特許第6100204号(P6100204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100204
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】消化槽の運転方法および消化槽
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20170313BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C02F11/04 AZAB
   B09B3/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-104185(P2014-104185)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-217364(P2015-217364A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2014年7月8日
【審判番号】不服2016-199(P2016-199/J1)
【審判請求日】2016年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 智裕
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 淳
(72)【発明者】
【氏名】榎本 周一
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 豊永 茂弘
【審判官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−216799(JP,A)
【文献】 特開平2−146422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/04
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化槽本体に投入された被処理物を、攪拌装置の回転により攪拌しながら発酵処理する消化槽の運転方法であって、
前記発酵処理によるガス発生量の基準値を設定する基準値設定工程と、
前記ガス発生量を前記基準値と比較し、前記ガス発生量が前記基準値以上の場合は前記攪拌装置の回転数を下げる回転数制御工程と、
を備え
前記攪拌装置の回転数は3段階以上の複数段階に設定可能であり、前記回転数制御工程では当該回転数を1段階ずつ変化させることを特徴とする消化槽の運転方法。
【請求項2】
前記回転数制御工程において、前記ガス発生量が前記基準値未満の場合は前記攪拌装置の回転数を上げる請求項1に記載の消化槽の運転方法。
【請求項3】
前記回転数制御工程において、前記ガス発生量が前記基準値以上の場合に、最終的に前記攪拌装置の回転を停止させる請求項1または2に記載の消化槽の運転方法。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の消化槽の運転方法における前記回転数制御工程を実行する制御装置を備えた消化槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物(下水汚泥、食品廃棄物等の有機性廃棄物)を発酵処理するための消化槽の運転方法および消化槽に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物(下水汚泥、食品廃棄物等の有機性廃棄物)の発酵処理を行う消化槽においては、発酵を促進するために、一般的に槽内で被処理物の攪拌が行われる。例えば、特許文献1に記載の消化槽では、消化槽内のガスを吸引して消化槽の下部からガスを噴出させる攪拌ブロア(攪拌装置)を設けることにより、槽内の被処理物を攪拌するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−174700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような消化槽においては、被処理物の投入タイミングや投入量等の種々の要因により、被処理物を攪拌すべき程度は変化する。このため、攪拌装置を常時同じ条件で作動させると、それほど攪拌する必要がないときには過剰な攪拌を行うことになり、無駄に電力を消費してしまう。
【0005】
