特許第6100100号(P6100100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100100
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】嫌気性処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   C02F3/28 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-117161(P2013-117161)
(22)【出願日】2013年6月3日
(65)【公開番号】特開2014-233681(P2014-233681A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 典之
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/083456(WO,A1)
【文献】 特開2004−313929(JP,A)
【文献】 特開昭62−286594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜25℃の低温条件に馴養可能な汚泥によって該低温条件で有機性排水を嫌気性処理する第1の嫌気性処理部と、
加温手段により加温された汚泥によって有機性排水を嫌気性処理する第2の嫌気性処理部と、
前記第1の嫌気性処理部及び前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を制御する流量制御手段と、
を備える嫌気性処理装置。
【請求項2】
低温条件に馴養可能な汚泥によって該低温条件で有機性排水を嫌気性処理する第1の嫌気性処理部と、
加温手段で加温された汚泥によって有機性排水を嫌気性処理する第2の嫌気性処理部と、
前記第1の嫌気性処理部及び前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を制御する流量制御手段と、
を備え、
前記流量制御手段は、前記有機性排水の温度が低温側に変動した後の第1の期間において、前記第1の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を減少させると共に、前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を増加させる嫌気性処理装置。
【請求項3】
前記流量制御手段は、前記第1の期間の後の第2の期間において、前記第1の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を増加させると共に、前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を減少させる請求項2に記載の嫌気性処理装置。
【請求項4】
前記有機性排水の温度変動に関連する情報を取得する情報取得手段を備え、
前記流量制御手段は、前記情報取得手段によって取得された情報に基づいて、前記第1の嫌気性処理部及び前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を制御する請求項1〜3のいずれか一項に記載の嫌気性処理装置。
【請求項5】
前記第1の嫌気性処理部と前記第2の嫌気性処理部とは、
一の嫌気性処理槽内の下部に形成された汚泥床を隔壁によって2つに区画することで形成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の嫌気性処理装置。
【請求項6】
前記第1の嫌気性処理部と前記第2の嫌気性処理部とは、
互いに異なる嫌気性処理槽によって形成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の嫌気性処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機成分が含まれる有機性排水を嫌気的に処理して処理水を得る嫌気性処理方法として、例えば下記特許文献1に記載の嫌気性処理方法が知られている。この嫌気性処理装置は、有機性排水を前処理槽に導入して前処理を行った後、嫌気性処理槽においてメタン発酵処理を行うことで有機物を分解し、有機物濃度を低下させた処理水を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−263084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、有機性排水を嫌気性処理する嫌気性処理方法として、低温でも十分な活性のあるメタン生成菌を用いる省エネ型メタン発酵が適用される場合がある。