【実施例1】
【0010】
図1の概略を示した概念説明図に沿って、本発明の実施例1のナノファイバーを積層した建材用の薄膜防臭遮蔽部材の製造装置を説明する。
図1に示すように、薄膜防臭遮蔽部材の製造装置の概略は、モノフィラメントの織成した基材N1を送り出し、その表面にナノファイバーを積層して巻き取る[ナノファイバー積層体形成工程A]と、送り出される基材に第1の高分子接着剤N2を吹き付けファイバーで蜘蛛の巣状或いはジグザグ状の網部を形成するともに基材に接着して基材を補強する[網状補強繊維形成工程B]と、補強された基材にナノファイバーを接着する第2の高分子接着剤N3を吹き付け接着部を形成する[接着剤吹付工程C]と、この高分子接着剤N3にナノファイバーN4を吹き付ける[ナノファイバー生成部D]とから構成されている。
そこで、上述した各工程を下流側から詳細に説明する。
【0011】
[ナノファイバー積層体形成工程A]
本実施例の基材N1の単体は、顕微鏡写真の
図2に示すようなもので、通常の網戸に用いられる0.25mm径のPP(ポリプロピレン)のモノフィラメントで織成され、1インチ(25.4ミリ)角の中に18マス×18マスがある18メッシュの網(ダイオ化成株式会社.防虫ネット(品番メッシュ18))であり、厚さは0.48mm、重量は80g/m
2であって、この基材は網戸等の建材として使用するには十分に強度がある。なお、基材N1としては、上記のPP(ポリプロピレン)以外として、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を用いてもよく、モノ又はマルチフィラメントの径は0.1〜0.5mm径であり、このモノ又はマルチフィラメントによる織編物の粗い目はメッシュ15〜30である網目でもよい。
【0012】
この基材N1は、
図1に示すように、ナノファイバー捕集部1は、下から上にスクリーン状に移動させるための下フィードローラ11と一対の上フィードローラ12が設けられ、その両ローラの間には、ポリプロピレンの基材N1を垂直に維持するために強度のある平面保持用金網13が設けられ、その背後にはナノファイバーN4を基材N1に吸い寄せるために吸引ダクト14が配置され、平面保持用金網13と基材N1の各素材の目厚さ:0.48mm,重量:80g/m
2を介してナノファイバーN4を吸引ポンプ(図示せず)による吸引空気(吸引負圧200Pa)を用いて吸い寄せ、かつ、下方位置の目の粗い箇所で吸引力が大きくなることを利用し、その箇所に上方位置でのナノファイバーが吸い寄せられ、その結果、ナノファイバーN4層の目の大きさが均一になり空気を通過する量も均一になるようにしている。
【0013】
ここで、空気通過にほとんどが支障がない基材N1が巻かれてロール状の基材供給部21は、軸が本装置の稼働時には基材N1を巻き解くように回転し、フィードローラ11により所定量の基材N1を基材供給部21から平面保持用金網13上の基材移動部22に送り出す。
フィードローラ11より送りだされた基材N1は、平面保持用金網13上で上方に移動するが、先ず、上述したファイバー状の第1高分子接着剤N2を吹き付け、続いてナノファイバーN4を基材N1や第1高分子接着剤N2等に接着する第2の高分子接着剤N3が吹き付けられ塗布され、最後に酸化亜鉛を混入したナノファイバーN4を吹き付けて積層して接着し、一対の上フィードローラ12で圧着した後に案内ローラ15を介して製品巻取部17で巻き取られる。
【0014】
[網状補強繊維形成工程B]
次に、[網状補強繊維形成工程B]を説明するが、送り出される基材N1に第1高分子接着剤N2を吹き付けて、蜘蛛の巣状或いはジグザグ状のファイバーで架橋して網目を形成し、基材N1の織成した網目がずれるのを防止するとともに、更に、基材N1網目の空間にさらに細かい網目を形成して、後工程での積層する薄いナノファイバー層の強度を補強して、ナノファイバー層が破れることを防止する。
この状態は顕微鏡写真の
図3に示すようなもので、基材N1の正方形の網目の空間部分を第1高分子接着剤N2が平均で太い10〜100μmで、ナノファイバーN4よりは太い繊維で、蜘蛛の巣状或いはジグザグ状のファイバーを架橋し張り巡らせてより細かい網目を形成し、この細かい網目に後工程でのナノファイバーN4層を第2高分子接着剤N3の接着剤により接着して、酸化亜鉛を混入したナノファイバーN4の積層体の強度を向上させている。
【0015】