そこで、特許文献1の消化槽では、2台設けられた攪拌ブロアのうち、一方の攪拌ブロを、処理負荷が増大する被処理物の投入直後の一定期間のみ作動させることで、電力の消費を抑えている。しかしながら、このような攪拌ブロアの制御方法によれば、少なくとも1台の攪拌ブロアは常時作動していることになり、消費電力の低減には限界があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、攪拌装置を備えた消化槽において、攪拌装置の消費電力を効果的に低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、消化槽本体に投入された被処理物を、攪拌装置の回転により攪拌しながら発酵処理する消化槽の運転方法であって、前記発酵処理によるガス発生量の基準値を設定する基準値設定工程と、前記ガス発生量を前記基準値と比較し、前記ガス発生量が前記基準値以上の場合は前記攪拌装置の回転数を下げる回転数制御工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
被処理物の発酵処理によるガス発生量が基準値以上である場合には、十分な攪拌が行われていると考えられ、攪拌装置の回転数を下げても直ちに支障が生ずることはない。そこで、本発明では、ガス発生量が基準値以上の場合に、攪拌装置の回転数を下げることにより、消費電力の低減を図っている。この方法によれば、ガス発生量が基準値以上となっている限りは、回転数を下げ続けることが可能となるので、攪拌装置の消費電力を効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明にかかる消化槽の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
図2】攪拌装置の回転数制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明にかかる消化槽の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示す消化槽100は、被処理物としての汚泥(下水汚泥、食品廃棄物等の有機性廃棄物)を嫌気性発酵処理するものであり、主に、汚泥が投入される消化槽本体1と、汚泥を攪拌する攪拌装置2と、汚泥を加温する加温装置3と、消化槽本体1の底面に堆積した汚泥を排出するための汚泥排出装置4と、攪拌装置2の回転数を制御する制御装置5と、を具備して構成される。
【0011】
(消化槽本体)
消化槽本体1は、汚泥を嫌気性発酵処理するための槽であり、本実施形態では縦型円筒形状としている。ただし、消化槽本体1の形状はこれに限られるものではない。また、消化槽本体1は、加工が容易な鋼板製となっており、消化槽本体1をコンクリート製とする場合と比べて、製作期間を短縮することができ、且つ製作費用を抑えることができるものとなっている。ただし、消化槽本体1をコンクリート製とすることも可能である。
【0012】
消化槽本体1に投入された汚泥は、加温装置3により加温されるとともに、攪拌装置2により攪拌される。嫌気性発酵により発生した消化ガスは、消化槽本体1の頂部に接続されたガス排出管11から排出される。ガス排出管11には、消化ガスの発生量を計測するためのガス量計測器12が設けられており、ガス発生量に関する情報がガス量計測器12から制御装置5に送られる。なお、嫌気性発酵により発生する消化ガスは、例えばメタンが約60容量%、二酸化炭素が約40容量%のガス(バイオガス)である。
【0013】
(攪拌装置)
消化槽本体1に取り付けられた攪拌装置2は、消化槽本体1に投入された汚泥を攪拌するためのものである。攪拌装置2は、平面視において消化槽本体1の中央に設けられており、シャフト2aと、シャフト2aに2段配置されたインペラ2bとを有する。シャフト2aの上端部は、消化槽本体1の外部に設けられたモータ21に連結されている。なお、攪拌装置2を平面視において消化槽本体1の中央から偏心させて設けてもよいし、インペラ2bは2段配置に限定されず、1段でも3段以上であってもよい。
【0014】
攪拌装置2を図1の符号f1の方向に回転させることで、符号f2で示すように、消化槽本体1の中央部では上から下への流れ、消化槽本体1の周縁部では下から上への流れとなる攪拌流が形成される。なお、攪拌装置2の回転方向はこれに限定されず、攪拌装置2を符号f1の反対向きに回転させて、符号f2の反対向きの攪拌流を形成してもよいし、攪拌装置2の回転方向およびこれに伴う攪拌流の流れを変化させるようにしてもよい。
【0015】
なお、本実施形態では、攪拌装置2をインペラ2bで汚泥を攪拌する機械式攪拌装置としているが、ドラフトチューブ式やスクリュー羽根式等の他の機械式攪拌装置であってもよい。
【0016】
(加温装置)
