(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099722
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】耐黒変性及び密着力に優れたZn‐Mg合金コーティング鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/40 20060101AFI20170313BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20170313BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
C23C16/40
C23C14/16 A
C23C14/06 L
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-214095(P2015-214095)
(22)【出願日】2015年10月30日
(62)【分割の表示】特願2014-550005(P2014-550005)の分割
【原出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2016-40413(P2016-40413A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0143891
(32)【優先日】2011年12月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ドン−ヨウル
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 キュン−フン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ヨン−ハ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ソク−ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ−ヨブ
(72)【発明者】
【氏名】クァク、 ユン−ジン
(72)【発明者】
【氏名】オム、 ムン−ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ウ−ソン
【審査官】
國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−219475(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−0843839(KR,B1)
【文献】
特開平09−241828(JP,A)
【文献】
特表2008−523602(JP,A)
【文献】
特開平07−268605(JP,A)
【文献】
特開平10−068063(JP,A)
【文献】
特開平08−003728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−16/56,24/00−30/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板上にZn‐Mgコーティング層を形成する段階と、
燃焼化学気相蒸着(CCVD)処理を施して厚さ11〜40nmの酸化皮膜を形成する段階
とを含み、
前記CCVD処理時、素地鋼板の温度は330〜450℃である、Zn‐Mg合金コーティング鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記Zn‐Mgコーティング層を形成する段階は、PVD法で行われる、請求項1に記載のZn‐Mg合金コーティング鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記CCVD処理時、空気供給量に対する前駆体蒸気の投入比は前駆体流量:空気供給量=0.8:210〜2.1:210L/分である、請求項1又は2に記載のZn‐Mg合金コーティング鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記Zn‐Mg合金コーティング鋼板は、
素地鋼板と、
前記素地鋼板上に形成されたZn‐Fe金属間化合物層と、
前記Zn‐Fe金属間化合物層上に形成され、Znの含量が95重量%以上のZn‐Mg金属間化合物を含む第1のZn‐Mgコーティング層と、
