特許第6100276号(P6100276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6100276体細胞性倍数性を伴う病理的過程における治療標的としての転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100276
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】体細胞性倍数性を伴う病理的過程における治療標的としての転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/55 20060101AFI20170313BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20170313BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20170313BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20170313BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20170313BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20170313BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170313BHJP
【FI】
   A61K37/64
   A61K35/76
   A61P43/00 111
   A61P25/28
   A61P43/00 105
   !A61P9/10
   !A61P9/00
   !A61P9/12
   !C07K14/47ZNA
   !C12N15/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-542902(P2014-542902)
(86)(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公表番号】特表2014-534257(P2014-534257A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】ES2012070795
(87)【国際公開番号】WO2013076331
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】P201131892
(32)【優先日】2011年11月24日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】593005895
【氏名又は名称】コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、マリア、フラデ、ロペス
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/069074(WO,A1)
【文献】 The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2001年,296(2),p.312-321
【文献】 Neuropharmacology,2010年,58,p.561-568
【文献】 International Journal of Pharma Professional's Research,2011年 1月,2(1),p.212-223
【文献】 Journal of Cellular Physiology,2004年,199,p.262-273
【文献】 Journal of Cellular Physiology,2008年,214,p.568-581
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 48/00
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害するための阻害剤であ、体細胞性倍数性を伴う病状の予防および/または治療に用いるための阻害剤であって、
前記阻害剤が、
配列番号1において、Thr248および/またはThr250残基が、p38MAPKによりリン酸化できないアミノ酸であってグルタミン酸またはアスパラギン酸以外のアミノ酸に置換されている配列を有する、転写因子E2F4の変異形態であるか、または、
