(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る浄化装置と、それを一体として備えたアクアリウムに関して、以下において説明する。実施の形態1において、アクアリウムに関して説明し、実施の形態2において浄化装置について説明する。さらに、実施の形態3においては別の形態の浄化装置を、実施の形態4においては、同様の浄化メカニズムを用いた河川等において使用する浄化装置について述べる。
なお、以下の説明は本発明に関する良好な一例を開示するものであり、本発明が当該実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
実施の形態1.
以下において説明する本発明に係るアクアリウムは、浄化装置を水棲生物が生育する容器である水槽に一体として備えたものであり、家庭や水族館における水槽として用いることが可能である。
【0018】
<アクアリウムの構成>
本発明に係るアクアリウムの構成を
図1から
図3を用いて説明する。
図1は、アクアリウムの側面図である。
アクアリウムは、水槽1と、この水槽1の上部に設けられた空間である飼育空間2と、飼育空間2の下部に設けられた低透水性の生物的濾過層3と、生物的濾過層3の下部に設けられた濾過水貯水空間4と、濾過水貯水空間4に貯水された濾過水を上記飼育空間2に汲み上げるポンプ手段5と、外部の空気を上記飼育空間に供給するエアレーション手段6とを主に備えている。
【0019】
図2は、生物的濾過層3の断面図である。生物的濾過層3は、基盤部と有用浄化細菌群34とから主に構成されている。
ここで基盤部とは、有用浄化細菌群を設置するための構造体であり、水を通し、且つ有用浄化細菌群が流出しにくい担体構造であることが必要である。本実施の形態においては、図に示すように、金属製のパンチングプレート31(多くの孔を設けた通水性を有する板)、不織布32、砂利33等から構成される。
【0020】
基盤部の上には、砂利33の隙間を充填するように有用浄化細菌群34が載せられている。有用浄化細菌群とは、人為的あるいは工学的に培養され、育成された有用微生物群を主成分とする活性汚泥態様の細菌群であり、例えば、下水処理において用いられる活性汚泥がこれに相当する。なお、有用浄化細菌群は、水の浄化を担う多くの有用微生物群が凝集し活性化した状態にあるため、「アクティベート・バイオ・フロック(Activate Bio Flock)」と呼ぶのが適切である。有用浄化細菌群34には、水の浄化を担う多種の好気性細菌や嫌気性細菌が生育している。有用浄化細菌群34の量は、水量に対して容積比で3%程度とした。
【0021】
この基盤部と有用浄化細菌群34からなる生物的濾過層3は、低浸透性(低透水性)であり、水の流れは制約される。有用浄化細菌群34はある程度の浸透抵抗を持つが、さらに浸透抵抗を上げたい場合には、
図2に示すように、有用浄化細菌群34の上や有用浄化細菌群間に微粒子の層35を設けても良い。微粒子としては、細かく砕いた砂や珊瑚砂等を用いることができる。
【0022】
なお、基板部に不織布32を用いているのは、有用浄化細菌群が下部に落下するのを防ぐためである。砂利33を用いているのは、川底のように自然に似せた環境を作り、有用浄化細菌群34をしっかりと定着させ、嫌気性細菌等の有用細菌の働きを増すためである。具体的には、ポンプ手段5によって有用浄化細菌群34内に生じる水流速度の面内分布を不均一にすることを目的としている。すなわち、局所的に水流速度の遅い個所や淀んだ個所を作り出すことで、特に、嫌気性細菌の働きを向上させる狙いがある。
【0023】
また、砂利33の上に有用浄化細菌群を積層することで、有用浄化細菌群の上面は、
図2のように波打ったような緩やかな凹凸面となる。有用浄化細菌群の上面では好気性細菌が生育するが、その生育する表面積を広くすることで、より水の浄化効率を上げることを狙いとしている。また、表面において水の流れが凹凸により乱されて乱流が発生することも浄化効率を上げることに寄与する。
【0024】
生物的濾過層3の下部には、濾過水貯水空間4が設けられている。生物的濾過層3によって浄化された水は、この濾過水貯水空間4に落ち、貯水される。濾過水貯水空間4に貯水された水は、ポンプ手段5によって飼育空間2に汲み上げられる。
