層の原料となる、ペタライトを主剤とする粉粒混合物と水とを混練した粘土状の混練体を盛土する盛土工程と、
混練体の盛土を静置して盛土から表層部を自然分離させる表層分離工程と、
を含む。
なお、前記素地の層形成面の微細凹凸部とは、要するに、素地の原料となる素地の混練体を焼成することで素地表面部分に形成される、10μm〜900μm程度の凹凸高さの凹凸部のことである。
また本発明に係る装飾セラミックスは、上記の基本構成を備えた本発明に係る原材の製造方法により装飾セラミックスの原材を得る工程に加え、該原材に所定の仕上げ処理を施す工程を含む。ここで仕上げ処理とは、施釉処理、彩色処理、表現対象の模様等の転写処理の内の少なくとも一つの処理、或いはさらに仕上げ焼成を含む処理をいう。
【0008】
上記装飾セラミックスの原材の製造方法についてさらに説明すると、上記盛土工程によって、素地上に盛土が形成された盛土状態となり、上記表層分離工程によって、盛土状態の盛土が表層部と下層部とに自然分離した層分離状態となる。
本発明の装飾セラミックスの原材の製造方法の代表的な例では、層分離状態の表層部は表層除去工程によって除去されて下層部(下層部の一部である場合を含む)のみの表層除去状態となり、次いで焼成工程によって、表層部を除く表層除去状態の下層部が成形層として素地上に定着した焼成状態となる。この製造方法は、単なる盛土・焼成による層形成ではなく、盛土工程後に表層分離状態を経て、さらに表層除去状態を経た焼成工程によって成形層を形成するものとなっている。
そして上記表層分離工程によって、混練体のうち分離沈下した下層部が素地の層形成面に定着した状態となり、また上記表層除去工程によって、下層部が混練体部の上面に露出した状態となる。ここで、混練体のうち分離沈下した下層部はその後の焼成によって、例えば
図6の拡大顕微鏡写真に示すような比較的粗い凹凸状の固化層面をなし、
図5の拡大顕微鏡写真に示す、表層部を除去せずに焼成した場合の比較的平坦状の固化層面と比べて、明らかに異なった層面粗度となる。この比較的粗い凹凸状の層面によって、成形層の上部が、当該成形層上に付加形成されることがあるさらなる成形層や、彩色剤ないし釉薬等の良好な定着性をもたらす。また、成形層の下部は素地の層形成面に対して良好な定着性を示す。
【0009】
(ペタライトについて)
以上の本発明に係る装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにそれらの製造方法において、
ペタライトは、葉長石またはペタル石とも呼ばれるケイ酸塩の単斜晶系鉱物であり、LiAlSi4O2を化学組成とする。ペタライトは一般的に、高い耐熱衝撃性を有しており、熱膨張性が低い特徴を有している。
(主剤の意味)
また本発明において「主剤」とは、水を除く他の配合成分すべてのうち、最も配合重量比の高い配合成分であることを意味する。
【0010】
以下、本発明の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法に関する事項について例示説明する。
先ず、本発明の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法において、
前記素地は、例えば、成形層の成形前に第一焼成によって予め焼成成形された、吸水性を有するものである。代表例として、吸水性を有する焼成板状材からなるものを挙げることができる。
前記成形層は、ペタライトを主剤に含む粉粒混合物と水とを混練した混練体が、素地の層形成面上で素地に吸水された状態(被吸水状態)となり、この状態(被吸水状態)で前記第一焼成よりも低い焼成温度の第二焼成によって素地と共に焼成された焼成材からなることが好ましい。
当該混練体は粉粒混合物と水とを混練させて粘土状にしたものであり、第二焼成によって固化した成形層となる。混練体は、前記第二焼成の際または第二焼成の前に、前記素地に盛土され静置されることで混練体の水分が、吸水性を有する素地に吸収され、素地の微細凹凸部に投錨したごとき状態となる(以下、単に「投錨した/投錨する」と表現する)。このように粘土状の混練体が吸水され、かつ投錨した状態で焼成成形済みの素地と共に焼成されることで、素地上に密着した成形層となる。
【0011】
上記装飾セラミックスの原材はさらに言えば、例えば、第一焼成によって板状に形成された素地の片面側に、粉粒混合物と水とを混練してなる粘土状の混練体を所定厚さで盛土して該盛土を前記第一焼成温度よりも低い温度で第二焼成して得られる成形層を有する装飾セラミックスの原材である。
前記素地は、例えば、混練体を盛土する前の板状の成形体の状態において、吸水率0.1%以上60%以下であり、
前記素地上に形成する成形層は、1層の成形層だけでもよいが、後述する付加成形層(第二成形層、第三成形層、・・・)等も形成する場合のように、複数層形成してもよい。いずれにしても、素地以外の層のうち、少なくとも素地と隣接して形成される成形層は、脱水した最終成形体の状態において、少なくともペタライト40w(weight:重量をいう。以下同じ)%以上75w%以下を含むことが好ましい。
【0012】
本例の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法は、ペタライトを
主剤とする混練体を焼成によって成形層として定着させることを大きな特徴のひとつとする。
ここで「ペタライトを主剤とする」とは、焼成して脱水させた最終成形体の状態でペタライトを40w%以上75W%以下含むように、焼成前の混練体へのペタライト含有率を調整したものをいう。脱水した最終成形体の状態でペタライトを40w%以上75W%以下含むように、ペタライトを
主剤とするものとして混練した混練体は、焼成(後述の実施例の第二焼成)によって素地上に溶融・固化し、優れた耐熱性と定着性とを有した成形層となる。前記混練体は粘土状の状態で第一焼成成形後の素地上に盛土され、素地と共に焼成(第二焼成)されることで、素地に溶融・固化し、素地の表面材の微細凹凸部に投錨した状態で素地と一体化した成形層となる。この成形層は素地への定着性に優れ、成形層の形成後(後述の実施例にいう第二焼成後)の乾燥及び焼成によって層表面が反り変形したり、素地から分離したりすることがない。
なお上記に加え、前記混練体はさらに15%以上(好ましくは17%以上)50%以下の含水率とすることが好ましい。前記のように含水率調整した混練体を素地と共に焼成(実施例に言う第二焼成)して成形層とすることで、混練体の初めての焼成(第二焼成)直後の全体の線膨張係数が3.0〔×10
-6/K〕以下に抑えられる。
【0013】
(臨界的意義)
前記素地上の成形層の材料である前記混練体がペタライトを
主剤とするものでない場合、或いは素地が吸水性を有さない場合においては、乾燥及び第二焼成、ないしその後の例えば第三焼成、第四焼成・・・(さらに成形層を形成する場合における第三焼成、第四焼成・・・)によって収縮・変形して全体のワレが生じてしまったり、成形層の層境界で層分離したりする恐れがある。特に、混練体の粉粒混合物中のペタライト配合率が40w%に満たない場合、或いは成形後の成形層の最終的なペタライト配合率が40w%に満たない場合にはワレの発生が生じやすいものとなる。また素地は事前に第一焼成された予焼成済みの成形体であるため、第二焼成時には、予め大部分の収縮を完了している。このため第一焼成温度よりも低い第二焼成によってさらに大きく収縮することはなく、ペタライトを主剤とする成形層・・・と共に焼成されることで、過度な収縮変形を防ぐことができる。また素地が適度な吸水率を保たない場合、例えば素地の吸水率が0.1%に満たない場合は、素地と混練体との定着性が悪く、焼成後にヒビやワレが生じてしまう。その一方、素地の吸水率が60%を超えてくると、例えば65%以上と高すぎる場合には、成形層の材料である混練体の乾燥時又は第二焼成時、ないしその後の第三焼成時等において混練体から水を吸いすぎることで、素地の強度が低く耐久性に欠けるものとなってしまう。
【0014】
また、前記の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法においては、前記第二焼成後の、素地と成形層とからなる一体的な部材全体としての線膨張係数が、1.0〔×10
-6/K〕以上5.5〔×10
-6/K〕以下であることが好ましい。
上記のように成形層が素地上に良好に定着し、定着後の素地と成形層とが一体化した成形後の部材(この部材には、原材の場合、さらに付加形成層を形成すべき部材の場合の双方を含む)は、部材全体の線膨張係数が1.0〔×10
-6/K〕以上であって5.5〔×10
-6/K〕以下に抑えられたものとなり、各層の膨張による剥離ないし分離が生じにくいものとなる。一方、第二焼成後の部材全体の線膨張係数が1.0〔×10
-6/K〕より小さすぎる、または第二焼成後の部材全体の線膨張係数が5.5〔×10
-6/K〕より大きすぎるとその後の仕上げ焼成の際に層表面が反り変形したり、素地と成形層とが分離したりする場合がある。
【0015】
また上記に加え、或いは上記とは別に、前記素地と隣接して盛土される混練体は、例えば、第二焼成前の粘土状の状態において、少なくともペタライトと、無機解膠材と、水と、を含む混練体(すなわち、「ペタライトと無機解膠材とを少なくとも含む粉粒混合物」を、水と共に混練した混練体)からなることが好ましい。本例によれば、無機解膠材の配合によってペタライトを含む粉粒混合物を水内に比較的均一に分散させることができる。これにより、混練体は第二焼成において素地に溶融・固化し、素地の表面材の微細凹凸部に投錨した状態で一体化でき、40w%以上もの高配合率のペタライトを均一に分散させた成形層が、素地上に良好に定着する。但し、本発明全てをこれら又はこれらのうちいずれかの要素を具備するものに限定する趣旨ではない。
【0016】
また、前記いずれかの装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法においては、前記素地と隣接して盛土される混練体は、例えば、第二焼成前の粘土状の状態において、少なくともペタライトと、少量の無機解膠材と、粘土材と、を含んでなり、該混練体が第二焼成の前の素地上に盛土された状態で層内分離することで、水分を含む表層部が下層部の上部に表層分離したものであることが好ましい。
【0017】
