(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、2−エチル−1−メチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、1−イソプロピルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1−ペンチルイミダゾール、1−ビニルイミダゾールおよび1−アリルイミダゾールからなる群より選択される、請求項1に記載の銅被膜形成剤。
少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールおよび1−ビニルイミダゾールからなる群より選択される、請求項1又は請求項2に記載の銅被膜形成剤。
少なくとも2種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、それぞれ1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールおよび1−ビニルイミダゾールからなる群より選択される、請求項1に記載の銅被膜形成剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、組成物として長時間の安定性を確保できる銅被膜形成剤および銅被膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、銅被膜形成剤において含窒素複素環式化合物の種類がそれぞれ異なる2種以上の銅錯体を用いることにより、所期の目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(14)によって達成される。
(1)1〜3個の窒素原子を有する5員又は6員の含窒素複素環式化合物と蟻酸銅とからなる2種以上の銅錯体を含有し、前記含窒素複素環式化合物が1個又は2個の環構造を有し、置換基に含まれる炭素原子の総数は1〜5であり、該化合物中の炭素原子以外の元素が水素原子と結合していない、銅被膜形成剤。
(2)前記置換基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基及びアルコキシルアルキル基からなる群から選択される、前記(1)に記載の銅被膜形成剤。
(3)少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、下記式(I)で示されるイミダゾール化合物である、前記(1)又は(2)に記載の銅被膜形成剤。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(I)中、R
1は炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
2又はR
4と結合して複素環を形成する。R
2〜R
4は各々独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
1、R
3又はR
4と結合して環若しくは複素環を形成する。ただし、R
1〜R
4に含まれる炭素原子の合計は5以下である。)
(4)少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、2−エチル−1−メチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、1−イソプロピルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1−ペンチルイミダゾール、1−ビニルイミダゾールおよび1−アリルイミダゾールからなる群より選択される、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の銅被膜形成剤。
(5)少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールおよび1−ビニルイミダゾールからなる群より選択される、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の銅被膜形成剤。
(6)少なくとも2種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、それぞれ1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールおよび1−ビニルイミダゾールからなる群より選択される、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の銅被膜形成剤。
(7)少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、下記式(IIa)又は下記式(IIb)で示されるトリアゾール化合物である、前記(1)又は(2)に記載の銅被膜形成剤。
【0011】
【化2】
【0012】
(式(IIa)及び式(IIb)中、R
5及びR
8は各々独立して、炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
7又はR
10と結合して複素環を形成する。R
6及びR
7は各々独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、R
5、R
6又はR
7と結合して環若しくは複素環を形成する。R
9は水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素を含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表す。R