前記第1のZn‐Mgコーティング層上に形成され、Znの含量が80〜95重量%のZn‐Mg金属間化合物を含む第2のZn‐Mgコーティング層と、
前記第2のZn‐Mgコーティング層上に形成され、金属酸化物を含む酸化皮膜
とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のZn‐Mg合金コーティング鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記酸化皮膜は、金属酸化物を含み、前記金属酸化物は、シリコン酸化物(SiO2)を含み、MgOを一部含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のZn‐Mg合金コーティング鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材等の産業全般の基礎素材として用いられるZn‐Mg合金コーティング鋼板に関し、より詳細には、耐黒変性及び密着力に優れたZn‐Mg合金コーティング鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の鋼板製品の表面には、耐食性及び耐久性の向上のために電気メッキや溶融メッキ等の方式で亜鉛メッキが施される。このような亜鉛メッキ処理製品は、何の処理もされていない鋼板製品に比べ、亜鉛の犠牲方式機能により高い耐食性を示すため、自動車、家電、建材等に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、最近、関連産業分野では、耐久性により優れ、且つ軽く、経済性に優れたメッキ製品への要求が大きくなっている。
【0004】
一方、地球上の亜鉛埋蔵量の限界のために、亜鉛が枯渇する恐れがあり、埋蔵亜鉛の資源兵器化が加速している。また、既存の電気メッキ及び溶融メッキ工程で消耗される大量のエネルギー及び排出される汚染物質への規制が強化されている。
【0005】
よって、最近では、真空蒸着方式によるZn‐Mg合金コーティング鋼板が注目を浴びている。上記真空蒸着方式によるZn‐Mg合金コーティング鋼板の場合、真空中でコーティング工程が行われるため汚染物質がほぼ排出されず、コーティングのためのコーティング物質を蒸発させる技術の開発によって既存のメッキ工程に比べて高い生産速度の発現が可能である。また、耐食性の高いZn‐Mgコーティング製品であることから、既存の製品より薄い薄膜によって物性の実現が可能であり、経済性にも非常に優れた未来型鋼板製品として脚光を浴びている。
【0006】
しかしながら、このような製造工程上の長所及び優れた製品特性にもかかわらず、Zn‐Mgコーティングは、亜鉛コーティングと比べて破損しやすい特性を有するため、密着力の確保が困難である。
【0007】
また、Mgの活性が非常に高いことから、湿った雰囲気で製品の表面が水分と反応して黒く変わる黒変現象が発生するため、製品の品質を低下させる。
【0008】
このような黒変現象の問題を解決するための技術として、特許文献1の技術がある。上記特許文献1では、Zn‐Mgコーティング製品を0.01〜30%のリン酸塩溶液で処理し、表面からのMgの溶出による表面のMg濃度を1重量%以下にして黒変現象を防止しようとした。しかしながら、上記特許文献1は、実際にはMgの溶出が均一に起こらないことからムラが発生したり、コーティング表面にMgが含まれたリン酸塩が形成されることからリン酸塩処理後に表面の色相が殆ど黒色に変わったりするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本特開1997‐241828号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、黒変現象に対する抵抗性に優れ、コーティング密着力に優れたZn‐Mg合金コーティング鋼板とこれを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成されたZn‐Fe金属間化合物層と、上記Zn‐Fe金属間化合物層上に形成され、Znの含量が95重量%以上のZn‐Mg金属間化合物を含む第1のZn‐Mgコーティング層と、上記第1のZn‐Mgコーティング層上に形成され、Znの含量が80〜95重量%のZn‐Mg金属間化合物を含む第2のZn‐Mgコーティング層と、上記第2のZn‐Mgコーティング層上に形成され、金属酸化物を含む酸化皮膜とを含む、耐黒変性及び密着力に優れたZn‐Mg合金コーティング鋼板を提供する。
【0012】