また上記混練体は例えば、「40w%以上もの高配合率のペタライトと、5w%以上35w%以下の粘土材(蛙目粘土、ロー石、又は陶石の少なくとも一種以上をいう。本発明において以下同じ。)と、少量の無機解膠材とを少なくとも含む粉粒混合物」を、水と共に混練した混練体からなり、この混練体を静置することにより、粘土材に含まれる粒度100μm未満の細かい粒子が高い含水率の表層部として混練体の表側に分離することとなる。水分を含む表層部が下層部と分離して表層部化することによって、残りの下層部内の微細粒子含有率が極めて小さくなる。このため、乾燥・焼成後の成形層がヒビ割れや欠けを生じにくいものとなる。なお表層部は、D50のメジアン径を50%以下とする粒度分布で構成されることが好ましく、また、粒度を頻度分布表示したときに1μm以上100μm以下の範囲内、さらにいえば1μm〜20μmの範囲内に最大ピーク値(すなわちモード径)を有することが好ましい
。
【0018】
また、前記いずれかの装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法において、前記成形層は、素地上に盛土された混練体のうち、前記表層部を除去することで残った下層部のみを第二焼成した、下層部の第二焼成体からなることが好ましい。
上記により、除去された残りの表面は下層部で構成されると共に成形層が下層部のみで構成されるため、形状安定性に優れたものとなり、或いは、さらに上層付加される場合の上層定着性にも優れたものとなる。
【0019】
例えば表層部が除去されないまま残った場合は、表面の表層部が反り変形したりして表面の性状が不均一となる。また前記いずれかの装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法において、前記成形層の上に付加成形層や仕上げ層を形成してもよいが、その場合に、当該付加成形層や仕上げ層との定着性が悪いために、ピンホールと呼ばれる微小な気泡が生じたりすることがある。これに対して、成形層の上層部を除去して下層部のみで構成された前記成形層であれば、表面の性状が比較的均一となるため、成形層の上に付加成形層や仕上げ層を形成する場合の当該付加成形層や仕上げ層との定着性が悪くなることがなく、層表面に仕上げ用の釉薬塗布といった仕上げ処理を施した場合にも、ピンホールと呼ばれる微小な気泡が生じたりすることが抑制される。但し、本発明全てをこれら又はこれらのうちいずれかの要素を具備するものに限定する趣旨ではない。なお後述の実施例では、表層除去工程における、除去手段による表層除去をもって表層部を除去するものとしている。
【0020】
また、前記いずれかの装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法において、素地は例えば、少なくともペタライトを
主剤とするもの、或いは少なくともペタライトを
主剤とするものであって、かつ素地のペタライト配合率(PR1)
が成形層のペタライト配合率(PR2)以下であるものを挙げることができる。さらに例えば、少なくともペタライト40w%以上と粘土材と骨材とを含み、かつ、素地のペタライト配合率(PR1)は成形層のペタライト配合率(PR2)以下であるものを挙げることができる。
上記構成によれば、前記いずれかの装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法において、素地が粘土材を含み且つペタライトを主成分とすることで、混練体と成分組成の多くが共通することとなり、第二焼成による溶融定着性に優れたものとなる。また、素地におけるペタライト配合率(PR1)が成形層におけるペタライト配合率(PR2)と同程度であるか或いはこれよりも少ないため、第一焼成において素地をより高温で焼成することができる。また素地は第二焼成前に第一焼成として予焼成されているため、収縮率が少なく形状安定性に優れた一次成形品として得られる。但し、本発明全てをこれら又はこれらのうちいずれかの要素を具備するものに限定する趣旨ではない。
【0021】
また、前記いずれかの装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法において、前記素地の第一焼成前の混練体はさらに、板状成形の際又は第一焼成の際のうち少なくとも一方において発泡する発泡剤を含むことが好ましい。
この態様によれば、成形後の素地が発泡部分を含むことで、乾燥雰囲気の湿度条件によらず高い含水率を確保することができ、また表面及び表面近傍に微細凹凸部が形成され、ここに混練体が溶融投錨することで、混練体の定着性がきわめて良好なものとなる。但し、本発明全てをこれら又はこれらのうちいずれかの要素を具備するものに限定する趣旨ではない。
【0022】
また、前記の「2.装飾セラミックスの原材及び該原材を用いる装飾セラミックスの製造方法」に記載した本発明に係る製造方法の代表例においては、
混練体の盛土から表層分離した表層部を除去して下層部のみとする表層除去工程と、
前記表層除去工程後の混練体の下層部を、素地と共に第二焼成して成形層を形成する焼成工程と、をさらに含んでいる。
或いはさらに、当該装飾セラミックスの原材及び該原材を用いる装飾セラミックスの製造方法においては、表層除去工程後の除去表面の少なくとも一部分に、付加成形層(第二成形層、第三成形層・・・)の原料となる、粉粒混合物と水とを混練した粘土状の付加混練体を盛土して付加焼成(第三焼成、第四焼成・・・)し、成形層の上に1又は2以上の付加成形層(第二成形層、第三成形層・・・)を形成する層付加工程をさらに含んでいてもよい。なお、これは後述する実施例3の製造方法に相当する。
以上の他、装飾セラミックスの原材の製造方法として、次の方法も挙げることができる。すなわち、前記の表層除去工程後の混練体残部表面の少なくとも一部分に、付加成形層(第二成形層、第三成形層、・・・)の原料となる。粉粒混合物と水とを混練した粘土状の付加混練体を盛土する工程を経て積層構造の焼成前成形層を形成し、その後にこれらを素地と共に第二焼成する方法である。
或いはさらに、当該付加成形層を形成するための付加混練体の平均粒度は、前記盛土工程における混練体の平均粒度よりも小さく、かつ前記層付加形成における付加焼成温度(第三焼成温度、第四焼成温度・・・)は、当該付加焼成工程よりも前に行ったいずれの焼成工程(前焼成工程)の焼成温度をも超えることの無いことが好ましい。なおさらに好ましくは、前記層付加形成における各焼成温度は、当該層付加形成よりも前のいずれの前焼成工程の焼成温度よりも低い。
或いはさらに、前記の「2.装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス並びにその製造方法」に記載した本発明に係る製造方法においては、前記素地形成工程において、少なくともペタライト40w%以上75w%以下と粘土材と骨材とを水と混練させた素地の混練体を第一焼成するものとしてもよい。但し、本発明全てをこれら又はこれらいずれかの要素を具備するものに限定する趣旨ではない。
【0023】
上記層付加工程によって、付加成形層である第二成形層、第三成形層・・・が、成形層である第一成形層の上に層付加形成される。ここで前記表層除去工程によって、層付加工程前の成形層の層上部は、盛土の表層部が除去されて比較的粗い粒度の粉粒混合物を含む下層部が上面露出した状態となっている。そして上記の層付加工程によって、上面露出した下層部に、比較的小さい平均粒度の粉粒混合物からなる付加混練体が盛土され、これによって、下層部の比較的粗い層上面の凹凸に、より微細な付加混練体の粉粒混合物が入り込むこととなり、特に良好な定着性を有する。また、第三焼成温度が第二焼成温度よりも低いため、第三焼成によっても素地や成形層たる第一成形層に反り変形、乃至ヒビやワレが発生しにくく、耐久性に優れた最終状態の原材となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によると、例えば比較的大型の復元品や再現品、複製品を高い精度で得ることを目的の一つとして、表現対象を表現するための成形層を素地上に有する装飾セラミックスのための原材であって、該成形層は表現対象を形状、色、質感等において高い精度で表現することが可能でありながら、優れた耐熱性と素地への定着性とを有し、成形や成形後の繰り返し焼成によってもヒビやワレが発生せず、また素地との層分離を起こしにくく、表面の成形状態の保持性に優れた装飾セラミックスのための原材を提供することができる。また本発明によると、本発明に係る装飾セラミックスのための原材を用いた装飾セラミックスであって、表現対象が形状、色、質感等において高い精度で表現され、優れた耐熱性と所望状態の保持性に優れた装飾セラミックスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態につき本発明の実施例を示す各図に基づいて説明する。以下の記載において、各構成等の後ろに括弧を付して記した数字や記号は、理解を容易にするために用いた構成等の参照符号であるが、本発明がこれらの参照符号によって図面を参照して述べられる実施例の形態又は概念に限定されるものではない。
【0027】
本発明の実施例は、有形文化財、壁画、絵画、彫刻、工芸品等の再現ないし復元等に用いる装飾セラミックスの原材又は装飾セラミックスの完成品であって、無機質の材料でありながら表現対象の形状、色、質感等を表現可能としたものである。
図2、
図3それぞれの(h)、
図4の(h3)に示すように、いずれの実施例においても、装飾セラミックスの原材は、第一焼成によって板状に形成された素地(1)と、素地(1)の片面側に形成された成形層(2)(第一成形層)とを含んでおり、或いはさらに成形層(2)上に一層以上形成された付加成形層(第二成形層(3)、第三成形層(4)、・・・)を含んでいる。
【0028】
そしていずれの実施例においても、下記の特徴を有する。
前記素地(1)は、吸水性を有する焼成板状材である。具体的には、成形層(2)の形成材料である混練体(20)を盛土する前の板状成形状態の素地材料を、予め所定の第一焼成温度で第一焼成して得られた焼成板状材であって、混練体(20)を盛土する前の板状成形状態においての吸水率が0.1%以上60%以下である。
前記成形層(2)(第一成形層)或いはさらに付加成形層(第二成形層(3)、第三成形層(4)、・・・)は、それぞれ少なくともペタライト40w%以上を
主剤とするものとして含む粉粒混合物と水とを混練してなる粘土状の混練体(20)を、所定厚さで素地(1)上に盛土し、この盛土された混練体(20)を、前記第一焼成温度よりも低い温度で第二焼成して得られる。但し、第一成形層については、その形成のための第二焼成の際又は第二焼成の前の盛土状態において、素地(1)が混練体(20)の水分を吸収したのちに自然乾燥及び/又は強制乾燥されることで、混練体(20)が素地(1)の層形成面の微細凹凸部に投錨した被吸水状態かつ乾燥状態となっている。この被吸水状態の混練体(20)が素地(1)上で素地(1)と共に第二焼成されることで、
