(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部に成膜材料供給部とドーム状の形状または平面円板形状を有してドームの頂部または平面円板の中心を回転中心として回転される基板ホルダが設けられた成膜チャンバーの前記基板ホルダに複数枚の成膜対象基板を膜形成面が前記成膜材料供給部側に臨むように保持し、ドームの頂部または平面円板の中心を回転中心として回転させる工程と、
前記成膜材料供給部から成膜材料を供給して前記成膜対象基板上に前記成膜材料の膜を形成する工程と、
回転される前記基板ホルダの外周部に円状に保持された複数枚の前記成膜対象基板にモニタ光をトレースするように投光する工程と、
前記成膜対象基板を透過した前記モニタ光を受光して前記モニタ光を多波長で検出し、前記各成膜対象基板の多波長での光透過率が反映された受光信号を取得する工程と、
前記基板ホルダの回転に同期した回転する前記基板ホルダの位置を特定するためのトリガー信号を取得する工程と、
前記受光信号と前記トリガー信号を信号処理して成膜対象基板毎の光透過率を取得する工程と、
を有し、
前記光透過率を取得する工程では、
前記基板ホルダの回転に同期した前記トリガー信号から、回転する前記基板ホルダの位置を特定することで、各成膜対象基板の光透過率が間欠的に反映された受光信号のどの部分がいずれの成膜対象基板に対する光透過率であるか特定し、前記受光信号のどの部分がいずれの成膜対象基板に対する光透過率であるか特定する
薄膜形成方法。
成膜チャンバー内に設けられ、複数枚の成膜対象基板を膜形成面が成膜材料供給部側に臨むように保持し、ドーム状の形状または平面円板形状を有してドームの頂部または平面円板の中心を回転中心として回転される基板ホルダの外周部に円状に保持された複数枚の前記成膜対象基板にモニタ光をトレースするように投光する投光部と、
前記成膜対象基板を透過した前記モニタ光を受光して前記モニタ光を多波長で検出し、前記各成膜対象基板の多波長での光透過率が反映された受光信号を出力する受光部と、
前記基板ホルダの回転に同期した回転する前記基板ホルダの位置を特定するためのトリガー信号を出力するトリガー信号出力部と、
前記受光信号と前記トリガー信号が入力され、前記受光信号と前記トリガー信号を信号処理して成膜対象基板毎の光透過率を取得する信号処理部と、
を有し、
前記信号処理部は、
前記基板ホルダの回転に同期した前記トリガー信号から、回転する前記基板ホルダの位置を特定することで、各成膜対象基板の光透過率が間欠的に反映された受光信号のどの部分がいずれの成膜対象基板に対する光透過率であるか特定し、前記受光信号のどの部分がいずれの成膜対象基板に対する光透過率であるか特定する
光学膜厚モニタ装置。
【背景技術】
【0002】
近年、光アンプや波長多重通信の導入による光通信技術の発達と共に光学フィルタの重要性が高まり、光学特性に優れた光学フィルタが求められている。
例えば、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing: 高密度波長分割多重)通信方式の光通信などに用いられる狭帯域バンドパスフィルタ(以下NBPフィルタとも称する)は、光学基板上に光学多層膜が形成された構成を有し、高い波長選択性と、選択されていない波長領域の光の高い反射性及び選択された波長領域の高い透過性などが求められている。
【0003】
NBPフィルタを構成する光学多層膜は、屈折率の異なる誘電体の薄膜を多層積層した構成である。
例えば、NBPフィルタは、石英ガラスなどの光学基板上に、厚さ220〜235nmのTa
2O
5の薄膜と、厚さ250〜260nmのSiO
2の薄膜を交互に80〜260層積層した光学多層膜が形成されている。
光学多層膜を構成する各薄膜は、所定の光学膜厚を有するように形成されている。光学膜厚は、薄膜の物理的な膜厚と薄膜の屈折率の積で定義され、光学多層膜に所望される光学特性を満たすための重要な要素である。
【0004】
光学多層膜を形成する方法としては、例えば、イオンビームアシスト真空蒸着などの真空蒸着、分子線蒸着、イオンプレーティングなどの方法がある。
