(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0016】
図1は、本実施形態に係るガスタービン1の一例を示す模式図である。ガスタービン1は、燃焼用空気を圧縮する圧縮機2と、圧縮機2から供給された圧縮空気に燃料を噴射して燃焼させ、燃焼ガスFGを生成する燃焼器3と、燃焼器3から供給された燃焼ガスFGにより駆動するタービン部4と、発電機6と、圧縮機2、タービン部4、及び発電機6に配置される回転軸5とを備えている。
【0017】
図2は、タービン部4の一部を示す断面図である。タービン部4は、回転軸5の周囲に配置されるタービン静翼7と、回転軸5の周囲に配置されるタービン動翼8と、回転軸5に対する放射方向に関してタービン動翼8の外側に配置される分割環9とを備えている。
【0018】
分割環9は、車室10に支持される。分割環9は、環状の部材であり、回転軸5の周方向に配置される複数の分割体を含む。分割環9とタービン動翼8の先端との間に間隙が設けられる。
【0019】
以下の説明において、ガスタービン1の部材を適宜、タービン部材M、と称する。タービン部材Mは、タービン部4の部材でもよいし、燃焼器3の部材でもよい。タービン部材Mは、タービン静翼7でもよいし、タービン動翼8でもよいし、分割環9でもよい。
【0020】
本実施形態において、タービン部材Mは、ニッケル基合金を含む。一例として、ニッケル基合金の材料組成は、Cr:20重量%,Co:20重量%,Mo:6重量%,Ti:2.2重量%,Al:0.5重量%,C:0.05重量%,Ni:51.25重量%である。本実施形態において、ニッケル基合金は、γ’相(Ni
3Al金属間化合物)による析出強化型合金である。タービン部材M中に微細なγ’相が析出される。析出強化相であるγ’相の析出により、タービン部材Mが析出強化され、タービン部材Mの高温強度の向上が図られている。
【0021】
タービン部材Mは、高温環境において応力を受けながら長時間使用される。γ’相が高温環境に配置されると、そのγ’相の形態変化が発生する。γ’相の形態変化は、γ’相の粒径の変化を含む。γ’相が高温環境に配置されると、γ’相の粒径が大きくなり、γ’相が粗大化する。γ’相の粗大化は、タービン部材Mの劣化をもたらす。したがって、ガスタービン1の運転において想定されるタービン部材Mの温度(メタル温度)、使用時間、及び応力解析結果等に基づいて、タービン部材Mの劣化が抑制されるように、タービン部材Mの材料組成及び形状等の設計が行われたり、タービン部材Mの寿命が予測されたりする。
【0022】
ガスタービン1の運転におけるタービン部材Mの実際のメタル温度Trと、設計において想定されるメタル温度とが異なる可能性がある。設計におけるメタル温度に対して実際のメタル温度Trが高いと、タービン部材Mの劣化が進み、タービン部材Mの寿命が予測された寿命よりも短くなる可能性がある。
【0023】
本実施形態においては、γ’相の粒径の変化量に基づいて、タービン部材Mの実際のメタル温度Trが推定される。その推定されたメタル温度Trに基づいて、タービン部材Mの劣化が抑制されるようにタービン部材Mの材料組成及び形状等を最適化すること、ガスタービン1の運転中におけるタービン部材Mの冷却条件を最適化すること、タービン部材Mの品質(劣化状態)を評価すること、及びタービン部材Mの寿命を評価(予測)すること、の少なくとも一つが行われる。
【0024】
γ’相の形態変化(粗大化)の速度は温度に敏感である。本実施形態においては、タービン部材Mが加熱される前のγ’相と、タービン部材Mが加熱された後のγ’相とが比較され、その比較した結果に基づいて、タービン部材Mの実際のメタル温度Trが推定される。
【0025】
タービン部材Mが加熱される前とは、ガスタービン1が運転される前の状態を含み、タービン部材Mが高温環境に配置される前の状態を含む。タービン部材Mが加熱された後とは、ガスタービン1が運転された後の状態を含み、タービン部材Mが高温環境に配置された後の状態を含む。すなわち、タービン部材Mの加熱前とは、ガスタービン1においてタービン部材Mが使用される前(高温環境に配置される前)の状態を含む。タービン部材Mの加熱後とは、ガスタービン1においてタービン部材Mが使用された後(高温環境に配置された後)の状態を含む。本実施形態において、高温環境とは、700℃以上1000℃以下の環境を含む。本実施形態において、加熱とは、タービン部材Mを700℃以上1000℃以下で加熱することを含む。
【0026】