なお、ポンプ手段5は、機械式のポンプ手段であっても良いし、その他の方法によって一定の方向に水流を発生させるものであっても良い。例えば、温度差を生じさせることで水流を発生させるものであっても良い。
【0025】
濾過水貯水空間4内には、必要に応じて、
図3に示すような循環路41が設けられる。この循環路41は、複数の連結されたパイプ、もしくは連続した筒形状の素材で構成される。パイプの側面には、一定間隔で穴が開けられている。また、循環路41の一端は、ポンプ手段5に通じる連結口42となっている。図においては、循環路41を直線状の屈曲した形状としているが、例えば、螺旋状としても良い。
【0026】
循環路41を設けている一つの理由は、濾過水貯水空間4に貯水された水が、平面内において均等に汲み上げられるようにするためである。ポンプ手段5の強い吸引力により発生する水流により、安定した生物濾過環境が阻害されないようにするための緩衝手段としての役割も持つ。濾過水貯水空間4平面内において均等に水が汲み上げられることで、ポンプ手段5の位置に依らず、生物的濾過層3内を透過する水の量を平面内において均等とすることができる。循環路41を設けているもう一つの理由については後述する。
【0027】
また、濾過水貯水空間4内には、必要に応じて、LED等の水中型照明43が設けられている。この理由についても後述する。図においては、照明43を濾過水貯水空間4内に設けているが、この照明43は、濾過水貯水空間4の外部に設置しても良い。
なお、ポンプ手段5は水の汲み上げ速度(単位時間に汲み上げる水の量)を調整する機構を有することが望ましい。調整機構については、コンダクタンスを調整するためのバルブであっても良いし、電圧や電力等の電気的な調整により、ポンプ能力を可変としても良い。ポンプ手段5による水の汲み上げ速度は、例えば、10分から2時間程度で水槽全体の水が循環する程度の速度が望ましい。この速度は従来の浄化装置と比べてかなり早い速度である。
【0028】
エアレーション手段6は、外部の空気を上記飼育空間に供給し、水の溶存酸素濃度を上げることを目的としている。本実施の形態においては、エアレーション手段6はポンプ手段5と一体としている。すなわち、ポンプ手段5に設けた管を水槽本体1の外部に出すことで、外部の空気をポンプ手段5内に導き、汲み上げた水と共に空気を供給している。その際にマイクロバブル61を発生させている。マイクロバブル61は多量の空気を含むことができるので、溶存酸素濃度を通常の限界値以上に高めることができる。また、浮遊する水棲生物にとって害となる細菌や生物的な汚れ、微細藻類の細胞膜をマイクロバブル61によって吸着し、マイクロバブルが破裂する際に生じる衝撃によって破壊することで、水棲生物にとってより住みやすい環境を得ることができる。
【0029】
<水の浄化のメカニズム>
次に、このアクアリウムにおいて、どのように水の浄化がなされるかについて説明する。
水の浄化は、有害なアンモニアを酸化して、亜硝酸を経て比較的安全な硝酸塩にする硝化プロセスと、嫌気性細菌を用いて、硝酸を窒素まで還元する脱窒プロセスとからなる。硝化プロセスは硝化細菌や亜硝酸細菌といった好気性細菌が行い、脱窒プロセスは脱窒菌等の嫌気性細菌が行う。なお、脱窒菌とは、硝酸還元菌のうち、硝酸塩を窒素にまで還元する能力を備える菌の総称であり、実際には数多くの菌が脱窒を行っていると考えられる。
【0030】
好気性細菌は、溶存酸素濃度が高い生物的濾過層3の表面付近に成育し、硝化プロセスを担う。エアレーション手段6により飼育空間2の溶存酸素濃度は十分に高くなっており、この飼育空間2に存在する多量の酸素は、ポンプ手段5の吸引力によって生じる下向きの水流により、生物的濾過層3の上部に必然的にもたらされるので、好気性細菌は良好な条件下で活発に活動できる。すなわち、硝化プロセスが効率よく行われる。マイクロバブル61も発生するエアレーションを行った際には、飼育空間2における溶存酸素濃度は7ppm程度と好気性細菌を十分に活性化できる非常に高い濃度になり、生物的濾過層3の表面付近も同様の高い濃度となっていると考えられる。
また、有用浄化細菌群の上面を、
