(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも前記クランク軸の回転方向の後方側の前記スラストリリーフが、2つの平面部、2つの曲面部、又は平面部及び曲面部からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の半割スラスト軸受。
少なくとも前記クランク軸の回転方向の後方側の前記スラストリリーフが、前記半割スラスト軸受の周方向端面と隣接する第1曲面部と、前記摺動面と隣接する平面部とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の半割スラスト軸受。
少なくとも前記クランク軸の回転方向の後方側の前記スラストリリーフが、前記半割スラスト軸受の周方向端面と隣接する第1曲面部と、前記摺動面と隣接する第2曲面部とからなり、
前記周方向端面と隣接する第1曲面部は、径方向から見て、摺動面側から背面側に向かって凸状の曲面であり、また
前記摺動面と隣接する第2曲面部は、前記背面側から前記摺動面側に向かって凸状の曲面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半割スラスト軸受。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
(軸受装置の全体構成)
まず、
図1、5及び6を用いて本発明の半割スラスト軸受8を有する軸受装置1の全体構成を説明する。
図1、5及び6に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力f(
図6参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0018】
図5に示すように、主軸受を構成する半割軸受7のうち、シリンダブロック2側(上側)の半割軸受7の内周面には潤滑油溝71が形成され、また潤滑油溝71内には外周面に貫通する貫通孔72が形成されている(
図20及び21も参照)。なお、潤滑油溝は、上下両方の半割軸受に形成することもできる。
【0019】
また半割軸受7には、半割軸受7同士の当接面に隣接して、周方向両端部にクラッシュリリーフ73、73が形成されている(
図5参照)。クラッシュリリーフ73は、半割軸受7の周方向端面に隣接する領域の壁厚が、周方向端面に向かって徐々に薄くなるように形成された壁厚減少領域である。クラッシュリリーフ73は、一対の半割軸受7、7を組み付けたときの突合せ面の位置ずれや変形を吸収することを企画して形成される。
【0020】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、
図2〜4を用いて実施例1の半割スラスト軸受8の構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8は、鋼製の裏金層に薄い軸受合金層を接着したバイメタルによって、半円環形状の平板に形成される。半割スラスト軸受8は、中央領域に軸受合金層から構成された摺動面81(軸受面)と、周方向両側の端面83、83に隣接する領域にスラストリリーフ82、82とを備えている。摺動面81には、潤滑油の保油性を高めるために、両側のスラストリリーフ82、82の間に2つの油溝81a、81aが形成されている。
【0021】
スラストリリーフ82は、摺動面81側の周方向両端面に隣接する領域に、壁厚が端面に向かって徐々に薄くなるように形成される壁厚減少領域であり、半割スラスト軸受8の周方向端面の径方向全長に亘って延びている。スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8を分割型の軸受ハウジング4内に組み付けた際の位置ずれ等に起因する、一対の半割スラスト軸受8、8の周方向端面83、83同士の位置ずれを緩和するために形成される。
【0022】
本実施例において、スラストリリーフ82の表面は平面から構成されているが、曲面から構成することもできる。表面は、単一の平面から構成することができ、又は複数の平面を組み合わせて構成することもできる。さらに、表面は単一の曲面から構成することもでき、又は複数の曲面を組み合わせて構成することもできる。またスラストリリーフ82の表面は、平面と曲面を組み合わせて構成してもよい。なお、上記「単一の曲面」とは、1つの曲率半径によって定義される曲面を意味する。
【0023】
図2に示すように、本実施例のスラストリリーフ82は、スラストリリーフ82の表面の径方向内側端部と外側端部とで長さが異なっている。すなわち、径方向内側端部におけるスラストリリーフ長さL1が、径方向外側端部のスラストリリーフ長さL2よりも短い(スラストリリーフ82は、径方向内側端部から外側端部に向かって長さが長くなるように変化している)。
【0024】
