【実施例】
【0053】
次の例は、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することを意図せず、本発明の特定の態様を説明することにより提供される。
【0054】
(実施例1)
【0055】
プロセスの概観
【0056】
図1に、本発明の方法の概略フローチャートが示される。ウシ全血を、抗凝固剤としての3.8%(w/v)のクエン酸三ナトリウム溶液を含む閉じた滅菌容器/バッグの中に採取する。次いで、直ちに血液をクエン酸三ナトリウム溶液と十分に混合させ、血液の凝固を阻止する。アフェレーシス(apheresis)機構により、血漿および他の小さい血液細胞から赤血球(RBC)を単離して回収する。そして、ガンマ線で滅菌された使い捨ての遠心分離ボウルを有する「細胞洗浄機」を使用する。RBCは等容量の0.9%(w/v塩化ナトリウム)食塩水で洗浄される。
【0057】
RBC細胞膜に対して低張性ショックを処置することにより、洗浄されたRBCを溶解してヘモグロビン内容物を放出させる。RBC溶解装置に用いられる特殊化された
図2に示す瞬間細胞溶解装置が、この目的によって使用される。RBCが溶解された後、100kDaの膜を使用した接線流限外濾過により、ヘモグロビン分子を他のタンパク質から単離する。濾液中のヘモグロビンを採取して、フロースルーカラムクロマトグラフィーに用いて、30kDa膜により更に12〜14g/dLまで濃縮する。カラムクロマトグラフィーを行い、タンパク質不純物を除去する。
【0058】
最初に、濃縮ヘモグロビン溶液を脱酸素条件下でDBSFと反応させて、熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン分子を形成する。次いで、90℃で30秒間〜3分間、脱酸素条件下で熱処理工程を行った後、最終的な製剤化および包装を行う。
【0059】
(実施例2)
【0060】
時間&制御された低張溶解および濾過
【0061】
ウシ全血を新たに採取し、冷却条件下(2〜10℃)で輸送する。細胞洗浄機およびこれに続く0.65μmの濾過を介して、赤血球を血漿から分離する。赤血球(RBC)濾液を0.9%食塩水で洗浄した後、濾液を低張溶解により破壊する。当該低張溶解は、
図2に示した瞬間細胞溶解装置を使用して行う。瞬間細胞溶解装置は、細胞溶解を補助するためのスタテックミキサーを含む。ヘモグロビン濃度が制御された(12〜14g/dL)RBC懸濁液を4容量の精製水と混合して、RBC細胞膜に対して低張ショックを発生させる。低張ショックの時間は、望ましくない白血球および血小板の溶解を回避するように制御される。低張溶液は、瞬間細胞溶解装置のスタテックミキサー部分を2〜30秒または赤血球を溶解するのに十分な時間、好ましくは30秒の間に通過する。このショックは、30秒後に溶解液がスタテックミキサーを出るときに、当該溶解液に1/10容量の高張緩衝液を混合することによって停止される。使用した高張溶液は、0.1Mリン酸緩衝液、7.4%NaCl、pH7.4である。
図2の瞬間細胞溶解装置は、連続運転で50〜1000L/時、好ましくは少なくとも300L/時の溶解物を処理することができる。
【0062】
RBCが溶解した後、赤血球溶解物を0.22μmのフィルタにより濾過してヘモグロビン溶液を得る。白血球からの望ましくない核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)およびHPLC法(検出限界=1μg/mL)によっては、ヘモグロビン溶液中において検出されない。ヘモグロビンよりも高い分子量を有する不純物を除去するために、第一の100kDa限外濾過が行われる。次に、ヘモグロビン溶液を更に精製するために、フロースルーカラムクロマトグラフィーが続いて行われる。次いで、ヘモグロビンよりも低分子量の不純物を除去し、また濃縮するために、第二の30kDa限外濾過が行われる。
【0063】
(実施例3)
【0064】
ストローマを含まないヘモグロビン溶液に対するウイルスクリアランスの研究
【0065】
本発明の製品の安全性を示すために、(1)0.65μmダイアフィルトレーション工程および(2)100kDa限外濾過工程のウイルス除去能力がウイルス確認研究によって示される。前記研究は、異なるモデルウイルス(脳心筋炎ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、およびウシパルボウイルス)を慎重的に用いた前記二つの処理の縮小規模バージョンによって行われた。この研究においては、四つのタイプのウイルスが使用された(表3参照)。これらのウイルスは、それらの生物物理学的および構造的特徴が異なっており、また物理的および化学的な薬剤または治療に対して、相違な抵抗を示す。