加温装置3は、消化槽本体1に投入された汚泥を加温するためのものである。加温装置3は、加温器(熱交換器)31と、加温器31と消化槽本体1の上下部とを接続する配管32と、配管32に配設されるポンプ33とを有する。加温器31には、ボイラー(不図示)などの温水源から温水が供給される。消化槽本体1の下部から吸引された汚泥は、加温器31にて加温された後、消化槽本体1の上部から消化槽本体1内に戻される。なお、加温装置3は、消化槽本体1内の汚泥の攪拌にも寄与する。
【0017】
(汚泥排出装置)
汚泥排出装置4は、消化槽本体1の底部から堆積汚泥を外部へ排出するための装置であり、消化槽本体1の底部に吸引口が配置される引抜管41と、引抜管41に配設されるポンプ42とを有する。ポンプ42を作動させて、引抜管41内に負圧を発生させることにより、引抜管41の吸引口から汚泥が吸い込まれ、外部へ排出される。
【0018】
(制御装置)
制御装置5は、ガス排出管11に設けられたガス量計測器12による消化ガスの発生量の計測値に基づいて、攪拌装置2の回転数を決定し、モータ21に動作指令を送出する装置である。制御装置5により実行される攪拌装置2の回転数制御について、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、図2に示す回転数制御を実行する前提として、発酵処理が正常に行われている状態でのガス発生量である基準値Aがあらかじめ制御装置5に記憶されているものとする。
【0019】
(攪拌装置の回転数制御)
制御装置5による攪拌装置2の回転数制御においては、まず、攪拌装置2の回転数が最大値a(例えば20rpm)に設定される(ステップS101)。ただし、最初の回転数を最大値aに設定することは必須ではなく、最大値aよりも小さな回転数に設定することも可能である。なお、本実施形態では、攪拌装置2の回転数を、大きい値から順にa、b、c、0(停止)の4段階に設定可能であるとしたが、この設定は適宜変更が可能である。
【0020】
攪拌装置2の回転数を最大値aに設定したあと、制御装置5は、ガス量計測器12で計測されたガス発生量が、事前に設定された基準値A以上か否かを判断する(ステップS102)。その結果、ガス発生量が基準値A以上の場合には、十分な攪拌が行われているものと判断し、攪拌装置2の回転数を最大値aよりも1段階小さなbに下げる(ステップS103)。一方、ガス発生量が基準値A未満の場合には、攪拌が不十分であると判断し、攪拌装置2の回転数を最大値aのまま維持する(ステップS101)。回転数を最大値aに維持してもガス発生量が所定値に達しない場合には、原因に応じて汚泥の供給を行ったり、攪拌装置2の運転を停止する。
【0021】
ガス発生量と基準値Aとの比較は、所定時間ごとに実行するものとする。例えば、比較頻度は1時間毎として、前回の判定から今回の判定までの1時間の間のガス発生量の平均値を算出する。平均値≧Aなら回転数を下げ、平均値<Aなら回転数を上げる。攪拌装置2の回転数の制御はガス発生量と基準値Aとの比較頻度にあわせて行い、この場合は1時間に1回行うものとする。
【0022】
攪拌装置2の回転数をbに下げたあと、所定時間が経過すると、制御装置5は再びガス発生量が基準値A以上か否かを判断する(ステップS104)。その結果、ガス発生量が基準値A以上の場合には、攪拌装置2の回転数をさらに1段階下げてcとする(ステップS105)。一方、ガス発生量が基準値A未満の場合には、攪拌装置2の回転数を1段階上げて最大値aに戻す(ステップS101)。
【0023】
以下同様に、攪拌装置2の回転数をcに下げたあと、所定時間が経過すると、制御装置5は再びガス発生量が基準値A以上か否かを判断する(ステップS106)。その結果、ガス発生量が基準値A以上の場合には、攪拌装置2を停止する(回転数を0とする)(ステップS107)。一方、ガス発生量が基準値A未満の場合には、攪拌装置2の回転数を1段階上げてbに戻す(ステップS103)。
【0024】
攪拌装置2を停止したあと、所定時間が経過すると、制御装置5は再びガス発生量が基準値A以上か否かを判断する(ステップS108)。その結果、ガス発生量が基準値A以上の場合には、特に攪拌を行わなくても発酵処理が適切に進行していると判断し、攪拌装置2を停止した状態を維持する(ステップS107)。一方、ガス発生量が基準値A未満の場合には、攪拌を再開する必要があると判断し、攪拌装置2を回転数cで回転させる(ステップS105)。制御装置5は、以上説明した回転数制御を継続的に実行し、必要に応じて攪拌装置2の回転数を上げ下げする。
【0025】
(基準値の設定例)