この第1高分子接着剤N2は、架橋及び補強用接着剤(株式会社製;クライベリットPUR反応性ホットメルト(品番)No.703.5)で、蜘蛛の巣状に糸を引くように延びる性質があり、細かい架橋した網目を形成するには好都合である。また、この第1高分子接着剤の接着剤は加熱する必要がなく、室温で徐々に固化(数秒)するので、基材N1やナノファイバーN4に変質を与えることがない。
また、この第1高分子接着剤N2で基材N1の正方形の網目の空間部に蜘蛛の巣状或いはジグザグ状の網目を形成する理由は、ナノファイバーN4が形成する空間を塞ぐことを少なくするためで、基材N1のモノフィラメント自体で網の目の空間を小さくすると、遮蔽部材の重量も増すことは勿論のこと、遮光率が大きくなってしまう不都合が生じるからである。
【0016】
この蜘蛛の巣状或いはジグザグ状のファイバーを張り巡らせる[網状補強繊維形成工程B]を
図1、
図4及び
図5で説明する。
図1に示すように、[網状補強繊維形成工程B]の装置構成は、[接着剤吹付工程C]と[ナノファイバー積層体形成工程A]との間に位置し、ポリプロピレン(或いはポリプロエチレン)の基材N1の網目となる表面に、第1高分子接着剤N2を吹き付けて基材N1の正方形の空間に細かい網目を形成するものであるで、ナノファイバーN4や第2高分子接着剤N3の接着剤が基材N1に吹き付けられる直前に、
図4、
図5に示すように、ノズル部31からナノファイバーよりも若干太く強度もある繊維状にして基材N1に吹き付ける。
【0017】
この第1高分子接着剤N2、株式会社クライベリットジャパン製のポリウレタンホットメルト接着剤(湿気硬化型)(PUR反応性ホットメルト(品番)No.703.5)であり物性は以下のようなものである。
(A)主成分 ポリウレタン
粘度
120℃:11,000 mPas
140℃: 6,000 mPas
オープンタイム(溶剤を蒸発させる所用(硬化)時間)φ3mmビード:30sec
オープンタイム90μm:30sec
特徴:耐熱、耐水、耐寒性、低温塗工、弾性タイプ・糸引き性
【0018】
この第1高分子接着剤N2を吹き付けるに際しては、ナノファイバーN4の隙間を埋めてしまうと、折角のナノファイバーN4の良好な通気性が阻害されてしまうので、第1高分子接着剤N2はできるだけ細く、蜘蛛の巣状或いはジグザグ状の網を形成するように、ナノファイバーN4の隙間を埋めることがないように形成することが重要である。
第1高分子接着剤N2はPUR反応性ホットメルト((品番)No.703.5)としたがその選定条件は、
(1)基材N1の網目空間(メッシュ間)の補強、及び、後述する第2高分子接着剤N3の接着剤の塗布面の拡大(接着面積の拡大)が計れること、
(2)ファイバー状になり糸引き性が強く 架橋性に優れていること、
(3)第1高分子接着剤の吹き付け工程から、第2高分子接着剤N3の吹き付け工程までの距離が短いので、接着剤塗布後、直ちに表面が硬化することが必要である。なお、他の第1高分子接着剤N2としては、株式会社クライベリットジャパン製の無黄色変色タイプ(透明又は白色)の品番VP9484/10のポリウレタンホットメルト接着剤(湿気硬化型)でも同様の結果が得られた。
【0019】
図1において、[網状補強繊維形成工程B]の第1高分子接着剤N2の吹き付け部3は、中央の下部に配置され、ノズル部31が一緒に基材移動部22の基材N1の面に対して平行に距離110cm(ナノファイバー生成幅)を往復移動させている。これは、第1高分子接着剤N2はナノファイバー層のように積層させる必要がなく、ナノファイバーN4の強度が補強されればよく、むしろ少ないほうが良いからである。
上記の第1高分子接着剤N2は高温の方が粘度が低くなり、140℃での粘度は6000(mPa・s)であるので、この状態で使用できるようにするため、ノズル部31には加熱器32を設けてある。なお、第1高分子接着剤N2は後述する第2高分子接着剤N3と全体が溶けて融合しないよう速乾性(数秒)のものを用いる必要がある。
【0020】
ここで、第1高分子接着剤N2(接着剤)吹き付け部3とノズル部31の詳細を、
図1、
図4及び
図5に沿って説明するが、140℃程度に加熱した接着剤(第1高分子接着剤N2)供給部312から供給ポンプ314によって、接着剤(第1高分子接着剤N2)供給管313から先端ノズル直径が0.15mmの中心ノズル311に供給される。この中心ノズル311の先端の外筒を包むように筒状空気吹出ノズル315を設け、この筒状空気吹出ノズル315から高速空気を噴射して中心ノズル311から接着剤を引き抜くように基材N1に向かって噴射する。このとき空気を送風するエアポンプ317で50リットル/分で空気供給管316を介して噴出面積約1mm
