(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶接部の表面に形成される前記酸化皮膜は、前記フレームの表面に形成される酸化皮膜から連続的に繋がった状態で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池カセット。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池として、例えば固体電解質層(固体酸化物層)を備えた固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell;SOFC)が知られている。この燃料電池は、発電の最小単位である単セルを複数積層してなる燃料電池スタックを備えている。単セルは、空気極、燃料極及び固体電解質層を有して構成され、発電反応により電力を発生する。また、燃料電池スタックには、単セルに加えて、フレーム、セパレータ、インタコネクタ等が設けられ、それらが複数個ずつ積層されている。
【0003】
フレームは、ステンレスなどを用い、単セルの側面を囲むように枠状に形成される。また、セパレータも、ステンレスなどによって形成されており、単セルを配置するための開口部を中央に有する矩形枠状をなしている。そして、セパレータの開口部の内側に単セルを配置した状態で単セルの周縁部にセパレータが接合される。セパレータは、単セル間において、反応ガス(酸化剤ガスや燃料ガス)が供給される空気室や燃料室を区画するための仕切り板として機能する。さらに、インタコネクタも、ステンレスなどの導電性材料によって板状に形成されており、単セルの厚み方向の両側に配置される。そして、各インタコネクタにより単セル間の導通が確保される。
【0004】
ところで、従来の固体酸化物形燃料電池(例えば、特許文献1参照)では、コンプレッションシールによって、燃料電池スタックにおけるシール性が確保されるのが一般的であった。しかしながら、コンプレッションシールでは、反応ガスがリークし易く、セパレータ等が過度に変形することで、反応ガスの利用率特性が悪化するといったことが懸念されていた。
【0005】
特許文献2には、セパレータの接合を溶接によって行う燃料電池が開示されている。このように、燃料電池スタックを構成する金属部材(セパレータ、フレーム、インタコネクタ等)を溶接して接合体(燃料電池カセット)を形成することで、反応ガスの外部リークの発生が防止される。
【0006】
燃料電池スタックには、反応ガスを流すためにマニホールドのガス流路が形成されている。具体的には、ガス流路は、燃料電池スタックにおいて単セルの積層方向に貫通形成されるとともに、それぞれの単セルに繋がる(分岐または集合する)ように形成されている。つまり、セパレータ、フレーム及びインタコネクタには、ガス流路を構成するための複数の穴部が貫通形成されている。そして、これらセパレータ、フレーム及びインタコネクタを接合して燃料電池カセットを構成する際には、各穴部の周囲をレーザ溶接にて封止することでガス流路のシール性が確保される。また、レーザ溶接は、溶接幅が0.1mm程度と狭いため、熱歪みを抑えつつ各部材を接合することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、固体酸化物形燃料電池は、高温タイプのもので1000℃、中温タイプのもので700℃〜800℃で運転される。このような高温の環境化で使用すると、レーザ溶接による溶接部は、溶接幅が狭いため、腐食して穴が開いてしまうことが懸念される。そして、溶接部に穴が開くと、その穴から反応ガスがカセット外部にリークしてしまうといった問題が生じ、効率よく発電できなくなる。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、セパレータ、フレーム及びインタコネクタの各部材を接合する溶接部の耐食性を高め、良好な電池特性を維持することができる燃料電池カセット及び燃料電池スタックを提供することにある。また別の目的は、上記燃料電池カセットを製造するのに好適な燃料電池カセットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして上記課題を解決するための手段(手段1)としては、燃料極、空気極及び電解質層を有する平板状の単セルと、前記単セルの側面を囲むように配置される枠状のフレームと、前記単セルの周縁部に接合されるとともに、前記フレームの一方の表面に配置されて、前記空気極に接する酸化剤ガス及び前記燃料極に接する燃料ガスを分離するセパレータと、前記フレームにおいて前記セパレータが配置される一方の表面の裏面側となる他方の表面に配置される板状のインタコネクタと、を積層してなる燃料電池カセットであって、前記セパレータ、前記フレーム及び前記インタコネクタが溶接にて接合され、前記フレーム及び前記セパレータのうち少なくとも前記フレームが