ヒトE2F4の配列において保存されたThr248および/またはThr250残基に対応する配列の位置において保存されたThr残基上に変異を有するヒト以外の種に由来するE2F4の形態であって、前記変異が、p38MAPKによりリン酸化できない残基であってグルタミン酸またはアスパラギン酸以外の残基による保存されたThr残基の置換である、前記形態
であり、
前記体細胞性倍数性を伴う病状が、神経変性疾患である、阻害剤
【請求項2】
リン酸化できないアミノ酸がアラニンである、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
他の種に由来するE2F4の形態が、配列番号2および/または配列番号3から選択される、請求項に記載の阻害剤。
【請求項4】
体細胞性倍数性が、分裂終了細胞における核内倍加の結果として生じる、請求項1〜のいずれか一項に記載の阻害剤。
【請求項5】
分裂終了細胞が、神経細胞および/または筋細胞である、請求項1〜のいずれか一項に記載の阻害剤。
【請求項6】
神経変性疾患が、アルツハイマー病である、請求項1〜のいずれか一項に記載の阻害剤。
【請求項7】
体細胞性倍数性を伴う病状の予防および/または治療のための、請求項1に記載の阻害剤であって、細胞への取り込みを促進するほかの細胞膜浸透性ペプチドと関連したペプチドまたはタンパク質中に含まれてなる、阻害剤
【請求項8】
体細胞性倍数性を伴う病状の予防および/または治療のための、請求項1に記載の阻害剤であって、神経細胞および/または筋細胞に感染することができるベクター中にDNAの形態で含まれてなる阻害剤
【請求項9】
ベクターが、ウイルスベクターである、請求項に記載の阻害剤
【請求項10】
ウイルスベクターが、レンチウイルスである、請求項に記載の阻害剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野に属し、特に治療ツールを開発するための分子標的同定に関する。
【背景技術】
【0002】
新しいDNA合成をその後に伴う分裂終了細胞における細胞周期の再活性化と神経細胞(神経変性、虚血など)および筋細胞(肥大型心筋症、高血圧および加齢に伴う血管病状)に影響する様々な病理的過程との間に存在する関連性が知られている。多くの場合、細胞周期の再活性化は、細胞分裂を伴わず、むしろ、体細胞性倍数性(ある細胞タイプにのみ影響し、世代から世代へと伝わらない倍数性)を生み出すことにつながる、核内倍加メカニズムの一部である(Ullah et al., 2009)。体細胞性倍数性を伴う病状の一例はおそらくアルツハイマー病(AD)である。この疾患において神経細胞は変性前に細胞周期を再活性化させることが知られ(Yang et al., 2003)、核のDNA量を増加させる(Arendt et al., 2010)。これらの神経細胞は、その生存を損なう形態学的および機能的修正を経験しているようである(Frade and Lopez-Sanchez, 2010)。実際、高倍数性の神経細胞が、ADを有する患者の脳で優勢に変性するものであることが記載されている(Arendt et al., 2010)。心筋組織は、倍数性筋細胞をある割合で含み、その割合は病理的状況において変化している(Yabe and Abe, 1980; Vliegen et al., 1995)。血管平滑筋もまた、倍数性を伴う欠陥に苦しみうる(McCrann et al. 2008)。これらの理由で、核内倍加に関わる分子的基礎の知識は、体細胞性倍数性を伴う病状を防ぐ治療ツールの設計を促進する。ヒトの病状を伴う体細胞性核内倍加を防ぐことを目的とする治療ツールは現在まで開発されていない。これは、大概は新しい考え方が出現したばかりのとても最近の研究分野であるためである。
【0003】
US20080139517A1は、細胞周期の初期フェーズにおいて、または、加齢に伴う記憶障害(AAMI)、軽度認知障害(MCI)、AD、脳血管性認知症およびその他の後退性神経変性疾患における分裂刺激を低下させることにより、神経細胞の細胞周期の進行を阻害することができる1以上の薬剤を投与することを提案する。しかし、この特許文献は、変性過程は従来型の細胞周期の進展に伴うものであり、核内倍加ではない。さらに、この特許文献は倍数性を生み出す細胞周期の再活性化が記載されまたは記載され得るほかの神経系および心疾患にスペクトラムを拡大するものではない。
【0004】