10は水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素を含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
8と結合して複素環を形成する。ただし、R
5〜R
7に含まれる炭素の合計、及びR
8〜R
10に含まれる炭素の合計はいずれも5以下である。)
(8)少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、下記式(III)で示されるピリジン化合物である、前記(1)又は(2)に記載の銅被膜形成剤。
【0013】
【化3】
【0014】
(式(III)中、R
11〜R
15は各々独立して、水素原子、炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素を含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
11、R
12、R
13、R
14又はR
15と結合して環若しくは複素環を形成する。ただし、R
11〜R
15に含まれる炭素の合計は5以下である。)
(9)少なくとも1種の銅錯体に含有される前記含窒素複素環式化合物が、下記式(IV)で示されるピラゾール化合物である、前記(1)又は(2)に記載の銅被膜形成剤。
【0015】
【化4】
【0016】
(式(IV)中、R
16は炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
19と結合して複素環を形成する。R
17〜R
19は各々独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
16、R
17、R
18又はR
19と結合して環若しくは複素環を形成する。ただし、R
16〜R
19に含まれる炭素原子の合計は5以下である。)
(10)有機溶媒又は水を含む、前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の銅被膜形成剤。
(11)前記有機溶媒の沸点が150℃以上である、前記(10)に記載の銅被膜形成剤。
(12)前記有機溶媒が2種以上の混合溶媒である、前記(10)又は(11)に記載の銅被膜形成剤。
(13)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の銅被膜形成剤を基材に塗布し、加熱する、銅被膜の形成方法。
(14)前記(13)に記載の銅被膜の形成方法により製造された、配線基板。
【発明の効果】
【0017】
本発明の銅被膜形成剤は、含窒素複素環式化合物の種類がそれぞれ異なる2種以上の銅錯体を用いることを特徴としている。2種類以上の含窒素複素環式化合物を組み合わせることにより、各種溶剤との相溶性を設計可能にするとともに、異なる銅錯体が混合されることで錯体の結晶性が低下し、温度環境の変化に伴う固−液相転移や溶解度変化の影響が抑えられ、組成物として長時間の安定性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の銅被膜形成剤は、1〜3個の窒素原子を有する5員又は6員の含窒素複素環式化合物(以下、単に「本発明の含窒素複素環式化合物」ともいう)と蟻酸銅とからなる2種以上の銅錯体を含有する。
【0019】
本発明の含窒素複素環式化合物は、1〜3個の窒素原子を有する5員又は6員の複素環骨格を有する。該化合物は1個又は2個の環構造を有し、置換基に含まれる炭素の総数は1〜5であり、該化合物中の炭素原子以外の元素は水素原子と結合していない。このように含窒素複素環式化合物を特定の置換基で置換した本発明の含窒素複素環式化合物は、窒素上の非共有電子対によって、銅イオンに配位することができる。
【0020】
蟻酸銅を窒素雰囲気下で加熱すると、蟻酸イオンによる銅イオンの還元反応が起こり、銅が析出する現象は古くから知られている。また、蟻酸銅にアミン類を配位させることによって、還元反応の温度が低温化することも良く知られている。このことは、一般に還元反応は系のpHが高いほど進みやすいことから、アミン類の塩基性が還元反応の低温化に寄与していると推測することができる。
しかしながら、一級アミン又は二級アミンを使用した場合には、これらのアミンが析出した銅と結合してしまうために比較的低温で還元反応が進むものの残渣が残りやすく、良好な導電性が得られ難い。また、三級アミンを使用した場合には、残渣の問題は解決されるものの、置換基による立体障害が大きいため、銅に安定に配位することができず十分な低温化効果が得られない。また、三級アミンに水酸基などの極性の置換基を導入し、キレート作用により銅に安定に配位させる試みもなされているが、揮発性が損なわれて高温の加熱が必要になったり、三級アミンの塩基性が強すぎるために常温でも還元反応が進んだりするなどの問題がある。また、ある種の金属触媒を併用することで還元反応を低温化する試みもなされているが、十分な効果は得られていない。
【0021】