本実施形態においては、加熱前のタービン部材M中に含まれる中に含まれるγ’相を検出する処理と、加熱後のタービン部材M中に含まれる中に含まれるγ’相を検出する処理と、加熱前のタービン部材M中に含まれる中に含まれるγ’相の検出結果と加熱後のタービン部材M中に含まれる中に含まれるγ’相の検出結果とを比較する処理と、比較した結果に基づいて加熱後のタービン部材Mのメタル温度Trを推定する処理とが行われる。
【0027】
次に、本実施形態に係るタービン部材Mの温度推定装置11の一例について説明する。
図3は、本実施形態に係る温度推定装置11の一例を模式的に示す図である。温度推定装置11は、加熱されたタービン部材Mのメタル温度Trを推定する。
図3に示すように、温度推定装置11は、制御装置12と、検出装置13と、記憶装置14と、表示装置15とを備えている。
【0028】
検出装置13は、タービン部材M中に含まれるγ’相を検出する。検出装置13は、例えば電子顕微鏡を含み、γ’相を含むタービン部材Mの画像を取得可能である。検出装置13は、制御装置12と接続される。検出装置13の検出結果は、制御装置12に出力される。
【0029】
記憶装置14は、タービン部材Mのメタル温度Trの推定に関する各種の情報を記憶する。記憶装置14は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、及びハードディスクドライブの少なくとも一つを含む。記憶装置14は、制御装置12と接続される。
【0030】
表示装置15は、タービン部材Mのメタル温度Trの推定に関する各種の情報を表示する。表示装置15は、液晶ディスプレイのようなフラットパネルディスプレイを含む。表示装置15は、制御装置12と接続される。
【0031】
制御装置12は、タービン部材Mのメタル温度Trの推定に関する各種の処理を実行する。制御装置12は、CPU(Central Processing Unit)を含み、タービン部材Mのメタル温度Trの推定に関する演算処理及び信号処理を含む各種の処理を実行する。制御装置12は、検出装置13の検出結果及び記憶装置14の記憶情報に基づいて、タービン部材Mのメタル温度Trを推定する。
【0032】
次に、本実施形態に係るタービン部材Mのメタル温度Trの推定方法の一例について説明する。本実施形態においては、加熱前のタービン部材M中に含まれるγ’相を検出する処理と、加熱前のタービン部材M中に含まれるγ’相の検出の結果に基づいて加熱前粒径分布データBDを導出する処理と、加熱後のタービン部材M中に含まれるγ’相を検出する処理と、加熱後のタービン部材M中に含まれるγ’相の検出の結果に基づいて加熱後粒径分布データADを導出する処理と、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとを比較する処理と、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとの比較の結果に基づいて、加熱後のタービン部材Mのメタル温度Trを推定する処理と、が行われる。
【0033】
加熱前のタービン部材M中に含まれるγ’相を検出する処理、及び加熱前粒径分布データBDを導出する処理について説明する。
図4は、加熱前のタービン部材Mに関する処理の一例を示すフローチャートである。加熱前のタービン部材Mとは、使用前のタービン部材Mを含み、高温環境に配置されていない初期状態のタービン部材Mを含む。
【0034】
加熱前のタービン部材M中に含まれるγ’相が検出装置13によって検出される(ステップSA1)。検出装置13は、γ’相を含むタービン部材Mの画像を取得する。検出装置13は、タービン部材Mの全域について画像を取得してもよい。検出装置13の検出結果は、制御装置12に出力される。
【0035】
制御装置12は、検出装置13により取得された画像の処理を行う(ステップSA2)。制御装置12は、画像処理の結果に基づいて、加熱前のγ’相の粒径、及びその粒径のγ’相の単位面積当たりの個数を導出する。
【0036】
制御装置12は、加熱前のタービン部材Mに関する検出装置13の検出結果及び画像処理の結果に基づいて、加熱前粒径分布データBDを導出する(ステップSA3)。加熱前粒径分布データBDは、加熱前のγ’相の粒径とその粒径のγ’相の単位面積当たりの個数との関係を示す粒径分布データである。本実施形態においては、検出装置13の検出結果が正規分布でフィッティングされることによって、加熱前粒径分布データBDが導出される。導出された加熱前粒径分布データBDは、記憶装置14に記憶される(ステップSA4)。