ここで、スラストリリーフ長さとは、半割スラスト軸受8の両端面83を通る平面(半割平面)から垂直方向に測った長さを意味する。特に、内側端部におけるスラストリリーフ長さは、L1として、半割平面からスラストリリーフ82の表面が摺動面81の内周縁と交わる点までの長さで定義され、また外側端部におけるスラストリリーフ長さは、L2として、半割平面からスラストリリーフ82の表面が摺動面81の外周縁と交わる点までの長さで定義される。
【0025】
図3は、半割スラスト軸受8の周方向の端部近傍を、内側(
図2のYI矢視方向)から見た側面を示す。同様に、
図4は、半割スラスト軸受8の周方向の端部近傍を、外側(
図2のYO矢視方向)から見た側面を示す。
【0026】
図3及び4から理解されるように、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82の表面は、周方向端面83において、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82の径方向内側端部から径方向外側端部に亘って一定の軸線方向深さRDを有するように形成される。
【0027】
ここで、深さRDとは、半割スラスト軸受8の摺動面81を含む平面からスラストリリーフ82の表面までの軸線方行距離を意味する。換言すれば、深さRDは、摺動面81をスラストリリーフ82上まで延長して仮想摺動面とした場合に仮想摺動面から垂直に測った距離である。したがって深さRDは、半割スラスト軸受8の周方向端面83における、スラストリリーフ82の表面から摺動面81までの長さで定義される。
【0028】
また、半割スラスト軸受8の内側端部におけるスラストリリーフ隙間の軸線方向断面積A1は、外側端部におけるスラストリリーフ隙間の軸線方向断面積A2よりも狭く形成されている。ここで、スラストリリーフ隙間とは、スラストリリーフ82の表面と、摺動面81を延長した平面(仮想摺動面)と、周方向端面83を延長した平面(仮想端面)と、スラスト軸受8の内周面をなす半円筒面と、スラスト軸受8の外周面をなす半円筒面とによって囲まれる空間を意味する。
【0029】
そして、スラストリリーフ隙間の軸線方向断面積A1は、半割スラスト軸受8の径方向から見て、半割スラスト軸受8の摺動面81の内側端部でのスラストリリーフ82面と、摺動面81をスラストリリーフ82上に延長した仮想の延長線と、半割スラスト軸受8の周方向端面83をスラストリリーフ隙間に延長した仮想の延長線とによって囲まれる範囲の面積を意味する。同様に、スラストリリーフ隙間の軸線方向断面積A2は、半割スラスト軸受8の径方向から見て、半割スラスト軸受8の摺動面81の外側端部でのスラストリリーフ82面と、摺動面81をスラストリリーフ82上に延長した仮想の延長線と、半割スラスト軸受8の周方向端面83をスラストリリーフ隙間に延長した仮想の延長線とによって囲まれる範囲の面積を意味する。
【0030】
スラストリリーフ82の具体的な寸法として、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30〜100mm程度)に使用する場合、例えば以下の寸法とすることができる。すなわち、半割スラスト軸受8の周方向端面における摺動面81からスラストリリーフ82までの深さRDを0.1mm〜1.0mmとすること、より望ましくは、0.15mm〜0.5mmとすることができる。また、径方向の内側端部でのスラストリリーフ長さL1を0.5mm〜15mmとし、径方向の外側端部でのスラストリリーフ長さL2を2.5mm〜25mmとすることができる。より望ましくは、スラストリリーフ長さL1は0.5mm〜5mmであり、またスラストリリーフ長さL2は2.5mm〜10mmである。なお、これらの寸法は一例に過ぎず、この寸法範囲に限定されない。
【0031】
上述したスラストリリーフ長さL1とスラストリリーフ長さL2とは、数値範囲が一部重複している。しかし、これは軸受サイズが大きくなるほどスラストリリーフ長さを大きくする必要があるからである。したがって、スラストリリーフ長さL1及びL2は、それぞれの数値範囲内で、L1<L2とすべきである。
【0032】
(作用)
次に、
図5及び6を用いて、本実施例の半割スラスト軸受8の作用を説明する。
【0033】
(給油作用)
軸受装置1において、オイルポンプ(図示せず)から加圧されて吐出された潤滑油は、シリンダブロック2の内部油路から半割軸受7の壁を貫通する貫通孔72を通り、半割軸受7の内周面の潤滑油溝71に供給される。潤滑油溝71内に供給された潤滑油は、一部は半割軸受7の内周面に供給され、一部はジャーナル部表面に設けたクランク軸の内部油路ための開口(図示せず)を通ってクランクピン側へ送られ、また他の一部は主軸受を構成する一対の半割軸受7、7のクラッシュリリーフ73の表面とクランク軸のジャーナル部11の表面との間の隙間を通って、半割軸受7、7の軸線方向両端から外部へ流出する。
【0034】