Morillo et al., 2010では、神経細胞の4倍体性を生み出す神経における核内倍加過程が胚発生中に自然に生じること、これにより、大きなサイズ、大きな軸索およびその標的組織における差のある神経伝達領域を獲得する特定の神経細胞集団を生み出す(Morillo et al., 2010)。これらの神経細胞における核内倍加は、ニューロトロフィン受容体p75(p75NTR)の神経成長因子NGF媒介性活性化の応答として生じることが知られている。これらの神経細胞はそのDNAを倍加させ、G2/M遷移を防ぐTrkB受容体を解して働くニューロトロフィンBDNFの効果によりG2様状態にとどまる。それゆえに、神経細胞の4倍体化が、p75NTRを介するNGF媒介性の神経系発生の間に起こり、転写因子E2F1の活性化を誘発して細胞周期を再開する。BDNFシグナルを十分に受け取らないこれらの4倍体神経細胞は、有糸分裂を行おうとしてその後アポトーシス性の細胞死を起こす。アルツハイマー病患者のほうでは、冒された領域においてp75NTRとNGFの存在が知られている。このことは、冒された領域で観察される4倍体性が神経系の発生の間に4倍体神経細胞を生み出すのと同一のメカニズムにより引き起こされ得ることを示唆する。疾患の進行基に観察されるTrkBレベルの低減は、神経細胞死を促進し得た(Frade and Lopez-Sanchez, 2010におけるこのモデルの発展を参照)。
【0005】
Deschenes et al. 2004は、ヒト小腸上皮細胞の増殖と分化を制御するメカニズムを参照し、転写因子E2F4のp38MAPKによるリン酸化の可能性を示す。しかし、この文献は、ヒト小腸上皮細胞の増殖と分化を制御するメカニズムの一部としてp38MAPKにより転写因子E2F4のどの残基がリン酸化されるかを調査する必要性が現在あると結論している。
【0006】
これらのいずれの文献も、病理的倍数体化を阻害する治療標的としての候補分子を同定していない。従って、新しい治療標的を同定する手段による治療方法として、分裂終了細胞における病理的倍数体化を引き起こす核内倍加を防ぐ必要が現在ある。
【発明の簡単な説明】
【0007】
本発明は、体細胞性倍数性を伴う病状の予防および/または治療に用いるための阻害剤であって、転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のp38MAPKによるリン酸化を阻害することに用いる阻害剤に関する。
【0008】
同様に、本発明は、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療する方法であって、配列番号1の転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤の治療上有効量を患者に投与することを含んでなる、方法に関する。
【0009】
最後に本発明は、体細胞性倍数性を伴う病状の予防および/または治療における治療標的としての、p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤の使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本発明の好ましい態様では、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療することに用いるための、p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤は、転写因子E2F4の変異形態であり、そのアミノ酸配列は、配列番号1(ヒト)として同定される。配列番号1を有する転写因子E2F4の前記変異形態は、好ましくは、Thr248および/またはThr250残基において、p38MAPKによるリン酸化され得ないアミノ酸(グルタミン酸またはアスパラギン酸以外のアミノ酸)に置換されている。リン酸化され得ない前記アミノ酸は、より好ましくはアラニンである。
【0011】
本発明の他の好ましい態様では、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療することに用いるための、p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤は、配列番号1に含まれるE2F4の断片であって、p38MAPKによる内在性E2F4のリン酸化に干渉することに関して同一の能力を有する、断片である。
【0012】
本発明の他の好ましい態様では、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療することに用いるための、p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤は、保存されたThr残基に変異を有する他の種由来のE2F4の形態である。他の種由来のE2F4の前記形態は、好ましくは、配列番号2(ニワトリ)および配列番号3(マウス)である(図1参照)。