図2に示すように波打ったような緩やかな凹凸面とすることで、上述したように、さらに硝化プロセスの効率を向上できるとともに、後述する溶存酸素の濃度勾配が発生しやすい要因ともなる。
【0031】
生物的濾過層3は低浸透性であるため、有用浄化細菌群34の表面から奥に行くに従い、溶存酸素濃度は低下する。すなわち、有用浄化細菌群34内には、飼育空間2側から濾過水貯水空間4側に行くにしたがって低くなる溶存酸素の濃度勾配が生じている。
脱窒を行う嫌気性細菌は、低溶存酸素濃度において嫌気性呼吸を行いやすい性質を有するので、有用浄化細菌群34の主に奥側で脱窒プロセスは進行する。
【0032】
一般に、脱窒プロセスは硝化プロセスに比べて、進行が遅く、浄化プロセス全体の律速となると考えられているが、本発明に係る浄化装置においては、硝化プロセスと同様に、極めて高効率に脱窒プロセスが進行する。この理由について、以下に説明する。
【0033】
第一の理由は、有用浄化細菌群を浮遊状態では無く、砂利33等の担体に定着させ生物的濾過層3としてほぼ固定化した状態で用いて浄化を行っているので、嫌気性細菌が生育する領域では水の流れが穏やかとなり、そのため、脱窒および増殖が活発となることである。なお、好気性細菌が活性している状況においても、その中の水が淀んだ領域において嫌気性細菌の活動が活発化することは、実験によって確認している。
図2において、砂利33の間に一定の大きさの遮蔽物となる板等を設けて浄化を行うと、その小さな板付近から、目視可能な大きさの気泡の発生が生じる。すなわち、脱窒により、多量の窒素が発生している。
【0034】
ポンプ手段5による水の汲み上げ速度は、従来の浄化装置と比べてかなり早い速度であると前述したが、水槽全体の水が10分で循環するように高速でポンプ手段5を稼動させたとしても、有用浄化細菌群内での流速は数cm/分であり、飼育空間で生じている水の流れに比べると非常に穏やかな流れである。したがって、有用浄化細菌群を浮遊状態にして脱窒を行う場合に比べると、砂利33等の担体に定着状態にした有用浄化細菌群は、ほとんど流速の無い状態にあると言っても良い。
なお、前述したように、砂利33等を用いて有用浄化細菌群34内に生じる水流速度の面内分布を不均一にすることで、局所的に淀んだ領域を作り出して、さらに嫌気性細菌の活動を活発化させることも可能である。
【0035】
第二の理由は、硝化プロセスが活発に行われる近傍において脱窒を行う嫌気性細菌が活動するため、嫌気性細菌の生育環境は比較的高濃度の亜硝酸塩および硝酸塩が存在し、嫌気性細菌が活発に脱窒を行い、且つ繁殖しやすいことである。
【0036】
また、高濃度の亜硝酸塩および硝酸塩が存在する環境下においては、比較的溶存酸素濃度が高くても、嫌気性細菌は嫌気性呼吸を行っている可能性が有る。ポンプ手段5による水の汲み上げ速度を非常に早くすると、濾過水貯水空間4内における水の溶存酸素濃度は3ppm以上となる。すなわち、有用浄化細菌群34内の最も濾過水貯水空間4側においても溶存酸素濃度は1ppm以上となっていると考えられるが、その場合でも脱窒が効率よく良く行われていることを確認している。したがって、有用浄化細菌群34内においては、溶存酸素濃度の低い領域だけでは無く、比較的高い領域においても脱窒プロセスが行われている可能性が有り、そのため、効率的な脱窒が行われているとも考えられる。
【0037】
第三の理由は、ポンプ手段5により有用浄化細菌群34内に循環水流が生じるが、この水流により好気性細菌によって有用浄化細菌群34の表面付近で発生した亜硝酸塩および硝酸塩は、近接する嫌気性細菌が生育する領域へと流れるので、亜硝酸塩および硝酸塩と嫌気性細菌との接触機会が増加することである。
すなわち、有用浄化細菌群34内の嫌気性細菌が生育する領域の亜硝酸塩および硝酸塩濃度はかなり高濃度となる。そして、亜硝酸塩および硝酸塩と嫌気性細菌との接触機会は、それらの濃度に比例するため、高効率に脱窒プロセスが進行する。
また、上述の第二の理由において述べたように、高濃度の亜硝酸塩および硝酸塩が存在する環境においては、嫌気性細菌が繁殖しやすいので、高密度に嫌気性細菌が生育している。したがって、有用浄化細菌群34は、高濃度の亜硝酸塩および硝酸塩を高速で還元する処理能力を有している。