薄膜の屈折率は薄膜を構成する元素の種類と組成に依存するため、例えば薄膜を真空蒸着により形成する場合には、真空蒸着源の組成を適宜選択することで所望の屈折率の薄膜を形成することができる。
また、上記の構成の光学多層膜において所望の光学膜厚を得るために、各薄膜の物理的な膜厚の精度として設計値からの誤差を0.1%以下に抑えることが求められている。例えば特許文献1〜3に、間接型あるいは直接型の膜厚モニタ法により、薄膜の物理的な膜厚を監視しながら形成する方法が開示されている。
【0005】
図10(a)は、従来例に係る直接型の膜厚モニタ方法を用いた真空蒸着装置の模式構成図である。
例えば、真空チャンバー110に、不図示の排気管及び真空ポンプが接続されており、内部が所定の圧力に減圧可能となっている。
例えば、真空チャンバー110の内部に、第1真空蒸発源120が配置されてその内部に第1蒸着材料121が収容されており、また、第2真空蒸発源122が配置されてその内部に第2蒸着材料123が収容されている。
【0006】
例えば、真空チャンバー110内には、成膜対象基板130が基板ホルダにより回転移動可能に保持されている。
また、成膜対象基板130に対してモニタ光Lを投光する投光部141が真空チャンバー110内に設けられており、また、成膜対象基板130を通過したモニタ光Lを受光する受光部150が真空チャンバー110の外部に設けられている。
【0007】
第1真空蒸着源120及び第2真空蒸着源122において、蒸着材料を抵抗加熱、電子ビーム加熱、レーザービーム加熱などにより加熱することで、第1真空蒸着源120及び第2真空蒸着源122から噴出された蒸着材料の蒸気が成膜対象基板の表面に達して固化すると、成膜対象基板の表面に蒸着材料の薄膜が形成される。
ここで、第1真空蒸着源120からの蒸着材料の成膜と第2真空蒸着源122からの蒸着材料の成膜を交互に繰り返すことで、上記の構成の光学多層膜を形成することができる。
【0008】
図10(a)の真空蒸着装置においては、各薄膜の成膜中に、投光部141から成膜対象基板130に対してモニタ光Lを投光し、成膜対象基板130を透過したモニタ光Lを受光部150で受光し、干渉による光透過率の変化を捉えることで、成膜中の薄膜の膜厚をモニタする。
投光部141は、例えば真空チャンバー110の外部に設けられた不図示の光源から導かれた光を成膜対象基板130に向けて投光するように構成されている。
成膜対象基板130を透過したモニタ光Lを受光して膜厚をモニタすることから、
図10(a)の構成の膜厚モニタ方法を直接型の膜厚モニタ方法と称する。
【0009】
図10(b)は、従来例に係る間接型の膜厚モニタ方法を用いた真空蒸着装置の模式構成図である。
例えば、真空チャンバー110に、不図示の排気管及び真空ポンプが接続されており、内部が所定の圧力に減圧可能となっている。
例えば、真空チャンバー110の内部に、第1真空蒸発源120が配置されてその内部に第1蒸着材料121が収容されており、また、第2真空蒸発源122が配置されてその内部に第2蒸着材料123が収容されている。
【0010】
例えば、真空チャンバー110内には、複数個の成膜対象基板130が回転移動可能なドーム状に基板ホルダ131に保持されている。
基板ホルダ131の中央開口部に、一方の面が蒸着面となるようにモニタ基板132が保持されている。
また、モニタ基板132の蒸着面の反対側の面に対してモニタ光L
Iを投光し、モニタ基板132からの反射光L
Rを受光する投受光部151が設けられている。
【0011】
図10(b)の真空蒸着装置において、
図10(a)の真空蒸着装置と同様にして光学多層膜を形成することができる。
図10(b)の真空蒸着装置においては、各薄膜の成膜中に、投受光部151からモニタ基板132に対してモニタ光L
Iを投光し、モニタ基板132からの反射光L
Rを投受光部151で受光し、光反射率の変化をモニタする。
モニタ基板132からの反射光L
Rの変化から成膜対象基板上の薄膜の膜厚を推定してモニタするものであり、
図10(b)の構成の膜厚モニタ方法を間接型の膜厚モニタ方法と称する。
【0012】
図11(a)は