【0013】
本発明の他の好ましい態様では、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療することに用いるための、p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤は、Thr248および/またはThr250残基がアラニンで置換された配列番号1の転写因子E2F4の前記変異形態を模倣する合成分子である。
【0014】
他方、本発明は、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療することに用いるための、p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤であって、前記体細胞性倍数性は、分裂終了細胞における核内倍加の結果として生じる、阻害剤に関する。前記分裂終了細胞は、好ましくは神経細胞および/または筋細胞である。
【0015】
加えて、本発明は、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療することに用いるための、p38MAPKによる転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤であって、前記体細胞性倍数性を伴う病状は、以下の群:神経変性疾患、虚血、肥大型心筋症、高血圧および加齢に伴う血管病状から選択される、阻害剤に関する。前記体細胞性倍数性を伴う病状は、好ましくは神経変性疾患である。前記神経変性疾患は、さらにより好ましくはアルツハイマー病である。
【0016】
本発明の他の好ましい態様では、体細胞性倍数性を伴う病状を予防および/または治療する方法は、配列番号1の転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を阻害する阻害剤の治療上有効量を患者に投与することを含んでなり、前記阻害剤は、細胞への取り込みを促進する他の細胞膜透過性ペプチドと関連するペプチドまたはタンパク質のいずれかに含まれてなるか、神経細胞および/または筋細胞に感染することができるベクター(好ましくは遺伝子治療に適したベクター)中に含まれてなることができ、前記ベクターは、より好ましくはウイルスベクターであり、さらにより好ましくはレンチウイルスである。
【0017】
発明者らの研究室では、胚発生中にニワトリの神経細胞における細胞周期再活性化を誘導する、NGF/p75NTRにより用いられるメカニズムを明らかにした。効果は、核内倍加および神経の4倍体化を生み出す(Morillo et al., 2010)。前記メカニズムは、影響を受けた細胞の核においてSer/Thrキナーゼp38MAPKの活性化(図2)、および続いて起こる転写因子E2F4のスレオニン残基のリン酸化(図3)に基づく。分裂終了細胞においてp38MAPKを活性化する他の如何なるシグナル経路も、転写因子E2F4を用いる高倍数化を生じ得る。ニワトリでは、p38MAPKによりリン酸化され得る2つの残基、すなわち、スレオニン残基Thr261およびThr263のみが存在する(図1)。NetPhosK 1.0ソフトウェアを用いると、ヒトおよびマウスE2F4タンパク質と保存されたドメイン中に含まれていることが予想される(図1)。ヒトE2F4タンパク質の場合、NetPhosK 1.0ソフトウェアにより予測される、p38MAPKによりリン酸化され得るスレオニン残基は、スレオニン残基Thr248である(p38MAPKによるリン酸化のコンセンサス部位は、スレオニンの後ろに位置する連続するPro残基、TP配列である)。ヒトThr250残基も、連続したPro残基を欠いているが、保護されていると考えられている。理由は、いずれも連続するPro残基を有するマウスThr251スレオニン残基とニワトリThr263スレオニン残基との保存の程度、および、p38MAPKによりリン酸化され得るスレオニン残基としてNetPhosK 1.0により予測されるからである。
【0018】