以上のように、有用浄化細菌群34内の嫌気性細菌成育領域は高い脱窒能力を有すしており、近接する有用浄化細菌群34の表面付近で発生した亜硝酸塩および硝酸塩が、嫌気性細菌成育領域に流れ込むことで従来よりも非常に高速で脱窒プロセスが進行すると考えられる。
【0038】
第四の理由は、前述したように、有用浄化細菌群内に溶存酸素濃度勾配ができるが、有用浄化細菌群には複数種の嫌気性細菌が生育しており、それぞれが自ら最適な酸素濃度の場所に移動して浄化を担うことができるため、複数種の嫌気性細菌それぞれが最大限の脱窒効率で浄化を行うことができることである。すなわち、ポンプ手段5により有用浄化細菌群内に意図的に溶存酸素濃度勾配を形成することで、有用浄化細菌群を構成する種々の細菌に最適な生育環境を与えることができる。
【0039】
なお、濾過水貯水空間4を利用して、さらに脱窒の能力を向上させることもできる。
例えば、光合成細菌といった通性嫌気性細菌を濾過水貯水空間4に投入する。ポンプ手段5による水の汲み上げ速度をそれほど速くしなければ、濾過水貯水空間4において溶存酸素濃度は十分に低くなり、光合成細菌といった通性嫌気性細菌が活動しやすい環境にある。光合成細菌の場合は、光合成をしてエネルギーを得ているため、照明43を設けることで昼夜に渡って活動が可能となる。特に、循環路41内は長い経路であるため、そこで嫌気性細菌を活動させれば、効率の良い脱窒が可能となる。また、光合成細菌の機能により、水底部に溜まりやすい水の有機的な汚れやこれから発生する硫化物等の分解も可能となる。循環路を形成する素材を透光性の材料とすれば、循環路41内にも光が届くので、光合成細菌にとってさらに良好な環境となる。
【0040】
<検証実験>
次に、本発明の係るアクアリウムに水棲生物として魚介類を飼育した際に、良好な水の浄化が行われるかについて確認するために行った検証実験に関して説明する。
【0041】
内容積150リットルの水槽を用い、
図1に示したアクアリウムを構築した。そして、飼育空間2に水を満たし、瀬田シジミ100匹、中型(体長4cmから7cm)の金魚150尾、およびメダカ700尾を飼育した。水槽の大きさに比べて、魚介類の数はかなり多く、超過密といえる状態での飼育を開始した。なお、飼育開始時点においては、有用浄化細菌群34は投入していない。水温は実験期間中、15℃〜18℃に維持した。硝酸、亜硝酸、アンモニアの各濃度については、毎日測定した。ポンプ手段5による汲み上げ速度は、約30分で水槽全体の水が循環するように設定した。
以下、飼育開始日以降の各日におけるアクアリウムの状況を表1に示す。
【0043】
(飼育初日)
生物的な硝化サイクルを早期に立ち上げるために、市販の好気性細菌である硝化細菌を投入した。
この時点では、まだアンモニア濃度は測定限界以下であり、硝酸および亜硝酸濃度も低く、水質は良好である。
【0044】
(飼育5日目)
アンモニア濃度、硝酸および亜硝酸濃度がいずれも大きく上昇した。特にアンモニア濃度は、魚介類の生死に影響を与えかねない濃度にまで上昇したので、水槽の水を3分の1換えた。水換えは、有用浄化細菌群(ABF)を投入する14日目まで毎日実施した。
【0045】
(飼育10日目)
アンモニア濃度が減少し始め、硝酸濃度が大きく増加した。硝化細菌が増殖し、生物的な硝化プロセスが立ち上がりつつある。
【0046】
(飼育14日目)
11日目から、アンモニア濃度が測定限界以下となり、硝酸および亜硝酸濃度も変化しなくなったため、硝化細菌が十分に増殖し、硝化プロセスが立ち上がったと判断し、有用浄化細菌群34を5リットル投入した。有用浄化細菌群34は、ポンプ手段5の吸引力により、砂利33の間を充填するように固定化され、その上を珊瑚砂で被覆した。脱窒反応はアルカリ性で起きやすい傾向があるため、水質をアルカリ性にする珊瑚砂は水の浄化のために適した被覆材である。
【0047】
(飼育15日目)
嫌気性細菌の栄養源として、砂糖12gを投入したが、硝酸濃度は減少しない。
(飼育16日目)
そこで、さらに有用浄化細菌群34を5リットル追加投入し、砂糖も30g投入する。
(飼育17日目)
硝酸および亜硝酸濃度が測定限界以下となり、脱窒が進行していることを確認。
この日より、毎日、砂糖20gを投入する。
【0048】
(飼育18日目以降)