【0037】
図5は、本実施形態に係る加熱前粒径分布データBDの一例を示す図である。
図5に示すグラフにおいて、横軸は、加熱前のγ’相の粒径を示す。縦軸は、その粒径のγ’相の単位面積当たりの個数を示す。
図5に示すグラフが、表示装置15に表示されてもよい。
【0038】
図5に示すように、加熱前粒径分布データBDは、第1分布データD1と、第2分布データD2とを含む。第1分布データD1及び第2分布データD2のそれぞれは、加熱前のγ’相の粒径と、その粒径のγ’相の単位面積当たりの個数との関係を示す粒径分布データである。
【0039】
第1分布データD1は、小さい粒径のγ’相の粒径分布データである。第2分布データD2は、第1分布データD1のγ’相の粒径よりも大きい粒径のγ’相の粒径分布データである。本実施形態においては、第1分布データD1は、γ’相の粒径に関する境界値(境界粒径)SBよりも小さい粒径に関するデータである。第2分布データD2は、境界値SBよりも大きい粒径に関するデータである。
【0040】
境界値SBは、例えばタービン部材Mの材料組成に基づいて規定されてもよいし、作業者により任意に規定されてもよい。
【0041】
第1分布データD1は、γ’相の第1粒径S1に関するデータを含む。本実施形態において、第1粒径S1は、第1分布データD1の粒径の平均値(平均粒径)である。第1分布データD1において、第1粒径S1の個数が最大となる。第1粒径S1の個数K1が、第1分布データD1における個数の最大値である。第1分布データD1において個数が最大となる粒径が第1粒径S1である。
【0042】
第2分布データD2は、γ’相の第2粒径S2に関するデータを含む。第2粒径S2は、第1粒径S1よりも大きい。本実施形態において、第2粒径S2は、第2分布データD2の粒径の平均値(平均粒径)である。第2分布データD2において、第2粒径S2の個数が最大となる。第2粒径S2の個数K2が、第2分布データD2における個数の最大値である。第2分布データD2において個数が最大となる粒径が第2粒径S2である。
【0043】
本実施形態において、第1粒径S1の個数K1は、第2粒径S2の個数K2よりも大きい(多い)。
【0044】
以下の説明において、加熱前(初期状態)のタービン部材Mにおけるγ’相の第1粒径(平均粒径)S1を適宜、初期粒径S1、と称し、加熱前(初期状態)のタービン部材Mにおけるγ’相の第2粒径(平均粒径)S2を適宜、初期粒径S2、と称する。
【0045】
次に、加熱後のタービン部材M中に含まれるγ’相を検出する処理、加熱後粒径分布データADを導出する処理、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとを比較する処理、及び比較した結果に基づいて加熱後のタービン部材Mのメタル温度Trを推定する処理について説明する。
図6は、加熱後のタービン部材Mに関する処理、及びメタル温度Trの推定に関する処理の一例を示すフローチャートである。加熱後のタービン部材Mとは、使用後のタービン部材Mを含み、高温環境に配置された後のタービン部材Mを含む。
【0046】
図6を参照して説明する加熱後のタービン部材Mは、初期状態から所定時間taだけ加熱された後のタービン部材Mである。所定時間taは、初期状態のタービン部材Mを加熱した加熱時間であり、予め規定された時間(既知の時間)である。
【0047】
加熱後のタービン部材M中に含まれるγ’相が検出装置13によって検出される(ステップSB1)。検出装置13は、γ’相を含むタービン部材Mの画像を取得する。検出装置13は、ステップSA1において画像を取得したタービン部材Mの領域と同じ領域について画像を取得する。検出装置13の検出結果は、制御装置12に出力される。
【0048】
制御装置12は、検出装置13により取得された画像の処理を行う(ステップSB2)。制御装置12は、画像処理の結果に基づいて、加熱後のγ’相の粒径、及びその粒径のγ’相の単位面積当たりの個数を導出する。
【0049】
制御装置12は、加熱後のタービン部材Mに関する検出装置13の検出結果及び画像処理の結果に基づいて、加熱後粒径分布データADを導出する(ステップSB3)。加熱後粒径分布データADは、加熱後のγ’相の粒径とその粒径のγ’相の単位面積当たりの個数との関係を示す粒径分布データである。本実施形態においては、検出装置13の検出結果が正規分布でフィッティングされることによって、加熱後粒径分布データADが導出される。導出された加熱後粒径分布データADは、記憶装置14に記憶される(ステップSB4)。