E2F4のThr261/Thr263残基のリン酸化は、神経分化過程において、ニワトリ胚網膜細胞でのp75NTRを介したNGFにより誘導される細胞周期再活性化に重要である(図4)。そのような細胞周期再活性化は神経細胞の4倍体化を引き起こす(Morillo et al., 2010)。発明者らは、Thr261およびThr263残基がGlu(Thrのリン酸化状態を模倣する正に荷電したアミノ酸)で置換されているニワトリE2F4の構成的活性化形態の使用が、網膜神経細胞へのNGFの効果を模倣することができることを観察した(図4Aおよび4B)。p38MAPKによるリン酸化を防ぐドミナントネガティブ形態のニワトリE2F4(Thr261Ala/Thr263Ala)の使用が、神経原性網膜培養物における細胞周期に対するNGFの効果を阻害することができることを示した(図4Cおよび4D)。従って、上記病状を伴う影響された神経細胞または筋細胞中で、この変異形態Thr261Ala/Thr263Ala(またはヒト形態Thr248Ala/Thr250Ala)を発現させると、核内倍加過程およびその後の高倍数体化を抑制し、これが疾患進展を防止、少なくとも遅延できる。本発明は、分裂終了細胞(神経細胞および筋細胞)を冒す様々な疾患において高倍数体化および関連した病体効果を防ぐための前記変異形態のE2F4の使用に関する。
【0019】
従って、本発明は、ヒトE2F4のThr248およびThr250の保存された相同のThr残基におけるリン酸化が、網膜神経細胞における核内倍加の誘発に重要であることを示した。
【0020】
本発明はまた、ヒト転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化(以降、phosphoE2F4)を特異的に阻害する方法を保護する。前記リン酸化の阻害は、分裂終了細胞におけるDNA合成を誘発するE2F4の能力を阻害し、明らかな治療的利益を有する。
【0021】
本発明は、p38MAPK/phosphoE2F4シグナルを阻害する方法に関し、好ましくは、発明者の研究室でニワトリE2F4で実施されたように、Thr248残基および/またはThr250残基がAlaで置換されており、E2F4の変異形態によるものである。
【0022】
代わりに、本発明は、p38MAPK/phosphoE2F4シグナルを抑制するその他の方法に関し、例えば、
− Thr248および/またはThr250残基のリン酸化され得ない他のアミノ酸での置換、
− 内在性E2F4のリン酸化を阻害することに関して同じ能力を有するE2F4断片の使用、
− 保存されたThr残基に変異を有する他の種由来のE2F4の形態の使用、
− E2F4の変異形態を模倣する合成分子の使用、などである。
【0023】
本発明は、影響された細胞にE2F4の前記の変異形態を特異的に送達するあらゆる方法を保護するものであり、例えば、細胞膜を通過することができる適切なベクターおよびペプチドの方法によるものである。
【0024】
本発明は、下記段階を含む:
1)標的細胞内でヒト転写因子E2F4のリン酸化を遮断する遮断分子を産生すること。
【0025】
ヒトE2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を遮断するために選択された分子(ヒトE2F4若しくは他の種のE2F4の配列をコードする遺伝子、ヒトE2F4若しくは他の種のE2F4のペプチド配列、ヒトE2F4若しくは他の種のE2F4の配列をコードする部分遺伝子、ヒトE2F4若しくは他の種のE2F4の部分ペプチド配列、または、ヒト転写因子E2F4のThr248および/またはThr250残基のリン酸化を遮断することができる、E2F4とp38MAPKとの相互作用領域を模倣する他の分子)は、化学合成により、または、遺伝子治療に適したベクターを産生するプラスミド中にそのcDNA配列をクローニングすることにより、産生される。
【0026】
この最後のケースでは、コード配列はまず、細胞株またはヒト起源の組織から事前に得られたmRNAに由来するcDNAから、プルーフリード能を有する耐熱性酵素を用いて増幅できる。配列をクローニングするために、クローニング用に選択されるベクターのポリリンカーに適合した制限部位を含むプライマーが用いられる。前記ベクターは、標的細胞に選択された配列を導入する、実施例4で用いられる方法に基づいて選択される。配列がクローニングされると、Thr248および/またはThr250残基をコードするACTコドンに、GluまたはAsp以外のアミノ酸に特異的なコドンを導入するために、該コドンの特異的改変を導く標準的な部位特異的変異導入過程が実施される。そのようにして生み出されたプラスミドは、目的のベクターをパッケージングできる適切な細胞株にトランスフェクションされる。
【0027】
2)標的細胞においてヒト転写因子E2F4のリン酸化を遮断する遮断分子を発現させること。
【0028】