2から、ノズル部31全体を約140℃に加熱器32で加熱し、噴出空気も約140℃程度に加熱して噴出し、接着剤がノズル先端でも140℃を維持するようにしている。
このような構成により、特にESD法を用いなくても、この方法よりは多少太くはなるが、繊維径500nm〜500μmのファイバー状の接着剤が大量に生成されることが判明し、この内10μmから100μmのファイバー状に溶融した第1高分子接着剤N2がポリプロピレンの基材N1に蜘蛛の巣状或いはジグザグ状に貼り付くよう吹き付けられ、全体に均一に塗布される。
【0021】
[接着剤吹付工程C]
次に、[網状補強繊維形成工程B]で第1の高分子接着剤N2で補強された基材に、ナノファイバーを接着する第2の高分子接着剤N3を吹き付ける[接着剤吹付工程C]について説明する。
この状態は顕微鏡写真の
図6(基材N1+(架橋接着剤)N2+(接着剤)N3)に示すようなもので、第1高分子接着剤N2よりも更に細めの10μmから100nmの繊維径とした第2高分子接着剤N3の接着剤を網目の隙間を塞がないように粗い目で薄く吹き付けてある。したがって、
図3の第1高分子接着剤N2(基材N1+架橋接着剤N2)の状態に比べて、
図6の顕微鏡写真は更に第2高分子接着剤N3の接着剤が、網目の隙間を塞がないように薄く吹き付けられている。
図1に示すように、[接着剤吹付工程C]の装置構成は、[ナノファイバー生成部D]と[網状補強繊維形成工程B]との間に位置し、ノズルも基本的には[網状補強繊維形成工程B]と同じで、ポリプロピレン(或いはポリプロエチレン)の基材N1と第1高分子接着剤N2との網目となる表面に、第2高分子接着剤N3の接着剤を吹き付ける。
【0022】
この第2高分子接着剤N3は、株式会社クライベリットジャパン製のポリウレタンホットメルト接着剤(湿気硬化型)(PUR反応性ホットメルト(品番)No.701.1又は701.2)であり、物性は以下のようなものである。なお、本実施例ではUR反応性ホットメルト(品番)No.701.2を使用した。また、他の第2高分子接着剤N3としては、株式会社ヘンケル製の無黄色変色タイプ(透明又は白色)の品番LA7575UVのポリウレタンホットメルト接着剤(湿気硬化型)でも同様の結果が得られた。
(B)PUR反応性ホットメルト(品番)No.701.1
主成分 ポリウレタン
粘度
80℃:12,000 mPas
100℃:4,000 mPas
120℃:2,000 mPas
オープンタイム:>1hour
グリーン強度:強
特徴:低温塗工・糸引き無・工耐加水分解性
(C)PUR反応性ホットメルト(品番)No.701.2
主成分 ポリウレタン
粘度(製造時)
brookfield HBTD 10rpm
100℃ 約5,000 ±1,500mPas
120℃ 約3,000 ±1,000mPas
オープンタイム.φ3mmビード:3〜4sec
添加剤: イソシアネートを含有
第2高分子接着剤N3はPUR反応性ホットメルト((品番)No.701.1又は701.2)としたがその選定条件は、
(1)基材N1の網目空間(メッシュ間)と第1高分子接着剤N2の架橋で作った補強網目の基材との接着性が良好なこと、
(2)網目を塞ぐことがなく、糸引き性のような変形が少ないこと、
(3)第2高分子接着剤N3を塗布後の表面が硬化するまでの時間が長く、表面が硬化するまでの比較的長時間(3分〜1時間)を利用してナノファイバーを塗布して基材N1とナノファイバーN4が接着する時間を長く保てること、
(4)硬化する前は粘着性が強く、主剤である消臭剤の酸化亜鉛が混入されたナノファイバーN4が接着されやすいことが必要である。
したがって、これらの条件を満たし、500nmから10μmの繊維径としたファイバーを形成することができる接着剤であれば他の高分子接着剤でも良い。
【0023】
これを使用するノズル装置は、[網状補強繊維形成工程B]と同様であり、供給する高分子接着剤が異なるだけである。
この第2高分子接着剤N3は、基材N1及び第1高分子接着剤N2と酸化亜鉛を混入したナノファイバーN4とを接着固定する接着剤(第2高分子接着剤N3)で、接着性がより強い性質があり、ナノファイバーN4積層体を基材N1に固着するには好都合である。また、この第2高分子接着剤N3の接着剤も加熱する必要がなく室温で徐々に固化するので、基材N1や酸化亜鉛を混入したナノファイバーN4に変質を与えることがない。