当該方法では、可能な限り投入エネルギーを減らす(可能な限り加温を行わない)ことが可能であり、例えば、気温が高い夏場では無加温での運転を行い、気温が低い冬場では最低限の加温での運転を行うことができる。しかしながら、当該方法においては、季節変化による排水の温度の影響を受けメタン生成菌の活性が変動するため、安定して有機性排水を嫌気性処理することが難しい場合がある。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、気温の変化に関わらず安定運転を行うことが可能な嫌気性処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る嫌気性処理装置は、低温条件に馴養可能な汚泥によって有機性排水を嫌気性処理する第1の嫌気性処理部と、加温手段で加温された汚泥によって有機性排水を嫌気性処理する第2の嫌気性処理部と、前記第1の嫌気性処理部及び前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を制御する流量制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記の嫌気性処理装置によれば、流量制御手段によって、第1の嫌気性処理部及び第2の嫌気性処理部への有機性排水の流量を制御させる。これにより、例えば気温変動によって有機性排水が低下した際に、第1の嫌気性処理部における汚泥を低温条件に馴養させながら、加温された汚泥により嫌気性処理を行う第2の嫌気性処理部への有機性排水の流量を増加させることで、通常運転を滞らせることなく低温条件への馴養を行うことができ、省エネ型の嫌気性処理装置としての安定運転を実現することができる。
【0008】
上記作用を効果的に奏する構成としては、具体的には、上記の構成において、前記流量制御手段は、前記有機性排水の温度が低温側に変動した後の第1の期間において、前記第1の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を減少させると共に、前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を増加させる態様が挙げられる。
【0009】
上記のように第1の期間において、有機性排水の温度が低温側に変動したことに対応させて、第1の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を減少させる構成とすることで、第1の嫌気性処理部の処理能力低下に伴う水質悪化を抑制すると共に、第2の嫌気性処理部への有機性排水の流量を増加させることで、嫌気性処理装置全体としての処理能力を維持し、省エネ型の嫌気性処理装置としての安定運転を実現することができる。
【0010】
また、上記の構成において、前記流量制御手段は、前記第1の期間の後の第2の期間において、前記第1の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を増加させると共に、前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を減少させる態様とすることができる。
【0011】
このように、第1の期間の後の第2の期間において第1の嫌気性処理部への排水流量を増加させることで、第1の嫌気性処理部内の汚泥を低温条件に馴養させながら、嫌気性処理装置全体としての安定運転を実現することができる。
【0012】
また、前記有機性排水の温度変動に関連する情報を取得する情報取得手段を備え、前記流量制御手段は、前記情報取得手段によって取得された情報から導出される前記有機性排水の温度変動に基づいて、前記第1の嫌気性処理部及び前記第2の嫌気性処理部への前記有機性排水の流量を制御する構成が挙げられる。
【0013】
このように、情報取得手段によって取得された情報から導出される有機性排水の温度変動に基づいて、有機性排水の流量を制御することで、気温変動に由来する有機性排水の温度変動に対応させて、第1の嫌気性処理部及び第2の嫌気性処理部における排水処理能力を好適に維持することが可能となる。なお、情報取得手段によって取得される「情報」とは、例えば、有機性排水の温度の他、有機性排水の温度変動によって変動する有機性排水又は嫌気性処理後の処理水の水質を示す情報、有機性排水の温度変動に影響を与えると考えられる周辺環境の変化を示す情報等が挙げられる。
【0014】