本実施例において、半割軸受7は半割スラスト軸受8と同心に配置され、且つ主軸受を構成する半割軸受7の周方向両端面を含む平面は、半割スラスト軸受8の周方向両端面を含む平面と平行になされ、それによりクラッシュリリーフ73の位置とスラストリリーフ82の位置とが対応している。したがって主軸受(半割軸受7)の軸線方向両端から外部へ流出した潤滑油は、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82表面とクランク軸のスラストカラー12表面との間の隙間(スラストリリーフ隙間)に流れる。
【0035】
以下、本発明の作用効果がより顕著であるクランク軸の回転方向の後方側のスラストリリーフの作用について説明する。
【0036】
本実施例の半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82では、スラストリリーフ82の径方向内側端部におけるスラストリリーフ長さL1は、径方向外側端部のスラストリリーフ長さL2よりも短くなされている。このため半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間から外部へ流出した潤滑油は、スラストリリーフ長さL1が短いことにより、スラストリリーフ隙間への流入が抑制される。
より詳細には、半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間内の潤滑油はジャーナル表面に付随してジャーナル回転方向先側に送られるが、クラッシュリリーフ隙間はジャーナル回転方向先側ほど隙間容積が小さくなっているので、クラッシュリリーフ隙間から外部へ流出する潤滑油の量はこの小容積領域で多くなる。一方、クラッシュリリーフ長さはスラストリリーフ長さよりも長いため、この小容積領域から流出した潤滑油は、スラストリリーフ隙間には流入しにくい(
図7及び8参照)。
【0037】
また本発明によれば、半割スラスト軸受8の内側端部におけるスラストリリーフ隙間の断面積A1を小さく設定することで、スラストリリーフ隙間に流れこむ潤滑油量を抑制するための定量オリフィスが形成されている。このためスラストリリーフ隙間への流入が抑制された潤滑油は、主にクランク軸のスラストカラー面、ハウジングの座面、半割スラスト軸受の内径面、及びクランク軸のジャーナル表面によって囲まれる隙間に流入する。この隙間に流入した潤滑油は、回転するジャーナル表面及びスラストカラー面に付随して周方向先側へ送られるが、この間に潤滑油には遠心力が作用し、それにより潤滑油は隙間から半割スラスト軸受の摺動面とスラストカラー面との間に流れ、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面81へ多量の潤滑油が供給される。
【0038】
また本発明によれば、半割スラスト軸受8の外側端部におけるスラストリリーフ長さL2が比較的長く設定されている。
一般に、分割型軸受ハウジングに組み付けることによって一対の半割スラスト軸受8の周方向端面83同士が軸線方向に位置ずれして段差が発生した場合、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82に隣接する領域の摺動面81は、クランク軸のスラストカラー面と接触し易い。さらに、近年、クランク軸の低剛性化によって内燃機関運転時のクランク軸の撓み量が大きくなったため、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82に隣接する領域の摺動面81は、外径側端部に近いほどスラストカラーと直接接触し易い。しかし本発明によれば、スラストリリーフ82は外径側端部に近いほどスラストリリーフ長さが大きく、十分な隙間が形成されているので、スラストリリーフ82に隣接する領域の摺動面とスラストカラー面との接触が起きにくい。
【0039】
上述した各作用を有することによって、半割スラスト軸受8の摺動面81とクランク軸とが接触しにくくなる。
【0040】
内燃機関の運転時、特にクランク軸が高速回転する運転条件ではクランク軸に撓み(軸線方向の撓み)が発生してクランク軸の振動が大きくなり、この大きな振動によって、クランク軸には半割スラスト軸受8の摺動面81へ向かう軸線方向力fが周期的に発生する。半割スラスト軸受8の摺動面81は、この軸線方向力fを受ける。
【0041】
これに対して、スラストリリーフ隙間への潤滑油の流入を抑制するために、半割スラスト軸受のスラストリリーフ長さを単純に径方向に亘って小さくし、それにより半割スラスト軸受の内径側のスラストリリーフ隙間の面積を小さくした場合には、上述のように半割スラスト軸受の周方向端部に隣接する摺動面の外径側がスラストカラー面と接触するという問題がある。
【0042】
また、先行技術文献3に記載されるようにスラストリリーフ長さを単純に径方向の全長に亘って大きくした場合には、スラストリリーフ隙間への潤滑油の流入する量が多くなるため、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面への潤滑油の供給が不十分となる。
【0043】