また、この第2高分子接着剤N3で基材N1等の網目の空間部に蜘蛛の巣状或いはジグザグ状の網目を形成する理由は、ナノファイバーN4が形成する空間を塞ぐことを少なくするためで、基材N1のモノフィラメント自体で網の目の空間を小さくするのとは異なり、遮蔽部材の重量も増すことは勿論のこと、遮光率が大きくなってしまう不都合が生じるからである。
【0024】
このように、第2高分子接着剤N3の接着剤の形成は、ナノファイバーN4が形成する空間をなるべく塞ぐことがないように十分細くファイバー状にすることが重要であり、広がってフィルム状になる接着剤を使用したのではナノファイバーN4を用いる意味が無くなるのであって、なるべく細いファイバーであることが好ましい。本実施例では第2高分子接着剤N3を500nmから10μmの繊維径としたファイバーで、補強した基材に隙間を塞がないように薄く吹き付けことが重要である。
要は、第1高分子接着剤N2及び第2高分子接着剤N3は細いファイバーを形成することが絶対要件であるが、とりわけ、第1高分子接着剤N2は、網目の補
強であるから、接着機能を有しつつファイバー(繊維)状の形状を保った
まま即座に硬化するものが望ましく、逆に、第2高分子接着剤N3は基材N1や第1高分子接着剤N2や酸化亜鉛を混入したナノファイバーN4を接着する機能を高め、十分な接着時間を維持し、比較的ゆっくり硬化するものが望ましい。
上述したように、供給する第1高分子接着剤N2を第2高分子接着剤N3としただけで、第1高分子接着剤N2のノズル自体の構造、及び設定条件は
図7及び
図8に示すようなものであるが、
図4及び
図5と同じなので省略する(念のため、符号は先頭符号3を4に読み替る。)。
【0025】
[ナノファイバー生成部D]
[接着剤吹付工程C]が完了し、顕微鏡写真の
図6(基材N1+(架橋接着剤)N2+(接着剤)N3)に示すような状態に、[ナノファイバー生成部D]で生成したポリフッ化ビニリデン(PVDF)のナノファイバーを吹き付け積層する。
この状態は、顕微鏡写真の
図9、
図10(基材N1+(架橋接着剤)N2+(接着剤)N3+酸化亜鉛を混入したナノファイバーN4)に示すようなもので、
図9は積層したナノファイバーナノファイバー側からの顕微鏡写真の図で、
図10は基材N1側からの顕微鏡写真である。
[ナノファイバー生成部D]の装置構成を説明するが、このナノファイバー生成部Dは主に紡糸ノズル5と高速風吹出口55から構成されるが、先ず、紡糸ノズル5から説明する。
【0026】
[紡糸ノズル5]
図2の紡糸ノズル5の拡大図に示すように、金属製の紡糸ノズル5はその中心に先端の吐出口51に続く中心軸孔52が設けられ、中心軸孔52の反対側には送給口53が設けられ、この送給口53には溶媒(溶剤)で溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)が供給される。送給口53までの溶解されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)の送給経路は、
図1に示すように、収納容器6でポリフッ化ビニリデン(PVDF)を常温の20℃若しくは多少温めた40℃程度に加熱し、その後、収納容器6から供給配管71を介してギヤポンプ7によって送給し、さらに、送給後の送給配管72を介しても溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を前述した送給口53に供給している。
なお、本実施例1でのポリフッ化ビニリデン(PVDF)は粘度を下げるために、後述するように、溶媒としてNMPを用い材料濃度を14wt%としている。また、吐出口51の内径は0.1mmから0.2mmとし、本実施例では0.15mmとしているが、0.2mm以上だと延伸してもナノオーダーの細さが得にくく、細い方が良いが0.1mm以下だと詰まったり紡糸速度が遅くなってしまう。
【0027】
[高速風吹出口55]
図11、
図12に示すように、紡糸ノズル5は中心軸孔52の周りには、中心軸孔52を包むように同軸状にリング状の高速風吹出通路54が設けられ、高速風吹出通路54の先端には所定の吹出角度を有したリング状の高速風吹出口55が設けられ、この高速風吹出口55は前記吐出口51より僅かにX1=4mm程度(2〜4mm)後退している。