、アルミニウムを含むアルミ含有金属材
としてのフェライト系ステンレス鋼を用いて形成されるとともに、前記インタコネクタが
、アルミニウム
含有率が0.3質量%未満であるアルミ非含有金属材
としてのフェライト系合金を用いて形成され、前記セパレータ、前記インタコネクタ及び前記フレームにおいて各部材間を接合する溶接部がアルミニウムを含むことを特徴とする燃料電池カセットがある。
【0011】
従って、手段1に記載の発明によると、セパレータ、インタコネクタ及びフレームにおいて各部材間を接合する溶接部がアルミニウムを含んでいるので、溶接部の耐食性を高めることができる。また、インタコネクタがアルミ非含有金属材を用いて形成されるので、発電時に燃料電池カセットが高温となった場合でも、インタコネクタの表面にアルミナの酸化皮膜が形成されることはない。従って、インタコネクタが良好な電気抵抗を維持することができ、インタコネクタを介して単セル間の電気的な接続を確実に行うことができる。
【0012】
なお、本発明において「アルミ非含有金属材」とは、アルミニウムを実質的に含まない金属材のことを指す。ここで、「アルミニウムを実質的に含まない」とは、「ICP分析装置を用いて測定したアルミニウムの含有率が0.3wt%未満である」ことと定義する。これに対し「アルミニウムを含む」とは、「ICP分析装置を用いて測定したアルミニウムの含有率が0.3wt%以上である」ことと定義する。また、金属材の生成時等に不純物として含まれる程度であれば、極微量のアルミニウムが含まれていても、本発明のアルミ非含有金属材として用いることができる。より具体的には、発電時に燃料電池カセットが高温となっても、金属材の表面にアルミナの酸化皮膜が形成されることがなく、電気抵抗が変化しない金属材をアルミ非含有金属材として用いることができる。
【0013】
溶接部の表面に形成される酸化皮膜は、フレームの表面に形成される酸化皮膜から連続的に繋がった状態で形成されている。このようにすると、溶接部の耐食性をより確実に高めることができる。
【0014】
アルミ含有金属材は、1質量%以上10質量%以下の含有率でアルミニウムを含んでいる。ここで、アルミ含有金属材におけるアルミニウムの含有率が1質量%未満となると、溶接部の表面を覆う酸化皮膜が形成できなくなり、溶接部の耐食性が低下してしまう。また、アルミ含有金属材におけるアルミニウムの含有率が10質量%を超えると、フレームやセパレータが柔らかくなりその強度が低下してしまう。従って、アルミニウムの含有率が1質量%以上10質量%以下であるアルミ含有金属材を用いてフレームやセパレータを形成することで、溶接部の耐食性を確保しつつ、フレームやセパレータの強度を十分に確保することができる。
【0015】
フレーム、セパレータ及びインタコネクタを接合する溶接は、レーザによる溶接であってもよい。また、レーザはファイバーレーザを用いてもよい。ファイバーレーザによる溶接では、小さいスポットサイズに焦点を合わせることができるため、溶接痕の線幅を0.2mm以下とすることができる。従って、熱歪みを抑えつつフレームにセパレータやインタコネクタを確実に溶接することができる。なお、レーザによる溶接以外にも、抵抗溶接等によって溶接を行ってもよい。
【0016】
フレームとインタコネクタとを接合する溶接部は、アルミ含有金属材とアルミ非含有金属材とが溶融して形成される。従って、溶接部のアルミニウムの含有率は、アルミ含有金属材からなるフレームでのアルミニウムの含有率よりも低くなる。
【0017】
セパレータ及びフレームがアルミ含有金属材を用いて形成されていてもよい。この場合、インタコネクタ及びフレーム間の溶接部は、セパレータ及びフレーム間の溶接部よりもアルミニウムの含有率が低くなる。具体的には、セパレータ及びフレーム間の溶接部は、アルミ含有金属材のアルミニウムの含有率と等しく、インタコネクタ及びフレーム間の溶接部は、アルミ含有金属材のアルミニウムの含有率の半分程度の含有率となる。
【0018】
また、上記課題を解決するための別の手段(手段2)としては、手段1に記載の前記燃料電池カセットを、複数個積層したことを特徴とする燃料電池スタックがある。
【0019】
手段2に記載の発明によると、燃料電池スタックにおいて、各燃料電池カセットでの溶接部における耐食性が高められるため、反応ガスがリークすることがなく、良好な電池特性を維持することができる。
【0020】
また、上記課題を解決するための別の手段(手段3)としては、手段1に記載の燃料電池カセットを製造する製造方法であって、前記燃料電池カセットには、前記酸化剤ガス及び前記燃料ガスを流すガス流路が形成されており、前記ガス流路を構成する穴部が形成された前記フレーム及び前記インタコネクタを準備し、前記穴部の位置を合わせつつ前記フレーム及び前記インタコネクタを重ね合わせて配置する配置ステップと、前記穴部の周囲に沿ってレーザを照射して前記穴部の周囲を封止する閉回路形状の溶接部を形成する溶接ステップとを含むことを特徴とする燃料電池カセットの製造方法がある。