一方、本発明の半割スラスト軸受8は、クランク軸の軸線方向力fが作用しても、上述のようにクランク軸の回転方向の後方側のスラストリリーフ隙間への潤滑油の流入が抑制されるため、潤滑油が半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81へ多量に送られる。この多量の潤滑油によって、半割スラスト軸受8の摺動面81とクランク軸のスラストカラー12面とが直接に接触しにくくなる。
【0044】
(効果)
次に、本実施例の半割スラスト軸受8の効果を説明する。
【0045】
本実施例の半割スラスト軸受8は、スラストリリーフ82、82を備えている。そしてジャーナル部11の回転方向の後方側のスラストリリーフ82、又は両方のスラストリリーフ82、82は、半割スラスト軸受8の径方向内側端部におけるスラストリリーフ長さL1が最小で、且つ半割スラスト軸受8の径方向外側端部におけるスラストリリーフ長さL2より短くなるよう形成されている。このため潤滑油は、相対的に短い内側のスラストリリーフ長さL1を通してスラストリリーフ隙間へ流入しにくくなる。スラストリリーフ隙間へ流入しなかった潤滑油は、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81に供給される。
【0046】
なお、本実施例は、
図2及び5に示すように半割スラスト軸受8の周方向両端部に本発明の構成のスラストリリーフが形成されている場合について説明しているが、これに限定されるものではない。少なくともクランク軸の回転方向の後方側のスラストリリーフ82を本発明の構成として形成すれば、本発明の作用効果を得ることができる。
【0047】
ここで、「クランク軸の回転方向の後方側のスラストリリーフ」とは、1つの半割スラスト軸受8に着目した場合に、両端部にあるスラストリリーフ82のうち、回転するクランク軸のスラストカラー12上の任意の点が最初に通過するスラストリリーフ82を意味する。
【0048】
しかし、半割スラスト軸受8のクランク軸の回転方向の前方側及び後方側の両方に本発明の構成のスラストリリーフを形成することによって、軸線方向力fの入力側の半割スラスト軸受8、及び反対側の半割スラスト軸受8を共通の構成にでき、また誤組み付けを防止できるという効果を得ることができる。
【実施例2】
【0049】
図9〜12を用いて、実施例1とは別の形態のスラストリリーフ821を備える半割スラスト軸受8Aについて説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一又は均等な部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0050】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の軸受装置1の全体構成は、実施例1と同様である。半割スラスト軸受8Aの構成も、スラストリリーフ821、821の形状を除いて実施例1と概ね同様である。
【0051】
実施例2の半割スラスト軸受8Aのスラストリリーフ821は、周方向の端面83において、スラストリリーフ821の径方向外側端部のスラストリリーフ深さRD2が、径方向内側端部のスラストリリーフ深さRD1よりも深くなされている。したがって半割スラスト軸受8Aのスラストリリーフ821と隣接する摺動面81の外径側端部付近は、さらにスラストカラーと直接接触しにくくなっている。
【0052】
スラストリリーフ821の具体的な寸法として、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30〜100mm程度)に使用する場合、例えば以下の寸法とすることができる。すなわち、半割スラスト軸受8Aの周方向端部における摺動面81からのスラストリリーフ821までの、径方向内側端部のスラストリリーフ深さRD1を0.05mm〜0.5mmとし、径方向の外側端部のスラストリリーフ深さRD2を0.3mm〜1.0mmとすることができる。なお、これらの寸法は一例に過ぎず、この寸法範囲に限定されない。また内側端部でのスラストリリーフ長さL1、及び外側端部でのスラストリリーフ長さL2の寸法は実施例1に関連して記載した通りである。
【0053】
上述したスラストリリーフ深さRD1とスラストリリーフ深さRD2とは、数値範囲が一部重複している。しかし、これは軸受のサイズが大きくなるほどスラストリリーフ深さを大きくする必要があるからである。したがって、スラストリリーフ深さRD1及びRD2は、それぞれの数値範囲内で、RD1<RD2とすべきである。
【実施例3】
【0054】
以下、
図13及び14を用いて、実施例1及び2とは別の形態のスラストリリーフ822を備える半割スラスト軸受8Bについて説明する。なお、上記実施例で説明した内容と同一又は均等な部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0055】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の軸受装置1の全体構成は、実施例1と同様である。半割スラスト軸受8Bの構成も、スラストリリーフ822、822の形状を除いて実施例1及び2と概ね同様である。