p38MAPK−E2F4シグナル経路が活性化された細胞では、p38MAPKが、p38MAPKには結合できるが、リン酸化されないE2F4の変異形態を模倣する過剰な分子に結合する際に阻害されると予測される。前記細胞における核内倍加過程はそれゆえに遮断される。遮断分子は、DNAの形態で導入されると、同じ標的細胞により発現され得る(例えば、レンチウイルスなどの適切なベクターを用いて)。代わりに、遮断分子は、多かれ少なかれ標的細胞型特異性を有する細胞膜を通過することができるペプチドの方法で導入され得る。
【0029】
明細書および特許請求の範囲を通じて、「含んでなる」およびその変形は、他の技術的特徴、添加物、構成成分または行程を除外することを意図しない。当業者には本発明の他の目的、利点および特徴が本発明の記載から一部および本発明の実践から一部推測できる。下記図面および実施例は、例示のために提供されるのであって、本発明を限定することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、転写因子E2F4の構造、機能ドメイン、および配列の保存を示す。図は、ヒト転写因子E2F4(H. sapiens)、マウス(M. musculus)転写因子E2F4、ニワトリ(G. gallus)転写因子E2F4、カエルXenopus laevisX. laevis)転写因子E2F4、およびゼブラフィッシュ(D. rerio)転写因子E2F4のアミノ酸配列の比較を図示する。DNA結合(DB)領域、二量体化(DIM)ドメイン、マークドボックス(MB)およびトランスアクティベーション(TA)ドメインなどの様々な既知の機能ドメインが示されている。他の種で保存されたヒト配列のThr248およびThr250残基を含む領域(小さい四角で示される)もまた、示されている:マウス配列におけるThr249およびThr251残基、ニワトリ配列におけるThr261およびThr263残基、カエルにおけるThr228およびゼブラフィッシュにおけるThr217。この領域は、調節領域(RD)として参照されている。調節領域において完全に保存されたアミノ酸は、ドットで示される。
図2図2は、NGFに対する応答における核内p38MAPKの活性化が、E6におけるニワトリ胚網膜細胞神経原性培養物における細胞周期再活性化に必要であることを示す。これらの細胞は、体細胞4倍体化(核内倍加)を導く細胞周期再活性化を誘発することによりNGFに応答する(Morillo et al., 2010)。A.100ng/mLのNGFで示された回数処理された前記神経原生培養物の核抽出物中における抗活性化p38MAPK(P−p38MAPK)および抗p38MAPKのウェスタンブロット。P−p38MAPKおよびp38MAPKのレベルの標準化された比が下に示されている。B.100ng/mLのNGFで20分間処理した前記神経原性培養物における抗活性化型p38MAPK抗体(P−p38MAPK)による免疫組織化学染色。核は、ビスベンズイミド(Bisb.)によりラベルされている。NGFで処理した細胞の核内でのシグナルの増加に注意。C.G1/S遷移中にE2F4に応答することで知られるcMyc遺伝子プロモーターの制御下のルシフェラーゼ発現プラスミドおよびβ−ガラクトシダーゼの構成的発現を伴う他のプラスミドをトランスフェクションしたニワトリ胚網膜細胞神経原性培養物E6の抽出物におけるルシフェラーゼアッセイ。ルシフェラーゼ/β−ガラクトシダーゼ比の値が、「ルシフェラーゼ活性」として描かれている。100 ng/mL NGF処理がcMycプロモーターの活性化を伴い、これは細胞周期の再活性化を示す。この効果は、p38MAPK特異的阻害剤SB203580(5μMで用いる)で遮断される。D.BrdUの取り込みは、ニワトリ胚網膜細胞神経原性培養物E6においてS期への進入を示す。100 ng/mL NGF処理がS期の細胞の割合の増加を伴い、この効果は、p38MAPK特異的阻害剤SB203580により遮断されるが、JNK特異的阻害剤SP600125(7μMで用いる)によっては遮断されない。*p<0.05;***p<0.005(ステューデントのT−テスト)。
図3図3は、E6におけるニワトリ胚網膜細胞神経原性培養物におけるE2F4のスレオニン残基の、NGF促進性リン酸化を示す。上部は、100 ng/mL NGFおよび選択的阻害剤SB203580(5μMで用いる)の異なる組合せで処理した、示されている培養物に由来する、抗E2F4抗体を用いて免疫沈降した抽出物において抗phosphoThr抗体(αp−Thr)を用いて実施したウェスタンブロットを示す。下部は、免疫沈降せずに同一の抽出物(INPUT)において抗E2F4抗体を用いて実施したウェスタンブロットを示す。p38MAPK阻害剤の存在はそのようなリン酸化を阻害した一方で、NGFの存在は、スレオニン残基のリン酸化の増加を伴うことが見られる。