図7に示すような、素地(1)の微細凹凸部に沿って投錨状態で溶融・固化した成形層(2)として定着する。
【0029】
以下、各構成等につきさらに説明する。
(素地(1))
素地(1)は、ペタライト又は粘土(蛙目粘土、ロー石または陶石の少なくとも一種以上を含む)のいずれかを主剤とする焼成板状材である。素地の混練体を板状に成形し、加熱乾燥、除湿乾燥、熱風乾燥、赤外線乾燥、遠赤外線乾燥又はこれらのうちいずれか2つ以上の組み合わせ乾燥方法で強制乾燥させたのちに、1200℃〜1250℃の範囲内の第一焼成温度で、かつ約3時間〜約10時間(好ましくは5時間〜10時間、或いは8時間〜10時間)の範囲の焼成時間で第一焼成することで、吸水性を有する固化した焼成板状材として得られる。素地(1)の焼成板状材の少なくとも片面には、混練体(20)を盛土するための、微細凹凸部を有する層形成面が一面に露出してなる。素地(1)はまた、成形層の形成工程において、層形成面に盛土された混練体(20)と共に、第二焼成、或いはさらに第三焼成、・・・として繰り返し焼成される。混練体(20)を盛土する前の板状の成形状態において、素地(1)は0.1%以上60%以下の吸水率を有し、また、第二焼成前に予め1.0×10
6/K以上5.5×10
6/K以下の低膨張率となっている。
なお前記強制乾燥として例えば、60℃〜200℃の範囲の乾燥温度で1時間〜24時間の範囲の加熱乾燥を行うことができる。
【0030】
素地(1)の例としては、後述の実施例のように、ペタライト又は粘土のいずれかを
主剤とする粘土焼成材が挙げられる。例えば後述の実施例2、3ではペタライトを
主剤とするものとして、これに少なくとも蛙目粘土と、ロー石または陶石と、シャモット等の骨材と、解膠剤とを加えて水と混ぜた素地の混練体を焼成したものであり、後述の実施例1では粘土を
主剤とするものとして、これに少なくともロー石または陶石と、シャモット等の骨材と、解膠剤とを加えて水と混ぜた素地の混練体を焼成したものである。この素地の混練体は、必要に応じてさらに発泡剤や、メチルセルロース等の糊剤を混練させる。
【0031】
(混練体の製造方法)
より具体的な素地の混練体の製造方法として、蛙目粘土、ロー石ないし陶石、長石(ペタライトや大平長石)の少なくとも1種以上を所定の混合割合で配合して、水以外の粉粒体原料からなる粉粒混合物を精製し、この粉粒混合物を混練しながら所定割合の水を少しずつ加えて製造する方法が挙げられる。最初に水以外の粉粒混合物を精製することで、主剤成分の配合率/配合量を容易に調整することができ、さらに水以外の粉粒混合物と水との配合比率を変えることで、耐熱性と吸水性を調整することができる。
【0032】
また上記粉粒混合物の混合材のひとつとして骨材を加えることで線膨張係数を下げつつ高耐火性と非収縮性を確保することができる。本発明では第一焼成後の素地(1)が、混練体(20)の盛土後に繰り返し焼成されることとなるため、耐火性と非収縮性を確保することが重要となる。或いは、上記粉粒混合物の混合材のひとつとして発泡剤を加えることで、第一焼成によって微細な多数の発泡部を形成し、吸水性を確保することができる。
【0033】
(成形層(2))
装飾セラミックスの原材は、素地(1)の層形成面に所定厚さで層形成された、固形の焼成材からなる成形層(2)を有する。成形層(2)は、ペタライトを主剤に含む粉粒混合物(複数種の粉体ないし粒体を混合させた混合物をいう。)と水との混練体(20)を、前記第一焼成後の素地(1)の片面側に盛土して素地(1)に吸水された被吸水状態とし、その後に自然乾燥及び/又は強制乾燥を施すことで乾燥状態とし、これを素地(1)と共に前記第一焼成の温度よりも低い温度で第二焼成して得られる固形層である。
【0034】
なお前記自然乾燥とは、常温日陰下で6時間〜48時間のいずれかの時間だけ静置乾燥を行うことをいう。また前記強制乾燥とは、加熱乾燥、赤外線乾燥、遠赤外線乾燥のいずれかの乾燥方法による乾燥をいう。強制乾燥として例えば、60℃〜200℃の範囲の乾燥温度で1時間〜24時間の範囲の加熱乾燥を行うことができる。
【0035】
成形層(2)のうち、少なくとも素地(1)と隣接する層部分は、ペタライトを
主剤とするものであり、かつ素地(1)の前記微細凹凸部に沿って脱水状態で定着される。この成形層(2)は、ペタライトを主剤に含む粉粒混合物と水とを混練した混練体(20)が、素地(1)の層形成面上に所定厚さで層形成され、その後混練体(20)内の水分の1%以上50%以上が素地(1)に吸収された被吸水状態となり、この被吸水状態で前記第一焼成よりも低い焼成温度の第二焼成によって素地(1)と共に焼成されることで形成され、板状素地(1)上の微細凹凸部に隙間なく投錨様に密着形成され、素地(1)から分離しにくい良好な定着性を有する。
【0036】
(ペタライト)
ペタライトは葉長石とも呼ばれ、ロー石やムライトといった他の石材と比べて、Li
2Oの割合が高い。このため吸水率が比較的高く、線膨張係数が比較的小さい(2.0〔×10
-6/K〕程度)傾向を有する。ペタライトを成形層(2)の主剤とすることで、また、付加形成層の主剤とすることで、成形層は焼成後に素地(1)に対して良好に定着した固化状態を保つことができる。
【0037】
(ペタライトの配合割合)
素地や成形総を形成するための、水を配合する前の紛粒混合物が、ペタライトを
主剤とするものとして配合されたものである場合、「
主剤とする」とは、水を除く配合成分すべてのうち、最も配合重量比の高い配合成分であることを意味する。紛粒混合物におけるペタライト配合率は具体的には、40w%〜75w%、好ましくは45w%〜60w%の範囲内にある。また、ペタライトの粒度は概ね100μm以上300μm以下であることが好ましい。配合されるペタライトは、粒度が小さすぎる場合には吸水率が小さく、ひび割れしやすくなり、また粒度が大きすぎる場合には表面が粗面となり成形性が悪くなる。
【0038】
(混練体(20))
前記成形層(2)の焼成前の状態である混練体(20)は、少なくともペタライト40w%以上を含む粉粒混合物と水とを混練した、粘土状の混練体(20)からなる。混練体(20)の混練水の含水率は15%以上である。
前記混練体(20)からなる粘土状の混練体(20)が第一焼成後の素地(1)の表面の層形成面上に盛土され、素地(1)と共に第一焼成よりも低い第二焼成温度で第二焼成されることによって、混練体(20)が層形成面から素地(1)内に吸水されると共に、乾燥・焼成によって、脱水状態の成形層(2)が素地(1)上に定着形成される。
【0039】
ペタライト40w%以上を混練した混練体(20)が、焼成によって素地上に溶融・固化することで、優れた耐熱性と定着性とを有した成形層(2)となる。40w%以上もの高配合率のペタライトによって、第二焼成後の成形層(2)と素地(1)との一体的な部材全体の線膨張係数は3.0〔×10
-6/K〕以下に抑えられる。これと共に、混練体(20)は素地(1)に溶融・固化することで、素地(1)の表面材の微細凹凸部に投錨した状態で一体化する。このため、乾燥及び焼成によって層表面が反り変形したり、層自体が割れたり、或いは素地(1)から層分離したりすることなく、素地(1)への定着性に優れた成形層(2)が得られる。
【0040】
(装飾セラミックスの製造方法)
そして本発明の実施例の装飾セラミックスの製造方法として、少なくとも以下の装飾セラミックスの原材を得るための基本工程を含む。すなわち、
素地(1)の原料となる素地の混練体(20)を第一焼成することで板状の素地(1)の成形体を得る素地形成工程と、
素地(1)の片面に、成形層(2)の原料となる、粉粒混合物と水とを混練した混練体(20)を盛土して盛土状態(a)とする盛土工程(各図フロー中の「盛土I」の工程)と、
盛土状態(a)のまま静置して24時間以上自然乾燥させ、盛土した混練体(20)から表層部(212)が自然分離した層分離状態(b)とする表層分離工程(各図フロー中の「第二乾燥A」の工程)と、
盛土した混練体(20)から表層分離した表層部(212)を除去して下層部(211)のみの表層除去状態(c)とする表層除去工程(各図フロー中の「加工」の工程)と、
前記表層除去工程後の混練体(20)の下層部(211)を、素地(1)と共に第二焼成して、素地(1)と成形層(2)とが一体形成された焼成状態(h)とする焼成工程(各図フロー中の「第二焼成」の工程)と、である。
【0041】
(層付加工程)
装飾セラミックスの原材の製造方法では、必要に応じて、上記各基本工程の後に、層付加工程をさらに具備することができる。層付加工程は、
図3B中の「盛土II」及び「盛土III」の各工程、
図3C中の「盛土II」及び「第三焼成」からなる工程、並びに
図3C中の「盛土III」及び「第四焼成」からなる工程として、各実施例の製造方法のフロー図にそれぞれ示される。層付加工程は、例えば、表層除去工程後の除去表面の少なくとも一部分に、付加成形層(第二成形層(3)、第三成形層(4))の原料となる、粉粒混合物と水とを混練した粘土状の付加混練体(30,40)を盛土し焼成工程(第二焼成工程)によって焼成し、成形層(2)と共に付加成形層(第二成形層(3)、また必要に応じてさらに第三成形層(4))を形成する工程である。或いは層付加工程は、例えば、表層除去工程及び焼成工程後の焼成表面の少なくとも一部分に、付加成形層(第二成形層(3)、第三成形層(4))の原料となる、粉粒混合物と水とを混練した粘土状の付加混練体(30,40)を盛土して第三焼成し、或いはさらに第四焼成し、成形層(2)の上に付加成形層(第二成形層(3)、第三成形層(4))を形成する工程である。層付加工程として、後述の実施例2では、各成形層/付加成形層のための盛土後に焼成工程をまとめて行っている(
図1B参照)。また後述の実施例3では、各成形層のための盛土の度に各盛土を成形層化するための第二、第三焼成工程を行っている(
図1C参照)。このように、層付加工程によって複数回の盛土を行う場合は、盛土後の焼成をまとめて行うか、分けて行うかを問わず、焼成工程によって付加形成層が形成される工程をもって層付加工程が完了する。
【0042】
(仕上げ工程)