ここで、前記第1の嫌気性処理部と前記第2の嫌気性処理部とは、一の嫌気性処理槽内の下部に形成された汚泥床を隔壁によって2つに区画することで形成される態様とすることができる。
【0015】
このように、一の嫌気性処理槽内に、第1の嫌気性処理部と第2の嫌気性処理部とを形成することで、省エネ型の嫌気性処理装置としての気温の変動に拠らない安定運転をより少ないスペースで実現することができる。
【0016】
また、前記第1の嫌気性処理部と前記第2の嫌気性処理部とは、互いに異なる嫌気性処理槽によって形成される態様とすることができる。
【0017】
このように互いに異なる嫌気性処理槽によって第1の嫌気性処理部と第2の嫌気性処理部とを構成した場合であっても、省エネ型の嫌気性処理装置としての気温の変動に拠らない安定運転を実現することができる。また、例えば既設の嫌気性処理槽自体に対する改修等を行うことなく、新たに嫌気性処理槽を設けることで第1の嫌気性処理部と第2の嫌気性処理部とを構成することができることから、気温の変動に拠らない安定運転が可能な省エネ型の嫌気性処理装置をより簡便に実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、気温の変化に関わらず安定運転を行うことが可能な嫌気性処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る嫌気性処理装置を示す概略構成図である。
図2】第1実施形態に係る嫌気性処理装置における季節変動に対する運転状況を説明する図である。
図3】第2実施形態に係る嫌気性処理装置の構成と低温運転時の運転状況を説明する概略構成図である。
図4】第2実施形態に係る嫌気性処理装置の低温馴養時の運転状況を説明する概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る嫌気性処理装置を示す概略構成図である。図1に示すように、嫌気性処理装置100は、有機性排水を嫌気性処理するものであり、嫌気性処理槽(メタン発酵槽)1を主体として備えると共に、この嫌気性処理槽1の前段に酸生成槽2を備える。本実施形態に係る嫌気性処理装置100は、低温条件に馴養可能な汚泥(すなわち、低温条件に馴養することが可能なグラニュール汚泥中の嫌気性菌)によって、嫌気性処理槽1内にて有機性排水を嫌気性処理することを特徴とし、さらに、嫌気性処理槽1及び酸生成槽2の内部を2つに区画して、区画された2つの領域における排水温度を互いに異ならせ、一方の領域を加温手段によって加温することで中温条件に維持することで、季節変動によって排水の温度が変化した場合であっても、低温条件に馴養された汚泥を好適に活用し、安定運転を行うことを実現したものである。この点については後述する。
【0022】
酸生成槽2は、有機性排水を酸生成槽2に対して導入するためのラインL1(L1A、L1B)に対して接続して設けられ、有機性排水をメタン発酵に適した被処理液とすべく有機性排水中の有機物を有機酸化する機能を有する。この酸生成槽2は、内部の隔壁20によってその内部が第1酸生成槽21及び第2酸生成槽22の2つに区画されている。ラインL1は、酸生成槽2の前段において、第1酸生成槽21へ有機性排水を導入するためのラインL1Aと第2酸生成槽22へ有機性排水を導入するためのラインL1Bとに分岐されている。そして、ラインL1A上に設けられたポンプP1及びラインL1B上に設けられたポンプP2の駆動により、第1酸生成槽21及び第2酸生成槽22のそれぞれに対して有機性排水が導入される。
【0023】
ラインL2は、第1酸生成槽21と嫌気性処理槽1とを接続する流路である。ラインL2には、酸生成槽2の被処理液を嫌気性処理槽1に圧送するためのポンプP3が設けられる。また、ラインL3は第2酸生成槽22と嫌気性処理槽1とを接続する流路である。ラインL3には、第2酸生成槽22より下流位置に、酸生成槽2の被処理液を嫌気性処理槽1に圧送するためのポンプP4が設けられる。これらのポンプP3,P4が駆動することによって、第1酸生成槽21及び第2酸生成槽22から嫌気性処理槽1に対して酸生成処理が行われた有機性排水が導入される。
【0024】
嫌気性処理槽1は、例えば直方体状又は円筒状の上下端が閉じられた形状の容器からなり、EGSB(Expanded Granular Sludge Bed)反応槽などと呼ばれるタイプの水処理槽を適用することができる。嫌気性処理槽1内の下部には、グラニュール状の微生物汚泥によるグラニュール汚泥床Gが形成される。また、嫌気性処理槽内1のグラニュール汚泥床Gより上方には、嫌気性処理槽1内での嫌気性処理(メタン発酵処理)により発生したメタンを含むバイオガス、グラニュール汚泥、処理水を分離するための三相分離部5が設けられる。