【0056】
ただし、本実施例の半割スラスト軸受8Aのスラストリリーフ822は、
図13及び14に示すように曲面によって構成されている。この曲面は、実施例1及び2で述べた平面よりもスラストリリーフ隙間が大きくなるように形成される。換言すれば、この曲面は摺動面81側から反対面側(背面側)に向かって凹状に窪んでいる(
図14参照)。
【0057】
この他、スラストリリーフ長さL1及びL2の関係、スラストリリーフ深さRD1及びRD2の関係、並びにスラストリリーフ隙間の断面積A1及びA2の関係は、実施例1及び2と同様である。
【0058】
なお、実施例3のこの他の構成及び作用効果については、実施例1及び2と略同様であるため説明を省略する。
【実施例4】
【0059】
以下、
図15〜17を用いて、実施例1〜3とは別の形態のスラストリリーフ823を備える半割スラスト軸受8Cについて説明する。なお、上記実施例で説明した内容と同一又は均等な部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0060】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の軸受装置1の全体構成は、実施例1と同様である。半割スラスト軸受8Cの構成も、スラストリリーフ823、823の形状を除いて実施例1と概ね同様である。
【0061】
ただし、本実施例の半割スラスト軸受8Cでは、
図15〜17に示すように、クランク軸の回転方向の後方側のスラストリリーフ823、又は両方のスラストリリーフ823のそれぞれが、平面及び曲面から構成されている。
【0062】
図16及び17に示す本実施例では、スラストリリーフ823は、摺動面側に隣接する平面823aと、半割スラスト軸受の周方向端面83に隣接する曲面823bによって構成される。曲面823bは摺動面81側から反対面側(背面側)に向かって凹状に窪んでいる。
【0063】
本実施例においても、スラストリリーフ長さL1及びL2の関係、並びに径方向の全長に亘って一定である周方向端面でのスラストリリーフ深さRDについては、実施例1と同様である。
【0064】
また曲面823bの部分のスラストリリーフ長さL1’(半割スラスト軸受8の端面83を含む平面から垂直方向に測った長さ)は、内径端部から外径端部に亘って一定である(
図15参照)。この曲面の部分のスラストリリーフ長さL1’は、好ましくは0.3〜5mmであり、より好ましくは、0.3〜3mmである。さらに、スラストリリーフ823の内側端部におけるスラストリリーフ長さL1と曲面823bの部分のスラストリリーフ長さL1’の関係は、スラストリリーフ長さL1に対して曲面部のスラストリリーフ長さL1’が50%以下であり、さらに25%以下であることが好ましい。このようにすると、スラストリリーフ隙間への潤滑油の流入の抑制効果が特に高くなる。
【0065】
スラストリリーフ823の平面823aは、曲面823bと接続する位置での摺動面81からのスラストリリーフ深さRD’は、半割スラスト軸受の内側端部と外側端部の間で一定である(
図16及び17参照)。この平面823aのスラストリリーフ深さRD’は、好ましくは0.005〜0.2mmであり、より好ましくは0.005〜0.1mmである。
【0066】
曲面823bの部分のスラストリリーフ長さは本実施例に限定されず、半割スラスト軸受8Cの内側端部から外側端部へ向かって長くなるように、又は短くなるように構成されていてもよい。また平面823aの部分は、
図18及び19に示すように、背面側から摺動面側81に向かって曲率半径Rで凸状に隆起する曲面としてもよい。また、スラストリリーフ823の平面823aの部分のスラストリリーフ深さRD’は、半割スラスト軸受8Cの内側端部から外側端部に向かって深くなるようにすることもできる。
【0067】
(作用効果)
図15〜17に示すように、スラストリリーフの表面は、周方向端面に隣接する曲面と摺動面に隣接する平面とから構成される。これにより、一対の半割スラスト軸受の周方向端部同士の位置がずれた場合の問題は、他の実施例と同様に十分なスラストリリーフ深さRDを有する曲面により形成される隙間空間によって解決される。
【0068】
また半割スラスト軸受の内側端部に形成されるスラストリリーフ隙間は、特に平面の領域で、軸線方向断面積が小さくなる。このため、半割スラスト軸受の内側端部におけるスラストリリーフ隙間全体の断面積A1は、他の実施例よりも小さくすることが可能となる。
【0069】
したがって実施例4の半割スラスト軸受は、半割軸受のクラッシュリリーフ隙間から流出した潤滑油のスラストリリーフ隙間への流入を効果的に抑制することができ、この結果として、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面への潤滑油の供給に優れる。
【0070】
なお、
図16及び17の平面823aを