【0021】
従って、手段3に記載の発明によると、配置ステップにおいて、ガス流路を構成する穴部の位置を合わせつつフレーム及びインタコネクタが重ね合わせて配置される。そして、溶接ステップにおいて、穴部の周囲に沿ってレーザを照射して穴部の周囲を封止する閉回路形状の溶接部が形成される。このとき、溶接部ではアルミ含有金属材とアルミ非含有金属材とが溶融しそれらが攪拌される結果、アルミニウムを含んだ状態で溶接部が形成される。その後、発電時に燃料電池カセットが高温となると、溶接部に含まれるアルミニウムが表面側に移動しその表面で酸化する。この結果、溶接部の表面にアルミナの酸化皮膜が形成されるため、溶接部における耐食性を高めることができる。
【0022】
溶接ステップにおいて、インタコネクタ側からレーザを照射して溶接部を形成してもよい。このように、アルミニウムを含まないインタコネクタ側からレーザ溶接を行った場合でも、アルミ含有金属材とアルミ非含有金属材とが溶融しそれらが攪拌される結果、アルミニウムを含んだ状態で溶接部を形成することができる。
【0023】
配置ステップにおいて、穴部の位置を合わせつつセパレータ、フレーム及びインタコネクタの3枚の部材を重ね合わせて配置してもよい。またこの場合、溶接ステップでは、穴部の周囲に沿ってレーザを照射して、穴部の周囲を封止する閉回路形状の溶接部であって3枚の部材を同時に接合する溶接部を形成してもよい。このようにしても、溶接部ではアルミ含有金属材とアルミ非含有金属材とが溶融しそれらが攪拌される結果、アルミニウムを含んだ状態で溶接部が形成される。このため、溶接部の表面にアルミナの酸化皮膜を形成することができ、溶接部における耐食性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を燃料電池に具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1及び
図2に示されるように、本実施の形態の燃料電池1は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。燃料電池1は、燃料電池カセット2を複数個(例えば20個)積層してなる燃料電池スタック3を備えている。燃料電池スタック3は、縦180mm×横180mm×高さ80mmの略直方体状をなしている。また、燃料電池スタック3は、同燃料電池スタック3を厚さ方向に貫通する8つの貫通孔4を有している。なお、燃料電池スタック3の四隅にある4つの貫通孔4に締結ボルト5を挿通させ、燃料電池スタック3の下面から突出する締結ボルト5の下端部分にナット(図示略)を螺着させる。また、残り4つの貫通孔4にガス流通用締結ボルト6を挿通させ、燃料電池スタック3の上面及び下面から突出するガス流通用締結ボルト6の両端部分にナット7を螺着させる。その結果、燃料電池スタック3において複数の燃料電池カセット2が固定される。
【0027】
図2及び
図3に示されるように、各燃料電池カセット2は、発電の最小単位である平板状の単セル11と、セパレータ12と、燃料極フレーム13と、インタコネクタ14とを積層し、各部材を溶接にて接合してなる接合体である。また、隣接する燃料電池カセット2において、一方(
図2では下方)の燃料電池カセット2のセパレータ12と他方(
図2では上方)の燃料電池カセット2のインタコネクタ14との間には空気極絶縁フレーム15が介在されている。
【0028】
単セル11は、空気極21、燃料極22及び固体電解質層23を有して構成され、発電反応により電力を発生する。インタコネクタ14は、厚さが0.8mm程度の導電性材料によって略矩形板状に形成されている。インタコネクタ14は、燃料極フレーム13においてセパレータ12が配置される一方の表面34(
図2では上面)の裏面側となる他方の表面35(
図2では下面)側に配置される。燃料電池スタック3において複数の燃料電池カセット2を積層配置した場合、インタコネクタ14は、単セル11の厚み方向の両側に一対配置される。
【0029】
本実施の形態のインタコネクタ14は、アルミニウムを含まないフェライト系合金(例えば、Crofer22H等のアルミ非含有金属材)を用いて形成されている。各インタコネクタ14は、ガス流路を形成するとともに、隣接する単セル11同士を導通させるようになっている。隣り合う単セル11の間に配置されるインタコネクタ14は、隣り合う単セル11を区分する。また、両エンドプレート8,9は、燃料電池スタック3を挟持しており、燃料電池スタック3から出力される電流の出力端子となっている。なお、エンドプレート8,9は、インタコネクタ14よりも肉厚になっている。
【0030】