装飾セラミックスの製造方法では、必要に応じて、上記各基本工程の後に、又は層付加工程の後に、仕上げ工程をさらに具備することができる。仕上げ工程は、上記のようにして得られる装飾セラミックスの原材に、例えば釉薬の施釉及び釉焼、或いは彩色、模様等の転写、模様等の印字(プリント)とこれらの定着のための仕上げ焼成等によって仕上げ層(5´)を形成する工程である。仕上げ工程は、表面切削等の一つ以上の仕上げ工程を含んでいてもよい。さらに仕上げ焼成後の、出荷及び枠体等への取付前の最終状態とする工程を含んでいてもよい。例えば
図1A(第一実施例)では第二焼成後に施釉、彩色仕上げ、及び仕上げ焼成を順に行って最終状態の原材を得ている。また
図1B、
図1C(第二実施例、第三実施例)では第二焼成後に施釉及び釉焼、転写及び焼成、並びに仕上げ焼成を順に行って最終状態の装飾セラミックスを得ている。
【0043】
(素地形成フロー、層形成・彩色フロー)
上記各工程のうち素地形成工程は、
図1A、
図1B、
図1Cの各左図に示す素地形成フローに属する。また上記各工程のうち盛土工程から出荷・取付までの各工程は、
図1A、
図1B、
図1Cの各右図に示す層形成・彩色フローに属する。
【0044】
(層形成・彩色フロー等のバリエーション)
上記製造方法のうち層形成・彩色フロー等には以下のいくつかのバリエーションがある。これらのバリエーションのいずれかを単独で選択するか、或いは複数のバリエーションを組み合わせて選択してもよい。
【0045】
先ず、層形成・彩色フロー等の第一のバリエーションとして、盛土工程から表層分離工程までの工程のセットを複数回繰り返し、前記繰り返し後に焼成工程を経たものとしてもよい。例えば
図1B(実施例2)の層形成・彩色フローでは、粗目の調土Iの盛土工程セットと、粗目よりも小さい平均粒子径である中目の調土IIの盛土工程セットと、中目よりもさらに小さい平均粒子である細目の調土IIIの盛付工程(盛付III)とを順に行い、その後に第二焼成を行っている。具体的には、
図2Bに示すフローにおいて、先ず粗目の調土Iの盛土工程セットとして、盛付工程(盛付I)から表層分離工程(第二乾燥A)を経て表層除去工程(加工)までを行った後、強制乾燥(第二乾燥B)を行う。次に中目の調土IIの盛土工程セットとして、盛付工程(盛付II)から自然又は強制乾燥による表層分離工程(第三乾燥)を経て部分的成形の表層除去工程(加工B)までを行い、そして次に細目の調土IIIの盛付工程(盛付III)を行い、これらによって3層に盛土された調土I、II、IIIをまとめて第二焼成している。
【0046】
次に、上記層形成・彩色フロー等の第二のバリエーションとして、盛土工程から表層除去工程を経た焼成工程までの一連の工程のセットを、順に複数回繰り返して行ってもよい。例えば一連の工程のセットを2回繰り返す層形成・彩色フローとして、
図1C(実施例3)の層形成・彩色フローでは、混練体(20)による盛土工程から表層分離工程、表層除去工程を経た第二焼成工程までの一連の工程のセットによって成形層(2)を固化成形したのち、固化成形層(2)上に、第二混練体(30)による盛土工程から表層分離工程、表層除去工程を経た第三焼成工程までの一連の工程のセットによって付加成形層たる第二成形層(3)を固化成形し、さらにそののち、固化成形層(2,3)上に、第三混練体(40)による盛土工程を経た第四焼成工程までの一連の工程のセットによって付加成形層たる第三成形層(4)を固化成形し、その後に施釉、彩色仕上げ等の表面加工と仕上げ焼成とを順に行うものとしてもよい。
【0047】
このうち
図1A、
図1B、
図1Cの右フローの盛土Iから仕上げ焼成までの各状態を概念図として示したのが
図2〜
図4のそれぞれである。
図2は実施例1の各状態を、
図3は実施例2の各状態を、
図4は実施例3の各状態を、それぞれ示す。いずれの実施例においても、素地(1)の片面に混練体(20)を盛土した盛土状態(a)と、盛土状態(a)の混練体(20)が、自然乾燥によって表層部(212)と下層部(211)とに層分離した層分離状態(b)と、この層分離状態(b)の表層部(212)を除去手段(C)によって除去した表層除去状態(c)を経て、そして
図3、
図4の実施例では、前記除去面の上に第二成形層(3)ないし第三成形層(4)を層形成した焼成状態(h,h3)を経て、各層が層形成された最終状態となる。
【0048】
(混練体(20)の表層分離)
特に本発明の実施例では、表層分離工程として、盛土した混練体(20)を第二焼成前に静置乾燥させることで、成形層(2)内にて含水率15%以上の表層部(212)が表層分離した表層分離状態とする(
図2(b))ことを特徴とする。具体的には、含水率を15%以上とする粘土状の混練体(20)が盛土後に24時間以上の静置によって自然乾燥されることにより、比較的高含水率かつ比較的細かい粒子層からなる表層部(212)が、比較的低含水率かつ比較的粗い粒子層からなる下層部(211)の上層に自然分離した、層分離状態となる(
図2(b))。表層部(212)の表層部化と下層部(211)の沈下とによって、成形層(2)は乾燥時に表面が保護され、かつ成形層(2)の下層内の微細粒子含有率がきわめて小さくなる。このため、成形層(2)が乾燥・焼成後に罅の発生やわれ、欠けを生じにくいものとなる。
【0049】
ここで、表層分離によって盛土表面に表れた表層部(212)は、含水率15%以上の高含水率層からなり、焼成後には例えば
図5の拡大顕微鏡写真に示すような、表面粗度の比較的小さい平坦状
の層面を有し、また例えば
図8の粒度分布グラフに示すような、モード径10μm以下かつD50メジアン径10μm以下の粒度分布の粉粒混合物を含有する。
【0050】
また、下層部(211)は、表層部(212)よりも含水率が小さく、焼成後には例えば
図6の拡大顕微鏡写真に示すような、表面粗度の比較的大きい凹凸
の層面を有し、また例えば
図9の粒度分布グラフに示すような、モード径10μm超かつD50メジアン径10μm超の粒度分布の粉粒混合物を含有する。
【0051】
(表層除去工程)
次に、表層除去工程として、表層分離した表面膜である表層部(212)を、カッターやレーザーナイフ、或いはサンドブラストショットを行うブラストガン等の除去手段(C)によって下層部(211)上から全除去する(
図2(b)ないし
図2(c))。表層除去工程によって表層部(212)をすべて除去することで、不均一な微細粒子層が除去され、比較的均一な下層部(211)の粗面が表出する。この粗面の表出によって、除去面上にさらに重畳形成される成形層や仕上げ層が定着性に優れたものとなる。なお前記除去手段は手加工によって行うもの、手動操作や自動操作によって機械的処理を行うもの、のいずれも含む。
【0052】
(第一焼成、第二焼成)
第一焼成は、板状に成形して強制乾燥させた素地の混練体を、1200℃以上の所定の第一焼成温度、かつ約3時間〜約10時間(好ましくは5時間〜10時間、或いは8時間〜10時間)の範囲の所定の焼成時間で単独焼成することで、成形層(2)の成形前に、予め成形体の素地(1)を得るものである。また第二焼成は、第一焼成後の素地(1)の層形成面に盛土された混練体(20)を、予焼成済みの素地(1)と共に、前記第一焼成温度を超えない焼成温度、かつ前記第一焼成温度を超えない焼成時間で焼成することで、素地(1)と成形層(2)との一体成形体を得るものである。ここで第二焼成の焼成温度は、焼成時間全体に亘って、前記第一焼成の焼成温度よりも低く、或いは、第二焼成の焼成時間は第一焼成時間よりも短時間とされることが好ましい。これにより、第二焼成によって付与される熱エネルギーの総量は第一焼成によって付与される熱エネルギーの総量よりも小さくなる。素地(1)は事前に第一焼成された予焼成済みの成形体であるため、第二焼成時には、予め大部分の熱収縮を完了している。このため第一焼成後の第二焼成によってさらに大きく収縮することはない。さらに線膨張係数の比較的小さいペタライトを主剤とする成形層(2)と共に焼成されることで、素地(1)及び成形層(2)が共に熱収縮性の比較的小さいものとなる。このため、加熱による過度な収縮変形を防ぐことができる。
【0053】
<実施例1>
実施例1の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス、並びにこれらの製造方法を
図1A及び
図2を参照して説明する。
(A)実施例1の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス
図1A及び
図2に示す実施例1の装飾セラミックスの原材は、第一乾燥とその後の第一焼成とによって板状に成形した締焼素材である素地(1)を予めストックしておき(
図1A左フロー)、所定サイズに切断した素地(1)の上面の層成形面に、成形層(2)の原料となる粉粒混合物を調合して水と混練(調土I)してなる混練体(20)を、所定厚さで一層形成(盛土I)(
図1A右フロー(a)及び
図2(a))する。そして、その後の第二乾燥たる24時間以上の自然乾燥によって盛土状態の混練体(20)の層から表層部(212)を表層分離させ、削り加工により下層部(211)から表層部(212)を除去する(
図1A右フロー(c)及び
図2(c))。その後、残りの下層部(211(211´))を第二乾燥たる強制乾燥(たとえば、乾燥温度60℃〜200℃で1時間〜24時間の範囲内の乾燥)によって乾燥状態とし、その後の第二焼成(h)により成形層(22´(2))として得られる(
図1A右フロー(h)及び
図2(h))。
【0054】
実施例1の装飾セラミックスは、このようにして得られた装飾セラミックスの原材に仕上げ加工を施すことで得られる。本例では、仕上げ加工として、原材に施釉を行い、手彩色及びスプレー塗布にて彩色を施し、最後に仕上げ焼成を施す(z)ことによって得られる。なお前記手彩色とスプレー塗布のいずれかのみによる彩色を行ってもよい。
ここで成形層(2)は、脱水状態である最終状態の成形体におけるペタライト配合率(PR2)が40w%以上75w%以下であり、ペタライトを主剤とする。但し実施例1では、素地(1)はペタライトを含まない。
【0055】
具体的には、実施例1の装飾セラミックスの原材は、
図2に示すように、
吸水性を有するものとして予め板状に固化形成された、ペタライトを含まない素地(1)と、
素地(1)の板上面である層形成面に所定厚さで層形成された、ペタライトを主剤とする成形層(2)とを含んでいる。
これを原材とする装飾セラミックスは、さらに成形層(2)の層上面に所定厚さで施釉等された仕上げ層(5´)を一体的に形成してなる(
図2(z))。
【0056】
(層境界部分)
図7に、実施例1の最終状態の素地(1)と成形層(2)との層境界部分の部分拡大図を示す。