基準値Aの設定方法としては、例えば、対象となる被処理物の発酵処理が正常に行われている状態でのガス発生量をあらかじめ測定し、この測定値に基づいて基準値Aを設定することができる。この設定方法であれば、被処理物の種類ごとに最適な基準値Aを求めることができるという点において有利である。
【0026】
一方、上記設定方法では、正常状態でのガス発生量をあらかじめ測定するという手間が生じる。そこで、このような測定を行わずに、各種指針等により、ガス発生量の一般値や目標値が知られている場合には、それらの値に基づいて基準値Aを設定してもよい。例えば、被処理物を下水汚泥とする場合、下水汚泥の投入量1t−VS(VS:Volatile solid、揮発性固形物)当たりのガス発生量は、500〜600m3N/t−VSと設計指針で定められている。したがって、投入される下水汚泥に含まれるVSの割合が分かれば、ガス発生量を推定することが可能であり、この推定値に基づいて基準値Aを設定してもよい。
【0027】
また、基準値Aを被処理物の種類にかかわらず一律に設定する場合には、上述のいずれかの方法によって設定した下水汚泥に関する基準値Aを用いればよい。というのも、一般的に、食品廃棄物や糞尿を被処理物としたときのガス発生量は、下水汚泥を被処理物としたときのガス発生量よりも多い。したがって、被処理物が食品廃棄物や糞尿の場合でも、下水汚泥に関する基準値Aを採用することで、ガス発生量は基準値A以上となりやすく、攪拌装置2の回転数が高止まりすることを防止できる。
【0028】
(効果)
以上説明した本実施形態の回転数制御によれば、ガス発生量が基準値A以上となっている限りは、回転数を下げ続けることが可能となるので、攪拌装置2の消費電力を効果的に低減させることができる。特に本実施形態では、ガス発生量が基準値A以上である状態が維持される場合には、攪拌装置2を最終的に停止させる制御としているので、消費電力の低減効果がより顕著である。
【0029】
また、本実施形態の回転数制御によれば、ガス発生量が基準値A未満の場合には、攪拌装置2の回転数が上げられる。ガス発生量が基準値A未満である場合には、汚泥の攪拌が不十分であると考えられる。そこで、このような場合には、攪拌装置2の回転数を上げることで、攪拌力を向上させて、発酵処理を促進させることができる。
【0030】
また、本実施形態の回転数制御では、攪拌装置2の回転数を上げる場合も下げる場合も、その上げ下げを1段階ずつ行っている。このように回転数の制御を1段階ずつ行うことで、発酵処理の状態を急変させることなく、安定した発酵処理を行うことができる。また、小刻みに回転数を下げていくことで、汚泥の発酵処理を妨げることのないよう限界近くまで回転数を下げることが可能となり、消費電力を一層効果的に低減させることができる。
【0031】
また、本実施形態のように、攪拌装置2の回転数制御を制御装置5で自動的に行うことで、攪拌装置2の消費電力を確実に低減させることが可能となる。
【0032】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上記実施形態の要素を適宜組み合わせまたは種々の変更を加えることが可能である。
【0033】
上記実施形態では、ガス発生量が基準値A未満の場合に、攪拌装置2の回転数を上げるものとしたが、そのときの回転数を維持するようにしてもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、攪拌装置2の回転数制御の結果、最終的に攪拌装置2を停止(回転数を0とする)させてもよいものとしたが、最低限の回転数を維持するように回転数の下限値を設けるようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、攪拌装置2の回転数の上げ下げを1段階ずつ行うものとしたが、このように回転数を制御することは必須ではない。例えば、ガス発生量が基準値Aよりも所定量以上大きい場合には、回転数を2段階以上一度に下げることにより、消費電力の低減効果をより大きくできるため好適である。一方、ガス発生量が基準値Aよりも所定量以上小さい場合には、回転数を2段階以上一度に上げることにより、発酵処理を迅速に促進させることができるため好適である。つまり、ガス発生量と基準値Aとの差に応じて、回転数の上げ下げの段階数を決めることで、より好ましい制御とすることができる。
【0036】
また、上記実施形態では、攪拌装置2の回転数制御を制御装置5により自動的に実行するものとしたが、ガス発生量に基づいて作業者が攪拌装置2の回転数を適宜変更するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1:消化槽本体
2:攪拌装置
5:制御装置
100:消化槽
図1
図2