【0025】
嫌気性処理槽1の上部には、三相分離部5で分離された処理水を後段に排出するためのラインL4が接続されると共に、処理水の一部を、酸生成槽2に返送するためのラインL5が接続される。さらに、嫌気性処理槽1の上部には、嫌気性処理により発生したバイオガスを回収するためのラインL6が接続される。ラインL6により嫌気性処理槽1から排出されたバイオガスは、ボイラ6において焼却される。ボイラ6において生成された蒸気は回収エネルギーとしてラインL7から系外に排出されると共に、その一部は、加温エネルギーとしてラインL8を介して酸生成槽2のうちの第2酸生成槽22に供給される。これにより、第2酸生成槽22内の有機性排水を例えば30〜40℃の中温条件を満たすように維持される(「中温条件」については後述する)。
【0026】
また、嫌気性処理槽1内の下側においてグラニュール汚泥床Gが形成されている領域は、隔壁10によって第1処理部(第1の嫌気性処理部)11及び第2処理部(第2の嫌気性処理部)12の2つに区画されている。
【0027】
ここで、酸生成槽2において酸生成処理が行われた排水のうち、第1酸生成槽21からの排水は嫌気性処理槽1内の第1処理部11に対して下方から導入するようにラインL2が接続されている。第1処理部11へ導入する有機性排水の量は、ポンプP3の駆動により制御される。また、第2酸生成槽22からの排水は、嫌気性処理槽1内の第2処理部12に対して下方から導入されるようにラインL3が接続されている。また、第2処理部12へ導入する有機性排水の量はポンプP4の駆動により制御される。
【0028】
このとき、第2処理部12に対しては、中温条件に維持された有機性排水が第2酸生成槽22から供給される。したがって、第2処理部12においては、加温された汚泥によって有機性排水の処理が行われる。すなわち、第2酸生成槽22に対して加温エネルギーを供給するラインL8は、第2処理部12内の汚泥を加温する加温手段として機能する。なお、本実施形態でいう「加温手段による加温」とは、上述のように、第2酸生成槽22内の有機性排水の温度を所定の範囲で維持するように温度調整を行うことをいう。したがって、周辺環境等に応じて加温手段による加温エネルギーの供給量は適宜変更することができ、例えば、有機性排水の温度が所定の範囲内にある場合には加温を停止する構成とすることもできる。
【0029】
また、本実施形態の嫌気性処理装置100にあっては、有機性排水を酸生成槽に導入するラインL1に、有機性排水の温度を検出する温度センサ(情報取得手段)8が配設される。温度センサ8は有機性排水の温度を継時的に測定することで、その温度変動に関連する情報を取得する機能を有する。本実施形態に係る嫌気性処理装置100においては、有機性排水の温度変動に関連する情報とは有機性排水の温度のことを指す。
【0030】
さらに、本実施形態の嫌気性処理装置100は、温度センサ8からの出力に基づいて、第1酸生成槽21への有機性排水の流量を調整するポンプP1、第2酸生成槽22への有機性排水の流量を調整するポンプP2、第1処理部11への有機性排水の流量を調整するポンプP3、及び、第2処理部12への有機性排水の流量を調整するポンプP4の駆動を制御する流量制御手段(CPU)9を備えると共に、後述の閾値等の情報を記憶するRAM及び流量制御手段9の処理手順をプログラムの形で格納するROMを備えている。
【0031】
このような構成を有する嫌気性処理装置100によれば、ポンプP1及びポンプP2の駆動によって有機性排水が酸生成槽2(第1酸生成槽21又は第2酸生成槽22のいずれか一方)に導入されると、有機性排水中の有機成分が酸生成槽2内に収容された酸生成菌により有機酸化される。この結果、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の低級脂肪酸が生成される。この低級脂肪酸を含む被処理液は、ポンプP3及びポンプP4の駆動によって嫌気性処理槽1(第1処理部11及び第2処理部12のいずれか一方)内の下部から導入される。導入された被処理液は、嫌気性処理槽1内を上方に流動し、被処理液とグラニュール汚泥とが効率良く向流接触する。これにより、被処理液に含まれる低級脂肪酸が微生物により分解され、メタンを含むバイオガスが発生する。バイオガスは、三相分離部5で分離されて嫌気性処理槽1の上部から回収され、処理水はラインL4を通して後段に排出される。また、処理水の一部は、酸生成菌の流出回避及び酸生成槽2内の有機性排水の希釈の観点から、ラインL5を通して酸生成槽2へ供給される。
【0032】
ここで、本実施形態に係る嫌気性処理装置100において、嫌気性処理槽1の第1処理部11又は第2処理部12に対する有機性排水の流量の制御について、更に詳細に説明する。