セパレータ12は、厚さ0.1mmで形成されており、矩形状の開口部32を中央部に有する略矩形枠状をなしている。本実施の形態では、セパレータ12は、3mass%(質量%)の含有率でアルミニウムを含むフェライト系ステンレス鋼(例えば、NCA−1等のアルミ含有金属材)を用いて形成されている。セパレータ12は、銀を含むロウ材を用いたロウ付けによって単セル11(固体電解質層23)の周縁部に接合されるとともに、燃料極フレーム13の一方の表面34(
図2では上面)に配置される。セパレータ12は、セル11間の仕切り板として機能し、空気極21に接する酸化剤ガス(空気)及び燃料極22に接する燃料ガスを分離する。
【0031】
空気極絶縁フレーム15は、厚さ1.0mm程度のマイカシートによって略矩形枠状に形成されている。空気極絶縁フレーム15の中央部には、同絶縁フレーム15を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部37が設けられている。
【0032】
燃料極フレーム13は、厚さが2mm程度(例えばステンレスなどの金属板)によって形成された略矩形枠状の部材であり、単セル11の側面を囲むように配置される。つまり、燃料極フレーム13の中央部には、同燃料極フレーム13を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部31が設けられており、その開口部31よりも内側に単セル11が配置されている。本実施の形態において、燃料極フレーム13は、セパレータ12と同じ材料によって形成されている。つまり、燃料極フレーム13は、3mass%(質量%)の含有率でアルミニウムを含むフェライト系ステンレス鋼(例えば、NCA−1)を用いて形成されている。
【0033】
単セル11を構成する固体電解質層23は、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などのセラミック材料(酸化物)によって形成され、厚さ0.01mmの略矩形板状をなしている。固体電解質層23は、セパレータ12の下面に固定されるとともに、セパレータ12の開口部32を塞ぐように配置されている。固体電解質層23は、酸素イオン伝導性固体電解質体として機能するようになっている。
【0034】
また、固体電解質層23の上面には、燃料電池スタック3に供給された酸化剤ガスに接する空気極21が貼付され、固体電解質層23の下面には、同じく燃料電池スタック3に供給された燃料ガスに接する燃料極22が貼付されている。即ち、空気極21及び燃料極22は、固体電解質層23の両側に配置されている。また、空気極21は、セパレータ12の開口部32内に配置され、セパレータ12と接触しないようになっている。なお、本実施の形態では、燃料極フレーム13の開口部31、インタコネクタ14等によってセパレータ12の下方に燃料室17が形成されるとともに、空気極絶縁フレーム15の開口部37、インタコネクタ14等によってセパレータ12の上方に空気室18が形成されている。
【0035】
本実施の形態の単セル11において、空気極21は、金属の複合酸化物であるLSCF(La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3)によって矩形板状に形成されている。また、燃料極22は、ニッケルとイットリア安定化ジルコニアとの混合物(Ni−YSZ)によって矩形板状に形成されている。単セル11において、空気極21はカソード層として機能し、燃料極22はアノード層として機能する。空気極21は、空気極側集電体38によってインタコネクタ14に電気的に接続され、燃料極22は、燃料極側集電体39によってインタコネクタ14に電気的に接続されている。
【0036】
燃料電池スタック3(各燃料電池カセット2)には、酸化剤ガス及び燃料ガスを流すガス流路が形成されている。具体的には、
図2に示されるように、燃料電池スタック3のガス流路として、各単セル11の燃料室17に燃料ガスを供給する燃料供給経路50と、燃料室17から燃料ガスを排出する燃料排出経路51とが形成されている。燃料供給経路50は、ガス流通用締結ボルト6の中心部において軸方向に沿って延びる燃料供給孔52と、燃料供給孔52及び燃料室17を連通させる燃料供給横孔53とによって構成されている。また、燃料排出経路51は、ガス流通用締結ボルト6の中心部において軸方向に沿って延びる燃料排出孔54と、燃料排出孔54及び燃料室17を連通させる燃料排出横孔55とによって構成されている。よって、燃料ガスは、燃料供給孔52及び燃料供給横孔53を順番に通過して燃料室17に供給され、燃料排出横孔55及び燃料排出孔54を順番に通過して燃料室17から排出される。
【0037】