図10(a)の真空蒸着装置の要部模式図である。成膜対象基板130が基板ホルダにより回転移動可能に保持されており、不図示の投光部から成膜対象基板130に対してモニタ光Lが投光され、成膜対象基板130を通過したモニタ光Lが受光部150で受光される。
【0013】
図11(b)は
図11(a)中の成膜対象基板の模式的平面図である。例えば、回転して保持される成膜対象基板130に対するモニタ光Lの投光スポットSP
Lは、成膜対象基板130の外周部近傍に位置する。成膜対象基板130上の投光スポットSP
Lがトレースする領域Rが良品分布領域となる。
【0014】
図10(a)に示す直接型の膜厚モニタ方法による真空蒸着装置に用いた場合、基板ホルダに1枚の成膜対象基板を保持して成膜するものであるので、NBPフィルタの量産化が難しかった。
一方、NBPフィルタは、光アンプや波長多重通信などの用途の他、カメラ、ビデオレコーダ、プロジェクタ、さらにはゲーム機のジェスチャー入力や人の顔や指紋などの認証システムに応用される光画像処理技術を用いたセンサなどに用途が拡大して量産化が求められており、NBPフィルタの製造には、
図10(b)に示す間接型の膜厚モニタ方法による真空蒸着装置に用いてドーム状の基板ホルダに多数枚の成膜対象基板を保持し、多数枚の基板に同時に光学多層膜を成膜する方法が採用されるようになった。
【0015】
しかしながら、上記のように量産化に対応して間接型の膜厚モニタ方法による真空蒸着装置を用いてNBPフィルタを製造した場合、モニタ基板からの反射光の変化から成膜対象基板上の薄膜の膜厚を推定してモニタする方法では薄膜の膜厚の制御精度に限界があり、所望の透過帯域を有する光学多層膜を高い歩留まりで製造することが困難であった。
上記の問題はNBPフィルタに限らず、膜厚を高精度に制御することが重要である光学フィルタ全般に共通するものである。
【0016】
直接モニタ方式の真空蒸着装置については、例えば特許文献1〜3などに記載がある。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の薄膜形成装置である真空成膜装置とそれを用いた薄膜形成方法である真空成膜方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
[真空成膜装置の構成]
図1は、本実施形態に係る真空成膜装置であるイオンビームアシスト真空蒸着装置の模式構成図である。
例えば、成膜チャンバーである真空チャンバー10に、排気管11及び真空ポンプ12が接続されており、内部が所定の圧力に減圧可能となっている。真空蒸着による成膜時における真空チャンバー10内の背圧は、例えば10
−2〜10
−5Pa程度である。
【0033】
例えば、真空チャンバー10の内部に、成膜材料供給部として、第1真空蒸発源20が配置されてその内部に第1蒸着材料21が収容されており、また、第2真空蒸発源22が配置されてその内部に第2蒸着材料23が収容されている。
第1蒸着材料21は例えばSiO
2であり、第2蒸着材料23は例えばTiO
2あるいはTa
2O
5である。
各真空蒸着源には、例えば不図示の抵抗加熱、電子ビーム加熱、レーザービーム加熱などの加熱手段が設けられており、真空蒸発源において蒸着材料が加熱されて気化すると蒸着材料の蒸気が噴出する。
【0034】
例えば、真空チャンバー10内には、第1真空蒸発源20及び第2真空蒸着源22の蒸着材料の蒸気を噴出する方向に、複数枚の成膜対象基板30を膜形成面が成膜材料供給部側に臨むように保持し、ドーム状の形状を有してドームの頂部を回転中心として回転される基板ホルダ31が設けられている。
例えば、基板ホルダ31は、ホルダ支持部(32,33)により回転可能に支持されており、真空チャンバー10の外部に設置されたモータ34の駆動により回転駆動される。
【0035】
例えば、各真空蒸着源から噴出された蒸着材料の蒸気が成膜対象基板の表面に達して固化すると、成膜対象基板の表面に蒸着材料の薄膜が形成される。
【0036】
例えば、真空チャンバー10内に酸素イオンなどのイオンを成膜対象基板に照射するイオンソース24が設けられており、イオンビームアシスト真空蒸着を行うことができる。