【0033】
本実施形態に係る嫌気性処理装置100のうち、特に第1処理部11においては、低温条件に馴養された汚泥によって有機性排水を嫌気性処理する。嫌気性処理槽1内で用いられる嫌気性菌としては、「Methanosarcina sp.」、「Methanosaeta sp.」、「Methanobacterium sp.」等のメタン生成細菌が挙げられる。元来、上記のような嫌気性菌の至適温度は、中温であるが、低温条件で馴養することによって、低温であっても活性を高くすることができる。
【0034】
ここで、嫌気性菌の温度条件において、「低温」とは10〜25℃や、10〜20℃の範囲の温度が一般的である。「中温」とは30〜40℃や、35〜38℃の範囲の温度が一般的である。また、「馴養」とは、活性汚泥法やメタン発酵法(嫌気性処理)などの生物処理においては、これまでとは異なった排水、あるいは異なった環境などの条件下で、従来と同じ処理活性を維持したり、新しい処理能力を獲得したりすることである。また、所定の微生物群を、ある条件下、環境下におくことで、微生物群の中で優勢種であった微生物に替り、当該条件・環境にあった微生物が優勢種となることも含めて馴養という。馴養の一般的な例としては、例えば、中温の排水を処理するのに利用されていた活性汚泥のような微生物群において、低温や高温の排水を処理するようになった場合に、微生物群の中で優勢種であった微生物に替り、低温や高温でも分解速度等が大きく低下しない微生物が優勢種となり、低温や高温の排水でも、従来と同等の処理速度を維持することが挙げられる。そのため、本実施形態では、嫌気性処理装置100において同一の嫌気性菌を低温条件及び中温条件における嫌気性処理に用いている。
【0035】
本実施形態における嫌気性処理装置100に用いられる嫌気性菌は、通常は、低温条件で馴養されている。具体的には、例えば、嫌気性菌を低温条件下(外気の自然な変化に任せておくと、冬場とかに自然に低温条件となる)において、有機性排水を所定の期間をかけて低負荷から高負荷に徐々に変化させながら(例えば、3kg−COD/(m・d)から15kg−COD/(m・d)に変化させる)排水処理を行うことによって、すなわち、一旦、負荷が低くなるように抑制しておき、馴養具合を監視しながら徐々に負荷を上げていく(負荷を抑える前の状態に戻す)ような制御を行うことで、嫌気性菌が「低温条件で馴養」された状態となる。このように嫌気性菌を低温条件で馴養することで、嫌気性菌が存在する嫌気性処理槽1を加温することなく嫌気性処理を行うことができるため、加温エネルギーをより低減することができる。
【0036】
上記の低温条件で馴養された嫌気性菌は、一時的にでも温度を上昇させれば、活性を一時的に上昇させることができ、一時的に上昇させた温度を短い期間内に低温条件に戻せば、元の活性に戻ることが知られている。ここでの「短い期間」とは、1〜10日程度の期間である。
【0037】
しかしながら、季節変動による気温の変化等によって、有機性排水の温度が例えば中温条件又はそれに近い温度まで上昇することがある。この場合、有機性排水の温度が上昇する期間としては、「短い期間」ではなくより長い期間となると考えられる。この場合、低温条件で馴養された嫌気性菌であっても、「短い期間」よりも長期にわたり中温条件下において活動させることから、低温条件での馴養の効果が減り、低温条件での排水の処理能力が低下していく。具体的には、特に夏場は気温が高く有機性排水の温度も上昇するため、仮に低温条件で馴養していた嫌気性菌であっても中温条件での活動に慣れてしまい、徐々に低温条件での馴養の効果が低下する。このため、秋から冬にかけて気温の低下に伴って有機性排水の温度が低下した際には、嫌気性菌が低温条件で馴養された状態とはなっておらず、嫌気性処理の能力が低下する。この結果、嫌気性処理槽1内での有機性排水の処理量が低下し、安定した嫌気性処理ができなくなる。
【0038】
そこで、本実施形態に係る嫌気性処理装置100においては、嫌気性処理槽1のうちの第1処理部11内の嫌気性菌について、夏場を超えて秋から冬に向けての有機性排水の温度が低下していく時期に通常運転を行いつつ低温条件で馴養を行う。そして、低温条件での馴養を第1処理部11内で行う際の第1処理部11における負荷の低下を補うために、中温条件に維持された第2処理部12に対する負荷を上昇させることで、嫌気性処理装置100全体としての嫌気性処理能力を維持し、通常運転を継続する構成を備える。
【0039】