さらに燃料電池スタック3のガス流路として、各単セル11の空気室18に空気を供給する空気供給経路(図示略)と、空気室18から空気を排出する空気排出経路(図示略)とを備えている。空気供給経路は、燃料供給経路50と略同様の構造を有しており、ガス流通用締結ボルト6の中心部において軸方向に沿って延びる空気供給孔(図示略)と、空気供給孔及び空気室18を連通させる空気供給横孔(図示略)とによって構成されている。また、空気排出経路は、燃料排出経路51と略同様の構造を有しており、ガス流通用締結ボルト6の中心部において軸方向に沿って延びる空気排出孔(図示略)と、空気排出孔及び空気室18を連通させる空気排出横孔(図示略)とによって構成されている。よって、空気は、空気供給孔及び空気供給横孔を順番に通過して空気室18に供給され、空気排出横孔及び空気排出孔を順番に通過して空気室18から排出される。
【0038】
本実施の形態において、燃料電池カセット2を構成するセパレータ12、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14などの平板状の金属部材は、レーザ溶接によって各々接合されている。
図4には、燃料電池カセット2において、セパレータ12側から見た燃料極フレーム13との溶接部70,71を示している。
【0039】
図4に示されるように、セパレータ12には、中央部の開口部32に加えて、縁部に複数の穴部60が貫通形成されている。燃料極フレーム13、インタコネクタ14及び空気極絶縁フレーム15にも、同じ位置に複数の穴部60が貫通形成されている(
図3参照)。各穴部60は、締結ボルト5やガス流通用締結ボルト6を挿通させる貫通孔4(
図2参照)の一部を構成するものであり、円形状の穴部60aと楕円形状の穴部60bとを含む。
【0040】
ここで、セパレータ12や燃料極フレーム13等に形成される楕円形状の穴部60bは、上述したガス流路を形成するための穴部である。より詳しくは、
図4のセパレータ12の上下に形成される楕円形状の穴部60bにおいて、上側は燃料ガス供給用のガス流路(燃料供給経路50)を形成するための穴部であり、下側は燃料ガス排出用のガス流路(燃料排出経路51)を形成するための穴部である。また、セパレータ12の左右に形成される楕円形状の穴部60bにおいて、左側は酸化剤ガス供給用のガス流路(空気供給経路)を形成するための穴部であり、右側は酸化剤ガス排出用のガス流路(空気排出経路)を形成するための穴部である。
【0041】
図4及び
図5に示されるように、セパレータ12の外周部65には、燃料極フレーム13と接合するために、レーザ溶接による閉回路形状の溶接部70(線状のレーザ溶接痕)が形成されている。さらに、セパレータ12における各穴部60(60a,60b)の周囲にも、レーザ溶接による閉回路形状の溶接部71(線状のレーザ溶接痕)が形成されている。また、インタコネクタ14にも、燃料極フレーム13と接合するために、レーザ溶接による閉回路形状の溶接部72,73が同様に形成されている。
【0042】
インタコネクタ14において、レーザ溶接による溶接部72,73が形成される部位の厚さT1(=0.55mm)は、他の部位の厚さT2(=0.8mm)よりも薄く形成されている。インタコネクタ14は、セパレータ12よりも厚いため、段差75を設けて溶接部72,73の形成部位を薄くすることでレーザ溶接による接合が確実に行われるようになっている。また、インタコネクタ14における溶接部72,73には、ビード(溶接部72,73の盛り上がり)が形成されるが、そのビードの高さは段差よりも低くなる。この構成によって、溶接部72,73におけるシール性が確保されるようになっている。なお、インタコネクタ14の表面及びセパレータ12の表面における溶接部70〜73の線幅は0.1mm程度であり、燃料極フレーム13の表面から70μm程度の深さまで溶接部70〜73が形成されている。
【0043】
本実施の形態において、インタコネクタ14と燃料極フレーム13との間に存在する溶接部72,73は、1.5mass%の含有率でアルミニウムを含む。また、セパレータ12と燃料極フレーム13との間の溶接部70,71は、3mass%の含有率でアルミニウムを含む。つまり、インタコネクタ14側の溶接部72,73は、燃料極フレーム13におけるアルミ含有率の半分の含有率であり、セパレータ12側の溶接部70,71はセパレータ12及び燃料極フレーム13のアルミ含有率と同じ含有率である。
【0044】
図5に示されるように、本実施の形態において、インタコネクタ14と燃料極フレーム13とを接合する溶接部72,73の表面には、アルミナからなる酸化皮膜76が形成されている。溶接部72,73の酸化皮膜76は、燃料極フレーム13の表面に形成される酸化皮膜76から連続的に繋がった状態で形成されている。また、セパレータ12と燃料極フレーム13とを接合する溶接部70,71の表面にも、同様にアルミナからなる酸化皮膜76が形成されており、この酸化皮膜76も燃料極フレーム13の表面の酸化皮膜76から連続的に繋がった状態で形成されている。
【0045】
次に、燃料電池1の製造方法を説明する。
【0046】
先ず、単セル11を、従来周知の手法に従って形成する。具体的には、燃料極22となるグリーンシート上に固体電解質層23となるグリーンシートを積層し、焼成する。さらに、固体電解質層23上に空気極21の形成材料を印刷した後、焼成する。この時点で、単セル11が形成される。