イオンソース24からイオンを成膜対象基板30の膜形成面に照射することで、成膜材料供給部から供給される蒸着物質により成膜されて膜厚が厚くなるプロセスと、既に成膜された膜の表面近傍の一部領域が、イオンソース24から照射されるイオンによりスパッタされて膜厚が薄くなるプロセスとを同時に進行させながら成膜できる。
このとき、成膜対象基板30面内において、成膜材料供給部から供給される成膜物質の密度分布に依存して膜厚差が生じる場合には、その膜厚差を打ち消すような条件でイオンソース24から照射されるイオンによるスパッタを行うことで、均一な面内膜厚分布をもつ多層膜が得ることができる。
【0037】
例えば、基板ホルダ31の外周部に保持された成膜対象基板30にモニタ光Lを投光する以下の構成の投光部が設けられている。
例えば、投光部は、真空チャンバー10の外部に設置された光源40と、真空チャンバー10内に設けられ、光源40からの光を成膜対象基板30にモニタ光Lとして投光する投光ヘッド41と、光源からの光を投光ヘッド41に伝達する光ファイバなどの投光光学系42と、投光ヘッド41を支持する投光ヘッド支持部43などから構成される。光源40及び投光ヘッド41は、例えばハロゲンランプを用いることができる。
光源40からの光が投光光学系42により投光ヘッド41に伝達され、モニタ光Lとして成膜対象基板30に対して投光される。
【0038】
例えば、投光ヘッド支持部43としては、膜厚分布を補正するために用いられる補正板などの真空チャンバー10に既存の設備を利用することができる。
【0039】
例えば、成膜対象基板30を透過したモニタ光Lを受光して受光信号S
Rを出力する以下の構成の受光部が設けられている。
例えば、受光部は、真空チャンバー10内に設けられ、成膜対象基板を透過したモニタ光Lを受光する受光ヘッド50と、受光ヘッド50で受光されたモニタ光を分光する分光部51と、分光部51で分光された光を検出する光検出部52と、受光ヘッド50で受光したモニタ光Lを分光部51に伝達する光ファイバなどの受光光学系53と、受光ヘッド50を支持する受光ヘッド支持部54などから構成される。
【0040】
例えば、光検出部52は、受光した光を光信号に変換する受光画素がマトリクス状に配置された構成であり、光検出部52としてCCDセンサなどを用いることができる。
成膜対象基板を透過したモニタ光Lが受光ヘッド50で受光され、受光光学系53により分光部51に伝達されて分光され、分光されたモニタ光が光検出部52で検出される。
成膜対象基板を透過したモニタ光Lを分光部51で分光し、分光された光を、受光画素がマトリクス状に配置された光検出部53で検出して受光信号S
Rを出力する。光検出部はモニタ光の連続スペクトルを取得することができ、即ち、モニタ光を多波長で検出することができる。
【0041】
例えば、受光ヘッド50を支持する受光ヘッド支持部54は、基板ホルダ31及びホルダ支持部(32,33)の回転駆動を妨げないように設けられている。
【0042】
例えば、基板ホルダ31を回転駆動するモータ34に接続して、基板ホルダ31の回転に同期したトリガー信号S
Tを出力するトリガー信号出力部35が設けられている。
例えば、受光部とトリガー信号出力部35に接続して信号処理部55が設けられている。信号処理部55は、受光信号S
Rとトリガー信号S
Tが入力され、受光信号S
Rとトリガー信号S
Tを信号処理して成膜対象基板毎の光透過率を取得する。また、上記のようにモニタ光の連続スペクトルを取得することで、成膜対象基板毎の光透過スペクトルを取得する。
得られた光透過率あるいは光透過スペクトルから、所望の光学特性が得られるように成膜条件を変更するように成膜途中においてフィードバックすることができる。
【0043】
図2(a)は
図1の真空蒸着装置の要部模式図である。
例えば、ドーム状の形状を有してドームの頂部を回転中心として回転される基板ホルダ31に、膜形成面が成膜材料供給部側に臨むように複数枚の成膜対象基板30が保持されている
。