18日目に、アンモニア濃度、硝酸および亜硝酸濃度がいずれも測定限界以下となり、それ以降もこの状態を維持できた。
【0049】
以上に示すように、従来の水槽では不可能な超高密度で魚介類を飼育しながら、わずか18日の短期間で、浄化機能を立ち上げて安定な状態とすることができた。その後も40日以上に渡り、水換え無しで極めて良好な水質を維持できることを検証できた。魚介類も健全に生育し、特に、人工環境下では長期の飼育が困難とされてきた瀬田シジミも健全に生育した。
【0050】
今回の検証実験は、魚介類を用いた最初の実験であり、硝化細菌の立ち上がり期間や、嫌気性細菌にとって脱窒反応に必要な炭素供給源となる砂糖の量等に関して試行錯誤しながらの実験であったが、それにもかかわらず、十分に良好な結果が得られた。
【0051】
なお、本検証実験においては、嫌気性細菌の炭素供給源として砂糖を用いたが、水中で生分解性を持つ他の有機物であっても良い。例えば、生分解性樹脂を水槽1内に設け、水に自然に溶解する生分解樹脂を炭素供給源として用いれば、炭素供給源を与える手間が省け管理が容易となる。生分解性樹脂の板を生物的濾過層3内に遮蔽板として設けて、水流の不均一を生じさせる役割を同時に担わせることも有効である。
【0052】
実施の形態2.
実施の形態1においては、浄化装置を水槽に一体として備えたアクアリウムについて述べたが、浄化装置を独立に使用することも可能である。本実施の形態においては、この浄化装置の構成等について、
図4および
図5を用いて説明する。
【0053】
図4は、浄化装置の構成を示す側面図である。
浄化装置は、浄化装置の筐体となる水槽10と、この水槽10の開口部に設けられ外部との水の交換を行う空間である交換空間20と、交換空間20と連結するように設けられた低透水性の生物的濾過層30と、生物的濾過層30と連結するように設けられた濾過水貯水空間40と、濾過水貯水空間40に貯水された濾過水を上記交換空間20に汲み上げるポンプ手段50と、外部の空気を上記飼育空間に供給するエアレーション手段60とを主に備えている。
【0054】
浄化装置を構成する各部については、実施の形態1で述べたアクアリウムと同様の構成であり、浄化装置の筐体となる水槽10は水槽1に、交換空間20は飼育空間2に、生物的濾過層30は生物的濾過層3に、濾過水貯水空間40は濾過水貯水空間4に、ポンプ手段50はポンプ手段5に、エアレーション手段60はエアレーション手段6にそれぞれ対応し、同様の構成及び機能を有している。
ただし、交換空間20に関しては、水棲生物を飼育する大きな空間が必要では無く、浄化を行う水系と水を交換できる接続機能を満足すれば良いので、飼育空間2に比べて小さな空間であって良い。
【0055】
本実施の形態に係る浄化装置は、実施の形態1で述べた浄化メカニズムと同様のメカニズムで水を浄化する。そして浄化された水は交換空間20において、外部からの浄化前の水と交換される。
【0056】
図5は、実施の形態2に係る浄化装置の使用例を示している。
水棲生物が生育する水槽内に浄化装置を入れ、エアレーション手段60を外部に出すことで浄化装置を設置できる。なお、設置する水深が深い場合、エアレーション手段60としてはエアポンプによる圧送が必要となる場合もある。
このように簡単に水槽内に設置できるため、既存の水槽に簡便に浄化機構を設けることができる。
【0057】
図6は、実施の形態2に係る浄化装置の別の使用例を示している。
水棲生物が生育する水槽70と浄化装置とをパイプ等の接続手段80により接続する。水槽70内の非浄化水701は、接続手段80により、浄化装置の交換空間20内の水と交換され、水槽70内の被浄化水701は順次浄化される。
【0058】
なお、
図5および
図6において示した浄化装置の使用例は、水棲生物が生育する水槽内の水に限らず、池や湖沼といった様々な水系の水の浄化に適用可能である。
また、水系の水が十分な溶存酸素量を有する場合には、必ずしもエアレーション手段60は必要では無い。一方、水系から導入される溶存酸素だけでは、浄化装置内の好気性細菌が十分に機能しない場合には、
図5や
図6に示したように、浄化装置内に直接空気を供給するエアレーション手段60が必要となる。
【0059】
実施の形態3.