【0047】
次に、所定の導電性材料(Crofer22H)からなる金属板を打ち抜くことにより、穴部60を有するインタコネクタ14を形成する。同様に、所定の材料(NCA−1)からなる金属板を打ち抜くことにより、穴部60を有する燃料極フレーム13及びセパレータ12を形成する。このようにして、ガス流路を構成する各穴部60(60a,60b)が形成されたセパレータ12、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14を準備する。また、マイカシートを所定形状に形成することにより、空気極絶縁フレーム15を形成する。具体的には、市販のマイカシート(マイカと成形用樹脂との複合体からなるシート)を切断して他の部材(燃料極フレームなど)と略同じ形状に形成する。なお、マイカシートに含まれている樹脂成分は、他の部材と共に積層された後に行われる熱処理によって蒸発する。さらに、マイカシートは、各燃料電池カセット2を積層方向にボルト締めした際に他の部材(セパレータ12及びインタコネクタ14)に挟まれることによって、各部材をシールするようになっている。
【0048】
次に、セパレータ12及び燃料極フレーム13をレーザ溶接により接合する。具体的には、セパレータ12及び燃料極フレーム13における各穴部60の位置合わせを行いつつ、
図6に示されるように、セパレータ12及び燃料極フレーム13を重ね合わせた状態で溶接治具装置100(上治具101と下治具102との間)に配置する(配置ステップ)。そして、図示しない固定部材(ボルト、ナット、クランプ部材など)によって上治具101と下治具102とを締め付けることでセパレータ12及び燃料極フレーム13を固定する。
【0049】
溶接治具装置100の上治具101には、溶接部位を露呈させる開口部103が形成されている。そして、レーザ照射装置105を用い、所定の照射条件(例えば、出力が150W、ビーム径が0.1mm程度)にて上治具101の開口部103に沿ってレーザL1を照射する(溶接ステップ)。ここでは、セパレータ12側から、穴部60の周囲や外周部65に沿ってレーザL1が照射される。このレーザL1の照射熱によって、セパレータ12の材料(アルミ含有金属材であるNCA−1)と燃料極フレーム13の材料(アルミ含有金属材であるNCA−1)とを溶融させることで、燃料極フレーム13にセパレータ12をレーザ溶接する。この結果、穴部60の周囲や外周部65を封止する閉回路形状の溶接部70,71が形成される。
【0050】
なお、レーザ照射装置105としては、例えばファイバーレーザなどの照射装置が用いられる。ファイバーレーザは、波長が1080nmのレーザL1を照射する固体レーザである。また、図示しないX−Yテーブルを用いて溶接治具装置100を水平方向に移動させることで、上治具101の開口部103に沿ってレーザL1を照射するように構成している。
【0051】
レーザ溶接の後、接合したセパレータ12と燃料極フレーム13とを溶接治具装置100から一旦取り出す。そして、セパレータ12を、ロウ付けによって単セル11の固体電解質層23に対して固定する。具体的には、固体電解質層23とセパレータ12とのそれぞれにロウ材を配置した後、大気雰囲気下で、例えば850〜1100℃で加熱することでロウ材を溶融させて、固体電解質層23とセパレータ12とを接合する。
【0052】
その後、上記と同様の溶接治具装置を用い、レーザ溶接により燃料極フレーム13にインタコネクタ14を接合する。具体的には、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14における各穴部60の位置合わせを行いつつ燃料極フレーム13及びインタコネクタ14を重ね合わせた状態で配置する(配置ステップ)。そして、燃料極フレーム13の表面35側(裏面側)にインタコネクタ14をレーザ溶接する(溶接ステップ)。ここでは、レーザ照射装置105により、インタコネクタ14側から、穴部60の周囲や外周部65に沿ってレーザL1が照射される。なお、インタコネクタ14は、セパレータ12よりも厚いため、レーザ出力を300Wとした状態でレーザL1を照射する。そして、レーザL1の照射熱によって、インタコネクタ14の導電性材料(アルミ非含有金属材であるCrofer22H)と燃料極フレーム13の材料(アルミ含有金属材であるNCA−1)とを溶融させることで、燃料極フレーム13にインタコネクタ14をレーザ溶接する。この結果、穴部60の周囲や外周部65を封止する閉回路形状の溶接部72,73が形成される。このとき、溶接部72,73は、アルミ含有金属材とアルミ非含有金属材とが溶融しそれらが攪拌される結果、アルミニウムを含んだ状態で形成される。このように溶接ステップを行うことで、各部材11〜14の接合体である燃料電池カセット2が形成される。