具体的な運転方法について、図2を用いて説明する。図2では、季節に応じた第1処理部11及び第2処理部12におけるにおける有機性排水の処理負荷を示したものであり、横軸に四季(夏、秋、冬、春の順)を示し、縦軸に各部における処理負荷を示している。また、第1処理部11に係る負荷変動をD1で示し、第2処理部12に係る負荷変動をD2で示す。ここでは縦軸の負荷とは容積負荷を指す。
【0040】
図2に示すように、夏の期間は、有機性排水の温度が高いため、嫌気性処理槽1の第1処理部11は、制御手段9の制御によって第1処理部11への有機性排水量を高流量で維持することで、高い負荷での運転を継続する。一方、第2処理部12においても、制御手段9の制御によって第2処理部11への有機性排水量を低流量で維持することで、第1処理部11よりも低い一定の負荷での運転が継続される。この状況では、第1酸生成槽21に導入される有機性排水の温度がある程度高いことから、有機性排水を第1酸生成槽21において加温せずとも、第1処理部11内の嫌気性菌が低温条件よりも高い温度条件で活動することとなる。
【0041】
次に、秋になると、気温の変化の影響を受けて、有機性排水の温度が低温側に変動する。具体的には、温度センサ8において有機性排水の温度の変動を記録しておき、有機性排水の温度が低温側に変動したと確認された場合に、第1処理部11及び第2処理部12における有機性排水の処理負荷を変動させる。「水温の低温側への変動」とは、例えば、有機性排水の5日間の平均温度がその前の5日間の平均温度よりも2℃低くなったとき等、予め規定しておくことが好ましい。
【0042】
温度センサ8において、水温が低温側へ変動したと判断されたことを契機として、制御手段9では、ポンプP1〜P4の駆動を制御して、第1処理部11及び第2処理部12への有機性排水の流量を制御する。ここでは、図2に示すように、制御手段9は、第1の期間T1の間において第1処理部11への流量を低下させると共に、第2処理部12への流量を増加させるように制御する。第1の期間T1は、概ね1〜2ヶ月とされる。これにより、季節変動による有機性排水の温度の低下よりも早く第1処理部11における負荷を小さくする。この結果第1処理部11において処理可能な有機性排水の量は減少するが、その分を補うように第2処理部12の負荷を大きくすることで、嫌気性処理装置100全体としての排水処理能力は維持される。第2処理部12については、汚泥が中温条件で維持されていることから高い処理活性を有し、ある程度まで処理負荷を上昇させても問題なく排水を処理することが可能である。
【0043】
続いて、制御手段9は、第1の期間T1の後の第2の期間T2の間において、第1処理部11への流量を増加させると共に、第2処理部12への流量を減少させるように制御する。第2の期間T2は、概ね2〜3ヶ月とされる。この期間は、第1処理部11内の嫌気性菌を上述の「低温条件で馴養させる期間」に相当し、徐々に第1処理部11における負荷を高めながら、嫌気性菌を低温条件に馴養させる。この結果冬の間に嫌気性菌が低温条件で馴養され、低温条件であっても加温することなく高い負荷での運転が可能となる。このとき、第2処理部12については、第1処理部11のみでは処理ができない有機性排水を処理すべく、第1処理部11における負荷上昇に対応させて徐々に負荷を低下させる。これにより、嫌気性処理装置100全体としての排水処理能力は維持される。
【0044】
制御手段9によるポンプP1〜P4の駆動の制御によって上記のような第1の期間T1及び第2の期間T2を設けることで、第1処理部11における嫌気性菌は、第2の期間T2が終了した段階で低温条件に馴養され、高い負荷での排水処理を行うことができる。
【0045】
なお、春〜夏にかけては、気温が徐々に高くなるにつれて水温が上昇するため、第1処理部11における嫌気性菌の環境は低温条件から中温条件に徐々に変動する。しかし、上述のように嫌気性菌は元来中温条件において高い活性を有するため、負荷の調整等の制御を行うことなく嫌気性菌の排水処理能力が維持される。
【0046】
上記のように、本実施形態に係る嫌気性処理装置100によれば、制御手段9によって、第1処理部11及び第2処理部12への有機性排水の流量を制御させる構成を備える。これによって、例えば気温変動によって有機性排水の温度が低下した際に、第1処理部11における汚泥を低温条件に馴養させながら、中温条件で嫌気性処理を行う第2処理部12への有機性排水の流量を増加させることができる。すなわち、第1処理部11及び第2処理部12への有機性排水の流量を制御することで、通常運転を滞らせることなく低温条件への馴養を行うことができ、省エネ型の嫌気性処理装置としての安定運転を実現することができる。
【0047】