【0066】
【表3】
【0067】
確証スキームを以下の表4に簡単に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
(1)0.65μmダイアフィルトレーションおよび(2)100kDa限外濾過における4種類のウイルスの対数減少結果の要約を、下記の表5に示す。BVDV、BPV、EMCVおよびPRVの4種類のウイルスの全ては0.65μmダイアフィルトレーションおよび100kDa限外濾過によって効果的に除去された。
【0070】
【表5】
【0071】
(実施例4)
【0072】
フロースルーカラムクロマトグラフィー
【0073】
何れかのタンパク質不純物を更に除去するために、CMカラム(GEヘルスケア社から商業的に入手可能)を使用する。出発緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム(pH8.0)であり、溶出緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム、2MのNaCl(pH8.0)である。出発緩衝液でCMカラムを平衡化した後、タンパク質サンプルを当該カラムに載せる。未結合のタンパク質不純物を、少なくとも5カラム容量の出発緩衝液で洗浄する。8カラム容量の25%溶出緩衝液(0〜0.5MのNaCl)を使用して溶出を行う。溶出プロファイルを
図10に示す。ヘモグロビン溶液はフロースルー画分の中にある。フロースルー画分の純度を、ELIZAにより分析する。その結果を下記の表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
ヘモグロビン溶液は、pH8のCMカラムクロマトグラフィーからのフロースルーの中にある(溶出液中ではない)ので、連続的な工業的規模の操作にとっては良好なアプローチである。工業的規模の操作のために、第一の限界濾過設備をフロースルーCMカラムクロマトグラフィーシステムに直接接続し、またフロースルー配管を第二の限外濾過設備に接続することができる。工業的プロセスの概略的構成を
図11に示す。
【0076】
(実施例5)
【0077】
熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンの調製
【0078】
(5a)DBSFを用いた架橋反応
【0079】
脱酸素条件において架橋反応を行う。DBSFをヘモグロビン溶液に加えて、ポリマーヘモグロビンの形成を伴うことなく、架橋された四量体ヘモグロビンを形成する。DBSF安定化法は、ヘモグロビンの四量体形態(65kDa)を安定化させて、腎臓を通して排泄される二量体(32kDa)への解離を防止する。この実施形態において、ヘモグロビンとDBSFとのモル比が1:2.5であり、pHが8.6である。このプロセスは、ヘモグロビンの酸化による第一鉄メトヘモグロビン(生理学的に不活性である)の形成を防止するために、窒素の不活性雰囲気中において、3〜16時間、周囲温度(15〜25℃)で行われる(溶存酸素レベルは0.1ppm未満に維持される)。DBSF反応の完了は、HPLCを使用して残留DBSFを測定することによりモニターされる。DBSF反応の収率は高く、>99%である。
【0080】
(5b)HTST熱処理工程
【0081】
高温短時間(HTST)処理装置が
図12に示されている。架橋四量体ヘモグロビンに対して、HTST処理装置を使用した熱処理を行う。この実施例において、熱処理の条件は90℃で30秒間〜3分間、好ましくは45〜60秒間であるが、上記で述べたような他の条件を選択することもでき、それに従って装置を変更することもできる。必要に応じて0.2%のN−アセチルシステインを添加した架橋ヘモグロビン含有溶液を、1.0L/分の流量でHTST処理装置の中にポンプ輸送し(HTST熱交換器の第一の区画は90℃に予熱および維持される)、また、当該装置の第一区画の滞留時間は45〜60秒間であり、次いで当該溶液を同じ流量で、25℃に維持されている熱交換器のもう一つの区画の中へ通す。冷却の所要時間は15〜30秒間である。25℃まで冷却した後、0.2%〜0.4%、好ましくは0.4%の濃度のN−アセチルシステインが直ちに添加される。HTST加熱プロセスの後のこの化学薬品の添加は、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)を低レベルに維持するために非常に重要である。当該処理装置の構成は、工業的な操作には、容易に制御されている。二量体含有量と共に温度プロファイルを