【0053】
そして、燃料電池カセット2と空気極絶縁フレーム15とを複数積層して一体化することにより、燃料電池スタック3を形成する。さらに、燃料電池スタック3の四隅にある4つの貫通孔4に締結ボルト5を挿通させ、燃料電池スタック3の下面から突出する締結ボルト5の下端部分にナット(図示略)を螺着させる。また、残り4つの貫通孔4にガス流通用締結ボルト6を挿通させ、燃料電池スタック3の上面及び下面から突出するガス流通用締結ボルト6の両端部分にナット7を螺着させる。その結果、燃料電池スタック3において各燃料電池カセット2が固定され、燃料電池1が完成する。
【0054】
上記のように製造した燃料電池1において、例えば、稼働温度(700℃程度)に加熱した状態で、燃料供給経路50から燃料室17に燃料ガスを導入するとともに、空気供給経路から空気室18に空気を供給する。その結果、燃料ガス中の水素と空気中の酸素とが固体電解質層23を介して反応(発電反応)し、空気極21を正極、燃料極22を負極とする直流の電力が発生する。なお、本実施の形態の燃料電池スタック3は、単セル11を複数積層して直列に接続しているため、空気極21に電気的に接続される上側エンドプレート8が正極となり、燃料極22に電気的に接続される下側エンドプレート9が負極となる。また、燃料電池1が稼動して高温となると、セパレータ12や燃料極フレーム13中のアルミニウムが表面側に移動してその表面で酸化する。溶接部70〜73でも、アルミニウムが表面側に移動してその表面で酸化する。この結果、セパレータ12や燃料極フレーム13の表面にアルミナの酸化皮膜76が形成されるとともに、その酸化皮膜76と連続した状態で溶接部70〜73の表面にもアルミナの酸化皮膜76(
図5参照)が形成される。
【0055】
また、上記のように製造した燃料電池1の各燃料電池カセット2を準備し、各溶接部72,73におけるアルミニウムの含有率について、汎用の分析装置であるEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて測定した。
図7には、インタコネクタ14と燃料極フレーム13との溶接部72において、EPMAを用いて測定した測定結果を示している。ここでは、
図8のSEM写真77に示されるように、溶接部72における測定箇所として、インタコネクタ14と燃料極フレーム13との接合点(中間点)に位置する測定点P1と、インタコネクタ14における表層側の測定点P2とについてそれぞれ測定した。また、各測定点P1,P2でのアルミニウムの含有率を測定し、各測定結果を
図7に示している。なお、測定値は、測定点P1,P2毎に3回の測定を行い各測定値の平均値として算出している。
【0056】
図7に示されるように、インタコネクタ14及び燃料極フレーム13間の接合部となる測定点P1においては、約1.5%の含有率でアルミニウムを含んでいた。一方、表層側の測定点P2では、測定点P1よりも若干含有率が少なくなっており、約1.1%の含有率でアルミニウムを含んでいた。また、セパレータ12、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14のアルミ含有率についても、EPMAの分析装置を用いて同様に測定した。それらの測定結果により、インタコネクタ14のアルミ含有率は、装置の検出限界以下であり、アルミ含有率が0%であることを確認した。さらに、セパレータ12及び燃料極フレーム13のアルミ含有率は約3%であり、セパレータ12及び燃料極フレーム13間の溶接部70,71のアルミ含有率も約3%であることを確認した。
【0057】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0058】
(1)本実施の形態の燃料電池カセット2では、セパレータ12、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14の各部材間を接合する溶接部70〜73がアルミニウムを含み、溶接部70〜73の表面にアルミナからなる酸化皮膜76が形成されている。この場合、溶接部70〜73における耐食性を高めることができるため、燃料室17内の燃料ガスが燃料電池カセット2外部にリークするといった問題を回避することができる。また、インタコネクタ14がアルミニウムを含まないアルミ非含有金属材を用いて形成されるので、発電時に燃料電池カセット2が高温となった場合でも、インタコネクタ14の表面にアルミナの酸化皮膜が形成されることはない。従って、インタコネクタ14が良好な電気抵抗を維持することができ、インタコネクタ14を介して単セル11間の電気的な接続を確実に行うことができる。以上のことから、燃料電池1において良好な電池特性を維持することができる。
【0059】
(2)本実施の形態の燃料電池カセット2では、溶接部70〜73の表面に形成される酸化皮膜76は、燃料極フレーム13の表面に形成される酸化皮膜76から連続的に繋がった状態で形成されている。このようにすると、溶接部70〜73における耐食性をより確実に高めることができる。