図7左図は電子顕微鏡による30倍拡大写真であり、
図7右図は各層の層境界線のスケッチ図を示す。
図7に示すように、素地(1)は、成形層(2)が層形成される層形成面全体に微細凹凸部を有してなる。そして成形層(2)のうち少なくとも素地(1)と隣接する層部分は、ペタライトを
主剤とするものであり、かつ前記素地(1)の前記微細凹凸部(
図7右図の破線)に沿って隙間なく投錨様に定着されている。
【0057】
(素地(1))
実施例1の素地(1)は、ペタライトを含まない粘土を
主剤とするものであり、これにロー石及び長石を加えて焼成成形した焼成板状材からなる。実施例1の素地(1)の焼成成形前の原料は、主剤である粘土に、少なくともロー石または陶石と、シャモット等の骨材と、解膠剤とを加え、さらに発泡剤及び糊剤を加え、これらを水と混ぜて得た、素地の混練体(20)からなる。実施例1の素地(1)は、前記素地の混練体(20)を板状に成形し、第一乾燥として60℃以上200℃以下の所定の加熱温度で概ね1時間〜24時間の範囲内で加熱乾燥させた後に、1200℃〜1250℃の範囲内に設定した第一焼成温度、かつ約10時間の焼成時間で第一焼成する第一焼成工程を経ることによって、吸水性を有する固化した板状体として得られる(
図1A左フローに示す素地形成工程)。
【0058】
(成形層(2))
実施例1の成形層(2)は、ペタライトを主剤とする第一の粉粒混合物に水を混練して得た混練体(20)を、素地(1)の片面に盛土して盛土状態(a)とし、これを第二乾燥たる24時間以上の自然乾燥によって表層部(212)が表層分離した表層分離状態(b)とし、当該表層部(212)を除去した表層除去状態(c)を経て下層部(211(211´))のみに単独形成し、さらにこの単独形成した下層部(211(211´))を強制乾燥によって素地(1)と共に乾燥状態とした後に、素地と共に、第一焼成温度より低い1150℃〜1200℃の範囲の第二焼成温度で、且つ、第一焼成時間と略同じ約10時間の焼成時間で第二焼成することで形成される。実施例1の成形層(2)は少なくとも♯52ペタライトを40w(weight:重量)%以上含んで脱水状態として素地(1)上に溶融・固化した固形層である。
【0059】
(混練体(20))
成形層(2)の、第二焼成による固化前の原材である混練体(20)は、第二焼成前の粘土状の状態において、ペタライトを主剤に含む粉粒混合物と、水と、を混練した粘土状の状態からなる。この混練体(20)が、第二焼成前に、素地(1)の層形成面上に盛土されたまま24時間以上自然乾燥されることによって、盛土内の水が、層形成面から素地(1)内に吸収され、半固化状態にまで脱水した被吸水状態となる。混練体(20)を構成する盛土前の混練体(20)の含水率は15%以上50%以下、好ましくは17%以上50%以下であるが、盛土後の静置乾燥によって、盛土状態の混練体(20)が第二焼成の前に素地(1)内へ吸水されて半固化の乾燥した状態となる。
【0060】
成形層(2)を焼成固化する前の混練体(20)は具体的には、♯52ペタライト40w%以上75w%以下と、粘土材(蛙目粘土、ロー石、陶石のうちの少なくとも2種以上)4w%以上22w%以下と、0.05w%以上0.4w%以下の無機解膠材と、を混合させた粉粒混合物に、含水率17%以上50%以下となるように水を混練させた粘土状体からなる。♯52ペタライトと、蛙目粘土、ロー石、陶石の少なくとも2種以上からなる粘土材とを配合させることで、5μmから100μmまでに分散した粒子径範囲の粗密粒子を含むものとなっている。また混練体(20)を第二焼成して成形層(2)としたとき、成形層(2)単独の線膨張係数が0.1〔×10
-6/K〕以上1.5〔×10
-6/K〕以下、好ましくは線膨張係数0.2〔×10
-6/K〕以上0.8〔×10
-6/K〕以下であることが好ましい。
【0061】
実施例1の混練体(20)は、粉粒混合物に水を混練し、調土することによって得られる。この混練体(20)の原料となる、水を混練させる前の粉粒混合物における、各混合成分の配合率は、ペタライトが55w%以上65w%以下であり、無機解膠材が0.1w%以上0.4w%以下であることが好ましい。前記配合率であれば、ペタライトが混練体(20)内で十分な分散性を有し、素地(1)に吸水されるに充分な含水量を有するものとなる。そして、成形後の成形層(2)中のペタライトが、55w%以上65w%以下の配合率をもって十分に分散した状態で良好な定着性をもって溶融・固化したものとなる。
【0062】
素地(1)に吸水されることで被吸水状態となった盛土は、粘土状態の粉粒混合物が層形成面に投錨した投錨状態となる。混練体(20)が前記投錨状態かつ被吸水状態のまま素地(1)と共に第二焼成されることで、素地(1)と共に溶融しながら、素地(1)の表面の微細凹凸部に投錨した成形層(2)として、素地(1)と一体化する。一体化後の成形層(2)は、微細凹凸部に沿って密着した状態となっている。
【0063】
混練体(20)の混練組成によると、盛土I後の24時間以上の自然乾燥によって、粘土材に含まれるD50のメジアン径を10μm以下とし、或いはモード径を10μm以下とする細かい粒子の分散層が、高い含水率の表層部として成形層(2)の表側に分離することとなる(
図9)。その一方、表層部(212)よりも下部に沈下した下層部(211)はD50のメジアン径が10μm超、或いはモード径が10μm超となった粗い粒子の分散層となる。表層部(212)の表層部化と下層部(211)の沈下とによって、成形層(2)は乾燥時に表面が保護され、かつ成形層(2)の下層内の微細粒子含有率がきわめて小さくなる。このため、成形層(2)が乾燥・焼成後にヒビやワレ、欠けを生じにくいものとなる。
【0064】
(B)実施例1の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックスの製造方法
実施例1の装飾セラミックスの原材、及び該原材を用いる装飾セラミックス、のそれぞれ製造方法は、
図1A及び
図2に示すように、以下の各工程を具備してなる。
<
図1A左図に示す素地形成フロー>
素地原料となる材料を調合(調土)して水と混ぜて細磨処理することで、素地の混練体を得る。この素地の混練体を板状に成形して第一乾燥として60℃以上200℃以下で加熱乾燥させた後に、1200℃〜1250℃の範囲内の第一焼成温度で第一焼成することで、締焼状態の板状の素地(1)とする素地形成工程を含む、素地形成フロー。素地(1)はストックされ、次の盛土工程の前に所定平面形状に切断される。
<
図1A右図に示す層形成・彩色フロー>
層形成フローは次の工程を含む。すなわち、
所定寸法に切断した素地(1)の周囲に枠材(F)を取り付け、素地(1)の上面である層形成面上に、粉粒原料の粉粒混合物と水とを混練(調土I)させてなる粘土状の混練体(20)を所定厚さで盛土して盛土状態(a)とする盛土(盛土I)工程と、
混練体(20)を盛土状態とした盛土を24時間以上の静置による自然乾燥によって表層分離させた半固化状態の表層分離状態(b)とする表層分離(第二乾燥A)工程と、
表層分離工程によって表層分離した表層部(212)を除去手段(C)(本例では切除刃)によって除去すると共に、下層部(211)の上部を表面側から、湾曲傾斜した切削面を以て切削加工して、半固化状態の成形加工済みの下層部(221´)(前駆体)のみとして、加工状態・かつ表層除去状態(c)とする表層除去(加工)工程と、
下層部(211(211´))のみからなる表層除去状態の半固化状態の盛土と、予め固化成形された素地(1)と、を共に、第一焼成温度よりも低い1150℃〜1200℃の範囲内の第二焼成温度で第二焼成することで、成形層(2)である第一成形層を、素地(1)上に密着した重ね固形層として得る第二焼成工程と、である。
そして実施例の装飾セラミックスは、このようにして得られる装飾セラミックスの原材に例えば次のような仕上げ処理を施して得られる。すなわち、
付加成形層である第二成形層(3)の表面全体に釉薬を施釉する施釉工程と、
釉薬を施釉した表面に、手作業及びスプレー塗布等によって彩色を施す彩色工程と、
第二焼成温度よりも低い仕上げ焼成温度で全体をまとめて仕上げ焼成し、仕上げ層(5´)を形成する仕上げ焼成工程と、である。
【0065】
上記実施例1の製造方法における工程についてさらに説明する。
(素地形成工程)
先ず、素地形成フローたる素地形成工程として、粉粒混合物と水を混練させて得た粘土状の素地原料をミルで細磨、混練し、板状に成形した状態で、60℃以上200℃以下の所定の加熱温度で概ね1時間〜24時間加熱乾燥させた後、1200℃〜1250℃の範囲内の第一焼成温度、かつ約3時間〜約10時間の焼成時間で第一焼成し、板状の締焼素材を固化材として予成形する。なお第一焼成の焼成時間は5時間〜10時間の範囲内に設定することが好ましく、さらにいえば8時間〜10時間の範囲内に設定することが好ましい。かかる素地形成工程によって、予め固化形成した板状の素地(1)の締焼素材を乾燥状態でストックしておく。この締焼素材は基材としての役割を果たすと共に、混練体(20)中に配合された発泡剤が発泡してなる多数の微細孔が内部に分散した状態で板状成形される。素地(1)はこの多数の微細孔によって吸水性を有するものとなっている。また上面の層形成面全体に亘って数μm(1μm以上10μm以下)の最大凹凸間高さの微細凹凸部が形成されている。
【0066】
ストックされた素地(1)は、所定大の矩形形状に切断されて下記の盛土工程に使用される。素地(1)の切断寸法はここでは平面視で900mm×3000mm、厚さ20mmである。素地(1)の厚さは8mm〜30mm程度の範囲内で調整されることが好ましいが、厚さ、切断寸法を含めて前記範囲に限定されるものではない。素地(1)の寸法については後述する実施例2,3についても同様である。
【0067】
(盛土工程)
次に盛土工程として、前記切断された素地(1)の周囲四辺に沿って、非吸水材からなる棒状の枠材(F)を、上半部が上方へ突出するように貼り付け、そして、枠材(F)によって形成された枠内であって、素地(1)の上面である層形成面に、粉粒混合物と水とを混練してなる粘土状の混練体(20)を所定厚さとなるように略均一の厚さで盛土する。本工程後には固形の素地(1)の層形成面上に、枠材(F)によって囲まれた粘土状の混練体(20)が盛土された盛土状態となっている(
図2(a))。上記混練体(20)は、40w%以上75w%以下もの高配合率の♯52ペタライトを、4w%以上22w%以下の粘土材(蛙目粘土、ロー石、陶石のうちの少なくとも2種以上)と0.05w%以上0.4w%以下の無機解膠材とによって比較的均一に分散させ、かつ粘土材の配合と17%以上もの高い含水率によって、比較的粗い粒子と微細粒子の両方を含む混練体(20)となっている。