図13に示す。ヘモグロビンが架橋されていなければ、それは熱的に安定ではなく、加熱工程の後に沈殿を形成する。遠心分離または濾過装置によりその沈殿を除去させ、透明な溶液を形成する。
【0082】
90℃でのHTST加熱プロセスの間に、メトヘモグロビン(不活性ヘモグロビン)が増大する(
図14に示す)。N−アセチルシステインを直ちに添加した後、約3%未満の低レベルのメトヘモグロビンを維持することができる。
【0083】
下記の表7は、免疫グロブリンG、アルブミン、炭酸脱水酵素および望ましくない非安定化四量体または二量体等のタンパク質不純物が、熱処理工程の後に除去されることを示している。免疫グロブリンG、アルブミンおよび炭酸脱水酵素の量をELISA法を用いて測定し、二量体の量をHPLC法により測定する。HTST加熱処理工程の後の熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンの純度は極めて高く、98.0〜99.9%の範囲である。p50値、即ち、ヘモックス分析器(Hemox Analyzer)により測定された酸素分圧(その分圧ではヘモグロビン溶液が半分(50%)飽和している)は、HTST熱処理工程の全体に渡り約30〜40mmHgに維持されるので、熱処理された架橋四量体ヘモグロビンは90℃で安定である。
【0084】
【表7】
【0085】
(実施例6)
包装
【0086】
本発明の製品は脱酸素条件下に安定であることから、製品の包装にとって重要なのはガス透過性を最小化することである。静脈内に適用するために、0.006〜0.132cm
3/(100平方インチ・24時間・室温気圧)の酸素透過性を有する厚さ0.4mmの5層のEVA/EVOH積層材料から、注文設計された100ml注入バッグを作製した。この特別な材料はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、インビボ生物学的反応性試験および物理化学的試験に適合し、静脈注入に用いられる容器の製造に対しては適している(所望の使用に応じて、他の形態の包装も同様にこの材料から製造できる)。二次包装のアルミニウム製の上包装パウチも、一次包装注入バッグに適用されて更なるバリアを提供し、光露出および酸素拡散を最小化する。当該パウチの層は、0.012mmのポリエチレンテレフタレート(PET)、0.007mmのアルミニウム(Al)、0.015のmmナイロン(NY)、および0.1mmのポリエチレン(PE)を含んでいる。上包装フィルムは0.14mmの厚さ、および0.006cm
3/(100平方インチ・24時間・室温気圧)の酸素透過速度を有している。当該注入バッグの概略的描写が
図15に描かれている。本発明による各注入バッグについての全体の酸素透過性は、0.0025cm
3/(24時間・室温気圧)である。
【0087】
(実施例7)
【0088】
酸素付加の改善
【0089】
(7a)正常組織における酸素付加の改善
【0090】
熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンによる正常組織の酸素付加についての幾つかの研究(
図6に示した)が行われる。バッファローラットで比較薬学動態学および薬力学の研究を行う。雄の純系バッファローラットに対して、ラットの陰茎静脈を通して、個別に大量瞬時投与の注射により、0.2g/kgの熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン溶液または酢酸リンゲル緩衝液(対照群)を投与する。1、6、24、48時間に、ヘモキュー(Hemocue
TM)(登録商標)フォトメータによって血漿ヘモグロビンの濃度−時間プロファイルを測定し、基底ラインの読みと比較する。この方法はヘモグロビンの光測定に基づいており、ここではヘモグロビンの濃度がg/dLとして直接読み出される。酸素分圧(pO
2)は、バッファローラットの後脚筋肉中に、オキシラボ(Oxylab
TM)(登録商標)組織酸素付加および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接測定する。ラットを30〜50mg/kgのペントバルビトン(pentobarbitone)溶液の腹腔内注射によって麻酔し、続いて酸素センサを筋肉内に挿入する。全てのpO
2の読みは、データトラックス2(Datatrax2)データ取得システム(World Precision Instrument)によりリアルタイムで記録される。結果として、0.2g/kgの熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射後に、15分以内、平均pO