図18及び19に示すように背面側から摺動面側に向かって凸形状の曲面823a’に変えた場合にも同様の作用効果を有することができる。
【0071】
さらに、上述したように、スラストリリーフ823は、平面と平面(すなわち2つの平面)から構成することもできる。例えば
図15〜17に示すスラストリリーフ823は、曲面823bの部分を平面(
図16及び17に示す曲面823bの両端を直線で結んだ平面)に変更することもできる。この構成においても、上記と同様の作用効果を有することができる。
【0072】
なお、実施例4の他の構成及び作用効果については実施例1〜3と略同様であるため説明を省略する。
【実施例5】
【0073】
次に、
図2〜6、20及び21を用いて、本発明の半割スラスト軸受を備える軸受装置1について説明する。なお、上記実施例で説明した内容と同一又は均等な部分の説明については同一の符号を付して説明する。
【0074】
本実施例では、実施例1で説明した半割スラスト軸受8を含む軸受装置1について説明するが、これに限定されることなく、実施例2〜4の半割スラスト軸受8A〜8Cを含む軸受装置1であっても以下と同様の作用効果を有することに留意すべきである。
【0075】
図5及び6に示すように、本実施例の軸受装置1は、シリンダブロック2及び軸受キャップ3を有する軸受ハウジング4と、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する2つの半割軸受7、7と、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力を受ける4つの半割スラスト軸受8、8、8、8とを有している。
【0076】
軸受ハウジング4を構成するシリンダブロック2及び軸受キャップ3には、それらの接合箇所に、一対の半割軸受7、7を保持する保持孔としての軸受孔5が貫通形成されている。
【0077】
半割軸受7は、内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフ73、73を備えている。またシリンダブロック2の側に配置される半割軸受7は、
図20及び21に示すように幅方向(軸線方向)の中央近傍に周方向に沿って形成された潤滑油溝71と、内周面側の潤滑油溝71から外周面に貫通する貫通孔72とを有している。
【0078】
一対の半割軸受7、7の軸線方向の両側には、二対の半割スラスト軸受8、8、8、8が配設される。半割スラスト軸受8は半円環形状に形成され、半割軸受7の外径と半割スラスト軸受8の外径とは略同心に配置され、また半割軸受7の周方向両端面を通る水平面と半割スラスト軸受8の周方向両端面を通る水平面HRとは略平行に配設される。
【0079】
したがって、
図5に示すように、半割軸受7のクラッシュリリーフ73と半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82とは一対一で対応している。すなわち、半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間と半割スラスト軸受8のスラストリリーフ隙間とが円周方向にみて略同一の角度位置にある。
【0080】
実施例1で説明したように、半割スラスト軸受8においては、径方向の内側端部のスラストリリーフ長さL1が、径方向の外側端部のスラストリリーフ長さL2よりも短くなされている。さらに、内側端部におけるスラストリリーフ隙間の軸線方向断面積A1は、外側端部におけるスラストリリーフ隙間の軸線方向断面積A2よりも狭くなされている。
【0081】
そして、本実施例の半割スラスト軸受8は、上述したスラストリリーフ長さL1とスラストリリーフ長さL2の関係、及び断面積A1と断面積A2の関係に加えて、さらに半割軸受7に対して以下のような関係を有している。
【0082】
まず、
図3及び22を用いて、スラストリリーフ隙間の軸方向断面積及びクラッシュリリーフ隙間の径方向断面積の関係について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8は、スラストリリーフ82の径方向の内側端部でのスラストリリーフ隙間の軸方向断面積A1が、対応する半割軸受7のクラッシュリリーフ73のクラッシュリリーフ隙間の径方向断面積ACよりも狭くなされている。
【0083】
ここで、スラストリリーフ隙間の軸線方向断面積A1は上述の通りであり、またクラッシュリリーフ隙間の径方向断面積ACは、半割軸受7の軸線方向から見て、半割軸受7の端部における、クラッシュリリーフ73の表面と、半割軸受7の摺動面75をクラッシュリリーフ73上に延長した仮想の延長線と、半割軸受7の両端部の周方向端面74を結ぶ水平線とで囲まれる範囲の面積をいうものとする。
【0084】
次に、長さの関係について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8は、スラストリリーフ82の径方向の内側端部のスラストリーフ長さL1が、対応する半割軸受7のクラッシュリリーフ73のクラッシュリリーフ長さCLよりも短くなされている。