不図示の投光部から成膜対象基板30に対してモニタ光Lが投光され、成膜対象基板30を通過したモニタ光Lが受光ヘッド50で受光される。
【0044】
図2(b)は
図1中の成膜対象基板の模式的平面図である。
例えば、モニタ光Lの投光スポットSP
Lは、基板ホルダ31の外周部に配置された成膜対象基板30上を通過するように配置される。投光スポットSP
Lがトレースする領域Rの近傍が良品分布領域となる。
【0045】
図3は実施形態の真空蒸着装置に係る信号処理を示す説明図である。
モニタ光Lの投光スポットSP
Lは、基板ホルダ31が回転することにより、基板ホルダ31の外周部に配置された複数枚の成膜対象基板(30
1,30
2,30
3・・・30
n)上を通過する。
移動する成膜対象基板(30
1,30
2,30
3・・・30
n)を透過したモニタ光Lを受光することで、各成膜対象基板(30
1,30
2,30
3・・・30
n)の光透過率が間欠的に反映された受光信号S
Rが取得される。
ここで、基板ホルダ31の回転に同期したトリガー信号S
Tから、回転する基板ホルダ31の位置を特定することで、各成膜対象基板の光透過率が間欠的に反映された受光信号S
Rのどの部分がいずれの成膜対象基板に対する光透過率であるか特定することができる。トリガー信号S
Tは、基板ホルダ31の回転1周期に1回の出力、あるいは多数回の出力とする。
上記の受光信号S
Rのどの部分がいずれの成膜対象基板に対する光透過率であるか特定することで、受光信号S
Rから、成膜対象基板30
1に対する受光信号S
1、成膜対象基板30
2に対する受光信号S
2、成膜対象基板30
3に対する受光信号S
3、・・・成膜対象基板30
nに対する受光信号S
nを取得することができる。
【0046】
例えば、基板ホルダの外周部に位置する成膜対象基板の中心の起動半径を450mm、成膜対象基板の直径を30mm、基板ホルダの回転数を30rpmとしたとき、モニタ光を点光源として取り扱うと、成膜対象基板1枚あたり、基板ホルダ1回転あたりのモニタ時間は21msとなる。モニタ光のスポット径はある程度の大きさがあるので、モニタ時間はさらに短くなる。この限られた時間内で高い膜厚制御性を確保するためには、高い光検出感度が求められる。
【0047】
例えば、光検出部52としてCCDセンサなどを用いることで、多波長での光透過率の情報を得ることで得られる情報量を増加させることができ、光透過率の精度を高め、S/N比を向上できる。
【0048】
図4(a)及び(b)は
図1の真空蒸着装置の要部模式図である。
例えば、基板ホルダ31の外周部に保持された成膜対象基板30に投光部を構成する投光ヘッド41からモニタ光Lが投光される。
成膜対象基板30を透過したモニタ光Lが受光光学系を構成する受光ヘッド50で受光される。
図4(a)に示す基板ホルダ31と
図4(b)に示す基板ホルダ31とでは、径が異なり、保持できる成膜対象基板の数や大きさが異なっている。
上記の構成において、例えば、受光光学系の受光ヘッド50の位置が可変に設けられている。
例えば、受光ヘッド支持部54が伸縮可能、屈曲可能、あるいは伸縮及び屈曲可能に設けられており、受光光学系の受光ヘッドの位置を変更できるように構成されている。
例えば、
図4(a)に示す相対的に大きな基板ホルダ31を用いる場合、受光ヘッド50が基板ホルダ31の外周部に保持された成膜対象基板30を透過したモニタ光Lを受光する位置に届くように受光ヘッド支持部54が伸ばされている。
一方、例えば、
図4(b)に示す相対的に小さな基板ホルダ31を用いる場合、受光ヘッド50が基板ホルダ31の外周部に保持された成膜対象基板30を透過したモニタ光Lを受光する位置に届くように受光ヘッド支持部54が縮められて、あるいは屈曲されている。
【0049】
例えば、
図1に示すように、基板ホルダ及び受光光学系の近傍にヒータが設けられている。ヒータ60で加熱することで、真空チャンバー10の基板ホルダ近傍における内壁面などに不要な蒸着材料が堆積することを防止することができる。
ヒータ60は、例えばハロゲンランプ、あるいはニッケルクロムなどからなる抵抗加熱部材を用いることができる。