【0050】
加熱後粒径分布データADが導出された後、制御装置12は、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとを比較する(ステップSB5)。
【0051】
図7及び
図8のそれぞれは、本実施形態に係る加熱後粒径分布データADの一例を示す図である。
図7は、タービン部材Mを第1温度TLで所定時間taだけ加熱した後の加熱後粒径分布データADの一例を示す。
図8は、タービン部材Mを第2温度THで所定時間taだけ加熱したときの加熱後粒径分布データADの一例を示す。第1温度TLは、第2温度THよりも低い。第1温度TLは、例えば800℃よりも低い温度である。第2温度THは、例えば800℃以上の温度である。
【0052】
図7及び
図8に示すグラフにおいて、横軸は、加熱後のγ’相の粒径を示す。縦軸は、その粒径のγ’相の単位面積当たりの個数を示す。
図7及び
図8に示すグラフが、表示装置15に表示されてもよい。
【0053】
図7及び
図8に示すように、加熱後粒径分布データADは、第3分布データD3と、第4分布データD4とを含む。第3分布データD3及び第4分布データD4のそれぞれは、加熱後のγ’相の粒径と、その粒径のγ’相の単位面積当たりの個数との関係を示す粒径分布データである。
【0054】
第3分布データD3は、加熱により第1分布データD1から変化した粒径分布データである。第4分布データD4は、加熱により第2分布データD2から変化した粒径分布データである。
【0055】
第3分布データD3は、γ’相の第3粒径S3に関するデータを含む。本実施形態において、第3粒径S3は、第3分布データD3の粒径の平均値(平均粒径)である。第3分布データD3において、第3粒径S3の個数が最大となる。第3粒径S3の個数K3が、第3分布データD3における個数の最大値である。第3分布データD3において個数が最大となる粒径が第3粒径S3である。
【0056】
第4分布データD4は、γ’相の第4粒径S4に関するデータを含む。第4粒径S4は、第3粒径S3よりも大きい。本実施形態において、第4粒径S4は、第4分布データD4の粒径の平均値(平均粒径)である。第4分布データD4において、第4粒径S4の個数が最大となる。第4粒径S4の個数K4が、第4分布データD4における個数の最大値である。第4分布データD4において個数が最大となる粒径が第4粒径S4である。
【0057】
加熱されることによって、γ’相は粗大化する。第1粒径S1から第3粒径S3への変化量(第1粒径S1と第3粒径S3との差)は、Δaである。第2粒径S2から第4粒径S4への変化量(第2粒径S2と第4粒径S4との差)は、Δbである。
【0058】
図7及び
図8に示すように、タービン部材Mの加熱温度が高いときと低いときとで、加熱後粒径分布データADは、異なる。すなわち、第1温度TLで加熱した後の加熱後粒径分布データADと、第2温度THで加熱した後の加熱後粒径分布データADとは、異なる。
【0059】
以下の説明において、
図7に示すように、第1温度TLで加熱した後の加熱後粒径分布データADを適宜、加熱後粒径分布データADL、と称し、第1温度TLで加熱した後の第3分布データD3を適宜、第3分布データD3L、と称し、第1温度TLで加熱した後の第4分布データD4を適宜、第4分布データD4L、と称する。
【0060】
また、
図7に示すように、第1温度TLで加熱した後の第3分布データD3の第3粒径S3を適宜、第3粒径S3L、と称し、第3粒径S3Lの個数K3を適宜、個数K3L、と称し、第1温度TLで加熱した後の第4分布データD4の第4粒径S4を適宜、第4粒径S4L、と称し、第4粒径S4Lの個数K4を適宜、個数K4L、と称する。
【0061】
また、
図7に示すように、第1粒径S1から第3粒径S3Lへの変化量(第1粒径S1と第3粒径S3Lとの差)Δaを適宜、ΔaL、と称し、第2粒径S2から第4粒径S4Lへの変化量(第2粒径S2と第4粒径S4Lとの差)Δbを適宜、ΔbL、と称する。
【0062】
以下の説明において、
図8に示すように、第2温度THで加熱した後の加熱後粒径分布データADを適宜、加熱後粒径分布データADH、と称し、第2温度THで加熱した後の第3分布データD3を適宜、第3分布データD3H、と称し、第2温度THで加熱した後の第4分布データD4を適宜、第4分布データD4H、と称する。
【0063】
また、