【0085】
ここで、クラッシュリリーフ長さCLは、半割スラスト軸受8が配設される側の軸線方向端部におけるクラッシュリリーフ73の長さであり、半割軸受7の周方向両端面74、74が下端面となるように水平面上に置いたときの水平面からクラッシュリリーフ73の上縁までの
垂直方向の高さである(
図20参照)。なお、本実施例ではクラッシュリリーフ長さCLは軸線方向に亘って一定であるが、これとは異なり、クラッシュリリーフ長さは半割軸受7の軸線方向に変化させることもできる。
【0086】
本発明の構成により、半割軸受7のクラッシュリリーフ73の隙間(半割軸受7の軸線方向端部のクラッシュリリーフ73の開口)から流出する潤滑油が、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ隙間に流入しにくい。これとは逆に、スラストリリーフ長さL1がクラッシュリリーフ長さCLよりも長い場合、半割軸受7のクラッシュリリーフ73の隙間から流出した潤滑油は、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ隙間に流れやすくなる。
【0087】
半割軸受7のクラッシュリリーフの隙間から流出した潤滑油は、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ隙間への流入が抑制されるために、主にクランク軸のスラストカラー面、ハウジングの座面、半割スラスト軸受の内径面、クランク軸のジャーナル表面により囲まれた隙間に流入する(
図7及び8参照)。この隙間に流入した潤滑油は、回転するジャーナル表面及びスラストカラー面に付随して周方向先側へ送られるが、この間に潤滑油には遠心力が作用し、この隙間から半割スラスト軸受の摺動面とスラストカラー面との間の隙間に流れて半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面へ供給されるようになる。
【0088】
このように、本発明の軸受装置1では、半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間から流出した潤滑油が、半割スラスト軸受8のクランク軸の回転方向後方側のスラストリリーフ隙間に流入しにくい。このため、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81側へ潤滑油が多量に送られる。この多量の潤滑油によって、半割スラスト軸受8の摺動面81とクランク軸のスラストカラー12面とが直接に接触しにくくなる。
【0089】
半割軸受7のクラッシュリリーフ73の具体的な寸法として、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30〜100mm程度)の場合、例えば、周方向端面74における、摺動面75をクラッシュリリーフ上に延長させた仮想の延長面からのクラッシュリリーフ73の深さが0.01〜0.1mmであり、またクラッシュリリーフ長さCLは半割スラスト軸受8のスラストリリーフの内側端部におけるスラストリリーフ長さL1よりも大きくする必要があり、したがってスラストリリーフ長さL1の1.5倍以上であることが望ましい。なお、クラッシュリリーフ長さL1は、最大でも、クラッシュリリーフを半割軸受の周方向端面から円周角度45°の範囲に形成した場合の高さ以下にする必要がある。
【0090】
また半割軸受7のクラッシュリリーフ73は、半割軸受7の周方向端面74とクラッシュリリーフ73が接続する角縁部に施された面取りを有していてもよい。この場合、半割軸受のクラッシュリリーフ隙間の径方向断面積ACは、面取りによる隙間の面積を含む。
【0091】
実施例5では、断面積の関係と長さの関係の両方が満たされている例を示した。しかし、本発明の軸受装置は、断面積の関係及び長さの関係の一方のみが満たされたものであってもよい。
【0092】
例えば、内燃機関の運転時に軸の撓み量が大きい場合、スラストリリーフ長さを大きくする必要があり、そのためスラストリリーフの内側端部のスラストリリーフ長さL1が半割軸受7のクラッシュリリーフ長さCLよりも大きくなることがある。そのような場合は、断面積の関係のみが満たされていればよい。しかし、特にそのような場合(L1>CL)には、実施例4のように平面823a及び曲面823bとからなるスラストリリーフ823を有する半割スラスト軸受8Cを用いることが好ましいい。
図16に示すように、半割スラスト軸受の摺動面側に隣接する平面823aは、摺動面81に対しての傾斜が緩やかであるため内側端部におけるスラストリリーフ隙間の面積が大きくなることを抑制しつつ、内径側のスラストリリーフ長さL1を長くすることを可能にする。このため、半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間から流出した潤滑油は、スラストリリーフ隙間への流入を抑制される。
【0093】