この場合、例えば受光光学系としてヒータによる加熱に対する耐熱性を有するものを用いることで、受光光学系のヒータによるダメージを抑制することができる。
【0050】
本実施形態の真空成膜装置によれば、複数枚の成膜対象基板が基板ホルダに保持され、基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板にモニタ光を投光する投光部と、これを透過したモニタ光を受光して成膜対象基板毎の光透過率を取得するものであり、光学フィルタを製造する真空成膜プロセスにおいて、量産化に対応しながら歩留まりを向上させることができる。
【0051】
[真空成膜方法]
次に、本実施形態に係る真空成膜方法としてイオンビームアシスト真空蒸着方法について説明する。本実施形態に係る真空成膜方法は、上記の本実施形態の真空成膜装置を用いて行う。
まず、例えば、内部に成膜材料供給部とドーム状の形状を有してドームの頂部を回転中心として回転される基板ホルダが設けられた真空チャンバーの基板ホルダに、複数枚の成膜対象基板を保持する。ここで、成膜対象基板の膜形成面が成膜材料供給部側に臨むように保持する。
例えば、成膜対象基板を保持した基板ホルダをドームの頂部を回転中心として回転させる。
【0052】
次に、例えば、成膜材料供給部から成膜材料を供給して成膜対象基板上に成膜材料の膜を形成する。
次に、例えば、基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板にモニタ光を投光する。
次に、例えば、成膜対象基板を透過したモニタ光を受光して受光信号を取得する。
次に、例えば、基板ホルダの回転に同期したトリガー信号を取得する。
次に、例えば、受光信号とトリガー信号を信号処理して成膜対象基板毎の光透過率を取得する。
【0053】
例えば、受光部としては、成膜対象基板を透過したモニタ光を受光及び伝達する受光光学系と、モニタ光を分光する分光部と、分光部で分光された光を検出するCCDセンサなどの光検出部とを有する構成とし、モニタ光を多波長で検出することができる。
例えば、光検出感度を高めることで信号の精度を高め、S/N比を向上でき、さらに、CCDセンサなどにより多波長での光透過率の情報を得ることで得られる情報量を増加させることができ、光透過率の精度を高め、S/N比を向上できる。
【0054】
例えば、位置可変に設けられている受光光学系を用いることができる。
伸縮可能、屈曲可能、あるいは伸縮及び屈曲可能に設けられている受光ヘッド支持部54を用いることで、受光光学系の受光ヘッドの位置を変更でき、曲面形状の異なる基板ホルダを用いた場合でも、基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板の光透過率あるいはスペクトルの精度を高めることができる。
【0055】
図5(a)及び(b)は
図1の真空蒸着装置の変形例の要部模式図である。
例えば、平面円板形状の基板ホルダ36の外周部に保持された成膜対象基板30に投光部を構成する投光ヘッド41からモニタ光Lが投光される。
成膜対象基板30を透過したモニタ光Lが受光光学系を構成する受光ヘッド50で受光される。
図5(a)に示す基板ホルダ36と
図5(b)に示す基板ホルダ36はいずれも平面円板形状であるが、径が異なり、保持できる成膜対象基板の数や大きさが異なっている。
上記の構成において、例えば、受光光学系の受光ヘッド50の位置が可変に設けられている。
例えば、受光ヘッド支持部54が伸縮可能、屈曲可能、あるいは伸縮及び屈曲可能に設けられており、受光光学系の受光ヘッドの位置を変更できるように構成されている。
例えば、
図5(a)に示す相対的に大きな基板ホルダ36を用いる場合、受光ヘッド50が基板ホルダ36の外周部に保持された成膜対象基板30を透過したモニタ光Lを受光する位置に届くように受光ヘッド支持部54が伸ばされている。
一方、例えば、
図5(b)に示す相対的に小さな基板ホルダ36を用いる場合、受光ヘッド50が基板ホルダ36の外周部に保持された成膜対象基板30を透過したモニタ光Lを受光する位置に届くように受光ヘッド支持部54が縮められて、あるいは屈曲されている。