2値が基底ラインから平均酸素分圧の約2倍に上昇し、6時間までに延長することを示している。また、注射後24〜48時間でも、平均の酸素レベルは基底ラインより25%〜30%高く維持される(
図6B)。
【0091】
(7b)極度に低酸素状態の腫瘍領域における酸素付加の顕著な改善
【0092】
極度に低酸素状態の腫瘍領域における酸素付加の改善を、ヒトの頭部及び頸部の扁平上皮細胞癌(HNSCC)異種移植モデルによって評価する。下咽頭扁平上皮細胞癌(FaDu細胞系)を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)から入手する。約1×10
6個の癌細胞を4〜6週齢の純系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。腫瘍異種移植の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍塊内の酸素分圧(pO
2)をオキシラボ(Oxylab
TM)組織酸素付加および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接測定する。全てのpO
2の読みは、データトラックス2(Datatrax2)データ取得システム(World Precision Instrument)によりリアルタイムで記録される。pO
2の読みが安定化した時に、0.2g/kgの熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン溶液をマウスの尾静脈を通して静脈注射し、組織の酸素付加を測定する。結果として、0.2g/kgの当該熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後に、6.5倍および5倍以上の平均pO
2の増大が、それぞれ3時間および6時間で観察された(
図7)。
【0093】
(実施例8)
【0094】
癌治療研究:上咽頭癌における顕著な腫瘍縮小
【0095】
X線照射と組み合わせて熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍縮小が観察された(
図8A)。ヒト上咽頭癌異種移植モデルが用いられる。約1×10
6個の癌細胞(CNE2細胞系)を、4〜6週齢の純系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。この腫瘍異種移植の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍をもったマウスを次の三つのグループにランダムに分ける。
【0096】
グループ1:酢酸リンゲル緩衝液(対照)
グループ2:酢酸リンゲル緩衝液+X線照射(2Gy)
グループ3:熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン+X線照射(2Gy+Hb)
【0097】
CNE2異種移植をもつヌードマウスにX線照射を単独で(グループ2)または熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンとの組合せで(グループ3)行った。X線照射(グループ2および3)については、50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によってマウスを麻酔する。線形加速器システム(Varian Medical Systems)により、2GrayのX線を、腫瘍を持ったマウスの異種移植に与える。グループ3については、X線治療の前に、1.2g/kgの熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンを、尾静脈を通してマウスに注射する。腫瘍の寸法および体重を、治療の初日から始めて2日ごとに記録する。式1/2LW2を使用して腫瘍の重量を計算し、ここでのLおよびWは、デジタル測径器(Mitutoyo Co, Tokyo, Japan)により各測定時に計測された腫瘍塊の長さおよび幅を示す。グループ1は、非治療対照群である。結果(
図8に示す)として、X線照射と組み合わせて熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン溶液で治療されたマウスにおいて、CNE2異種移植の顕著な縮小が観察されることを示している(グループ3、
図8A)。
【0098】
(実施例9)
【0099】
癌治療研究:肝臓腫瘍の顕著な縮小
【0100】
また、シスプラチンと組み合わせて熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍縮小が観察された(