本発明の含窒素複素環式化合物を使用した場合には、適度な塩基性を有し、且つ立体障害が小さいため、安定に銅に配位することが可能であり、常温で比較的安定な蟻酸銅錯体を形成することができる。本発明の含窒素複素環式化合物は、他のアミン類と同様、蟻酸による銅の還元反応を低温化することが可能であり、また銅が析出した後は銅と結合することなく比較的速やかに揮発し、残渣の少ない導電性に優れた銅を析出することができる。特に、含窒素複素環式化合物に特定の置換基を導入することにより、適度な揮発性が付与され、銅析出の過程で流動状態を経ることが可能となるため、均一性の高い銅被膜が得られるという効果を奏する。また、適度な極性が付与され、流動状態でも親水性表面に対する親和性を維持することが可能となるため、親水性の基材表面に対して良好に密着することができるという効果を奏する。
【0022】
前記置換基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基及びアルコキシルアルキル基からなる群から選択されることが好ましい。
【0023】
以下、本発明の含窒素複素環式化合物の具体例について説明する。
<イミダゾール化合物>
本発明の含窒素複素環式化合物として、下記式(I)で示されるイミダゾール化合物が挙げられる。
【0025】
(式(I)中、R
1は炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子と結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
2又はR
4と結合して複素環を形成する。R
2〜R
4は各々独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
1、R
3又はR
4と結合して環若しくは複素環を形成する。ただし、R
1〜R
4に含まれる炭素原子の合計は5以下である。)
【0026】
R
1の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ビニル基等が挙げられる。
式(I)で示されるイミダゾール化合物としては、具体的には、
1−メチルイミダゾール、
1−エチルイミダゾール、
1−プロピルイミダゾール、
1−イソプロピルイミダゾール、
1−ブチルイミダゾール、
1−イソブチルイミダゾール、
1−sec−ブチルイミダゾール、
1−tert−ブチルイミダゾール、
1−ペンチルイミダゾール、
1−イソペンチルイミダゾール、
1−(2−メチルブチル)イミダゾール、
1−(1−メチルブチル)イミダゾール、
1−(1−エチルプロピル)イミダゾール、
1−tert−ペンチルイミダゾール、
1,2−ジメチルイミダゾール、
1−エチル−2−メチルイミダゾール、
2−エチル−1−メチルイミダゾール、
2−メチル−1−プロピルイミダゾール、
2−メチル−1−イソプロピルイミダゾール、
1−ブチル−2−メチルイミダゾール、
1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、
1−sec−ブチル−2−メチルイミダゾール、
1−tert−ブチル−2−メチルイミダゾール、
1,4−ジメチルイミダゾール、
1,2,4−トリメチルイミダゾール、
1,4,5−トリメチルイミダゾール、
1−ビニルイミダゾール、
1−アリルイミダゾール、
1,2,4,5−テトラメチルイミダゾール、
1−メチルベンズイミダゾール、
イミダゾ[1,5−a]ピリジン
等が挙げられる。
【0027】
<トリアゾール化合物>
また、本発明の含窒素複素環式化合物として、下記式(IIa)又は下記式(IIb)で示されるトリアゾール化合物が挙げられる。
【0029】
(式(IIa)及び式(IIb)中、R
5及びR
8は各々独立して、炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
7又はR
10と結合して複素環を形成する。R
6及びR
7は各々独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、R
5、R
6又はR
7と結合して環若しくは複素環を形成する。R
9は水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表す。R
10は水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素を含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
8と結合して複素環を形成する。ただし、R
5〜R
7に含まれる炭素の合計、及びR
8〜R
10に含まれる炭素の合計はいずれも5以下である。)
【0030】
R
5及びR
8の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ビニル基等が挙げられる。
式(IIa)又は式(IIb)で示されるトリアゾール化合物の具体例としては、
1−メチル−1,2,4−トリアゾール、
1−エチル−1,2,4−トリアゾール、
1−プロピル−1,2,4−トリアゾール、
1−イソプロピル−1,2,4−トリアゾール、
1−ブチル−1,2,4−トリアゾール、
1−メチル−1,2,3−トリアゾール、
1−エチル−1,2,3−トリアゾール、
1−プロピル−1,2,3−トリアゾール、
1−イソプロピル−1,2,3−トリアゾール、
1−ブチル−1,2,3−トリアゾール、
1−メチルベンゾトリアゾール
等が挙げられる。
【0031】
<ピリジン化合物>
また、本発明の含窒素複素環式化合物として、下記式(III)で示されるピリジン化合物が挙げられる。
【0033】
(式(III)中、R
11〜R
15は各々独立して、水素原子、炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
11、R
12、R
13、R
14又はR
15と結合して環若しくは複素環を形成する。ただし、R