図8に示すように、第2温度THで加熱した後の第3分布データD3の第3粒径S3を適宜、第3粒径S3H、と称し、第3粒径S3Hの個数K3を適宜、個数K3H、と称し、第2温度THで加熱した後の第4分布データD4の第4粒径S4を適宜、第4粒径S4H、と称し、第4粒径S4Hの個数K4を適宜、個数K4H、と称する。
【0064】
また、
図8に示すように、第1粒径S1から第3粒径S3Hへの変化量(第1粒径S1と第3粒径S3Hとの差)Δaを適宜、ΔaH、と称し、第2粒径S2から第4粒径S4Hへの変化量(第2粒径S2と第4粒径S4Hとの差)Δbを適宜、ΔbH、と称する。
【0065】
図7に示すように、個数K3Lは、個数K1よりも小さい(少ない)。個数K4Lは、個数K2とほぼ等しい。個数K3Lは、個数K4Lよりも大きい(多い)。個数K1は、個数K3L、個数K2、及び個数K4Lよりも大きい。個数K2及び個数K4Lは、個数K1及び個数K3Lよりも小さい。
【0066】
第3粒径S3Lは、第1粒径S1よりも大きい。すなわち、第1分布データD1の初期粒径S1は、加熱により粗大化し、第3粒径S3Lに変化する。第4粒径S4Lは、第2粒径S2よりも僅かに大きい。第3粒径S3Lは、第1粒径S1よりも大きく、第2粒径S2よりも小さい。第1粒径S1、第3粒径S3L、第2粒径S2、及び第4粒径S4Lのうち、第4粒径S4Lが最も大きく、第4粒径S4Lに次いで第2粒径S2が大きく、第2粒径S2に次いで第3粒径S3Lが大きく、第1粒径S1が最も小さい。
【0067】
第1粒径S1から第3粒径S3Lへの変化量(第1粒径S1と第3粒径S3Lとの差)ΔaLは、第2粒径S2から第4粒径S4Lへの変化量(第2粒径S2と第4粒径S4Lとの差)ΔbLよりも大きい。
【0068】
図8に示すように、本実施形態において、個数K3Hは、個数K1よりも小さい。個数K4Hは、個数K2よりも大きい。個数K4Hは、個数K3Hよりも大きい。個数K3Hは、個数K1、個数K4H、及び個数K2よりも小さい。個数K1は、個数K4H、個数K2、及び個数K3Hよりも大きい。
【0069】
第3粒径S3Hは、第1粒径S1よりも大きい。すなわち、第1分布データD1の初期粒径S1は、加熱により粗大化し、第3粒径S3Hに変化する。第4粒径S4Hは、第2粒径S2よりも大きい。すなわち、第2分布データD2の初期粒径S2は、加熱により粗大化し、第4粒径S4Hに変化する。第3粒径S3Hは、第2粒径S2よりも大きく、第4粒径S4Hよりも小さい。第1粒径S1、第2粒径S2、第3粒径S3H、及び第4粒径S4Hのうち、第4粒径S4Hが最も大きく、第4粒径S4Hに次いで第3粒径S3Hが大きく、第3粒径S3Hに次いで第2粒径S2が大きく、第1粒径S1が最も小さい。第1粒径S1から第3粒径S3Hへの変化量(第1粒径S1と第3粒径S3Hとの差)ΔaHは、第2粒径S2から第4粒径S4Hへの変化量(第2粒径S2と第4粒径S4Hとの差)ΔbHよりも大きい。
【0070】
図7及び
図8に示すように、加熱によりγ’相は粗大化する。加熱温度が第1温度TLと第2温度THとの両方で、第1分布データD1の第1粒径S1は大きくなり、第3粒径S3に変化する。同様に、加熱温度が第1温度TLと第2温度THとの両方で、第2分布データD2の第2粒径S2は大きくなり、第4粒径S4に変化する。
【0071】
メタル温度Trが第2温度THよりも低い第1温度TLであるとき、第1粒径S1から第3粒径S3Lへの変化量ΔaLは、第2粒径S2から第4粒径S4Lへの変化量ΔbLよりも大きい。本発明者の知見によれば、初期粒径が小さいほど、加熱前から加熱後へのγ’相の粒径の変化量は大きくなる。換言すれば、初期粒径が小さいほど、その粒径の変化量は、温度変化に敏感である。したがって、メタル温度Trが第1温度TLであるとき、第1分布データD1の粒径の変化量ΔaLは、第2分布データD2の粒径の変化量ΔbLよりも大きい。
【0072】
また、
図7に示したように、メタル温度Trが第2温度THよりも低い第1温度TLであるとき、加熱後の第3分布データD3Lの第3粒径S3Lの個数の最大値K3Lは、加熱後の第4分布データD4Lの第4粒径S4Lの個数の最大値K4Lよりも大きい。一方、
図8に示したように、メタル温度Trが第1温度TLよりも高い第2温度THであるとき、加熱後の第3分布データD3Hの第3粒径S3Hの個数の最大値K3Hは、加熱後の第4分布データD4Hの第4粒径S4Hの個数の最大値K4Hよりも小さい。
【0073】
このように、メタル温度Trが高いときと低いときとで、初期粒径からの変化量(初期粒径と加熱後の粒径との差)Δは、異なる。また、メタル温度Trが高いときと低いときとで、加熱後の第3分布データD3及び第4分布データD4における個数の最大値の関係は、異なる。