また、温度センサ8によって測定された有機性排水の温度変動に基づいて、有機性排水の流量を制御することで、気温変動に由来する有機性排水の温度変動に対応させて、第1処理部11及び第2処理部12における排水処理能力を好適に維持することが可能となる。
【0048】
さらに、第1の期間T1において、有機性排水の温度が低温側に変動したことに対応させて、第1処理部11への有機性排水の流量を減少させる構成とすることで、第1処理部11の処理能力低下に伴う処理水の水質悪化を抑制することができる。さらに、第1処理部11への有機性排水の流量を減少に対応させて、第2処理部12への有機性排水の流量を増加させることで、嫌気性処理装置100全体としての処理能力を維持し、安定運転を行うことができる。
【0049】
また、第1の期間T1の後の第2の期間T2において第1処理部11への排水流量を増加させる構成とすることで、第1処理部11内の汚泥を低温条件に馴養させながら、嫌気性処理装置100全体としての安定運転を実現することができる。さらに、この第2の期間T2を設けることで、その後の期間においては、低温条件に馴養された嫌気性菌を利用した排水処理が可能となり、季節変動による気温の変化に対応した省エネ型の嫌気性処理装置100を実現することができる。
【0050】
さらに、第1実施形態に係る嫌気性処理装置100は、第1処理部11と第2処理部12とが一の嫌気性処理槽1内の下部に形成された汚泥床Gが隔壁10によって2つに区画することで形成される態様とされているため、気温の変動に拠らない安定運転が可能な嫌気性処理装置100をより少ないスペースで実現することができる。
【0051】
(第2実施形態)
図3,4は、本発明の第2実施形態に係る嫌気性処理装置を示す概略構成図である。特に、図3は、低温運転時の運転状況を説明する図であり、図4は、嫌気性処理装置における嫌気性菌の低温馴養時の運転状況を説明する図である。
【0052】
図3,4に示す嫌気性処理装置200が第1実施形態に係る嫌気性処理装置100と相違する点は、嫌気性処理槽が2つ(1A,1B)設けられている点と、これに対応して酸生成槽が2つ(2A,2B)設けられている点であり、これらに対応して各ラインが設けられている点である。なお、図3図4においては、制御手段は省略している。
【0053】
具体的には、ラインL1を構成するラインL1Aに対して第1実施形態に係る嫌気性処理装置100における第1酸生成槽21に対応する酸生成槽2Aが接続され、酸生成槽2Aの後段に、ラインL2を介して第1処理部11に対応する第1の嫌気性処理槽1Aが設けられる。この第1の嫌気性処理槽1Aには低温に馴養された嫌気性菌が収容される。また、ラインL1を構成するラインL1Bに対して第1実施形態に係る嫌気性処理装置100における第2酸生成槽22に対応する酸生成槽2Bが接続され、酸生成槽2Bの後段に、ラインL3を介して第2処理部12に対応する第2の嫌気性処理槽1Bが設けられる。この第2の嫌気性処理槽1Bには中温に馴養された嫌気性菌が収容される。嫌気性処理槽1A,1Bには、それぞれ酸生成槽2A,2Bへ処理水を返送する返送ラインL5A,L5Bが設けられる。
【0054】
第1の嫌気性処理槽1Aからの処理水はラインL4Aを介して、また、第2の嫌気性処理槽1Bからの処理水はラインL4Bを介して、それぞれ外部に排出される。さらに、第1の嫌気性処理槽1AからのバイオガスはラインL6Aを介して、また、第2の嫌気性処理槽1BからのバイオガスはラインL6Bを介して回収される。バイオガスは、ボイラ6によって焼却された後、回収エネルギーとしてラインL7を経て排出され、その一部が加温エネルギーとしてラインL8を経て酸生成槽2Bに対して供給される。
【0055】
ここで、図3では、図2の春〜夏における運転状況、すなわち、低温に馴養された嫌気性菌が含まれる汚泥により処理が行われる期間の有機性排水、処理水、回収エネルギー及び加温エネルギーの量を矢印の太さで示している。図3に示すように、低温に馴養されて高い活性を有する嫌気性菌が排水処理を行う時期は、第1の嫌気性処理槽1Aに対する有機性排水の流量を増加し、第2の嫌気性処理槽1Bに対する有機性排水の流量を減少する。この場合、第2の嫌気性処理槽1Bにおける処理負荷を小さくすることができるため、酸生成槽2Bへ供給する加温エネルギーを少なくすることができ、省エネ型の運転を実現することができる。
【0056】