図8B)。ラットの正所性肝臓癌モデルが用いられる。ルシフェラーゼ遺伝子(CRL1601−Luc)で標識された約2×10
6個のラット肝臓腫瘍細胞を、バッファローラットの肝臓の左葉に注入する。ゼノーゲン(Xenogen)インビボ撮像システムによって、腫瘍成長をモニターする。注入の2〜3週後に、腫瘍組織を回収し、小片に切断して、第2グループのラットの左葉肝臓の同所に移植する。腫瘍をもつラットを、以下のように三つのグループにランダムに分ける。
【0101】
グループ1:酢酸リンゲル緩衝液(対照)
グループ2:酢酸リンゲル緩衝液+シスプラチン(シスプラチン)
グループ3:熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン+シスプラチン(シスプラチン+Hb)
【0102】
肝臓腫瘍組織を移植したラットを、3mg/kgのシスプラチンを単独で(グループ2)または熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンとの組合せで(グループ3)治療した。グループ2および3については、30〜50mg/kgのペントバルビトン溶液の腹腔内注射によってラットを麻酔し、左門脈を通してシスプラチンを投与する。グループ3については、0.4g/kgの熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンを、シスプラチン治療の前にラットの陰茎静脈を通して静脈注射する。グループ1は、非治療対照群である。重要なこととしては、治療の3週後に肝臓腫瘍の顕著な縮小が観察された(
図8B)。
【0103】
(実施例10)
【0104】
ラットの急性重篤な出血性ショックの治療
【0105】
熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンを、ラットの急性重篤な出血性ショックのモデルでの蘇生剤としても使用される。50匹のスプラグ−ドーリー系ラット(Sprague−Dawley rat)を、蘇生剤に従って三つのグループにランダムに分ける。各グループには16〜18匹のラットが含まれる。
【0106】
グループ1:乳酸リンゲル液(負の対照、16匹のラット)
グループ2:動物の自家血液(正の対照、16匹のラット)
グループ3:熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン治療群(0.5gHb/kg体重、18匹のラット)
【0107】
動物の全血の50%(体重の7.4%と見積もられる)を抜き取ることにより、急性の重篤な出血性ショックをもたらす。出血性ショックが10分間もたらされた後に、乳酸リンゲル溶液、動物の自家血液、または0.5gのHb/kgの熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンを動物に注入する。熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンの注入速度は5mL/時に設定し、その後、全ての実験動物を24時間観察する。研究期間に亘って、生存、血行動態、心筋機構、心臓出力、心機能、血液ガス、組織酸素供給&消費、組織灌流&酸素張力(肝臓、腎臓および脳)、肝臓機能&腎機能、血液レオロジー(血液粘度)、およびミトコンドリア呼吸制御速度(肝臓、腎臓および脳)を含むパラメータのパネルを観察および分析する。特に、生存は主要な終点である。24時間の観察の後、熱安定性の架橋四量体ヘモグロビン治療群は、乳酸リンゲル溶液または負の対照群および自家血液群と比較して、遥かに高い生存率を有する(下記の表8に示す)。
【0108】
【表8】
【0109】
(実施例11):肝臓腫瘍の術後の再発および転移を予防する方法
【0110】
肝臓腫瘍の外科切除術は、肝臓癌の最先端の治療である。しかし、癌の術後の再発および転移は、これらの患者にとって予後不良の主な特性である。例えば、従来の研究によると、肝臓切除術が、50%の5年生存率だけでなく70%の再発率と関連することが報道した。肝臓細胞癌(HCC)の患者についての追跡研究は、原発性HCCによる肝臓外転移が約15%のHCC患者で検出され、肺が最も頻繁に発生する肝臓外転移のサイトであることも開示されている。肝臓手術の間の外科的侵襲、特に局所貧血/再かん流(IR)損傷が、腫瘍の進行をもたらす主因であることが既に表明した。通常、肝臓血管制御は、大量出血を防止するために肝臓切除術の間に外科医によって使用される。例えば、門脈三管(portal triad)(Pringle操作)を締め付けることによる流入閉塞は、血液のロスを最小限にして周術期輸血の必要量を減少するために使用される。最新の日本の研究は、25%の外科医が常にPringle操作を適用することを示す。しかし、Pringle操作は、残留肝臓における種々なクラスの虚血性損傷をもたらし、癌の再発および転移に関連する。