11〜R
15に含まれる炭素の合計は5以下である。)
【0034】
R
11〜R
15の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
式(III)で示されるピリジン化合物の具体例としては、
ピリジン、
4−メチルピリジン、
4−エチルピリジン、
4−プロピルピリジン、
4−ブチルピリジン、
4−ペンチルピリジン、
キノリン、
イソキノリン、
4−メトキシピリジン
等が挙げられる。
【0035】
<ピラゾール化合物>
また、本発明の含窒素複素環式化合物として、下記式(IV)で示されるピラゾール化合物が挙げられる。
【0037】
(式(IV)中、R
16は炭素数1〜5の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
19と結合して複素環を形成する。R
17〜R
19は各々独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数1〜4の炭化水素と水素原子に結合していない炭素原子以外の元素とを含んでなる直鎖、分岐鎖若しくは環状の置換基を表すか、隣接するR
16、R
17、R
18又はR
19と結合して環若しくは複素環を形成する。ただし、R
16〜R
19に含まれる炭素原子の合計は5以下である。)
【0038】
R
16の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ビニル基等が挙げられる。
式(IV)で示されるピラゾール化合物の具体例としては、
1−メチルピラゾール、
1−エチルピラゾール、
1−プロピルピラゾール、
1−イソプロピルピラゾール、
1−ブチルピラゾール、
1−ペンチルピラゾール
等が挙げられる。
【0039】
<その他>
また、本発明の含窒素複素環式化合物として、2個の窒素原子を有するピリダジン、ピリミジン、ピラジン、3個の窒素原子を有するトリアジン等も挙げることができる。
【0040】
蟻酸銅としては、無水蟻酸銅(II)、蟻酸銅(II)・二水和物、蟻酸銅(II)・四水和物等が好適に使用できる。また、酸化銅(II)や酸化銅(I)あるいは塩基性炭酸銅(II)、酢酸銅(II)、シュウ酸銅(II)等の銅化合物を1種若しくは2種以上を組み合わせて蟻酸と混合し、系内で蟻酸銅を生成させたものを用いてもよい。
【0041】
本発明の銅被膜形成剤は、上記した本発明の含窒素複素環式化合物と蟻酸銅からなる銅錯体(以下、「本発明の銅錯体」と云う)を2種以上含有することを特徴とする。そして、本発明の銅被膜形成剤に含有される本発明の銅錯体はそれぞれ、前記含窒素複素環式化合物の種類が異なる。
【0042】
本発明において、本発明の銅錯体の少なくとも1種が含窒素複素環式化合物として前記式(I)で示されるイミダゾール化合物を含むものであることが好ましく、具体的には、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、2−エチル−1−メチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、1−イソプロピルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1−ペンチルイミダゾール、1−ビニルイミダゾールおよび1−アリルイミダゾールからなる群より選択される化合物を含むものであることがより好ましい。このような化合物を用いることで、後述する各種溶剤との相溶性を容易に設計可能にするとともに、銅錯体の結晶性が低下し、温度環境の変化に伴う固−液相転移や溶解度変化の影響が一層抑えられ、組成物として長時間の安定性がさらに向上する。
中でも、式(I)で示されるイミダゾールが、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールおよび1−ビニルイミダゾールからなる群より選択されることがさらに好ましい。
【0043】
そして、本発明において、本発明の銅被膜形成剤に含有させる銅錯体として、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールおよび1−ビニルイミダゾールからなる群より選択されるイミダゾール化合物と蟻酸銅とからなる銅錯体を2種以上用いることが最も好ましい。
【0044】
本発明において、用いる銅錯体のそれぞれの使用比率は、組成物とした際の粘度やチキソ性等を勘案して適宜決定すればよいが、例えば、2種類の本発明の含窒素複素環式化合物を使用する場合、一方の銅錯体と他方の銅錯体との使用比率は、一方の銅錯体の質量を1とした場合、他方の銅錯体の質量は1〜20の範囲とすることが好ましく、1〜10の範囲とするのがより好ましい。
【0045】
本発明の銅錯体は、組成物として本発明の銅被膜形成剤に含まれていればよく、本発明の銅錯体を別途調製しておき、これを銅被膜形成剤を構成する他の成分に混合してもよいし、本発明の銅錯体を構成する原料と、銅被膜形成剤を構成する他の成分を直接混合して本発明の銅被膜形成剤としてもよい。2種以上の本発明の含窒素複素環式化合物と蟻酸銅を銅被膜形成剤を構成する他の成分と共に混合することで、それぞれの含窒素複素環式化合物が蟻酸銅と反応してそれぞれの銅錯体を形成する。各成分を同時に混合することで、銅被膜形成剤の調製工程数を減らすことができ、製造が容易となる。
【0046】