また、半割スラスト軸受8の内側端部におけるスラストリリーフ長さL1が、半割軸受7のクラッシュリリーフ長さCLよりも短くなされた関係だけが満たされた場合にも、半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間のうち、対応するスラスト軸受のスラストリリーフの内側端部の上縁部を超えて形成されている部分から流出した潤滑油は、スラストリリーフ隙間には流入しにくいことが理解されよう。
【0094】
なお、
図2及び5に示すように、本実施例では、半割スラスト軸受8の周方向両端部のスラストリリーフ82、82と半割軸受7の周方向両端部のクラッシュリリーフ73、73との間で上述した関係が成立する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明では、少なくともクランク軸の回転方向後方側のスラストリリーフ82と、これに対応するクラッシュリリーフ73との間で上述した関係が成立すればよい。
【0095】
また本実施例では、半割軸受7と半割スラスト軸受8が分離しているタイプの軸受装置1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、半割軸受7と半割スラスト軸受8が一体化したタイプの軸受装置1にも適用できる。
【0096】
以上、図面を参照して、本発明の実施例1〜5を詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0097】
例えば、
図23及び24に示すように、位置決め及び回転止めのために、半径方向外側に突出する突出部88を備える半割スラスト軸受8Dに本発明を適用することもできる。また、半割スラスト軸受の摺動面81と反対側の背面の周方向両端部にテーパーTを設けて背面リリーフを形成することもできる。さらに、半割スラスト軸受8Dの円周方向長さは、実施例1に示す通常の半割スラスト軸受8等よりも所定の長さS1だけ短くすることもできる。また半割スラスト軸受8Dは、周方向端部近傍において内周面を半径R1の円弧状に切り欠くこともできる。
【0098】
このように半径R1の円弧状切欠を形成した場合、スラストリリーフ82のスラストリリーフ長さL1及びL2、並びにスラストリリーフ深さRD1及びRD2は、円弧状切欠を形成しなかった場合のスラストリリーフ82の上縁の延長線及びスラストリリーフ82の表面の延長面を基準とした長さ及び深さによって表わすことができる。
【0099】
同様に、半割スラスト軸受の摺動面側の径方向の外側の縁部や内側の縁部には、周方向に亘って面取りを形成するもこともできる。その場合、内側端部及び外側端部におけるスラストリリーフ長さ及びスラストリリーフ深さは、面取りを形成しなかった場合の半割スラスト軸受の内径側端部及び外径側端部位置でのスラストリリーフ長さ及びスラストリリーフ長さによって表すことができる。
【0100】
また誤組付け防止のため、
図25に示すように一対の半割スラスト軸受8Eの2つの突合せ部のうち一方のみにおいて、それぞれの半割スラスト軸受8Eの周方向端面を傾斜端面83Aとして形成し、それにより傾斜端面同士の突合せ部とすることもできる。この場合、傾斜端面83Aは、傾斜していない他方の周方向端面を通る平面(水平面HR)に対して所定の角度θだけ傾斜して形成されている。あるいは、それぞれの周方向端面は傾斜端面83Aに代えて、対応する凹凸形状といった他の形状とすることもできる。
【0101】
しかし、いずれの場合も、スラストリリーフ長さL1は、水平面HRから、スラストリリーフの表面が摺動面81の内周縁と交わる点までの垂直方向の長さで定義されることが当業者には理解されよう。
【0102】
また
図26に示すように、半割スラスト軸受8の摺動面81に油溝81aをさらに形成することができる。油溝81aは、一対の半割スラスト軸受8,8の周方向端部同士の突合せ部に、本発明のスラストリリーフ82の対として形成される凹部と同じ形状とすることができる。なお、本実施例では、2つの油溝81aを摺動面に形成した例を示したが、本発明はこれに限定されず、1つ、又は3つ以上の油溝を有していてもよい。
【0103】
また上記実施例では、軸受装置に半割スラスト軸受を4つ使用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも1つの本発明による半割スラスト軸受を使用することで所望の効果を得ることができる。また本発明の軸受装置において、半割スラスト軸受は、クランク軸を回転自在に支承する半割軸受の軸線方向の一方又は両方の端面に一体に形成されてもよい。
【0104】
さらに上記実施例では、周方向両端部にスラストリリーフを有する半割スラスト軸受について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。半割スラスト軸受の周方向両端部のうち、クランク軸の回転方向の後方側にのみ、本発明によるスラストリリーフの構成を採用し、クランク軸の回転方向の前方側の端部には従来の構成や他の構成のスラストリリーフを形成してもよい。