【0111】
IR損傷と腫瘍の進行との繋がりは、従来の動物実験によっても示される。最初に、正所性肝臓癌モデルを用いた最新の研究には、IR損傷および肝臓切除術による肝臓癌の再発および転移への作用が確証された。肝臓IR損傷および肝臓切除術は、肝臓腫瘍の顕著な再発および転移をもたらす。類似な結果は、結腸直腸肝転移マウスモデルにおいて得られ、IR損傷の導入は、結腸直腸肝転移の進行を加速する。
【0112】
従来、幾つかの保護戦略は、切除術の間のIR損傷を減少するために研究されている。例えば、短期局所貧血(虚血性前処理(IP)と呼ばれる。)の応用は、長時間締め付ける前に、肝臓細胞の防御メカニズムを誘発し、また、この方法は既に肝切除術の間のIR損傷を減少するために使用されている。他の場合は、流入閉塞に引き続き再かん流の循環を許可する間欠的締め付け(IC)プロセスを適用する。大きな肝臓手術を受けた非肝硬変患者を術後肝臓損傷から保護することに有効である二つの方法が提出された。しかし、動物実験では、腫瘍の環境において、IPが肝臓をIR損傷による腫瘍成長の加速から保護するのに無効であることも示す。また、幾つかのグループは、肝臓をIR損傷から保護するために酸化防止剤(例えば、α−トコフェノールおよびアスコルビン酸)を使用することにより、肝転移を予防する試みをしている。しかし、二種類の酸化防止剤はいずれも、IRによって刺激される肝内腫瘍成長を制限するのに無効である。
【0113】
論理的には、幾つの証拠は、低酸素が多くの原因で腫瘍再発および転移に関連することを表明する。(1)研究によると、低酸素腫瘍は、放射線療法および化学療法に対してより強い抵抗性があり、治療後に生存する腫瘍細胞は、再発する傾向がある;臨床証拠は、より多い低酸素腫瘍領域を有する患者がより高い転移率を有することも示す;(2)低酸素条件下で、癌細胞は、低酸素誘導因子−1(HIF−1)の活性化パスによってもっと侵略的になる。これは逆に、細胞運動性を増強し特定の遠隔臓器に戻る、血管新生促進因子に関する血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)と、受容体(例えばc−MetおよびCXCR4)との相補的反応を誘発する;(3)最新の研究は、循環癌細胞(CTC)が低酸素条件下でもっと侵略的になることも証明した。癌患者の周辺血液で検出した循環腫瘍細胞は、遠隔転移患者の疾病侵略指数として示されるが、低酸素は、それらの細胞にもっと侵略的な表現型を付与でき、細胞自然死の可能性を減少できる。具体的には、放射線耐性がより大きい癌幹細胞集団は、酸素レベルを減少する場合に腦腫瘍に集中した。
【0114】
従って、前記観察および研究に鑑みて、本発明による非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンは、肝臓切除術後の術後肝臓腫瘍の再発および転移を予防するために使用される。ラットの正所性肝臓癌モデルを樹立する。肝臓細胞癌細胞系(McA−RH7777細胞)は、バッファローラット(雄、300〜350g)で正所性肝臓癌モデルを樹立するために使用される。
図16は、手術およびヘモグロビン製品の投与プロセスを概括する計画図を示す。McA−RH7777細胞(3×10
5個/100μl)は、固形腫瘍の成長をもたらすためにバッファローラットの肝臓被膜(hepatic capsule)に注入される。2週間後(腫瘍の体積が約10×10mmに達した時)、腫瘍組織を回収し、1〜2mm
3の立方体に切断して、新たなグループのバッファローラットの肝臓の左葉に移植する。肝臓腫瘍を同所に移植した後2週間に、ラットは、肝臓切除術(肝臓腫瘍をもつ左葉)および部分的な肝臓IR損傷(右葉での30分間局所貧血)を受ける。
【0115】
2つのグループの腫瘍組織を移植したラットは、腫瘍の再発および転移を比較するために使用される。グループ1においては、ラットをペントバルビトンによって麻酔し、局所貧血の前1時間に、0.2g/kgの本発明に係る非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンを静脈内投与する。局所貧血は、ブルドック鉗子(bulldog clamp)で肝門静脈および肝動脈の右枝を締め付けることにより、右葉肝臓に導入される。次いで、左葉肝臓で結紮が行われた後、肝臓腫瘍をもつ左葉肝臓を切除する。局所貧血後30分間に、追加の0.2g/kgの熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンを下大静脈を通して注射した後、再かん流する。グループ2においては、酢酸リンゲル緩衝液は、媒剤対照として同様なプロセスによって注射される。全てのラットは、肝臓切除術プロセス後4週間に殺される。