実施の形態2においては、浄化装置を独立に使用する例について述べた。上述の浄化装置では、外部からの水が交換空間20に入り、浄化された後、交換空間20に戻って外部に流出した。一方、本実施の形態に係る浄化装置においては、浄化された水は戻ることなく外部に流出される。すなわち、浄化装置内において一方向への水の流れが生じる。この浄化装置の構成等について、
図7および
図8を用いて説明する。
【0060】
図7は、浄化装置の構成を示す側面図である。
浄化装置は、浄化装置の筐体となる水槽100と、低透水性の生物的濾過層300と、生物的濾過層300と連結するように設けられた排水空間400と、排水空間400から濾過水を浄化装置外部に汲み出すポンプ手段500とを備えている。
【0061】
このように、
図7において、浄化装置の上部から流出した水は、ポンプ手段500により生物的濾過層300を通過することで濾過され、濾過後はポンプ手段500により、排水空間400から外部に汲み出される。
この構成においても、生物的濾過層300内は、実施の形態1や2と同様に、浄化細菌が高効率に活動できる条件が整えられ、効率的な水の浄化が行われる。
【0062】
図8は、実施の形態3に係る浄化装置の使用例を示している。
水棲生物が生育する水槽内の側壁に浄化装置を固定する。エアレーション手段600は別途設け、水槽内の溶存酸素濃度が適切な濃度となるようにする。水は、浄化装置を上から下に抜ける際に浄化され、水槽内の水が次々と浄化されることで循環的な浄化が行われる。
このように簡単に水槽内に設置できるため、既存の水槽に簡便に浄化機構を設けることができる。
【0063】
以上、実施の形態1から3において、浄化装置、あるいは浄化装置を一体に備えたアクアリウムについて説明した。
浄化装置における基本的な構成は、水を浄化する低透水性の生物的濾過層と、この生物的濾過層に水流を生成するポンプ手段とを備え、上記生物的濾過層が浄化を行うための細菌が生育する有用浄化細菌群であり、この有用浄化細菌群がバルク状態に固定された状態にあることである。ここで、バルク状に固定するとは、必ずしも強固に有用浄化細菌群を固定するという意味では無く、有用浄化細菌群が浮遊することを抑制し、基盤部に有用浄化細菌群を安定に定着させるという意味である。
【0064】
以上の実施の形態においては、有用浄化細菌群をバルク状に固定するために、基盤部の上に有用浄化細菌群を設け、ポンプ手段により生じる水流を上記有用浄化細菌群から基盤部へと向かう流れにすることで、基板部に有用浄化細菌群をしっかりと固定することができた。
ただし、有用浄化細菌群を固定する方法は上記の構成に限ることは無く、例えば、水を透過する細かなメッシュ状の材質で構成された箱等に有用浄化細菌群を詰めても良い。
【0065】
<本発明の考察とまとめ>
本発明は、河川が水を浄化する機構を念頭に置き発想されたものである。
図9は、河川の水循環に関する概念を表した参考図である。河川を流れる水は、川底から伏流水層に入る際に、川底において、好気状態浄化と嫌気状態浄化が連続的に行われることで浄化される。浄化された水は伏流水層から地表に湧きだし、海に注がれる。そして蒸発して雲となり、雨によって山河に降り注ぎ、河川に戻る。このような自然が持つ壮大な浄化システムを、循環濾過機能を有するコンパクトな浄化装置として具現化したものが本発明である。
【0066】
このように自然の力を最大限に利用することで、これまでに無い高い浄化能力を発揮することができたと考えられる。すなわち、活性化した浄化微生物群である有用浄化細菌群(ABF)を定着させ、それを濾過層として用い、そこに水を循環させることで高効率の浄化が可能となった。有用浄化細菌群には様々な有用細菌が存在するが、それらの潜在力をできるだけ引き出して浄化に寄与させることで、簡素な構成でも強力な浄化能力を発揮できることが可能となった。
以下においては、本発明の持つ様々な特長について以下にまとめる。
【0067】