【0068】
混練体(20)の盛土厚さは、前記切断寸法例の素地(1)に対してここでは10mm程度である。盛土による成形層(2)の層厚さは、素地(1)厚さよりも小さい3mm〜20mmの範囲内で調整されることが好ましいが、前記版に限定されるものではない。混練体(20)の盛土厚さについては後述する実施例2,3についても同様である。
【0069】
(表層分離工程)
次に表層分離工程として、盛土状態の盛土20及び素地(1)を常温で静置乾燥することによって、盛土した混練体(20)を、含水率15%以上(15〜80%)の薄層状の表層部(212)と、含水率15%未満(0.1%〜14.0%)の下層部(211)とに層分離させる。この層分離は、比較的小さい粒径の粘土材が水粒子を多量に伴う帯電状態となり、盛土層の表層部分に薄膜状に浮き上がることによって起こる。一方、残りの比較的大きい粒径の粘土材及びペタライト材が、24時間以上の静置による自然乾燥(乾燥工程A)によって混練体(20)の下部に沈降し、盛土層の下部に接した層形成面から素地(1)に吸水されることで、半固化状態からなる大部分の厚さの下層部(211)となる(
図2(b))。
【0070】
(表層部(212))
表層部(212)は、含水率15%以上の混練体(20)を、吸水性の素地(1)上で24時間以上の長時間をかけて自然乾燥させることによって盛土の表面に浮出した、微細粒子を多量に含む高含水率の薄層である。具体的には、盛土20層内にて含水率15%以上の高含水率を有し、粘土材に含まれるD50のメジアン径を10μm以下とし、或いはモード径を10μm以下とする細かい粒子のみを含む微細粒の分散薄層となっている。この表層部(212)は、D50のメジアン径10μm以下、或いはモード径10μm以下の少なくともいずれかの条件を満たしていれば、微細粒の分散薄層として好ましいが、さらに言えば前記両条件を共に備えること、すなわちD50のメジアン径10μm以下且つモード径10μm以下であることが、平坦面を構成するための微細粒の分散薄層として、より好ましい。
【0071】
実施例1の表層部(212)の代表的な粒度分布は、
図8の粒度対数頻度グラフに示すような突出した1ピークを有する分散曲線を示し、D50メジアン径及びモード径が、共に5μm以上8μm以下(
図8ではメジアン径7.25μm、モード径7.18μm)となる。なお実施例1では、本表層部(212)をその後の表層除去工程によって全除去してから焼成するのであるが、仮に表層部(212)を表層除去せずにそのまま焼成した場合には、その固化層面は、
図5に示すような100倍未満の走査電子顕微鏡観察(
図5では加速電圧20.00kV、倍率30倍)において、100μmの粒状体が一つも現れない平坦面となる。
【0072】
(下層部(211))
下層部(211)は盛土20層内で水と分離して沈降した、代表径10μm以上のペタライト及び粘土材を主剤とする半固化状態の粘土層からなる。実施例では盛土20が吸水性を有する素地(1)に吸水されるとともに表面から蒸発することで脱水され、枠材を取り外しても自己成形性を有する粘土層となる。下層部(211)は具体的には、盛土20層内にて含水率15%未満(0.1%〜14.0%)の低含水率であり、D50のメジアン径を10μm超とし、かつモード径を10μm以下とする粗粒子のみを含む粗粒の分散層となっている。実施例1の下層部(211)の代表的な粒度分布は、
図9の粒度対数頻度グラフに示すような突出した2ピーク以上を有する分散曲線を示し、D50メジアン径及びモード径が、共に10μmを大きく超えた、50μm以上150μm以下(
図9ではメジアン径59.17μm、モード径82.96μm)の範囲内となる。但し厳密に言えば、下層部(211)内においても、素地に近い下方部分となる程、層内に含まれる分散粒子の平均粒径が大きく、また逆に下層表面に近い上方部分となる程、層内に含まれる分散粒子の平均粒径が小さくなる。半固化状態の被吸水状態では、脱水によって、枠材(F)を取り外しても盛土が自己保形性を有する状態まで半固化した状態となる。
【0073】
(表層除去工程)
次に実施例1の表層除去工程として、枠材(F)を取り外し、盛土の上部に分離して浮き上がった表層部(212)を、除去手段(C)(本例では切除刃)によって全除去すると共に、下層部(211)の上部を表面側から湾曲傾斜した切削面を以て切削加工して、半固化状態、加工状態、かつ表層除去状態の下層部(221´)(前駆体)のみからなるものとする(
図1A、
図2(b)〜
図2(c))。これは除去手段(C)(本例では切除刃)によって、不均一な下層部の上層部分または下層部の上薄部までをまとめて除去する表層除去工程と、表層部(212)の全除去後の下層部(211)の厚さを所定の形状に整える成形工程とを同時に行うものである。
【0074】
なお本実施例と異なる例として、表層部の除去と下層部の切削加工とを別工程として行ってもよい。この場合、たとえば最初に除去手段(C)たる切除刃によって表層部(212)を全除去して平坦面の下層部(211)のみとし、続けて下層部(211)を前記除去手段と異なる(又は同じ)除去手段によって表面を成形加工する。なお前記除去手段の例として、サンドブラスト処理を行うブラストショットガンがあげられる。必要に応じて適宜箇所にサンドブラスト処理を行うことで、局所的な凹凸成形や下層部の部分除去成形を行うことができる。
【0075】
表層除去工程を経た下層部(211(211´))のみをその後の焼成工程によって焼成することで、固化層面は、倍率30倍拡大視にて多数の石状部が散在した粗面となる。すなわち、表層除去工程及びその後の焼成工程後の下層部(211(211´))の固化層面は、
図6に示す100倍未満の走査電子顕微鏡観察(
図6では加速電圧20.00kV、倍率30倍)において、代表径50μm〜200μm程度の石状部が散在し、その間に多孔性の代表径50μm以下の大小の粒状部が集まって充当した凹凸面となる。この固化層面(
図6)は、表層分離状態から表層除去工程を経ずに焼成工程を行った場合の固化層面(
図5)と比較して、1000μm
2以上の面積の平坦面を有さない点、大きさの異なる多数の石状部と粒状部が集積している点、及び、500μm長以上の罅割れを有さない点で顕著な相違がある。
【0076】
(第二乾燥工程(B))次いで第二乾燥工程(B)として、表層部(212)を除去した残りの下層部(211(211´))を素地(1)と共に加熱乾燥し、含水率5%以下の脱水状態とする。当該加熱乾燥は、例えば、60℃〜200℃の範囲の乾燥温度で1時間〜24時間の範囲の加熱時間内で行う。
【0077】
(焼成工程)
次に焼成工程(第二焼成工程)として、下層部(211(211´))を提供している粘土状の混練体(20)を第一焼成温度よりも低い第二焼成温度で、第一焼成温度と同じ焼成時間をかけて第二焼成する。具体的には、実施例1の第二焼成温度を1150℃〜1200℃の範囲内で設定し、混練体(20)が成形状態の成形層(22´(2))となるまで、第一焼成工程と同じ約3時間〜約10時間の範囲内の焼成時間で焼成加熱する。第二焼成の焼成時間は第一焼成時間と同じく5時間〜10時間の範囲内に設定することが好ましく、さらにいえば、第一焼成時間と同じく8時間〜10時間の範囲内に設定することが好ましい。このように、各焼成工程を同じ焼成時間のまま焼成温度のみを順に小さく設定することで、焼成のための熱エネルギー(各形成層の混練体の反応温度域における熱エネルギー)の総量が、前焼成工程たる第一焼成工程よりも小さくなるようにしている。この第二焼成の前又は第二焼成中に、混練体(20)が、素地(1)の層形成面から素地(1)内に吸水されて、素地(1)の微細凹凸部に投錨した被吸水状態となる。この被吸水状態の混練体(20)が素地(1)と共に第二焼成されることで、成形層(2)が素地(1)上に密着形成される(
図1中の(h)、
図2中の(h1))。焼成状態(
図2(h))の実施例1の原材は、側断面視波状の凹凸加工面を上面に有した板状態からなる。
【0078】
なお、素地形成工程の第一焼成における各焼成温度、ないし焼成工程たる第二焼成における各焼成温度とは、いずれも各焼成における最高焼成温度の設定値を意味する。実際には各工程の焼成過程において、混練体(20)ないし付加混練体の温度を、反応温度域よりも低い温度から加熱を開始する。そして、混練体(20)の温度を設定した焼成温度に至るまで上昇させたのちに、混練体(20)の温度を徐々に下げ、再び反応温度域よりも低い温度として、焼成工程を終える。この焼成工程の一連の流れにおいて、反応温度域における時間が長いほど、焼成のための熱エネルギーの総量が大きいものとなる。
【0079】
上記の如くして実施例1の装飾セラミックスの原材が得られるのであるが、ここでは、さらに例えば次のような仕上げ処理を施して装飾セラミックスを得る。すなわち、
成形層(22´(2))の表面に施釉および仕上げ彩色を施し、仕上げ焼成を経て仕上げ層(5´)が形成される(
図1中の(z)、
図2中の(z))。かくして仕上げ処理された装飾セラミックスはそのまま、或いは所定の取付け部にとりつけられてやがて出荷される。
【0080】
<実施例2>
実施例2の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス、並びにこれらの製造方法を、
図1B及び
図3を参照して説明する。
(A)実施例2の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス
図1B及び
図3に示す実施例2の装飾セラミックスの原材は、吸水性を有するものとして予成形された素地(1)と、素地(1)の上面に形成された成形層(2)(下層部(221´))と、成形層(2)の上に重畳形成された付加成形層たる第二成形層(3)(固化層(32´))と、成形層(2)及び第二成形層(3)の上に重畳形成された付加成形層たる第三成形層(4)(固化層(40´))と、からなる4層構造の原材である。
実施例2の装飾セラミックスはこの原材の表面全体に、さらに施釉・釉焼等による仕上げ層(5´)を形成した合計5層の固形成形材の最終状態からなる(
図3(z))。他の特記しない構成及び製造方法は、実施例1と同様である。
【0081】
ここで実施例2の素地(1)は、脱水状態である最終状態の成形体全体におけるペタライト配合率(PR)が40w%以上75w%以下であり、各成形層(2,3,4)と共にペタライトを