【0074】
図6に戻って、制御装置12は、メタル温度Trを推定するために、第1分布データD1及び第2分布データD2のいずれか一方を選択する(ステップSB6)。制御装置12は、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとを比較した結果に基づいて、第1分布データD1及び第2分布データD2のいずれか一方を選択する。
【0075】
加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとの比較は、第1分布データD1の個数が最大となる第1粒径S1と、第3分布データD3の個数が最大となる第3粒径S3とを比較することを含む。また、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとの比較は、第2分布データD2の個数が最大となる第2粒径S2と、第4分布データD4の個数が最大となる第4粒径S4とを比較することを含む。
【0076】
第1分布データD1の平均粒径S1とその第1分布データD1の加熱後の分布データである第3分布データD3の平均粒径S3との差Δa、及び第2分布データD2の平均粒径S2とその第2分布データD2の加熱後の分布データである第4分布データD4の平均粒径S4との差Δbは、メタル温度Trが高いときと低いときとで異なる。メタル温度Trが第2温度THよりも低い第1温度TLであるとき、加熱前の平均粒径S1と加熱後の平均粒径S3Lとの差ΔaLは大きく、加熱前の平均粒径S2と加熱後の平均粒径S4Lとの差ΔbLは小さい。メタル温度Trが第1温度TLよりも高い第2温度THであるとき、加熱前の平均粒径S1と加熱後の平均粒径S3Hとの差ΔaHは大きく、加熱前の平均粒径S2と加熱後の平均粒径S4Hとの差ΔbHも大きい。
【0077】
したがって、加熱前の平均粒径S1と加熱後の平均粒径S3との差Δaが加熱前の平均粒径S2と加熱後の平均粒径S4との差Δbよりも大きく、メタル温度Trが低いと予想される場合、第2分布データD2及び第4分布データD4Lを使ってメタル温度を推定するよりも、第1分布データD1及び第3分布データD3Lを使ってメタル温度を推定するほうが、高い精度でメタル温度Trを推定することができる。
【0078】
そのため、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとを比較して、差Δaが差Δbよりも大きいと判断された場合、制御装置12は、メタル温度Trを推定するために、第1分布データD1を選択する。
【0079】
なお、
図8に示したように、加熱前の平均粒径S1と加熱後の平均粒径S3Hとの差ΔaH、及び加熱前の平均粒径S2と加熱後の平均粒径S4Hとの差ΔbHの両方が大きく、メタル温度Trが高いと予想される場合、メタル温度Trを推定するために、第1分布データD1及び第2分布データD2のいずれか一方が選択されてもよい。例えば、差Δaが予め定められている閾値よりも小さい場合、第1分布データD1が選択され、差Δaが予め定められている閾値よりも大きい場合、第2分布データD2が選択されてもよい。
【0080】
また、本実施形態において、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとの比較は、第3分布データD3の個数の最大値K3と、第4分布データD4の個数の最大値K4とを比較することを含む。
【0081】
第3分布データD3の個数の最大値K3と、第4分布データD4の個数の最大値K4との関係(大小関係)は、メタル温度Trが高いときと低いときとで異なる。
図7に示したように、メタル温度Trが第2温度THよりも低い第1温度TLであるとき、第3分布データD3Lの個数の最大値K3Lは、第4分布データD4Lの個数の最大値K4Lよりも大きい。一方、
図8に示したように、メタル温度Trが第1温度TLよりも高い第2温度THであるとき、第3分布データD3Hの個数の最大値K3Hは、第4分布データD4Hの個数の最大値K4Hよりも小さい。
【0082】
したがって、第3分布データD3の個数の最大値K3が、第4分布データD4の個数の最大値K4よりも大きく、メタル温度Trが低いと予想される場合、第2分布データD2及び第4分布データD4(D4L)を使ってメタル温度Trを推定するよりも、第1分布データD1及び第3分布データD3(D3L)を使ってメタル温度Trを推定するほうが、高い精度でメタル温度Trを推定することができる。