また、紡糸ノズル5の中間部には高速風吹出通路54の他端に繋がる気流供給部56が設けられ、気流供給部56には、常温の20℃、或いは多少暖かい20〜40℃程度の気流が供給され、吐出口51から紡糸されるポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維を高速風吹出口55の高速気流で包むようにして下流に引っ張るように延伸する。この所定の吹出角度を有する高速風吹出口55が延伸気流手段を構成している。
なお、紡糸ノズル5は、
図11、
図12に示すように、中心軸孔52の外周部521及び吐出口51側の外周部511と高速風吹出通路54の内周壁541a,541bとの間には通路隙間を維持するスペーサー部522a,522bが適所に設けられて間隔を構成している。
【0028】
この延伸気流手段を更に説明すると、高速気流でポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維を更に延伸するのでリング状の高速風吹出口55の吹出角度(中心軸孔52の軸を中心としての左右の合算角度)が重要であるが、実験の結果、角度30°〜50°程度、すなわち、熱風吹出口15の高速気流の吹出方向は、前記中心吐出口5
1の中心軸線に対して15°〜25°の角度の範囲が好ましく、角度30°(中心軸と角度15°)以下だとポリフッ化ビニリデン(PVDF)との接触力が小さく延伸作用が小さく、角度50°(中心軸と角度25°)以上だと接触しての負圧が生じないのでやはり延伸作用が少なく、本実施例1では角度38°(中心軸と角度19°)することで延伸作用が効率的に作用した。
このように、高速風吹出口55からの気流が適正に紡糸したポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維に当たらないと、μオーダーの極細繊維で終わってしまいナノファイバーにはならない。
また、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維を効率よく延伸するのは、溶解状態のポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維にするためにNMP等の溶媒より低粘度にすることも重要であり、実施例1では、ギヤポンプ7で直径0.15mmの吐出口51から溶解されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)の吐出を可能にしなければならない。
【0029】
さらに、延伸気流手段は、吐出口51から紡糸後も高速気流で延伸させる必要があるが、更に重要なのは、延伸するとともにポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維内に含まれるNMP等の溶媒を気化して飛ばして除去する必要があり、そのために、の高速風吹出口55はノズル突出部8によって前記吐出口51より僅かにX1=4mm(2〜4mm)程度後退させ、吐出口51から紡糸されるポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維の溶媒の気化、又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維の乾燥を促進するように構成している。
この高速風吹出口55と吐出口51との流れ方向での所定の距離X1は、4mm以上後退させるとPVDF繊維の延伸作用が弱まり、1mm以下にすると溶媒の気化促進が弱まって繊維自体がカールして粘着して、綺麗なPVDFのナノファイバーが形成されにくい。このように、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維の延伸と溶媒の速やかな除去を両立させることが重要である。そして、NMP等の溶媒が気化してポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維から除去されると、延伸が終わり下流のナノファイバー積層体形成工程Aのナノファイバー捕集部1で捕集される。
【0030】