【0060】
(3)本実施の形態において、セパレータ12、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14の各部材間を接合する溶接は、ファイバーレーザによる溶接である。この場合、小さいスポットサイズに焦点を合わせることができるため、溶接部70〜73の線幅を0.1mm程度とすることができる。従って、熱歪みを抑えつつ燃料極フレーム13にセパレータ12やインタコネクタ14を確実に溶接することができ、燃料電池カセット2におけるシール性を十分に確保することができる。また、ファイバーレーザを用いることで、レーザ照射装置105の小型化が可能となる。
【0061】
(4)本実施の形態の溶接ステップにおいて、アルミニウムを含まないインタコネクタ14側からレーザを照射して溶接部72,73を形成している。この場合でも、レーザの照射熱によって、燃料極フレーム13のアルミ含有金属材とインタコネクタ14のアルミ非含有金属材とが溶融しそれらが攪拌される結果、アルミニウムを含んだ状態で溶接部72,73を形成することができる。具体的には、燃料極フレーム13(アルミ含有金属材としてのNCA−1)は約3%含有率でアルミニウムを含み、燃料極フレーム13とインタコネクタ14との間に存在する溶接部72,73は約1.5%の含有率でアルミニウムを含んでいる。このようにすると、溶接部72,73の表面にアルミナからなる酸化皮膜76が形成され、その耐食性を高めることができる。さらに、アルミ含有率が10%以下であるため、溶接部72,73及び燃料極フレーム13の強度を十分に確保することができる。
【0062】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0063】
・上記実施の形態では、セパレータ12及び燃料極フレーム13のレーザ溶接と燃料極フレーム13及びインタコネクタ14のレーザ溶接を別々に行っていたが、これに限定されるものではない。例えば、セパレータ12、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14の3枚の金属部材を1回のレーザ溶接により同時に接合してもよい。具体的には、配置ステップにおいて、各穴部60の位置を合わせつつセパレータ12、燃料極フレーム13及びインタコネクタ14の3枚の金属部材を重ね合わせて配置する。そして、溶接ステップにおいて、穴部60の周囲に沿ってレーザを照射し、穴部60の周囲を封止する閉回路形状の溶接部であって3枚の金属部材を同時に接合する溶接部を形成する。
【0064】
・上記実施の形態では、ファイバーレーザを用いたレーザ溶接によって溶接部70〜73を形成していたが、ファイバーレーザ以外に、炭酸ガスレーザやYAGレーザを用いたレーザ溶接にて溶接部を形成してもよい。さらに、レーザ溶接以外に、例えばシームレス溶接(抵抗溶接)などの他の手法によって溶接部を形成してもよい。
【0065】
・上記実施の形態では、固体酸化物形燃料電池に具体化するものであったが、これ以外に溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)などの他の燃料電池に具体化してもよい。
【0066】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0067】
(1)手段1において、前記溶接部は、レーザ溶接により形成される線状の溶接痕であり、その溶接痕の線幅は、0.2mm以下であることを特徴とする燃料電池カセット。
【0068】
(2)手段1において、前記溶接部におけるアルミニウムの含有率は、前記フレームにおけるアルミニウムの含有率よりも低いことを特徴とする燃料電池カセット。
【0069】
(3)手段1において、前記セパレータ及び前記フレームがアルミニウムを含むアルミ含有金属材を用いて形成され、前記インタコネクタ及び前記フレーム間の前記溶接部は、前記セパレータ及び前記フレーム間の前記溶接部よりも前記アルミニウムの含有率が低いことを特徴とする燃料電池カセット。
【0070】
(4)手段1において、前記電解質層は、固体酸化物からなる固体電解質層であることを特徴とする燃料電池カセット。
【0071】
(5)手段1に記載の燃料電池カセットを製造する製造方法であって、前記ガス流路を構成する穴部が形成された前記セパレータ、前記フレーム及び前記インタコネクタを準備し、前記穴部の位置を合わせつつ前記セパレータ、前記フレーム及び前記インタコネクタの3枚の部材を重ね合わせて配置する配置ステップと、前記穴部の周囲に沿ってレーザを照射して、前記穴部の周囲を封止する閉回路形状の溶接部であって前記3枚の部材を同時に接合する溶接部を形成する溶接ステップとを含むことを特徴とする燃料電池カセットの製造方法。