本発明の銅錯体を別途調製する場合には、例えば蟻酸銅を適量の溶媒に溶解又は分散させ、これに本発明の含窒素複素環式化合物を添加して攪拌する。その後、前記の溶媒を減圧蒸留により、除去することにより得ることができる。本発明の銅錯体を調製する際に用いる前記の溶媒としては、水、メタノール、エタノール等を使用することが好ましい。
【0047】
本発明の銅被膜形成剤における、本発明の含窒素複素環式化合物と蟻酸銅との割合は、蟻酸銅1モルに対して、本発明の含窒素複素環式化合物の総モルが、1モル以上であればよく、望ましくは2モル以上である。
【0048】
本発明の銅被膜形成剤は、原料である本発明の含窒素複素環式化合物の2種以上と蟻酸銅を混合し、必要に応じて溶剤を加え、必要に応じて粉砕し、混練するだけで容易に調製でき、特別な合成操作を必要としない。
【0049】
本発明の含窒素複素環式化合物と蟻酸銅の混合方法としては、前述の他に、溶剤に蟻酸銅を分散させたスラリーに本発明の含窒素複素環式化合物を添加してもよいし、本発明の含窒素複素環式化合物を溶解させた溶剤に蟻酸銅を添加してもよい。
【0050】
本発明の銅被膜形成剤を調製する際に用いる溶剤としては、水、または、メタノール,エタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,1−ブタノール,2−ブタノール,イソブチルアルコール,tert−ブチルアルコール,1−ペンタノール,2−ペンタノール,3−ペンタノール,1−ヘキサノール,2−ヘキサノール,3−ヘキサノール,1−ヘプタノール,2−ヘプタノール,1−オクタノール,2−オクタノール,2−エチルヘキサノール,シクロペンタノール,シクロヘキサノール,2−メトキシエタノール,2−エトキシエタノール,2−ブトキシエタノール,テルピネオール,エチレングリコール,プロピレングリコール,エチレングリコールモノヘキシルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコール,アセトン,エチルメチルケトン,ペンタン,ヘキサン,トルエン,キシレン,テトラヒドロフラン,ジオキサン,蟻酸メチル,蟻酸エチル,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸イソプロピル,酢酸ブチル,ジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられる。
【0051】
溶剤は、組成物としての安定性を保つ上で常温、常圧下において揮発しにくいことが望ましく、具体的には沸点が150℃以上であることが好ましい。さらに好ましい溶剤は、沸点が180〜300℃のものである。但し、インクジェット用のインクカートリッジなど密閉系で用いられる場合などはその限りではない。
【0052】
また、溶剤は、本発明の銅被膜形成剤を溶液状、分散液状又はペースト状にできるものであれば特に限定されず、1種もしくは2種以上を組み合わせて使用してもよい。溶剤の配合量は、一般的な量とすることができ、得られる銅被膜形成剤の粘度、塗布性を考慮して適当な比率を決定すればよい。
本発明では、組成物のレオロジーを調整する観点から、2種類以上の溶剤を使用することが好ましく、その組み合わせとしては銅錯体に対する貧溶媒と良溶媒との組み合わせが好ましく、具体的にはテルピネオールとエチレングリコールとの組み合わせ、エチレングリコールモノヘキシルエーテルとジエチレングリコールとの組み合わせ、1−オクタノールとプロピレングリコールとの組み合わせ、等が挙げられる。また、貧溶媒と良溶媒との割合は、銅被膜形成剤の種類等を勘案して適宜決定すればよいが、前者:後者の容量比として、例えば1〜2:1〜4が挙げられる。
【0053】
前記粉砕方法としては、本発明の銅被膜形成剤が溶液状ではない場合に、分散液状又はペースト状にできるものであればよく、特に限定されない。
【0054】
本発明の銅被膜形成剤においては、銅被膜の厚さを増加させるために、銅又はその他の金属や樹脂、セラミック等からなる粒子又は粉体等の充填材を本発明の効果を損なわない範囲において使用することができる。
【0055】
また、本発明による銅被膜形成剤には、銅被膜を形成し得る温度をさらに下げる、もしくは銅被膜の形成に要する時間を短縮するために、アルカリ化剤や金属触媒等を本発明の効果を損なわない範囲において使用することができる。アルカリ化剤の種類としては苛性ソーダ、苛性カリウム、アンモニア、一級アミン、二級アミン、三級アミン等が挙げられる。また金属触媒としては、銀、白金、ロジウム、パラジウム等が挙げられる。
【0056】
また、本発明による銅被膜形成剤には、安定化剤、分散剤、粘度調整剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲において使用することができる。
【0057】
次に、銅被膜の形成方法について説明する。
本発明の銅被膜の形成方法は、上記で説明した銅被膜形成剤を基材上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、その後、塗布膜を常圧で加熱する加熱工程とを有する。
【0058】
基材としては、ガラス基材、シリコン基材、金属基材、セラミック基材、樹脂基材等が挙げられる。樹脂基材の樹脂の種類としては、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱硬化性樹脂や、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、又はパルプ、セルロース等の植物繊維等が挙げられる。
【0059】