ここで、酸化亜鉛をトルエンに溶かして混入するナノファイバーN4の素材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いたのは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が、熱可塑性プラスチックの一つで、融点を134〜169℃の範囲に持つ高強度の樹脂で、常用できる耐熱温度は150℃前後で、熱安定性が良好な素材で、酸化亜鉛を混入するトルエンにも馴染み、しかも、耐薬品性もよく、加工性に優れ、難燃性で、燃えても発煙が少なくてすみます。電気特性もよく、強誘電性、圧電性に優れおり、特に、耐侯性にも優れており、放射線にも強い樹脂であるので、戸外に配備する網戸や農事ハウス等の建材としても適しており、洗浄も簡単に行える。
【0031】
顕微鏡写真の
図6(基材N1+(架橋接着剤)N2+(接着剤)N3)に示すような状態のナノファイバー積層体は、下記条件で製造した。
設定条件(実施例)
材料:
(1)主剤:株式会社クレハ製
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)13.3 wt/%(総重量に対する%:w/w%)
溶媒(溶剤):日本リファイン株式会社製
消臭剤(異臭吸収剤):酸化亜鉛6.6 wt/%(総重量に対する%:w/w%)
N-メチル-2-ピロリドン(N-methylpyrrolidone)(NMP):75.4wt/%
トルエン: 4.7 wt/%
溶液吐出圧:0.15MPa
高速気流吹き出し角度38°
高速気流の圧力:0.26MPa
高速気流の流量:34L/min
繊維径:200〜500nm
【0032】
本実施例では、高分子繊維のナノファイバーの素材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(N-methylpyrrolidone)(NMPを用いたが、多少耐侯性にが劣るものの、他の高分子と溶媒との組み合わせとしては、ナイロン(宇部興産製:1022B)と溶媒(溶剤)として蟻酸、同様に、ポリエーテルイミド(PEI)と溶剤としてDMFやジメチルアセトアミド(DMAc)でも同様の結果が得られ、他にもポリアクリロニトリル(PolyAcryloNitrile,PAN) やポリエーテルサルフォン(Poly Ether Sulphone、PES)とジメチルアセトアミド(DMAc)もしくはDMF(ジメチルホルムアミド)、キトサンと酢酸もしくはクエン酸等の弱酸、アクリル(PolyMethyl MethAcrylate, PMMA)とメタノール、ポリ乳酸とクロロホルムの組み合わせなどがナノファイバーの製造として可能である。
また、消臭剤としては酸化亜鉛以外にも、銀化合物がある。
【0033】
[本実施例のナノファイバーを積層した建材用の薄膜防臭遮蔽部材の特性]
本実施例のナノファイバーを用いたフィルターの構成は次のようなものである。
(1)基材N1:ポリプロピレン(PP):0.25mm径のモノフィラメント
18メッシュ,厚さ:0.48mm,重量:80g/m
2
(2)第1高分子接着剤N2:ポリウレタンホットメルト接着剤(速乾湿気硬化型)
10nm〜100μmを径としたファイバー:重量3g/mm
3
(3)第2高分子接着剤N3:ポリウレタンホットメルト接着剤(湿気硬化型)
500nm〜10μmを径としたファイバー:重量2g/mm
3
(4)ナノファイバーN4:酸化亜鉛をトルエンに溶かして混入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)
200nmから50nmを径としたファイバー:重量0.8g/mm
3
(5)製品厚さ(基材N1+第1高分子接着剤N2+第2高分子接着剤N3
+ナノファイバーN4):0.5mm
【0034】
なお、上記基材N1の繊維径は0.25mm径のモノフィラメントとしたが、余り細いと強度が足りず、余り太いと製品の厚みが大きくなり且つ遮光率も高くなり暗くなるので、モノ又はマルチフィラメントの径は0.1〜0.5mm径がよく、このモノ又はマルチフィラメントによる織編物の粗い目はメッシュ15〜30である網目が良い。
第1高分子接着剤N2は、ポリウレタンとしたが、オレフィン系接着剤でも良く、繊維径が10nm〜100μmを径としたが、 重量は1〜5g/mm
3 がよく、第1高分子接着剤N2は網目を形成させるために比較的に硬化・乾燥スピードが数秒(sec)程度で比較的に早いほうが良い。
第2高分子接着剤N3、ポリウレタンとしたが、オレフィン系接着剤でも良く、繊維径が500nm〜10μmを径としたが、重量は1〜5g/mm