図4図4は、E2F4のThr261/Thr263残基のリン酸化は、E6におけるニワトリ胚網膜細胞神経原性培養物における細胞周期再活性化を誘発することができることを示す。A.図2Cで記載したように分析されたルシフェラーゼ活性。Thr261Glu/Thr263Glu置換により特徴付けられるE2F4の構成的活性化形態(E2F4−CA)の発現はcMycプロモーター活性を誘発し、この効果は、選択的p38MAPK阻害剤SB203580(5μMで用いた)の存在下であっても観察される。B. BrdUの取り込みは、E2F4の構成的活性化形態(E2F4−CA)をトランスフェクションした細胞において顕著に増加し、この効果は、選択的p38MAPK阻害剤SB203580(5μMで用いた)の存在下であっても観察される。パネルAおよびBに示される結果に基づいて、p38MAPKが他ではなくThr261/Thr263残基を介して働くことが分かる。C.図2Cで記載されたように解析したルシフェラーゼ活性。Thr261Ala/Thr263Ala置換により特徴付けられるE2F4のドミナントネガティブ形態(E2F4−ND)の発現は、cMycプロモーター活性に対する100 ng/mL NGFの効果を防ぐ。D.E2F4のドミナントネガティブ形態(E2F4−ND)の発現は、網膜神経原性培養物におけるBrdUの取り込みに対する100 ng/mL NGFの効果を防ぐ。
図5図5は、例えば、遺伝子治療に適したベクター(レンチウイルスなど)を産生するプラスミドへのE2F4コード配列のクローニング方法のダイアグラムを示す。ヒト組織または細胞から得られたmRNAは、逆転写酵素を用いてcDNAに変換される。ヒトE2F4のコード配列は、灰色の三角形で描かれており、Thr248残基をコードするコドンが示されている。このコドンは、2つの特異的制限部位(CおよびD)と並んでいる。2つのプライマーがその5’末端(AおよびB)の2つの特異的制限部位と、コード領域の末端配列に基づいて設計される。これらの標的は、発現ベクターのポリリンカーに見出されるものであり、前記ベクターにE2F4コード配列をクローニングするために用いられる。P:E2F4タンパク質の転写をもたらすプロモーター。pol:ベクターにより産生されるmRNAにポリ(A)テールを導入するために用いられるポリアデニル化配列。
図6図6は、E2F4コード配列の変異導入過程のダイアグラムを示す。特異的制限部位CおよびD(外部の矢印)と並ぶ外部プライマーペアおよびその配列内にThr248の変異コドン(内部の矢印)を含む他の重なる内部プライマーペアが設計される。2つのPCR増幅反応が、DNAポリメラーゼPfuを用いて実施され、反応生成物は共に変性させられる。DNAの復元(renature)後に、他の可能性の中でダイアグラムに示される状況が得られる。DNAポリメラーゼPfuの伸長は、その末端に外部プライマーの配列を有するDNA二重ヘリックスを生み出す。これらの配列は、前記プライマーで指数関数的に増幅され、制限部位CおよびDと並ぶ、Alaに変異させたThr248残基を有するDNA断片を生ずる。変異を含む配列は、その目的のための制限部位CおよびDを用いて発現ベクターにサブクローンされ得る。
【0031】
参照文献
【実施例】
【0032】
実施例
この特許文献で提供される下記の特定の実施例は、本発明の性質を例示するものである。これらの実施例は、例示的な目的のためにのみ含まれるのであって、ここで特許請求される発明を限定するように解釈されてはならない。従って、下記に記載される実施例は、その応用分野を限定することのない発明を例示する。
【0033】
実施例1:ヒトE2F4コード配列のクローニング
ヒト E2F4コード配列(NCBI登録番号:NM_001950を有する配列の64−1305位)(配列番号4)は、遺伝子治療に適したベクター(例えば、レンチウイルス)を産生できるプラスミドにクローニングされる。コード配列は、ヒト由来の細胞株または組織から事前に得られるmRNAに由来するcDNAから、DNAポリメラーゼ酵素Pfuを用いて事前に増幅されなければならない。配列をクローニングするため、レンチウイルス発現ベクターのポリリンカーと互換のEcoRVおよびPacI制限部位(この段落の末尾に示される配列中で下線で示される)を含むプライマーが用いられる(図5の前記ベクターの単純なダイアグラムを参照、ダイアグラム中ではEcoRV部位はAに対応し、PacI部位はBに対応する)。これらのオリゴヌクレオチドの例は、下記野通りである。