有用浄化細菌群は様々な種類の有用細菌により構成され、高い浄化能力を発揮するため、下水処理場等で水の浄化に広く使用されている。しかし、種々の有用細菌の潜在能力を引き出して、より効率的な浄化のために使用することは困難であった。
本発明においては、河川における有用浄化細菌による自然浄化の能力が極めて高く、渓流等においては有機物が大量に流入しているにも拘らず常に飲用に適する水質が維持されている状態であること、および、この自然な生物浄化が、川底で積層された砂利層等を通水する状態からもたらされていることに着目し、生物的濾過層としてほぼ有用浄化細菌群を定着固定化した状態で用いるという着想に至った。
有用浄化細菌群を定着固定化した状態においては、有用浄化細菌群内を流れる水の流れは極めて緩やかであり、様々な有用細菌の能力をより高く引き出すことが可能となっている。
【0068】
また、それぞれの浄化細菌に最も適する環境は異なり、川底のように様々な環境を作り出すことで、それぞれの細菌の浄化能力や増殖能力を高めることができるとの観点から、有用浄化細菌群内において透水性の異なる空間を意図的に作り出し、溶存酸素の濃度勾配が形成される構成を実現した。溶存酸素濃度は、浄化細菌が行う好気的な呼吸においても、嫌気的な呼吸においても、その効率を決める重要なファクターである。
さらに、粒度の異なる砂利等を用い、生物的濾過層内に生じる水流速度の面内分布を不均一にする構成としたことで、水の流れについても川底のように様々な環境を作り出すことを意図した。
【0069】
以上のように、有用浄化細菌群を構成する多くの有用細菌に、環境の選択肢を広く与えることで、その能力を十分に引きだし、極めて高効率の生物的浄化装置を構築することが可能となった。
【0070】
また、ポンプ手段により水の速い循環を可能としたことで、高効率の高い浄化処理が実現できるようになった。
ポンプ手段による水の循環は、前述した溶存酸素の濃度勾配形成に寄与するとともに、好気性細菌による硝化プロセスで生じた硝酸塩や亜硝酸塩を近接する嫌気性細菌が生育する領域に向けて流す役割も持つ。これにより、嫌気性細菌が生育する領域において硝酸塩や亜硝酸塩は高濃度となり、硝酸塩や亜硝酸塩と嫌気性細菌が接触する機会が増加し、脱窒プロセスの効率を上げることができる。また、嫌気性細菌が生育する領域における硝酸塩や亜硝酸塩の濃度が上昇することで、嫌気性細菌の増殖も活発に行われる。さらに、有害な硝酸塩や亜硝酸塩が生じた後、直ちに嫌気性細菌により還元が行われ、安全な窒素に変換できるので、水棲生物に対する害を抑制できる。
【0071】
さらに、連続的なエアレーション手段を有することで好気性細菌の働きを促進できる。特に、生育空間から有用浄化細菌群に向けた水流が生じているため、酸素は好気性細菌が生育する領域に効率的に供給される。マイクロバブルを用いれば、さらに溶存酸素濃度を高めることも可能となり、あるいは、水棲生物や浄化細菌に有害な浮遊する一般細菌や微細藻類の細胞膜を破壊し、死滅させるという効果もある。
【0072】
また、濾過水貯水空間という溶存酸素濃度が低い領域を用いて、光合成細菌等の通性嫌気性細菌を利用して、さらに脱窒効果を高めたり、硫化物の処理を行うことも可能となる。
濾過水貯水空間に循環路を設けることで、水流を適度に加減しながら、生物的濾過層内全域に水を循環させることが可能となり、有用浄化細菌群のすべての細菌の能力を用いて、水の浄化を行うことができる。そして、循環路内の長い経路において、光合成細菌等を活躍させることで、さらに効率的な浄化を行うことができる。
【0073】
以上のように、種々の浄化細菌が近接して存在する有用浄化細菌群の性質を活かし、且つ、溶存酸素濃度や水の流れといった環境を多様化することで、種々の浄化細菌の持つポテンシャルを最大限に引き出すことを実現した。これらにより、有用浄化細菌群内で極めて高効率の浄化を行えるようになったため、従来より、かなり速い速度で水の循環を行っても、有用浄化細菌の働きだけで水の浄化が行えるようになり、したがって、単位時間に浄化できる水量を著しく増加させることを可能とした。
【0074】
実施の形態4.