【0116】
腫瘍の成長および転移を検査するには、バッファローラットの肝臓および肺は、局所貧血/再かん流および肝臓切除術プロセス後の4週間に、形態学的検査のためにサンプルされる。組織は、回収されて、ヘマトキシリン(Hematoxylin)およびエオシン(Eosin)(HおよびE)染色の前に、パラフィルムで埋め込まれて切断される。局所的な再発/転移(肝内)および遠隔転移(肺)は、組織学的検査により検査される。表9は、観察の結果を概括する。
【0117】
表9:ラットの正所性肝臓癌モデルにおける肝臓切除術およびIR損傷後の4週間の腫瘍の再発/転移の比較。
【0118】
【表9】
【0119】
非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンによる肝臓腫瘍の再発および転移への予防作用を検査するには、全てのラットはいずれも、肝臓切除術およびIRプロセス後の4週間に殺される。肺および肝臓の組織は、回収される。肝臓腫瘍の再発/転移および遠隔肺転移は、2つのグループにおいて比較される。結果として、ヘモグロビン治療が、二種類の臓器における再発および転移の発生率が減少することを示す。
【0120】
図17は、肝臓切除術および局所貧血/再かん流プロセスの後のIR損傷群のラットに肝内肝臓癌の再発および転移および遠隔肺転移を発生する代表的な実施例、および本発明の熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンによるそれらに対する予防を示す。
図17Aには、広範囲の肝内肝臓癌の再発/転移がIR損傷群に観察される。遠隔肺転移も同一のラットに発生する(実線矢印で指示される。)。
図17Bには、肝内肝臓癌再発/転移が、もう一つの場合にIR損傷群において観察される(点線矢印で指示される)。広範囲の肺転移は、同様な場合に(実線矢印で指示される。)観察される。一方、
図17Cは、本発明による熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンが治療したラットに肝内肝臓癌の再発/転移および遠隔肺転移を予防する代表的な実施例を示す。
【0121】
図18は、肝臓切除術およびIR損傷プロセス後の4週間に2つのグループに対する組織学的検査を示す。肝臓および肺組織の組織学的検査(HおよびE染色)は、腫瘍の結節の身元を確認するためにIR損傷群とヘモグロビン治療群において行われる。ヘモグロビン治療(T3)およびIR損傷群(T1およびT2)に示す肝内再発/転移の代表的な領域が示される。比較のために、治療群における正常な肝臓構造を示す組織学的検査が含まれる(N1)。また、遠隔肺転移は、IR損傷群(M)における同一のラットに見られる。比較のために、治療群(N2)における転移なしの肺組織が示される。
【0122】
非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンによる腫瘍の再発および転移への予防作用を更に確認するために、局所貧血/再かん流および肝臓切除術プロセス後の腫瘍の再発率および再発腫瘍の寸法に対して研究される。なお、前記したようにMcA−RH7777細胞を注射することにより調製された腫瘍組織を移植したラットは、
図16に述べたように、肝臓切除術プロセス時における局所貧血の前および再かん流の時に、約0.2〜0.4g/kgの本発明に係る非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンまたは負の対照である酢酸リンゲル(RA)緩衝液で、静脈内治療を行う。総合で24匹のラットはテストされ、そのうち、11匹のラットは、本発明のヘモグロビンで治療され、RA緩衝液しか治療されない13匹は負の対照ラットである。全てのラットはいずれも、肝臓切除術およびIRプロセス後の4週間に殺され、試験ラットの肝臓および肺の腫瘍の再発/転移が検査され、再発する腫瘍の相対寸法が測定される。
【0123】
図19Aは、試験ラットにおける肝臓腫瘍の再発および個別な再発腫瘍の体積を示す。肝臓腫瘍の再発/転移は、13匹の未治療の対照ラットに9匹が発生したが、11匹の治療したラットに4匹しか腫瘍の再発/転移を受けない。腫瘍の再発が見られるにもかかわらず、本発明に係るヘモグロビンで治療したラットの再発腫瘍の寸法が、それらの未治療のラットよりも顕著に小さいことも明らかである。その結果から、