基材表面は親水性であることが好ましく、必要に応じて塗布工程の前に親水化処理を施すことが好ましい。親水化処理の方法としては、プラズマ処理、紫外線処理、オゾン処理等のドライプロセスや、アルカリ処理、酸処理等のウェットプロセス、又はグラフト重合やフィルム塗膜形成による表面改質等が挙げられる。これらの親水化処理の条件は基材の材質や性状等により一概には規定できず、それらに応じて適宜設定すればよい。
【0060】
上記の塗布工程における銅被膜形成剤の塗布方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレーコート法、ミストコート法、フローコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、エアードクターコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、刷毛塗り等が挙げられる。このような公知の塗布方法を適用することにより、銅被膜形成剤を基材上に塗布することができる。
【0061】
上記の加熱工程における雰囲気は、非酸化性の雰囲気であることが好ましく、還元性ガス、不活性ガス、又は脱気雰囲気等が挙げられる。還元性ガスの雰囲気としては水素、蟻酸等が挙げられ、不活性ガスの雰囲気としてはヘリウム、窒素、アルゴン、二酸化炭素等が挙げられる。中でも、安全性及びコストの観点から不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0062】
加熱方法としては、特に限定されないが、焼成または光照射する方法が挙げられ、焼成としては、塗布面に温風又は熱風をあてる方法等があり、光照射としては、紫外線、赤外線又は可視光線等の光を、長時間ないし瞬間的に照射する方法等が挙げられる。これとは別に、熱した媒体に基材を接触させる方法、熱したガス雰囲気に晒す方法、溶媒蒸気に晒す方法等が挙げられる。
【0063】
前記加熱温度は、処理雰囲気下において本発明の銅錯体が分解し得る温度以上であればよい。好ましい加熱温度は、本発明の銅錯体の種類、溶剤の種類、加熱時の雰囲気等により一概には規定できず、それらに応じて適宜設定すればよい。なお、加熱温度が高すぎると基材の耐熱温度が低い場合は基材が劣化したり、エネルギーの無駄が生じたりするため、150℃以下の温度が好ましく、130℃以下がより好ましい。また、下限値は本発明の銅錯体が分解し得る温度以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0064】
加熱時間も同様に、本発明の銅錯体の種類、溶剤の種類、加熱時の雰囲気等により一概には規定できず、それらに応じて適宜設定すればよい。
【0065】
また、銅被膜の膜厚を厚くするために、上記の銅被膜形成剤の塗布と加熱を複数回繰り返すことができる。
【0066】
本発明の銅被膜形成剤は、配線基板の銅回路の形成に適しているが、その他には、銅被膜の形成が望まれる任意の物品を被覆するために使用でき、上記した銅被膜の形成方法により、様々な物品の表面に銅被膜を形成することができる。この物品としては、例えば、配線基板の他に、フィルム、板、粉末、粒子、布や不織布等の繊維、紙、皮革、模型、美術品等が挙げられる。
【0067】
また、セミアディティブプロセス又はフルアディティブプロセスによって回路形成する配線基板を製造する際に、上記した銅被膜の形成方法によって形成された銅被膜をシード層として用いることで、製造工程の短縮やコスト削減を図ることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
<蟻酸銅(II)無水物の作製>
蟻酸銅(II)・四水和物(和光純薬工業社製)を226g計量して乳鉢で細かく粉砕し、エバポレーターを用いて95℃で水和水を減圧留去し、蟻酸銅(II)無水物154gを得た。
【0070】
<銅被膜形成剤の調製および評価>
(実施例1〜4、比較例1〜4)
表1に記載の組成となるように原料を配合し、乳鉢で粉砕しながら混練して銅被膜形成剤を調製した。各銅被膜形成剤について、動的粘弾性測定装置(商品名「Rheosol−G5000」、ユービーエム社製)のコーンプレートを用い、30℃において粘度(3rpm、30rpm)を測定し、TI値(チキソトロピーインデックス値、3rpm/30rpm)を算出した後、安定性試験を行った。得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。
【0071】
[安定性試験]
銅被膜形成剤に対し、40℃で1時間保持した後、25℃になるまで放置し、続いて5℃で1時間保持した後、25℃になるまで放置するというヒートサイクルを負荷した。
次に48mm(縦)×28mm(横)×1.2〜1.5mm(厚み)のスライドガラス上に、厚さ55μmのポリイミド粘着テープを10mm間隔で並行に貼付し、その間に銅被膜形成剤を塗布した後、余剰分をへらでかきとるようにして、30mm(縦)×10mm(横)×55μm(厚み)のサイズのパターンを1つ印刷した。そして、印刷性の低下の有無について目視観察を行った。印刷筋が発生した場合に印刷性が低下したと判定した。
印刷性の観察は1サイクル毎に、最大10サイクルまで行い、印刷性の低下が見られたサイクル回数を試験結果として表記した。また、10サイクル後に印刷性の低下が見られなかった場合は、「>10」と表記した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果より、含窒素複素環式化合物を2種含有した実施例1〜4は、含窒素複素環式化合物を1種含有する比較例1〜4と比べて、銅被膜形成剤としたときの長時間の安定性に優れることがわかった。