主剤とするものとしている。また素地(1)を得るための混練体は、ペタライトのほかに粘土材と骨材とを含み、さらに成形時の乾燥によって発泡する発泡剤を含むものとなっている。但し、素地(1)のペタライト配合率(PR1)は成形層(2)のペタライト配合率(PR2)よりも小さいものとなっている。
素地(1)が粘土材を含み且つペタライトを主成分とすることで、成形層(2)を形成するための、実施例1の場合と同様の混練体(20)と成分組成の多くが共通することとなり、第二焼成による成形層(2)の素地(1)への溶融定着性に優れたものとなる。また、素地におけるペタライト配合率(PR1)が成形層におけるペタライト配合率(PR2)よりも少ないため、第一焼成において素地(1)をより高温で焼成することができる。また素地は一度予焼成しているため、その後の焼成(第二焼成、第三焼成等)による収縮率が少なく、原材全体の形状安定性に優れている。
【0082】
具体的には、素地(1)、成形層(2)、付加成形層たる第二成形層(3)、及び再度の付加成形層たる第三成形層(4)は、いずれもペタライトを40w%以上75w%以下の範囲内の所定割合で
主剤とするものとして配合してなる。但し、仕上げ焼成によって脱水した最終状態における各層のペタライト配合率は、素地におけるペタライト配合率(PR1)よりも成形層におけるペタライト配合率(PR2)の方が大きく、成形層におけるペタライト配合率(PR2)よりも付加成形層たる第二成形層におけるペタライト配合率(PR3)の方が大きく、付加成形層たる第二成形層におけるペタライト配合率(PR3)よりも再度の付加成形層たる第三成形層におけるペタライト配合率(PR4)の方が大きい。また各層の焼成前の原料である混練体(20)から水を除いた粉粒混合物の平均粒度は、素地(1)の粉粒混合物が最も大きく、次いで成形層(2)の粉粒混合物が次に大きく、次いで付加成形層たる第二成形層(3)の粉粒混合物が次に大きく、そして再度の付加成形層たる第三成形層(4)の粒粉混合物が最も小さい。
【0083】
(B)実施例2の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックスの製造方法
実施例2の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックスは、以下に示す製造方法によって得られる。先ず素地形成工程として、素地原料となる材料を調合(調土)して水と混ぜて細磨処理することで、素地の混練体を得る。この素地の混練体を板状に成形して第一乾燥として60℃以上200℃以下で加熱乾燥させた後に、1200℃〜1250℃の範囲内の第一焼成温度で第一焼成することで、締焼状態の板状の素地(1)をストック形成する(
図1B左フロー)。
【0084】
次に盛土工程として、所定寸法に切断した素地(1)の周囲に枠材(F)を取り付け、素地(1)の上面である層形成面上に、粉粒原料の粉粒混合物と水とを混練(調土I)してなる粘土状の混練体(20)を所定厚さで盛土して盛土状態(
図3(a))とする。
【0085】
次いで第二乾燥たる24時間以上の自然乾燥によって、前記盛土した混練体(20)を表層分離させ、表層部(212)と下層部(211)とからなる半固化状態の表層分離状態とする(
図3(b))。その後、枠材(F)を取り外したのちに表層部(212)すべてを除去する表層除去工程(
図3(b)〜
図3(c2))によって下層部(211)の単独層を形成し、この単独層を、さらに第二乾燥たる強制乾燥(ここでは60℃〜200℃の範囲の乾燥温度で1時間〜24時間の範囲の加熱乾燥)によって半固化かつ乾燥状態の表層除去状態(
図3(c2))とする。このようにして成形層(2)の前駆体(下層部(221))を得る。
【0086】
その後、層付加工程として、第二形成層(3)の付加成形層の焼成前原料である第二混練体(30)(調土IIによって得たもの)を、成形層(2)の前駆体(下層部(221))上に、前駆体(下層部(221))の層厚よりも半分以下の薄厚で盛土し(
図3(d)「盛土II」)、第三乾燥たる自然及び強制乾燥によって、脱水した半固化状態の第二混練体(30)とする。続いて加工工程として、第二混練体(30)及び前駆体(下層部(221))それぞれの所定の一部分を表面側から各層が露出するように湾曲傾斜した切削面を以て切削加工し、加工状態とする(
図3(f))。さらにこの加工状態の露出層表面全体に、再度の付加成形層(第三形成層(4))の焼成前原料である第三混練体(40)(調土IIIによって得たもの)を均一の薄膜厚さに盛土し(「盛土III」)、切削加工済みの四層構造体を得る。そして第二焼成工程として、前記切削加工済みの四層構造体を1150℃〜1200℃の範囲内で前記第一焼成温度より低い第二焼成温度で第二焼成して、
図3(h)に示す四層構造の加工済み焼成材、すなわち実施例2の装飾セラミックスの原材が得られる。
【0087】
図3(h)において符号(221´)で示すものは前駆体(下層部(221))から得られた第一成形層たる成形層(2)であり、符号(32´)で示すものは前駆体から得られた第二成形層(3)の固化層であり、符号(40´)で示すものは第三混練体(40)から得られた第三成形層(4)の固化層である。
【0088】
上記の如くして実施例2の装飾セラミックスの原材が得られるのであるが、ここでは、さらに例えば次のような仕上げ処理を施して装飾セラミックスを得る。すなわち、
施釉工程として第二焼成後の加工済み焼成材(装飾セラミックスの原材)の表露出面に釉薬を均一に塗布して釉焼し、次いで転写工程として、表面に所望の再現しようとする材の色模様を転写して転写焼成し、最後に仕上げ焼成工程として仕上げ焼成(
図3(z))を行う。
【0089】
ただし、第一焼成、第二焼成、釉焼、転写焼成、仕上げ焼成のそれぞれにおいて、焼成温度(最高焼成温度)ないし焼成時間の少なくともいずれかは、後の工程になる程順に低く設定され、前焼成温度及び前焼成時間を超えることのないものとしている。これにより、繰返しの焼成による変形や層分離、ひびや割れを防ぐものとしている。本実施例では、仕上げ焼成温度は第一焼成、第二焼成、釉焼、転写焼成のいずれの焼成温度よりも低く設定され、転写焼成温度は第一焼成、第二焼成、釉焼のいずれの焼成温度よりも低く設定され、釉焼温度は第一焼成、第二焼成のいずれの焼成温度よりも低い1150℃以下に設定され、そして第二焼成温度は第一焼成温度よりも低い1150℃〜1200℃の範囲内に設定される。
【0090】
さらに本実施例では、第一焼成、第二焼成の各焼成を同じ焼成時間に設定し、焼成温度のみを前焼成温度よりも順に小さく設定している。これはすなわち、焼成のための熱エネルギー(すなわち各形成層の混練体(20)ないし付加混練体(第二混練体30、第三混練体40、・・・)の反応温度域における熱エネルギー)の総量が、後の焼成工程となるにしたがって小さくなることを意味している。
【0091】
<実施例3>
実施例3の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス、並びにこれらの製造方法を、
図1C及び
図4を参照して説明する。
(A)実施例3の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックス
図4及び
図1Cに示す実施例3の装飾セラミックスの原材は、
実施例2と同様にして吸水性を有するものとして予成形された素地(1)と、
実施例2におけるものと同様の混練体(20)(調土IIによって得たもの)を、素地(1)の上面に盛土(盛土I)し(
図4(a))、第二乾燥A・Bたる自然乾燥及び強制乾燥によって表層部(222)と下層部(221)に表層分離させ(
図4(b))、該表層部(222)の除去と共に所定の凹凸形状に切削加工して(
図4(c2))、成形層(2)の前駆体である下層部(221)(
図4(c2))を得て、これを第二焼成してなる成形層(2(221´))(
図4(h1))と、
実施例2におけると同様の第二混練体(30)(調土II(調土Iよりも小さく調土IIIよりも大きい中目の粗度の粉粒混合材)によって得られたもの)を、第二焼成後の成形層(2(221´))の表面に、成形層(2(221´))より薄い厚さで盛土し(
図4(d2))「盛土I」)、第三乾燥たる自然乾燥及び強制乾燥の双方の乾燥によって、表層部(312)と下層部(311)に表層分離させる(
図4(e2))。
【0092】
このようにして、該表層部(312)の除去と共に所定の凹凸形状に切削加工してなる加工形状の、第二成形層(3)の前駆体である下層部(311)を得て、これを第三焼成してなる付加成形層たる第二成形層(3)(
図4(h2))を得る。この付加成形層の形成によって三層構造を得る。
さらに、実施例2における混練体(
図1Bの調土IIIによって得たもの)と同様の混練体(調土IIIによって得たもの)を用いて、前記三層構造の表面全体を覆うようにスプレー塗布処理で盛土(盛土III)し、これを第四焼成して付加成形層たる第三形成層(4)を得る。この付加成形層たる第三形成層(4)の形成によって四層構造を得る(
図4(h3))。
【0093】
実施例3の装飾セラミックスは、この原材の表面に均一に施釉した後の釉焼、さらに釉焼表面に所望の(たとえば再現対象の)着色模様を転写した後の転写焼成を経て、最後に仕上げ焼成によって仕上げ層(図示省略)を形成した合計5層の固形成形材の最終状態からなる。最終状態における素地(1)、下層部(221´)からなる成形層(2)、固化層(311´)からなる第二成形層(3)、及び固化層(40´)からなる第三成形層(4)はいずれも、ペタライト配合率(PR1)が40w%以上75w%以下である。他の特記しない構成及び製造方法は、実施例2と同様である。
【0094】
実施例3の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックスの特徴構成として、次の構成を挙げることができる。すなわち、成形層(2)たる第一成形層、付加成形層たる第二成形層(3)、第三成形層(4)は、各原料となる混練体(20,30,40)を先行して形成される焼成後の固化面上へ盛土した後に、各焼成工程(第二焼成、第三焼成、第四焼成)によって一層ずつ固化焼成してなる。また、成形層(2)及び第二成形層(3)は、乾燥工程(第二乾燥、第三乾燥)を経て表層分離状態とし、その後の表層部(222,312)を除去すると共に残りの下層部(221,311)を所定の成形形状に切削成形してから焼成してなる。
【0095】