また、本発明は、素地鋼板上にZn‐Mgコーティング層を形成する段階と、燃焼化学気相蒸着(CCVD)処理を施して酸化皮膜を形成する段階とを含む、耐黒変性及び密着力に優れたZn‐Mg合金コーティング鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、CCVD処理により表面に酸化皮膜が形成されたZn‐Mgコーティング鋼板素材は、既存の素材の短所である密着力低下と湿気による黒変を防止することにより自動車、家電、建材等の産業において経済的な価格で用いることができる産業基盤素材であるため、高耐性高級表面処理鋼板素材への商業化が可能であり、それ自体で非常に大きな素材市場を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)及び(b)はそれぞれ従来例と発明例の断面を観察したS‐TEM、TEM写真である。
【
図2】
図2(a)及び(b)はそれぞれ発明例と従来例の沸騰水処理前後の結果を示す写真である。
【
図3】
図3(a)及び(b)はそれぞれ発明例と従来例の密着力(テープテスト)結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いられる技術である燃焼化学気相蒸着(Combustion Chemical Vapor Deposition、CCVD)処理法は、真空中で行われる既存の物理的(PVD:Physical Vapor Deposition)又は化学的(CVD:Chemical Vapor Deposition)蒸着工程とは異なり、大気圧下で燃焼反応の原料となる炭化水素(例えば、プロパン)と空気との混合気体に前駆体(例えば、HMDSO、原料ガス分子)を投入し、上記混合気体の燃焼熱をエネルギー源として、上記前駆体を気化、分解し、化学反応を起こすことにより、基材の表面にコーティング層を形成する技術である。
【0016】
本発明では、CCVDによってコーティング層を形成するにあたり、前駆体として有機シラン(Organic Silane)を用いることにより、大気中の酸素との結合によって架橋された形の金属酸化物、好ましくは、シリコンオキサイド蒸着塗膜を金属表面に形成する。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明者らは、物理的気相蒸着(Physical Vapor Deposition、PVD)で製造されたZn‐Mg合金コーティング鋼板は、コーティング層にZn‐Mg、Zn、Mgの結晶領域が不均一に分布されており、特に、素地鋼板との界面に微細な自然酸化膜が存在するためコーティング層から分離されやすく、水分との反応により水和物形態が表面に形成されて黒変が発生することを見出した。
【0019】
よって、本発明者らは、Zn‐Mg合金コーティング鋼板の表面に燃焼化学気相蒸着(Comcustion Chemical Vapor Deposition、CCVD)技術を用いることにより、高温のフレーム(flame)がZn‐Mg合金コーティング鋼板の表面に作用してコーティング層を均質化し、これによるメッキ層の密着性増大及び酸化皮膜による黒変現象防止がなされることを見出し、本発明に至った。
【0020】
上記燃焼化学気相蒸着(CCVD)法は、大気圧下で炭化水素(プロパン)と原料ガス分子(前駆体)が飽和されている空気との混合気体の燃焼熱をエネルギー源として上記原料ガス分子が気化、分解、酸化されて架橋された形の酸化皮膜を形成する技術である。
【0021】
まず、本発明のZn‐Mg合金コーティング鋼板について詳細に説明する。
【0022】
本発明のZn‐Mg合金コーティング鋼板は、素地鋼板と、上記素地鋼板上に形成されたZn‐Fe金属間化合物層と、上記Zn‐Fe金属間化合物層上に形成され、Znの含量が95重量%以上のZn‐Mg金属間化合物を含む第1のZn‐Mgコーティング層と、上記第1のZn‐Mgコーティング層上に形成され、Znの含量が80〜95重量%のZn‐Mg金属間化合物を含む第2のZn‐Mgコーティング層と、上記第2のZn‐Mgコーティング層上に形成され、金属酸化物を含む酸化皮膜とを含む。
【0023】
上記素地鋼板の種類は特に限定されず、熱延鋼板、冷延鋼板等のすべての種類の鋼板の素材及び金属材質が使用可能である。
【0024】
上記素地鋼板上にZn‐Fe金属間化合物層を含む。上記Zn‐Fe金属間化合物層は、後述するCCVD処理により素地鋼板とZn‐Mgコーティング層との間に存在していた微小酸化皮膜をコーティング層中に分散させて形成されたもので、これにより、素地鋼板とZn‐Mgコーティング層の密着力を向上させる役割をする。