伸縮可能、屈曲可能、あるいは伸縮及び屈曲可能に設けられている受光ヘッド支持部54を用いることで、受光光学系の受光ヘッドの位置を変更でき、平面形状で径が異なる基板ホルダを用いた場合でも、基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板の光透過率あるいはスペクトルの精度を高めることができる。
【0056】
例えば、投光部が、成膜対象基板の膜形成面に実質的に垂直に入射するようにモニタ光を投光する。
これにより、成膜対象基板の光透過率あるいはスペクトルの精度を高めることができる。
【0057】
例えば、基板ホルダ及び受光光学系の近傍に設けられたヒータで加熱することで、真空チャンバー10の基板ホルダ近傍における内壁面などに不要な蒸着材料が堆積することを防止することができる。
この場合、例えば受光光学系としてヒータによる加熱に対する耐熱性を有するものを用いることで、受光光学系のヒータによるダメージを抑制することができる。
【0058】
本実施形態の真空成膜方法によれば、複数枚の成膜対象基板を基板ホルダに保持し、基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板にモニタ光を投光し、これを透過したモニタ光を受光して成膜対象基板毎の光透過率を取得するものであり、光学フィルタを製造する真空成膜プロセスにおいて、量産化に対応しながら歩留まりを向上させることができる。
【0059】
<実施例1>
上記の実施形態のイオンビームアシスト真空蒸着装置及び方法を用いて、光学ガラス基板上にSiO
2/TiO
2を交互に66層積層したNBPフィルタを作成した。透過帯の中心波長は827nmであり、帯域幅は12nm以下である。
図6(a)は実施例1に係る基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板の光透過率Tの時間変化を示すグラフである。
SiO
2/TiO
2を積層する工程において、受光部でモニタする波長を827nmとし、光透過率を観測しながら各SiO
2/TiO
2の光学膜厚を制御して作成したときの実測した光透過率Tを
図6(a)中に実線Xで示す。また、設計値を点線Yで示す。
図中、光透過率Tの小さなピークがそれぞれSiO
2薄膜(またはTiO
2薄膜)の各層に相当する。
実施例1に係る光透過率Tの時間変化は、設計値とよく一致したプロファイルとなり、直接型の膜厚モニタ法により高精度に薄膜の膜厚を制御できた。
【0060】
<比較例>
図10(b)に示す従来例に係る間接型の膜厚モニタ法により制御することを除いて、実施例1と同様に光学ガラス基板上にSiO
2/TiO
2を交互に66層積層したNBPフィルタを作成した。
ここで、実施例1と同様に、基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板の光透過率Tを測定した。
図6(b)は比較例に係る基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板の光透過率Tの時間変化を示すグラフであり、実測した光透過率Tを
図6(b)中に実線Xで示す。また、設計値を点線Y(
図6(a)中の点線Yと同一)で示す。
比較例では、時間と共に光透過率が全体的に低下していく。これは、基板ホルダの外周における成膜環境の変化が、間接型の膜厚モニタ法でモニタする基板ホルダの中心部と異なっていることを示している。
【0061】
実施例1及び比較例に係る光透過スペクトルを
図7に示す。縦軸は光透過率T(%)、横軸は波長λ(nm)である。
図7中、実線a1は実施例1に係る光透過スペクトルである。透過帯域が矩形形状となり、透過帯域の光透過率が90%を超えて平坦なプロファイルとなり、
実施例1では、高い波長選択性と、選択されていない波長領域の光の高い反射性及び選択された波長領域の高い透過性を有するNBPフィルタとして好ましい光学特性が得られた。
図7中、太破線a2は実施例1と同条件で作成したNBPフィルタの光透過スペクトルである。実線a1に対して中心波長が0.7nm程度ずれた程度で、実施例1と実質的に同様の光学特性が得られ、上記の実施形態の真空蒸着方法が再現性の高い制御方法であることが確認できた。