成形層(2)たる第一成形層、付加成形層たる第二成形層(3)、及び第三成形層(4)は、いずれも、ペタライト配合率(PR1)が40w%以上75w%以下である。但し、原材形成後や仕上げ焼成後の最終状態における各層のペタライト配合率は、成形層におけるペタライト配合率(PR2)よりも、付加成形層たる第二成形層におけるペタライト配合率(PR3)の方が1〜10w%だけ大きく、そして第二成形層におけるペタライト配合率(PR3)よりも、再度の付加成形層たる第三成形層におけるペタライト配合率(PR4)の方が1〜10w%だけ大きい。なお第二成形層におけるペタライト配合率(PR3)と第三成形層におけるペタライト配合率(PR4)は共に、ペタライトの配合率と粘土石の配合率のみが異なるものであり、含水率及び解膠材の調合量が一致している。また各層の焼成前の原料である混練体(20)から水を除いた粉粒混合物の平均粒度は、素地(1)の粉粒混合物が最も大きく、次いで成形層(2)の粉粒混合物が大きく、次いで第二成形層(3)の粉粒混合物が大きく、そして第三成形層(4)の粉粒混合物が最も小さい。
【0096】
各形成層についてさらに説明する。
(成形層(2))
実施例3の成形層(2)は、45%〜55%程度の含水率とした粘土状の混練体(20)の状態で素地(1)に盛土され、第二乾燥工程A・Bたる自然・強制乾燥によって素地(1)へ定着した後に、加工工程A・Bたる表面削り・成形によって表層部を含む表面部分が切削加工され、その後に第一焼成温度よりも低い、1150℃〜1200℃の温度範囲における焼成温度の第二焼成によって固化形成されて形成される。これは実施例1の表層分離工程、表層除去工程、及びその後の第二焼成と同様である。すなわち混練体を盛土後の24時間以上の自然乾燥とその後の強制乾燥とによって表層分離状態かつ脱水した半固形状態とし、このうち表層部を含む表面部分を除去すると共に所定形状に切削加工することで、比較的粗い粒子からなる半固化状態の混練体(20)部分のみを脱水状態で残し、このような切削加工による成形後に第二焼成することで成形層の成形保持性を促している。焼成後の最終状態の成形層(2)はペタライトを主成分としており、具体的には全体比45〜40w%のペタライト配合率(成形層におけるペタライト配合率(PR2))を有する。
【0097】
(付加成形層(第二成形層(3)、第三成形層(4)))
実施例3の付加成形層たる第二成形層(3)は、第二混練体(30)を第三乾燥たる自然・強制乾燥によって表層分離させ(
図4(e2))、表層部(312)を除去した後の、第二成形層(3)の前駆体である下層部(311)のみを焼成固化してなる固化層(311´)からなる(
図4)。すなわち層付加工程として、焼成前原料である第二混練体(30)を、切削加工後かつ第二焼成後の下層部(221´)上に盛土してから第三乾燥たる自然・強制乾燥によって表層部(312)と下層部(311)とに表層分離させ(
図4(e2))、このうち表層部(312)を除去すると共に残りの下層部(311)を所定の加工形状に切削加工してから第三焼成して、第二成形層(3)を固化成形している。
【0098】
層付加工程の際には、自然・強制乾燥工程によって、隣り合う層間で、比較的粗粒子の下層部が、先行形成された層の固化層の微細凹凸部に接するようにし、投錨の進行を促して、層間の定着性の向上を図っている(
図4(h2))。また焼成固化前の乾燥工程A・Bによって表層分離させたのち表面の高含水率部分を切削する表層除去と共に、下層部を成形形状に切削成形する成形加工を行ってから焼成している(
図4(c2)(h2))。表層分離及び成形加工後に第二成形層(3)を焼成し固化することで、比較的粗い粒子を層内に均等に分散させ、また、隣り合う先行層との定着性を向上させると共に、成形層面の形状安定性の向上を図っている。
【0099】
また実施例3では、層付加工程によって付加成形層たる第二成形層(3)を固化成形した後、再度の層付加工程として、第二成形層(3)の表面に第三混練体(40)を盛土しこれを第四焼成によって固化層(40´)とすることで、付加成形層たる第三成形層(4)の固化成形を行っている。第三混練体(40)の粉粒混合物は、第二混練体(30)の粉粒混合物と同一の混合成分からなる。同一混合成分の混練体(20)を再度の層付加工程として重ねて形成することで、各層の熱膨張率の差を減らすこととなり、層間の定着性を良好なものとすることができる。
【0100】
(B)実施例3の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックスの製造方法
実施例3の装飾セラミックスの原材及び装飾セラミックスは、
図1C及び
図4に示す製造方法によって製造される。
先ず素地形成工程として、素地原料となる材料を調合(調土)して水と混ぜて細磨処理して、ペタライトを主剤とする、第一混練体である素地の混練体を得る。
この素地の混練体を板状に成形し、第一乾燥として60℃以上200℃以下で加熱乾燥させた後に、1200℃〜1250℃の範囲内の第一焼成によって、締焼状態の板状の素地(1)をストック形成する(
図1C左フロー)。
【0101】
次に盛土工程として、所定大に切断した素地(1)の周囲に枠材(F)を取り付けたのち、この枠内に、ペタライトを主剤とする混練体(20)(調土Iによって得たもの)を所定厚さで一層盛土(「盛土I」)して盛土状態(
図1C及び
図4(a))とする。
【0102】
次に第二乾燥A・B工程たる自然・強制乾燥によって、混練体(20)の盛土層を乾燥状態の表層部(222)及び下層部(221)に分離させ、次に表層除去工程を兼ねた加工A・B工程によって表面を切削成形することで、素地(1)上に成形加工済みの下層部(221)の単独層が形成された表層除去・加工状態(
図1C及び
図4(c2))とする。このようにして下層部(221)からなる成形層(2)の前駆体を得る。
【0103】
次に第一焼成温度よりも低い、1150℃〜1200℃の温度範囲における第二焼成温度で素地(1)及び成形加工済みの前記成形層の前駆体(下層部(221)からなるもの)を第二焼成し、素地(1)と、下層部(221´)からなる成形層(2)と、からなる加工済みの2層固化成形体を得る(
図1C及び
図4(h1))。
【0104】
さらにその後、層付加工程として、ペタライトを主剤とする第二混練体(30)を、加工済みの成形層(2)の一部表面の加工形状に沿って、均等厚さとなるように部分盛土する(
図1C及び
図4(d2))。この部分盛土状態で第三乾燥工程として自然乾燥及び強制乾燥を行って、第二混練体(30)の盛土層を、表層部(312)及び下層部(311)に分離させた表層分離状態(
図1C及び
図4(e2))とする。続いて加工A・B工程として、付加盛土した第二混練体(30)の表層部(312)全てと下層部(311)の一部を含む表面露出部の一部を、除去手段によって除去し、第二の表層除去・加工状態(
図1Cの(f))とする。
【0105】
次に第二焼成温度よりも低い、1100℃〜1150℃の温度範囲における第三焼成温度で素地(1)、下層部(221´)からなる成形層(2)、及び第二混練体(30)の加工済みの下層部(311)を第三焼成し、素地(1)と成形層(2)と第二成形層(3)からなる加工済みの三層固化成形体を得る(
図1C及び
図4(h2))。
【0106】
さらに再度の層付加工程として、ペタライトを主剤とする第三混練体(40)を、三層の切削済み状態の表面全体にスプレー塗布によって盛土(「盛土III」)し、そして第四焼成工程として第三焼成温度よりも低い、1150℃〜1200℃の温度範囲内の第四焼成温度で第四焼成して固化層(40´)からなる第三成形層(4)を形成することで、
図1C及び
図4の(h3)に示す四層構造の加工済み焼成材である実施例3の装飾セラミックスの原材が得られる。
【0107】
実施例3の装飾セラミックスは、このようにして製造される実施例3の装飾セラミックスの原材の表露出面に、釉薬工程として、釉薬を均一に塗布して釉焼し、次いで転写工程として、表面に所望の(例えば再現対象の)色模様を転写して転写焼成し、最後に仕上げ焼成工程として仕上げ焼成を行って得られる。
【0108】
ここで、第一の混練体たる混練体(20)は所定範囲内の第一平均粒度の第一粉粒混合物に水を混練した粘土状の混練体(20)であり、第二混練体(30)は前記第一平均粒度よりも粒度の小さい第二平均粒度の第二粉粒混合物に水を混練したものであり、第三混練体(40)は前記第二平均粒度よりも粒度の小さい第三平均粒度の第三粉粒混合物に水を混練したものである。但し、混練水量は素地(1)よりも第一混練体(混練体(20))、第二混練体(30)、第三混練体(40)の各混練体の方が多く、焼成前の混練状態では素地(1)よりも盛土される前記各混練体((混練体(20))、第二混練体(30)、第三混練体(40))の方が高い含水率となっている。
【0109】
また、前記施釉工程における釉焼温度は、前記第二焼成温度よりも低く、着色模様の転写後の転写焼成温度は、釉焼温度と同程度であるかこれよりも低く、仕上げ焼成温度は、転写焼成温度と同程度であるかこれよりも低く設定される。これは、第二焼成、釉焼、転写焼成、仕上げ焼成の各焼成における熱エネルギーの総量が、焼成の繰り返しごとに小さくなることを意味している。
【0110】
前記素地は、成形層の成形前に第一焼成によって予め焼成成形され、
前記成形層は、ペタライトを主剤に含む粉粒混合物と水とを混練した混練体が、素地の層形成面上で素地に吸水された状態となり、この状態で前記第一焼成よりも低い焼成温度の第二焼成によって素地と共に焼成されることが好ましい。
【0111】
前記付加成形層は、第二焼成前の粘土状の状態において、少なくともペタライトと、無機解膠材と、粘土材と、を含んでなる混練体を素地上に盛土した盛土状態で静置し、盛土層内から水分を含む表層部が下層部上に表層分離した状態とする層分離工程を経てから焼成したものとすることが好ましい。
またさらに、前記層付加成形層は、前記層分離工程ののち、素地上に盛土された混練体の表層部を除去する表層除去工程ののちに、該表層除去工程によって残った下層部のみを第二焼成して得られた焼成体からなる。また、前記素地の第一焼成前の混練体はさらに、板状成形の際又は第一焼成の際のうち少なくとも一方において発泡する発泡剤を含むことが好ましい。
【0112】
以上が本発明と本発明の実施例の構成であるが、本発明はその上記実施例の構成ないし製造方法のみに限定されず、その特徴部分の技術的思想を逸脱しない範囲で、層形成の態様の変更、各種割合の変更、製造工程の交換ないし各実施例間での製造工程の組み合わせ、部分的抽出などが可能である。