3 がよく、第2高分子接着剤N3は接着時間をなるべく長くするために硬化・乾燥スピードが1時間(sec)程度或いはそれ以上で比較的に遅いほうが良い。
また、ナノファイバーN4:酸化亜鉛をトルエンに溶かして混入したポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、上述したようにナイロン等でもよいが、酸化亜鉛を溶かしたトルエンが容易に混入でき、耐侯性にも優れたものが好ましい。また、繊維径を200nmから1μmを径、重量は0.8g/mm
3 としたが、遮光性が低く、花粉等の捕集率が高いナノファイバー積層体であることが好ましい。
【0035】
以上の構成であるので、
図3及び
図10を比べれば判るように、厚さの基材N1の0.3mmに比べて約1μm程度と非常に薄い遮蔽部材であるのにも拘わらず、基材N1に接着しているので、全体として十分な強度が有する。
実際の最終製品の厚さ(基材N1+第1高分子接着剤N2+第2高分子接着剤N3+酸化亜鉛を混入したナノファイバーN4)も0.5mmで、基材N1の厚ささ0.48mm径に比べて、0.12mmにしか増えておらず、極めて薄く、遮光率も極めて低くすることができる。
また、紫外線遮光率は58%(紫外線カット素材の加工効果統一評価方法(日本化学繊維協会)による分光光度計・全波長域平均法、バンドパスフィルターを積分球と検出器の間に設置)であり、305nmの波長では透過率38.9%、360nmの波長では透過率44.1%である。また、遮光率は64.62%(3538lx装着後照度)(JISL1055A法:試験片装着前照度:10000lx.試験片光源側:塗布面)であり、この値は、市販のカーテンのもっとも薄い透光率が55から70%であることからしても、戸外からの光を十分に取り込んでいることが判る。
【0036】
通気性についても、423.8cm
3/cm
2・sと十分にあり、フィルター効果に比較して通気性はあるが、本発明の花粉捕集(濾過)効率が89.1%と試験結果からも明らかで、花粉や微細な虫等進入を阻止する建材の素材とすることができる。
すなわち、試験系を一定の空気流量で吸引した状態で、フィルタ部の上方から整粒装置により整粒された試験粉体(花粉代替粒子)を一定の速度で落下させる。フィルタ部に捕捉された粒子質量とフィルタ部を通過した粒子質量を測定し下記の式か捕集(濾過)効率を算出した。
花粉粒子の捕捉(濾過)効率%=フィルタ部に捕捉された粒子質量(mg)/(フィルタ部に捕捉された粒子質量(mg)+フィルタ部を通過した粒子質量(mg))
試験条件
試験粉体(花粉代替粒子):石松子(APPIE標準粉体)
試験流体:28.3L/min
試験粉大量:75±5mg
試験粉体速度:20±5mg/min
試験室の温湿度:20±5℃、50±10%RH
【0037】
本実施例(本発明)の特徴である消臭性については、消臭加工繊維製品認定基準で定める方法(繊維評価技術協議会)(使用バッグの種類:スマートバッグPA:ジーエルサイエンス社製)のアンモニアガスの除去試験を行って、ナノファイバーN4の酸化亜鉛混入の効果を確認した。
アンモニアガスの除去性能評価試験の試験条件
同じアンモニアガスの初発濃度100ppmの所定容量(200ml)の雰囲気中に、本実施例の薄膜防臭遮蔽部材の10cm×20cm(0.7g)を存在させた状態と、比較例として何もない状態を2時間放置して、そのガス濃度を比較したのが次の表である。
アンモニアガスの除去性能評価試験
試験対象試料 初発濃度(ppm) 2時間後のガス濃度(ppm) 減少率(%)
実施例 100 15 81
比較例(ブランク) 100 78 −−−
以上のように、何もない空の状態に対して、アンモニアガスの濃度は81%も減少し、顕著な効果があることが判る。
なお、本実施例での酸化亜鉛以外の消臭剤をナノファイバーN4や接着剤に混入してもよい。
【0038】
このように、本発明の実施例の薄膜防臭遮蔽部材は、十分な消臭効果を有し、通気性も十分有し、遮光率を低くして、花粉粒子の捕集効率を高くすることができる。また、ナノファイバーの素材をポリフッ化ビニリデン(PVDF)としたので、耐侯性にも優れており、放射線にも強い樹脂であるので、戸外に配備する網戸や農事ハウス等の建材としても適しており、洗浄も簡単に行える。
なお、本発明の特徴を損うものでなければ、上記の実施例に限定されるものでないことは勿論である。