【0083】
そのため、第3分布データD3の個数の最大値K3と、第4分布データD4の個数の最大値K4とを比較して、最大値K3が最大値K4よりも大きいと判断された場合、制御装置12は、メタル温度Trを推定するために、第1分布データD1を選択する。
【0084】
一方、第3分布データD3の個数の最大値K3が、第4分布データD4の個数の最大値K4よりも小さく、メタル温度Trが高いと予想される場合、第1分布データD1及び第3分布データD3(D3H)を使ってメタル温度Trを推定するよりも、第2分布データD2及び第4分布データD4(D4H)を使ってメタル温度Trを推定するほうが、高い精度でメタル温度Trを推定することができる。
図8に示すように、メタル温度Trが高い場合、第3分布データD3の個数の最大値K3が小さくなったり、消失したり、第3分布データD3が第4分布データD4と区別し難くなったりする可能性がある。その場合、第1分布データD1及び第3分布データD3を使ってメタル温度Trを推定しようとすると、高い精度でメタル温度Trを推定することが困難となる。
【0085】
そのため、第3分布データD3の個数の最大値K3と、第4分布データD4の個数の最大値K4とを比較して、最大値K3が最大値K4よりも小さいと判断された場合、制御装置12は、メタル温度Trを推定するために、第2分布データD2を選択する。
【0086】
なお、
図7に示したように、第3分布データD3Lの第3粒径S3Lは、第2分布データD2の第2粒径S2よりも小さい。
図8に示したように、第3分布データD3Hの第3粒径S3Hは、第2分布データD2の第2粒径S2よりも大きい。また、第3粒径S3Lの個数の最大値K3Lは、第2粒径S2の個数の最大値K2よりも大きく、第3粒径S3Hの個数の最大値K3Hは、第2粒径S2の個数の最大値K2よりも小さい。そのため、制御装置12は、第3分布データD3Lと第3分布データD3Hとを区別することができる。
【0087】
制御装置12は、第1分布データD1及び第2分布データD2のうち、選択された一方の分布データに基づいて、加熱後のタービン部材Mのメタル温度を推定する(ステップSB7)。
【0088】
以下、加熱前から加熱後へのγ’相の粒径の変化量に基づいてタービン部材Mのメタル温度を推定する方法の一例について説明する。以下の説明においては、ニッケル基合金製部品であるタービン部材Mの加熱前のγ’相の粒径(初期粒径)をr
0、加熱後のγ’相の粒径をr、ガスタービン1の運転時間(加熱時間)をtとする。加熱前のγ’相の粒径(初期粒径)r
0は、上述の初期粒径S1又は初期粒径S2に相当する。第1分布データD1が選択された場合、初期粒径r
0は、初期粒径S1である。第2分布データD2が選択された場合、初期粒径r
0は、初期粒径S2である。また、加熱後のγ’相の粒径rは、上述の第3粒径S3又は第4粒径S4に相当する。第1分布データD1が選択された場合、加熱後の粒径rは、第3粒径S3である。第2分布データD2が選択された場合、加熱後の粒径rは、第4粒径S4である。
【0089】
例えば特許第4440124号公報に開示されているように、γ’相が析出されているニッケル基合金が加熱されたとき、
r
3−r
03=kt …(1)
k=C・exp(−Q/RT)/T …(2)
の条件が満たされる。kは、実験的に求められる比例定数であり、γ’相の粗大化速度に相当する。kは、タービン部材Mの各種材料ごとに定まる値である。
【0090】
(2)式に示すように、比例定数k(γ’相の粗大化速度)は、温度依存性を有する。γ’相の粒径(r
3−r
03)は、温度毎に時間に比例する。定数C及び定数Qは、例えば700℃以上1000℃以下において長時間の加熱試験を実施し、メタル温度Tと加熱時間tと粒径の変化量との関係に基づいて求めることができる。定数C及び定数Qが決定されることにより、温度推定式である(1)式が導出される。
【0091】
図9は、(1)式の一例を示すグラフであって、タービン部材Mを加熱した加熱時間tと、γ’相の粒径(r
3−r
03)との関係を示す。横軸は、加熱時間tである。縦軸は、加熱前のγ’相の粒径r
0の3乗と加熱後のγ’相の粒径rの3乗との差を示す。
図9において、ラインLaは、メタル温度Tが温度Taのときのr
3−r
03と加熱時間tとの関係を示す。温度Taは、例えば750℃である。ラインLbは、メタル温度Tが温度Tbのときのr
3−r
03と加熱時間tとの関係を示す。温度Tbは、例えば800℃である。ラインLcは、メタル温度Tが温度Tcのときのr