一方、図4では、図2の期間T1〜T2における運転状況、すなわち、第1の嫌気性処理槽1Aの嫌気性菌を低温に馴養させる期間における有機性排水、処理水、回収エネルギー及び加温エネルギーの量を矢印の太さで示している。図4に示すように、第1の嫌気性処理槽1Aの嫌気性菌を低温に馴養させながら排水処理を行う時期は、第1の嫌気性処理槽1Aに対する有機性排水の流量を少なくして負荷を小さくし、第2の嫌気性処理槽1Bに対する有機性排水の流量を増加する。これによって、嫌気性処理装置200全体としての処理能力を維持し、季節変動による気温の変化に対応した省エネ型の嫌気性処理装置200を実現することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば嫌気性処理槽の構成は上述のような構成に限定されず、嫌気性処理を行うことができる限り、適宜構成を変更してよい。例えば、EGSB(Expanded Granular Sludge Bed)の反応槽に限らず、UASB(Upflow AnaerobicSludgeBlanket)の反応槽であってもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、嫌気性処理槽内の有機性排水を加温する方法として、嫌気性処理槽の前段の酸生成槽に対して加温エネルギーを供給する構成について説明したが、加温の方法は上記に限定されず、例えばラインを加温する方法等適宜選択することができる。
【0059】
また、上述の実施形態では、情報取得手段として機能する温度センサ8によって取得された有機性排水の温度から導出される有機性排水の温度変動に基づいて、有機性排水の流量を制御する構成について説明したが、有機性排水の温度変動に関連する他の情報を用いて有機性排水の温度変動を導出し、これに基づいて有機性排水の流量を制御する構成としてもよい。有機性排水の流量を制御するために用いられる「有機性排水の温度変動に関連する情報」としては、有機性排水の温度の他、有機性排水の温度変動に起因して変動する情報(有機性排水又は嫌気性処理後の処理水の水質を示す情報)、有機性排水の温度変動に影響を与えると考えられる周辺環境の変化を示す情報等が挙げられる。ここで、有機性排水の水質を示す情報としては、有機性排水の粘性、有機性排水の酸化還元電位、有機性排水の溶存酸素濃度等が挙げられる。
【0060】
また、嫌気性処理前の有機性排水に係る情報ではなく、嫌気性処理後の処理水に係る情報を取得して、これに基づいて有機性排水の温度変動を導出する構成とすることもできる。例えば、有機性排水の温度が低下した場合には、嫌気性処理後の処理水の温度も低下することが推測される。また、有機性排水の温度の変動に応じて嫌気性処理槽における処理速度や処理性能の変動によって処理水に係る上記のパラメータも変化することが推測される。よって、これらの情報と有機性排水の温度との関係性に基づいて有機性排水の温度変動を導出し、これに基づいて有機性排水の流量を制御する構成とすることができる。嫌気性処理後の処理水の水質を示す情報としては、処理水の粘性、処理水の酸化還元電位、処理水の溶存酸素濃度等が挙げられる。
【0061】
さらに、有機性排水の温度変動に影響を与えると考えられる周辺環境の変化を示す情報に基づいて有機性排水の温度変動を導出する構成とすることもできる。有機性排水の温度変動に影響を与えると考えられる「周辺環境の変化を示す情報」としては、例えば、嫌気性処理装置が設けられる場所の温度変動等が挙げられる。したがって、例えば、装置周辺の気温の変化から有機性排水の温度変動を導出し、これに基づいて有機性排水の流量を制御する構成とすることもできる。なお、上記で挙げた情報のうちのいくつかを同時に取得し、これらに基づいて有機性排水の温度変動を導出する構成としてもよい。
【0062】
また、上述の実施形態では、第2酸生成槽22内の有機性排水が中温条件を満たすようにラインL8を介して加温エネルギーを供給し、第1酸生成槽21に対しては加温エネルギーを供給せずに所謂無加温運転とする構成について説明をした。しかしながら、上述の構成に代えて、第2酸生成槽22内の有機性排水が高温条件を満たすように加温エネルギーを供給する構成としてもよい。ここで、「高温」とは、50〜60℃や、53〜55℃が一般的である。第2酸生成槽22内及び第2処理部12内の嫌気性菌が高温条件において高い活性を有する場合に特に有効である。また、上記実施形態において、第1酸生成槽21及び第1処理部11内の嫌気性菌について、「元来中温条件で高い活性を有し且つ低温条件で馴養可能である」場合について説明したが、「元来高温条件で高い活性を有し且つ低温条件で馴養可能である」嫌気性菌を活用する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…嫌気性処理槽、2…酸生成槽、6…ボイラ、8…温度センサ、9…制御手段、10,20…隔壁、11…第1処理部、12…第2処理部、100、200…嫌気性処理装置。
図1
図2
図3
図4