【0062】
図7中、細破線bは比較例に係る光透過スペクトルである。透過帯の中心波長からなだらかに光透過率が変化する山形のプロファイルであり、高い波長選択性が得られなかった。
また、中心波長の最大透過率が70%程度と低く、選択された波長領域の高い透過性は得られなかった。
【0063】
上記の実施例1と比較例の制御の相違は、形成されるNBPフィルタの光学特性に影響を与える。
図6(a)及び(b)からわかるように、比較例では層数を増やすごとに光透過率の減少が大きくなっている。このような光透過率の変化から、光学特性の歪みは各薄膜の膜厚に対する誤差の重畳に由来するものであり、層数が多いフィルタ程、光学特性への影響が大きくなってくる。
【0064】
<実施例2>
上記の実施形態のイオンビームアシスト真空蒸着装置及び方法を用いて、光学ガラス基板上にSiO
2/TiO
2を交互に66層積層したNBPフィルタを作成した。透過帯の中心波長は532nmであり、帯域幅は2nm程度である。
【0065】
図8は実施例2に係る基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板の光透過率スペクトルの時間変化を示すグラフである。図に示すように、波長λ(nm)に対する光透過率T(%)、即ち光透過スペクトルの時間t(任意単位)に対する変化を示している。
本実施例では、帯域幅が2nm程度と狭いため、これ対応した高分解能の分光部を採用した。また、光検出部としてCCDセンサを用い、光透過スペクトルを得た。
図8に示すように、中心波長532nm近傍で光透過率Tの経時変化が大きい。中心波長532nmから数nm波長が異なる領域では、光透過率はほとんどゼロで変動しない。
【0066】
膜厚の判定は透過帯域の中心波長の光透過率をモニタして、ピークとなった時点で設計膜厚に到達したとみなすが、この時点で設計値と測定値の差が許容値より大きい場合、光透過スペクトルの変化を観察して、さらに堆積を続ける、あるいは堆積を一旦中止してフィルタ設計を見直し、層数を増やすなどの対応を取ることで、成膜途中で生じた誤差を修正することができる。
【0067】
図9は実施例2に係る基板ホルダの外周部に保持された成膜対象基板の光学多層膜の最終層を形成する工程での光透過率スペクトルであり、縦軸は光透過率T(%)、横軸は波長λ(nm)である。
図9中、成膜開始から1s、48s、70s、115sの時点での光透過率スペクトルを重ねて示している。成膜は115s経過したところで終了した。
【0068】
図9に示す光透過スペクトルでは、成膜時間の経過とともに透過帯域での透過率が高くなり、半値幅が狭くなり、形状が山形から矩形へと変化した。
特に、成膜開始1sから70sまでの間に中心波長が短波長側へシフトしており、単波長でのモニタではわからなかった光学特性を得ることができ、成膜の制御性を高めるのに利用することができる。
【0069】
本発明は上記の説明に限定されない。
例えば、イオンビームアシスト真空蒸着装置及び方法に限らず、その他の真空成膜装置及び方法に適用可能である。さらに、真空成膜以外にスパッタリングによる成膜あるいはCVD(化学気相成長)による成膜など、その他の薄膜形成装置及び方法にも適用可能である。
トリガー信号の出力は、基板ホルダの回転の1周期に1回の出力でも多数回の出力でもよい。
また、エンコーダを用いて基板ホルダの回転軸の回転位置を検出し、得られた基板ホルダの位置情報を信号処理部に入力して成膜対象基板毎の光透過率を取得する構成とすることも可能である。
また、上記の実施形態における、投光部、受光部、トリガー信号出力部、及び信号処理部は、成膜対象基板毎の光透過率を取得して成膜対象基板に形成された薄膜の光学膜厚をモニタする装置を構成する。光学膜厚モニタ装置として、上記の真空成膜装置から取り外し、他の薄膜形成装置に取り付けて成膜対象基板に形成された薄膜の光学膜厚をモニタすることもできる。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。