3−r
03と加熱時間tとの関係を示す。温度Tcは、例えば850℃である。
【0092】
(1)式及び(2)式を用いれば、一定時間加熱したタービン部材Mのメタル温度を、γ’相の粒径(r
3−r
03)と加熱時間tとに基づいて求めることができる。
【0093】
以上説明したように、本実施形態によれば、加熱前粒径分布データBD及び加熱後粒径分布データADを導出し、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとを比較した結果に基づいて、加熱後のタービン部材Mのメタル温度Trを推定するため、メタル温度Trが低い場合でも、タービン部材Mのメタル温度を精確に推定することができる。
【0094】
すなわち、γ’相の粒径の変化量に基づいてメタル温度Trを推定する場合、ニッケル基合金に含まれるγ’相の平均粒径の変化量に基づいてメタル温度Trを推定しようとすると、初期粒径(r
0)から加熱後の粒径(r)までの変化量が小さい場合、十分な精度でメタル温度Trを推定できない可能性がある。例えば、メタル温度が800℃よりも低い場合、初期粒径(r
0)と加熱後の粒径(r)との差が小さい可能性が高い。そのため、γ’相の平均粒径の変化量に基づいてメタル温度Trを推定しようとすると、十分な精度でメタル温度Trを推定できない可能性がある。
【0095】
例えば、タービン部材Mがガスタービン1の後方段の動翼又は静翼の場合、運転時のメタル温度Trが800℃よりも低いことが多く、設計時のメタル温度を満足しているかどうかを確認するためには、より低いメタル温度Trでも温度推定する必要がある。
【0096】
本実施形態によれば、γ’相の粒径が小さいほどその粒径の変化量が温度変化に敏感であることを利用して、第1粒径S1で個数が最大値K1となる第1分布データD1と第2粒径S2で個数が最大値K2となる第2分布データD2とを含む加熱前粒径分布データBDを導出し、その加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとを比較する。これにより、メタル温度Trが低い場合でも、タービン部材Mのメタル温度Trを精確に推定することができる。すなわち、メタル温度Trが低く、粒径の変化量が小さい可能性が高い場合、粒径の変化量が大きくなる第1分布データD1及び第3分布データD3を利用することによって、メタル温度Trが低い場合でも、タービン部材Mのメタル温度Trを精確に推定することができる。
【0097】
また、メタル温度Trが低く、粒径の変化量が小さい場合、第1分布データD1を選択し、メタル温度Trが高く、粒径の変化量が大きい場合、第2分布データD2を選択することで、メタル温度Trが低い場合のみならず、メタル温度Trが高い場合でも、タービン部材Mのメタル温度Trを精確に推定することができる。
【0098】
図7及び
図8を参照して説明したように、メタル温度Trに応じて、加熱後粒径分布データADは変化する。加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとの比較において、第1分布データD1の第1粒径S1と第3分布データD3の第3粒径S3との比較、及び第2分布データD2の第2粒径S2と第4分布データD4の第4粒径S4との比較を行うことによって、第1分布データD1及び第2分布データD2の選択において、適切な選択を行うことができる。
【0099】
また、加熱前粒径分布データBDと加熱後粒径分布データADとの比較において、第3分布データD3の個数の最大値K3と第4分布データD4の個数の最大値K4との比較を行うことによっても、第1分布データD1及び第2分布データD2の選択において、適切な選択を行うことができる。
【0100】
なお、上述の実施形態において、検出装置13を使って検出されるタービン部材Mは、実際にガスタービン1に使用されるタービン部材(所謂、実機)でもよいし、実機を模したタービン部材(所謂、レプリカ)でもよい。また、タービン部材は、実機であるガスタービン1に使用されることによって加熱されてもよいし、実機であるガスタービン1を模した加熱試験装置において加熱されてもよい。
【0101】
なお、上述の実施形態においては、加熱前粒径分布データBDが第1分布データD1及び第2分布データD2を有し、2つのピーク値を有することとした。加熱前粒径分布データBDが3つ以上の任意の数のピーク値を有してもよい。同様に、加熱後粒径分布データADが3つ以上の任意の数のピーク値を有してもよい。