【0025】
上記Zn‐Fe金属間化合物層上に形成され、Znの含量が95重量%以上のZn‐Mg金属間化合物を含む第1のZn‐Mgコーティング層を含む。上記第1のZn‐Mgコーティング層は、Znが豊富(Rich)で柔らかい領域である。したがって、コーティング層の付着力を向上させる役割をする。
【0026】
上記Znの含量が95重量%未満の場合は、Zn‐Mg合金の影響でコーティング層が破損しやすい特性が現れるため、密着力増大の効果が弱くなる。上記Znの含量が多いほど良いが、Zn‐Mgの金属間化合物を形成するためには上記Znの含量が100重量%未満であることが好ましい。
【0027】
上記第1のZn‐Mgコーティング層上に形成され、Znの含量が80〜95重量%のZn‐Mg金属間化合物を含む第2のZn‐Mgコーティング層を含む。上記第2のZn‐Mgコーティング層は、Zn‐Mg合金特性により、一般の亜鉛コーティングよりも優れた耐食性を発現する。
【0028】
上記Zn‐Mgの金属間化合物は、Znの含量が80〜95重量%であることが好ましい。上記含量が80重量%未満の場合は、異なる結晶状のZn‐Mg合金コーティング層の影響で耐食性が再度低下する現象が現れる。
【0029】
上記第2のZn‐Mgコーティング層上に形成された酸化皮膜を含む。上記酸化皮膜は、金属酸化物を含む。上記酸化皮膜は、水分がコーティング塗膜の内部に浸透することを妨害することにより黒変性を改善する役割をする。
【0030】
上記酸化皮膜は金属酸化物を含み、上記金属酸化物はCCVD処理による金属酸化物(例えば、シリコン酸化物(SiO
2))であり、CCVD処理中に高温の雰囲気下で大気中の酸素と結合して自然酸化皮膜を形成するMgOが上記酸化皮膜層に一部形成されて混在している。
【0031】
一方、上記酸化皮膜の厚さは10〜40nmであることが好ましい。上記酸化皮膜の厚さが10nm未満の場合は、湿気が塗膜の内部に浸入することを十分に遮断することができないため、十分な耐黒変性を期待するのが困難であり、40nmを超える場合は、上記酸化皮膜の酸化物粒子、即ち、SiO
2粒子が巨大になるため、この巨大粒子の形成によって、却って、バリア(Barrier)塗膜としての役割を阻害させる。
【0032】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0033】
まず、素地鋼板にZn‐Mgコーティング層を形成する。この際、Zn‐Mgコーティング層は、前述した第1及び第2のZn‐Mgコーティング層とは区別されるもので、最終Zn‐Mgコーティング層ではなく、後続するCCVD処理前に形成されたものである。
【0034】
上記Zn‐Mgコーティング層を物理的気相蒸着(PVD)方法により形成することが好ましい。上記PVD工程を用いたZn‐Mgコーティング層の形成は、本発明の属する技術分野で行われる通常の方法による。
【0035】
好ましい一例としては、熱PVD法又はスパッタリング法でコーティングされる物質であるZn‐Mg又はZn、Mgのコーティング原料を真空中で熱エネルギー又はイオンの衝突エネルギーにより高速で大量蒸気化させ、これをロールツーロール(Roll‐to‐Roll)の方式で連続して真空中に投入される鋼板又は金属板の表面に誘導して、表面にZn‐Mg合金コーティングを形成する工程技術を用いる。特に、熱PVD法のうち電磁誘導現象を用いたEML‐PVD(Electro Magnetic PVD)は、電磁誘導現象によってZn‐Mg合金コーティング物質を真空中で浮揚加熱して高速で大量の蒸気を発生させてコーティングする技術であり、高い生産性による経済性の確保が可能であるため、Zn‐Mgコーティング製品に多く用いられる。
【0036】
上記Zn‐Mgコーティング層が形成された素地鋼板に燃焼化学気相蒸着法(CCVD)を用いて酸化皮膜を形成する。上記CCVD処理により、前述した素地鋼板上に形成されたZn‐Fe金属間化合物層と、上記Zn‐Fe金属間化合物層上に形成され、Znの含量が95重量%以上のZn‐Mg金属間化合物を含む第1のZn‐Mgコーティング層と、上記第1のZn‐Mgコーティング層上に形成され、Znの含量が80〜95重量%のZn‐Mg金属間化合物を含む第2のZn‐Mgコーティング層と、上記第2のZn‐Mgコーティング層上に形成され、金属酸化物を含む酸化皮膜とを含む、本発明のZn‐Mg合金コーティング鋼板が製造される。
【0037】