上述のように、本発明は自然の河川が水を浄化する機構を念頭に置き発想されたものである。しかしながら、自然の河川においても浄化作用が失われる場合がある。例えば、自然の河川に人工的な改築がなされることにより、自然の浄化作用が毀損される場合がある。あるいは、都市部を流れる河川においては、富栄養化が進み、自然の浄化作用を越える有機物が流入することで汚染が進み、さらには、溶存酸素濃度の低下等の理由により、硝化プロセスが機能しなくなる場合もある。
本実施の形態においては、このような河川の浄化能力を高めるための浄化装置について述べる。この浄化装置は、河川だけでは無く、人工的な水路といった水流を有する水系において用いることが可能である。
【0075】
図10(a)は、浄化装置の構成を示す垂直方向の断面図である。
浄化装置は、水路ブロック1000と、水路ブロック上に設けられた低透水性の生物的濾過層3000とを備えている。生物的濾過層3000は、実施の形態1から3において示した生物的濾過層と同様のものである。
水路ブロックの中には水路1100が貫通しており、その水路1100の一端が流入口1200、他端が流出口1300である。
図10(b)は、流入口1200側から見た浄化装置の正面図である。
【0076】
流入口1200は、開口が水路1100よりも広い面積を有しており、水路1100に向かって徐々に開口面積が狭くなる形状が望ましい。
水路1100の内壁上部1300は、細かな穴が設けられる等により透水性を有している。
【0077】
図11は、本実施の形態に係る浄化装置の使用例を示している。
浄化装置は、川床等、水流を有する水系の底部に設置される。
図11において、水は右から左に向かって流れている。
流入口1200の開口が水路1100よりも広い面積を有しているため、
図11に示すように、水流は水路1100に収束し、水路1100内を流れる水流の流速は、水系の平均的な流速に比して速くなる。このため、生物的濾過層3000には、上部から水路1100へ向かった水流が生じる。すなわち、この構成においても、生物的濾過層3000内は、実施の形態1から3と同様に、浄化細菌が高効率に活動できる条件が整えられ、効率的な水の浄化が行われる。
【0078】
以上のように、本実施の形態においては、水系に生じる水流を水路1100に収束されることで、実施の形態1から3においてポンプ手段により生じさせた生物的濾過層における水流を作り出すことができる。
なお、本実施の形態に係る浄化装置を水系幅方向に並列に並べたり、流れの方向に直列に並べることにより、浄化能力をさらに高めることが可能である。
【0079】
なお、生物的濾過層3000は、浄化を行うための細菌が生育する有用浄化細菌群がバルク状態で定着し機能するものである。さらにこの生物的濾過層3000は、砂層等を用いて構成した場合は、水質の浄化能力を有する水生植物に適した植栽ポットともなり、また浄化能力を有する淡水二枚貝、例えばシジミ類などの生育にも適した空間となる。これらの水生植物や二枚貝の浄化能力も加えることにより、より効率的な自然浄化を行うことができる。この空間は、淡水シジミの水産養殖にも適した空間としても利用できる。
また、この水路ブロックは自然な水流のある川への設置を想定したものであるが、水流の少ない、或いは停滞した河川などの場合は、開口部に人口的に水流を発生させる装置を付加することにより、同等の機能を持たせることもできる。
浄化装置の設置場所に関しては、水系の底部に限らず、水系の側壁等に設置することも可能であり、水流の発生している場所であれば、どこに設置しても良い。