配列番号5:5’オリゴ: 5’-CAACAGATATCATGGCGGAGGCCGGGCCACA-3’
配列番号6:3’オリゴ: 5’-CCATTAATTAAGGGTCCCAGCCACACAGGGC-3’
【0034】
最初のオリゴヌクレオチドは、ヒトE2F4配列の64−83位におけるヌクレオチドに対応し、1319−1338位におけるヌクレオチドに相補的である。
【0035】
このようにして得られた増幅産物は、EcoRVまたはPacI制限部位を有さないpGEM−Teasyベクター(Promega)にクローニングされ、セクション2で記載される部位特異的変異導入が行われる。
【0036】
実施例2:Thr248残基の変異(Thr250残基は、Thr248Ala変異が導入されると同様の方法で変異導入される)
ヒトE2F4配列がpGEM−Teasyベクターにクローニングされると、オリゴヌクレオチドは、配列番号4に対応するヒトE2F4コード配列の731−754位間に含まれる領域内に設計される。
【0037】
これらのオリゴヌクレオチドは、Ala特異的コドン(GCT配列)として変異させられた(ヒトE2F4コード配列の742−744位において)Thr248をコードするACTコドンを含む。これらのオリゴヌクレオチドの例は、
配列番号7:5’変異オリゴ: 5’-TCAGCTCGCTCCCACTGCTG-3’(735−754位)
配列番号8:3’変異オリゴ: 5’-CAGTGGGAGCGAGCTGAGGA-3’(732−751位)
である。
【0038】
これらのオリゴヌクレオチド(下線で示された変異を含む)は、図6で示される2つの独立した反応のプライマーとして用いられる。酵素BspEI制限部位と並ぶ他のプライマーペア(図6のCおよびDとして示される)は、これらの反応のために設計される。ヒトE2F4をコードするDNA配列は、374−379位および979−984位にTCCGGAを有する2つのBspEIを含む。これらのプライマーの例は、
配列番号9:5’非変異オリゴ: 5’-AAGGTGTGGGTGCAGCAGAG-3’(352−371位)
配列番号10:3’非変異オリゴ: 5’-GGTCTGCCTTGATGGGCTCA-3’(1005−1025位)
である。
【0039】
2回のPCR増幅反応は、図6のダイアグラムに示されるようにDNAポリメラーゼPfuを用いて続いて実施され(3’変異オリゴと5’非変異オリゴ、および3’非変異オリゴと5’変異オリゴ)、反応生成物は一緒に変性させた。DNAの復元の後に、他の可能性の中で、図6のダイアグラムに示される状況が得られた。DNAポリメラーゼPfuを用いたこれらのハイブリッドの伸長は、外部プライマー(5’非変異オリゴおよび3’非変異オリゴ;図6参照)で増幅され得るDNA二重ヘリックスを生み出す。制限部位CおよびDと並ぶAlaに変異させたThr248残基を有するDNA断片(図6参照)は、そうして得られた。変異を含む配列は、その後、その目的のための制限部位CおよびD(BspEI)を用いてポイント1に生み出されるpGEM−Teasyベクターにサブクローニングされる。改変されたクローンをシークエンスした後に、適した方向で取り込まれた配列を有するクローンを選択する。
【0040】
実施例3:神経系に感染できる治療用ベクターの産生
変異ヒトE2F4コード配列(T248A)を有するpGEM−Teasyプラスミドは、EcoRVおよびPacI酵素で開裂させて前記配列を切り離し、EcoRVおよびPacI部位を含むレンチウイルス発現ベクター pSMPUW-Hygro (Cell Biolabs, Inc.)のポリリンカーにサブクローニングされる。このようにして生産されたベクターは、目的のベクターをパッケージングできる適切な細胞株にトランスフェクションされる。
【0041】
実施例4:標的細胞におけるE2F4の変異形態の発現
p38MAPK−E2F4シグナル経路が活性化されている神経細胞または筋細胞においては、p38MAPKは、分化過程においてNGFで処理された神経細胞において見られるのと同様に、過剰量の変異E2F4分子に結合する際に阻害されていると予想される。従って、前記細胞における核内倍加過程は遮断されている。E2F4のThr248残基のリン酸化が核内倍加を除く他の細胞機能において生じないならば、他の細胞におけるその存在は、副作用ではなかったはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]