図19Bに概括されたように、本発明の治療で、腫瘍の再発率は大きく下がり、再発腫瘍の寸法が顕著に減小することが示される。
【0124】
図20は、本発明の非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンで治療したラットおよびIR損傷(負の對照)群の肝臓切除術およびIRプロセス後の4週間に回収された肝臓および肺組織の代表的な実施例を説明する。未治療の負の対照ラットC10および13の代表的な実施例に見られるように、広範囲の肝内肝臓癌の再発/転移および遠隔肺転移(円)が観察される。一方、ラットY9、Y10およびY11に見られるように、肝内肝臓癌の再発/転移および遠隔肺転移は、本発明のヘモグロビンの治療によって予防される。
【0125】
(実施例12):非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンによる治療は局所貧血を減少することができる
【0126】
実施例7に説明されたように、本発明による非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンの低酸素腫瘍への静脈注射は、腫瘍における酸素付加を顕著に改善できる。したがって、腫瘍切除術およびIRプロセスの間の本発明のヘモグロビン製品の酸素付加作用が研究される。実施例11に述べたようにMcA−RH7777細胞を注射することにより調製された肝臓腫瘍組織を移植したラットを使用し、
図16に概述したような手術および0.2〜0.4g/kgの本発明に係るヘモグロビン製品またはRA緩衝液投与プロセスを受けさせる。肝臓の酸素分圧は、肝臓腫瘍に本発明に係るヘモグロビン製品/RA緩衝液を初めて投与する時間から全体のIRプロセスに亘って、肝臓腫瘍切除術中および再かん流の後に計量される。その結果(
図21)は、局所貧血を導入した後で、本発明のヘモグロビンで治療された酸素付加の増加が観察されたことを示す。また、
図21に見られるように、再かん流後の本発明のヘモグロビンで治療した肝臓の酸素分圧が未治療の約3倍である。本発明のヘモグロビンの腫瘍切除術時における局所貧血の前および再かん流時の治療は、未治療と比べて、肝臓組織の酸素付加を顕著に改善することが確証された。この技術に提出された低酸素腫瘍と腫瘍の再発/転移の可能性の増加との間の強い関連性から見ると、この実施例に説明したような本発明のヘモグロビン製品の強い酸素付加作用および腫瘍切除術プロセスの間の使用は、本発明のヘモグロビン製品の腫瘍の再発および転移を減少するための適用性を確証する。
【0127】
(実施例13):非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンによる治療は循環内皮前駆細胞のレベルを減少することができる
【0128】
幾つの研究によると、癌幹細胞(CSC)および/または前駆細胞集団が肝臓癌の発展中に意義があることを証明した。重要には、従来の研究は、HCC患者(肝臓切除術を受けた患者を含む)に顕著な高いレベルの循環内皮前駆細胞(EPC)が見られる。
【0129】
したがって、循環EPCのレベルは、CD133、CD34およびVEGFR2といった表面分子の表現によって評価される。肝臓切除術手術およびIRプロセスの後の循環内皮前駆細胞のレベルは、本発明のヘモグロビン製品で治療するか治療しない場合に研究される。2つのグループの肝臓腫瘍を移植したラットを、それぞれ前記実施例11および
図16に述べたように、肝臓切除術時における局所貧血の前および再かん流の時に、本発明に係るヘモグロビンまたはRA緩衝液(対照)による治療を受けさせる。次いで、2つのグループのラットの循環EPCの数は、肝臓切除術およびIRプロセスの後0、3、7、14、21および28日間に計量される。その結果(
図22)は、手術後0日目〜3日目に治療および未治療群のEPCのレベルが相違し、ヘモグロビン治療群のEPCのレベルが、それらのRA緩衝液治療群よりも顕著に低いことを示す。これらの結果は、実施例11の結果と一致しており、本発明のヘモグロビンが腫瘍の再発/転移を減少させて腫瘍再発/転移を最小限にする予防作用が確認された。
【0130】
前記研究によって、本発明の非ポリマー性熱安定性の架橋四量体ヘモグロビンによる治療は、肝臓腫瘍の再発と他の臓器の転移に対しては予防性作用を有することが推知された。
【0131】
種々の態様に関して本発明を説明したが、このような態様は限定的なものではない。当業者は多くの変形例および修飾を理解するはずである。これらの変形および修飾は、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものと見なされる。