上記CCVD処理は、素地鋼板とCCVD装備のバーナー(burner)との距離が10mm以下であることが好ましい。また、CCVD処理時、空気供給量に対する前駆体蒸気の投入比が前駆体流量:空気供給量=0.8:210〜2.1:210L/分のとき、最も優れた特性の金属酸化物の蒸着塗膜が得られる。
【0038】
上記投入比が0.8:210L/分未満の場合は、空気に対して塗膜を形成する粒子が少なくなり、塗膜が薄膜又は微細化されるため、十分なバリア役割を行うことができず、2.1:210L/分を超える場合は、上記前駆体の凝集(粒子巨大化)現象によって緻密でないコーティングが形成されるため、バリア役割を行うことができないという問題がある。
【0039】
上記CCVD処理時の鋼板温度は330〜450℃であることが好ましい。上記温度が330℃未満の場合は、コーティング層内に原子の拡散に必要なエネルギーが十分にないため、CCVD工程中にコーティング層が均質化するのが困難であり、450℃を超える場合は、素地鋼板と第1のZn‐Mgコーティング層の間でZn‐Fe合金化反応が非常に活発に起こり、過度なZn‐Fe合金層が形成されるため、却って、密着力に悪影響を及ぼす可能性がある。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明の理解のためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0041】
酸化皮膜の厚さと鋼板の加熱温度による耐黒変性と密着力を調べるために、下記のような実験を行った。
【0042】
一般の冷延鋼板を連続的なストリップコイル(Strip Coil)状にして用意し、熱PVDの一種である電磁誘導現象を用いたEML‐PVD(Electro Magnetic PVD)、即ち、電磁誘導現象によってZn‐Mg合金コーティング物質を真空中で浮揚加熱して高速で大量の蒸気を発生させ、これをロールツーロール(Roll‐to‐Roll)の方式で連続して真空中に投入される鋼板素材の表面に誘導して、表面にZn‐Mgコーティング層を形成した。
【0043】
上記Zn‐Mgコーティング鋼板に有機シランを用いてシリコン酸化皮膜を形成するためにCCVD処理を施して、表面に酸化皮膜が形成されたZn‐Mg合金コーティング鋼板を製造した。上記CCVD処理時には、下記表1に記載されているように酸化皮膜の厚さ(処理サイクル数)と試験片の温度を変化させて行った。
【0044】
なお、下記表1のうち比較例7〜10は、CCVD処理時の鋼板の温度による密着力をテストするためのものであって、酸化皮膜を形成せずに鋼板(試験片)の温度のみを変化させてテストしたものである。
【0045】
上記のように製造されたZn‐Mg合金コーティング鋼板の耐黒変性と密着力を測定し、その結果を表1に示した。上記密着力については、試験片にテープ(tape)を張って屈曲させた後に剥離してコーティング塗膜の脱落の有無を観察して良と不良とを判断し、耐黒変性については、試験片を熱湯に5分間浸漬した後に色相変化の有無を観察して良と不良とを判断した。
【0046】
【表1】
【0047】
本発明の条件を満たす発明例は、優れた耐黒変性と密着力を確保している。これは、
図1(a)の従来例と
図1(b)の発明例の構造から分かる。即ち、
図1(a)の従来例は、素地上にZn‐Mg合金メッキ層が混合層として形成されているのに対し、
図1(b)の発明例は、素地上に金属間化合物層、Zn豊富層、Zn‐Mg合金層が形成され、最表面に酸化皮膜が形成されている。したがって、本発明による発明例は、優れた耐黒変性のみならず、優れた密着力も確保している。
【0048】
比較例1及び6は、本発明の酸化皮膜の厚さの範囲から外れたもので、優れた耐黒変性を期待するのが困難であり、比較例2〜5は、酸化皮膜の厚さが本発明の範囲を満たしているが試験片の温度が本発明の範囲を満たしておらず、耐黒変性には優れるが密着力が低い。
【0049】
比較例8及び9は、試験片の温度が本発明の範囲を満たしており、優れた密着力を確保しているが、酸化皮膜が形成されていないため、耐黒変性が劣る。また、比較例7及び10は、本発明の試験片の温度を外れており、優れた密着力を確保するのが困難である。
【0050】
図2の(a)及び(b)はそれぞれ発明例と従来例の沸騰水処理前後を観察した写真である。
図2の(a)及び(b)から分かるように、発明例は、色相変化がないため、優れた耐黒変性を有するのに対し、従来例は、全面黒変が発生した。
【0051】
図3の(a)及び(b)はそれぞれ発明例と従来例のテープテスト結果を示すものである。
図3の(a)及び(b)から分かるように、発明例は、従来例に比べて優れた密着力を有する。